エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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偽りの聖女編をお届けします。
〈閑話〉や『エロエロナ』ばっかりで後回しになっていましたが、難産でした。
筆が進まないんですよね。
いや、正確には書いては没にし、書いては没にし、の繰り返し。
プロットでは幾つかの分岐があったのですが、最終的にこのルートになりました。

お楽しみ下さい。


偽りの聖女14

〈閑話〉ウサ耳島13

 

 私掠船は沖に待機となった。

 とは言うものの、アル・ファランの港から追っ手が出てくる恐れがある為、その監視の為に港門を監視出来る位置に留まる必要があった。

 セドナは警戒の為、不寝番を立てて監視を命令していた。

 

「ご苦労にゃ」

 

 船首で見張りに立っているニナへ、リーミンが声を掛けた。

 両手に持っているココナッツの実の一つを放り投げる。突然でニナは実を取り落としそうになるが、何とかキャッチしてリーミンを睨む。

 

「危ないじゃないか」

「にゃははは、その程度の運動神経が無きゃ、私掠船員なんぞやってられないにゃ」

 

 リーミンは腰の短剣を抜く。

 長い刀身をココナツの実に当ててコンコン叩き、器用に穴を貫通させると中身のココナツジュースを美味そうに飲み干した。

 

「お前も飲むにゃ」

「ナイフが無い」

 

 剣はあるがニナはナイフを所持していなかった。

 リーミンは自分の短剣を差し出す。

 移乗戦闘用のポーティングナイフと呼ばれる短剣で、細身の刀身が長く、同じく長い柄が付いていて扱いにくそうな形状をしている。

 かなり使い込まれている様子で、柄なんかは手沢で黒光りしている。

 

「そいつを貸すにゃ」

「使いづらいな」

「元々、ポーティングスピア(移乗戦用槍)の柄を短くした代物にゃから、生活用ナイフとしての機能はあんまり考えられてないにゃ」

 

 リーミンは、その全長60センチ程の得物をニナの手に握らせた。

 

「これを普通のナイフの様に扱える様になれば、お前も立派な船乗りにゃ」

「そうなのか?」

 

 半分嘘だ。船乗りだって普通使いにはもっと扱い易い短剣を使う。

 私掠船の船員や海軍の将兵なんかの一部には、この使いづらい短剣を器用に扱えるのがステータスシンボルになっている所もあるが、それは単なる見栄だろう。

 しかし、リーミンには考えがあって平然と嘘を突き通した。

 

「うん。お前にこれを貸与するから、しっかり使いこなすにゃ」

「分かった」

 

 リーミンに押しつけられた鞘と共に、短剣はニナの物となる。

 まず『第一段階はクリア』とリーミンはほっとする。以前から危惧していたのだが、ニナの所持する剣は子供には大きすぎて扱いにくい。

 だから、この短剣を与えて戦技を習得させるつもりであったのだ。

 ニナの事だ。「これを使いこなせ」と課題を与えれば、意地になっても扱いを習得しようとするだろう。それでいい。

 

「なぁ、ニナはやはり戦士になりたいのかにゃ?」

 

 不器用にココナッツの中天に穴を開け始めたニナへ、リーミンが不意に問うた。

 

「何を今更…」

「戦士とはカッコイイだけじゃナイにゃ。そんな中途半端な憧れだけじゃ、やって行けないにゃ」

 

 ネコ耳族は続ける。「今なら、まだ平穏な世界へ引き返せる」と。

 戦士の仕事はどんな理由を付けようが、最終的には人間(亜人を含む)を殺す事だ。それが動物やモンスターを相手にする、ハンター(猟師)やクエスター(冒険者)との違いだと。

 無論、クエスターだって対人専門の賞金稼ぎだって居るだろう。

 しかし、それを差し置いても、戦士とは人殺し家業なのだと告げるリーミン。

 

「でも、私掠船乗りだって人殺しの海賊だろ?」

 

 国から免状を貰っていても、襲われる方から見れば海賊には違いない。

 

「否定は出来ないにゃ…」

 

 リーミンは肯定する。しかし…。

 

「普通、襲った船の全員を皆殺しにする私掠船は居ないにゃ。

 抵抗すれば当然排除するけど、一旦、趨勢が決まれば、捕虜にして身代金を取るか、または有り金と積荷だけを奪って解放するのが基本だにゃ」

「でも、あたしの村を襲った連中は!」

「外道にゃ。だから、御館様はこうして討伐をして下さっているにゃ」

 

 私掠船は相手に一定以上の被害をもたらすのを嫌う。

 それは「狩り場が危険だと分かれば、獲物が逃げて行ってしまう」為である。対象が全く海域を通らなくなったら、こちらが日干しになってしまうからだ。

 だから、根こそぎ相手から奪う事をせず、損害が出ても致命的な結果を起こさぬ様に注意を払う。

 例えば、船を沈めてしまえば船主は廃業してしまう。それではこちらの実入りになる収入源を根こそぎ絶つと言う事で、長い目で見れば本末転倒になる。

 

「私掠船は、そんなバランスを考えて営業してるにゃ」

「毎日卵を産む鶏を絞め殺したら、肉は美味いが、明日から卵は食えなくなる。なのか」

「その通り、ニナは偉いにゃ」

 

 但し、例外は国家間が戦争状態になった時だ。

 交戦国籍の船は問答無用な拿捕される。これは被害をもたらして、交戦国の国力を削ぐ為なので容赦が無い。

 幸い、幾つかの国境紛争を通じて緊張状態に放った事はあるが、過去約二世紀、第三次マーダー大戦以来、国家間戦争は起きておらず、これは半ば死文化された規定になっていた。

 

 だが、私掠船以外の海賊には、先程までの仁義は通用しない。

 手っ取り早く稼ぐ、急ぎ働きをする連中が多いのだ。

 そんな掟破りを取り締まるのも、正当な私掠船の役目になる。

 

「人殺しは…知らない方がイイにゃよ」

 

 リーミンがぽんと肩を叩く。

 ニナが何か答えようとする前に、ネコ耳族は船首楼の階段を降りて行ってしまったのだった。

 

〈続く〉

 

 

〈エロエロンナ物語26〉

 

 飛び込んで来たユーリィ様は、あたしの声と姿を見て立ち止まったわ。

 

「エロコ!」

「どうして此処に、やっぱり…貴女は」

 

 その間にイブリンが立ち上がって反撃体制を作るけど、相手が知り合いだと判ると攻撃を中止するわ。代わりに聖句を唱えて自分の怪我を治癒する。

 

「え、えーと…。これは」

「ユーリィ様が『闇』の一員である事は、私もエロコもとっくに気が付いてますよ」

 

 そうなのだ。

 誤魔化しはあったし、あたしも事情があるからだと察して積極的に尋ねるのは避けていたけど、彼女が『闇』から派遣されて来た存在であるのは、薄々気が付いている。

 だって、じゃなきゃ、こんな国外までやって来る訳ないもんね。

 どんな手を使ったのかは知らないけれど。

 

「とにかく、こっちの方は何者ですか?」

「っと、ああ、一応味方…って、あんた本物だったんだ」

 

 最初に殴られて、ぶっ倒された小柄な人を指摘するイブリン。

 ぴんと立った耳が特徴的だから、ネコ耳族かしらね?

 

「クローネっ、クローネっ、全く…」

 

 その小柄な女性(よね? 多分)に声を掛けるユーリィ様。

 あたしは警戒しつつ、扉の方に近寄って外を観察したわ。外の方で剣戟の音があったって事は、確実にユーリィ様を追う敵が居る筈だもの。

 

「一応、追撃者は倒したよ。見える範囲のね♪」

「逆説的に言えば、見える範囲外の奴らがやって来るという話ですね?」

「そー言う事。聖女様♪」

 

 やはり、イブリンの正体に気が付いてるわね。

 扉の外を眺めた範囲内では敵らしき影は無いけど、ベラドンナの事だ、どんな相手を繰り出してくるのか分かったもんじゃ無いわ。

 あたしは「此処に立て籠もるのは駄目だわ。打って出ましょう」と告げる。

 

「賛成♪」

「どの道、この部屋は行き止まりですからね」

 

 気絶している一人を除いて意見の一致を見たわね。

 あたしは素早く脱出の準備を整えたわ。あの喧しい警報は、既に止まっている。

 と言う事は、敵は既に次の手を繰り出す前触れよね。先手を打たねばやられるわ。

 

「行きましょう」

 

              ◆       ◆       ◆

 

 神との誓いは受け入れられた。

 グレスコ司教は割合あっさりとそれを認めたのであった。

 

「では、宜しいか?」

「私達の分かる範囲ですが…」

 

 マドカの話はここへ現れた聖女が偽者であり、突然、跡形も残さずに消えた事実を伝えるのみであった。

 

「但し、偽者とは思えぬ所もあります」

「ほぅ」

「彼女は【蘇生】級の聖句を行使した。と言っても信じられますか?」

「何と!」

 

 グレスコは驚愕した。

 そんな聖句を使いこなせる者は数少ない。グレスコ個人が知る限り、数名しか知らず、実際に使っている者を見たのは、先代の最高司祭と聖女フローレ様だけだ。

 それが偽者であろうが、なかろうが、それだけで貴重な人材であると言える。

 

「それが本当だとすれば…、いや、マドカ司祭の言葉を疑っている訳ではない」

 

 誓いの上の言葉であるのなら、これは事実なのであろう。

 しかし、グレスコはある事を思い当たる。

 偽者だろうが本物と同じ力を有すなら、それを政治的に利用する者にとって、それは本物と成り得るのだ、と。

 

「恐ろしい事だ」

「こちらからの質問は宜しいでしょうか?」

 

 マドカの言葉に、グレスコは衝撃から我に返る。

 

「うむ」

「大法官バークトル様は、聖女様をどの様に扱う気なのですか?」

 

 沈黙。しかし、ややあって司教は口を開いた。

 

「大法官様個人としては、表向きは病死にしたいと仰っておる」

「個人以外の公的な立場では?」

 

 レオナの突っ込みにグレスコは眉を顰める。

 しかし、観念した様に「無論、聖都への帰還である」と告げた。

 

「聖女としての任務に復帰し、公務に就いて貰いたいが表向きの理由。

 だが…、これは最高機密だが敢えて話そう」

 

 じじっ、と照明のカンテラが芯の燃える音を立てる。

 

「フローレ様は聖女だが、男性なのですよ」

 

              ◆       ◆       ◆

 

 クローネを何とか気絶から立ち直らせ、得物を確認するとユーリィは先頭を切って部屋の外へと飛び出した。

 聖女様もどき、声も無く襲って来る人形の様な刺客を既に五人程倒している。

 ユーリィの細剣は、世間的には名剣と言われるにふさわしい逸品ではあるが、魔剣の類いでは無い只の出来の良い武器に過ぎない。

 

『保てば良いけどね』

 

 剣戟で五人も相手に斬りまくったのだ。結構な割合で受けとかもしている。

 無論、刃では無く、剣の腹で受けてダメージは最小限に留めてはいるのだが、そろそろガタが来てもおかしくない。

 

「黒百合様」

「その名は禁句」

 

 クローネの言葉にユーリィが応える。

 エロコが「黒百合様?」と尋ねて来る。ああ、だから禁句にしたのにと頭をかきむしりたくなるが、右手が剣で塞がってるので自由な左手を使う訳にも行かない。

 こんな時は何時、何が起きても対応しなければならないのだ。

 片手はそれに備えて開けておくのが基本になる。太股に仕込んだ投擲短剣(スティレット)を投げたり、咄嗟に顔を庇ったりする為にも。

 

「あたしのコードネーム♪」

「『闇』の?」

「そう。馬鹿正直にユーリィ・リリカって名乗れないでしょ♪」

 

 エロコは『ああ、納得』とでも言う様に首を縦に振る。黒い衣装に流れる様な金髪。それがユーリィだから、〝黒百合〟と称されても妥当な線だからである。

 

『コードネームの変更を申請しよう』

 

 と内心思ったが、既に学友に正体は知られてしまって居るのに気付き、彼女はこれを打ち消した。それならばいっそと「だから、これからは本名じゃ無くて黒百合って呼んで♪」等と伝えてみる。

 

「了解したわ」

「助かる♪ さて、エロコ、あたしらは元来た道を戻りたくは無いんだけど…」

「訳ありなの?」

「正面突破するのに難しそうな敵が居るんです」

 

 横合いから口を挟むのはクローネ。

 聖女様もどきはそれなり手強かったが、まだ、普通の人間レベルの敵であった。

 例えホムンクルスであろうとも、剣で斬れば当然死ぬ。

 しかし、その後衛に現れたのは命をも持たぬ魔導人形、ゴーレムだった。

 

「ゴーレムまで持ってるの。ベラドンナは!」

「でかいストーンゴーレム(石巨人)だったわよ。動きが鈍いのが幸いして、足の速さを生かして何とか引き離したけどね♪」

 

 実際、厄介な相手だ。

 あの手の敵は剣が通用しない。鉄塊みたいな大剣でも用いれば通用するのかもだが、普通は石に対して斬り掛かったも効果は薄いし、こちらの得物が折れるのが関の山である。

 数は一体だが、屋内の通路で通せんぼしてるので脇をすり抜けるのは至難の業。

 そして奴の腕の一振りは何処にでも届きそうだし、食らったら良くて戦闘不能。悪くすれば一発であの世行きだ。

 

「でも、この先は何処へ通じているか確かめていませんよ」

 

 イブリンが言う。

 しかし、戻ったら確実に死あるのみである。今の戦力ではまともにぶつかってストーンゴーレムに打ち勝つ事は出来そうも無い。

 ユーリィとクローネのみでなら、まだやり様は有るのだが、密偵以外の二人を引き連れての脱出行ではリスクが高すぎるのである。

 

「専門家が言うんだから、ここは黒百合様の言葉に従いましょう」

「おっ、助かるね♪」

 

 エロコの決断が入った。

 

「時間もなさそうですしね」

 

 決断には訳がある。微かな振動と共にぱらぱらと天井から埃が落ちて来たのだ。

 そしてずーん、ずーんと遠くからの足音が響いていた。

 

              ◆       ◆       ◆

 

「…そこまで話しますか」

 

 いきなり第三者の声がグレタ教会内に響いた。

 マドカ達がはっと身構える。聞き覚えのある声だ。

 

「失礼。我が名はローレル」

 

 部屋の暗闇からぬっと姿を現したのは、忘れもしない『闇』の重鎮であった。

 グレスコ司教は大きな身体を揺らしてローレルに相対する。自然体であるが、その身に纏うのは闘気。いつでも武器を抜ける様に準備している。

 

「初めまして。法国のグレスコ司教ですね」。

「何者であるか?」

 

 司教の問いに答えたのはルイザ。「グラン王国諜報部隊『闇』の幹部です」と。

 ローレルは優雅に一礼する。

 グレスコは相手をどう扱ったら良いのか、まだ判断が付かない。しかし、ここで事を大きくする訳には行かない。相手は大国の国家機関なのである。

 

「さて、お話の途中ですが、私もグラン王国の政治に関与する一員として話に加わっても宜しいでしょうかね?」

 

 ローレルの表情は穏やかだが、その目は笑っていない。

 

「我が国に現れた聖女様の扱いに関しては、陛下と王妃様のご意向もあります」

「意向とな?」

「はい。偽聖女を含めて、でありますが」

 

 司教は『グラン王国のギース王まで話が行っているのか』、とほぞを噛む。

 国際問題に発展する前に収めたかったのだが、当てが外れた様だ。

 

「どの様な方針なのか、話を聞きたいが構わぬかな?」

「はい。司教閣下が先程仰っていた、大法官様の方針に沿うのであれば…」

 

 ローレルは言葉を一旦切って、周囲を見回す。

 大法官の方針。バークトルの『表向きは病死』案である。

 

「我が国としても、それに協力する事はやぶさかではありません」

 

              ◆       ◆       ◆

 

 あたし達は先に進んだわ。

 廊下の先の光景は相変わらず、殺風景な通路と整備もろくにされていない照明器具。

 幾つかは壊れてて、灯火も無かったわね。

 

「【魔力探知】を唱える暇も無いわね」

 

 前に発動した分はとっくの昔に切れてしまっていたわ。ある意味、あたしが使える唯一の切り札的な呪文なのに情けない。

 精度を持った高めて、持続時間を延長したい。せめて六級程度までは!

 

「ユーリ…黒百合様、あたしの代わりに」

「無理♪ あたしの方も唱える暇も魔力も無い」

 

 恐らく、魔力を温存しているのだろうと推察出来たわ。

 敵対的な魔法に対して、保有魔力が低いと抵抗値が落ちて危険だからよ。

 あたしの場合、皮肉な事に保有魔力は物凄く多いらしいのよね。常人の数倍。三級以上の魔導士に匹敵するらしくて、抵抗値は無茶苦茶高いのよ。

 魔力があっても精度が低いから、魔法行使にはあんまり役に立たないけどさ。

 

「走るな。走ると体力を消耗するぞ。黒根♪」

 

 黒百合様が注意を促すのが、多分、『闇』の密偵だろう黒根さん。

 小柄な女の子だと思うけど、顔は覆面で隠れてるから良く分からない。しかし、ユーリィチームは『黒』でコードネームを統一したのかしらね?

 

 因みにユーリィ様(面倒だから元へ戻すわよ)が注意したのは、追っ手である敵ゴーレムの移動速度が低い為。

 全力疾走しなくとも早歩きで距離を稼げるから、後に備えて力を温存する策よ。

 

「正面に扉です」

 

 イブリンが叫ぶ。とうとう廊下の突き当たりに到達したわ。

 大きな扉だ。やはり耳を澄ませば、魔導装置が奏でる低い唸りが聞こえる。

 

「此処が行き止まりなら、籠城するしか無いな♪」

「魔導装置があるのだから、ゴーレムも内部破壊を恐れて、無闇に暴れられないかも知れないわね」

 

 とあたしは述べたけど、勿論、これは希望的な観測。

 あのロリ婆が本気になったら、何をやるのかは想像付かないからね。

 

「問題は扉に鍵が掛かってないかですね」

 

 イブリンの言う通りだ。しかし、扉にはちょこんと鍵穴がある。

 

「魔導的な奴なら駄目だけど…。黒根、解錠♪」

「はいっ」

 

 黒根さんが取り付き、何やら道具を出してガチャガチャと鍵穴を弄り出す。

 しかし、その間にずーん、ずーんとの足音はいよいよ大きくなって来て、あたしの肉眼でもシルエットが捕らえられるまでになっていた。

 

 やだ、でかい。

 真に岩だ。茶色いごつごつした上半身と、灰色の下半身が合体している。

 あら、岩の種類が違うのかしらね? 

 明らかに下半身の方が火成岩的な硬質そうな岩で、上は逆に凝灰岩系柔らかそうな感じだ。

 上半身は腕を武器に使う為に敢えて柔軟性のある岩を選び、下半身は敵の攻撃を受けるのを想定して、動きは鈍くなるけど堅固な岩で形成してるんだ。

 まぁ、そのお陰で足の歩みも鈍いんだろうけどね。

 技術者と言うか、錬金術師的な目から見ると上手く出来てるなと感心するわね。

 

「開きましたっ!」

 

 扉の解錠に成功したみたい。快哉の声が上がる。

 あたし達はその内側に飛び込むと、直ちに扉を閉めて施錠したわ。

 

「な、何だ。ここは?」

 

 あたしはその言葉に振り向く。イブリンが絶句しているの?

 御免。あたしも絶句した。

 

「な…に?」

 

 改めて扉の内側。その内部の光景が余りにも異様な物で埋め尽くされていた。

 硝子や水晶で出来た様な透明の板が、大小様々に光を帯びて輝いている金属の塊。

 その表面には何等かの情報なのか、幾何学的な模様や、理解不能な記号(もしかすると文字なのかしらね?)が浮かんでは消え、浮かんでは消えて変化している。

 ぴかぴかと点滅する物。

 其処此処から飛び出している、操作用のレバーかスイッチ類。

 

 機械装置?

 でも普通の人間がデザインする様な物じゃ無い。

 有機的と言うか、そう、例えば昆虫の、蜂の巣や蜘蛛の巣的なデザインセンスなのよね。

 キラキラした糸の様な、用途不明のネット状の物が張り巡らされているし、その形自体が蜘蛛の巣みたいに歪なのよね。 曲線をモチーフにしたシンメトリーでありながら、何処かアンシンメトリーで不安定な感じ。

 

 何よりも異様なのは装飾だった。

 人によっては道具(剣とかドアノブとか)を彫金で装飾する向きもあるけど、これは違う。あたしがもし設計するとしても、美しさや機能的に関係ない、変な突起みたいのは機械の表面に生やさないわよ。

 これって機械なの。でも、何処かで見た事がある。

 

「幽霊島のあの尖塔…」

 

 イブリンの呟きで、あたしの記憶が繋がったわ。

 そう、教授の円盤が証拠隠滅の時に放った神罰の光。

 あの時、完全な破壊を免れて原形を留めていた機器類。その特徴が一致したのよ!

 

〈続く〉




部屋内部の異様さは、ガミ〇スやゴド〇辺りの異星人的なデザインセンスです。

どうでも良い裏話。
プロットに関して、廊下の扉の向こう側の設定が幾つかあったんですが、最終的には実験室になりました。
単なる外に出る扉案や、中が異空間に繋がってる案もあったんですが、書いていて「面白くねぇ」と没になりました。

まぁ、偽聖女製造に関してヒントを与える必要も有りますしね。
え、ホムンクルスだろって?
そうなんだけど、単なるホムンクルスが聖女様の力や、記憶を持てると思いますか。
と言う訳で、ネタバレになるから答えは次回以降(笑)。

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