戦国BASARAの佐助を、AOGの至高の一人として突っ込んでみた!   作:水城大地

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リアルでの、佐助さんのお仕事と、その職場を襲撃しようとしてしまった、哀れなウルベルトさんの一幕。


ゲーム終了、約二時間前の悲劇!?

 

上月幸吉は、【猿飛佐助】としての前世の記憶を持つ転生者だ。

この終末を迎えようとする世界に転生したが、幸か不幸か前世の記憶だけじゃなくその時に持っていた能力も、そっくりそのまま継承している転生者だ。

もちろん、それは誰にも……家族にすら、欠片も打ち明けた事はないが。

と言うよりも、打ち明けるべき家族は存在していない。

何せ、この世界は富裕層と下層の人間との差が歴然としている世界だったから、下層に生まれた彼の家族も例に漏れる事無く、彼が小学校を卒業する頃には死別してしまっていたのだ。

 

もっとも、その家族との死別が既に継承していた記憶の中の能力の発現の引き金になったのだから、彼の中ではそれなりに家族は重要な位置に居たのだと言えるだろう。

 

それはさておき。

この能力の発現が、誰にも知られる事なく済んだ事は、佐助にとって幸いだっただろう。

彼が嘗て生きていた時代よりも、確固たる富裕層の権力が明確なこの世界で、彼の持つ能力の存在が知られていたとしたら、確実に実験材料としての生しか佐助には残されていなかった筈だからだ。

その事は、佐助自身も良く自覚していたので、人に悟られるような真似はしていない。

婆沙羅のお陰で、身体能力が向上した事を利用して、警備会社に勤める事を選択したのも、ある意味間違いじゃなかったと、今ではそう考えている。

 

普通の仕事よりも、危険度が高い分給料が良いこの仕事のお陰で、趣味のゲームを続けられているのだから。

 

佐助が夢中になっているゲームは、VRMMO【ユグドラシル】と言う、日本最大のゲームだった。

配信されてから二年ほどたってから始めた佐助だが、今ではそれなりに名の通ったプレイヤーだ。

とは言え、そのゲームも今夜で終わるのだが。

ゲームが終わる事が決まったその日に、佐助は職場にその日の休暇申請を出していた。

もちろん、何か月も前からの申請だったので普通に許可が下りたのだが、その休みが半休に変更になったのは一週間ほど前。

別の部署が、この一週間の間に【テロが起きる可能性】を拾ってきたのである。

佐助の今の立場では、流石に【職場にテロが起きる】と予測されている状況下で、一日休みを寄越せと言う事は出来なかった。

むしろ、半日休みをくれると言うだけで【良し】とするべきだと諦めた。

 

前世では、もっと大変な状況だったのだから。

 

もし、テロが佐助の休みより早い段階で起きたら、速攻で決着を付ければそのまま一日休みを貰えるように交渉を済ませ、じりじり待つ事六日間。

結局、休みの当日までテロリスト共は動く事無く、佐助は最終日当日の夜まで詰める事になった。

昨日の出勤直後、約束だった終了日当日の半休すら取り消しにされたのである。

その代わりとして、仕事が完了した直後から翌日から三日間の休みを与えられてはいるが、それで納得出来る筈がないだろう。

 

もちろん、この警備会社で警備員最強の佐助を欠いた状態での、テロリストとの対峙を嫌がったのは、前世で指揮官側に立ったこともある佐助としても理解出来なくはない。

 

むしろ、当然の選択だと理解できるから大人しくしたがっているが、それでもピリピリと仲間にしか判らない殺気を放つ佐助に、誰もが【さっさと来いよ、テロリスト共!!】と、内心泣きが入っていた。

終了時間二時間前、漸くテロリストたちの動きが掴め、佐助率いる部隊がその殲滅の為に最終確認に向かってみれば、そこにあったのはある意味見たくなかった懐かしい顔。

 

その顔を認識した瞬間、一瞬のうちに周囲を凍り付かせるほどの殺気を放ったかと思うと、佐助は大きく息を吐いた。

 

『……ホント、何やらかしてくれてたりするかな、ウルベルトの旦那は。

こんな事、この終末を迎える寸前の世界でしたって、意味なんてないでしょうに……

まぁ、旦那の気持ちも分からなくはないけどさ、モモンガの大将の呼び出しを無視したってぇのは、ちょいと見逃せないかな。

しかも、俺様の会社がターゲットたぁ……調査不足もいいところでしょ、ウルベルトの旦那は。

ふふふふふふ……俺様まで、モモンガの大将を待たせる原因になったんだ。

しっかり、その分の八つ当たりも含めてきっちり仕置きさせて貰うとしましょうかね♪』

 

にぃっと、愉し気に口の端を挙げたかと思うと、部下たちに出入り口を固めて逃げ出すテロリストを捕まえるように指示を出しつつ、自分は単身特攻を仕掛ける旨を言い渡す。

警備部最強の佐助の戦い方は、周囲に居るものを全て薙ぎ倒すバーサーカーに近いもの。

佐助の部下なら、この佐助の戦闘方法は誰もが知っていたし、普段から割と一般的な指示だった事もあり、あっさり指示に従う彼らを見送った後、暗視ゴーグルを填めて彼らが潜む一角の照明を落とすと、一気に単身身を躍らせていた。

 

照明が消え、テロリスト側からの干渉もあって監視カメラなどが機能停止している事を知っている佐助は、平然と闇婆沙羅を使用して中に居るテロリストたちを刈り取っていく。

それこそ、その勢いはゲーム内で雑魚を根こそぎ薙ぎ払うのと、ほぼ変わらないペースだった。

暗視ゴーグルと闇婆沙羅の併用によって、どこに誰がいて何をしているのか、それこそ手に取るようにわかる佐助には、それこそ単独で動く方がとても効率がいい戦闘方法なのである。

そうして、ウルベルトの位置を把握しながら丁寧に仲間を始末していった佐助は、最後に残ったウルベルトの背後に完全に気配を消して近寄ると、口を抑え込んで叫べないようにしながら、がっしり腕を捩じり上げて楽し気な様子で耳元に口を寄せると、そっと声を掛けた。

 

「ふふふふふふ……ウルベルトの旦那ぁ……つ・か・ま・え・た・ぜぇ……」

 

出来るだけ、恨みが籠ったおどろおどろしい声に聞こえるように、地を這う様な響きを持たせるようにと、そういう意図をもって名を呼んでやったのだが、まさか【リアル】で【ユグドラシル】の名を呼ばれると、ウルベルトは思っていなかったんだろう。

本気で仰天した様子で、佐助の顔を確認しようと後ろを振り返ってくる。

だが、その行動は無意味だった。

 

何故なら、今の佐助は顔を見られない様にと、いつの間に装着したのか【お稲荷様】の仮面を被っていたからだ。

 

暗闇の中で、白く浮かび上がる様な狐の面と言うのは、正直言ってかなり不気味な雰囲気を持つものだ。

多分、同じ事をウルベルトのも思ったのだろう。

今度こそ、ウルベルトが恐怖に顔を思い切り引きつらせるのを見届けた所で、佐助は首筋に手刀を入れてその意識を刈り取った。

手早く、ウルベルトの周りの端末をチェックし、ウルベルトに関わるものと判別出来るものは全て回収していく。

簡単にチェックした限りでは、ウルベルトはそれほど大きな役割を振られていた形跡もなく、このまま他の端末をチェックされてもこの場に居た事がバレる心配はないだろう。

 

「さて……これでモモンガの大将へのお土産も確保したし、お仕事は終了って事で上に報告しましょうかね。」

 

気絶させたウルベルトを、そのまま闇婆沙羅に飲み込ませて自分の家に送り届けつつ、佐助は片が付いた事を報告するべくインカムのスイッチを入れた。

今回のテロリストの人数を、上も現場も正確に把握していない事は確認済みなので、ウルベルト一人くらいなら誤魔化しが効くだろう。

彼以外のテロリストは、既に全員三途の川を渡って貰って居るので、足が付く心配もない。

そもそも、殲滅班の仕事は遺体の始末までが含まれているのだ。

手早く、慣れた手付きで遺体を一カ所に集めると、遺体処理用の特殊分解液を掛けて処分していく。

分解が終わるまで、かなりきつい匂いが漂うが、これで処分してしまう方が後の処理が楽な為、殲滅班では当たり前のようにこれを殲滅したテロリストに使用していた。

正直、殲滅班ではテロリストを生かして捕らえる事はない。

 

富裕層にとって、テロリストとは処分が必要なゴミでしかないからだ。

 

そんなものを、わざわざ捕まえると言う認識は彼らの中に存在しない。

むしろ、手間を掛けて捕まえて仲間のことを白状させるより、彼らが使っていた端末から情報を拾い上げて、ある程度の潜伏地域を割り出して、その地域ごと処分した方が無駄な手間がないとすら思うのが、富裕層の中でも支配階級に居る者の常識なのだ。

数回のコール音の後、副班長が出たので現場の処理まで終了までした事を告げ、こちらに来るように指示を出す。

こちらの指示を復唱した後、インカムが切れたのを確認してから、今度は端末を取り出した。

 

「もしもし、殲滅班の上月です。

現時点をもって、ビルの地下に侵入しようとしていたテロリストの殲滅を終了しました。

私の単独特攻の結果、チームの被害はゼロで作戦終了です。

つきましては、今日の任務にあたる前のお約束通り、副班長にこの場に居る二班の指揮と現場を任せて、私はこれより直帰して休暇に入らせていただきたく思いますが、宜しいですね。」

 

これに関しては、最初の段階で決まっていた話だ。

元々、危険職としての最低限度の取る必要がある休暇枠での休みの予定だった佐助に、緊急事態だと言う事で強引に勤務を捻じ込んだ都合上、上としても優秀な人材に転職される危険性を減らす為に出した条件である。

だから、佐助がこの話を切り出しても、向こう側は慌てる事無かった。

 

≪副班長との引継ぎが終了し次第、上月班長の直帰を許可する。≫

 

そう、あっさりとした返答を受け取り、簡単な挨拶を交わし終えた所で端末を切る。

これで、後は引継ぎを待つばかりだと思っていた所に、副班長が率いる殲滅班が戻ってきた。

それと同時に、消されていた照明類も全て元に戻り、現場を照らしている。

 

「それじゃ、俺はこのまま直帰の許可も出たから、副班長は引継ぎを宜しく頼むわ。

あぁ、テロリスト共の端末はあそこね。

遺体は全部処理済み、端末は一つだけ開けてみたけどそれ程情報は入ってなさそうかも。

全員、端末は違法改造ものばかりだし、お互いに本名とか使ってなかったみたいだからね。

もし、事後調査後に俺に報告するべき内容が在るなら、上の判断を仰いだ上で休暇明けにでもしてくれると助かるかな。

それじゃ、また三日後の休暇明けに。」

 

ひらひらと、軽く手を振りながら背中を向けると、背後から班員全員が声を揃えて挨拶の声を上げた。

 

「「「「「「お疲れさまでした、上月班長!!」」」」」」

 

多分、ビシッと整列して頭を下げているんだろうが、それを振り返ってみる事もせず、佐助はその場を後にした。

正直言って、彼らには少しだけ申し訳ない気もしないでもない。

何と言っても、本来なら殲滅して処理すべきテロリストを、自分の都合とは言え一人見逃して匿っているのだ。

 

『……でも、まぁ……今のところ、俺様の所持しているブラックリストの中に、ウルベルトの旦那の本名は挙がって来てないからなぁ。

多分、名前が上がらない様に今まで後方支援に回っていたのか、今回が初参加だったのか。

どちらにせよ、今回はギリギリ問題ないでしょ。

今後の事は、ウルベルトの旦那が自分で決めればいいさ。

俺様としては、あと少しで終わる【ユグドラシル】でのモモンガの大将への義理さえきちんと果たして貰えれば、そこから先はウルベルトの旦那自身の問題だからね。』

 

サクッと、ウルベルトがテロリストを続けるかどうかに関しては、今夜の事が終わってから自分で決めればいいんじゃないかと、本人に問題を丸投げすることを決めつつ、佐助は家路を急ぐ。

テロリストを発見した時点で、終了まであと二時間ほどだったのだ。

佐助が単独特攻する事で、サクサクとテロリストを全て片付けたものの、それでもあの場所から直帰の許可を貰うまで三十分も掛かってしまった。

ここから移動して、ウルベルトの端末に【ユグドラシル】のアバターのコピーを突っ込んで起動させるなら、最低でも三十分は必要だろう。

 

「っとに、やる事が多すぎるってぇの!

一応、間に合う計算だから良いけどさぁ……ホント、これでモモンガの大将と碌に話せなかったら……本気で恨むぜ、ウルベルトの旦那ぁ……」

 

ウルベルトの予想外の行動によって、完全に予定を狂わされた佐助は小さくぼやく。

それでも……自分がいた場所以外だったら、ウルベルトの命は確実に散らされていただろう。

彼が思う程、富裕層の警備を任されている警備部の殲滅舞台は甘くない。

幾らか不満はあるけれど、そのお陰で拾えた【ギルド仲間】の命があって、モモンガへの土産になるのだから、これも悪くはないと思い直しつつ、可能な限り急いで家路へとつく佐助だった。

 

 




やっぱり、幾らなんでも婆沙羅持ちの佐助さん相手に、リアルでウルベルトさんが敵う筈がないんですよね……

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