エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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色々と詰まって、突発的に書いてしまった。
『エロエロンナ物語』とは微妙に繋がってるかもだけど、別次元、平行宇宙でのお話です。あっちとは無関係に近いですからね。


〈閑話?〉、ゲロゲロンナ物語

ゲロゲロンナ物語

 

「うぇぇぇぇ…」

 込み上げてくる酸っぱい液体。

 私は吐いた。そりゃ見事に吐いた。

 

「うげえぇぇぇぇ」

 

 ケロケロケロケロっ、とリズミカルに胃液が後から後から、口よりぶちまけられる。

 まぁ、無理も無い。

 そこら中が死体(したい)。いや、屍体(したい)と言うべき環境にあって、正気を保っていろと言うのは酷すぎる。

 

「ゲルダ世界へよーこそ」

 

 天から聞こえてくるのは脳天気な女声。

 一応、胃の中が空っぽになったのか、彼女は口を拭うと辺りを見回した。

 声の主を捜す為だが、声の主らしき人物は判らなかった。

 

『もしかしたら、このアンデットの中にいるのだろうか?』

「そんな失礼な事を考えてはいけませんねー」

 

 頭の中で呟いただけなのに、先程の声の主がそれを感じ取ったのか警告してくる。

 

「あ、あんた、誰?」

「あっ、失礼しました。私はこの世界の、まぁ、女神でしょうかぁ」

 

 女神だと?

 

「本当の役職はあるんですけど、ぶっちゃけ管理人ですが、私一人しか居ないので女神とお呼び下さいねぇ。

 あ、女のメンタリティと声を持ってるのは、他人に対するサービスですよぉ」

「受け狙いな訳?」

「はい。野郎より、女性の方が客受けは良いですからねぇ」

 

 あっさりと肯定する、自称、女神。

 まぁ、言っている事は正しい。

 野郎よりも女郎の方が客受けが良いのは、機械に入ってる各種ナビの声がことごとく女声である事が多いのが証明している。

 野太い男声で「発券中です」とか、「次300m進んで右折して下さい」とやられても誰が嬉しいねん。ってのは心情的に理解出来る。

 

「で、この世界はゲルダって名なのですが、と、屍体がうざいので時間停止しますね」

 

 蠢いていた屍体がぴたりと停止する。

 自分は動ける所から、時間停滞フィールドでも働いているのか?

 

「あー、そんな技術的な物じゃ有りませんよ。神の力です」

「…神ねぇ」

「あー、馬鹿にする。

 思うに貴女。相当技術レベルの高い世界からやって来ましたね?

 地球、メルーン、ヴィオリータ、リグノーゼ…。ああ、あの次元からですか」

 

 恒星間航行が出来るレベルだよ。と答える前に結論を出しやがったか。

 心を読む、こいつエリルラか?

 

「残念。まぁ、貴女方の言う、エリルラ(異能力者)に近いかもですねぇ。

 読心も、瞬間移動も、何ならこの惑星を、火球に変える事だって出来ますよ」

「やめい」

「冗談です。最近、別の世界にエリルラが現れてね。

 ありゃ、放っておくと歴史を変えちゃいますから困ったもんだ。ある程度未来予知で見えちゃうんですよ。彼女がこれからやろうとする事が」

「排除…」

「無理です。手出しが出来ません」

 

 自称、女神は深いため息をついた。

 

「管轄が違うんですよ。あたしの管理下に無い次元の話なんです」

「管轄違い?」

「はい。神界もテリトリーって奴が決まっていまして…。

 ああ、勿論、貴女の生まれた世界にも上位管理者が居ます」

 

 そんな奴に会った事無いけどねぇ。

 

「そりゃ、そうですよ。普通は神様だって管理する世界に顔出しする事は滅多に無い」

「じゃ、あんたは?」

「貴女が別の世界の人間だから干渉したんです」

 

 曰く、四六時中、自分の世界に干渉するのは住人に進化させるのに余り宜しくないそうで、普通は自分の世界の住人に手出しはせず、放置して見守るのが基本スタンスらしい。

 

「まぁ、一概に言えない所もありますね。

 貴女の世界、地球でしたか、のギリシャの神々みたいに、じゃんじゃん俗界へ介入する神様も居ましたし、まぁ、あの方々も私と同じ、管理人に過ぎませんが」

「管理人って、かなり軽い言い方だね」

「上位管理職に比べれば、権限が低いんですよ。

 会社で言うなら課長クラス。範囲が及ぶのは一つの文化圏やせいぜい惑星一つとか、その辺りですね。

 上位管理者は次元一つを担当してます。重役ですねぇ」

 

 その声に羨望の響があったのは、気のせいでは無いだろう。

 

「ま、いいや。で、私は何でこんな所へ居る訳?」

「ああ、そうでしたね。簡単に言えば、事故です」

 

 事故?

 別にトラックにはねられた記憶は無いぞ。

 

「どこのラノベですか」

「異世界転生物の基本だろ?」

「ワンパターンなんですよ。どうせなら落ちてきた戦闘機に巻き込まれたとか、沈み行く客船と運命を共にしたとか…」

 

 犠牲者の家族が、どっかの広場でテント張りそうな展開だね。

 

「ト・アール国の事情は危ないので止めましょう」

「あ、ごめん」

「貴女は突然、次元の狭間に落ち込んだんですよ。次元反動転移航法で良くある話ですが」

 

 そうだった。私はアルファ・ケンタウリ行きの客船に乗っていた。

 次元反動転移航法。

 略して空間転移航法とは、宇宙船を別次元に移行させて、亜空間内を経由する事で移動距離を大幅に縮める航法である。

 

 通常空間の前方空間に次元干渉を起こし、次元の壁に穴を開けて船体を滑り込ませる事で、亜空間へ転移。亜空間内で進んで再び通常空間へ復帰する航法だ。

 亜空間内は通常宇宙に比較して空間が歪曲しており、たった数日、推進するだけで数十万光年に相当する距離を稼げるので、加速型ワープ航法などに比較して効率が高い。

 

 だが、時々、船内に次元空洞が発生する事故が起きる。本来、宇宙船の進路上に開けるべき次元の穴が、何故か、宇宙船の中に空いてしまうのだ。

 転移座標の計算間違い。自然の干渉による不測事態。とか色々言われてるが、詳しい事は判らない。確率的には1/100,000,000程度の天文学的な数値なのであるが、それでも発生するんだから仕方ない。

 次元空洞が発生する時間は長くて数分。だが、そこに吸い込まれた人間は行方不明になる。

 どこかの多次元宇宙か、亜空間に放り出されて還って来ないのだろうと推測されているが…。

 

「いわゆる異世界転移ですね。おめでとうございます」

「嬉しくも、何ともないわ」

 

 女神は「助けてあげたのに酷い」とうじうじと呟いた。

 詳しく話を聞くと、次元の狭間に放り出された私を保護して、このゲルダなる世界へと連れてきてくれたらしい。

 

「は、いいけど、周りのこの光景は何?」

「屍体ですね。まぁ、ぶっちゃけて言いますとこの世界って滅んでるんですよ」

「は?」

「いえ、ねぇ。世界は健全なんですけどね。この惑星で文明を築き上げた種族は、とっくに此処を見切りを付けて旅立ってしまっていましてね」

 

 文明崩壊後の世界かーい!

 

「知ってますよね。星の民(メライシャン)、あいつらです」

「知ってる…。あいつら、別の多元宇宙にも進出してたんか」

 

 地球を含む私の世界にも、連中の足跡が発見出来る。

 メライズ文明と言われる謎の異星文明。それは宇宙各地に様々な遺跡を残しているが、遙か昔に滅び去ったと言われている。

 恒星間航行可能な高度な技術を持ち、今でも解析不能な物も数多い。多かれ、少なかれ、宇宙に文明が生まれる所に干渉しているらしく、宇宙へ進出した異星人が互いにヒューマノイドなのも、この『メライシャンがそうなる様に調整しているのだ』との説すらある。

 

「此処もその一つでした。

 魔法文明。貴女方の世界では理解不能なテクノロジーを用いて世界を構築していたのですが、現地の人間が暴走しましてね。この通りです」

 

 何でもメライズに対抗する為、その支配から脱する為の力を持つべく現地人がアンデット化したそうだが、殆どの住人は吸血鬼とかの上級種族になれず、低級な屍体とかに変わり果ててしまったらしい。

 

「メライズは星を支配していると思ってなかったんですけどねぇ。現地人は彼らの観察対象であって、搾取する存在としては見ていなかったし…」

「メライシャンの対応は?」

 

 メライシャンとの間に何があったのか。

 星の民が原住民に負けて逃げ出したのなら痛快だったんだけど、その答えは面白くなかった。

 

「原住民が、それ以上は進化する兆候が見られないと判断してあっさりと星を捨てましたよ。未練があった、リグノーゼやヴィオリータと違ってね」

 

 リグノーゼとヴィオリータ。

 この二つは星間国家だ。どちらもメライズ系の文明を祖先に持ち地球連合と対峙している。

 もっとも、彼らの主敵は星間国家メルーン帝国なので地球とは熱戦状態にはなっていない。

 このゲルダと言う世界も、先の二つの様にメライズ系だったんだろう。

 

 彼らが去る時のパターンは『自分達の手を借りずともやって行ける』まで文明が成熟したと判断した場合と、『これは失敗した出来損ない』と判断したケースのみだ。

 失敗廃棄の殆どは開発初期に行われる物(主に生命や知的生命体が発生しなかった場合)だから、これだけ高等生命体が生まれた世界で、星の民がそれを捨て去るのはよっぽどの話である。

 

「ま、そりゃいいけど、このアンデットの中で私は暮らすのか?」

「勇者になって下さい」

 

 は?

 おいおい、私は民間人であって軍人でも武道家でもないよ。

 

「間もなく、この世界の均衡が崩れるからです。

 貴女は、まだアンデットと化していないこの星の知的種族を率いるリーダーとなって、次元を越えて現れる侵略者の前に立ちはだかるのです」

「唐突な。か弱い婦女子に何をやらせるんじゃ」

「ゾンビ萌えとか出来ますね」

 

 それは腐女子だ。

 

「失礼。と言う訳で、貴女に率いて貰いたいのは、りょうせい人類です」

「えっ、アンドロギュノス(ふたなり)?」

「いえいえ、彼らです」

 

 ゲロゲロっ、ゲロッピ。

 虚空に現れたホログラムは、どう見てもケロケロチャイム…じゃなかった。

 でっかいカエルだった。

 

「両生類かーい!」

「そです。まぁ、人以外の知的種族が彼らだけな訳でして…」

 

 ファンタジー風なら、エルフとかドワーフとか居ろよ。

 何が悲しくくて、勇者とやらになってカエルのリーダーにならにゃならん。

 

「他の世界に転移させろ」

「出来ません。私の権限はこのゲルダワールド限定なので」

 

 話によると、自分を助けたのも意図的では無くて義侠心に過ぎず、本来なら放置しても良かったらしい。それでは余りにも哀れだとして救い上げたのだが、扱いに困ってしまったのだそうだ。

 元の次元へ戻す事は禁止されている。

 本来、こうした管理者は人前に姿を現さないらしいとさっき話したが、折角、この世界に呼び寄せて生きる事を選択させてあげたのだから、せめて、この世界で何等かの役割を与えて活躍して貰おう。と考えたのだそうだ。

 嫌なら助けたのをこっちも忘れるから、死んでくれても結構と言われれば、半ば道は決まっているが…。

 

「それが勇者かい。しかも、カエルの」

「アンデット化した人類の勇者じゃ、面白くありませんからね。

 それとも貴女、ゾンビになる願望でもお持ちで?」

「面白さで決めるなよ」

 

 私は脱力した。まぁ、ゾンちゃんになるのは嫌だ。

 

「勇者になれば、勇者の力を与える事も出来ますよ。

 テレポートとか、サイコキネシスとか、まぁ、貴女の世界の超人。近い所でリグノーゼ帝国のエリルラ並みの事は」

「へ?」

「向こうの基準に当て嵌めると、特級エリルラ級になるのかな?」

 

 おいおい、特級ってリグノーゼの基準では例外中の例外、伝説クラスだろ。

 現在では一人も現存してないと言われてるぞ。大陸間をテレポートで跳躍する三級で数千人。衛星距離を跳躍する二級で数百人。惑星間を跳躍する一級クラスでも僅か数十人なのに、特級は生身で恒星間を瞬間移動するってお化けだ。

 

「あー、無論、女神である私には敵いませんよ。悪しからず」

「あんたが与える力だからな。自然とあんたのレッサーバージョンって訳か」

 

 まぁ、予想はしていたさ。

 しかし、そうだとするとこのおちゃらけ女神、とんでもない性能を持ってるんだな。

 仕方ない。私はその申し出を受け入れるしかないじゃないか。

 

            ★        ★        ★

 

「ゲーロゲロゲロゲロ(忌々しい屍人から、我らの土地を取り返すのだ)」

 

 私はカエル達に命令した。

 半ば幽体で空中に浮かび、女神らしいオリエンタルな薄衣を来た私は、印度神話のアプサラスみたいな姿だった。あ、趣味で高そうな装飾品じゃじゃらよ。

 装備は変えられても、姿形が元のままってのは納得行かんけど、女神に「それが貴女の個性ですので」と言われてしまったから仕方ない。

 この十人並の姿を絶世の美少女に出来たら素敵だったんだけど。

 

 幸い、カエル達は私を勇者と認めてくれて、すんなりレジスタンスのリーダーに祭り上げられた。

 私は地球語で命令してるんだけど、カエル用のゲロゲロ語に自動翻訳され、向こうのゲロゲロ言葉も地球語に変換されるので、コミュニケーションに問題は無い。

 

「ゲーロゲゲロ(敵だ)」

「ゲロゲロゲ(戦闘用意)」

 

 野生のゾンビが現れた!

 ゾンビは弱いが数が多い。しかも、地球の低級ホラー映画みたいにゾンビ菌(?)があるらしく、直接、触れられると感染して、知らないうちにゾンビ化してしまうんだそうだ。

 どう言う原理だよ。

 

「ゲロゲロゲロッピ(女神様の聖液を使え)」

「ゲロゲーロ(おうっ)」

 

 私は微妙な表情を浮かべてその光景を見詰めていた。

 最初に登場した時が悪かったな、と反省する。

 勇者、と言うよりカエル達の間で私は女神だと認識されているらしいが、ゾンビに襲われているカエルを助けに現れた時、私はやっぱり吐いちまったんだよ。

 でも、流石女神の胃液。

 ゾンビは私の消化液を被った途端、あら不思議、綺麗さっぱり融けてしまいました。

 

『うーん…』

 

 で、それを見たカエル達が真似をして、今や胃液を噴射するのが、対ゾンビ戦のトレンディに。

 

「ゲロゲロゲロー、ゲーロゲロゲー」

「ゲロゲロゲロー」

 

 あ、胃液を浴びたゾンビが消滅してます。

 これ不思議と効くんだよなぁ。私がカエルの胃液に『聖』属性を付与した為にね。

 あ、これ、私の信徒になったカエル限定ね。

 で、私は勇者。よりも聖女というか女神様として、この力を分け与える事で勢力拡大中な訳。

 

『さて、新たな次元侵略者とやらが現れるまで、勢力を何処まで盛り返せるかねぇ』

 

 それが現れるのは時間として地球時間で数十年後らしい。

 次元を押し開き、別の世界からイレギュラーとして現れるのは魔族と言う連中らしい。おおっ、何となくファンタジー的なノリじゃ無いか。

 

 侵略されても、ゲルダの支配種族であるアンデッドは無抵抗で支配下に入り、このゲルダ世界は平定される未来予想が立っているんだけど、女神曰く「それじゃ面白くない。これでもあたしが何万年も育てていた世界なんだから」なんだそーだ。

 でも直接、自分が表舞台に登場して干渉する事は神界の法で禁止されている。

 だから、私と言う異次元の存在を代理にあげた。

 

『もっとも、私だって力を制限されてんだけどねぇ』

 

 私一人で物事を解決するなら簡単だ。

 アンデットの拠点を丸ごと殲滅しちまえば良い。

 大地が裂け、天空から豪雨の降り注ぐ天変地異を引き起こし、地上に核融合による太陽を現出させる事だって、今の私には可能なのだ。

 かつて軍部の人間が常々「エリルラ怖い」と言ってたのが理解出来るよ。無論、現在の私の力程じゃないだろうけどね。

 

 だけど、それじゃあ世界が引き起こす解決法にはならない。

 この次元の問題は、あくまでもこの次元の生物が行う事じゃなければ、それは単なる『勇者、または女神による奇跡』に過ぎなくなる。

 人々がそんな奇跡に頼り始めたら、ろくな結果を生まない。

 停滞し、活力を失う、死んだ世界になるだけなのだ。

 だから、私の助力はあくまで限定的に行わねばならないらしい。

 

「ゲロゲロゲロ(ま、いっか)」

 

 私は独りごちた。

 元の私はアルファケンタウリへの途上で死んだのだ。今は今で、楽しく生きて生きて行くのを優先しよう。幸い、私の存在は殆ど不老不死な肉体らしいしね。

 

「ゲーロゲーロ」

 

 頑張れカエル。頑張れ私の配下。

 私は宙に浮かんだまま、奮戦するカエル達に「ゲロゲロ」っと声援を送り続けるのだった。

 

〈FIN〉




主人公の、私の名は「ゲロコ」にしようかと思ったけど、それじゃ完璧に虐めだから止めました。
世界の名も最初の予定では「ゲロダ」だったけど、こちらも流石に(笑)。

多分、これ一編だけで続編は無いです。恐らく…。

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