お産シーンがありますが、架空の生命体(魔族)のお話なので、学問的な考証は皆無です。
下半身甲殻類でも胎生で哺乳類ですからね。
「何で女系魔族に臍や乳房があるのだろう?」って疑問から生まれた設定ですので、余り目くじらを立てない様にお願いします。
〈外伝〉実習航海7
ビッチは階段を一気に駆け上がる。
照明はなく暗かったが(【幻光】はとうに時間切れで、普通のカンテラはミモリが持って行った)、何とか足を踏み外す事無く、二十段余りの階段を昇り切った。
「ミモリっ!」
まだ抜刀はしてない。
前方は石扉が開いているせいで明るいが、逆光となってしまっているので外に何か居るのかはの正体は掴めない。
「きゃあ、きゃあああ。くすぐったい!」
ヤシガニ娘は五本の脚と二本の手をバタバタさせている。
ビッチは「あら?」と言う表情を見せて、外に居る何かを確認した。大きな顔からでかい舌が伸びて、ミモリをべろべろ舐めているそれは…。
「ヤスミーンではありませんの?」
船に置いてきてしまった草竜だった。
ミモリを入口からどけて、ビッチが前へ出ると、主の顔を発見したヤスミーンは「きゅーん」と甘えた声を出す。
「班長。竜がこの場に居るとなると…」
ミモリの面倒を見つつ、追いついたガリュートが言葉を濁す。
「船に何か、重大な損傷が起こったのかも知れませんわね」
実際、エロンホーフェンの損傷は軽かったのであるが、それをビッチ達が知る術はない。
一方、竜の唾液で顔や身体がべとべとになってしまったミモリは泣いていた。
「うぇぇ…。べとべとぉ」
「着替えた方が良いな」
が、それに反発するミモリ。
「どこに? 貯蔵庫の中にだって女の子向けの服が転がってる幸運は望み薄です」
「この島なら、ヤシクネー用の服が常備されてる可能性もあるぞ」
「希望的観測は止めて下さい」
怒っていた。
いきなり竜が目の前に現れて、「食べられる」と思った恐怖の後に、念入りに舐め回されたのだ。理不尽だが、怒りを目前の男に向けでも仕方有るまい。
「それにしても…竜の嗅覚は鋭いとの伝承は本当でしたのね」
ビッチは外へ出てヤスミーンの状態を確認する。
あれは俗説と思っていたが、ここへやって来たと言う事はビッチの匂いを追跡してきたに相違ない。今の自分に彼女を扶養は負担になるかもだが、空を行く手段が手に入ったのは心強かった。
「きゅーん、すんすん」
「お腹が空いてますのね。どうしましょうか…」
ひとしきり確認して、状態が悪くないのを確かめたのはいいが、問題は給餌してくれと騎竜が要求してくる事であった。
草食なので手に入った干し肉とかは食わせられない。
干し草なんかないし、目に入る緑はフロリナ樹ばかりである。「あれは竜が食べられたっけ?」と知識を探るが、答えは出てこない。
「タンポポでも、ぺんぺん草でも、牧草や豆でもあれば…」
「豆ならあるかも知れませんよ」
ガリュートが言った。豆は長期保存に耐えられる食材の一つだ。野菜なんかは駄目だが、豆なら貯蔵庫にしまってある可能性がある。
ビッチは中へと取って返し、貯蔵庫へ。ミモリが泣きながら服を探している隣で、やはりごそごそと備品をひっくり返す。
「あった!」
ひよこ豆の袋。中身は5Kg程だが無いよりはマシだった。
ぺろりと直ぐ平らげてしまうだろうけど、当座はこれで我慢して貰うしかない。
◆ ◆ ◆
外骨格が背中に沿って切れ目が入る。
女性はヤシガニ体の下半身をぶるっと震わせる。パキパキ音を立てながら、中身が半分、ずるりと出てくる。
「御免なさい。た…単に脱皮だけなら大丈夫だったんですけど…ううっ」
「産まれちゃう。お姉ちゃんをお部屋に!」
「廊下でお産したら、子供が何処かへ行っちゃうよぅ」
姉妹が口々に叫ぶが、ダニエルは混乱していた。
目の前の女性の言葉によると『脱皮時期と妊娠が重なってしまった』らしい。その上、今回の被災で産気づいてしまったそうで、廊下でお産すると危険なのだそうだ。
「俺の部屋へ」
「あたし、お産婆さん探してくるぅ!」
ダニエルと濃いピンクの髪をしたヤシガニ幼女が同時に叫ぶ。
こうなったら、自分の士官室へ女性を入れるしかないと決断し、下半身をぶるぶると震わせている女性に手を貸す。
叫んだ方のヤシガニ幼女は六本の脚をかたかたと鳴らしながら、脱兎の如く何処かへ去り、もう一人が心配そうに女性を励ましている。
「歩けますか?」
「な、何とか…」
と答えたが辛そうだ。脱皮は進行しており、脚の底が抜け掛かっている。
キチン質の透明な管の中を、緑色の脚が歩く度にピストンの様に出たり入ったりを繰り返して歩きづらそうである。
何とか部屋に辿り着くと、女性は力が抜けた様に座り込んでしまう。
「産婆さん連れてきたよっ」
「アリーイ、ナイス!」
部屋の外から幼女達の声が聞こえ、扉が開いて一人の老女が姿を現す。
意外な事にヤシクネーではなく、普通のヒト種だ。背が低く、しわしわの顔。灰色の長衣を纏い、手には何やら診療鞄らしき物を持っている。
「わしは動物専門じゃと言うたであろうが」
「でも、お姉ちゃんを診て。お願い」
おいおい、獣医かよ!
絶句するが居ないよりまマシか。老婆は鞄を開けて道具を取り出すと、ヤシクネーの女性に近づいて何やら会話をしている。
「そこの若いの、そう、お前じゃ。タカトゥクの身体を押さえるのじゃ」
「俺? タカトゥク?」
「そこのご婦人の名じゃ、ええいっ、使えない奴じゃ」
そんな会話が流れる中、「ああーっ」とご婦人ことタカトゥクの悲鳴が上がる。
老婆が「ぬ、いかん。破水が始まったか」と呟いて、外に居たヤシクネーの幼女達を呼び寄せる。やって来たのは良いのだが、ただでさえ、面積を取るヤシクネーが三体。狭い個室は満杯になってしまう。
「お前達もタカトゥクの身体を押さえるのじゃ」
「「はいっ」」
幼女達も女性に近づくと、それぞれ第二腹部を押さえる。
脱皮中程なので、体液にぬるりと包まれた新しい身体がぷにぷにしている。
本来なら、下半身に力を入れて、古い皮を全てを脱ぎ去るのだが、お産の方に力を取られて中途半端な状態である。
「お産が始まると、産の苦しみから猛烈に暴れるぞ。
そして脱皮中だから、普段よりも身体が柔らかい。母体が怪我をせぬ様に気を付けて押さえるのじゃ」
人間の上半身には脱皮は起こらない。だが、代わりに下腹部から液体がダラダラと流れ出している。服で隠れていてよく見えないのだが、尻に当たる部分のあそこから出ているのだろう。血も混じっている。
「あああーっ、痛いっ、痛いっ!」
「息むのじゃ」
余程苦痛なのか、がしがしと手足の他に鋏を振り回しだしたが、その途端、ぱきりとひびが入った後に皮が崩落し、鋏部分の脱皮が完了する。
こうして押さえていても物凄い力である。ヤシクネー幼児の二人など、半ば持ち上げられている。下半身の六本脚も滅茶苦茶に動き、苦痛から逃れようと揺れ動いている。
成る程、廊下で産んでいれば、凄まじい勢いで100kg越えのこの巨体が転がっていた筈だ。と押さえつけながらダニエルは思う。
その場合、廊下で雑魚寝していた避難民が何人巻き込まれるか。押し潰されて阿鼻叫喚の惨状になってた筈だ。
「下腹に力を入れよ。それ、いちに、いちに」
「ふーっ、ふー」
ぶしゅ。水音と一緒に最初の子が胎内から排出される。
掌に収まってしまう程小さいが、胞衣に包まれた赤子である。
産婆が取り上げると同時に、手に持ったナイフで臍の緒を切ると胞衣に包まれたまま、何処からかみつけたのか、篭に放り込む。
「それっ、どんどん産まれるぞ」
「んっ、んんーっ!」
続いて一人、また一人。リズミカルに腹部が動き、短時間でぽんぽんぽんと流れ作業的に子供が産み落とされる。合計八人。
「ふむ、ヤシクネーにしては少ない方じゃな。まだ、お腹に子供を残してないかえ?」
「これで少ない方なのか?」
呆れて問うが、答えは「平均、十五人位産むぞ。七十とか、八十とかの記録すらある」であった。幼女二人が手を挙げて「あたし達は十二人姉妹」や「タカトゥクお姉ちゃんとは十歳違い。あっちは十八人姉妹だよ」とか言ってくる。
「ちび達のくせに、それだけの姉妹を良く覚えられるな」
「ちびじゃないぞ。あたしはイマーイ」
「あたしアリーイ。ちゃんと覚えてね。
でも、正直言って時々、全員を覚えられてるかと問われれば、自信ない」
薄桃髪がイマーイで、濃い方がアリーイらしい。
「あっ、いけない。脱走しちゃう」
タカトゥクが指さした先には篭に入れられた己の子供が、自分で胞衣を切って蠢いている。その中の一人が篭の壁を登って脱走しようとしていた。
ご丁寧に上半身には人形みたいな小さな人影。下半身は甲殻類。そして生まれたばかりなので身体が透き通り、骨や血管まで見えている。
おかげで上半身部分には骨格があるが、下半身の方は上半身の直下以外は外骨格で、骨は一切無いハイブリッドな身体なのが一目瞭然だ。
「逃げちゃう。捕まえて」
母体は出産したばかりで息も絶え絶えだ。これから脱皮もしないといけない。
彼女は身体に力を入れて、皮を脱ぎ始める。
中途半端に脱皮を諦めると、身体の硬化が始まって最悪、死を迎える。幼少時に脱皮が上手く行かなくて、死んでしまう個体も多いのだ。
疲れていてもすぐに脱皮を完了させる必要があった。
「痛ててっ、挟まれた」
捕まえようとするが鋏で抵抗し、そのままダニエルの身体の上を這って逃げる。長さ8cm位なのでなかなか素早い。
と、何を思ったのか、そのまま士官服のポケットにするりと入ってしまった。
「お姉ちゃん。こっちの赤ちゃん達は捕まえたよ」
ずるっと身体を皮から脱いだのはその時だった。母体そっくりの抜け殻が士官室の真ん中に鎮座した。上半身と途中で剥離してしまった鋏を除いては見事に本体その物である。
「蝉の抜け殻の巨大版じゃのぅ」
「そんな事より、こいつ、どうするんだ?」
透明な下半身の見事なオブジェに感心する産婆。一方のダニエルは胸ポケットの中に籠城する子供に困惑気味であった。
母親は篭から子供を受け取ると、第二腹部にある子袋へ我が子を詰めて行く。ヤシガニ部の腹部がぽこぽこと動いて、内側で子供が元気よく動いてるのが確認出来た。
「あ、えーと、私の袋に詰めますので持って来て下さい」
まだ身体の自由が効かない、タカトゥク・トイズは済まなそうに頭を下げた。
◆ ◆ ◆
下山。
ミモリがべとべとの服を洗濯すると言って聞かなかったので、大分時間を食ってしまった。乾かす時間が無かったので、そのまま着させている。
幸い、熱帯気候であるので服は着ていれば自然に乾く。風邪引く心配も無く、逆に冷たいから避暑にもなるらしい。
でも肌にまとわりついて、気持ちが悪い」とは本人の談。
「一応、竜の方は何処かで草を食べさせるとして、飛ばせられますか?」
ガリュートが尋ねる。多分、平気だと思うが…。
「ボートに着くまでは歩かせますわ。その後は偵察飛行させましょう」
一応、士官候補生二人だけならタンデムで搭乗可能だ。が、ミモリはその体型から騎乗は出来ないし、おまけに怪我をしている。
本来ならば、ミモリを置いて二人だけで先行すべきなのだが、そんな非情さは二人にはなかった。
「徐々にですが、水位が下がってますね」
水辺であった所からボートが取り残されていた。
数時間前は岸だった所には水はなく、かなり後退しているが、困った事は地質にあった。水に濡れた土地は足を捕まえる灰色の泥と化している。
「うわっ、足が沈む」
「ブーツを脱ぎなさい。ボートを浮きにして押し通るのです。
ミモリはボートに乗って、ガリュートが泥に填まったら船上に引き上げなさい」
言いつつ、ビッチは久しぶりに騎竜の主となる。ボートに乗ってしまったのなら、竜に騎乗する事が出来ないからだ。この巨体ではボートの上に乗る事は不可能だし、乗れたとしても自重でちっぽけな小艇なんか沈めてしまうだろう。
「行けそうですわね」
手綱や轡などの装具を点検し、何か欠けてないのかを調べると、鞍の上に乗って安全帯で身体を固定する。
ヤスミーンは首を曲げてこちらを見ていた。
「さぁ、行きますわよ」
ばさばさと翼が羽ばたきを始める。
「このまま、先に母艦に帰還しますか?」
「いいえ、まずは付近を見て回りますわ。
暫くしたら戻りますので待機していて下さいませ」
浮上前に言葉を交わす。一旦、飛び上がってしまえば、こうした肉声での会話は不可能になる。速度差の為に地上との会話が成立しないのだ。
とっとっとっとヤスミーンが助走を開始して、やがてふわりと竜が浮き上がった。
「うん、良好。良好」
放っといたのは一日だけだが、見掛けによらず竜は繊細な生き物である。環境変化によっては体調とか崩しやすく、個体によっては精神的にも神経が細かい。
ここら辺は馬にも通ずる所がある。
上昇したり旋回を繰り返して、暫く挙動を確かめるが、特に問題はなさそうだ。
「さて、と」
上空500m程か、騎竜服を持って来てないから、寒くて余り高度は取れない。
鞍に備えられている物入れの中をまさぐり、標準装備の望遠鏡を取り出す。特に騎竜専用に造られた細く、軽い品だがやや耐久性に欠ける所がある。
倍率は約五倍と大した性能ではないが、肉眼よりは大分マシである。
「港の方は…。ああ、母艦を発見。無事でしたのね」
停泊しているエロンホーフェン。ニスを塗られた木目に縁取りの青い塗装が眩しい。
他に大小数隻の船舶。しかし、港は壊滅的でまだ水が引いていない。そして、海面にはへし折られた木材。瓦礫などの雑多な漂流物で埋まっている。
「フロリナ島の復興には時間が掛かりそうですわね。それと、バニー本島も」
望遠鏡から目を離す。とにかく、母艦が無事なのが確認出来たのは収穫だ。
下からでは様々な障害物で視線が通らないが、一旦、飛び上がってしまえば条件によっては数十Kmは見通せる。これが軍竜が重宝される理由の一つだ。
「?」
港の方から下のガリュートらを確認すべく、視線を移した時だった。ビッチの視界に異様な物が映る。
それはフロリナ山の反対側に位置しており、今までなら死角になっていた場所に横たわっていた。黒い、黒くて何とも言えぬ物体である。
「あれは…なんですの?」
◆ ◆ ◆
ダニエルは困っていた。
胸ポケットに入ったヤシクネーの赤子が、頑として出てこようとしないのだ。
「お母さんの子袋と間違えてしまってるのじゃ」
とは産婆の推測。ヤシクネーには第二腹部に幼い子供を入れる袋がある。赤子をまずここに入れて外敵から身を守るのだが、それと勘違いしているというのだ。
「済みません。その…出て来ないのですか?」
母親の方は、幼女二人の手を借りて身体を身ぎれいにしている。
二本の足が膝の所まであり、そこから先が外骨格に埋まっている構造である。そして局部も見た目だけならヒトの女性と変わらない。
破水で汚れてしまった股間を拭い、下着他を換えている光景は魔族とは言う物の、とても猥雑で下半身が反応してしまう。
「手を突っ込むと鋏で抵抗するし、挟まれると痛い」
生意気にも、こんな小さくたって血が出る程の力があるのだ。
「困ったわね…。では誘き出し作戦。ほーら、お乳をあげますよ」
母親であるタカトゥクは上着を脱いで豊満な乳を見せつけるが、逆にこちらの目のやり場がない。他の赤子達は順番に乳房にしゃぶりつき、母乳を吸っている。
女系魔族の中には擬態としてヒト型を持つ者も居るが(だから卵生でも臍を持っていたりするが、これはヒトや亜人を騙して油断させ、捕食する為の擬態だ)、ヤシクネーは本当に哺乳類なんだな。と改めて認識する。
「あんっ、あんっ」
吸われる度に何かを感じてしまうらしく、色っぽい声が響く。
「わー、美味しそう。お姉ちゃん、あたしもー」
「だーめ。イマーイ。赤ちゃんの栄養だよ。横取りすると飢えちゃう」
幼女姉妹はそれを見て何やら言っているが、ダニエルは自分の胸元を覗くしかない。
暫く時間が経った為か、赤子は体色に覆われ始めている。透き通っていた身体から人間態の上半身は肌色っぽくなり、下半身の第二胸部、第二腹部も黒ずんで来ていた。
「その子、何番目でしたっけ?」
「五番目だよ」
母親は「そう」と言いながら、授乳中の我が子に筆で番号と名前を書き連ねて行く。暫くしてからダニエルの方を向く。
「えーと、その子、多分、第七女なのよね。名前の候補は…」
メモを取り出して「ええと、ポピーは六番目だから、クローバーね」と告げる。
そのメモにはずらっと名前が並んでいる。20人近い数だが、出産前に予め考えていたのだろう。ヤシクネーにはお馴染みの事だ。
たまに予定数よりも多く産んでしまう場合があって、考えていた名前が足りなくなり、暫く名無しの子も出てしまう事もある。
「いや、名前を言われても」
「でも名無しでは呼びにくいでしょ? だからクローバーって呼んであげて」
かさこそと胸ポケットの中から、赤子。クローバーが身を乗り出した。
ヒトの赤子と違い、生まれても鳴き声を上げるだけの無力な存在ではなく、ある程度の自律行動が可能なのは、やはりヤシガニや蜘蛛の様な節足類に近いのかも知れない。
「やはり、お乳が欲しいみたいだな」
警戒気味にポケットから這い出るクローバー。手を伸ばしてタカトゥクの肩を掴むと、伸ばされたダニエルの手を橋にして、素早く乳房に辿り着く。
そのまま、乳首に吸い付いて母乳を飲み始める。
「…良かった。このまま篭もってたら、餓死しちゃうから」
「餓死?」
ヤシクネーは多産だが「無事に大人になれるのは半分程度」なのだ。と説明される。
原因は色々。病や怪我で死ぬのはヒトや亜人同様だが、今の様に餓死や事故。
「小さな頃は獣も大敵で、鳥に襲われたり、犬や猫にも食べられてしまう事だってあるんです。魔族だって、私達を食べちゃいますしね」
「うん、イマーイ達の姉妹も生き残ってるのは半分位だよ」
「お医者さんも居ないしね」
特に【聖句】を唱えられる物が辺境では少ない。都会では助かっただろう病も、医者の絶対数が足りぬ為に命を落とす者が多い。
居たとしても金がない為に、或いは魔族故に診療拒否なんてのもザラである。「どうせ沢山生まれるんだから、また産めよ」と罵られる事すらある。
「だから、わしの様な獣医が診る事も多いのじゃ」
老婆の自嘲気味の台詞。そうか、この婆さんが慣れていた理由はこれか、と痛感する。
まだ、王国内でも差別はある。
「士官候補生様」
「ダニエル・ボルストだ。ダニエルでいい」
「ではダニエル様。ご協力感謝します。
いつまでもお部屋を占拠する訳にも参りませんので、暫くしたら廊下へ戻ります」
ヤシクネー達は頭を下げた。
いや、赤子連れで廊下で雑魚寝は厳しくないかと思う。それに脱皮したばかりだし、体力だって相当消耗しているはずだ。魔族はタフだと聞くが、それでも苦労するだろう。
「身体が硬化するのはいつになる?」
今は脱ぎたてだから、外骨格部分はぷにぷにと柔らかい。
押すと弾力があって触り心地が面白い。この間に身体を大きく成長させ、再び、硬い外皮に覆うのであるが、この間、特に幼少時に外敵に狙われるとひとたまりもない。
「一週間位でしょうか?」
「流石に一週間は無理だが、暫くはこの部屋を貸してもいい。三日か、四日って所だが。しかし、軍命があった場合は従って貰う」
そこまで言った時に、腹が「ぐぅぅ」と鳴り、ダニエルは色々あって、まだ何も食べてない事に気が付いた。
〈続く〉
ヤシクネー出産編。みたいになってしまった(笑)。
タカトゥク達の元ネタは玩具会社。でも、今は三社共に消滅してます。
この三人は『オーガの群れ』関連。
以下、どうでも良い裏設定。
彼女らの母はアサヒ・トイズ。出産経験は二回。初回はマールサンなる男との行きずり。二度目はブルーマクーなる男との行きずり。ヤシクネーは正式に夫となる伴侶を持たない事が多いです。
イマーイ曰く「アサヒママはレンジを使って、ホットケーキを焼くのが得意なの」だそうです。
って、全然関係ない話ですね。