王子の弟という頭の痛いお仕事   作:ドラオ

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真実

塔を出て、ドラきちと合流した俺達は、ひとまずラインハットに向かうことにした。

 

「ところで、何のためにラインハットへ行くのです? 帰郷ですか?」

 

そうか……まだピエールには話してなかったな。

 

「実はこの10年。色々あってさ……」

 

俺は、奴隷として10年間過ごしたこと、仲間とはぐれてしまったことを話した。

 

「そんなことが…」「知らなかったキー」

 

ドラきちも俺が奴隷になっていたことを聞いて驚いていた。

 

「ラインハットにはまだ行ってないから、あとはそこだけが望みなんだ」

 

沈黙を保っていたマリアさんが口を開く。

 

「あの……その前に修道院で泊まっていかれませんか? 皆さんお疲れでしょうし」

 

そうだな。今日は階段上りまくったし。

 

「では、お言葉に甘えて」

 

修道院の一室を借りて一晩泊まらせてもらうこととなった。

 

__________

 

 

コンコンッ!

 

戸を叩く音で、俺は目を覚ました。

 

「アレンさん、よろしいでしょうか」

 

「どうぞ」

 

マリアさんだ。部屋に入って俺の前までくるとそのまま正座をしそうだったので俺が慌てて制すと、やがて神妙な面持ちで口を開いた。

 

「私を、ラインハットまで連れて行ってください」

「わかりました」

 

「えっ……」

 

「まさかの即答? いいのかキー」

 

「もちろん」

 

すると、ピエールが不思議に思ったのかマリアさんに尋ねる。

 

「マリアさんはどうしてラインハットへ?」

 

「聞くな、ピエール」

 

マリアさんは顔を真っ赤にして俯いている。ちくしょう、ヘンリー兄さんには惜しいぜ。

 

「では、さっそく城へ向かいましょう」

 

 

元王子と魔物と修道女の奇妙な旅が始まった。そんな俺達は関所まで戻って、トムさんと再開した。

 

「アレン王子!」

 

「さっきぶりですね」

 

「お連れの方も増えてますね……あっ、そうだ! 先程、ヘンリー王子とそのお仲間がここを通ってラインハットへ向かわれましたよ」

 

それを聞いた俺は驚きのあまり大声を出してしまった。

 

「本当ですか!」

 

そうとなればラインハットで合流するだけだ。

 

「しかし、実はラインハットは大変なことに…」

 

「……なにがあったんです?」

 

「王が亡くなられてからはデール王子が王位を継いで国を治めているのですが、実権を握っているのはデール王の母、太后様なのです。その太后様はならず者を雇い、兵を集めています。聞く話によると、世界を支配するおつもりなのだとか。王子、どうか……」

 

「わかっています」

 

父さんが亡くなっていたことには驚いたが、ラインハットの実情を聞き、のんびりしていられなくなった。

 

「なぜもっと早く、あの時言ってくれなかったのです」

 

トムさんは俯いてしまう。

 

「何やら深刻そうなお顔をされていたもので…」

 

……

 

「とにかく、ありがとうございます」

 

礼を言ってから一度外へ出る。俺は袋からキメラの翼を取り出し、ラインハットまで連れて行くように強く念じて放りなげた。

 

すると、俺達の体は上空へと飛ばされ、ラインハットまで連れていかれる。

 

「うおぉ、一種のアトラクションですね、これは」

 

「よし、急ごう」

 

到着するなり俺達は、城下町を走り抜け、王座まで急いだ。しかし困ったことに、城内では入口を兵士が守っていた。

 

「私はアレン王子である。中へ入れてくれ」

 

「嘘をつけ、アレン王子は10年前に既に亡くなられている」

 

死んだことになっている……そりゃそうか。母は俺を殺すつもりだったしな。

 

「アレン、ここは任すキー! ……ラリホー!」

 

兵士は ねむってしまった!

 

「よし、王座まで行くぞ」

 

「王様に会う気かキー?」

 

「ああ。デールと話をしようと思う。あいつは俺の弟なんだ」

 

 

ようやく王座の間へ着いたが、デールはおらず、大臣が慌てているだけだった。

 

「なんだお前たちは? だが今はそれどころではないのだ。王がどこかから太后様を連れ出し、なんと太后様が2人になってしまったのだ!」

 

なんだって……?

 

「母さ……太后様はどちらに?」

 

「その階段を上がった所だ」

 

親切にありがとう。

 

階段を上がると1つの部屋があった。ここは元々王と王妃の部屋だった所だ。

 

「デール!」

 

「え!? 兄ちゃ……いえ兄上!」

 

「久しぶりだな」

 

「……まさか10年も前に死んでいたと言われた兄が生きていたなんて……しかも2人とも!」

 

抱きつきそうになり、慌てて手を取るだけに留めたデールに俺は優しい言葉を掛ける。

 

「よしよし……辛かったろう、国王という重荷を背負って。ずっと母さんの言いなりで」

 

「はい。うっ…う……」

 

「アレンさん、あれを見てください」

 

ピエールの声に現実へと引き戻される。

 

「どうした? ああ、母さんが2人ねぇ……」

 

さて、どうしたものか……

 

「果たしてどちらが本物なのでしょうか……」

 

ピエールの言葉に気付かされる。

 

「ん? そうか、本物。……真実」

 

つまり、こうすればいいんだな?

 

俺はラーの鏡を取り出し、2人の太后に向かって掲げる。すると、一方の太后が苦しみ出し、顔を押える。その体からは魔力のようなものが抜け出し、プスプスと音をたてながら醜い魔物の姿があらわとなった。

 

こいつが…

 

「母さん、デール、マリアさん、離れてて!」

 

剣を構える俺とピエール。偽太后は計画が崩されたことに憤りを隠せないようで、烈火の如く怒っている。

 

「ようやくここまで来たというのに、お前らのせいでっ! 許さんぞ!」

 

奴は何やらぶつぶつと唱えると、両手を上に向け叫んだ。

 

「我が下僕よ! ここに集い、我と共に戦うのだ!」

 

すると、奴と同じ醜い顔の魔物が召喚された。

 

ピエールが召喚された魔物を見て言う。

 

「エンプーサですね……単体ではあまり強くありませんが、群れをなすと厄介です」

 

俺達は湧いて出てきたエンプーサに囲まれてしまった。1、2、3……全部で8体か。これは厳しいな……

 

「アレンっ!」

 

バシュッ

 

突然、何者かによってエンプーサの1体が切り刻まれる。

 

「兄さん! アベル!」

 

「いやー、苦労したぜ。お前を探しにいったのにもういないからさ」

 

「ヘンリー、話は後にしよう。今はこっちが先だよ」

 

「よし、アレン! 雑魚は俺達に任せて親玉を叩け!」

 

「ありがとう、兄さん!」

 

俺は偽太后に向き直す。2体のエンプーサがそれを守るようにして立っている。

 

「ドラきちはブーメラン、ピエールは剣で攻撃しろ! ……イオラ!」

 

爆発が巻き起こり、エンプーサたちに襲いかかる。そこにドラきちがブーメランで追い打ちをかける。エンプーサたちは爆裂によってボロボロになった体を引き裂かれる。

 

「ええい、小癪な! はぁぁ…」

 

奴はまたもやエンプーサを召喚し、守りにつかせる。さらに続けて、火炎の息を吐いてきた。燃え盛る炎が俺達を包み込む。

 

「熱っ。みんな大丈夫か?」

 

自分にベホイミをかけながら2人を見る。

 

まずい、ドラきちが瀕死だ。

 

「ピエール! ドラきちを回復してくれ。仲間の命を大事に、だ!」

 

エンプーサたちはドラきちに任せておき、俺は偽太后に斬りかかる。だが、奴は怯まずに、仕返しに炎を吐いてくる。

 

くっ……近距離でくらい過ぎた。ぼーっとする……

 

「ベホイミっ!」

 

すぐにピエールが回復して助けてくる。さらにドラきちのブーメランがエンプーサを塵へと変える。

 

「よし、たたみかけるぞ! 集中攻撃だ。ガンガン行けっ!」

 

俺とピエールは奴に突撃、ドラきちも後ろから援護する。だが、敵も必死に火炎の息で反撃してくる。

 

今だ!

 

俺は襲いかかる炎に耐えながら、その口目掛けて剣を突き刺した。

 

「アガッ……」

 

奴は目を剥いて体を痙攣させると、やがて力なく腕を垂れ、白い灰へとなってしまった。

 

ニセたいこうを やっつけた!

ドラきちは ラナルータを 覚えた!

 

 

……ふぅ。色んな意味で熱い戦いだったな。

 

「アレン、よくやったな!」「見てたよ」

 

兄さんとアベルが駆け寄ってくる。

 

「2人とも、ありがとう! ……え、見てたって?」

 

「ああ、あんな雑魚を倒すのに時間がかかるわけないだろっ」

「アレンたちの活躍、後ろでしっかり見てたよ」

 

見てたなら手伝ってくれよ……

まあ、倒せたしいいかな。

 

 

 

それはそうと、魔物によって掻き回されたこの国の体制を直していくために、これからは俺達兄弟が協力して二度とこのような惨事を招かないように尽力するつもりだ。

 

 

「で、俺達を呼び出してどうした?」

 

落ち着いた頃に、デールに兄弟3人で話したいと呼び出されていたので、デールの部屋に来た。

 

「単純に、兄弟3人での話を久しぶりにしたいとも思うんだけど、実は兄上に」

「普通に呼びなよ。部屋の中でくらいは」

 

「うん、そうだね。アレン兄ちゃん」

 

兄ちゃんて……

 

 

「実は、父上が亡くなる直前にアレン兄ちゃんの話をされたんだ」

 

「俺の?」

 

「うん。兄ちゃん、驚かないで聞いてね。実は……兄ちゃんは本当の息子ではないんだ」

 

「知ってるよ。本当の母さんは俺が生まれてすぐ死んだって」

 

そのため血の繋がらない母親に育てられたわけだが、あの頃は大変だったな……

今は収まったが、昔は実の子の王位継承の邪魔という理由で義母さんに殺意を向けられたこともあったなぁ……

 

「そうじゃなくて、父上の子じゃないんだ。父上が言うには、兄ちゃんは赤ん坊の頃、船乗りに瀕死の状態の兵士と一緒に連れて来られたらしいんだ」

 

「兵士と船乗りと赤ん坊? よくわからない組み合わせだな」

 

兄さんが口を挟む。

 

同感だ。どういう状況なんだ?

 

「うん。その船乗りの話によると、海上で溺れかけていた2人を助けたんだけど、兵士が城へ連れていってください、と何度も言ってきたらしくて」

 

「それでラインハットに連れてきた訳か」

 

「そう。でも父上は、その兵士が言っていた城というのはグランバニア城のことだろうと気づいた。だからすぐに兵士を送って赤ん坊を届けようとしたんだ。グランバニアで起きている事件を知るまではね」

 

「事件って?」

 

「僕も詳しくは教えてもらえなかった……その事件のせいで、兄ちゃんを送るわけにもいかなくなり、仕方なく育てることにしたって」

 

「……そうだったのか」

 

俺はラインハットの子ではなかったのか……

 

「アレン、グランバニアに行けば何か分かるかも知れないぜ?」

 

「簡単に言わないでよ。父上から聞いた話では、グランバニアは山を越えた先にあって、魔物も多い。容易には辿りつけないんだ。兵を送ることを躊躇した理由の1つはそれだって」

 

「……そうか。でもアレン、この国のことは別に気にしなくていい。お前が好きなようにしたらいいからな」

 

「少し、考えさせてほしい」

 

「しっかし、俺達3人とも義のつく兄弟だったなんてなあ……」

 

「そうだね……あっ、兄ちゃん。どこ行くの?」

 

「部屋だよ。悪いけど、ひとりにしてくれ」

 

 

部屋を1つ空けておいてもらった。以前俺が使っていた部屋だ。何もかもがあの頃のままという訳ではないので、雰囲気だけ懐かしんだ。

 

「懐かしいな…」

 

俺はベッドに横になって目を瞑る。先程の言葉が頭の中によみがえってきた。

 

『兄ちゃんは本当の息子じゃないんだ』

 

誰かの実子ではないことには、母親のときにとっくに慣れていたはずだった。だが、母だけでなく父も、自分と血が繋がっていなかったなんて…

 

やはり、グランバニアに行くべきなのだろうか……

 

コンコンッ!

 

戸が叩かれる。

 

「……どうぞ」

 

このドアの叩き方、聞き覚えがある。もしかして…

 

「失礼しますわ」

 

「マリアさん、どうしました?」

 

「無理を言ってここまで連れてこさせてしまい、すみませんでした」

 

頭を下げるマリアさんに、俺は慌ててしまう。

 

「いえ、お気になさらないでください。マリアさんがいなければラーの鏡を手に入れることはできなかったのですから」

 

そして、母さんの偽物の正体を暴くことも……

 

「はい。……いえ、本当はそんなことを言うために入ったのではありません。とても悩んだお顔をなさって部屋に入られたものですから気になって…」

 

……

 

「何か困りごとでしたら話だけでも……いえ、厚かましいことですわ。失礼しま」

「待ってください。誰かに相談しようか迷っていて……でも兄弟にはこれ以上悩んでもらうわけにもいかず……」

 

マリアさんは微笑み、椅子に座る。

 

「聞きましょう。私にお力になることができるかわかりませんが」

 

息を整えて俺は話をし始める。

 

自分のことを話すのが……こんなにも辛いなんて。

 

「……俺は、父の本当の子ではなかったんです。俺が生まれたと思われるグランバニアに行けば真実がわかると言われましたがどうするべきか……」

 

机に置いたラーの鏡さえも、お前はラインハットの子ではないと睨んでいるように思えた。

 

「……グランバニア。私の生まれ故郷です。少し私の話をさせて下さい。」

 

俺は黙って頷く。

 

「私と兄はグランバニアで生まれ、何一つ不自由なく育ちました。いえ、母が、父親のいない分、困らないように育ててくれたのです。父は城の兵士だったのですが、私がお腹の中にいるときに行方不明に」

 

「そんな……」

 

「それでも母は女手一つで私に不自由ないよう尽くしてくれていました。幼い頃から母の苦労を知っていた私は光の教団へ……母を助けたい一心だったのに……」

 

「そうだったんですね…」

 

「……話が逸れてしまいました。……私は父に育てられたことはありません。ですが、貴方は違います。お父上の愛情を受けて育った、その方がたとえ本当の父親でなかったとしても。そう思えば血が繋がっているかどうかなど大したことではありません」

 

「……そうですね。父さんは、間違いなく俺の父なんだ」

 

「真実を知るかどうかはあなたが決めることです。……と、偉そうなことをすみません」

 

「い、いえ! …ありがとうございます。おかげで悩みは消えました」

 

俺の言葉にマリアさんは嬉しそうに両手をパンッと合わせる

 

「まあ! それは良かったです。それと、もしグランバニアへ行くというのでしたらアベルさんと一緒に旅に出てはいかがでしょうか?」

 

「アベルと?」

 

「はい。アベルさんは明日、伝説の勇者様を探す旅に出ると」

 

そうか、サンタローズにはもう行っていたんだな。

 

「ならば、俺も行きます」ガタッ

 

勢い良く立ち上がる俺をマリアさんが止める。

 

「ま、まだ夜ですので、今日はゆっくり休んでください」

 

マリアさんはお休みなさい、と言って部屋を出ていった。

 

「逃げるように帰っていってしまったな…」

 

ひとり呟き、再びベッドに横になると強い眠気に襲われた。

 

 

 

その晩、10年ぶりに深い眠りについた。




サブタイトル没案:2人はタイキュア!

主人公の出生の秘密については何話か後に書こうかと思っております。

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