エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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書いてたら、また長くなってしまったので単独投稿します。


〈幕間〉、フロリナ島の探検家

〈幕間〉フロリナ島の探検家

 

 フロリナ島はバニーアイランドの一部である。

 正確には、昔は独立した島であったのだが、噴火の際に噴出物が堆積して本島と繋がってしまったのだ。

 

 この島の発見は、冒険者(クエスター)、フロリナ・ロペスの名を挙げる事が不可欠だろう。彼女は文字通り、この島に生涯を捧げたと言って良い。

 彼女はセントール族の冒険者だった。

 セントール。半人半馬の種族であり、王国ではその数は決して多くない。元々、砂漠や草原に居を構える遊牧民で、新暦200年代に起こった蛮族の西進で広く知られる様になった種族である。

 この詳細は別の機会に譲ろう。とにかく、偉大なるカーン、大帝ハーン・ゴーダーに率いられたセントール族の軍団はポワン河を越え、今のグラン王国、マーダー帝国の各地を掠奪、蹂躙しまくった。

 その暴威は凄まじく、一説では魔族との戦いよりも悲惨であったとも言われる。

 現在の法国が力を貸して彼らを撃退した後、多くのセントールは西方より去ったが、残された子孫に当たる者達がフロリナになる。

 

 フロリナがクエスターを志したのも、世間に対してセントール族の地位向上を示す為とも言われているが、著者は彼女が山師でしか、その能力を認められぬのではないかとの疑問も持っている。

 世間体の関係が無いやくざの商売でしか、正統な実力を示せないからである。

 生前、彼女はこう語っていたと言う。「本当は商人目指してたんだ」と。

 だが、商人としての下働き期間、フロリナは明らかにうだつの上がらぬ存在であった。原因は差別にあった。どんな優秀な働きを見せても、その手柄は正当な評価を与えられなず、常に二番手三番手に成果が横取りされた。

 彼女が商店の傘下を離れ、何の保障も無い冒険者としての道歩んだのは、新暦300年代だと言われている。

 

 フロリナは新しいやり方の冒険者であった。

 従来の冒険者が腕一つで未知の領域に乗り込んで行き、ただ遺跡や土地を走破するのに対して、彼女は後ろ盾となるスポンサーを募ったのである。

 その成果を発表するとの条件で。

 未知の土地に挑み、それを探索する行為を大々的に宣伝し、成果を後援者に示してその名誉を分かち合う。今では珍しくないやり方だが、それを開拓したのが彼女なのだ。

 今では冒険貴族として有名なワイルダー伯爵家も、元はと言えばフロリナのスポンサーであり、彼女の発表する成果を受けて名声を高めたと言っても良い。

 

 特に悪魔の海峡として恐れられたドロイド海峡を渡り、バニーアイランドを再発見した功績は大きい。

 古代王国が滅んで三百年間、西方では迷信がはびこり、「海の端は巨大な滝になっている」との戯れ言が信じられており、船は沿岸航行しかしなくなってしまっていた。

 本土から僅か170kmしか離れていないバニーアイランドも、『幻の島』扱いで、海峡を渡るのは愚かで罰当たりな行為と思われていたのだ。

 もっとも、フロリナが成果を上げた後も、数千キロも離れた西大陸から妖精族が西方に移住してくるまで、大半の船乗り達は相変わらず頑迷で迷信深かったのだが…。

 まぁ、それは別の話になるのでさておき、フロリナは果敢に海峡を渡って島を再発見し、その成果を大々的に発表し、大センセーションをまき起こした。

 

 そしてフロリナは、航海冒険家との名声を確定する。

 実を言えば、それはフロリナにとって不得手な事であった。セントール族はどちらかと言えば平原での機動性が高い種族であり、明らかに船上での行動には向かない身体構造をしているからだ。

 今もそうだが、大体、船という構造物はセントール向きに作られていない。

 扉や船内はヒトや人馬族以外の亜人を基準に作られているので、腰高のセントールでは不都合が多く、また、レドンダ(横帆船)では操帆にマストへ登る事は不可能である。

 フロリナが用いた船は、故にラティーナ(縦帆船)であった。ラティーナならば甲板で操帆作業も行え、切り上がり性能も高く、逆風にも強い。

 セントール向きに特別な改装を施し、船内へ入れる様に整えた船は中古の漁船だったが、彼女はこれを気に入って『シーホース』と名付けて生涯使い続けた。

 海軍士官学校の博物館に『シーホース』のレプリカが展示されているが、全長は15m程の小型船でしかなく、カッターに毛の生えた様なこれで、数々の探検航海を駆け巡っただと思うと驚かれる事だろう。

 

 ある時、フロリナに取材した者が「何故、セントールなのに海に挑戦し続けるのか」を問うた所、「航海するクエスターはあたし以外には居ない。これは強みだ」と言い切ったと伝えられる。

 恐らく、それは本音だろう。ライバルひしめく陸上での冒険よりも、未知の海洋冒険に軸足を置いた方が有利だと確信していたのだろう。

 彼女はそれからもバニーアイランドへ挑戦し続け、島を西回りで一周する帰路(バニー本島が島なのか、それとも半島の一部なのかを確かめる航海だった)、その東方域に火山島を発見する。

 後援者にちなみ、フロリナはこの島をワイルド島と命名する。

 この島は発見物の宝庫だった。本土にはない珍しい動植物、豊富な資源、中でも最大の発見は野鳥の群生地に溜まった鳥糞、膨大なリン鉱石だった。

 今では既に取り尽くして枯渇しているものの、肥料としてフロリナ島の産業を長年支えた立役者である。

 

 この発見が彼女にワイルダー卿他の後援者共々、富を与える源泉となり、士族位が与えられるきっかけとなったのである。更にフロリナは再度、この火山島を調査し、硫黄鉱山を開拓すべく、火山へと足を踏み入れる事となる。

 実を言えばグアノ(リン鉱石)の採掘が軌道に乗って来た矢先であり、士族位を授与された直後でもあった。グアノが生み出す収入も次々と懐中へ入ってくる状態で、何も無理をして冒険を続ける理由は無かったと言っても良い。

 このまま楽隠居しても、一生を過ごせるだけの富が約束されていたのだ。

 

 だが、彼女はこの火山島に挑戦した。「これがクエスターとして最後の花道になるだろう」と周囲に述べていた発言は、現実の事となってしまった。

 登頂二日目、突如、火山が爆発。その火砕流に飲み込まれ、フロリナ・ロペスは帰らぬ人となってしまったのだから。

 フロリナが没した後も約半年間火山活動は続き、噴出した堆積物は島とバニー本島に橋を架けた様な形で海を埋めてしまい、独立した島ではなくなってしまった。

 だが、本土の人々はそれを知らず、没したフロリナの功績を称え、島と火山に『フロリナ』の名を冠したのである。

 

 今でも、フロリナ・ロペスは航海者の間では伝説の存在になっており、その功績は称えられている。

 後に伝説の大陸目指して大海原を行く、大航海時代(新暦500~700年代)に比べれば、その走破距離は遙かに小さいとは言うものの、迷信を打ち破り、外洋へ初めて足を伸ばした航海者としての輝きは大きな物であるからだ。

 また、彼女の活躍によってセントール族の地位が向上した事も見逃せない。侵略者の子孫として蔑まされていた存在から改善され、今では差別的な待遇を受けるのも是正されている。

 また、彼女に憧れて船乗りを目指すセントール族が続出したというのも、副次的な影響と言えるかも知れない。当時に比べ、船の扉や天井の高さがセントールが屈めば通れる様に高くなったのも、彼女の与えた影響だろう。

 

 

『王国海洋史、第二章、先駆者ロペス』より引用。




フロリナ・ロペス。姓は『大航〇時代Ⅱ』に出てきたロリコンの地図屋から。
顔は『赤毛のア〇』的なそばかす顔な、純朴で気の強そうな女性冒険家のイメージ。でも、実は馬体がシマウマだったりします。
現実ではシマウマって家畜化出来ないそうですが、ファンタジー世界じゃ、構わないよねって事で、エルダ世界ではシマウマに騎乗した騎兵ってのもいたりします。

まぁ、髪の色がピンクや水色のキャラだって居る世界ですから「変な体色の動物だって居ても構わない」と、勝手に考えてます(笑)。
緑に赤い斑点の、パキスタンカラーのパンダだっていてもおかしくないじゃん(当分、出ませんよ。多分)。

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