エロエロンナ物語   作:ないしのかみ

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前のヤシクネー同様、<幕間>投下。
本編の前を飾るには、多少、文章量が多めになってしまったと言う理由有り。
むぅ、もっと短く書かないとなぁ…。

だから次回の実習航海編2には、<閑話>も<幕間>もありません。



〈幕間〉、竜騎兵

〈幕間〉竜騎兵

 

 軍の精鋭部隊。

 騎竜槍(ドラゴンランス)を構え、地上の敵を蹂躙して行く姿は圧倒的で、無敵の天翔る騎士団として勇名を馳せた。

 そう、そんな風にもてはやされていた時期があった。

 第一次、第二次グラン大戦(帝国側呼称。王国側では逆にマーダー大戦と呼ぶ)では、その機動力を生かして敵を翻弄した花形部隊であった。

 

 しかし、その栄光は今は昔。

 復古(ルネサンス)運動によって旧古代王国の技術が発掘され、軍に改良型弩砲(バリスタ)の配備が広まるにつれて、主戦場では活躍する場が狭まった為だ。

 竜と言っても、軍が使用するのは亜竜であるのも拍車を掛けた。

 亜竜とはいわゆるワイバーンの事である。

 大きさは成竜で大体、全長10m、翼長は12m程。赤色系の鱗で覆われており、前肢はなく、後肢に鋭いかぎ爪を持っている。

 本物の竜と違って竜の息(ドラゴンブレス)は吐けない。おまけに知能は低く、この為、長距離攻撃手段がない。

 育成するのが大変で(下手すると騎手すら食おうとする)、維持費も高価(肉食なので餌代が掛かる)。だから数を揃えられない。

 加えて補給も難しい。亜竜は一日に100Kg近い肉を食べる。

 この大食らいの為に運用はかなり制限されていた。一頭でこれだ。部隊が進撃する時にどれ程の負担を兵站に与えるのか、想像して見るが良い。

 それが訓練をされてるとは言うものの、単なる弩砲を操る一般兵に太矢(ボルト)を投射されて次々と串刺しにされるのだ。軍としてはたまった物ではない。

 

 無論、竜騎兵側も問題を座視していた訳ではない。

 時代の趨勢に会わせて騎竜槍を捨て、武器を連弩や投擲槍に持ち替えて延命を図る。つまり敵に対して射程を得る事で、アドバンテージを保持しようと努力したのだ。

 騎竜槍による空からの襲撃で、高らかに自分の名乗りを上げ、地上の兵を次々と葬る古来からの勇壮なイメージから、相手が届かない高度から槍を投擲したり、連弩を撃つ戦法になり、多くの竜騎士が「格好が悪い」や「卑怯極まりない」としてその座を辞したとも言う。

 いや、卑怯極まりないのであれば、「地上の兵と戦うのだから、お前も竜から降りて戦え」と言いたくなるのは、筆者のひがみであろうか?

 それでも騎竜部隊は軍の花形、正面決戦兵科から、偵察や哨戒、或いは遊撃任務に回されて残った。空を飛べるのは他兵科に対してアドバンテージであったし、その移動力も軍で随一の物であったからである。

 特に弩砲を持たない、或いは行軍中で展開出来ない敵に対しては、かなり優位に戦いを進められるからだ。

 

 新暦800年代、高名なクエスター(冒険家)、ドルス・ワイルダー卿が西大陸で発見した竜の新種が、騎竜兵科に最大の衝撃を与える。

 草食竜(グラスドラゴン)、略して草竜なる飛竜が中央大陸へともたらされたのだ。

 従来の亜竜に比べると飛行速度も遅く(亜竜は最大飛行速度約300Km/hであるが、その3分の2)、総合性能で見れば劣るが、竜運用の最大のネックだった補給問題が劇的に改善される見込みが立ったのだ。

 彼らの餌は草や穀物と言った、植物性の物である。

 まぁ、草竜も軍馬並みに食うのだが、それでも腐り易く、確保に困難な肉を大量に用意する手間から解放されたのは大きい。

 生育の難しさは余り変わらず、価格も軍馬の数倍に達するので相変わらす調達は困難だが、せいぜい十数頭単位だった竜が、数百頭単位とこれまでとは比べものにならぬ数の竜が、各国の軍に配備されたのも分からなくもない。

 ただ、やはり戦力としては期待されておらず、伝令や輸送方面へと比重が移ってしまったのは仕方の無い事であろう。

 

 草竜の発見は、軍のみならず、民間にも竜が普及する副次的な効果ももたらせた。

 どう猛な性格の亜竜と違い、草竜は比較的温厚で、かなり臆病であったからである。

 軍馬も同じであるが、戦竜は戦場に必要とされる胆力、槍衾に突撃したり、矢玉飛び交う戦場で平然と飛行したりする、いわゆる戦場慣れが必須だ。

 そうでないと竜はパニックを起こして勝手に戦場から離脱するし、時には騎手を振り落として墜死させてしまうかも知れない。

 だから、育成時にこうした戦場慣れを覚えさせるのだ。それ故、戦場に出る軍用竜に育成する場合、これが覚えれない大量の失格竜が出てしまう。

 この失格竜は安価で(いや、それでも馬の数倍は高いのだが)民間に放出され、民間、特に富裕層へと竜を普及させる事となる。

 失格竜でも戦闘に使わず、ただ飛ばすだけなら何の問題も無い。専門調教師が必要だった亜竜に比べると、まだ素人にも世話が手に負えるのも幸いしている。

 草竜は亜竜に比べると小型で、成竜で全長8m、翼長10m程。緑系の鱗に覆われている。残念だが、やはりドラゴンブレスは噴けない。

 ドラゴンとの名が付いているからも判るが、亜竜と違って手として使える前肢がある。後肢はやはり鋭い爪を持つが、民生竜では危険防止用に爪を切ってしまう事も多い。

 

 余談だが、肉食と草食の違いだろうが、亜竜の肉が臭みがありすぎて食用に向かない(でも食える)のに対し、草竜の肉はかなり美味しく食べられる。味はトカゲに近い淡泊な感じである。

 竜騎士が泣く泣く、戦死したり処分した己の騎竜を食うとの逸話は、草竜が導入されて以後、劇的に増大したのもそのせいであろう。

 滅多にないが、竜肉は時には肉屋にも卸される事もあるので、もし機会があるなら食べてみるのも一興だろう。

 

ヒンケル・バルガリア著、『帝国軍学史』より




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