エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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息抜きに書いてたら出来てしまった。
『エロエロナ物語』からの派生です。でもR-18ではありません(笑)。


〈閑話〉、ロリラウネちゃん

〈閑話〉ロリラウネちゃん

 

 ロリラウネちゃんは朝、目を覚ましました。

 閉じていた大きな蕾が開くと、その中央に人間の女の子そっくりな裸の身体が現れます。

 大きく伸びをすると「ふわぁぁ」と、欠伸を一つ漏らします。

 

 両手で顔をごしごし擦り、手櫛で髪の毛を梳くと「よしっ」と気合いを入れます。

 それから腰を中心にぐるぐる回したり、腕を回したり胸を反らしたりして準備運動です。

 人間の女の子そっくりな緑色の裸体。その腰から下は花弁の中に埋まっていますから、これ以上の動きは出来ません。前後への屈伸と合わせてこれが限界です。

 

「ふうっ」

 

 身体がほぐれた所で、移動を開始します。

 木漏れ日の差す森の中は気持ちが良いのですが、生憎、光合成には余り向きません。

 身体の下、大きな壷型をした緑の本体をぶるりと奮わせ、その根元にある太く、短い根っこを脚として移動するのです。

 

 本体の側面には、幾つもの華が大輪の花を開かせています。中央トップにある主花と違って、こちらの花弁には女の子は生えていませんが、こっちにも重要な役割があるのです。

 本体の根元には茨の様な、鋭い棘持つ無数の蔓と生殖用の触手が十数本生えており、こちらも自在に動かす事が出来ます。

 これは武器で、悪い敵が来たらこれらで撃退するのです。

 

 そして大地をうねうねと根っこで歩き始めた所で、ぶぶぶと翅の立てる音が響きました。魔蜂キラーホーネット(殺戮蜂)。

 黄色と黒の縞模様が目立つ、半人半蟲の魔物です。

 

「おはようございます。今日も蜜を頂きに来ました」

 

 ホーネットのお姉さん達が挨拶してきます。

 彼女たちは人間の上半身と蜂の縞々な腹部が合体した形で、背中に四翅の透明な翅を持って空を飛び回ります。

 その動きは機敏でロリラウネちゃんから見たら、羨ましいの一言に尽きます。

 

「おはよう。女王陛下はご機嫌宜しくて」

「はい。今日も元気に卵を産んでますね。あたしも今朝、新しい卵を頂きました」

 

 にっこりと笑うお姉さん。笑顔が眩しいです。

 キラーホーネットは女王蜂を頂点とする群体種族で、女王以外は全て兵隊、もしくは働き蜂です。そして全て女性に見える半陽の一族であり、女王以外は卵を産む機能がありません。

 生殖器官は退化して毒針、毒嚢、毒腺に変化してしまっています。でも、毒針と兼用の産卵管は残っており、ここに女王から与えられる卵を格納しています。

 これで相手を刺した際、毒液や自分の精液と共に卵を相手の体内へと産み付けるのです。こうして卵を寄生させ、新たな女王蜂を誕生させるらしいのですが、ロリラウネちゃんはまだ新しい女王が誕生したのを見た事がありません。

 

「今度の卵も、また無駄になりそうね」

「平和ですからね。いいことじゃ無いでしょうか?」

 

 本来、寄生蜂であるキラーホーネットは動物に卵を産み付けまくります。卵が孵る確率は八割前後、その後、女王蜂として生き延びるのは一割に満ちません。

 魔物と言えど、力の弱い産まれ立ての女王蜂は巣を作るまでに捕食されてしまうからです。

 そして女王は巣でせっせと卵を産み続けます。

 それらは働き蜂になります。そして無精卵は働き蜂への下賜用です。これは前述の様に女王蜂を誕生させる為で、働き蜂の精子がないと女王が出来ないからです。女王自身の精子を与えた卵は働き蜂にしかなりません。

 

 しかし、この森に住む女王蜂は働き蜂の数を制限しました。卵を産む数も抑制して、自分の寿命を延ばす努力もしています。

 ここは森を中心とした小さな生態系です。必要以上に生き物の数が増えるとあっという間にバランスが崩れ、森は死を迎えてしまうのです。

 だから、森が支えられる生息数の上限を魔物も厳しく守るべきだと考えたのでした。

 よって働き蜂にも卵を下賜しますが、「やたらと産み付けない様に」と厳命しています。抱えている卵にだって限界はあるのですが、「古くなって死んだ卵は新しいのと交換する」としてそれを守らせているのです。

 この森に生きる動物たちに一斉に産み付けたら、そこら中が女王蜂だらけになってしまいますからね。また、基本的に天敵も居ないので、巣を必要以上に拡大する必要も有りません。

 

「あの……そろそろ」

「うん、蜜をどうぞ」

 

 ロリラウネちゃんは頷くと移動を中止しました。

 ホーネットのお姉さんがその身体に殺到します。側面に咲いた華に頭を突っ込んで、その花粉や蜜を採取して行くのです。

 お姉さん達が一方的に恩恵を受けている様に見えますが、同時に花々は受粉されるので、ギブアンドテイクと言えるでしょう。

 こうしてロリラウネちゃんも種子を得る事が出来るのですから。

 

「大分、貯まったなぁ」

 

 蜜や花粉の収集が終わったキラーホーネット達と別れ、ロリラウネちゃんは自分が形成した種子を数え直しました。

 作られた種子は花の表面から、本体内部の種袋へと送られて貯蔵されています。数は既に千個は超えていますが、ロリラウネちゃんはキラーホーネット達と同じ理由で、まだ一度もこれを使った事がありません。

 他にも理由があります。ここには魔物以外に野生動物しか居ない為です。

 

「この種も体重が重くなる原因なのかしら?」

 

 そして森から出ると日当たりの良い丘の上へ移動して、太陽からの光を一杯浴びます。

 

「いつも思うけど、歩くのがのろいのよね」

 

 気持ちいい光合成を続けながら、ロリラウネちゃんは独りごちます。

 まだ小さかった頃は、こんなに動きが緩慢じゃ無かった筈だったからです。

 でも仕方有りません。成長の結果、既に本体の直径は十メートルを超え、自重も数トンに達してしまってるのでから、動きが鈍くなるのも当然なのです。

 

 すうっと丘の上から遠くを眺めます。

 ロリラウネちゃんは頂上に生えたこの身体で、植物型の魔物にあるまじき視覚や聴覚を持っています。この姿は人間や亜人を惑わせる為でもあるのですが、それ以上に視聴覚の感覚器としての役割を担っていると言っても良いかもしれません。

 

「中原の大砂漠……」

 

 広がるのは白く果てしない砂の海です。この森を中心とした直径にすれば僅か数キロにも満たない土地の他は、回りは乾燥した過酷な砂漠に囲まれていて、動物も、ロリラウネちゃんの様な植物も見当たらない死の世界です。

 ロリラウネちゃんが生まれた土地。

 この平穏な緑の孤島から、ロリラウネちゃんは出た事がありません。

 何処か別の土地へ行く必要が無かったからであり、概ね、ここでの穏やかな生活に満足していたからです。

 

 生まれた時の事を思い出します。

 種を産み付けられた苗床の中で成長し、その腹を破って外界に出たとき、回りには同族達は誰も居ませんでした。

 代わりに居たのは数人の人間です。苗床とした女の仲間だったのでしょうか、半狂乱になって何か、この女の名を叫び続ける者。「おのれ、ロリラウネめ!」とか憎しみの視線で、自分に刃を向ける者。パニックに陥って逃げ出す者。と様々です。

 

「えっと、ロリラウネ?」

「そうだ、貴様だ。妖花ロリラウネ!」

 

 剣を向ける男が教えてくれました。

 どうやら、自分はロリラウネと言う名前であるらしいのを。

 ロリラウネちゃんは「戦う気は無いよ。そんな怖い顔しないで」と伝えましたが、相手は「黙れ、パティの仇だ!」とか興奮気味になっていて、お話になりません。

 パティと言うのが、この苗床の名前なのでしょう。

 見た事も無い自分のお母さんが、このパティなる女の胎内に種を植え付け、その中で発芽した自分が最終的に、この苗床女を内側から破壊してしまったのだと理解します。

 

「わざとじゃないの。発芽して生まれる為に必要な事だったの」

 

 そう弁明したのですが、それは怒りの火に油を注いだだけでした。

 怒りにまかせて斬りかかってくる刃を、未だ自分に栄養を供給してくれる苗床女の身体を操って、ギリギリ躱します。

 今の状態は苗床女の腹から、丁度、自分が突き出ている状態なのです。本体の下を埋没している苗床は既に屍体ですが、何故か、ロリラウネちゃんはこれをコントロール出来るのです。

 生まれたばかりで、まだ上手く身体が動かせないロリラウネちゃんにとって、自分の代わりに巧みに動ける足があるのは大助かりでした。

 

「やめてよぅ。いじめないでよぉ」

 

 ロリラウネちゃんは泣き叫びました。ただ単に発芽して世に出ただけなのに、何でこの人達は自分を目の敵にするのか、さっぱり理解出来ません。

 そんな時、不意にロリラウネちゃんの頭に思考が流れ込んで来ます。

 

「ハーガン止めて、剣を引いて」

 

 ロリラウネちゃんの口から発せられた言葉です。ハーガンと呼ばれた男は驚愕し、思わず攻撃を止めてしまいます。

 この男は剣士のハーガン。私の名を半狂乱になって叫び続けてるのはヒーラーのゼシュカ。向こうで逃げ惑っているのは盗賊のバッシュ。

 

 苗床になったパティの知識でした。この女の魂をも完璧に取り込んだお陰で、その素質がロリラウネちゃんの一部となった瞬間でした。

 ロリラウネの一族が人間を苗床にするのは、犠牲者となった者の魂を取り込んで自分の基礎にする為なのです。

 まだ一度も種子を使った事が無いのもこれが理由です。

 だって、動物に植え付けても畜生の知性しか生じません。言葉も話せず、高度な思考も出来ず、ただ「がるるる」とか「うもー」とか鳴くだけの個体は、この世界では生き延びる確率は低くなるからです。

 同様に女性に植え付ければ上に生えるのは女性体。逆なら男性体になります。しかし、大抵は女性に種を植え付けるのは、そちらの方が生存率が高めであると経験則から知っているからです。見た目がヤローより、可憐な少女の方が好印象ですからね。

 

「パティ」

「そうよ。でも、今のあたしはパティじゃ無いの。もうロリラウネなのよ」

 

 ハーガンはパティの恋人だったっけ、とロリラウネちゃんはその知識を辿ります。ゼシュカと恋のさや当てもした事があったっけ。

 そして一瞬、及び腰になった所を狙い、茨の棘が生えた蔓を繰り出します。蔓はハーガンに巻き付いて、その棘から麻痺毒をたっぷりと注入してしまいました。

 

「ゼシュカ。バッシュ!」

 

 ハーガンを無力化した後、ロリラウネちゃんはパティの仲間二人を呼びます。

 暫くパティに成り切って、演技を続けた方が良いでしょう。

 

「パティ」

「ゼシュカ。ハーガンを連れて去って。そして、もうここへは来ないで」

 

 あれ? 何故か涙が出ます。どうしたんだろう。

 

「こんな形でハーガンを譲るとは思わなかったわ。ゼシュカ、彼とお幸せにね」

 

 身を翻します。そして駆けます。

 後ろから「パティ」の声。でも振り向かず、「あたしはロリラウネ」とだけ答えて、遠くへ、遠くへ、森の奥地へ。

 頭の中から「ありがとう。ロリラウネ」と言うパティの感謝の言葉。

 ロリラウネちゃんも自分がパティになった様な錯覚を覚えましたが、あれ以来、自分がパティとして自覚したことはありません。

 ロリラウネは知識や経験として苗床になった者を利用しますが、性格形成に多少の影響はあるらしいのですが、当の本人そのものなコピーになる事はない筈なのです。

 

 とにかく、流血の事態は避けられ、あれ以来、この緑の孤島に人間が訪れる事はありません。

 人間が訪れたら、また、同じ様にロリラウネちゃんの身が危機に陥る可能性は高く、平和主義者である彼女も、そのトラブルを避けたいと願っています。

 それでも目を皿の様にして砂漠を渡る何かを発見しようと目をこらすのは、もしかしたら、人界に対する未練なのでしょうか?

 

「さて、日光浴終わり」

 

 充分、光合成も出来ました。

 元々、この乾燥地帯に対応した種ではなく、もっと湿潤な気候で繁栄していたと思われる魔物ですから、砂漠の暑い直射日光を浴び続けるのは毒です。

 うんしょ、うんしょと丘を駆け下ります。

 

 森の中で木漏れ日を浴びて、今日は静かにお昼寝しようかな。

 それとも土壌改良のお仕事をしようか。

 堆肥作りは面白く、土が根から得る栄養は概ね満足出来るレベルでした。

 うーん、いっそ、川沿いを散策するのも良いかもしれません。この前見付けた魚や海老の観察もなかなか興味深かったから、とも考えを巡らします。

 そうしてロリラウネちゃんは身体を揺らしながら、森の奥へと消えて行くのでした。

 

 

〈FIN〉




あっち(「戦麗舞と雷之進」)に登場したロリラウネとは別個体です。
判ってるとは思いますけど、全部のロリラウネがこんな性格ではありません。と言うか、この娘はかなり特殊です(笑)。
エコ(?)なキラーホーネットの女王様との交流も、変な性格形成に一役買っているようです。

この植物型魔物、向こうでも書いたけど『世界樹の迷〇』シリーズに登場する、アルル〇ナのイメージです。他にアルラウネの特徴も一部入ってます。




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