エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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久々の幕間です。
『エロエロナ物語』に登場したウィンがセイレーンなので、その記念かな。

翼変化タイプなのは『ベレヌスの〇ビン』に登場した〇ムとリ〇の影響ですね。


〈幕間〉、セイレーン

〈幕間〉、セイレーン

 

 セイレーンは鳥形の女系魔族である。

 普段の姿はヒト種他の人間と変わりない。ただ一つの相違点は、足がいわゆる鳥脚であり、猛禽類を思い起こす鋭い爪が生えている。

 魔族の中では少数民族に属し、胎生の少子種族故に個体数は決して多くない。

 

 身体的な特徴は、自身の両腕を翼へと変じられる能力である。この為に彼女たちは袖のある服を着る事は無い。

 この翼で羽ばたき、滑空する事で空を自由に飛ぶ。その飛行能力は飛竜に比べれば落ちるが、それでも空を飛べない種族から見れば、驚異的な機動性を持っているのには変わりない。

 手が翼へ変じる所から空中では武器を扱えないので、その攻撃方法は脚に生えた鉤爪である。その力は強く、文字通り、人間一人程度なら鷲掴みにして空中へ連れ去る事すら可能で、掴み上げられた対象を墜死させるのが彼らの戦闘法であると言える。

 

 だが、それ以上に脅威なのはセイレーンの持つ【呪歌】(まがうた)である。

 魔族の持つ生体魔法、生まれつき持つ魔法効果を発揮する能力であり、彼女らのそれは歌に各種の魔的効果を付与する恐るべき技であった。

 この為、古代の魔族戦争期では空飛ぶ魔族の尖兵となり、恐れられたのも【呪歌】の力を見込まれた故であった。

 

 無論、単体の【呪歌】でも充分脅威である。その歌声は魔法耐性を持った者以外に強く働き、【眠り】や【魅了】などを引き起こす。滅多に居ないが、時には【死の歌】を使える個体も存在し、聞いた者に問答無用の死をもたらすのだ。

 だが、それ以上に厄介だったのは、本能しか持たず、統率するのが難しい下級魔物。主に蟲とかであるが、を【呪歌】によって誘導して、敵へ襲撃させる指揮者としてだった。

 雲霞の如く空を埋め尽くす、ジャイアントキラービー(殺人巨蜂)の後ろで優雅に唄を歌って、これを操るセイレーンは、さながら死の天使だと記録されている。

 セイレーンは良く混同される魔物、鳥頭のハルピュイアと違って知性が高く、魔族軍の指揮官としての素質を充分発揮したからだ。

 

 魔界が閉ざされて魔王が滅び、魔族の統率を失って大規模な軍勢として存在しなくなると、将兵としての彼女らは次第に前線に姿を現さなくなる。

 もっとも元々、稀少な種族故、動員されていた数も少なかったせいもあるし、戦時に前線へと集中配置されていたのが異常であったのだが…。

 新暦期に入ると、セイレーンは幻の魔族として話題にも上らなくなる。彼女らの一族は高い山間や、南洋の小島に引っ込んで、滅多に人間の前に姿を現さなくなったのである。

 だが、それが終わりを告げたのが新暦600年代の大航海時代であった。

 

 当時、再発見された南大陸へと航海者達が続々と繰り出していた。

 だが、大洋を横断する航海は危険が多く、天候、海流、凪、座礁、時には海の魔物にも遭遇し、命がけの冒険にも等しい苦行でもあった。

 無事に帰還出来るのは五分五分、と言われていた時代である。

 そんな中、異様に生還率の低い航路があった。出て行った者が還って来ない魔の航路と恐れられたのだが、ある日、そこへ向かった船団が帰還したのである。

 船は完璧。但し、中の乗組員は一人してして存在せぬ状態で漂着したのだ。

 その異常事態を重く見た、当時のグラン王国は調査艦隊を派遣したのだ。

 

 果たせるかな、その航路上には群島があり、セイレーンの国が存在したのである。

 行方不明になった船員達は【呪歌】によって魅了され、彼らの奴隷として囚われていた。

 セイレーンは他の女系魔族と同じく、男性なる者が存在しない。船団の男達は種付け用の生殖奴隷として、女は愛玩奴隷として弄ばれていたのだ。

 驚いた王国は開放の為の交渉に乗り出したが、魔族である彼女らのプライドは高く、王国からの使節は鼻であしらわれ、更にある国、ファタファタ国では女王が気分を害したとして、使節団全員が殺害されるとの暴挙に及んだ。

 この時、セイレーン達の国が一国ではなく、島に別れて複数国が対立していたのが幸いだったのかも知れない。

 その内の一つ、利に敏い、シャルカーン女王国が王国との同盟を結ぶ。

 そして虐殺に激怒した王国の大攻略艦隊と呼応して、暴挙に及んだファタファタ国を攻め滅ぼしたのだ。

 

 国と称していても、セイレーン達の国家規模は女王を頂点とした千人にも満たない部族国家にすぎず、当時、王国も海軍力は低かったものの、精鋭の騎竜をも動員した数千人からなる大艦隊の前には抗すべきもなかった。

 更に王国は【呪歌】対策として、魔的防御力の高い魔導士や神官、妖精族に半妖精族、更に併合したばかりの南洋諸島から、抗魔力のある魔族であるヤシクネーを大量動員していた。

 グラン王国を本気にさせた代償は大きかった。ファタファタ国は焼き尽くされ、そこのセイレーンは最後の一兵に至るまで殲滅されたのである。

 

 ここまで苛烈な攻略が行われた理由は復讐だけではない。

 戦後、残りのセイレーン国家が二度とグラン王国へ叛旗を翻す事のない様にする為の見せしめであった。事実、最初に同盟に応じたシャルカーンは王国へと恭順し、主権を放棄して王国の一領主として臣籍に下った。

 程なく残りの国もそれに倣い、後にセイレーン群島と呼ばれるこの島々は王国の版図となったのである。現在、領主としてこの地を治めるリーザ・シャルカーン侯爵は、恭順したシャルカーン女王の血筋を引く子孫である。

 

 そんな凄惨な歴史はあった物の、セイレーンが王国の一員となった事で変化が生まれる。

 セイレーン諸島から、王国各地に彼女らが流入したのだ。

 無論、大量に産まれるヤシクネー等と違って、その数は少ない。しかし、少しずつでも、セイレーンは王国各地へと浸透して行った。

 傭兵や冒険者、それに兵士として優秀であり、魔導士としても才を発揮するが、変わった所では養蜂家として名を上げている。

 

 そう、【呪歌】によって蟲を操る能力は健在で、その対象がジャイアントキラービーから、ジャイアントハニービー(巨大蜜蜂)に代わり、セイレーンは王国へ貴重な蜂蜜を提供する第一人者になっているのだ。

 巨大養蜂業を独占する結果になってしまったが、危険な魔物である巨大昆虫を操れるのは彼女らしかおらず、今の所、競合する養蜂家以外は文句は上がっていない。

 もっとも、扱う昆虫が魔物だけに、それが飼える場所が限定されてしまうのが悩みだそうだが、その不利を飛べる事で相殺しているらしい。

 

 セイレーンは詩を詠み、作曲し、唄を歌う。天性の歌い手であり、本職の音楽家でもないのにこれらを嗜むのが標準になっている。

 故に音楽家としても名高いが、唄が全て【呪歌】となってしまうのでセイレーンのみのコンサートでない限り、声楽家としての本領を発揮出来ず、意外にも音楽家として身を立てている者は少ない。

 

 また、同じく空をテリトリーとする魔物のハルピュイアとは仇敵で、「あんな馬鹿とは一緒にして欲しくない」と忌み嫌っている。

 腕の部分が翼である事(だが、ハルピュイアのそれは翼固定で腕にはならない)。脚がいわゆる鳥脚である事などで共通点が多いが、ハルピュイアが一般的に鳥頭の馬鹿であって、知性溢れたセイレーンと混同される事に憤慨しているのだ。

 あるセイレーン曰く、「ヒト種。ああ、あの山に住んでるお猿さんですね? と言われたら、貴方はどう思われますか」だそうである。

 文化のへったくれもない動物。胸すら隠す事をしない魔物と一緒にして欲しくないとの思いは、ハルピュイアと混同されて狩られてしまう事の多かった過去から来る恨みなのであろう。

 

シンディ・バーム著。『セイレーンのお話』より抜粋。

 

〈FIN〉  




エルダ世界の女系魔族は大半が胎生です。卵生は魔物タイプに多くなります。
ほら、ファンタジー調の漫画やイラストとか見るとモンスター娘の大半はお臍や見事な巨乳なのに、卵生って場合が多いでしょ?
卵生なら臍はないし、授乳も要らないから乳もないわな。じゃあ、人間を獲物にする魔物は卵生。人間と交わって子を産む魔族は胎生にしようと考えたんです。
だいたい産みっぱなしで我が子を育てない、非情な奴が悪役で卵生だってのが基準でしょうか?
卵生の魔物のお臍や胸は、人間を魅了する為の擬態で形だけの物と設定したのです。

まぁ、あんまり知ってても得にもならぬ裏設定ですけどね(笑)。

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