今回の番外編は、12月7日実装された 「FF14 暁月のフィナーレ」の発売を記念した話となっております。
以前、「紅蓮のリベレーター」という拡張が発売された時にも番外編を出しましたが、その時は奏夜や穂乃果たちがFF14の舞台であるエオルゼアに迷い込み、そこで冒険をするという内容でした。
その次の拡張である「漆黒のヴィランズ」の実装の時は番外編は投稿出来なかったので、今回は番外編を投稿しようと思い立ったところです。
果たして、奏夜に待ち受けるものとはなんなのか?
こちらの作品は、FF14未プレイだとわからない単語が多く出てきますが、そういうもんだと思って楽しんでいただければ幸いです。
そして、プレイしてる人は、漆黒のヴィランズのパッチ5.5までのネタバレが含まれているので、これからその辺のストーリーを楽しむ予定の方はご注意ください。
それでは、番外編をどうぞ!
暁月のフィナーレ発売記念 「狩猟」
……ここは、日本の首都である東京。
日本一であるこの地は今日も多くの人が行き交い、賑わっている。
そんな東京にある秋葉原は、電気街という一面だけではなく、オタク文化も栄えており、それを象徴するお店も多々存在している。
コスプレをして街を歩いている者もいるのだが、そんな秋葉原の街に、まるでコスプレのような格好をした1人の男が立っていた。
「……ここは、いったいどこなんだ……?」
男は明るい長髪をなびかせながら周囲を見渡すが、東京の街並みに違和感を感じているようであった。
「…どうやら、ここはエオルゼアではないらしいな。なんらかの手違いでこの世界へ転移したのだろう」
男はどうやらエオルゼアと呼ばれる世界から来ており、世界を渡り歩く力があるようなのだが、何かの手違いにてこの地へと迷い込んでしまったようであった。
「……人は多いようだがどいつもこいつも脆弱そうな者ばかりだ…。狩りのしがいがない……」
この男はどうやら、エオルゼアと呼ばれる世界では狩りと称して殺戮を楽しんでいるようなのだが、終戦から戦争とは無縁である日本人を見ても興味を示すことはなかった。
そんな中……。
「……ほう?よくわからんが、狩るに相応しい獲物がいるみたいだな……」
男は何かを感じ取ったのか、どこかへと移動を始めたのであった。
その頃、翡翠の番犬所の魔戒騎士である桐島大輝は、指令にてとあるホラーと対峙しており、今現在交戦していた。
「…はぁっ!!」
そのホラーとはどうやら素体ホラーなのだが、大輝は魔戒剣を一閃し、素体ホラーを切り裂き、すかさず蹴りを放って吹き飛ばす。
「…!ぎ、ギィィ……!!」
素体ホラーは、魔戒騎士としてベテランである大輝に手も足も出ず、そのまま追い詰められてしまっていたのだった。
「…悪いが、一気に決着をつけさせてもらう!」
大輝は鎧を召還し、素体ホラーを倒そうとした。
……その時である。
「…!?グギィ……!!」
素体ホラーは突如現れた何者かの振り下ろした刀によってその身体を貫かれていた。
「……フン、この世界にもこのような魔物が跋扈していたか……。だが、たいしたことはないな……」
その人物とは、先ほどエオルゼアという世界からやって来た謎の男であり、その男が素体ホラーを刀で突き刺したのである。
男は刀を引き抜いたと思ったら再び素体ホラー目掛けて刀を突き刺し、素体ホラーはそのまま消滅してしまう。
「…貴様、いったい何者だ?まさか、魔戒騎士なのか?」
大輝からしてみたら、突然現れた刀を持つ男が難なく素体ホラーを倒したこの現実は青天の霹靂であり、警戒していた。
「…魔戒騎士?そんなものは知らないな」
「!?ホラーは魔戒騎士か魔戒法師にしか倒せないハズだ。それなのに、お前は何故ホラーを倒せたんだ!!」
大輝は驚きを隠せなかった。
魔戒騎士でもなければ魔戒法師でもない人物がホラーを倒せる訳はないのだから。
そのため、難なく素体ホラーを倒したこの男の正体を確かめるために、大輝は男へ剣を突き付けた。
「…俺はこの世界のことはよくわからんが…!貴様は騎士というならば、剣で問うのだな!!」
男は大輝に向かっていき、剣を振るうが、大輝は男の斬撃を魔戒剣で受け止める。
「…!?こいつの剣…!ただ者じゃないぞ…!!」
男の剣撃は想像以上に重かったからか、大輝は驚きを隠せなかった。
「…だが、こいつがホラーではなく人間だと言うならば…!」
大輝は男が仕掛けてきたために攻撃を受け止めたものの、男がただの人間である可能性があることから、反撃することが出来なかった。
魔戒騎士が斬れるのはホラーだけ。
これは魔戒騎士としての鉄の掟だからだ。
ただし、闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師はホラーと同様の扱いになり、さらにはホラーの返り血を浴びた人間もまた、ホラーを引き寄せる存在のため斬らなければいけない。
このような例外は存在するのだが…。
「…どうした?反撃してこないのか?」
「本当ならそうしたいところだが…。お前がただの人間ならば、斬るわけにはいかん。それが魔戒騎士の掟だからな!」
大輝はこのように語ると、男はため息をつく。
「つまらん…。実につまらん…!攻撃してこない獲物など、狩りのしがいがないではないか…!」
大輝が反撃してこないと知ると、男はあからさまに肩を落としながら刀を振り下ろし、大輝を吹き飛ばす。
「…くっ……!」
「……牙をもちながらそれを向けない腑抜けなど……。消えろ……!!」
男は刀を地面に突き刺すと、そこから衝撃波を放った。
大輝はそれをかわそうとするも、その衝撃波の範囲は広く、かわすことは出来ずに受けてしまう。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」
その衝撃波を受けた大輝の体は吹き飛ばされ、その攻撃により、倒れてしまう。
「…実につまらん……」
男としてみたら、魔戒騎士という未知の存在と遭遇だったが、その魔戒騎士が一切攻撃してこないことに激しく失望していた。
「ぐっ…!貴様……魔戒騎士でもホラーでもないのなら…。いったい何者なんだ……!」
大輝は男の攻撃を受けてもなお生きており、息が絶え絶えながらも男の正体を探ろうとする。
「…貴様ごとき、力を持っているのにそれを向けない者に語る舌はない。それに……」
男は刀を手にした状態でゆっくりと大輝に近付いていく。
「……貴様はここで死ぬのだから、俺の名前など知る必要はあるまい?」
男は大輝にとどめを刺そうとしていた。
しかし……。
「……大輝さん!!」
たまたま近くを巡回していた奏夜が、先ほど放たれた衝撃波を探知したため、こちらへと急行してきたのであった。
「…そ、奏夜…!気を付けろ……!そいつは…普通じゃない……!」
奏夜が大輝の前に立ち、魔戒剣を構えるのだが、男の存在を奏夜に警戒すると、大輝の意識はそこで途絶えてしまった。
「大輝さん!」
『奏夜、心配ない!大輝は気を失っているだけだ!』
男によってかなりのダメージを受けているものの、大輝は今すぐ命の危機という訳ではなかったのだ。
「…そうや……?“我が友“と名前が似ているが、どうやら別人らしい……」
「我が友…?なんのことだ!!」
「さてな…。貴様もそこの男と同じ、魔戒騎士とやらなのか…?」
「貴様が、大輝さんを…!!」
大輝は魔戒騎士としては、ベテランの実力者であり、その大輝を倒した男に畏怖の感情を抱く。
『奏夜。こいつはホラーではないが、ただの人間でもないみたいだ』
「!?どういうことだ?」
『さぁな…。だが、こいつがホラー以上に危険な存在なのは間違いなさそうだ…』
キルバは男から妙な気配を感じ取っていたのだが、ホラーでもなければただの人間でもないという不可解な解答だった。
「そこの指輪のいう通り、俺は普通の人間ではない…!だからこそ、思い切ってかかってこい!!貴様も騎士を名乗るのなら、その剣で俺を満足させてみせろ!!」
『…奏夜!そいつのいうことは真に受けずにここは退け!戦闘が長引けば、お前だけではなく大輝も危険だ……!!』
男が奏夜にも牙を向けようとするが、キルバは奏夜に撤退するように促す。
「…ああ、相手をしてやりたいところだが、今は大輝さんを助けるのが最優先だな…!」
奏夜はキルバの意見に賛同し、大輝を救出しようとしていた。
「…どうやら、その男がいたら貴様はまともに戦えないとみた」
男は奏夜と戦えないと知ると、刀を鞘に納める。
「…一日だけ待ってやろう。明日の夜、またここに来い。来ないのならば、不本意ではあるが、そこら辺の人間を狩ることにさせてもらおう…」
大輝から魔戒騎士は人間を斬らないと聞いていたため、このような発言をすれば、奏夜が逃げないと確信していたからだ。
「…貴様は何者だ!」
奏夜は踵を返して姿を消そうとする男に問いかける。
「…我が名はゼノス・イェー・ガルヴァス。世界の強き者を狩ることを生きがいにしている者だ…!」
「ゼノス…!!」
『やれやれ…。とんでもなく狂ってやがる…!』
ゼノスが戦いを求めていることを知り、キルバはそんなゼノスの狂気に呆れる。
「…また会おう…!我が友と似た名前を持つ男よ…!」
こう言葉を残すと、ゼノスはどこかへと姿を消すのであった。
「ゼノス…。とんでもない奴だな…」
『そうだな…。とりあえずは大輝を番犬所まで運ばないとな』
「ああ、わかってる」
奏夜は倒れている大輝を介抱し、そのまま番犬所へと向かうのであった。
「…奏夜。このような時間にここへ来るとは珍しいですね。…って、大輝!?いったいどうしたというのです!?」
奏夜が大輝と共に番犬所に入ると、それを見つけたロデルは驚きを隠せなかった。
大輝は既にボロボロだったからである。
「すいません。詳しい話は後にします。まずは大輝さんの治療を!」
「そ、そうですね!」
大輝の現状を見たロデルの付き人たちはすぐにベッドを用意すると、奏夜はそこに大輝を寝かせる。
そして、付き人たちは大輝に治癒の法術を放つのであった。
そうしている間に、奏夜はゼノスという男と遭遇したことを報告したのであった。
「…なるほど…。どうやらその男は危険な存在みたいですね…」
「はい…。あの男は俺が現れなければ、躊躇なく罪のない人たちの命を奪うでしょう」
『奴はホラーでもただの人間でもないのが不可解なところではあるがな…』
奏夜の報告を聞いて、ゼノスの問題は捨て置けないものであるとロデルは判断する。
「……そうですね……。その男が人間に危害を加える可能性があるのなら、ホラーと同様に危険な存在です…。奏夜、その男を討伐するのです」
「…わかりました。俺が奴を倒してみせます…!」
『やれやれ…。それにしても、ジンガやニーズヘッグのゴタゴタが終わってまだそんなに日が経っていないのに、面倒な相手が現れるとはな……』
キルバがため息をついていたが、ジンガとの戦いが終わり、ララが姿を消してからそこまで日が経っていなかったのである。
「…そうだな…。こっちとしても、穂乃果や花陽のダイエット計画で忙しいってのに……」
奏夜もこのようにぼやいていたのだが、ララと別れてから間もなく、穂乃果の妹である雪穂が穂乃果の最近の身体測定の結果を見付けてしまう。
そこで、穂乃果の体重が増加していることが判明してしまったのだが、そこから間もなく花陽もまた体重が増加していることが発覚。
そのため、海未が主導で2人のダイエットプランが始まったのであった。
奏夜もまた、μ'sのマネージャーとしてそれに協力している時に今回の事件が起きたのである。
「…それを聞いたら尚更、この件は迅速に片付けねばなりませんね……」
μ'sのファンでもあるロデルは、穂乃果たちの問題を解決してもらいたいために、このようなことを言っていた。
「その男がそれだけの手練であるならば、リンドウにも話をしておきます。…奏夜、頼みましたよ」
「はい!わかりました!」
こうして、奏夜は番犬所を後にし、この日は帰宅する。
翌日、奏夜は学校へはいつも通り登校していたが、穂乃果や花陽のダイエットの監督は海未や絵里に任せてこの後に迫る戦いに備えていた。
そして、約束の時間。奏夜が昨日訪れた場所へ行くと……。
「…来たか。時間通りだな」
ゼノスは既に来ており、奏夜を待ち構えていたのだ。
「ゼノス…!」
「待っていたぞ…!我が友と似た名前を持つ男よ…!」
「そんな変な呼び方をするな!俺は如月奏夜だ!!」
奏夜を妙な呼び方で呼ぶゼノスに苛立ちをおぼえた奏夜は改めて自分の名前を名乗る。
「…まぁ、貴様が何者だろうとどうでもいい…。貴様も騎士を名乗るのならば、その剣で俺を満足させてみろ!」
こう宣言したゼノスは、素早い動きで刀を抜き、そのまま奏夜に向かっていく。
「!?こいつ、速い…!」
ゼノスの素早い動きに奏夜は驚きながらも、すぐさま魔戒剣を抜き、ゼノスから振るわれる斬撃を受け止める。
「…くっ…!!こいつ……!!」
ゼノスの刀は想像以上に重く、奏夜は表情を歪ませる。
「…だが…!お前なんかに負ける訳にはいかないんだよ!!」
奏夜は激闘を乗り越えたばかりであったからか、眼前に現れた強敵が相手だろうと負ける訳にはいかない。
そんな強い思いが奏夜を突き動かさしていた。
奏夜は魔戒剣を力強く振るい、ゼノスの攻撃を弾き飛ばすと、そのまま蹴りを放ってゼノスを吹き飛ばす。
「…くくく…!いいぞ…!思った以上に冴えた剣じゃないか…!!これは狩りのしがいがあるというものだ…!」
ゼノスは奏夜の蹴りを受けて後ずさるが、すぐに体勢を整えており、笑みを浮かべる。
「だが、まだ我が友程の冴えはないが、この私を楽しませてみせろ!」
ゼノスはこう宣言すると、刀を地面に突き刺し、何かを行なおうとしていた。
『奏夜!気を付けろ!奴の刀から強大な力を感じる!』
「そうらしいな……。ならば!!」
奏夜は魔法衣の裏地から盾を取り出すと、それを前方に向けた。
奏夜はジンガとの決戦後も剣斗から託されたこの盾を使用しており、剣と盾を両方使用する戦闘スタイルに変わっていった。
奏夜自身、この戦闘スタイルに変わっての戦闘経験がまだ浅いため、まだまだ鍛錬が必要にはなってくるのだが。
奏夜が盾を構えたのと同時に、ゼノスの刀から衝撃波が放たれた。
「ぐっ……!!」
盾によりどうにか衝撃波を凌ぐことは出来たものの、強大な力であることはかわりないため、奏夜は表情を歪ませる。
「…ほう、これを耐えるか。そうでなくてはな!」
「なめるな!俺は、そう簡単に負ける訳にはいかないんだ!!」
奏夜はゼノスの攻撃を防いですぐにゼノスへ接近。
反撃を行うために魔戒剣を振るった。
ゼノスは奏夜の攻撃を後方に大きくジャンプすることで回避する。
「…なっ!かわされた!?」
攻撃をかわされるとは思っていなかったのか、奏夜は驚きを隠せなかった。
「次はこいつで遊んでやろう!」
ゼノスは手にしていた刀を納刀すると、次は違う刀を抜いた。
ゼノスの鞘は、3つの刀が納められる大きさになっており、回転するギミックがあるために、すぐに目当ての刀を取り出すことが出来るのだ。
ゼノスの抜いた刀の切っ先からは、雷を帯びていたのだ。
「この攻撃…かわせるかな?」
ゼノスが刀を振るうと、切っ先から帯びていた雷が奏夜へと向かって行く。
「…っ!」
奏夜はその雷の動きをギリギリまで見極めると、雷を回避し、そのままゼノスへと向かっていく。
「ほう…?やるではないか…。だが!!」
ゼノスは奏夜が接近してくる前に雷を帯びた刀を納めると、すぐさま違う刀を抜いた。
奏夜がゼノスに接近し、魔戒剣を振るおうとする前にゼノスは刀を振るうと、そこから突風が吹き荒れる。
「ぐっ…!」
奏夜はその突風によって吹き飛ばされてしまうが、すぐに体勢を立て直した。
「…なかなかやるではないか…!我が友ほど剣の冴えはないにせよ、俺を奮い立たせるに足る力を持っている…。だが、それがお前の本気ではあるまい?」
ゼノスは奏夜の実力を素直に認めていたものの、奏夜はまだ本気を出していないことをすぐに見抜いていたのである。
「…まぁな。だけど、小手調べはここまでだ!!」
奏夜はゼノスに押されているようにも見えたが、まだ本気は出しておらず、ゼノスの実力を見極めていたのだ。
「…そう来なくてはな!!全力でかかってこい!そして、最高に愉悦な殺し合いをしようではないか!」
『この男、とんでもない戦闘狂みたいだな…』
ゼノスは戦いそのものを楽しんでいる様子があったため、それを見抜いたキルバは呆れていた。
「そうだな…。お前みたいなやつをこのまま野放しには出来ない!お前は俺が斬る!」
「そうだ!その調子だ…!見せてみろ、貴様の本気を!!」
「…貴様の陰我、俺が断ち切る!!」
奏夜は魔戒剣を上空へと高く突き上げると、そのまま円を描いた。
その部分のみ空間が変化し、奏夜はその空間から放たれた光に包まれていく。
その空間から金色の鎧が現れると、その鎧は奏夜の身体に装着されていった。
こうして奏夜は、輝狼(キロ)の鎧を身にまとったのだ。
「ほう、金色の狼か…。これはより一層狩りのしがいがあるというものだ!!」
ゼノスは今手にしている刀を納めると、最初に手にしていた刀を抜き、そのまま奏夜に接近する。
すかさず刀を振るうのだが、奏夜は魔戒剣が変化した陽光剣を振るい、それを受け止める。
奏夜はそのまま陽光剣を力強く振り抜くと、ゼノスの攻撃を弾き飛ばし、すかさず陽光剣を再び一閃する。
ゼノスは咄嗟に後退り攻撃をかわそうとするが、陽光剣の刃はゼノスの体をかすめており、僅かながらゼノスにダメージを与えることが出来たのだ。
「…ほう。かすっただけでこれほどとはな…!なかなかの剣の冴えではないか!!」
ゼノスは痛みを感じていないどころか、奏夜の掠めた一閃に喜びさえ感じていた。
「お前が本気を出すならば、俺も本気を出すとしよう。簡単に倒れてくれるなよ?」
ゼノスはこう宣言をすると、精神を集中させる。
すると、今手にしている刀以外の鞘に納まっていた2本の刀が飛び出し、2本の刀は奏夜を挟むように地面に突き刺さった。
飛び出した刀は雷の刀と風の刀のようであり、それぞれの力が刀に蓄えられていた。
『奏夜!その刀をなんとかするんだ!奴はどうやらとんでもない攻撃をしようとしているらしい!』
「そうらしいな。だったら!!」
奏夜は魔導ライターを取り出すと、橙色の魔導火を陽光剣の切っ先に纏わせる。
そして、その魔導火は陽光剣だけではなく奏夜の身体にも纏われ、烈火炎装の状態になった。
奏夜は体を一回転させつつ剣を振るうと、魔導火を帯びた斬撃が2本の刀を一撃で吹き飛ばす。
吹き飛ばされた刀はそのままゼノスの鞘に納まり、ゼノスは先程以上に素早い動きで奏夜に接近。何度も斬撃を繰り出していた。
「くっ…!」
奏夜は咄嗟に盾を使って防御しようとするも、それ以上にゼノスの動きは早く、攻撃を防ぐことは出来なかった。
「…思い知れ!超越者たる力を!!」
両目から怪しい輝きが放たれた後にゼノスは奏夜に再び接近すると、妖気を纏った刀を力強く振るい、地面に叩き付ける。
刀が地面に触れた瞬間にそこから大きな衝撃波が放たれるのだが、あまりにも距離が近かったため、奏夜はそれを防ぐことは出来ずにそれをモロに受けてしまう。
「ぐあぁぁぁ!!」
その衝撃波によって奏夜は吹き飛ばされてしまうのだが、その一撃によって鎧が解除されることはなく、烈火炎装の状態が解除されるだけであった。
「くっ…!こいつ……!!」
奏夜は相当なダメージを受けながらもどうにか立ち上がり、陽光剣を構える。
「…ほお、これを耐えたか…。今の技は、かつてアラミゴの地にて我が友と相見えた時よりも技に磨きがかかっていたんだがな…」
ゼノスは聞きなれない地名と共にこのように呟いていた。
「…まだだ!まだ終わりじゃない!!」
奏夜は再び烈火炎装の状態になると、ゼノスへと接近。陽光剣を力強く振るう。
しかし、ゼノスはそんな奏夜の一撃を軽く受け止めるのであった。
「なっ…!?」
奏夜にとっては渾身の一撃だったのだが、それをいとも簡単に防がれてしまい、奏夜は戸惑いと驚きをみせていた。
「お前は確かに強い。以前の俺だったならば、簡単に蹂躙されていただろうな…」
どうやらゼノスは様々な戦いを経て今の力を得たみたいであった。
「だが、それが貴様の本気ならば、俺の敵ではない!!」
ゼノスは刀を振り抜くと、奏夜の手にしていた陽光剣を弾き飛ばした。
「終わりだ…!!」
ゼノスはトドメと言わんばかりに刀に妖気を纏わせてそれを奏夜に放つ。
奏夜はまだ手にしていた盾によってどうにか直撃は避けたものの、刀から放たれる妖気は凄まじいものであり、奏夜はそのまま吹き飛ばされてしまった。
「ぐあぁぁぁ!」
その衝撃によって地面に叩き付けられてしまった奏夜は、鎧が解除されてしまい、その場に倒れ込んでしまう。
「思った以上には楽しかったぞ…!俺の敵ではないものの、俺が狩るに足る男だ…!」
ゼノスはこう語りながら、奏夜の息の根を止めるべくゆっくりと近付いていく。
「こんな世界ではあるが、貴様のような男と戦えて楽しかったぞ…!」
「くっ…!!」
今の自分には戦う力は残っておらず、どうにか立ち上がろうとするも、立ち上がることは出来なかった。
(ここまでか…。くそっ…!ニーズヘッグとの戦いが終わったばかりだっていうのに…!)
この戦いは、ジンガやニーズヘッグとの決戦からそれ程時間は経っていないこともあり、奏夜はそれにも関わらず目の前の敵に殺されそうになっていることに悔しさを覚えていた。
「こんなところで…!負けてられるかよ……!!μ'sのみんなのために、俺は!死ねない!!」
奏夜は穂乃果たちを守るために死ねないという強い思いに突き動かされ、ゆっくりと立ち上がる。
「…ほう?まだ戦う力は残っていたか…。だが…」
ゼノスはとある方向に視線を向けると、そこには地面に落ちている奏夜の魔戒剣があった。
ゼノスの一撃で鎧が解除された時に、魔戒剣へと戻っていたのである。
(…どうする?さっきの攻撃で盾も吹き飛ばされてる。丸腰の状態でゼノスに接近しつつ、魔戒剣を回収する。それが俺に出来るだろうか…?)
先程の一撃で吹き飛ばされた際に盾も吹き飛ばされていたため、奏夜は現在丸腰である。
しかも、魔戒剣を回収するためにはゼノスの攻撃を掻い潜る必要があったのだ。
(無茶だとしても、やるしかない…!)
奏夜は覚悟を決めてゼノスに接近しようとした。
その時である。
「奏夜!無事か!?」
奏夜の先輩騎士であり、元老院へ先の事件の報告をしていたはずの統夜が駆けつけてきたのである。
それだけではなく、同じ番犬所所属のリンドウも一緒であった。
「リンドウ!それに…統夜さん!?元老院へ行ったのでは…?」
「詳しい話は後だが、ちょうど翡翠の番犬所に挨拶をと思って立ち寄ったんだ。そこでホラーじゃない妙な奴と奏夜が戦ってるから援護を頼むとロデル様から頼まれたんだ」
「まぁ、そういうこった。今のお前さんでも手を焼くとは、なかなかの手練みたいだな」
統夜は今ここにいる経緯を軽く説明すると、リンドウと共に魔戒剣を構えるのであった。
すると、ゼノスは統夜の姿を見て目を大きく見開いていたのだ。
「…おお…!!まさか、こんなところで相見えるとはな…!我が友よ…!!」
ゼノスは統夜に向かって“我が友“と言っており、その発言に統夜だけではなく、奏夜とリンドウも戸惑いを見せる。
「我が友?いったい何のことだ!」
『統夜、お前にこんな友達はいたか?』
「そんな訳ないだろ…」
「だろうな。どちらかというとお近付きになりたくないタイプだぜ」
統夜はゼノスの発言に面食らいながら拒否を示しており、それにリンドウも賛同していた。
「…トウヤ・ツキカゲ…。エオルゼアの英雄にして、俺と対等に戦える我が友だ……」
『どうやら、そいつはこいつとは別人みたいだが、同姓同名で顔まで似てるとはな…』
ゼノスのいうトウヤと統夜は別人なのは明らかなのだが、同姓同名かつ名前が同じことにイルバは苦笑いをする。
「…そのエオルゼアってのがなんなのかはよくわからないけど、俺は英雄なんかじゃない!我が名は奏狼(ソロ)。白銀騎士だ!!」
統夜は自分がゼノスのいう友ではないことを実証するために、魔戒騎士としての名前を高らかに宣言する。
「…確かに。顔は同じだが、違うらしい。俺とした事が、かの英雄と同じ顔の男を見て、少しばかり気分が高ぶってしまったようだ」
このようにゼノスは淡々と語っていたため、とても気持ちが高ぶっているようには見えなかった。
『やれやれ。それで気持ちが高ぶっているのかよ…』
「まったくだぜ…」
イルバとリンドウはそこを指摘し、呆れていた。
「我が友と同じ名前の男だけじゃない。そこにいる貴様も、相当な手練のようだな」
そして、ゼノスは統夜だけではなくリンドウにも注目していた。
「まぁ、そういうこった」
『リンドウ気を付けて下さい!今の奏夜が苦戦している相手です。相当手強いですよ!』
『そういうことだ。だから統夜も油断するな!』
リンドウの魔導輪であるレンが最初に警告を入れており、それをイルバも同調する。
「ああ、わかってる!」
「そうだな…!」
その警告に、2人は頷きながらゼノスを睨み付ける。
「…2人まとめてかかってこい…!俺をもっと楽しませてくれ…!!」
こう宣言したゼノスは統夜とリンドウに攻撃をしようとするのだが、それよりも早く、黒い靄のようなものがゼノスの前に現れる。
すると、黒いローブを着た青年がゼノスの前に現れたのであった。
「ああ!殿下!!こんなところにおられたのですね!?鍛錬されるのは結構ですが、勝手に違う世界に飛ばないで下さい!しかも、エーテルの存在しない異世界ではないですか…!」
黒いローブの青年は少しばかり大げさな口調で、ゼノスに話しかけていた。
「…ファダニエルか…」
この黒いローブの青年は、どうやらファダニエルと呼ばれているみたいだった。
「…おや?」
ファダニエルは、現在ゼノスと対峙している奏夜たちの姿を確認する。
「殿下の遊び相手としては不足のない強そうな方ばかりではないですか!!」
少し顔を見ただけだが、ファダニエルは奏夜たちが実力者であることをすぐに見抜いていた。
そして、統夜の顔をジッと眺めていたのだが……。
「…おや?おやおやおやおや?」
ファダニエルは、統夜の顔を見ると、何故かニヤニヤしだすのであった。
「そこのあなた!!かのエオルゼアの英雄であるトウヤさんではあ〜りませんか!!まさか、こんなエーテルのない世界でお会いするなんて!!」
ニヤニヤしながらも大げさな感じで、ファダニエルは統夜のことを先程ゼノスが行っていたエオルゼアという世界の英雄と勘違いをしていた。
「そこの男も同じようなことを言っていたが、俺はそのエオルゼアとやらの英雄なんかじゃない!!」
統夜は「またか」とげんなりしながらも先程と同様に釈明をする。
「…どうやら、そうみたいですねぇ。いくら様々な世界を冒険している英雄殿でも、さすがにエーテルのない世界を冒険なんてしてないでしょうからねぇ。…いや、彼はあの第一世界を冒険してたんですから、有り得ない話ではないですがね……」
ファダニエルは先程とは打って変わって至って冷静に統夜が自分の知っている人物とは別人だと判断していた。
そして、奏夜たちには聞き慣れない単語を連ねながらブツブツと呟いている。
『それにしても、そのエオルゼアとやらやエーテルとかはなんなんだ?俺様も初めて聞く言葉だぜ』
イルバは、ゼノスやファダニエルが話していた言葉の意味がわからなかったため、興味本位にその意味を聞いてみた。
「あなた方がそれを知る必要はないでしょうが、私たちはあなた方のいる世界とは別の世界の人間です。とはいえ、原初世界でもなければ鏡像世界でもない並行世界に殿下が飛ばれるとは思いませんでしたがね」
「俺も何故ここへ来たのかはわからん。獲物を求めて世界を飛んでいたのは間違いないがな」
ファダニエルやゼノスから放たれる言葉は奏夜たちには到底理解出来るような内容ではなかった。
「殿下、かのエオルゼアの英雄とそっくりさんと戦いたい気持ちはよ〜くわかりますが、そろそろ戻っていただかないと。我々テロフォロイの計画に多大な支障が出てしまいます!」
どうやらファダニエルはゼノスに加勢するのではなく、ゼノスを連れ戻すためにこちらへ来たみたいだった。
「…良かろう。思った以上に俺も力を使わされたからな…」
「おや!まさか、殿下をそこまで本気にさせるなんて!もしかして、そこのボロボロの少年ですか?」
ゼノスは渋々ファダニエルの言葉に従うのだが、ファダニエルはゼノスをある程度消耗させた奏夜に注目していた。
「あなたみたいな子供が、殿下と渡り合うとは!!ちょっとだけこの世界に興味がわいてきましたよ!!」
こう宣言するファダニエルは高笑いをするのだが、それは狂気に満ちたものであった。
「…とはいえ、こんな世界でのんびりしてる場合ではないですからねぇ。我らの崇高な目的を成し遂げるために、名残惜しいですが、この辺で失礼させてもらうとしましょう」
先程まで高笑いをしてりとは思えない程に冷静になったファダニエルは先程出現した時に現れた黒い靄を出していた。
そして、ゼノスもその靄の中へと入っていく。
「…金色の狼の鎧との戦い…。なかなか愉悦だったぞ…!是非ともまた、全力で殺し合いたいものだ。そして、そこの2人とも…な」
ゼノスは奏夜の戦いぶりを称賛すると、そのままファダニエルと共に姿を消し、自分たちのいる世界へと帰っていった。
『…なんだか、よくわからない奴らだったな……』
『そうだな…。そんな異世界のことを話したところで番犬所も信じられないだろう』
『そうですね。番犬所には、対象は異世界から迷い込んでいたが、奏夜と戦った後に元の世界へ戻ったと報告するのが無難でしょう』
ゼノスやファダニエルからの言葉はとてもそのまま番犬所に報告するのははばかれるものだったため、レンはこのように提案する。
「それが良さそうだな」
「ああ。とりあえず番犬所に戻ろう。俺としても、ロデル様への挨拶が中途半端になっちまったしな」
リンドウはレンの提案に賛成し、統夜は番犬所へ戻ることを提案するが、奏夜はその場で立ち止まり、拳を力強く握りしめて俯いていた。
「…あの男はああ言ってたけど、リンドウや統夜さんが来てくれなかったら、きっと俺は殺されていた…。俺は、あの男に勝てなかった……」
『……奏夜、確かに奴には勝てなかったが、奴はホラーではない。それに、奴らには奴らの目的があるみたいだから、こちらの世界へ干渉してくることもないだろう。だから、その敗北は気にするな』
キルバは、ゼノスとの再戦はないと判断したため、このように奏夜に励ましの言葉を送っていた。
「…ニーズヘッグとの戦いを経て、俺は強くなったと思った。…いや、そう思い込んでいただけなのかもな…」
奏夜としては、大きな戦いを終えた直後にこのような敗戦をしたことがショックみたいだった。
「奏夜、奴さんは異世界の人間なんだ。ホラーとは違う強さがあるのは仕方ないことだと思うぜ?むしろ、そんな奴相手に持ち堪えて生き延びたことだって十分な武勲だと俺は思うぜ!」
「リンドウのいう通りだな。確かに、あの男の狂気は捨ておけないが、俺たちは魔戒騎士だ。ホラーを狩り、人間を守るのが使命なんだ。だからこそ、気持ちを切り替えないとな」
『それに、お前さんがまたしょぼくれてると、お嬢ちゃんたちが心配するぜ?』
「…!!」
リンドウと統夜もまた奏夜に励ましの言葉を送るのだが、その後のいる場の言葉に奏夜はハッとする。
「…そうだよな…。あいつに勝てなかったのは事実かもしれない。だけど、ここで俺が足を止めてたら、みんなが心配するよな。せっかくまたラブライブに向けて頑張ってるところなのに…!」
「そうそう。その調子だぜ、奏夜!」
先ほどまで落胆していた奏夜が気を持ち直したのを見て、統夜は頷きながらも穏やかな表情を浮かべていた。
そして、奏夜は床に落ちた魔戒剣と盾を回収した後に、リンドウや統夜と共に番犬所へ戻り、ゼノスの一件を報告した。
とは言っても、先程レンの提案した通りの簡潔な報告にはなったのだが。
それでもロデルはその報告を聞き、奏夜に労いの言葉を送るのであった。
こうして、異世界から現れた妙な男との戦いは終わった。
ゼノスやファダニエルのいた「エオルゼア」とはいったいどのような世界なのか?
そして、彼らの組織であると思われる「テロフォロイ」の目的とはいったいなんなのか?
それを、今の奏夜たちが知る術はない。
だが、それがこの世界に直接の被害をもたらす事はないだろう。
しかし、その「エオルゼア」と呼ばれる世界には暗雲が立ち込めていた。
その暗雲に立ち向かう者の中心にいる者こそが、ゼノスやファダニエルが統夜を見てそっくりだと言っていた、英雄と呼ばれし男、トウヤ・ツキカゲなのである。
光の加護を受けし彼は、ゼノスやファダニエルと対峙することになるだろう。
だが、それはまた、別の物語である……。
……終
前回の番外編の時は奏夜たちがエオルゼアに迷い込む話でしたが、今回は逆の展開となりました。
FF14に登場するゼノスというキャラクターが大いに暴れた回となりました。
この番外編は何気に話が繋がっており、ジンガやニーズヘッグとの戦いが終わってまもなくという時系列になっており、何気にアニメ二期の7話の話も既に始まっている状態です。
7話関連の話は次回触れる予定になっています。
それにしても、ニーズヘッグとの決戦を経て成長した奏夜を負かしたため、ゼノスはそれほどの実力者であると御理解ください。
僕はFF14を統夜の名前で遊んでいるため、この話にもそれを投影しておりました。
そのため、本来は統夜vsゼノスにする予定でしたが、奏夜のピンチに統夜が駆け付けるという展開に変更しました。
その方が上手く話を繋げるかな?と思ったので。
今回は思いきりFF14の内容の詰まった回となってしまいましたが、僕自身が楽しんでるのもあったため、今回みたいな話は書きたいと思っていました。
とはいえ、わからない人も多いとは思うのでそこはすいません。
さて、次回はいよいよ新章突入となります。
改めてジンガやニーズヘッグとの決戦が終わり、奏夜たちはこれからどのように過ごしていくのか?
それでは、次回をお楽しみに!!