エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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何とか、今週に間に合いました。


偽りの聖女9

〈閑話〉ウサ耳村8

 

「この程度で、戦士を名乗るにゃあ!」

 

 木刀の重い一撃がニナにめり込む。

 

「立つにゃ。やりたくないのなら,止めちまうにゃ」

「まだ…まだ」

 

 崩れ落ち、血反吐を吐いているがニナは立ち上がる。

 リーミンの稽古とはとんでもない実戦仕様だった。型を教えるとかの基礎を吹っ飛ばし、まずは木刀を持たせた後、「どっからでも良いから,掛かってくるにゃ」とニナに伝えたのである。

 振るわれるニナの数多の攻撃を、このネコ耳族はさらりと躱し続けた。

 はぁはぁと息が上がり、攻撃が止まった所でリーミンの最初の反撃。まずは小手をしたたかに打たれて、武器を落とされる。

 続いて先程の容赦無い突きだ。幼いウサ耳娘は吹き飛ばされ、舷側まで吹き飛び、背後にあった弩砲に背中をしたたかに打ち付けられた。

 

「お前の攻撃は直線的過ぎるにゃ。殺気がこもっているから剣筋がバレバレにゃ」

 

 リーミンはそれから木刀を拾う様に指示する。

 そこへ現れたのはラオことボースン。「どんな感じか?」と尋ねると、「見込みはあるにゃ」とリーミンは素っ気なく返答する。

 手近にあった桶から柄杓で水を汲むと、美味そうに喉を潤し、残った水をニナへと投げる。

 

「暫く休んだから続きにゃ」

 

 びしょ濡れになったニナを一瞥し、リーミンは身体をはたいて後ろを向いた。

 チャンス。『どっからでも掛かってこい』なら、今だって襲撃時間だ。そうニナはずる賢く計算すると、黄色いキャットスーツの無防備な背中目掛けて木刀を振りかぶる。

 

「バレバレだと言った筈にゃ」

 

 あっさり見破られ、その脳天に一撃を食らうウサ耳。

 目から火花が飛んだ。頭を抱えて転げ回る。ボースンはゲラゲラ笑いながら、「殺すなよ」とリーミンに言い含めて、マストの上に登って行く。

 

「何故だ」

「殺気を纏うのは構わにゃいが、それを剣先に乗せるからだにゃ」

 

 対峙した際、相手を圧倒する気持ちで身体から殺気を出すのは推奨される。

 が、あくまでそれは相手を威圧する為の物。剣にそれを乗せるのは愚策だとリーミンは述べた。

 

「敵に剣筋を読ませてはならないにゃ」

「身体の方は構わないのか?」

「構わんにゃ。敵が身体の方に意識を集中してくれる分、手先が自由に振るう事が出来るにゃ」

 

 要は殺気を出す身体を囮にする事なのだと言う。

 

「本当の剣豪なり暗殺者は、殺気すらも押し殺して剣を自在に繰り出すらしいにゃ。でも、あたしは凡人だから、そこまでの境地には達してないにゃ」

 

 武器を使う時にどうしても殺気は込めてしまう。

 無意識に武器を操れる程の訓練は受けていないのは、リーミンも正規の武術を習っておらず、長年の傭兵生活で身に付けた我流だからだと語る。

 

「死線を潜り抜けて生き残れば、ニナもいずれ身に付くにゃあ。

 さて、暫く休憩したら、続きだにゃ」

 

 その日の日没まで、ニナはリーミンに翻弄され、躱されては殴られ続けた。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 目的地に到着したのは翌朝。

 田舎町かと思ってたら、アル・ファランは結構な賑わいを見せる活気のある港町であった。

 

「ついといで」

 

 セドナに請われて、ニナは上陸に付き合う事となった。

 本船は港外に停泊。ボースンを留守役に残し、セドナ達は港の太守に挨拶に赴く。

 港には防波堤があり、木製の杭が港を半周する形で囲んでいる。所々に砲座が設けられており、弩砲が外敵に睨みを効かせ、入口の左右には石造りの監視塔が建っている。

 そこに跳ね上げられたアーム状の腕木に渡されているのは,頑丈な鉄鎖である。アームによって高い位置にあるのは,航行する船のマストに干渉せぬ様に工夫された物だ。

 いざと言う時には、監視塔の間に渡されたこの鎖が降ろされ、敵船の侵入を防ぐのだろう。

 

「交易港は大体、こんな仕組みで港を防護してるにゃ」

 

 カッターで港へ向かう一行の頭上に垂れる巨大な防護施設を、口を開けてニナが見つめる中、やはり同行しているリーミンが、櫂を漕ぎながら説明する。

 ニナの故郷の漁港にはこんな設備は無かったからだ。まぁ、それなりに金が無いと設けられないのではあるが、もし、これが故郷の港にあったらと歯がみしたくなる。

 あの海賊の侵入を防げたのでは無いか?

 

「そろそろ岸壁だね。用意しな」

「「「イエッサー」」」

 

 カッターを漕いでいる全員が返事をする。

 岸壁には中原風の格好をした者達が行き交っている中、セドナ達一行はアル・ファランの町に上陸した。

 

〈続く〉

 

 

〈エロエロンナ物語22〉

 

 前後に三人。そして背を合わせながら、互いに武器を構えるあたしとイブリン。

 森には夕闇が迫っている。

 ぱちぱちと音を立てる焚き火が、周囲を照らす中、襲撃者はじりじりと距離を詰めてくる。

 

「無駄な抵抗は止めた方が身の為じゃぞ」

 

 ロリ婆の警告は無視。あたしは襲撃者の方を観察する。

 背はあたしやイブリン位ね。それ程高くないし、体型もがっちりとしてはいない。何とかなりそうだと感じたわ。

 これがマッチョな、筋肉だるまの典型的な傭兵かなんかだったら、抵抗するのを諦めてしまったかも知れない。でも、これならまだ光明はある。

 敵の得物は鎚矛(メイス)ね。教会の聖職者がよく使う武器だわ。

 俗説では「流血をさせない為に」とか説明される武器だけど、とんでもないわ。単に先端が丸い穀物(鎚頭)ならそうかもだけど、今の襲撃者が持っている様な羽根付きメイスで直接肌を殴られたら、大流血必至なのは間違いないわよ。

 

 カトラスを構えたまま、「最悪、リンリンを人質に取ってしまいましょう」とあたしは呟いたわ。

 イブリンの方も「まぁ、仕方なしです」と答えてくれた。

 元聖女様だから反対するかと思ったけど、現実主義者で助かるわね。だって、あたしたちは弱者であり、清廉潔白な正義の味方でも、公明正大で義に溢れた剣士でもないんだからね。

 

「来たわよ!」

 

 暗殺者系なのだろう。無言で殴りかかってくる。

 あたしはサイドステップで横に跳び、返す刀で敵を薙ぐ。幸い敵はそんなに腕の立つ奴らじゃなさそうだわ。

 やれると確信する。イブリンの方も敵をいなしているからね。

 教会の巫女は戦闘訓練を受けているとの話は,どうやら本当みたい。敵の武器をを松明で受け止めている。

 

「まさかっ、そんな」

 

 鍔迫り合いになったイブリンが叫ぶ。同時に後ろで控えていたロリ婆は低い声で笑ったわ。

 

「気が付いたようじゃな」

 

 その間にも敵は斬りかかってくる。この際、背に腹は替えられない。あたしは覚悟をして敵をカトラスで薙ぎ払ったわ。

 鮮血が飛び散る。能動的に敵を殺したのは初めてよ。

 血飛沫を上げて呆気なく敵が崩れ落ちる。終わってみればたわいも無い。フードから長い金髪をこぼしながら、敵が息絶えた。

 けどっ、これは…。

 

「イブリン?!」

 

 その光景に絶句する。今、倒した敵はイブリンそのものの姿をしていたからだ。

 あたしは衝撃を受けて、一瞬無防備な姿を敵中に晒してしまった。そこへ残った敵が突進してきて、あたしの腹に重い一撃をお見舞いする。

 

「ぐはっ」

 

 情けないくぐもった悲鳴。胃から逆流する酸っぱい何か。

 膝を折って耐えるけど、イブリンのそっくりさんが頭へと振りかぶった穀物が、あたしが意識を手放す最後に見た光景よ。

 くらりと意識が深い闇の底へと沈んで行く。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 クローネはネコ耳族だ。

 元々は良い所のお嬢様であったが、今は王都の貧民街に暮らす下層民だ。

 7歳の時に誘拐された。しかし、誘拐犯達は内部分裂を起こしたらしく、王国軍が駆け付けた時には仲間割れで殆どが死に絶えていた。

 拉致されたクローネら子供達は解放されたが、行き先の無い者、何処から拐かされたのが分からない者は、孤児院に引き取られるしか無かった。

 そんな時、これに目を付けたのが『闇』であった。

 こうした幼く、もし失っても国家の損失にならない者達を、訓練して密偵として育て上げる。

 これは王国だけでは無く、どこの諜報機関でも行っている割合ポピュラーな手である。

 

「ふぅん、ネコ耳族とはね…」

 

 ユーリィは覆面と外套を脱いだクローネの姿をしげしげと観察する。

 オレンジ気味の茶髪をしたおかっぱ頭。ネコ耳族を強調する、白と赤のセクシーなキャットスーツ。だが、胸はぺったんこで残念な出来だ。

 まぁ、歳を聞くとまだ11と言うから仕方ないのだけど、これは将来に期待と言うべきだろうか。

 

「密偵の訓練を受けて約五年か…。で、この娘が一番マシな出来な訳?」

 

 ユーリィは側に立つローレルに振り返って言う。

 その言葉に、普段の明るい「♪」付きのポップな感じがないのは、演技では無く密偵としての「素」の口調で話している為である。

 

「同期は他に何人か居ますが、王都にすぐさま招聘出来たのはクローネだけでした。

 交代要員を要求したのは貴女でしょう?」

「まぁ、そりゃあね。でも、今度の任務に連れて行くに当たっては…なぁ」

 

 行く先は死地に近い。そんな中、任務の達成度を下げる要因はなるべく避けたかった。

 だが、一人で行くのはやはり難しく、バックアップは欲しい。だから、もう少し質の良い相棒を彼女は要請したのである。

 しかし、答えは否であった。手空きの者は居ないとの答えである。

 『闇』の台所事情はかなり厳しいらしい。正確に言えば、ユーリィとて正規の『闇』ではないのだ。それすら動員せずには居られないのだ。

 

「大丈夫です。ユーリィ様のお役に立って見せます」

「と、クローネも言っていますしね」

「仕方ないなぁ」

 

 嘆息。しかし、現実は変わらない。ユーリィは覚悟を決めた。

 

「命がけになるけど全力を尽くせ。そして、あたいを恨むなよ」

「はいっ」

「密偵時にエロコ達に姿を見られるな。直接的な接触は避けろ」

「はいっ」

 

 返事だけは元気良いなぁ。とユーリィは思う。

 接触を避けるのは、クローネをあくまで黒子として動かしたい為だ。顔やら特徴を知られるのは、今後の活動で支障が出る。

 馬鹿正直に『密偵でござい』面をした者を近寄らせる程、あの二人は阿呆ではなかろうとの判断である。まぁ、先の聖女様の反応から、自分も疑われてるのは知っているが…。

 自分が疑われているから、クローネを隠し球として保持したいとの思惑もあったりする。

 

「装備はこれで全部ですか?」

「ああ、あたいは終わってる。クローネは?」

「はいっ、終わりました」

「では移動しますよ」

 

 ゲルハン邸の地下に設置された魔法陣。魔力を充填され、鈍い燐光を放っている。

 脇には操作用の魔法装置が設置され、それをベッケル・ゲルハン男爵が入力操作していた。

 

「転移装置ってのは最高機密なんですよね」

「あの魔法陣自体は臨時に描かれた物で、肝は隣の操作卓にあるんだけどね♪」

 

 古代遺跡からの発掘品である。現世に残っている物は知られている限り、両手両足の指の数よりも少なかった筈である。

 これを再現しようと試みた錬金術師は多かったが、発掘品の余りにも複雑な術式と特殊な素材が必要なのが理由で挫折している。

 しかし、操作方法の解析は可能であったので運用は可能だ。使用毎に莫大な魔石を消費する燃費の悪さに目を瞑ればだが…。

 

「感激ですっ」

「ん、ああ、もしかしてさっきから気分が高揚してるのは,そいつの為ぇ?」

 

 子供だ。いや、年齢からすれば、充分に子供なんだろうけど。

 未知のマジックアイテムを使う特別な経験に、わくわくしてるのか。ユーリィは頭に痛みを感じていた。この猫娘、絶対に密偵向きじゃ無いよ。

 

「ローレル、大丈夫なのか、こいつ」

「技術的には問題ありません。それは王立魔導学院のガナー博士からも…」

「いや、装置じゃなくて、クローネ」

 

 騎士は「おや」と言う風に首を傾げ、それからユーリィの肩をぼんぽんと叩く。

 

「見習いですからね。基礎は充分に叩き込んでますから大丈夫ですよ」

「いや、今更だけど…」

 

 笑いながらローレルはユーリィを転移陣内に押し込み、「見習いでも構わないと仰ったのは、貴女ですよ」と言いながら一歩下がる。

 

「そりゃ、そうだけど」

「クローネも準備整いましたね。では、いってらっしゃい」

 

 ぱぁぁぁぁと眩しい光が転移陣内を包む。

 数瞬後、転移陣内にあった密偵二人は空間転移して地下室から飛ばされていた。

 

「上手く行きましたか、男爵?」

 

 ローレルは振り返ってゲルハン男爵に問う。

 

「さてな、こいつは気難しい魔法装置だから、正確には飛ばせないのだよ」

「誤差は?」

「10Km内外。まぁ、完全に調整済みだから岩の中や地面、建物の壁で実体化する事は無いと思うがね」

 

 男爵は肩をすくめた。これと似た魔法装置で、昔、えらい目に遭った事があるからだ。

 

「誤差に関しては問題ないでしょう。多少ずれていたとしても、あの二人ならば自力で辿り着けますよ」

「『ファーロング・トモロ』が生きている限り、はな。

 それと今回の経費は『闇』に回しておくぞ。実費+レンタル料だ」

「ご随意に。しかし、魔石を食らう金食い虫ですね」

 

 財政担当が文句を絶対言うなと、ローレルは対応を考える。

 機密費とは何だ。と出所不明の支出にいつも噛み付いてくるあの役人。なまじ優秀なので左遷も出来ないし、したら、ギース王から文句が出るだろう。 

 

              ◆       ◆       ◆

 

 夢を見ていたわ。

 暗い、真っ暗な闇の中であたしが浮かんでいる。

 夜空に近いわね。闇の中でも小さな光が幾つも見えるわ。何か、でっかい黄色と茶色をした球体が輪っかを伴って近所に見えるけど、これは何だろう?

 

『星系の空間内に、敵は感じられない…』

『新米の巫女(エリルラ)よ。もっと感覚を広げてみなさい』

 

 これあたしの台詞?

 喋ったのはあたしだけど、意識はあるのに自分の身体に干渉出来ないのは何故?

 幽霊(ゴースト)の中でも憑依霊みたいな感じなのかしら。

 あたしはあたし、区別付ける為にあたしⅡと仮称するわね。に「おーい」や「応えて」と問いかけるけど、奴は完全に無視してる。

 

『あ、発見しました。先輩』

 

 あたしⅡが、姿の見えぬ誰かに嬉しそうに告げる。

 感覚が爆発的に広がり、とてつもない空間に渡って、そこに何があるのかを掴んで行くあたしⅡ。感覚がリンクしてるから、その情報があたしにも流れて…って、ええっ!

 な、何。これって脳が爆発しそうよ。

 把握される情報が膨大すぎるのよ。あたしは悲鳴を上げるけど、あたしの身体を支配している、もう一人のあたしⅡは全く気が付いてくれない。

 

『メルーンのメラーズタイプ戦闘母艦です。ガスジャイアントの影に隠れていたのね』

『一隻だけです。始末は貴女に任せます』

 

 思考波が強くなる。何かに働きかけているみたい。

 発見した戦闘母艦とやらは大きかったわ。あたしが知る最大の船の二十倍以上有りそうな灰色の巨体。平べったい形は教授のディスクを彷彿させるけど、武器らしき弩砲みたいのが全身に配されていて、あれよりもっと禍々しい。

 あたしⅡはそれを睨み付け『えいっ、沈め!』と敵意を送り出す。

 すると数条の光がその船を貫いた。無音の爆発。木っ端微塵だわ。

 

『よくやりました。これでまた、数千人の敵が宇宙から消えましたね』

『エリルラとして当然です』

 

 って、これが『エリルラ』って奴の力なの?

 ひと睨みで、距離は…、多分、数十万Kmとか、とんでもない数値だろうけど、空間の先に居る敵を消し飛ばした。それで数千人が一瞬で死んだ?

 知りうる限りの最強の攻撃魔導だってこうは行かないわよ。ヒトの持つ力じゃ無いわよ。化け物じみた力だよ。

 

「あ、あああああ」

 

 何かを叫びそうになった時、あたしは声を発している事に気が付いたわ。

 

「エロコ様。気が付きましたか。

 お怪我は大丈夫ですか」

 

 目の前に居たのはイブリン。

 あたしは横たえられて、彼女(?)に膝枕されて看病されていたみたい。

 

「もっとも、この台詞は二度目なんですけど。いつものエロコ様ですよね?」

「あたしはあたしよ。それよりも、ここは何処?」

 

 あたしは周囲を見回す。

 知らない屋内だった。どちらかと言えば、窓も無い石牢って感じの部屋ね。

 壁に掲げられた一本の燭台だけが灯火だった。

 

「ここは、ベラドンナの秘密アトリエだと思います」

 

〈続く〉




でっかくて、黄色と茶色の輪っか付きの球体。
「ガロワ・ザンとマジス・ザンは第六惑星へと向かう。ジム・ザンは敵の針路上にこれを迎え撃って、第六惑星ポイントへ誘き出せ」
「ジム・ザン発進します!」
「健闘を祈る。上手く誘き出してくれ」
に出てきた星じゃ無いですよ。似てるけど(笑)。

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