エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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案外早く完成しました。
〈幕間〉抜きですが、分量としては丁度良かったみたいです。


〈外伝〉、実習航海6

〈外伝〉実習航海6

 

 とにかく岸に辿り着いたのは夜明け頃であった。

 山腹は火山灰が堆積しており、雨が降ると灰色の泥沼と化してしまうらしいが、幸い、雨は降っておらず、何とか上陸は出来た。

 但し、代わりと言っては何だが、ふわふわの灰で足が埋まる。体重を掛けると数cmは沈んでしまうのだ。

 ミモリに言わせれば「雨が何回も降ってますから、まだマシな方です」だそうで、表面の灰はこれでも流されている状態らしく、噴火の直後だと酷いとの事。

 

「あ、お帰りなさい」

 

 付近に偵察へ行っていたガリュートの帰還に、ミモリが松葉杖をぎこちなく持ち上げて歓迎の意を示す。

 ビッチはミモリの脚を心配して傷口を縛った布を取り替えた。止血は成されているが、傷口は痛々しい。

 

「歩けそうですの?」

「何とか…。左前肢分を杖で支えれば」

 

 松葉杖は廃オールを加工したやっつけ仕事だが、それでも彼女にとって嬉しかったと見えて、しきりに具合を確かめて、よいしょっと、歩いて見せる。

 杖も灰に埋まって難儀をしているが、どうにかバランスを取って歩けそうだ。

 

「松葉杖、有難うございます」

「俺はそれを加工しただけだ。礼は杖の制作を思いついた班長に言ってくれ」

 

 驚くミモリ。てっきりガリュートが発案したと思ったからだ。

 慌てて礼を言うと、彼女は手でそれを制して「当たり前の事をしただけですわ」とだけ述べ、ガリュートの方を向いて会話に入る。

 

「何も言わない所を見ると、成果は芳しい物ではなさそうですわね」

 

 先に行かせた偵察行だ。何かめぼしい物でもあれば、真っ先に報告するであろうからだ。

 副班長は無言で肯定すると、小枝を拾って火山灰の上に簡単な地図を描き出す。

 今の位置、そして走破してきた先の地形。

 

「未確認でしたが、少し上の山腹に山小屋らしき建物がありました。

 斜面を登らねばなりませんが、なにも入手出来ないよりはマシかと…」

「ボートを離れるのには抵抗を感じますけど、とにかく、水と食料の入手が先決ですわね。

 そうそう、その山小屋に覚えがありまして?」

 

 突然、自分に話題を振られて、ミモリは固まってしまった。

 言葉が咄嗟に出てこない。こんな時、悪役令嬢ならば「まぁ、どん臭い田舎娘ですわね!」とか思いっきり罵られて、侮蔑の高笑いされるシーンだと戦慄する。

 少なくとも、自分が愛読している軽文芸誌(若者向けの小説を載せている流行誌)ではそうだった。

 ああ、次号は今日到着する定期便で届く筈だったけど(本国とは一週間遅れ)、生きて再び読めるのかしら、と関係の無い思いが頭を駆け巡る。

 

「ミモリさん?」

「はっ、はいい。えと…その山小屋は非常待避用です。お姉ちゃんが話してました。それって外見が、目立つ赤で石造りだったでしょう?」

 

 万が一、登坂中に噴火があった場合、逃げ込む為の建物だと説明する。

 

「では、中に非常用の食料や飲料が備えられていますのね?」

「た、多分。お姉ちゃんの話だと…」

 

 ミモリはヤシクネーだけあって姉妹は多い。この場合、お姉ちゃんとは硫黄鉱山で働く、第22女のノリアン・ラマーヤの事だ。ちなみにミモリは第32女の末っ子だ。

 ミモリのフロリナ山関連の知識は、実を言えば、この姉が話してくれたこの受け売りである。ミモリ自身はこの山に足を踏み入れたのは今日が初めてだ。

 

「もし、火砕流に遇っても籠城していれば大丈夫との話でした。

 色々と凄い工夫がなされているとか…。御免なさい、お姉ちゃんは仕組みを色々説明してくれたんだけど、覚えてません」

 

 聞き流さなきゃ良かったと反省する。しかし、その話を聞いて海軍士官候補生達は安心した様で、「まぁ、とにかく行ってみるしかありませんわね」と呟いた後、慌ただしく、出発の準備を開始したのである。

 

             ◆       ◆       ◆

 

 ダニエルは高地に生存者を発見していた。

 かなり多い。ぎっしりと人混みが見える。丘の上に数百人は居そうである。

 

「おーい、ダニエル!」

「パカ・パカ、貴様、無事だったのかぁ」

 

 人混みの中、カッターを目にして叫んだのは同じ士官候補生のセントールだった。

 地震と津波の中、エロン・ホーフェンに帰還出来なかったメンバーの一人である。パカ・パカは一年生でこの実習航海に参加した唯一のセントール。別クラスながらダニエルとは知り合いだ。

 

「おうっ、死んでたまるか。

 それよりこっちには怪我人がかなり多い。聖句使いがいるなら回してくれ!」

「済まん。このカッターには乗っていない。他に士官候補生はそっちに居るのか?」

 

 カッターに搭乗しているのは第10班と第14班の混成チームだが、班長のビッチを欠いているので聖句使いは誰も居なかった。

 

「一応、サザンとガメルが居るな。昨日居酒屋で一緒に飲んでたんだ」

「ビッチとガリュートは?」

 

 パカ・パカは首を横に振った。

 ダニエルは肩を落とすが、今はやるべき事をやるだけだ。

 

「重傷者を運ぶのは死傷率を高めるだけだ。軽傷者を中心に移乗させよう。

 それから帰艦して軍医を連れて来る。お前達は済まんが、そこで統制を取ってくれ」

「分かった。まず、何人載せられる?」

「最初は十人程度だ」

 

 詰め込めば、この小舟でも50人は載せられるだろうが、流石に怪我人をぎゅう詰めで乗せる訳には行かない。

 

「了解した」

「擦り傷を負ったとかの軽い怪我人は後回しだ。元気だが骨折した奴とかを優先して選別しろよ。これから接岸するが、避難民をパニクらせるな」

「わーったって」

 

 秩序を失い、カッターへ人々が殺到する事態に備える。

 幸い、向こうに居る士官候補生達は理解しているらしく、人々を統制してちゃんと秩序を保ってくれている模様だ。

 時々、「俺を優先的に乗せろ」と目上視点で言ってくる奴。「幾ら欲しいんだ」とか金をちらつかせて、賄賂で買収しようとする奴も居るが、士官候補生は軍人だ。

 目先の金で一生を棒に振る訳には行かないのだ。

 それに殆どが貴族の子息。端金で買収される程、金に困っている奴も居ない。

 

「船が戻って来ましたな」

「うむ」

 

 艦長のエッケナー大佐が頷く。

 彼が言う船とはエロンホーフェンのカッターではない。

 港外に緊急待避していた他の船舶である。一夜明けて、母港へと戻ってきたのだ。

 

「他船へ手旗信号。『救難に協力求む』だ」

「了解。『救難に協力求む』」

 

 通信兵が復唱する。この措置は生存者を移乗させる為の手続きであった。

 流石に数百人も載せたのなら、この練習艦は避難民で溢れかえってしまう。少しでも分散させる必要があったし、地元の船舶の方が安心にも繋がるだろう。

 見える限り、商船から漁船を含めて大小七隻。とにかく次にカッターが帰還した時は、避難民は他の船に移乗させるべきであろう。

 

「こちらへ向かってる艦隊と連絡が付けばいいのだが…」

「竜が逃亡してしまいましたからね」

 

 デス・ルーゲンス少佐は付け加える。「それに竜に乗れるロートハイユ候補生が行方知れずです」と。竜が仮に戻って来ても騎手がいないのだ。

 

「宝の持ち腐れか」 

「残念ながら…。艦隊側が連絡を取ってくれるのを祈るばかりです」

 

             ◆       ◆       ◆

 

 斜面を登って行くのは骨が折れた。

 しかし、火山灰の積もっている地形であっても緑が皆無という訳ではなく、背が低いがあちこちに木々は生えている。

 火山地帯に対応した植物らしく、大地にしっかりと根付いており、良く見ると小さくて色とりどりの花が咲いていた。

 

「もし火砕流とかで燃えても、根は生き残るし、種を土中に散らして種としては生存するらしいですよ」

「へぇ。良く知ってるな」

「宿での観光案内のフレーズですけどね」

 

 ガリュートの質問にミモリは頭を掻いた。何でも、この島へ植物狩人なる学者がちょくちょく訪れるのだそうだ。

 で「珍しい植物はないか」と尋ねられると、この木々の事を説明するのだそうだ。正式名称は知らないが、通称『フロリナ樹』と呼ばれている。

 種は硬い殻で覆われており、殻はどんな高温にも耐えるだけの力があり、普段はびっちりと閉じて開かないが、一定の高温に晒された後にだけ、殻が外れて中身が出る特異な性質がある。

 

「生命サイクルに噴火が組み込まれているのですわね。

 一面の焼けた大地に種がまかれて、子孫が息吹くと…」

「この山は数年に一度は、噴火しますからね」

 

 まだ若いが、ミモリも噴火するフロリナ山を何度も目撃している。

 ただ、彼女が噴火と称しているのは火砕流を発生させる程の規模である。単に噴煙を上げるとかの小規模爆発はしょっちゅうで、島民にとって年中行事みたいな物であった。

 

「確かに赤いな」

 

 灰まみれではあったが、避難小屋は確かに赤く塗られていた。

 手で壁を拭ってみると、灰がぽろっと落ちて色鮮やかな赤い壁面が姿を現す。元々は耐火煉瓦なのだろうが、わざわざ目立つ赤土を混ぜて作られている。

 

「避難の際に目立つ為の工夫ですの?」

「かも知れませんね。でも、これだけ灰に覆われていたら無関係の様な…。

 よっと、ここが入口かな?」

 

 スライド式の石扉を発見すると、副班長は思いっきり引く。

 ごろごろと音を立てて入口が開いた。中は暗闇だが、すかさずビッチが【幻光】を唱えたので内部が照らし出される。

 先は地下へ続く階段だった。横幅がヒト三人分程もあるのは、横幅を取るヤシクネーが使う事を考慮している為だろう。

 

「入りましょう。ああ、ミモリ。最後に扉はきちんと閉めておいて下さいませ」

「あ、はい」

 

 石扉が再び閉まる。金属製の扉を使わないのは、これ自体が耐火扉を兼ねており、火山性の腐食物質に耐える為なのだろう。

 もし鉄か何を使っていたら、数年でぼろぼろになって役に立たなくなってしまうのだとビッチは推測する。

 良く見ると、入口と下へ続く階段の間に短い廊下があって側面に扉がある。これは単純に木製だ。

 そして表札があり、『貯蔵庫』との表示が掲げられていた。

 

「ありましたよ。食料です」

 

 寄り道して中を調べると、乾物中心だが食料が発見出来た。

 他に大工道具を始めとして色々な道具類もある。バケツと柄杓もあったのでビッチが拝借する。これから必要になるだろうからだ。

 

「乾果。干し肉に干し魚。それに乾パンか」

「絵に描いた様な船上メニューですわね。でも、虫に食われてないだけ、かなりマシと見るべきですわね。あ、蜂蜜発見ですわ」

「不味そう。これ、いつのですか?」

 

 ヤシクネー娘は気味悪がっているが、二人の士官候補生にとっては何となく慣れた食べ物である。ビッチは「安心なさい。推定でも一年以内の物ですわ」とミモリに声を掛ける。もっと古ければ、こんな物では済まないからだ。

 

「素晴らしいですわ。ちゃんと定期的に消耗品を補充している様ですわね」

「ええ、ミモリのお姉さんは優秀だ」

「えーと…」

 

 困惑するミモリだが、ビッチ達が賞賛するのには訳がある。

 と言うのも、大抵、非常用の備品は一旦補充されたら、誰も省みない事が多いのである。単に忘れ去られているのなら、まだいい。

 年に一度は交換、補充となっている場合でも、担当者がその分を懐に入れてポッケないないする腐った連中が実に多いからである。

 または非常備品を勝手に持ち出して、売ってしまう奴も珍しくない。そんな奴らと比較すれば、ミモリの姉である硫黄鉱山の職員は実に優秀だと言わざる得ない。

 

「さ、先に進みましょう」

 

 ミモリは松葉杖を持ち直し、貯蔵庫から出る事を提案した。

 

「広い。ここで行き止まりみたいですよ」

 

 階段を下ると広い部屋に出た。

 家具、粗末だが頑丈そうな椅子やテーブル類が置かれ、せせらぎを思わせる水音が聞こえてくる。ハンモックも吊してあった。

 

「水音は地下水脈ですね」

 

 部屋の隅に穴が開いており、そこに釣瓶が引っかかっている。

 水音はその穴の中から聞こえてくる。かなり下、闇の彼方に水脈が轟音を立てて流れているのだろう。

 

「ここから下へ桶を降ろして、水を確保する仕組みですか?」

「ああ、多分ね」

「水だけではなく、ここの水脈から空気も確保していますわね」

 

 この穴からは上昇気流も吹き上げていた。ここが仮に火山灰で完全に埋まったとしても、少なくとも窒息死の心配は無い訳だ。

 良く出来た待避壕だと感心する。溶岩流が直接ここを飲み込まない限り、大抵の事なら安心が確保可能なシェルターだろう。

 

「で、どうします班長?」

「暫く休んでから、水と食糧を確保して下山しましょう」

 

 ここが最終目的地ではない。

 あくまで水と食糧の確保の為に立ち寄っただけなのだから、彼女の判断は当然であった。ただ、暫くは休息が欲しかった。

 

             ◆       ◆       ◆

 

 ダニエルのカッターは高地との間を三往復していた。

 重傷者を手当後に運んだり、避難民を鈴なりに乗せて他の商船へと届けたりと忙しかったが、ようやくお役御免の時間がやって来た。

 

「カッター1号艇帰還しました。異常なし」

「ご苦労。交代要員に替われ、飯もまだだろう、食ってこい」

「はっ、ご配慮感謝します」 

 

 ダニエルは報告を終え、敬礼すると退出する。

 教官に言われてから気が付いたが、腹が減っている実感が湧いてきた。緊張の連続で空腹である事も忘れていた事に気が付く。

 昼飯はおろか、朝食も摂っていなかったのだなと苦笑する。

 

「班長、交代の第5班が来ました」

「そうか、引き継ぎ後は解散。あ、待て、第5班の連中にパカ・パカ、サザン、ガメルの飯を持って行ってやれ、と伝えろ」

 

 本来なら、真っ先に帰還すべき連中だが、未だあの高地で整理に当たっている同級生を思い浮かべる。人手が足りないからだが。

 ついでに「出来ればパカ・パカ達を本艦に戻して、第5班が治安維持スタッフになれ、とも伝えろ、カラット」と付け加える。

 

「了解」

 

 ここでパカ・パカ達が帰還出来るのかは知らない。第5班だって人手が足りているとは言えないのだ。が、少なくとも空腹で放って置くよりはマシだろう。

 船内へと入る。だが、ここもいつもの船内風景ではない。

 助けられた避難民達が、精も根も尽き果てた様に通路で雑魚寝している。ヒト種の数が相対的に少ないのも本土育ちであるダニエルには異様に思えた。

 

「あの…すみません」

 

 遠慮気味に声を掛けてくる女性が居た。

 一瞬、ぎょっとした。その女が魔族であるヤシクネーだったからだ。

 この航海を通じて、だいぶ慣れたつもりだったが、通路の暗がりの向こうからの不意打ちだ。緑地に白い斑点を散らした下半身は禍々しく見えた。

 

「何でしょう?」

「こんな事態にぶしつけなのですが…広い部屋に移してくれませんか?」

 

 何を言っているんだ。この女は?

 断ろうと一歩足を踏み出した時、腰の辺りに違和感を関して下を見る。

 いつの間にか取り付いたのか、小さな女の子が二人、腰を掴んで上目遣いにこっちを見ていた。

 

「お姉ちゃんに部屋を貸してあげて、産まれそうなの」

「お姉ちゃん、身体が変なの。もうすぐ、脱皮が始まっちゃうの」

 

 そう訴えてくるこの二人も下半身がヤシガニの、ヤシクネーの幼生体だ。

 濃いピンクの髪と薄いピンクの髪。ヤシガニ部分の体色は女性と同じで緑地に白の斑点だ。お姉ちゃんと言ってる所から、女性と姉妹なのかも知れない。

 しかし、耳が確かなら、今、とんでもない単語を聞いた気がする。

 産まれる?

 脱皮する?

 良く見ると、女性の腹部(上半身の方)はぷくりと膨れ上がっている。

 明らかに妊婦のお腹だった。

 

「ご、御免なさい。もう…、ああっ!」

「うわーっ」

 

 女性はへたり込むと両手で胸を抱え込み、ヤシガニの下半身を震わせる。

 幼女の一人は「お姉ちゃん」と叫んで駆け寄るが、もう一人はダニエルに「お部屋、早く」と訴えていた。

 ぱきぱきっと外骨格に亀裂が入り、女性の背中が割れ始めたのはその時だった。

 

             ◆       ◆       ◆

 

 暫く身体を休め、それから水筒を確保し、水を補充する。

 前夜に睡眠を取っていて、一番元気なミモリが「寝てて下さい。作業はあたしがやっておきます」と明言した。

 士官候補生達には疲労の限界に達しており、断る事無く、その言葉に甘える事にした。

 ハンモックではなく、敷物を敷いて床に身体を預ける形だったが、疲労からビッチ達は泥の様に眠ってしまったのだった。

 

「疲れているんですね」

 

 その様子にミモリは呟くと、音を立てない様にそっと水を汲んで水筒を満たす。

 簡単そうに見えるが、かなり手間を食ってしまった。

 終了後、次は松葉杖を使って階段を上がる。

 ひょこ、ひょことぎこちない動きではあるが、慣れもあって上手く操れる様になっており、カンテラを掲げて貯蔵庫へと歩を進める。

 

「あたしの脚、ちゃんと再生するのかなぁ」

 

 早く生えてくれれば良いなぁ、と思う。

 経験者の話によると、肉芽が段々と伸びてきて、まずは小さなミニ脚が形成され、脱皮と共に大きくなるのだとか。

 いつもの全身ではなく、部分脱皮と言って、脚だけ頻繁に脱皮を繰り返すらしいのだが、その間は再生した脚が痒くなるとの話だ。

 今、傷口の感じがズキズキより、ムズムズに変化しているのは、早くも再生が始まっているからだろうと推測する。

 

「死にたい位に凄く痒くなるぞ、って姉さんが脅していたから怖いんですよね」

 

 姉妹の第15女オルトルート・ラマーヤの言葉だ。彼女はクエスター家業なので荒事が多く、鋏や脚の末端を失う事もしばしばで、その言葉には実感がこもっている。

 

「みんな無事だと良いんだけど」

 

 残った家族の事を心配しつつも、階段を上がりきって貯蔵庫へ到着する。

 カンテラを置いて、梱包されていた箱から食料をずた袋へと詰める。

 干し肉や乾パンはともかく、干し魚はミモリとしては敬遠したい匂いで詰めたくなかったのだが、贅沢は言っていられない。

 せめて別の袋へ隔離するのが関の山であった。

 

「蜂蜜は持って行きましょう。ビッチ様が好きそうでしたし。

 あ、これはナツメヤシのジャム。あたしの好物ですから、当然携行しましょう」

 

 好みで取捨選択をするヤシクネー。種族的にも甘味は大好物である。

 三人分の装備を調えた後、再び貯蔵庫を出て廊下へ至る。その時、ふと、外の状況を確認しようかと思ったのが、彼女にとっての恐怖の始まりだった。

 ゴロゴロと扉をスライドする。

 

「きゃぁぁぁぁーっ!」

 

 その悲鳴にビッチとガリュートは目を覚ました。

 何が起こっているのかは分からないが、身体は反射的に反応し、武器を片手に飛び起きたのだった。

 

〈続く〉




軽文芸誌は、ミモリの愛読雑誌。
王国では識字率が高く、印刷技術も発明されて久しいので雑誌が商売になります。
但し、高価。ちょっとした雑誌が、小銀貨1、2枚(小銀貨は現代の価値換算で1枚が、だいたい千円)ほどですね。
だから、ミモリ達の様に数人の割り勘で買って、皆で回し読みが庶民の購読方。内容は若者向けのラノベ的な読み物です。当然、大人達からは余り良く思われてません。
悪役令嬢物が人気らしいです。

さて、悲鳴を上げるミモリが遭遇した物は?
そしてダニエルの方は脱皮&お産に遭遇。いや、どーなるんでしょうね(笑)。

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