牙狼ライブ! 〜9人の女神と光の騎士〜   作:ナック・G

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お待たせしました!第83話になります!

前回、初めてジンガを打ち負かした奏夜でしたが、ニーズヘッグは復活してしまいました。

奏夜と統夜は無事にニーズヘッグを倒すことは出来るのか?

それでは、第82話をどうぞ!




第82話 「聖光」

怒りの権化と言われている邪竜ホラー、ニーズヘッグの復活を阻止するため、奏夜はジンガに戦いを挑んだ。

 

奏夜はジンガに何度か戦いを挑むも、全く歯が立たなかった。

 

しかし現在は、魔戒騎士として大きく成長した奏夜は、そんなジンガと互角の戦いを繰り広げる。

 

飛行能力を持つジンガに対して、奏夜はかつて尊師を倒した力である天月輝狼(キロ)の力にてジンガに致命傷ともいえる一撃を与えることに成功する。

 

だが、ジンガは既にニーズヘッグ復活の準備を完全に整えていた。

 

自らの身体を核とし、ニーズヘッグを復活させようとしていたのだ。

 

祭壇から現れた魔法陣から真魔界へ移動したジンガは、強大な邪気に包まれると、その体が変化し、その姿はニーズヘッグへとなったのである。

 

「……これが、真魔界……!!」

 

奏夜は真魔界に入るのは初めてだったため、何もないながらも独特な空気を出している空間に、身が引き締まる思いであった。

 

「ここは、本当に何もないところだな…」

 

統夜はかつて、メシアの腕と呼ばれたグォルブと呼ばれたホラーを討滅した時に真魔界へ初めて足を踏み入れており、その時と変わらない雰囲気を感じとる。

 

『統夜!とんでもない邪気か迫ってくるぜ!』

 

「そうらしいな。ホラーを探知出来ない俺ですら、それを感じるぜ…」

 

ニーズヘッグの邪気はかなりのものだったからか、統夜はそれを肌で感じており、額から冷や汗が滲み出ている。

 

それはどうやら奏夜も同様であり……。

 

「この感じ……。今まで戦ってきたホラーたちとはまるで違うぞ……!」

 

『そういうことだ。奏夜、油断するなよ!!』

 

キルバが、強大な邪気に戦慄している奏夜を奮い立たせる言葉を放ったのと同時に、ニーズヘッグがその姿を現す。

 

その身体は、かつて戦ったニーズヘッグの眷属であったダークスケイルよりも遥かに大きく、鋭い牙と、両方の眼からは、禍々しい邪気を放っていた。

 

『ふん…!目障りな気を感じると思って来てみれば…。魔戒騎士か……』

 

「お前がニーズヘッグってわけか…!」

 

『いかにも!!我は、依代となったホラーの若造の怒りに触れて甦った!今度こそ、我が怒りの炎で人間どもの住処を焼き払うために』

 

『どうやら、情報通りのホラーのようだな。怒りに心が支配されているぜ!』

 

統夜と共にニーズヘッグのことを調べていたイルバは、ニーズヘッグの放つ怒りの感情に、収集した情報が間違っていないことを確認する。

 

「ニーズヘッグ!!あんたは人間に裏切られて大切な仲間を失ったんだろ!?あんたの怒りはよくわかる!だが、お前が憎む人間ってのは、そんな奴らばかりじゃないんだ!お前はかつて、キルバやイルバみたいに、人間に力を貸していたこともあるんだろう!?だったら、俺たちがこうして戦う必要はないはずだ!」

 

奏夜はアキトから得た情報にて、ニーズヘッグがどうして怒りの権化と呼ばれる程の怒りを抱えているのかを知った。

 

だからこそ、そこを汲み取り、歩み寄ろうとするのだが…。

 

『奏夜、無駄だ!奴にそんな陳腐な言葉は通用しないぞ!』

 

『そこの魔導輪の言う通りだ…!知ったような口を聞きおって……!』

 

奏夜の歩み寄ろうとする気持ちが、かえってニーズヘッグの怒りに触れてしまったようであり、それを表現するかのように2人に向かって怒りの咆哮を放つ。

 

「ぐっ…!これがニーズヘッグの咆哮か……!」

 

「さすがってところだな…!まさか、ここまで怯まされるとは……!」

 

ニーズヘッグの咆哮はかなりのものであり、奏夜と統夜はそれを肌で感じつつも、怯んでしまう。

 

「だが、こんなところで負けちゃいられない。そうだろ?奏夜!!」

 

「はい、統夜さん!!俺たちでこいつを倒しましょう!」

 

それでも、負けじとニーズヘッグを睨み付け、2人は魔戒剣を構える。

 

『我を倒すだと…?脆弱な魔戒騎士如きが図に乗るな!』

 

奏夜と統夜は自分を倒すつもりだという言葉が気にいらず、ニーズヘッグはそれをぶつけるかのように口から炎を放つ。

 

2人は左右に散らばり、難なくそれを回避するのだが…。

 

「今のは小手調べってところだろうが、なかなかな威力だな…!」

 

「ええ…!ですが、ここで負けてはいられません!」

 

「ああ!その意気だぜ!奏夜!!」

 

ニーズヘッグからの先制攻撃をかわし、2人は反撃に転じようとしていた。

 

『奏夜!真魔界では鎧の制限時間はない。思い切りいくぞ!』

 

「そうみたいだな、わかった!!」

 

魔戒騎士の鎧は魔界から召還される。

 

地上でその鎧を使う時には99.9秒というタイムリミットがあるのだが、真魔界で鎧を召還する時は、その制限時間はなく、99.9秒を過ぎても心滅獣身の状態になることはない。

 

その話は統夜から聞いていたのか、奏夜はすぐにキルバの言葉を受け入れていた。

 

奏夜と統夜は同時に魔戒剣を上空へ突き上げ、円を描く。

 

その部分のみ空間が変化し、2人はそこから放たれる光に包まれる。

 

すると、その空間から黄金の鎧と白銀の鎧が現れ、その鎧は奏夜と統夜の身体に装着されていく。

 

奏夜は、牙狼とは異なる黄金の輝きを放つ陽光騎士輝狼(キロ)の鎧を身にまとう。

 

そして、統夜は白銀の輝きを放つ、白銀騎士奏狼(ソロ)の鎧を身にまとった。

 

「全力で行くぜ!…来い、白皇!!」

 

「行くぞ!光覇!!」

 

統夜と奏夜は、それぞれの魔導馬の名前を呼ぶと、その場に自分の魔導馬を召還した。

 

奏夜の跨る魔導馬は光覇。輝狼の鎧と同じく、黄金の輝きを放つ魔導馬である。

 

そして、統夜の跨る魔導馬は白皇(びゃくおう)。白銀の輝きを放つ魔導馬だ。

 

2人は魔導馬に乗った状態で、ニーズヘッグへと向かっていった。

 

『魔導馬を呼んだところで無駄だ!我が力を思い知るがいい!!』

 

ニーズヘッグは迫り来る奏夜と統夜に対して尻尾による攻撃を放つが、2人はそれを難なく回避する。

 

しかし、これはニーズヘッグの想定内だった。

 

『!?統夜!来るぞ!!』

 

『奏夜も、油断するな!!』

 

すかさずニーズヘッグからの攻撃が来ると感じたイルバとキルバは、それぞれの相棒に警戒するように促す。

 

ニーズヘッグの両方の翼が紅蓮の炎を纏ったのである。

 

「!?あれって、まさか烈火炎装なのか!?」

 

「いや、違うみたいだが、気を付けろよ、奏夜!」

 

体の部分に炎を纏わせるところが烈火炎装とにていたが、ニーズヘッグは魔導火を使う訳ではないため、烈火炎装は使えない。

 

自身の炎を翼に纏わせ、攻撃に転用しているのだ。

 

ニーズヘッグは炎の翼を2人に向かって放つ。

 

「「っ!!」」

 

2人は、それぞれの魔導馬の力により、陽光剣を陽光斬邪剣に。皇輝剣を皇輝斬魔剣へと変化させた。

 

それぞれの剣を構え、巨大な刃を盾のように扱うことで、どうにかニーズヘッグの攻撃を凌ぐのであった。

 

「さぁ、反撃行くぜ!」

 

「はい!!」

 

ニーズヘッグの攻撃を防いだ統夜と奏夜は、そのままニーズヘッグに接近し、それぞれの剣を振るう。

 

ニーズヘッグはその攻撃を受けてしまうが、ダメージはほとんどなかった。

 

『おのれ…。調子に乗るな!』

 

ニーズヘッグは2人の攻撃を許してしまったことに激昂し、今度は尻尾に炎を纏わせ、間髪入れずに放つ。

 

「ぐぁっ!」

 

「ぐっ…!」

 

炎の尻尾によって奏夜と統夜はなぎ払われ、その衝撃で白皇と光覇の召還は解除されてしまった。

 

それぞれの魔導馬がいなくなったことにより、2人の剣は陽光剣と皇輝剣に戻ってしまう。

 

「さすがはニーズヘッグ…!一筋縄じゃ行かないか…!」

 

「ですね…!だが、まだ負けた訳じゃない!!」

 

「ああ!もちろんだぜ!!」

 

先ほどの一撃によって魔導馬の召還が解除されながらも、統夜と奏夜は動じることはなく、体勢を整える。

 

『愚かな魔戒騎士共め……!』

 

ニーズヘッグは、諦めずに自分に向かおうとしている奏夜と統夜を忌々しげに睨み付けていた。

 

「統夜さん!俺が奴を引き付けます!その隙に魔導馬を呼んで、一気に決めてください!」

 

「わかった!お前を信じるぜ!奏夜!」

 

奏夜はニーズヘッグの注意を引き、その隙に統夜が強力な一撃をニーズヘッグに叩き込んで撃破しようと作戦を立てる。

 

『愚かな。そのような策を弄したところで!!』

 

ニーズヘッグは何か策があるのか、あえて奏夜の思惑に乗り、奏夜へと視線を向ける。

 

『統夜!今だ!』

 

「ああ!来い!白お……」

 

統夜はすかさず白皇を召還しようとするのだが……。

 

『させんわ!!』

 

ニーズヘッグは精神を集中させると、統夜が魔導馬を召還するよりも早くに漆黒の玉を統夜に纏わせた。

 

「っ…!こいつは…!動けねぇ!!」

 

どうやら、先ほど放った技は、対象者の動きを拘束する技のようだった。

 

「統夜さん!」

 

奏夜は自分の作戦を中断し、統夜の救出を行おうとするが……。

 

『そのまま行かせると思うか!?』

 

ニーズヘッグは奏夜に接近すると、爪による一撃を放つ。

 

「くっ!!」

 

奏夜はどうにかニーズヘッグの攻撃を防ぐものの、相手は狙いを定めているため、どうにか攻撃をかいくぐって統夜を救出させようとするのを妨害される。

 

『統夜!どうにかそこから脱出しないとまずいぞ!!』

 

「そうみたいだな…。俺は、こんなところで死ぬわけにはいかないからな…!!」

 

統夜は身動きが取れない状態ながらも、どうにか自身を包む黒い玉を破壊しようと試みる。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

統夜はまるで獣のような咆哮をあげると、身動きが取れない状態ながらも烈火炎装の状態となり、黒い玉を破壊することで、脱出した。

 

「!統夜さん!」

 

『あれを自力で抜けるか!面白い!!』

 

ニーズヘッグは再び尻尾に炎を纏わせると、近くにいた奏夜をなぎ払う。

 

「ぐぁっ!」

 

奏夜は吹き飛ばされながらも体勢を整えるのと、ニーズヘッグが烈火炎装の状態の統夜へ向かっていくのは同じタイミングであった。

 

そして、統夜もまた、ニーズヘッグへと向かっており…。

 

「こいつで!!」

 

統夜は魔導火を纏った皇輝剣でニーズヘッグを切り裂こうとするが……。

 

『そんなもので!』

 

ニーズヘッグはすかさず自身の翼に炎を纏わせると、その翼を統夜に向かって放つ。

 

「っ!!」

 

統夜は皇輝剣を振るうことでどうにかニーズヘッグの攻撃を防ぐのだが、ニーズヘッグの力はかなりのものだからか、そのまま弾き飛ばされてしまう。

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

統夜は先ほどの一撃でダメージを受けるものの、鎧の召還は解除される程ではなく、どうにか体勢を整える。

 

『ほう。貴様はどうやら愚かな魔戒騎士の中でも骨がありそうだな』

 

「へっ、そりゃどうも」

 

統夜はニーズヘッグの称賛を真に受けることはなく、おどけながら聞き流していた。

 

「このぉ!!」

 

奏夜は統夜にダメージを与えたニーズヘッグに反撃するために陽光剣を振るう。

 

それにより、ニーズヘッグの体は少しだけ切り裂かれ、若干ながらもダメージを与えることに成功する。

 

『貴様……!調子に乗るな!!』

 

奏夜の一撃に激昂したニーズヘッグは、反撃と言わんばかりに炎を纏った翼による攻撃を奏夜に放つ。

 

「ぐっ!」

 

奏夜はそれをモロに受けてしまうが、どうにか体勢を整え、鎧の召還は解除されることはなかった。

 

『まずは貴様に思い知らせやろう。我の怒りがどれほどのものかをな…!』

 

どうやら、ニーズヘッグは奏夜に何かを仕掛けようとしていた。

 

『!?この邪気……奏夜!!こいつはまずいぞ!!』

 

『ああ!とんでもない攻撃が飛んでくるぜ!統夜、小僧のフォローをするんだ!』

 

「わかってる!」

 

統夜は奏夜の救援のために動き出そうとするのだが……。

 

『させん!』

 

ニーズヘッグは咆哮を放つと、どこからか素体ホラーが3体ほど現れ、統夜へ向かっていった。

 

「ちっ…!足止めするつもりか!」

 

統夜は素体ホラーに行く手を阻まれ、そのホラーを相手にせざるを得ない状況になっていた。

 

そんな中、ニーズヘッグは精神を集中させると、自身の口から巨大な炎が集まってきていた。

 

「その攻撃が来る前に!!」

 

統夜が素体ホラーと相手をしている今、ニーズヘッグの攻撃を止められるのは自分だけのため、奏夜はニーズヘッグへ接近し、攻撃を止めようと試みる。

 

しかし、ジンガの怒りに触れたニーズヘッグが怒りの炎の力を貯めるのは早く……。

 

『これが我が怒りの炎だ!!』

 

ニーズヘッグは口から巨大な炎を吐き出し、その炎は奏夜に向けて放たれる。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「奏夜!」

 

奏夜は為す術もなく炎に飲み込まれてしまい、素体ホラーを相手取る統夜は声をあげる。

 

「こいつら…。邪魔だ!!」

 

統夜は皇輝剣を振るうことで3体の素体ホラーを消滅させるが、奏夜の体はニーズヘッグの炎にて焼き払われそうになっていた。

 

(これが……。ニーズヘッグの怒りの力……。こいつがこれ程の怒りを抱えているなんて……)

 

奏夜は咄嗟に剣斗から託された盾で攻撃を防ごうとしていたからか、その身は炎に包まれながらも致命傷はどうにか免れていた。

 

(今なら、わかる気がするよ。あいつの怒りってやつが……)

 

奏夜は、ニーズヘッグの全力の攻撃を受けたことにより、ニーズヘッグの怒りの感情に改めて触れる。

 

(だからこそ、これだけの怒りを持つあいつに、勝てる訳がないよ……。穂乃果……みんな、ごめんな……。俺は……)

 

奏夜は圧倒的な力を持つニーズヘッグの力に屈しようとしており、その身体が完全に炎で燃え尽きようとしていた。

 

その時である。

 

奏夜が託された剣斗の盾が輝きだしたのである。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

«奏夜……。奏夜……!»

 

 

 

 

 

(あれ…?俺は、確か、ニーズヘッグの炎に包まれて……)

 

自分は今まさにニーズヘッグの炎を受けていたハズだったのだが、今自分がいたのは真魔界ではなく、何もない無の空間であった。

 

(それにこの声…どこかで……)

 

奏夜は自分に対して呼びかけている声に聞き覚えがあった。

 

その時だった。

 

«…奏夜…»

 

「…!?け、けん…と…?」

 

奏夜の目の前に現れたのは、なんと、自らを庇って命を落としたはずの剣斗であったのだ。

 

«ふふっ、奏夜…。今のお前はイイとは言えないぞ?どんな奴が相手でも決して諦めない。それがお前のイイところじゃなかったのか?»

 

目の前にいるのが幻なのか、霊なのかはわからないが、奏夜の目の前にいる剣斗は穏やかな笑みで微笑みながら奏夜に語りかける。

 

「だけど!!俺は奴の怒りの感情に触れた!あいつは同じなんだよ。剣斗だけじゃない。テツさんだってそうだ。俺は、誰かの犠牲で生き延びただけなんだよ!そんな無力さを感じている俺は、ニーズヘッグと……」

 

ニーズヘッグはかつて、人間の裏切りによった友を失い、奏夜は自身の無力さで仲間を犠牲にした。

 

背景は違うが、奏夜は自分がニーズヘッグと似ていると確信を持っていたのである。

 

「俺は確かに強くなったのかもしれない…。でも!それでも剣斗を救うことは出来なかったんだ!!」

 

奏夜は、自分が魔戒騎士として成長していることは認識しつつも、完全に強くなれた訳ではなく、今も剣斗やテツの死が尾を引いている。

 

奏夜の慟哭は、そんな心情が読み取れるものであった。

 

«そうか…。私の死が、お前をそこまで追い込んでいたのだな……»

 

剣斗は、自分の死後に奏夜がどんな気持ちだったのかを知ることになる。

 

しかし……。

 

«奏夜。お前は今こそ、私の死を乗り越えて前へ進まなければならない。お前が前を向いていないと、穂乃果たちをしっかりと導くことなど出来ないだろう?»

 

「!?剣斗……」

 

«大丈夫だ。お前は1人ではない。お前には仲間がいる。そして、私はいつでもお前を見守っているさ»

 

剣斗は再び穏やかな表情で微笑むと、奏夜の不安を取り除こうとしていた。

 

«それに、そう思っているのは私だけではないぞ?»

 

剣斗がこう言ってすぐ、とある人物が奏夜の目の前に現れた。

 

その人物とは……。

 

«……奏夜、しばらくみないうちにデカくなったじゃねぇか。人間としてだけじゃない。魔戒騎士としてもな…!»

 

「!?て、テツさん…!?」

 

奏夜の目の前に現れたのは、奏夜が魔戒騎士になったばかりの頃、奏夜にとある事を託したことで命を落とした、奏夜の先輩騎士だったテツであった。

 

«お前は魔戒騎士として立派になったじゃねぇか。あの時、お前を生き残らせるために動いたことは間違いじゃなかったってことだよ»

 

「…!」

 

奏夜はテツからの思いがけない言葉に驚きを隠せなかった。

 

«奏夜…。お前は魔戒騎士として、これからも目の前の誰かを救えないこともあるだろうし、仲間の命で救われることもあるだろう。だが、そこで足を止めてはいけない。救えなかった命を受け取り、守りし者としてのその思いを繋いでいくためにもな!»

 

「!そうか……そういうことなのか……」

 

続いて放たれた剣斗からの言葉を受けて、奏夜は何かを感じ取ったようである。

 

「テツさん…剣斗…。俺はあなたたちを救えなかったどころか、その犠牲で今まで生き残ってきた……。そのことをずっと負い目に感じていたけど、違うんだな…?」

 

奏夜の言葉に、テツと剣斗は穏やかな表情で微笑みながら頷く。

 

「2人の思いを受け取った俺は、2人から思いという力をもらったんだ」

 

奏夜は右手を力強く握りしめると、それを自分の胸に置いた。

 

「これから先もまた、俺は誰かの犠牲で生き延びるかもしれない。それか、俺が誰かのために犠牲になる可能性だって…!だけど……!!」

 

何かを決意した奏夜は先ほどとは目付きが変わっており、どこかへと向かって歩き出す。

 

そんな奏夜をテツと剣斗は見守りながら、消滅していったのだ。

 

「俺は、これからも戦っていく!犠牲になった仲間たちが守れなかった分、多くの人間たちを……!そして、守りし者としてのこの思いを、これからも繋いでいくんだ!」

 

奏夜の決意は、これから魔戒騎士として、守りし者としてどうあるべきかを示すものである。

 

今や英霊となったテツと剣斗が、奏夜にそのことを教えてくれたのであったのだ。

 

「ニーズヘッグの怒りは確かに理解出来る。だけど、これ以上の怒りを……憎しみを……増やす訳にはいかないんだ!!」

 

ニーズヘッグが人界へ現れ、その炎で多くの人間を焼き払ってしまえば、大切なものを失った人たちの怒りや憎しみの感情から、陰我が広がっていくだろう。

 

奏夜はそうさせないためにもニーズヘッグを倒す。

 

こう決意を固めていた。

 

「だからこそ、俺はこんなところで負ける訳にはいかないんだ!!」

 

奏夜がこう宣言したその時である。

 

消滅したハズの剣斗とテツが光の玉となり、奏夜の体の中へ入っていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が名は……。

 

 

 

 

 

 

我が名は輝狼……!

 

 

 

 

 

 

 

 

……陽光騎士だ!!!」

 

 

 

 

 

自分が何者なのか。

 

奏夜がこう宣言した瞬間、奏夜のいたこの無の空間は消滅したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くっ、奏夜……!!」

 

その頃、奏夜がニーズヘッグの炎にて焼き尽くされてしまったと思っている統夜は、そんな状況に絶望していた。

 

「あいつらに…穂乃果たちに、なんて言えばいいんだよ……!!」

 

魔戒騎士として戦う以上、いつ命を落としてもおかしくはない。

 

目の前に対峙するニーズヘッグのような強大なホラーであれば尚更だ。

 

そこは理解しているものの、統夜は後輩騎士を失ったことに絶望している。

 

ニーズヘッグの吐いた炎が収まろうしていたその時である。

 

奏夜がいた場所から大きな光が放たれたのだ。

 

 

『!!?なんだ…!?この光は……!!』

 

ニーズヘッグは、まさかの展開に、驚きが隠せずにいる。

 

「この感じ……まさか……!」

 

『ああ!あの小僧は死んじゃいないみたいだぜ!!』

 

「奏夜…!」

 

奏夜が生きているとわかり、絶望していた統夜は安堵する。

 

放たれた光が収まると、そこにいたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝狼の鎧を纏う奏夜であったのだが、その鎧の状態は大きく変わっていた。

 

鎧は金と白の鎧に変わっており、金よりも白の割合が多くなっている。

 

それだけではなく、その背中には純白の羽根が生えており、奏夜はその翼で飛翔していた。

 

この姿は、「聖光剣身(せいこうけんしん)輝狼」。

 

奏夜が、剣斗やテツの守りし者としての思いを受け取り、それに鎧が応えたことによってその形状を変化させた奇跡の形態なのである。

 

『…!?馬鹿な……!鎧が変化しただと……!?』

 

先ほどまで対峙していた鎧とは大きく異なる姿に、ニーズヘッグは驚きを隠せなかった。

 

「…こいつは…。そういうことか!」

 

統夜もまた、様々な強敵との戦いで何度か鎧の形状が変化したことがあり、それが奏夜にも当てはまっているとすぐに理解する。

 

そして……。

 

「行け、奏夜!!お前のその力なら、あいつを倒せる!!」

 

統夜はこのように力強い言葉を送る。

 

統夜はかつてメシアの腕と呼ばれるグォルブと戦った時、梓たちの音楽が聞こえたのだが、その時、統夜の思いに鎧が応え、翔翼騎士奏狼へと形状が変化した。

 

その時、共に戦った黄金騎士牙狼である冴島鋼牙より送られた言葉と同じ言葉だったのだ。

 

「はい!俺がこいつを倒してみせます!」

 

そんな統夜の言葉に奏夜は頷き、ニーズヘッグを睨み付ける。

 

『おのれ……!なめるな!!』

 

ニーズヘッグは鎧の形が変わった奏夜に驚きながらも、今度こそ奏夜を仕留めるために、飛翔して奏夜へと向かっていった。

 

奏夜もまた、それを迎撃せんと向かっていく。

 

『我が怒りの炎…思い知れ!!』

 

ニーズヘッグは再び奏夜に向けて炎を吐き出すのだが、奏夜は盾に念を込めると、盾はニーズヘッグに向かっていった。

 

その盾から光が放たれると、それは大きな盾となり、ニーズヘッグの炎を難なく防いでいく。

 

『!?なんだと!?』

 

自分の攻撃がここまで簡単に防がれると思っていなかったのか、ニーズヘッグは驚きを隠せない。

 

それどころか、目の前の敵の未知なる力に恐怖すら感じていた。

 

ニーズヘッグの炎を防いだ盾から光が消えると、そのまま奏夜のもとへと戻っていった。

 

『貴様がどんな力を持とうが関係ない!我が名はニーズヘッグ!我は誰よりも雄々しく…誰よりも猛々しい漆黒の翼ぞ!』

 

奏夜に対して抱いている恐怖を払拭するかのようにニーズヘッグは名乗り、咆哮をあげる。

 

『我が怒りの全て…貴様にぶつけようぞ!!』

 

こう宣言すると、ニーズヘッグは再び咆哮をあげ、口から炎を放つ。

 

その炎は奏夜に向けてではなく、自身に向けられており、ニーズヘッグは自らの炎に包まれた。

 

すると、ニーズヘッグの体は先程までの黒い身体から、炎を纏った紅蓮の体へと変化したのだ。

 

「これが、ニーズヘッグの真の姿……」

 

ニーズヘッグのことを調べていた統夜は、ここまでの情報は得ていなかったからか、驚きを隠せずにいた。

 

『あれは恐らく、取り込んだジンガの怒りが合わさってあんな姿になったのだろう。奴の怒りの込められた邪気を感じるぜ!』

 

「なるほどな…」

 

キルバの分析に納得出来たのか、統夜はゆっくりと頷く。

 

「だけど、大丈夫だ。今の奏夜なら……」

 

統夜は紅蓮の炎を纏ったニーズヘッグと、それに対峙する奏夜を見つめながらこう呟いていた。

 

『小賢しい魔戒騎士め……!これならどうだ!』

 

ニーズヘッグは炎を纏った翼を奏夜に向かって放つ。

 

新たな姿となり、先程より遠くの敵を狙えるようになった翼が奏夜に迫る。

 

しかし……!

 

「なんの!!」

 

奏夜は念を込めると、どこからか2本の魔戒剣が現れ、ニーズヘッグの炎の翼の攻撃を防いでいる。

 

「!?あれはもしかして、剣斗の魔戒剣か!?」

 

『それだけではない。もう1つの魔戒剣は、かつてあの小僧を生かすために命を落としたと言ってた魔戒騎士のものだろう』

 

突如現れた2本の魔戒剣に統夜は驚きながらも誰の使ってた魔戒剣はすぐにわかったのだ。

 

『おのれ、まだ何か隠し持っていたか…!』

 

ニーズヘッグは突然現れた2本の魔戒剣に驚くことはないが、怒りを向けている。

 

奏夜はさらに念を込めることで、2本の魔戒剣を遠隔で操り、炎に纏われた翼を切り裂く。

 

その一撃により飛行能力は失われてはいないものの、ニーズヘッグは痛みによって苦悶の咆哮をあげていた。

 

しかし、ニーズヘッグは負けじと炎に纏われた尻尾を奏夜に向けて放った。

 

奏夜は念を込めることで、2本の魔戒剣を操り、ニーズヘッグの尻尾を受けとめる。

 

「…こいつで!!」

 

奏夜は陽光剣を一閃し、2本の魔戒剣を駆使したことによって抑えこんでいた、ニーズヘッグの尻尾を切り裂く。

 

『があぁぁぁぁ!!おのれ……!!』

 

奏夜が聖光剣身の力を得てからは、終始ニーズヘッグを圧倒していた。

 

『我が…貴様のような小僧に遅れをとるなど…有り得ん…!!』

 

「ニーズヘッグ!お前の抱える怒りは理解出来る。だけど!俺は多くの思いを託されている。そう簡単に負けるわけにはいかないんだよ!」

 

奏夜は毅然とした態度でニーズヘッグへ言い放ち、臨戦態勢は崩さずにニーズヘッグを睨みつける。

 

『貴様の思いなど…!!我の怒りの炎にて焼き払ってくれようぞ!!』

 

ニーズヘッグは口から炎を放つのだが、その炎は奏夜へ向けられることはなく、自らの体を炎で包んでいた。

 

現在ニーズヘッグは紅蓮の炎に身を纏っているのだが、さらに自分の炎を纏わせることにより、先ほどまで以上に強大な力を奏夜にぶつけようとしていたのだ。

 

『…!奏夜!!奴はこの一帯ごとお前を焼き払おうとしているぞ!!』

 

キルバはニーズヘッグから放たれる炎を見て、このような警告を入れる。

 

「そうらしいな…。だけど!俺は負けない!!」

 

奏夜は陽光剣を構えると、精神を集中させる。

 

それによって奏夜は2本の魔戒剣を操作するのだが、その魔戒剣が光の玉へと変化し、陽光剣の中に入っていく。

 

すると、陽光剣は陽光斬邪剣へと姿を変える。

 

本来陽光斬邪剣への変化は輝狼の魔導馬である光覇の力によってもたらされるものであるが、奏夜が聖光剣身の力によって操作している2本の魔戒剣の力が合わさったことによって、光覇の力がなくともこの姿へと変化出来たのだ。

 

しかも、この陽光斬邪剣は光覇の力によって変化した時よりも刃が大きくなっていたのだ。

 

奏夜は再び精神を集中させると、陽光斬邪剣の切っ先に橙色の魔導火を纏わせる。

 

そう、強力になった陽光斬邪剣に烈火炎装の力を合わせることによって、さらに強大な力へと変化しているのだ。

 

『…我が真の怒りをここに!!』

 

ニーズヘッグは全身を紅蓮の炎に包んだ状態で、奏夜目掛けて突撃してきた。

 

そのスピードはかなりのものであり、ニーズヘッグが通り過ぎていった場所は炎に包まれていたのである。

 

これこそが、怒りの炎によって人界を灰に変えてしまうと言われているニーズヘッグ本来の力の所以でもあるのだ。

 

「…させるか!!」

 

奏夜は陽光斬邪剣を振るい、突撃してきたニーズヘッグの動きを止める。

 

陽光斬邪剣と炎を纏ったニーズヘッグ。

 

2つの強大な力が拮抗していた。

 

「ぐっ、ぐうぅ……!」

 

奏夜は全身全霊の力でニーズヘッグの突撃を受け止めているのだが、ニーズヘッグの怒りの力は強大なものであり、聖光剣身の力をもってしても、ニーズヘッグに競り負けそうになっていた。

 

『奏夜!気合を入れろ!ここでお前が負けたら、月影統夜共々灰になってしまうぞ!』

 

「わかっ…てるよ!!」

 

奏夜としては、本当に自分の出すべき力は出している。

 

しかし、ニーズヘッグの真の怒りの力はそれを凌駕しようとしていたのだ。

 

『おい、統夜!このままじゃあの小僧だけじゃない。俺たちも危険だぞ!!』

 

「ああ、そうみたいだな…!」

 

奏夜の強力な奇跡の形態であってもニーズヘッグの一撃に押されているのを統夜は感じていた。

 

「…奏夜!負けるなよ!俺の力も受け取れ!!」

 

統夜は自身の魔導火である赤の魔導火を全身に纏い、烈火炎装の状態になった。

 

その魔導火を全て皇輝剣の切っ先に集中させ、それを統夜の力として奏夜に向かって放つ。

 

赤い炎の刃は奏夜へ向かっていくと、奏夜はその赤い炎を受け取り、奏夜の体は橙色だけではなく、赤の魔導火に包まれたのである。

 

「感じるぞ…!統夜さんの力…!!これなら!!」

 

自分が心から尊敬する先輩騎士の力を借りたことにより、奏夜の力は更に高まる。

 

その結果、先ほどまでは押されつつあった状況が改善され、陽光斬邪剣の刃がニーズヘッグにあと少しのところまで迫ろうとしていた。

 

『おのれ…!魔戒騎士如きの力など…!!』

 

ニーズヘッグは先ほどより強くなった奏夜の力に一瞬だけ焦りを見せるのだが…。

 

『我の怒りはこの紅蓮の炎だ。しかし!我の依代となったホラーの若造の怒りは、何よりも底の深い闇なのだ!!この2つが合わさった時、貴様に勝ち目はない!!』

 

ニーズヘッグは自らの力たけではなく、取り込んだジンガの力も使おうとしていた。

 

これこそが、ニーズヘッグの隠し持っていた切り札であった。

 

自分がここまで押されるとは予想していなかったが、もしもの時の保険として、ジンガの力は使わないようにしていたのだ。

 

「何!?まさか……!」

 

『奏夜!まずいぞ!!』

 

キルバは最大限の警告をするのだが、この状態で動けるはずはない。

 

『我が紅蓮の怒りと、漆黒の闇の怒り…。2つの怒りがここに!!』

 

ニーズヘッグがこう宣言すると、その体から漆黒の衝撃波が放たれた。

 

この技は、かつてジンガが奏夜たちと相対した時にジンガの右腕であった尊師と共に放った闇の力を解き放ったものであった。

 

その闇の衝撃が奏夜へ迫る。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その一撃は相当なものであり、奏夜は苦しみの断末魔を上げながらも、その力を緩めはしなかった。

 

『この一撃を受けても耐えるとは…。だが、いつまでもつかな?』

 

奏夜は力を緩めていないとは言うものの、先ほどのダメージによって僅かに隙が出来てしまい、ニーズヘッグの紅蓮の巨体が奏夜に迫ろうとしていた。

 

「負けるか…!負けてたまるか…!絶対に!!俺は!!こんなところで倒れる訳にはいかないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

奏夜の体は既に限界を迎えていたが、ここで負ける訳にはいかないという強い思いが奏夜を突き動かしている。

 

『フン!これで終わりだ!!』

 

ニーズヘッグは先ほどの漆黒の衝撃波を再び放ち、その勢いのまま奏夜を葬ろうとしていた。

 

「ぐぁぁ…!ま、まだだ…!!」

 

奏夜は最後まで諦めない姿勢を貫いてしまったが、同じ攻撃を2度受けてしまったことにより、ニーズヘッグを受け止めていた力が緩まってしまった。

 

そのままニーズヘッグの巨体が奏夜に迫ろうとしていたが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?」

 

ふと奏夜の手を取る2つの手が現れると、その手はまるで奏夜を後押しするかのように奏夜に力を貸していた。

 

その2つの手とは……。

 

「……剣斗…テツさん…」

 

奏夜がこの姿になる前に、幻の空間で出会った剣斗とテツであった。

 

2人の魂が英霊として、奏夜に力を貸しているのである。

 

剣斗とテツは無言で頷くと、今奏夜の手を取っているのだが、さらにそこに力を込めた。

 

そんな力強い後押しを受けた奏夜は先ほどまでのダメージが嘘のように力を取り戻しており、再び力強く陽光斬邪剣を握りしめる。

 

「ニーズヘッグ!これこそが、怒りや闇をも凌ぐ…。英霊たちの思いの力だ!!」

 

奏夜は、統夜の力だけではなく、剣斗やテツの思いの力を受け取ることによってさらに陽光斬邪剣を握る力も強くなっていた。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

奏夜は渾身の力を込めて陽光斬邪剣を振り下ろすと、ニーズヘッグを包んでいた炎を切り裂いた。

 

その振り下ろした力はかなりのものであり、その勢いのまま、ニーズヘッグの体は地面に叩きつけられてしまう。

 

『ぐぁっ!!馬鹿な…!思いなどと薄っぺらい力が我が怒りを凌ぐというのか…!』

 

ニーズヘッグは、自分の怒りの力が競り負けるなどとは思っていなかったため、驚きを隠せなかった。

 

「これで……終わりだ!!」

 

地面に叩きつけられたことによってニーズヘッグはすぐに動けなかったのだが、奏夜はそれを見逃さなかった。

 

奏夜は陽光斬邪剣を一閃すると、ニーズヘッグの体は真っ二つに切り裂かれた。

 

『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

自身の怒りや闇の力を越える思いの込められた刃を受けて、ニーズヘッグは断末魔をあげる。

 

『…そうか…。これが…人の思いというやつなのか……!人間が全て貴様のような奴であれば…我はここまで怒りに捉われることもなかったであろうな……!』

 

ニーズヘッグは奏夜の刃を受けたことにより、思いの力の大きさをその身を持って知ることが出来た。

 

その結果、最期の瞬間はあれ程抱えていた怒りは全て消え去ったのである。

 

その怒りを浄化するかのように、ニーズヘッグの体は爆発し、その身体は怒りという名の陰我と共に消滅した。

 

“奏夜!お前の最後まで諦めない強い思い…とてもイイ戦いだったぞ!!“

 

“まったくだ。最早、俺の知るあのひよっこな魔戒騎士はここにはいないみたいだぜ。……本当に、強くなったな。奏夜…“

 

“私たちはいつでも見守っている。お前の…お前たちの戦いを!だから、お前は1人ではない。それだけは、忘れないでくれ…“

 

奏夜が鎧を解除する瞬間、穏やかな表情で微笑む剣斗とテツが、奏夜に向けてメッセージを送っていた。

 

鎧が解除されたのと同時に、2人はそれを見届けるかのように消滅していった。

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

奏夜はニーズヘッグとの戦いで自分の持てる力を全て使い果たしていたため、息があがっていたのである。

 

(剣斗……テツさん……本当にありがとう……。俺、これからも生きて、この思いを繋ぎながら戦っていくよ……。守りし者として……!)

 

体力を使い果たした奏夜は言葉を発するのも難しい様子であったが、心の中で剣斗やテツへの感謝と決意を独白していたのだ。

 

「…!奏夜!!」

 

ニーズヘッグとの戦いを見届けた統夜は、鎧を解除すると、そのまま奏夜へ駆け寄っていった。

 

「奏夜、立てるか…?」

 

「と、統夜さん…」

 

奏夜は力を使い果たしたからか、立つのも難しい様子があったため、統夜は肩を貸してどうにか奏夜は立ち上がることが出来た。

 

「…あの……俺……」

 

奏夜は息絶えだえながらも、統夜に何かを言おうとしていたのだが…。

 

「奏夜。今は何も言うな。お前はよくやったよ。とりあえずは早くこの真魔界から脱出しないとな」

 

『統夜、急げよ!俺たちが通ってきた門だが、閉じてしまうのも時間の問題だぜ!』

 

「わかっているさ。ララに必要以上の負担をかけさせる訳にはいかないからな」

 

統夜は奏夜と共に自分たちが通ってきたゲートを目指し、真魔界へ脱出するのである。

 

奏夜の活躍により、ニーズヘッグは真魔界から人界へ現れることなく討伐された。

 

しかし、統夜たちが入った時よりも遥かに小さくなっているゲートをくぐって真魔界を脱出したその直後、その様子を見つめる黒い影があった。

 

ニーズヘッグが倒されたことにより、この戦いは幕を下ろしたと思われていたのだが、まだ戦いは終わっていなかったのである…!

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

─次回予告──

 

『これでこの戦いは終わったと思ったが、まだ波乱があるとはな…。奏夜、お前はまだ戦えるか?次回、「雌雄」。その刃で、全てを終わらせてやれ!!』

 




ニーズヘッグとの決戦はなかなかの激闘だったからかけっこう長文になってしまった。

ちなみに、奏夜が変化した 聖光剣身は、「牙狼 DIVINE FLAME」で登場した天剣煌身牙狼をモデルにしているのですが、

牙狼剣ファンネルや超巨大な牙狼斬馬剣みたいなチートな機能はないですが、剣斗やテツの力を借りているので2人の魔戒剣や剣斗の盾を遠隔操作しながら戦っていました。

本来なら鎧の形状が変化した後は終始ニーズヘッグを圧倒して終わらせることも考えましたが、それだとジンガを取り込んだ意味がないなと感じてしまい、それなりに苦戦させてみました。

かつて奏夜たちがジンガと戦った時に受けた漆黒の衝撃波を2発受けても耐えられることが、この鎧の強さを表現出来たかな?と思っております。

今回で決着かと思いきや、次回が本当に決着になります。

真魔界を脱出した奏夜たちを見ていた黒い影の正体とは?

そして、奏夜たちはこのまま無事に帰還することは出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!!


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