キャラをかわいく書くのって難しい……
キャラクターをかわいく書いてる他の物書きさんたちすげえやってものすごい身にしみて思う今日このごろです。
こんにちは、伊良子美甘です……
えっと、なぜ私は厨房で副長の真白さんにずっとにらまれているのでしょうか。さっきから無言でちらちらとこっちを見ては目線を逸らす副長がちょっと、いえだいぶ怖いです……
「えーっと、私なにかしちゃいましたか……?」
「い、いや。そうじゃない。そうじゃなくて……」
そして同じことの繰り返し。ほっちゃんとあっちゃんに救援を求めたくてもこういう時に限ってふたりともいません。空気の重さに耐えられないです……
「い、伊良子さん!」
「ひ、ひゃい!」
「………………ないか」
「ふぇ?」
「わ、私に料理を教えてくれないか……」
顔を真っ赤にして俯きながら絞り出したような声で言われたことはまさかのことでした。おどろいて舌を噛んでしまったからちょっぴり痛いです。
「ど、どうして?」
「……この前、艦長に作ってもらったお昼ごはんのお礼に…………」
……なるほど。
つまりお返しがしたいけど、お料理のことはわからない。だから私を頼ってきたということでしょうか。もしかして顔が赤いのは恥ずかしくて?
「ふふっ」
「わ、笑われた……」
「あ、そういうつもりはないんですよ! でもわかりました。なにかリクエストはありますか?」
「それならお菓子がいいな。ただ私にもできる簡単なものがあれば、だが」
「簡単なお菓子、簡単なお菓子……じゃあサブレにしましょう!」
「さぶれ?」
「ざっくり言えばクッキーみたいなものです! ではいきましょう!」
【超絶簡単! お手軽サブレ】
材料(2人分)
・ホットケーキミックス 200g(1袋ぶん)
・マーガリン 50g
・卵 1個(ただし様子を見て半個)
・砂糖 50g
「材料はこれだけ!」
「ホットケーキミックスで作れるのか?」
「はい! まあ見ててください。まずはボウルにホットケーキミックスを入れてマーガリンを手で崩すようにして混ぜます」
きれいに混ぜるのが大変なら、場合によっては耐熱容器に入れてラップをして電子レンジで軽くチンするといいですよ。あんまりたくさん温めると熱くて手で混ぜられなくなるから気をつけてくださいね。
「こ、こうかな?」
「そうです! ポロポロと崩れてきたら砂糖を加えてさらに混ぜてください」
「わかった」
「そして砂糖が混ざりきったら溶き卵を入れましょう」
あとはまとまるまで混ぜて混ぜて混ぜるべし! です。言うまでもないと思いますけど、手で混ぜるんですからちゃんと手は洗ってくださいね?
一心不乱に混ぜ続ければそんなに時間はかからずにまとまります。もし柔らかすぎる(伸ばした時に台に張り付いてしまう)のなら薄力粉で調節してください。卵を少なめに入れていって、様子を見るのもありですよ。
ちなみにこの段階で、オレンジピールやココアパウダー、すりおろしたレモンの皮などを混ぜるだけで味のバリエーションがぐっと増えますよ! ただ、キャラメルやチョコチップを混ぜる場合は生地の砂糖を減らさないと甘くなり過ぎちゃうかもです。
「できた……のかな」
「見せてください……うん、これなら大丈夫。あとは生地をラップで包んで30分ほど冷蔵庫で寝かせましよう」
「その間は……」
「そうですね、お茶でも飲んでゆっくりしましょうか。副長は手を洗ってください。マーガリンでベトベトなはずです」
「そうだな。じゃあ洗ってくる」
手を洗ってもらっている間に、大目に作って冷やしておいた麦茶を氷を入れたグラスに注いで、まだ誰もいない食堂の適当な机に置いて副長を待ちます。
「はい、麦茶です」
「あ、ありがとう」
「で、急にどうしたんですか。艦長にお菓子を作ってあげたいなんて」
「……気がついたんだ。私は艦長にひどいことしか言ってないって」
「そうでしたっけ?」
「ずっと私は理想の艦長像を押し付けてただけなんだ。艦長は……確かに危ういし、見ててはらはらさせられるけどちゃんとやっていると思う。それなのに……」
私は普段から艦橋にいないからよくわかりません。だけど、副長はたぶん副長として悩んでいるんじゃなくて、真白さんとして悩んでいるんでしょう。
「副長はミケ艦長のことが大好きなんですね!」
「なっ! いや、そういうのじゃなくて、けどそうでもなくて……」
「でも嫌いな相手のことならひどいこと言ってるかもしれないって気にしたりしませんよ?」
「むぐ…………」
「私だってミケ艦長のことは大好きですよ。ううん、副長のことも。晴風のみんなが大好きです!」
「えっ? ああ、そういう……」
「どうかしました?」
「い、いや! なんでもない!」
わたわたとしたまま、副長が麦茶を一気飲み。ああっ、そんなに勢いよく飲むと……
「うぐっ、ゲホッゲホッ」
「やっぱり……大丈夫ですか?」
「うぅ……やっぱりついてない…………」
いや、今のは副長の注意不足じゃ……。うん、でも言うのはやめておきましょう。ここで追い打ちをかけるのはちょっぴりかわいそうです。
「そろそろ30分くらい経ちましたし、調理に戻りましょうか」
「お願いします……」
口元をハンカチでぬぐいながら言ったから、声がちょっとくぐもってます。よくついてないって言ってるところを見るけど、もしかして単にドジっ子なだけなんじゃ……
「伊良子さん?」
「ひゃっ! な、なんでもありませんよ! じゃあ戻りましょうか!」
バレてないよね……? お願い、そうでありますように。
「冷蔵庫で寝かせておいた生地をのばして、型抜きをしましょう」
「これかな?」
「そうです! いろんな形にすると視覚的にも楽しいからいいですよ!」
ただあんまりにもひとつひとつのサイズが変わっちゃうと、火の通り具合がまちまちになっちゃうから、だいたい同じくらいのサイズにしてくださいね。多少くらいなら大丈夫なんですけど。
「あとはオーブンを予熱で170度にして、型抜きした生地を天板に並べたら12~15分くらい焼いて、少し冷ませば完成です!」
「ほんとに簡単だ……」
「寝かせる時間も30分だからそんなに長くないですし、使ったボウルとかを洗って一息ついたらあっという間ですよ」
ちなみにマーガリンをバターに変えればバタークッキーに早変わり。すこしバターと卵の量を増やして、焼き時間を短くすれば副長の好物であるソフトクッキーに。他にもホットケーキミックスの利用方法はいっぱいあるけど、今から紹介すると時間がなくなるからまた今度ということでお願いしますねっ。
「はい、お味見ですっ」
「いや、でもこれは……」
「知ってますか? お味見は作った人の特権なんですよ?」
……まあ、この特権を使いすぎちゃうと大変なことになるんですけどね。いろいろと。ええ、まあいろいろと。なにがとは言いませんが。というか言わせないでください……うぅ。
「サクッとしてるだけじゃなくて、ほろほろとしてておいしい!」
「気に入ってもらえてよかったです!」
甘すぎることのないサブレは口に入れれば、ほろりとくずれて口の中にこうばしさが広がる。1枚ずつがとっても軽いから次に向かってすぐに手が伸びてしまう。崩れてしまうようなくらい、サクサクの食感。これぞサブレ! という感じだろう。
うん、よくできてる! これなら大丈夫です!
「さてと。副長はミケ艦長を呼んできてください」
「えっ? で、でもだな……」
「でもじゃありません! ほら早く! せっかく作ったんですよ?」
「……そう、だな。うん。よし、行ってくる!」
そうそう、その意気です! 少し副長は怖い人かな、と思ってたけど実はそうでもないのかもしれません。証拠にほら、耳が赤くなってます。
いけない、いけない。ぼんやりしている間にふたりとも来ちゃいます。紅茶くらいは入れておきましょうか。