王子の弟という頭の痛いお仕事 作:ドラオ
サンタローズを後にして、俺達はラインハットへと歩を進めた。
「もう行くのか。達者でな」
遠くからお爺さんが手を振っていた。
「はい! お世話になりました」
「人違いしてすまんかったのう。さっき、本当のパパスの息子、アベルが洞窟に入っていったわい」
ドラきちの鼻歌とかぶってよく聞きとれなかったが、取り敢えず俺は手を振り返した。
「ラインハットはこの方向で合ってるのか?」
ラインハットの西に、サンタローズがあると聞いてはいたが、それが正確な方角だとは限らない。
「ラインハットってどんなとこキー?」
「城下町は小さいけど、それなりに賑わってる国なんだ」
「ラインハットって国のことだったか。その城の場所なら知ってるキー」
「本当か! 小さい頃、俺はそこで暮らしていたんだ」
「その土地勘の無さに納得したキー。アレンって王子だったのか…」
魔物に王子という概念があるとは思わなかったな。
「……それで、ラインハットはどっちなんだ?」
「付いてくるキー!」
_____________
俺は途中で魔物とも戦いながら進んでいったが、川に道を阻まれてしまった。
「どうやらあの関所を通るしかないようだな」
川を越えるためには、関所を通過し、地下道を通らないといけない。
「オイラは飛べるから特に関係なかったキー……」
この関所は地下を掘り進めた時にできたもので、ラインハットの強い魔物が他の村や町へ行ってしまわないためのものだ。
関所に入ると兵士が地下道を塞ぐようにして立っていた。
「これより先はラインハットの国だ。太后様の命令で、許可証のない者は通すわけにはいかぬぞ!」
この見覚えのある感じ……まさか! トムさん……!
「トムさん! 俺です! アレンです」
「え? アレン……王、子……? ああ! 王子、よくご無事で!」
「やめてくださいよ。もう王子じゃないんですから」
あと、抱きつくのもやめてほしい。
「共にヘンリー王子に悪戯された日々、懐かしゅうございます。……ところで、ヘンリー王子は?」
「俺もそれを聞こうとしてたんです。けど、その様子だとまだ通っていないみたいですね。兄さんはこの間まで俺と一緒だったから無事ではあるはずですが……」
「そうですか……」
「ラインハットにずっといるということはないキー? それだったらここを通る必要もないキー」
「兄さんはそうするかもしれない。でもアベルは母親を探して旅に出るはず。……トムさん、他に誰か通った人はいませんでした?」
「私はここをずっと担当してますが、誰も通りませんねぇ…」
え、交代なし!?
死なないでよ、トムさん。
「……そうだ! オラクルベリーに行ってはどうです? 王子のことだから、そこで遊んでいるという可能性も」
「うーん……いないことを信じたいけど、行ってみるか」
「よく当たるという占い師もいるようですので、訪ねてみると良いかと」
「はい、ありがとうございます」
さっそくオラクルベリーに……
「あ、オラクルベリーってどっち?」
「…はぁ。本当に何にも知らないキーね。」
_____________
俺達はオラクルベリーのカジノで兄さんを探したが、何処にもいなかった。安心したというか残念というか…
「……ごめんください、1つ占ってほしいことがあるのですが」
入った先は、怪しげな部屋。紫に塗られた壁の棚には、趣味の悪いドクロの装飾品が置いてあって気味が悪い。
「何を占おうかね? 仕事、恋愛、それともお金のことかい? 」
「いえ、人を探しているのですが…」
「残念ながら指定して占うことはできないんだよ」
じゃあなんで聞いたんだよ
「手相占いがいいかい? それとも人相? タロットもあるよ」
「手相で」
「ま、どれもできないがね」
おい。
「あの…」
「わかっておる。既に結果も出ておる。まずは南の、修道院へ向かうのじゃ」
……
「あ、はい」
……
「終わりじゃ」
「……はあ」
途中、何この人めっちゃ仕事できるやんって思ったのに一言だけかよ! これで1000ゴールドは高いだろ。
あ、因みにドラきちは1コインだけ渡してカジノで遊ばせているんだが、思いの外勝ちやがって絶賛ハッスル中だ。さっさと回収して修道院に行こう。
「おーい、そろそろ行くぞ」
……って結構増えてるじゃないか!
「もうちょっと、もうちょっとだけ……」
キーは言わなくていいのか…
「もう行くぞ、一旦預けてまた遊びにくればいいだろ」
「キー……」
こいつは危ないな……当分、遊びには来ないようにしよう。
「今から修道院に行くぞ」
「修道院? 神の教えに目覚めたキー?」
「占いだよ。次にいけばいい場所だけ教えられてさ」
「ふーん……あっ! その前に、キメラの翼は買っておいたほうがいいキー」
「わかった」
忠告通り、道具屋でキメラの翼を買っておいた。空に向かって投げれば行きたい町や村まで一瞬らしい。
町を出て、暫く歩くと戦闘に入った。あと少しだったのになあ…
スライムナイトが あらわれた!
「この辺にいるなんて珍しいキーね。」
俺は剣を構えると、スライムナイトを斬りつける。しかし、奴はそれを躱すと反撃をしてきた。
「ぐっ…」
「大丈夫キー?」
「大丈夫。脇腹が致命傷だけど……ベホイミ!」
たちまち傷は癒えていく。隙を突かれないよう慎重にいかないと……
俺とそいつは、互いに剣を構えて向き合い、タイミングを伺う。
「メラミ!」
俺が先に攻撃。しかも剣を使うように見せておきながらの反則行為。続けて体制を崩した相手を斬る、1回、2回と。
2回目は剣で相殺されてしまったが、ダメージはいれることができた。このまま慎重さを失わず……
っておいベホイミ使うなよ、戦いが長くなるだろ!
「さっき使ってた奴が何を言うキー……」
ここは短期決戦といこうじゃないか。俺は剣を右手に持ち替え、ゆっくりと奴に近づいた。
キンッ
剣のぶつかり合う音が響く。すかさず俺は左手でメラ。しかし奴は難なくそれを避け、隙が出来たと思って全力で斬りかかってきた。その攻撃を俺は躱さずにタックル。左肩が死んだが、大したことではない。
ゼロ距離でメラミを撃って焼いてやった。
「大丈夫キー?」
「ベホイミ! ……ああ、大丈夫。奴が回復している最中に、スカラして防御高めてたから。というかお前何してたんだよ」
「ラリホーがなかなか効かなくて手こずったキー」
最後まで効いてなかったわ!
「アレン……さん。」
「うおぁっ! 生きてんの? てかなんで俺の名前……あれ?」
何か、思い出しそうだぞ
「お忘れですか?」
「もしかして……ピエール?」
「はい」
「なんだキー? オイラにも説明しろキー!」
「ああ。俺が幼い頃に……」
「アレンさんの説明は長くなりそうなんで私が。私がまだ未熟なスライムナイトだったとき、森で怪我した所をアレンさんが見つけ治療してくれました。短い間でしたが、共に遊んだ日々はとても楽しかったです」
「な、なんで短かったキー?」
「アレンさんのお父様に見つかってしまったのです。私は小舟で流されこの大陸に」
「大陸変わってないキーけどね」
「今思えば、追い出されたのは私が魔族だったからではなく、国王であるお父様の肖像画に落書きをしていたからだと思うのです」
「いや、後者の可能性は低いキー。どれだけ心の狭い人なんキー?」
「だから、こうしてアレンさんと再会出来たことが嬉しかったのです」
「途中本気で戦っているように見えたキーけど…」
「なんかもう、嬉しくなってきちゃって。私の全力をきっと受けても大丈夫だろうと思いまして」
「やめろよ、剣技はあまり得意じゃないんだから!」
「あれ、アレン話はどうしたキー?」
「もうとっくに終わってたわ! 聞いていれば人をサンドバッグみたいに……」
「まあまあ。それより、早く修道院へ行こうキー」
「そうだな」
「目の前なんですけどね…」
「そうだな……」
修道院に入ると、マリアさんらしき人物名を見つけた。あれ、金髪だったっけか?
「えっと、マリアさん……ですか?」
「えっ……まあ! アレンさん!」
本当にマリアさんだった! 金髪だったとは知らなかったなぁ。黒っぽいと思っていたのは煤か何かだったのか……?
……あの、いい加減心霊を見るような目はやめて下さい?
「皆さん探してらしたのですよ。アベルさんや、その……ヘンリー、さん……とか」
様子がおかしい。兄さんの名を言う時だけモジモジしている。
「そうだったんですね。アベルと」
「ヘンリー兄さんが」
「わっ」ビクッ
ははーん……
ヘンリー、の部分だけ強調して言ってみたが、そういうことか。
「あ、それで兄さんたちは何処へ」
「わっ、 ……わかりません。オラクルベリーへ行くとは言っていましたが、もう探されたのですよね」
「はい……」
わからず、か……
俺はふと、マリアさんの手元にある本に目をやった。
「それは?」
「あ、はい。伝説の勇者様の……」
「伝説の勇者だって!?」
「は、はい……ここから南へ行くと、真実を映すという鏡が祀られている塔があります。私はとても気になったので調べていたら、この文献が」
「その鏡と言うのは…」
「ラーの鏡と言います。かつては魔王を倒すために勇者様が使ったとか」
「勇者のその後については、何か書かれていませんでした?」
「いえ、それはなんとも……」
「そうですか……では、俺達にその鏡を取りに行くことは出来ますか?」
「ええ、何かしらの試練があると聞きましたが……詳しくはシスターに聞いてみて下さい」
俺は手で示された方向に目をやる。
あの青い服の女性がシスターだな。
すると、その女性は俺が話かける前に、声をかけてくれた。
「あら、アベルさん。思いがけぬお客様だこと」
「いえ、アベルは友人で、俺はアレンと言います」
「まあ、それでは貴方がマリアの話していた……それで、何かお困りですか?」
「はい。南にある塔へ行きたいのですが」
「あの塔の入り口は、神に仕える乙女にしか開くことは出来ないのです。とはいえあの場所には魔物も多く、女が行くには危険すぎます。ですので……」
「私に行かせて下さい!」
マリアさんはそう言ってシスターの元へ駆け寄る。
「この方は私にとても親切にしてくれました。それに、この私にもその塔の扉を開くことが出来るのか試したいのです」
ん? マリアさんって神に仕えてるのか? 初耳だ……
「そこまで言うなら止めはしません」
「ありがとうごさいます。私、足手まといにならないよう気をつけます。……さあ、行きましょう!」
念のため、ピエールたちには建物内では話さないように言っておいていた。驚かれるかもしれんが、マリアさんに仲間のことを紹介しておこう。
「こいつらは仲間の、ドラきちとピエールです。大人しいので、心配ないですよ」
「よろしくキー」「よろしくお願いします」
「わっ、喋った…」
すると、ピエールが尋ねてくる。
「ところでアレンさん、南の塔へ行ってどうするのです?」
「ああ、アベルの目的はいずれ伝説の勇者を探すことになる。もしかすると、魔王とも戦うことになるかも……」
ピエールの頭の上で羽を休めているドラきちに何度も目をやりながら、マリアさんが納得したように答える。
「それで、かつて勇者様が魔王を倒すために使った鏡を取りに行くんですね」
「そうです。さあ、この森を抜ければ塔のはずです」
俺達は南の塔へ向けて、険しい道のりを越えていった。
____________
塔の入口へ着くと、マリアさんは跪き、神に祈った。
「神よ! 我らを導きたまえ!」
すると、重厚感のある扉がひとりでに開いていく。
「やりました!」
「さあ、ここからはマリアさんを守るぞ。ピエールは後ろ、ドラきちは上を守ってくれ」
「はい!」「わかったキー!」
塔の中央は吹き抜けになっていて、中は意外にも明るかった。更には中庭まであるという凝りっぷり。感服いたします。
と思っていたら…
魔物のむれが あらわれた!
がいこつ兵が2体とわらいぶくろか…
「ドラきちはマヌーサしてからラリホー。ピエールはガンガン行っちゃって」
俺はすぐに仲間へ指示を送る。ドラきちはマヌーサでがいこつ兵1体を幻に包み、ピエールはわらいぶくろをたたっ斬る。
ところが、骨野郎たちはマリアさんに向かって攻撃を仕掛けてくる。それを俺は剣で受けとめ、ベギラマで火だるまにしてやった。しかし、うち1体は怯むことなく突っ込んできた。
「うぐぁッ!」
がいこつ兵の剣が俺の脇腹を抉る。激痛のために左膝を付いてしまう。また脇やられたぜ…
「大丈夫ですか!」
ピエールが慌ててベホイミをかける。ばかやろう……
「お前がすべきなのは、この骨を倒すこと……だっ!」
俺は骨野郎を一振りでバラバラにする。
「自分の仕事に集中してろ。指示は俺が出すから」
「はい……すみません」
謝りながらも、ピエールは敵から目を離していない。どうやら俺の思いは伝わったようだ。
ピエールは残りのがいこつ兵を倒し、ラリホーで眠ったわらいぶくろをドラきちが布切れにしてしまった。
魔物のむれを やっつけた!
アレンは イオラを 覚えた!
よし。
「マリアさん、大丈夫でした?」
「ええ…」
目の前で戦いを見たからか、戸惑っていたものの、怪我はなさそうで安心した。他の2匹も回復は必要無さそうだ。
「それじゃ、次へ進もう!」
暫くすると、敵は徒党を組んで現れた。
スライムナイトたちが あらわれた!
魔物たちはいきなり攻撃してきたが、ピエールはそれを躱し、1体を斬りつける。ところが、隙を突かれて別のスライムナイトに斬られてしまう。
「いま回復するぞ!」
……あれ
「あの、どなたがピエールさんですか?」
「あ、本当だ。みんなそっくりだキー」
「私です」
そう言って挙がった手は5本。おいおいおい、やめろよそういうの。
「取り敢えずお前、違うだろ」
最初に攻撃躱されてピエールに斬られたやつは切り捨てた。
あと、怪我してないのは全て敵だな。
「なーんだ、意外と簡単……」
すると、怪我していない1体が割り込んでくる。
「待ってください。私は自分でベホイミして、敵に攻撃したのです。私がピエールで…」
バシュ
「え、アレン今そいつがピエールって言ってたのになんで斬ったキー!」
「何言ってんだ。声が全然ちがうだろ」
そんな気がする。
「よし、ガンガンいけ!」
ドラきちはブーメランで2体同時に攻撃。それに怯んだ所をピエールが剣で斬る。
「回復される前に押し切るぞ! イオラ!」
爆発がスライムナイトたちを巻き込む。やがて煙が晴れると中にいたのは瀕死の1体だけ。そこにドラきちのラリホーが炸裂。
…え、なんで今?
スライムナイトたちを やっつけた!
最後はピエールが倒してくれた。
「それにしても、よく声で私じゃないとわかりましたね。種族が同じだと、魔王様でも聞き分けるのは難しいのですよ」
「え、そうなの?」
わかった気がしたんだけどなぁ、あの時は。
____________
途中、わらいぶくろに何回か笑われたりしたが、ようやく最上階へ辿り着いた。
奥には鏡が祀られていたが、特に何かに守られている様子もなく取ることは容易かった。
ただし、床があればの話だが……
「なぜ床がないのでしょうか。」
ラーの鏡が祀られている台の手前、約5メートルまでの床が抜けている。
「もしや、これがマリアさんの仰っていた試練とやらでは?」
「確か、勇気の試練という名だったはずですが…」
マリアさんの言葉に俺は驚愕する。
「まさか、ここを跳んで越えろとでも?」
「いえ、書には『その者の、恐れずに一歩を踏み出す勇気が試される』と書いてありました」
するとドラきちが名乗りをあげた。
「じゃあ、オイラが渡ってみるキー」
そう言って、中央を通っていく。ところが、床のない部分に差し掛かると…
「あっ」
下へ落ちていってしまった。
「いや、飛んでんのに落ちるのはおかしいだろ!」
はぁ…
「真ん中は駄目でしたね。次は別の所を試しましょう」
本当に歩けるのか? 疑問しかないんだが。とはいえ、ここは勇気を出さなければ始まらない。俺は覚悟を決めた。
まあたぶん落ちても戻ってこれるし。
「よし、じゃあここの端っこを歩くぞ」
俺は恐る恐る一歩を踏み出す。思わず落ちる、と咄嗟に目をつぶるが、一向に落ちる気配はない。俺は少しずつ閉じていた目を開くと…
「あ、なんか床ある」
「えっ!? ……本当ですね! マリアさんもこちらへ」
「まあ! 不思議ね……」
……なんとかなったな。
仲間たちが楽しんでいる声を聞きながら、俺は見えない床を進み鏡の前まできた。
「これが、アベルの助けになるかもしれない……」
鏡を手に取ると、その重み、鏡面の神々しい輝きを直に感じ、畏怖の念を覚えた。真実とは一体何なのか。鏡には覗き込む自分の姿だけが、映っていた。
「きゃあっ!」
突然マリアさんの悲鳴がきこえる。振り向くと、下へ落ちるマリアさんとそれを助けようとして共に落ちていくピエールの姿が。
「まずい!」
無我夢中で後を追った。そしてマリアさんの腕を掴み…
「リっ、リレミトっ!」
俺達は不思議な魔力によって塔から引きずり出された。
「はぁ、はぁ……間に合ったか…?」
見ると、マリアさんもピエールも無事なようだ。俺は尻もちをついているマリアさんへ手を差し伸べる。
「だっ、大丈夫です! お気遣い、ありがとうございます」
「怪我がなくてなによりです」
いやー、本当に良かった。多少強引ではあったけど、なんとかなったぞ。
あとは、兄さんたちと合流するだけだな!
しかし、何か忘れているような……?
その頃ドラきちは……
「ふー、やっとここまで戻って来れた。大変だったキー………あれ? みんなどこ行ったキー?」
(風の通り抜ける音)
このマリアさんはヘンリー一筋ですね。
さて、読んでいただき、ありがとうございました。