エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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難産でしたが、偽りの聖女編3をお届けします。

3/13、加筆。
「し」との誤読を避ける為、市に「いち」と読み仮名追加。


偽りの聖女3

〈閑話〉ネコ耳村2

 

 ざわり、ニナの背筋に悪寒が走る。

 本能だ。ひと目、船を見た時から感じる危険な何か。

 それは岬を回ると、速度を落とさずに岸壁に近づいてきた。

 船体には汚い。真っ赤に塗られた船体に黒ずみの様なカビが目立つし、海鳥の糞があちこちに白い汚れを付けている。

 明らかに普段寄港する私掠船とは雰囲気が違う。

 村の連中も異変に気が付いたらしく、カーン、カーンと鐘が鳴らされる。

 これは何だ。

 船縁に並ぶ、手に手に得物を持っている汚い男共は?

 

「う…」

 

 頭が痛い。

 そうだ。村は連中に襲われ、捕らえられて!

 

「おや、気が付いたみたいだね」

 

 知らない声。ばっと起き上がり、身構えながらそいつを見つめる。

 緑の髪をまとめたエルフ(妖精種)の女性?

 婆様から話には聞いていたが、実物は初めて見る。にしても剣を佩いたりしているし、ずいぶん戦闘的な格好だ。

 

「まずは食べな。あんたは海の中を漂ってたんだ。もう少し助けるのが遅けりゃ、土左衛門だったよ」

 

 差し出されたのは木の椀。中身は雑穀のおかゆらしき物。

 上等な食事とはとても言えないが、良い匂いが漂っている。ニナの腹がぐうと鳴り、たまらずそれを受け取って、がつがつと食べてしまう。

 

「ここは?」

「私掠船、『グリューングリューン』さ。あたしは頭領のセドナ・ルローラ、さて、あんたの村が海賊に襲われた事を話してくれないかい?」

「私掠船…」

「あんたの村へ行くって連絡していた筈なんだけどねぇ。一足違いで、海賊に襲われちまったみたいだね」

 

 そうだ。ニナの村は海賊の襲撃に遭ったのだ。

 ここはゴム園しかない辺鄙な開拓村に過ぎないが、ゴム収入のお陰で比較的裕福で、村人は飢えもせずにそれなりに楽しい暮らしを送っている。

 婆様が語る昔話は「昔は食べられなくてね。皆、傭兵となって外へ出て行ったもんさ」と、かなり悲惨さを強調していた気がするが、傭兵として出稼ぎに行かずに済んでいる現状から、ネコ耳族の村としては生活が安定していると言えるのだ。

 

「その小金を狙う輩が多くてね。

 特にここみたいな開拓村は、地理的に孤立してるから、隣村との横の連絡が悪くて襲いやすい。いつまで経っても連絡が無いから、見に行ったら全滅してたなんて事がザラにあって…。済まないね」

 

 セドナは頭を垂れた「その為に海賊討伐に乗り出したのだが、間に合わなかった」と。

 

「やつらは建物に火をかけて、村人を捕まえてた」

「奴隷だね。特に若いウサ耳は奴隷として高価だからね」

 

 グラン王国では王の方針もあって、罪人以外の奴隷取引は禁止されている。しかし、蛇の道は何とやら。裏ルートという物も存在し、更に外国では奴隷取引は合法だ。

 つまり王国を出てしまえば、奴隷は売り放題なのである。

 

「あたしは奴らの目を盗んで海に飛び込んで…それから」

「この船に拾われた。危なかった。聖句がなかったら死んでたよ」

「そうだ。村は、村はどうなったのか!」

 

 ニナが捕らえられたのは初期だったので、惨劇の一部始終しか見ていない。

 セドナは「ついてきな」と言うと、船室を後にした。そう言えば、さっきから揺れが少ない。この船が航行中ではない印だ。何処かに着岸しているのか。

 上甲板へ出る。

 目の前に広がるその光景に、ニナは目を見開いて絶句する。

 変わり果てた故郷の姿がそこにあった。

 

〈続く〉

 

〈エロエロンナ物語16〉

 

 本来なら、教会のバックヤードは聖職者しか入れない。

 そこは関係者の生活区画であり、また、秘技が行われる神聖な場所であるからだ。

 だけど、あたしはそれを無視した。緊急事態なんだから神様だって許してくれるだろうと信じて。

 

「シスター、ルイザ。何があったのです?」

 

 真っ先に、その部屋に飛び込んだのはマドカ。

 贋聖女の姿はない。そしてルイザは部屋の中央で気を失って倒れている。

 部屋の窓は開いており、風にカーテンが揺れていた。

 あ、窓がでっかいガラス窓だわ。凄い、小さいけど教会って高級建材を使えるのね。

 

「姫様。これは誘拐でしょうか?」

「まだ、そう結論するのは早いわ」

 

 そんな中「フローレちゃーん」と叫ぶのはワールだ。何と言うか、鬱陶しい。

 ルイザに駆け寄って介抱するのはレオナ。双子の姉妹だそうで、レオナの方が姉であるらしい。髪の長さ(レオナの方が長い)を除けば、姿はそっくりだ。

 

「聖女様はどうしたのですか?」

 

 ようやく意識を回復したルイザに対して、厳しい顔をしたマドカが問う。

 がくがく震えるルイザは、青い顔をマドカへ向けると口を開く。

 

「…消えたのです。あの男が…、聖女様を連れて行こうと…でも、聖女様は」

「【転移】魔法ですか?」

「違います。ああっ、聖女様が、聖女様がかき消えて!」

 

 恐怖と興奮の入り交じった回答。

 誰かがこの部屋に現れて聖女を連れ出そうとした。悲鳴を上げつつも、ルイザともみ合っているうち、突然、聖女が消失した。

 ルイザから何とか聞き出した話を総合するとこうなる。

 贋聖女は文字通り、影が薄くなるとドロドロに溶けて空間にかき消えたらしい。その光景を目にしたルイザは恐怖のあまり失神。

 気が付いたら、部屋へ侵入した男。いや、多分男だろうと思っただけで、性別も未確認なのだが、の姿は無く、介抱されていたとの話なのよ。

 

「表面から、バターの様にドロドロと溶けた…。怖いわね」

「でも、シミ一つ残ってませんよ」

 

 ニナの指摘通り、部屋にはそんな痕跡はない。

 割られたガラス窓。寝台や椅子等の乱暴に引き倒されたり、動かされた家具類はあっても、何かが溶けて作ったシミの類いは床には見当たらなかった。

 マドカが問うた様に【転移】の可能性もあったが、転移前に身体が崩れると言ったホラーな現象が起こるのは聞いた事がない。

 

「確か、イブリンは【転移】を使えなかった筈だし」

 

 その男とやらの事も気になる。

 マドカとレオナはまだ震えてるルイザから色々と聞き出そうとしているが、要領を得ない模様だ。一人、ワールだけが手持ち無沙汰で唸っている。

 

「なぁ、ここで何かやってるより、とっとと、その襲った奴を追っかけた方がいいんじゃねーか?」

「相手の特徴も判らないのに? 闇雲に探しても無駄よ」

 

 とマドカ。まぁ、それはそうね。だいぶ時間が経ってしまっているから、既に雑踏の中に紛れ込んでるわよ。

 

「小柄な男。いや、人物なのね?」

「は…はい」

「ルイザ。顔立ちは?」

 

 姉が誰何する。

 

「頭巾を被ってましたから詳しくは…。

 身長は私と同じ位でした。そう…そうだ。赤い長衣をまとっていました」

 

 そこまで話した時、「よし」との一言を残して立ち上がるワール。

 

「それだけ聞けば充分だ。俺はフローレちゃんと賊を探しに行くぜ」

 

 言い残して、開いている窓から身を躍らせる。脱兎の如く走って、あっという間に視界から消えてしまう。

 

「…あの莫迦は放っておいて良いでしょう。

 さて、レオナ。済まないけど応接間の用意を。エロコ様とニナ様。取りあえず、今後の事を話し合いませんか?」

 

 そう言い切るマドカの態度に、有無を言わさぬ物が混じる。

 贋聖女が居ない今、ここには用は無いから、とっとと退散したかったんだけどね。

 あたしは困惑しながらも、了承するしか無かった。

 

           ◆       ◆       ◆ 

 

 串焼きは庶民の食べ物だ。

 小さく切った肉や野菜を串刺しにして炭火で焼き上げる料理で、屋台や居酒屋のメニューであり、間違っても上級貴族の食卓に上がる様な代物ではない。

 もっとも、男爵以下の下級貴族になると話は別だ。体面から住居なんかはそれなりに贅を尽くすが、日々の生活は少し羽振りの良い庶民レベルで、大抵が割合質素である。だから、串焼きもお馴染みの料理となる。

 貴族だからと言って、全員が毎日豪勢に舞踏会を開いたり、金銀財宝を買い集めたり、酒池肉林の豪勢な飲み食いなんかは出来ないのだ。

 一応、中級貴族で子爵令嬢のユーリィだが、串焼きとは長い友達である。と言うか、お酒の友だ。別の屋台で買ったエール片手に串焼き屋を訪れる。

 

「ここの店が一番のお勧めだよ♪」

「はあ…」

 

 広場の一角にやって来たイブリン達は、そんな訳で子爵令嬢の太鼓判を押された串焼き屋へとやって来ていた。

 しかも、ちゃんとエロコ達が入った教会を視角へ収めている。ここら辺は抜け目がないのが、『闇』予備軍と言うべきか。

 

「おっちゃん、豚串と鳥串二つずつね♪」

「へい。まいだり」

 

 慣れているのだろう。ユーリィは子爵令嬢とは思えぬ気楽さで、串焼きを注文して行く。

 イブリンは警戒しつつ、周囲に目を配る。丁度、広場の一角で乱闘騒ぎを起こっており、それに注目せざる得なかったのだ。

 

「ん♪ どしたの?」

「いえ、女性が何やら因縁を付けられていますので」

 

 焼き上がった串を両手に持って、満面の笑みを浮かべるユーリイに対して、イブリンはそう指摘する。

 視線の先、ここから30m程離れた露店で如何にもやくざぽい男共が、小柄な女性の襟首を引っ立てて怒声を浴びせている。

 女は何か反論している風に見えたが、男共は問答無用とばかりに女の顔へ拳を突き入れる。そのまま、路上へと吹き飛ぶ姿を見たイブリンは、自然に駆け出していた。

 

「おやめなさい」

 

 思わず立ちふさがる聖女。

 ユーリィは「あちゃー」と顔に手を当てて呟くが、ほっとけないので串焼きを頬張ってから、もぐもぐ咀嚼しつつ現場へと向かう。

 

「そいつをかばい立てするのか!」

「そいつは店の品物を壊し、とんずらしようとした悪党だぞ」

 

 男二人が吼える。

 良く見ると、男達の店、まぁ、床に敷物を敷き、天幕を張っただけの露店だが、の商品はかなり乱雑に破壊されている。

 陶器中心なのが致命的で、皿や置物なんかは割れて使い物になりそうもない。

 

「でも暴力は、女性に手を上げるのはいけません」

「この野郎。お前も仲間かっ」

 

 イブリンに向かって手を振り上げる。しかし、その手をぐいっと捻る者が一人。

 

「はいはい、そこまで、そこまで。

 この喧嘩、ユーリィ・リリカ子爵令嬢が預かるよ♪」

「いててて、って子爵令嬢?」

「損害は市(いち)の責任者通して、リリカ子爵家へ請求書回してくれれば、対応するよ♪」

 

 にんまり笑うユーリィの顔が、悪鬼に見えるのは気のせいか。

 男共の顔から怒気が薄れて行く。イブリンはそれを無視して、地面へと投げ出された女性の介抱を優先していた。

 

「い、いやぁ、子爵家の手を煩わせる程では…、なっな」

「兄貴の言う通りでさ」

 

 ユーリィは少し考えるそぶりをして、それから懐から金袋を取り出す。

 

「ふーん…。でもそれじゃあ、リリカの名が廃る。損害額は銀貨50って所だね。でも、手持ちは20しかないけど…。足りない分はこれから市の事務へ行って…」

「いや、20で結構です」

「悪いね♪」

 

 金を受け取ると、そそくさと店を畳んで男達は去った。

 市の認可を受けてない無許可屋台だったかと目星を付けていたが、どうやら正解だったらしい。30儲けたが、先月、国から貰った士族昇格の支度金はこれでパァだ。

 ユーリィは視線をイブリンの方へ向ける。

 女の着ていた赤い長衣を脱がし、服も緩めて介抱しているのが目に入る。

 

「どう?」

「良くはありませんね。この方、殴られた影響だけでは無く、

 どうやら、元々病も患っていた様です」

 

 いつもは禁じ手だとされている、【癒やし】の聖句を唱えたからか、死にそうな顔色が生気を帯びた物へと徐々に変わって行く。

 小柄な身体は少女かと思ったのだが、どうやら違うらしい。

 一見、顔から見た目は若々しく見えなくはないが、これは妖精族の種族的特徴に過ぎないのだろう。かさかさの肌の張りや艶色の具合などから、それなりの年齢を経た大人だと思われた。

 

「エロコ様とは別々になってしまいますが、とにかく、別の場所に運んだ方が良いですね。ここでは手当もろくに出来ません」

 

 イブリンの言葉をユーリィも認めざる得ない。

 エロコなら、あのニナとかに任せておけば大丈夫だとの見方もある。それよりも聖女の監視と護衛の方が優先事項だ。任務序列から言ってしまえば、だが。

 せめて交代要員を送ってくれ。との要求は却下されてるのがきつい。ローレルに「あたいは単なる学生だぞ」と抗議したが無駄だった。

 

「了解♪ どこへ運ぶ?」

「ここからですとエロイナー商会でしょうか。私、王都の場所って良く分からなくて、お医者様の所が良いんですけどね」

 

 法都育ちで、ずっと士官学校で生活していたから無理も無い。

 ユーリィは頭の中で地図を思い浮かべ、幾つか使えそうな場所をピックアップする。

 闇医者ベッケルの所が一番近いか。

 

「容体は安定してるね。なら、そっちを抱えて♪」

「はい」

 

 肩に手を回して二人がかりで運ぶ。

 本当はユーリィだけでも大丈夫なのだが、このお嬢さんを自由にさせたらどこへ行くか気が気じゃない。患者運びに拘束しておこうとの配慮である。

 よっこらせと歩き出したユーリィら三人を、影から見張っている人物が尾行していたのを、イブリンは気が付いていなかった。

 

           ◆       ◆       ◆ 

 

 マドカがあたし達に語る話とは、要は口止めの事だった。

 それと自己紹介以上の突っ込んだ話、あたしの身分とか何者かに関してね、を問われて話したわ。勿論、馬鹿正直に全ては明かさなかったけど。

 同時にマドカやら、ワールやらの過去話を聞いたのもこの場ね。

 双子の神官、レオナとルイザの話なんかも聞けた。この教会に元から勤めていた神官で、初歩的な聖句魔法(六級相当)を使える、若いけどなかなか優秀な子達らしい。

 教団の経営する孤児院の出だそうで、その関係から神官になってずっと務めていたけど、いよいよ借金で首が回らなくなっていた所に、マドカらが現れて救ってくれた為、そのマドカを教会主へ推した本人達でもあるわ。

 

「ではエロコさんは士族でいらっしゃるのですね」

「なったばかりで、荘園とかも所有してませんけど」

 

 はったりでも、エルダでは身分ってのは武器だ。

 ヒトの価値は身分のみに非ずってのは解っているわ。でも世の中は封建制が基本なのだから、階級はヒトの価値の上下を決める物差しの一つとして使われてしまう。

 平民と貴族階級の間には、厳然とした差が生ずる。それが今の世の中の常識だ。

 

「聖女様消失の話、出来れば世間に広げない様にお願いしたいのですが…」

「それは出来かねます。無闇に口外は致しませんが、必要ならば、然るべき方々へ報告する義務があります。軍人ですので」

 

 この身分秩序から、やや外れるのが神職ね。

 無論、平民よりは偉い。俗的世界の身分に換算すれば、司祭ならば下級貴族。司教で中級貴族。幹部級の枢機卿クラスで上級貴族とほぼ同等と見られている。

 つまり、司祭の権威で、士族であるあたしに対して口止めしようとするのは駄目って話になる。ほぼ、身分が対等だからね。

 だから、はっきりと断りを入れたわ。

 もし、あたしが士族令嬢と言う限りなく平民に近い身分だったなら、このままマドカに押し切られて、「口外するな」との約束を一方的に押しつけられてたかも知れない。

 良いタイミングで士族身分を手に入れたわよね。国王に感謝。

 

「ですが、協力は致しましょう。

 この不可解な事件を解決したいと個人的には思っておりますので」

 

 とも付け加える。

 これは本音だし、向こうに不安材料を与えて敵対はしたくないからね。

 

「有難うございます」

「では、そろそろ退出しても宜しいですか。別所に知り合いを待たせてありますので」

 

 イブリンが心配で、余り長居はしたくないのが本音。

 

「奴らのアジトを発見したぜ!」

 

 勢い込んでやって来るのは自称、義賊。

 

「奴らって、ルイザを襲った賊の事?

 仲間が居たの」

「ああ。尾行して奴らの入った建物を確かめた。ここは踏み込んで一網打尽だぜ」

 

 言うなり部屋の一角から荷物を引き出して、クロスボウだの長剣だのと、かなり危なそうな武装を整えて行く。

 あー、何か解ったら連絡頂戴ね。とばかりに「では、いずれ報告をお願いします」と言い残して、あたしとニナは退出。

 

「姫様、良いのですか?」

「これ以上、関わり合いになるのは御免よ。それに贋聖女に関しては『闇』が、多分動くと思うから、そっちの方の報告を頼りにしましょ」

 

 とニナに答える。クエスターの力を侮る訳じゃ無いけどね。

 とにかく今は正真正銘の聖女様との合流の方が先だけど、教会の出口には見当たらないわね。

 

「その娘達なら、クロンフト通りの方へ歩いて行ったよ」

「有難うございます」

 

 ニナが情報を集めてきたけど、何かいざこざがあったらしいわね。

 

「クロンフト通りはエロイナー商会方面だわ。一旦、商会へ戻ったのかしら」

「恐らくそうでしょう。あれ、姫様、先程の義賊小僧達ですよ」

 

 物々しく武装したワール達が、小走りで駆けて行く。

 これから出入りなのか、お疲れ様。

 

「ここに居ても仕方ないわね。では、我々も戻りましょうか」

「はい、姫様」

 

 ちゃっと眼鏡の位置を直すと、あたし達は歩み出した。

 ここからエロイナー商会まではほんの数分。一旦、街路を幾つか変更して高級住宅地を通り抜けて行く方が近い。

 都市にしては広い間取りの敷地に、ゴージャスだけど瀟洒な建物群。大半が貴族が王都に用意したタウンハウスだ。が並んでいる。

 いつかこんな屋敷を構えてみたいわね。かなり煩いけど…。

 ん、煩い?

 

「何の音?」

「剣戟の音に聞こえますが…」

 

 チャンチャンと剣同士がつばぜり合いをする音だ。

 ある屋敷の一角、その庭で二人の人影が剣で渡り合っているのが見えた。

 長剣を細剣で華麗に受け流し、長い金髪を優雅に揺らしながら、余裕の表情で舌舐めずりする女性。

 

「くっそお、強ええ!」

 

 相手はワール。そしてその相手は…。

 

「や、エロコとニナじゃん♪」

 

 ユーリィ・リリカ。学友だった。

 え、どうして、何でこの二人が剣を交えてる訳?

 あたしは頭の中が真っ白になったわ。

 

〈続く〉   




次回は〈実習航海編3〉の予定。

交互に別の話を書いてるのは、一つに集中すると詰まってしまう事か多いので気分転換を兼ねてです。
自分だけかも知れませんが、「あー、筆が進まない」となった時、全く別の話題を文章にしてれば、気分が一新されてその内書ける様になるんですね。
ただ、時として二つとも筆が進まなくなる事態に陥ったりもします(笑)。

次の更新は一週間後を予定してます。

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