さぁ、皆もヤシクネーの謎を一緒に見てみよう(笑)。
改訂。
糸吐く量を増量しました。代わりに操糸性能が低くなってます。つまり、アラクネーみたいに自由に糸を操れないのね(ウェブ状にも出来ないし)。
〈幕間〉ヤシクネー
ヤシクネーとは南洋に生息する魔族である。
場所によってはヤシガニーとも言われるが、これは蔑称であって彼女たちを怒らせる事もあるので慎むべきである。
アラクネーの亜種だと言われるが、アラクネーは蜘蛛の下半身を備えた女系魔族で、魔物として忌み嫌われるのに対して、ヤシクネーは性格は温厚で、社会性を持っているのが幸いしてか、ヒトや亜人と混じって共同生活をしている場合も多く、魔物ではなく明確に魔族に分類される。
上半身はヒト種の女性。ヤシガニの下半身を持つ。ヤシガニ部分の第二胸部は硬い甲羅に覆われているが、時期が来ると脱皮する。脱皮した直後の身体は柔らかくなってしまう為に外敵に対して危険で、これが原因で専ら単独行動を好むアラクネーと違い、群れを作って行動する様になったのではと考えられている。
また、ヤシガニと同じく、第二腹部は第二胸部と違って殻に覆われていないので、普段は内側に折り畳む形で保護している。この腹部には糸を吐く発射口があるが、機能的には退化しており、「やろうすれば、糸を吐けます」程度で射出量はあるが操糸性能は低く、武器としては心許ない。
計八本の脚の内、前の二対は大きな鋏が特徴で主に木に登るのに使う。挟む力は強く、その気になればヒトをあっさりと切断してしまう程だが、彼女らは武器としてより作業肢に位置づけており、ココ椰子を割ったり、重い荷物を持ち運ぶのに用いている。
これはもし戦闘で鋏が取れてしまうと、再生に時間が掛かりすぎる為であるらしい。実際に戦うよりも威嚇用に近い。
ヤシクネーは哺乳類であり、胎生だ。
下半身が甲殻類なので誤解が大きいが、子供を産んだ後にちゃんと上半身の乳房で授乳する。また妊娠中は上半身のお腹が膨らんで臨月を迎えるため、生まれる個体にはへそがある。
中位魔族だけあって受胎確率は低いが、これを多産で補ってるらしく一回の性交で大抵は数人を孕む。そして上手く受精した場合はこれでもかと子供を産む。
過去、最大83体を同時に出産した記録もあるそうだ。
生まれたての子供は掌に載るくらい小さい。鋏は未発達なので、危険から守る為に母体は、我が子を下半身の第二腹部にある子袋に収納して育てる。
糸を吐く穴が出入り口で、この状態では彼女らは糸を吐く事が出来ない。これが糸を吐く機能が退化した理由だと考えられている。
下腹部に子供を収納している時は、折り畳んだ第二腹部が不自然にぼこぼこ動くのですぐそれと分かる。子供の数が多すぎてパンパンに膨れ上がっている場合もある。
ある程度、子供が成長したら子袋から外界で育てるのに移行するが、子供にとっては子袋が居心地良いらしく、子袋に入りたがる者が絶えない。
かなり大きくなっても子袋に入っている例が見られるが、有袋類風に顔だけ外に出して母親にぶら下がっているのは、かなりシュールな光景である。
子供は鋏が生え揃うまでは授乳で育て、その後は通常食に切り替える。
主食は椰子の実など主に果実であるが、実は雑食性なので何でも食べる。
アラクネーと違ってヒトや亜人を食べる事は稀であるが、人里に定住せず、個で放浪している個体は食べないとも言いがたいので注意が必要である。
味覚はヒト寄りらしく、甘い、辛い、すっぱい、等の五感も持ち、料理も嗜むものの、どちらかと言えば生食が好物。狩りをしたら獲物をその場で解体し、鋏で引きちぎってばりばりと食べてしまう事もある。
外殻を再生する為に、脱皮した己の甲羅を食べる光景も珍しくない。
骨格で言うならばヤシクネーを含む節足類型女系魔族は、外骨格と内骨格のハイブリッド型で、大きさの大半を占める下半身には骨はなく、完全な外骨格型であるが、女性の胴体部分にはちゃんと骨がある。
よって骸になると、ちゃんとシャレコウベを含む骨が残る。だから彼女らも骸骨が怖いとの感情を持っており、スケルトン等を見ると恐怖を感じるらしい。
魔法的な種族なので、かつては多彩な魔法の才を持っていたらしいが、現在は【魅了】の技以外に生来持ってた魔法を扱える個体は稀である。
ただ、後天的に訓練された個体は強く、優秀なクエスターに成り得るが、その姿からヒトに誤解され。忌み嫌われる事が多いので、冒険者として活躍する者は少ない。
熱帯や亜熱帯生まれで寒さに弱いとの欠点も、クエスターとして活躍出来ない原因でもある。20℃以下になると活動が鈍り、零下になると生存の危機が訪れる。
約一万年前、超古代文明が滅びたと同時に到来した魔族の大量発生。
その軍勢の一員として姿を見せたのがヤシクネーである。
彼女たちは優秀な補給部隊であった。常に上位の魔族に命令され、数々の戦場に姿を見せた。そして文字通り、身を粉にして魔軍に尽くされるのを強要された。
ヤシクネーは魔族にしては、それなりの力を持っているに過ぎない。そして温厚で本来は戦い好きな種族では無い。だから戦力として期待された訳ではなかった。
生きた食料。それが彼女らに与えられた仕事。
実はヤシクネーは美味いのだ。脚や大型の鋏には弾力性のあるカニ肉が豊富で、上半身はヒトの肉。そして第二腹部には濃厚なミソがたっぷり詰まっている。おまけに多産だから、常に豊富な食料が得られる。魔族にとって理想的な生きた補給物資だった。
上位魔族に支配され、骨の髄まで舐め尽くされる彼女たちヤシクネーが、奴隷の境遇から脱走してヒト側へ味方したのも分からなくもない。
そうして生き残った子孫が、今、南方で生活を送る彼女たちである。現地住人もその当時からの子孫であり、互いに手を取り合って共同生活を営んでいる。
だが、今でもヤシクネーは自分と同等以上の魔族に対してはこう口走る。
「た、食べないで下さいっ!」
悲しき歴史に刻まれた本能なのであろう。
皇国図書館編『魔族事典』
次回は偽りの聖女編2の予定です。
〈外伝〉の実習航海編と交互に掲載の予定。
実は手違いで偽りの聖女編の原稿が電子の彼方へ…Orz。
もう一度、プロットを練り直して一から再掲載の予定です。一週間程待っててね。
ヤシクネーは本来、実習航海編2の冒頭を飾るはずだったのですが、代原として単独掲載します。