エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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聖女編です。
〈閑話〉のネコ耳村はお休みさせて頂きます。


偽りの聖女15

〈エロエロンナ物語27〉

 

 正確には幽霊島で見た機器その物ではないわね。

 あれの特徴が混ざっている。そんな感じかしら?

 

「あー、そう言われればそんな感じだね♪」

 

 ユーリィ様も同意する。頭を捻るのはあの時、現場に居なかった黒根さんだけね。

 観察するけど、はっきり言って良く解らない。

 若干のスイッチ類が付いているから、何かを操作するんだって事は分かるけど、それがどんな働きをするんだかの想像は出来なかったわ。

 

 それらは機械装置に連動していないからよ。

 普通、機械ってのは操作系を動かせば何かを介して、その先に付いている装置を操作する物だと教わっているわ。

 レバーを操作したらロックが外れて、動力が伝達されたギアやロッド、チェーンとかが動き出す。時計なんかが典型例よね?

 でも、こいつは違う。魔導装置みたいに回路が組み込んであって、動かせば機械式の伝達機構を無視して作動すると思う。だから、何に繋がっているのかが全く予想が出来ない。

 下手に弄ると何が起きるのかが判らないわ。

 

「黒百合様。どうやら敵が扉の前に到達したみたいですよ」

 

 イブリンの声に皆がはっと扉の方を見る。

 やがて、物を叩き付ける重々しい音と共に扉がびりびりと震え出した。

 

「殴ってるね♪」

「酷い音ですね。さて、どうやら、エロコ様の予想は外れたみたいですね」

 

 まさか、ゴーレムが暴れ込む事はないだろうとの希望的観測ね。

 しかし、それに関してユーリィ様は首を振って「まだ分からないよ」と告げる。

 

「扉の破壊に留まる可能性はある。見た所、こいつは失ったら再建が困難な施設だからね。

 多分、そこから先はホムンクルスなりを突入させて来るだろうね」

 

 しかし、「無論、最悪の事態も覚悟すべきだろうけど」とも付け加える。

 ベラドンナにとって、この施設がどれだけ重要なのかの判断は、今の我々には判断が付かないからだ。もしかすると同じ様な施設が複数あって、一つを喪失した程度では屁とも思わないとかだって有り得るのであるから。

 

「まぁ、聖女様もどき程度だったら何とかする自信はある♪」

「それ以外の者が居ます。黒百合様」

 

 イブリンは手早く、黒衣の帝国将校の情報を伝えたわ。

 恐らく手練れ。あの魔剣は伊達ではないだろうとも。

 

「そんな奴が…。こりゃ参ったなぁ♪」

「でも、ユーリィ様の腕なら互角に戦えると思います」

 

 とあたしはフォローするが、本人は浮かない顔だ。

 魔剣の種類を聞いて、ますますしかめっ面になる。

 

「バスタード(破斬剣)か。正統派だね♪」

「帝国が良く使う片手半剣でしたね」

 

 今は無くしたあたしのカトラスもそうだけど、我が王国は昔、中原からの侵略を受けた影響で、剣よりも刀の方がどちらかと言えば普及しているわ。

 対して帝国は、古代王国からの流れを引いて今も剣が主流。もっとも、時代が下った現在は曖昧になって来ているけどね。

 王国人だってユーリィ様みたいにレイピアを使ったり、帝国人も騎兵隊は曲刀を使う者が多いから、傾向としてってだけに過ぎないのだけども。

 

「やられるつもりはないけど、下手に押しまくられると負けるな♪」

 

 ユーリィ様は気弱な事を言うけど、それには理由があると見ている。

 彼女が常々、「あたしの剣は所詮は小手先」と述べているのだが、それは実戦用の流派ではないと考えているからなのね。

 短時間での決闘や、せいぜい船上での白兵戦なら何とかなる。でも、本格的な陸戦みたいな戦場では、力に押し切られてしまうだろうと自覚しているらしいのよ。

 

 戦場では一対多は当たり前。そして剣ではなく、槍や槌、更に飛び道具も遠慮会釈なく襲いかかって来る。受けたら一撃で細剣が折れそうな、大剣や長柄武器を得意とする猛牛みたいな戦士だってごろごろしいるわ。

 幾ら剣技が優れていても、物理的にこれに対抗するのは骨が折れる。

 だけど、あたしはそれは彼女なりの謙遜よねと思っている。

 力の差を跳ね返す、それだけの実力があるのだ。

 

「親衛隊だとしたら、かなりの手練れだろうねぇ♪」

 

 ほら、言いながらも目が笑ってるわ。

 もしかすると、単に空元気なのかも知れないけどね。

 

「とにかく、この部屋の探索を開始しましょう」

 

 割れ鐘みたいな音が響く中、あたしは宣言した。

 出口が見付かればそこから脱出。行き止まりだったら、それはそれで何か使えるかも知れない材料を探す手掛かりを得たい。

 

「うわっ、これは何だろうね♪」

 

 機械類の裏側に回ったユーリィ様が素っ頓狂な声を上げた。

 その声の方向にあたしも向かうけど、すぅと意識が遠くなる。

 え?

 

              ◆       ◆       ◆

 

 グレタ教会。

 『闇』いや、王国の突然の申し入れに、聖教会側は戸惑っていた。

 

「それは、我が国の問題に介入する事になるが?」

「既に王国側も巻き込まれています。となれば、法国の法官派…、失礼、正確には大法官個人の立場で動く司教様に肩入れするのが、我が国にとって最善手であるとの判断であります」

 

 ローレルは淡々と述べた。

 グレスコ司教は「むぅ」と唸って、「それはギース王の判断か?」と問う。ローレルは「王、そして王妃様の判断です」と淀みなく答える。

 

「マドカ様。どうなっているのでしょうか?」

 

 話の大きさに付いていけなくなったルイザが、傍らの皇国人に疑問をぶつける。

 

「恐らくだけど。王国は聖女様がこのまま世を去るのが最善と判断したんでしょうね。

 聖女の権威を利用する勢力の駒として使われるよりは、このまま表舞台を去ってくれた方が、法国、そして王国他の他国に与える影響が最も少ないと考えて…」

 

 サラシに包まれた巨乳を揺らしながら、巫女装束の女司祭はそう答える。

 

「信じたのかね?」

「法官派の中で裏切り行為を働いていると、そうまで宣言したグレスコ司教の御言葉、重さが違うと感じますが」

 

 ローレルは言外に「グレスコ司教ともあろう者が、マドカらに嘘をつく様な人物ではあるまい」と語っている。

 大法官バークトルは無論、法官派のリーダーである。

 本来ならば自分の娘であるフローレよりも、自分の派閥の事を優先し、娘本当の性別を明かして〝男が聖句を使える事実〟を広く世間に知らしめ、聖句を独占している巫女派から権力を奪取するのが当然の話なのである。

 だが、聖女はそうなる前に父母の手によって密かに逃がされた。

 それでも邪教組織の様に聖女を狙う者、更に聖女を確保しようとする者も現れている。本来、グレスコ司教もこの聖女を確保する者の筈だった。

 

「表向き、聖女を確保すると見せ掛け、実は密かに聖女を逃がすのが目的。

 大法官様の側近でないとなかなか任せられぬ任務でしょうが、我が国と連携すれば、それも容易くなるとは思いませんか?」

 

 食えぬ男だ。とグレスコは目の前の若僧を見つめ直す。『闇』の高官であるとの話は本当の様だ。とも判断する。

 

「で、貴国が我が国に要求する見返りは?」

「今の所はありません」

 

 ローレルは営業スマイルを浮かべる。しかし、直後に「ただ…」と付け加える。

 

「…働きがあった事を心に留め置いて貰い、いつか、それに見合うお礼は期待しますよ」

 

 これは法国全体。大法官だけではなく、最高司祭に対しての言葉であろう。

 貸し一つか。高く付きそうだが、さて?

 断る事も無論可能だろう。しかし、ここでそれをして司教側に利があるのかと考えると、恐らくない。それ所か、以後の活動が妨害される可能性が高くなる。

 

「よかろう。宜しくお願いする」

「司教様」

 

 流石にマドカが声を掛けるが、グレスコはそれを手で制した。

 ここにローレルが来ているとなれば、それなりの手勢が教会周辺に配されている筈であろう。身一つで、のこのこと現れる訳はないのだ。

 既に此処は敵地。軍が動いている可能性すらある。踏み込まれ、スパイとして捕らえられたとしても不思議ではないのだ。断ったら、何をされるのか判った物ではない。

 利と不利を天秤に掛けて、グレスコ司教はローレルに頭を下げたのだった。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 意識を目覚めさせる。

 エロコが起きている間は干渉をしないつもりであったが、これは見過ごせない状況だ。

 この機械群…。明らかにメライシャンの物だけじゃ無い。

 うわっ、我が帝国の物や、ヴィオリアンの代物まで混じってるぞ。

 エロコの評する通り、ベラドンナと言うのが優れた天才的な錬金術師であるのは理解出来た。

 全く違うテクノロジー三つを融合し、更に魔導的な技術で補っている。

 まともに動くのかどうかは知らないが、それでも大した物だと感心する。

 

「これって…生きてるの?」

 

 どぅーん、どぅーんと心臓の鼓動にも似た音を出し、肺の様に膨らんだり萎んだりする器官を見詰めて、イブリンが不気味がる。

 ヴィオリアン。

 つまり奴らの技術は、生体メカだ。

 人工的に培養した生体組織を組み合わせてメカを作る。いや、作ると言うより産み出すに近いか。

 生きていると称しても間違いでは無い。

 

 ヴィオリアンの技術は呪術学。科学では理解不可能な法則で組み立てられている。

 巫女(エリルラ)を擁する我々も半ばそっち方面にも理解があるが、連中の技術は極北まで行ってしまっているので、最終的には理解不能な点が多い。

 邪教の儀式みたいな手順で、化け物みたいな異形のデバイスを創造する。

 だって機械が生きてるとか、出産して増えるとか、訳が分からないし、概して形はグロいから生理的嫌悪感をも催すのだ。

 精神面の低い種族なら、目にしただけでも発狂してしまうだろう。

 

 理解不能に近いけど、観察はしてみる。

 伊達に巫女になる前は技術将校だった訳ではないのだ。

 え…時間。そして空間を歪める?

 

『これは…パラレルード(空間門)か』

 

 まさか、まさか…。そんな事が可能なのか。では、偽聖女の正体は?

 

              ◆       ◆       ◆

 

 ベラドンナは数名の連れと共に、現場へと赴いていた。

 こんな時、アジトのシステムが完璧だったらと悔やむが、それは現状では仕方が無い。

 完成してから約半世紀。あちこちにガタが来ているし、重要ではないと判断した区画は放置して省みなかったからである。

 牢を含む、監禁場所も本来なら監視の目が光っていた筈だったし、牢番となるホムンクルスの一体も配備していたのだろうが、研究を優先してメンテナンスは後回しにされていたからだ。

 

「新たな侵入者共と、合流したみたいだな」

 

 帝国の黒衣が呟く。

 

「どうなさるおつもりで?」

 

 こちらは法国の禿げ。ボリスとか言ったか、この先に籠城している娘の一人が聖女らしき女と知れば、目の色が変わるのであろうが、それを告げる義理はベラドンナにはない。

 ベラドンナ自身は数体の護衛を引き連れて、「問題ない」との返答後は、ストーンゴーレムが叩き続けている扉をじっと見詰めていた。

 

「しかし、ゴーレムに許されるのは扉破壊までになりましょうな」

「ほぅ、どうしてそう思う?」

 

 ババッブマンの言葉尻を捉えて、黒衣の将校は質問する。

 

「あの扉の向こうに何があるか、それを考えればやたらの破壊が許されないからですよ」

「貴様には判るのか?」

「これでも法国の神官ですぞ。聖句は使えぬにせよ、他の魔法の心得はあります故」

「【魔力探知】の魔法か」

 

 それが魔法装置の反応かと黒衣の男は納得する。

 確かに繊細で、恐らく代替が利かぬ貴重な装置であるならば、ただ単に暴れ回るしか能の無い、あの石塊人形では手は余ろう。

 

「俺の手が要るか、魔女よ?」

 

 帝国の男はロリ婆に申し出る。

 

「手を貸して貰えると有り難いの」

 

 意外な事に、錬金術師は首を縦に振ってその申し出を受け入れた。

 しかし、前提として「中の装置を極力壊さずに賊を捕らえてくれると助かる」とも追加したが。

 

「帝国も研究が遅滞したら困るであろう?」

「それは同意する」

「なら、上手くやって貰おう。こちらの人形では、残念ながら賊の腕には叶わぬ様なのでのぅ」

 

 並以上の暗殺術は仕込んであった筈なのであるが、侵入した賊は手練れで、こちらのホムンクルスを五体程葬り去っている。

 この黒衣の将校なら、そいつとも渡り合えるだろうとの目算だ。

 

「了解した」

「うむ、そろそろ耐久度も限界じゃろう」

 

 分厚い金属製の扉は、ゴーレムパンチによってぼこぼこに歪んでいた。

 

              ◆       ◆       ◆

 

「どうしました。ぼーっとして?」

 

 黒根さんが語りかけてきた。

 思ったよりも若くて可愛い声ね。

 

「えっと、ちょっと頭に霞が掛かった様な…」

 

 グランワイデ(正規空母)の艦橋に居た時以来よね。あの時は初任務だったから、って。

 あれ? 何、この知識と記憶。

 

「読める…。メライズ文字…かしら」

 

 メモ書きの様な物を発見して一瞥する。

 空間を焦点に合わせて時間軸を固定。

 対象を同調させ、一気にレプリケーション。これって空間転送の原理だわ。

 違うのは、対象が同一時間軸に存在しない対象である事よ。

 これって、時間観測機器?

 エリルラの過去見を機械的に引き起こす装置だ。ちょっ、奴らはそんな技術まで実用化してるの。

 でも、エリルラの巫力無しでこれを稼働させるのって、物凄いエネルギーロスよ。

 

「見た所、次元反応炉は無いみたいだし、これを作動させるのにはかなりの時間が…」

「エロコ様。エロコ様」

 

 ガクガクとイブリンに身体を揺すられる。

 あたしは、はっとなってイブリンの方に振り返ったわ。と、その途端、今まで明確に頭の中にあった概念とかがあっさりと消えて行く。

 えーと、あたし、何を話してたのかな?

 

「あ、イブリン」

「大丈夫ですか。何か熱に浮かれていたみたいに」

「この機械の使用目的が分かった気がしたのよ」

 

 分かった気がした。と言うか、さっきまでは理解していた。

 でも、あたしの意識がこちらに引き戻された途端、明確に理解していた筈のそれがぼやけ、何を掴んでいたのかが、全く判らなくなった。

 これって、もう一人のあたしの知識だ。

 

「これは異界の物よ。多分、あたし達の世界の産物じゃない」

 

 それだけ答えるのが精一杯だった。

 時間と空間がどうとか言ってた気もするけど、残念ながらそれが何であったのかは理解出来ない。

 空間魔法はともかく、時間魔法?

 王立魔導学院で研究中だって噂なら耳にした事はある。でも、研究が行き詰まり、殆ど進んでいないとか、それを引き起こす装置なのか…。

 

「さて、どっかに出口は無いかしらね」

 

 あたしはイブリンに返すと、部屋の中を再び探索し始める。

 凄い不気味な物だらけよね。心臓の様に鼓動する訳の分からない器官(機械なんだろうけど、どう見たって何かの生き物の内臓にしかみえないもん)。

 出鱈目に、それでいて規則的に蜘蛛の巣状に張り巡らされた幾何学模様が、脈打ちながら壁中を這い回ってる。

 と同時に、どうやって作ったのか判らないけど、金属製のコンソールなんかが組み合わさっている。第10002空間工廠製か、何か懐かしい感じがする。

 

 違和感。

 え、ええっ、文字が読める?

 メライズ文字もそうだけど、この未知の文字、リグノーアリアを理解してるのよ!

 

『それは、今、私の意識が混ざってるからだよ』

『誰?』

 

 それは唐突だったわ。

 頭の中で誰かが、あたしに語りかけて来たからよ。

 

『私の名は…。いや、昔の名はどうでもいいか、エロコ、お前だよ』

『エリルラ?』

『確かに巫女だな。時間が無い。説明は後だ。良ーく聞いて欲しい』

 

 意識を明け渡せ。

 彼女が要求したのはそれよ。端折った説明によると、今みたいに二つの意識が同時に働いていると、脳が容量不足でパンクしかねないらしいのね。

 彼女が言うには、まだ向こうの意識の半分にも満たない状態で、身体の支配権を獲得していないけど、この段階でも充分危険らしいの。意識がもうろうとしてたのは、その副作用ね。

 だから、いつもは潜在意識下で成り行きを見てるだけだけど、今の状況は拙すぎるらしいから起きた。強制的に乗っ取るのも可能だけど、『それでは納得すまい』との提案だった

 意識を手放して眠れば、彼女の力で何とかしてくれるらしい。

 

『何とかなるの?』

『試してみたい事がある。それが正解ならば、恐らく危機から脱せるだろう』

 

 どうしよう。あたしは躊躇ったわ。

 でも、八方塞がりならば賭けてみるしかないとの結論に達する。

 

『いいわ。賭けてみましょう』

『助かる。これから意識を眠らせる。気が遠くなるが、任せて欲しい』

 

 すうっと身体の感覚が抜けて、あたしは白い闇の中へと落ちていったわ。

 

              ◆       ◆       ◆

 

「こりゃ、拙いね♪」

 

 壊された扉が、金属のきしむ耳障りな音と共にこじ開けられて行く様を目にしたユーリィが呟く。

 

「黒百合様」

「あんたも戦うんだよ。主敵はあたいが何とかするから、雑魚を防げ♪」

 

 クローネに指示を与えて、子爵令嬢は改めて細剣を構えた。

 話に聞いた黒衣の男が目に入る。見かけ倒しなら良かったのにと期待していたが、こいつは本物の武人らしい。

 魔剣だろう剣は抜刀されてはいないが、雰囲気だけでその強さは大体判る。

 その後ろからは例の聖女もどきが数名続く。

 

「奴もそれなりに強そうだからなぁ♪」

 

 ホムンクルスだけあって動きが単調で、精錬された暗殺術を教育されているのだろうが、どことなく機械的なパターンを持っているのだ。見切れればそれ程怖くないが、クローネの手には余るかも知れない。

 

「何をなさっているのです」

 

 後ろからそんな声が飛んでくる。

 イブリンだ。となると問いかけている相手はエロコか。

 ぶぅぅん、と言う変な機械音が高まった。先程から低く響いていた魔導装置の音である。

 

「これと、これか。この光景は何処を表してるのかしらね?」

「これは聖都の生家ですよ!」

「イブリンのおうちね。ふん、となるとやはり…」

 

 後ろでごちゃごちゃと会話がなされている。

 まだ、黒衣の将校がこちらに接敵するタイミングではないと見計らって、ユーリィはチラリと後ろを一瞥した。

 

 エロコが何やら機械装置に取り付いて操作している。

 平板な硝子板みたいな物にはどこかの光景が映っていた。高級そうな調度に囲まれた私室っぽい部屋。貴族の館か何かだろう。

 ぱちぱちと幾つかのスイッチを入れ、ダイヤルを回す。

 

「そなた、何をやっておるのじゃ!」

 

 悲鳴にも近い声を上げたのはロリ婆、ベラドンナ。

 

「貴女様は!」

 

 同時に声を上げたのはボリス・ババップマンだ。こちらは初めて見る、イブリンの素顔に驚愕している様子である。

 

「パラレルードを作動させている。済まないが貯め込んでいたエネルギーはこれで使い果たされるだろう。お前の研究は遅れると思うが、ま、悪く思わないでくれ」

 

 答えるエロコ。途端に部屋の片隅にあった床が輝き出した。

 

『雰囲気が違う。これはエリルラの方だね』

 

 ユーリィはそう判断して、意識を前方の敵へと再び向けた。

 相手はすらりと抜刀し、いつでも襲いかかれる姿勢である。ゴーレムの奴は事前の予想通り、部屋の外に留まっているらしい。少し肩の荷が下りる。

 

「皆、あの床の所へ集まってくれ」

 

 エロコが叫ぶ。

 え、と思う。床になってる場所は小部屋風になっており、壁とか床ははっきり言ってグロくて得体の知れない物質に覆われた場所だからだ。

 肉質で血管みたいな物が表面に走ってるし、部屋自体が脈動し始めてるし…。

 

「早く!」

 

 再び促される。ユーリィは剣を構えながら、じりじりと後退して部屋に達する。

 イブリンは素直に従ったみたいだ。

 しかし、クローネは躊躇している。だって怪物の胃袋と言うか、邪教の小部屋みたいな代物だ。普通の神経をしてる女性ならば近寄りたくもないだろう。

 

「くっ」

「いかん、捕らえるのじゃ!」

 

 エロコが身を翻したのと、ベラドンナが命令を発したのがほぼ同時であった。

 クローネの襟首を捕まえて、飛び込む様に部屋に転がり込むと同時に装置が作動した。

 

「おおっ」

 

 それが誰の声だったのかは判らない。

 部屋の輝きは消え、ベラドンナたちの目前から一行は消えていたのであった。

 

〈続く〉




どうでも良い裏話。
えーと、生体メカ描写に付きましては『クト〇ルフ』に出てきそうな化け物の器官が並んでいるとでも解釈して下さい。
或いは『ゴ〇ショーグン』小説版の海の惑星か、総〇Zの胎内ですかね?


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