今回からはようやくラブライブ!の第3話に突入します。
穂乃果たちμ'sの初ライブが迫っていますが、いったいどのようなものになっていくのか?
それでは、第9話をどうぞ!
奏夜たちはスクールアイドルとして動き始め、初ライブを2日後に控えていた。
当初は階段ダッシュを一往復するだけでバテバテだった穂乃果とことりは、この頃にはだいぶ体力がついてきたのか、そつなく階段ダッシュを行えるようになっていた。
そんな穂乃果たちの成長に奏夜は心から喜んでおり、2日後の初ライブも上手くいくのでは?と大いに期待をしていた。
この日の夜、奏夜は番犬所からの指令を受けてホラー討伐に向かっており、現在は鎧を召還してホラーを追い詰めていた。
「……貴様の陰我……俺が断ち切る!」
輝狼の鎧を召還した奏夜は、魔戒剣が変化した陽光剣を構えると、ホラーへ接近し、陽光剣を一閃した。
その一撃によってホラーは真っ二つに斬り裂かれ、ホラーは断末魔をあげながら消滅した。
「……よし……」
ホラーが消滅したことを確認した奏夜は、鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣を緑の鞘に納めた。
『……奏夜。今日の戦い方はまぁまぁ良かったぞ。これからもこの調子で頑張るんだな』
キルバは奏夜の戦いを評価していたのだが、素直に褒めることはしなかった。
それでも、評価してもらったことを奏夜は理解していたため、嬉しさを噛み締めていた。
「さて……。明日の練習もあるし、さっさと帰って寝るとするか……」
奏夜は明日に備えてゆっくり休養を取るため、そのまま家に帰ろうとしたのだが……。
__ピロピロピロピロ!!
奏夜の持っている携帯が突如反応したため、奏夜はポケットから携帯を取り出した。
どうやら電話のようなのだが、その相手は……。
「……お、珍しい。統夜さんからだ」
電話の相手は、奏夜の先輩騎士であり、奏夜が憧れている魔戒騎士の1人である月影統夜からだった。
奏夜は統夜と話をしたいと思っていたため、すぐに電話に出たのであった。
『……もしもし、奏夜か?久しぶりだな』
「はい!お久しぶりです!統夜さん!」
久しぶりに聞いた統夜の声は、いつもと変わらず穏やかなものであり、その声を聞けて嬉しいと思った奏夜の声のトーンが上がっていた。
『……アハハ……。その感じだと元気そうだな……。奏夜、今は何をやってたんだ?』
「はい。少し前に指令のホラーを倒して、今から家に帰るところです」
『おっ、奏夜は指令だったんだな。お疲れさん』
「はい、ありがとうございます!」
統夜からの労いの言葉を、奏夜は素直に受け止めていた。
『……そういえば梓から聞いたんだけど、穂乃果たち3人がスクールアイドルってやつを始めたらしいな』
「はい。統夜さんはスクールアイドルを知っているんですか?」
『いや。梓はハマっているらしいけど、俺はイマイチわからないんだよ。ちょっとは興味はあるんだけどな』
どうやら統夜はスクールアイドルのことをよくわかっていないようであった。
統夜が口にしている梓というのは、桜ヶ丘高校で軽音部であり、統夜の後輩でもある中野梓(なかのあずさ)のことである。
梓は統夜にとってかけがえのない存在であり、統夜が高校3年生の冬から付き合っている。
今でも2人の仲は良好であり、周囲を羨ましがらせる程であった。
そして梓は統夜以外の先輩4人が通うN女子大学に見事合格し、この春からその大学に通っている。
「明後日に穂乃果たちのグループ、μ'sの初ライブがあるんです。もし良かったら見に来ませんか?」
スクールアイドルに興味を持ち始めていると聞いた奏夜は、穂乃果たちの初ライブに、統夜を誘っていた。
『そうだな……。それも悪くないかもな。みんなは普通に講義があるだろうし、俺だけしか行けないとは思うけど……』
どうやら統夜は初ライブに行く気はあるようだが、1人で行こうかなと考えていた。
「そうですか……。軽音部の皆さんにも会いたかったですけど、統夜さんが来てくれるなら穂乃果たちも喜ぶと思います」
『……そっか。そのライブってのは明後日やるって言ってたけど、何時くらいにやるんだ?』
「16時に音ノ木坂学院の講堂でやります」
『16時に講堂ね。わかった。穂乃果たちの初ライブ、楽しみにしてるよ。あいつらにもよろしく言っておいてくれ』
「はい、わかりました!」
『それじゃあ、また明後日な』
「はい!楽しみにしてます!」
ここで統夜は電話を切ったため、奏夜は携帯をポケットにしまった。
『……奏夜。もしかして、月影統夜が来るのか?』
「あぁ。どうやら穂乃果たちの初ライブを楽しみにしてるみたいだ」
『なるほどな……。あの男と会うのなら、あいつらにホラーの秘密を話したことを相談したら良いかもな』
「そうだな。どうにか時間をとってもらって相談しようかな」
統夜は穂乃果たちがホラーや魔戒騎士の秘密を知ったことを知らないため、会った時にそのことを相談しても良いかなと奏夜は考えていた。
こうして、久しぶりに統夜と電話で話すことが出来た奏夜は、そのまままっすぐ家に帰り、すぐ眠りについたのであった。
※※※
翌日、この日も朝早くに神田明神に集まった奏夜たちは、朝からトレーニングを行っていた。
__ピッ!
奏夜がホイッスルを鳴らすと穂乃果たち3人は一斉に階段ダッシュを開始した。
穂乃果とことりは当初とは比べ物にならないくらい体力がついており、階段ダッシュのトレーニングは順調に行われていた。
階段ダッシュの練習を終えると続いてはダンスの練習に入った。
「12345678」
奏夜は手拍子をしながらリズムを刻むと穂乃果たちはそれに合わせて踊っていた。
曲が完成してからはダンスコーチでもある奏夜がダンスの指導を行っていた。
ダンスの振り付けも最初はかなりぎこちないものであり、奏夜は不安になったこともあったが、穂乃果たちは奏夜の出した厳しいメニューをどうにかこなしていた。
「穂乃果、ちょっと早いぞ。もっとみんなに合わせろ!ことりはちょっと遅いぞ!」
奏夜は的確に穂乃果たちに指示を出して改善すべきところを指摘していた。
「そこでタッチだ!」
穂乃果たちは奏夜の指示通りに動いており、奏夜はそれを見てウンウンと頷いていた。
(……うん、だいぶ良くなってきたな……)
《確かにな。ダンスの練習を始めた頃は目も当てられないほどだったがな》
(本当に穂乃果たちはよく頑張ってるよ)
奏夜とキルバは、穂乃果たちが本気で初ライブに向けて練習していることを実感しており、その成長にも感心していた。
休憩をはさみながら練習をこなし、朝の練習は終了した。
「ほらっ」
奏夜はクーラーボックスを持参しており、その中で冷やしたスポーツドリンクを3人に渡した。
「そーくんありがとう♪」
「そーくん、いつもありがとね♪」
「すみません、奏夜。いつもいつも」
「気にするなってこれもまた俺の仕事だからさ」
奏夜はμ'sのダンスコーチだけではなく、μ'sのマネージャーも行っている。
自分のすべき仕事は全うする。
こう考えていた奏夜は当たり前のことをしていると思っていた。
「いやぁ、終わった終わった♪」
「まだ放課後の練習が残っていますよ?」
「でも、ずいぶん出来るようになったよね♪」
『まぁ、確かにだいぶ良くはなってきたよな』
「俺から言わせてもらえれば、まだまだだけど、1ヶ月でここまで出来るようになったのは凄いと思うぞ」
奏夜は少しばかり厳しい評価であったが、穂乃果たちの努力はきちんと評価しており、穂乃果たちは奏夜に褒められたことが嬉しかった。
「2人がここまで真面目にやるとは思いませんでした。穂乃果は寝坊してくるものだとばかり思ってましたし」
海未は穂乃果がここまで真面目に練習をこなすとは思っておらず、遅刻もないことに驚いていた。
『ま、奏夜はしょっちゅう練習に遅刻しているがな』
「そ、それは仕方ないだろ!?エレメントの浄化だってあるし……」
「まぁ、奏夜は魔戒騎士ですし、そこは理解しているので大丈夫ですよ」
魔戒騎士が明るい時間に邪気が溜まっているオブジェの浄化をしなければいけないのだが、その仕事については奏夜から話を聞いているため、むしろ海未はその仕事をこなしながらもきちんと練習にも顔を出してくれる奏夜がありがたかった。
「そう言ってもらえるとこっちも助かるよ」
「まぁ、私はここで頑張ってる分、授業中にぐっすり眠ってるから♪」
「いや、大丈夫じゃないだろ」
奏夜は即座にツッコミをいれるが、確かに最近の穂乃果は授業中に寝ては先生によく起こされることがよくあったのである。
「……ん?」
奏夜たちがこのような会話をしていると、階段の方から赤い髪がちらっと見えた。
「……西木野さんか。こそこそしなくてもいいのにな」
どうやらこっそり奏夜たちの様子を見ていたのは真姫であり、こそこそと様子を見ている真姫を見て、苦笑いをしていた。
《……おい、奏夜。さっきのエレメントの浄化とかそんな話が聞かれたんじゃないのか?》
(そうかもしれないけど、西木野さんは意味を理解出来ないだろうし、大丈夫だろ)
キルバは魔戒騎士に関する単語を聞かれたのではないかと焦りを見せていたのだが、奏夜は特に心配はしていなかった。
この話を聞いたところで、その意味を理解出来る訳がないからである。
どうやら、穂乃果も真姫の存在に気付いたようであり……。
「西木野さ~ん!真姫ちゃ~ん!」
「ヴェェ……」
穂乃果が大声で真姫のことを呼んでおり、真姫は独特な声をあげていた。
「もう!大声で呼ばないで!」
大声で呼ばれたのが恥ずかしかったのか真姫はこっちに詰め寄ってきた。
「どうして?」
「恥ずかしいからよ!」
「まぁ、確かに恥ずかしいよな」
奏夜はとりあえず真姫に助け船を出しておいた。
「そうだ!あの曲!」
そう言うと穂乃果はポケットからiPodを取り出した。
「3人で歌ってみたんだけど、聴いて欲しいな」
真姫に曲を作ってもらい、穂乃果たちは歌の練習も行っていたのだが、3人で歌ったものを録音したのは1週間前だった。
「はぁ?何で?」
「そーくんに聞いたんだけど、この曲は真姫ちゃんが作ってくれたんでしょう?」
「……!む~……」
自分が作曲したとあまり知られたくなかったからか、真姫はぷぅっと頬を膨らませると、奏夜を睨みつけていた。
「おいおい。別にそれくらいはいいだろう?遅かれ早かれわかることなんだし。それよりも、穂乃果たちの曲、聞いてやってくれよ」
「だから何で私が……」
真姫が困ったような表情をする中、穂乃果が何かをしようとしていた。
「がおー!」
穂乃果は何故かライオンのような鳴き声をあげると、真姫に抱きついていた。
「は、はぁ?何やってるのよ?」
突然の出来事に真姫が戸惑う中穂乃果はフッフッフッと怪しい笑みを浮かべていた。
(……それにしても穂乃果の顔がまるでエロオヤジだな……)
《……確かにな。俺もそう思っていた》
「ちょ、ちょっとあんた!見てないで助けなさいよ!」
「まぁ、頑張れ」
穂乃果には穂乃果の考えがあるだろうと察した奏夜は、あえて真姫を突き放していた。
「はぁ?ちょっとあんた!」
「フッフッフッ、うひひひ……」
(……もう笑い方が女子高生のそれではないよな……)
《それに、アイドルらしくない笑い方だよな……》
奏夜とキルバは、呆れた表情で事の動向を見守っていた。
「いやあぁぁぁ!!」
真姫が悲鳴をあげたと思ったら穂乃果が真姫の片耳にイヤホンをつけた。
「え?」
「よし、作成成功♪」
「やれやれ。そんなことだろうと思ったよ」
奏夜が呆れながらこう呟くと、真姫は何も言わなかったが、少しだけむくれていた。
「けっこううまく歌えたと思うんだ。行くよ♪」
穂乃果が合図すると海未とことりが穂乃果の肩を掴んでいた。
「μ's!」
「ミュージック……」
「「「スタート!」」」
3人の掛け声でiPodの音楽を再生した。
真姫は穂乃果たちの歌を真剣に聞いており、奏夜たちはそんな真姫の様子を見守っていた。
「ねぇねぇ、どうだった?」
曲が最後まで再生されると、穂乃果は真姫感想を求めていた。
「まっ、まあまあじゃない?」
「フフッ、奏夜の言う通り素直じゃないですね」
「そうだろ?本当に素直じゃないんだよなぁ」
「な、何よ!もう用が済んだなら私は行くわよ」
西木野さんはイヤホンを外すとそれを穂乃果に返し、逃げるようにその場を後にした。
「やれやれ…。俺たちも着替えて学校に行こう」
「そうだね」
こうしてこの日の朝の練習は終わり、奏夜たちは着替えた後に学校へと向かった。
※※※
学校に到着するとすぐに、穂乃果は大きな欠伸をしていた。
「まったく、眠る気満々みたいだな」
奏夜だけでなく海未も同じ事を思ったか海未も呆れていた。
玄関に向かって歩いていると、「あの子たちじゃない?」という声が聞こえてきていた。
なので声の方を見ると、3年生の先輩が奏夜たちのことを見ていた。
「ねぇ、あなたたちよね?この学校でスクールアイドルをしてるっていうのは」
3年生の先輩が俺たちに話しかけてきた。
「はい。μ'sっていうグループです」
「ミューズ?あぁ、石鹸?」
「違います」
どうやらこのボケは鉄板のようであり、海未はすぐさまツッコミを入れていた。
「そうそう。うちの妹がネットで見かけたって」
「本当ですか?」
穂乃果たちのグループであるμ'sは、まだ名前だけで動画はあがっていないのだが、音ノ木坂学院のスクールアイドルということで、チェックしている者はいた。
「ねぇねぇ、明日ライブやるんでしょ?」
「はい!放課後に」
「どんな風にやるの?ちょっと踊ってみてくれない?」
「え?ここでですか?」
先輩たちからの無茶ぶりに、穂乃果たちは戸惑ってるな。
「ちょっとだけでいいから」
奏夜たちのやり取りを見ていたのか、他の人たちもチラチラこっちのことを気にしていた。
上手くいけば初ライブ前にμ`sの存在をアピールするチャンスになるかもしれない。
そんなことを奏夜は考えていたのだが、ここで踊ることに抵抗があるのか、海未の顔が引きつっていた。
奏夜が海未のことを気にしていると……。
「うっふっふっふっ」
穂乃果はアイドルらしからぬ顔で、怪しい笑みを浮かべていた。
「いいでしょう!もし見に来てくれたらここで少しだけお見せしますよ♪」
和菓子屋の娘なだけあって、穂乃果のセールストークはかなりのものであった。
「お客さんだけ特別ですよ♪」
「お友達を連れてきていただけたらさらにもう少し♪」
ことりもそんな穂乃果のセールストークに乗っかり、効果はバツグンのようだった。
「本当?」
「行く行く♪」
「毎度ありぃ♪」
《……本当に来てくれるのか?なんか嘘くさい気もするが……》
(確かにな。だけど、μ'sの存在をアピールすると考えればいいんじゃないのか?)
キルバは穂乃果たちのパフォーマンスを見たいと言っている先輩たちが本当にライブに来るのか怪しんでいたのだが、奏夜は来ないならそれはそれで良いと思っていた。
「それじゃあ頭の所だけ…」
穂乃果とことりが並んで踊りの準備をするのだが……。
「あれ?もう1人は?」
海未がいつの間にか姿を消しており、それに先輩たちが気付いていた、
そして奏夜たちもそれに気付くと、先輩に詫びを入れて、すぐ海未を探し始めるが、予想以上に海未はすぐ見つかった。
海未は思いつめた表情をしていたので屋上で話を聞くことになった。
「……無理です……」
屋上に着くなり海未は体育座りをし、顔を隠してこれだけ言葉をもらしていた。
「えぇ?どうしたの?海未ちゃんなら出来るよ!」
穂乃果はすぐフォローをいれるが、奏夜は何故海未がこんなことを言うのか察しがついていた。
「海未。もしかして人前で踊るのが恥ずかしいってことなのか?」
「奏夜の言う通りです…。私は歌もダンスもあれだけ練習してきました。ですが、人前で歌うことを想像すると……」
「緊張しちゃう?」
ことりの問いかけに海未は無言で頷いた。
(……やっぱりそう言うことか……。こいつは困ったな……)
《……奏夜、こればかりは海未自身が克服しないと意味がないぞ》
(そうだよな……)
ライブは明日であるため、海未にはどうにかステージに立てるようにすることが急務だが、これは海未自身が克服しなければならないものであった。
「それなら、お客さんを野菜だと思えってお母さんが言ってたよ」
穂乃果の提案したのは、緊張をほぐすのには良いと思われる方法だった。
お客さんをジャガイモだと思えとか、そんな感じである。
「野菜?」
穂乃果にこう言われ海未はイメージを浮かべていたのだが……。
「私に1人で歌えと言うんですか!?」
「何でそうなる!」
海未がどんなイメージを浮かべたのがわからず、奏夜は思わずツッコミを入れてしまった。
どうやらかなり重症であり、どうすればいいかわからず、穂乃果とことりも困り果ててるようだ。
「海未ちゃんが辛いならなんとかしてあげたいけど…」
「ひっ、人前でなければいいんです!人前でなければ…!」
人がいなければ海未は問題ないと言っていたが、客がいなきゃライブの意味はなかった。
「……そういえば、澪さんも人前に出るのが苦手だって言ってたけど、どうにかライブをしてたよね?」
ことりはここで、桜ヶ丘高校軽音部だった秋山澪の話を出していた。
澪もまた、海未のように人前に出るのは苦手だったが、どうにかライブをこなしていた。
澪とは幼馴染で親友である田井中律(たいなかりつ)曰く、追い詰められれば何とかなるみたいだった。
「……澪さんはそうかもしれませんが、私は……」
穂乃果たちは奏夜の先輩騎士である統夜だけではなく、軽音部のメンバーとも親交があるため、このような例え話が出来るのだが、それでも海未は人前に出ることを良しとはしなかった。
「……海未。とりあえず悩むより行動しよう。恥ずかしがりに関しては慣れるしか方法はないからさ」
奏夜はポンと海未の肩に手を置くと、海未にこう提案をし、それを聞いた海未はゆっくり立ち上がった。
「うん!ちょうど穂乃果もそーくんと同じ事考えてたよ!」
とりあえず行動しようと言う奏夜の言葉に、穂乃果は賛同していた。
「それじゃあ、海未ちゃん、行こっ♪」
「?」
海未は穂乃果の言葉の真意がわからず首を傾げていたが、奏夜たちは放課後になってから、行動を起こす事にした。
そして放課後、奏夜たちが向かったのは…。
※※※
秋葉原であり、秋葉原でも人通りの多い場所に来ていた。
「ジャーン!ここで明日のライブのチラシを配ろう!」
「うんうん。俺もこれがいいかなって考えてたんだよ」
どうやら奏夜もチラシ配りが有効だろうと思っていた。
このようか人の多いところでチラシ配りをして慣れていこうと考えである。
「ひ、人がたくさん…」
「当たり前でしょ。そういうところを選んでるんだから。ここでチラシを配ればライブの宣伝にもなるし大きな声を出してればそのうち慣れてくると思うよ」
「ま、海未にしてみたらかなりきついかもしれないけど、これくらいしないと人に慣れるなんてとてもじゃないけど出来ないからな」
「うっ……。それは理解出来ますが、やはりこれだけ人がいると……」
穂乃果や奏夜の言い分は理解出来るものの、実際これだけの人を相手にチラシ配りをするのは、海未にとってはかなり困難であった。
「とりあえず頑張ってみようよ。そしたら穂乃果ちゃんの言う通り海未ちゃんだって慣れるかもしれないし」
ことりもどうやら穂乃果や奏夜の意見に賛成であった。
緊張して立ち尽くす海未を後目に、奏夜たちはチラシ配りを開始していた。
穂乃果は家の和菓子屋を手伝ってるからか、物怖じすることなくチラシを配っていた。
ことりは、普段からそこまで物怖じする性格ではないからか、問題なくチラシ配りを行っていた。
そして奏夜は、魔戒騎士という特殊な仕事柄、多くの人と会う機会があるため、問題なくチラシ配りを行っていた。
(……お客さんは野菜……お客さんは野菜……)
そんな中、やはり上手くチラシ配りを行えない海未は、どうにか緊張しないようイメージを浮かべていた。
……そして、海未は覚悟を決めたのか、目をカッと見開いていた。
その後海未がとった行動とは……。
「……あっ、レアなのが出ました……」
ガチャガチャコーナーに逃げ出しており、海未はガチャガチャをすることで現実逃避をしていた。
「って、何でやねん!」
海未の現実逃避に奏夜は思わずツッコミを入れてしまった。
「ったく……」
奏夜は気を取り直してチラシ配りを再開した。
すると……。
「すいません!よろしくお願いしま……」
奏夜はとある男性にチラシを渡そうとしたのだが、その男性のことを知っているからか、奏夜はその場で固まっていた。
「……そ、奏夜か。お前、こんなところでどうしたんだ?」
「だ、大輝さん……」
奏夜がチラシを渡そうとしていたのは、翡翠の番犬所所属の魔戒騎士で、奏夜の先輩騎士である桐島大輝であった。
大輝はエレメントの浄化を終えて、偶然ここを通りがかった時に奏夜からチラシを受け取ったのである。
奏夜から受け取ったチラシを大輝は確認するのだが……。
「……ほう。そういえばロデルがスクールアイドルとやらにハマっているみたいだが、それなんだな」
「はい。俺の友達がスクールアイドルをやってまして、俺はその手伝いをしてるんです」
「なるほど……。お前も統夜のようにやるべきことを見つけたって訳だな」
「は、はい。そんな感じです」
大輝はこの翡翠の番犬所の管轄に来るまでは桜ヶ丘にいて、奏夜の先輩騎士である月影統夜の成長も見守っていた。
そのため、奏夜がかつての統夜のような道を歩んでいると知り、笑みを浮かべていた。
「……そのスクールアイドルとやらはあの3人だろ?あいつらはホラーの秘密を知ってるのか?」
「……はい。実はこの前あの3人はホラーに襲われまして、俺が助けたのです」
「……なるほど、本当に統夜と同じような道を歩いているな。お前は」
大輝は奏夜の話を聞くと、怒るわけでも呆れるわけでもなく、ただウンウンと頷いていた。
「……大輝さん、怒らないんですか?」
「ま、俺は統夜の前例を見ているからな。あの3人はお前にとって守るべきかけがえのない存在なんだろう?それならば、別にいいんじゃないのか?」
本来であれば、騎士やホラーの秘密をベラベラと話すのは良くないのだが、大輝はその秘密を話したのが守りたいとおもっている存在であれば問題はないと思っていた。
奏夜と大輝が親しげに話しているのが穂乃果たちは気になったのか、奏夜の方へと駆け寄ってきた。
「……そーくん、この人はそーくんのお知り合いなの?」
穂乃果は、奏夜と大輝の関係が気になっていたのだが、それは海未とことりも同様であった。
「あぁ、この人は……」
「俺は桐島大輝。奏夜と同じ魔戒騎士だ。お前らは秘密を聞いたのだろう?」
奏夜が大輝のことを紹介する前に、大輝は自分で自己紹介をしていた。
「え!?ということは、奏夜の……」
「あぁ。奏夜は俺の後輩ってことになるな」
「「「……」」」
こんなところで奏夜と同じ魔戒騎士と会えるとは思っていなかったので、穂乃果たちは驚きを隠せずにいた。
「まぁ、お前らは今忙しいみたいだから俺はもう行くぞ。……スクールアイドルだったか?頑張れよ」
大輝は穂乃果たちにエールを送ると、そのままどこかへ移動を開始し、奏夜たちは大輝のことを見送っていた。
「……ちょっと怖そうな人だけど、いい人そうだね」
「そうかもな。だけど、俺にとっては頼れる先輩だよ」
「……そうですか」
「あの人のことは気になるけど、チラシ配りをもっと頑張らないとね」
「うん!そうだね。頑張っていこう!」
こうして奏夜たちはチラシ配りを再開したのだが、やはり海未は多くの人を相手にするのが抵抗があるようだった。
このように判断した奏夜たちはここでのチラシ配りを諦め、学校に戻ってきた。
学校でチラシ配りを行う方がハードルは低いからである。
「海未、学校でチラシ配りならなんとかやれるだろ?」
「はい。さっきよりは出来るかもしれないです……」
「それじゃあ、始めるよ」
穂乃果の号令で奏夜たちは明日のライブのチラシを配り始めた。
「μ'sファーストライブやります!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
穂乃果とことりは幸先良くチラシを配ってるな。
「μ`sファーストライブやりますのでよろしくお願いします!」
奏夜も負けじと声を張ってチラシを配っていった。
学校で宣伝した方がライブに来てくれる人が増えるのではないかと思っていたからだ。
奏夜はチラシを配りながら海未の様子を見ると、海未は恥かしさからか声をかけることすら出来ていないようだった。
奏夜が海未の心配をしていると1人の少女が近づいて来た。
「よろしくお願いします」
奏夜はツインテールの少女にチラシを渡そうとしたが……。
「……いらない」
素っ気ない態度で、チラシの受け取りを拒否されてしまった。
(……あれ?この子、どこかで……)
奏夜は、どうやらこのツインテールの少女に見覚えがあった。
「あの!」
そのため、奏夜はもう一度話しかけるとツインテールの少女は訝しげな表情をしていた。
「何?まだ何かあるの?」
「気のせいだったらすいませんけど、俺たちどっかで会ってません?例えば……UTX辺りで」
違うだろうと思いながら奏夜は聞いたのだが、何故かツインテールの少女は明らかに動揺していた。
「なっ、何言ってるのよ!そ、そんな訳ないじゃない?」
「明らかに動揺してるじゃないですか。あからさまに怪しいですよ」
「あ、あんたねぇ……」
ツインテールの少女はジト目で奏夜のことを見ていたのだが、奏夜はここでようやくこの少女のことを思い出したのである。
「確か君は、UTXであからさまに怪しい変装してたツインテールの中学生?何で高校に?」
「あからさまに怪しいって何よ!それに、にこは中学生じゃなくてれっきとした高校3年生よ!」
「なっ、なん……だと……」
自分のことをにこと名乗る少女は、自分は高校3年生だと主張したのだが、それが信じられないのか、奏夜は絶句していた。
(嘘だろ……。あのチビッ子が先輩……?)
《まぁ、あの梓とかいうお嬢ちゃんだって小柄だが、お前より年上だろう?あながちおかしな話ではないと思うがな》
キルバは統夜と同じ軽音部であり、統夜の彼女である梓の話を出したのだが、その例えを聞いた瞬間、奏夜は納得したようだった。
それだけではなく、リボンも3年生のものであるため、このにこと名乗る少女が3年生であることは間違いなさそうだった。
「……あんた。さっきから馬鹿にしてる?」
「アハハ、まさか。それよりもあの時UTXにいたってことはアイドルに興味があるってことですよね。だったらチラシだけでも持ってって下さいよ」
「だから!いらないって言ってるでしょう?」
「いいじゃないですか!本当にいらなかったら後で捨ててもいいですから」
「あぁっ、もう!わかったわよ!」
にこと名乗る少女は、奏夜から半ば強引にチラシを受け取ると、逃げるようにその場を後にした。
「ねぇ、そーくん。あの人、知り合い?」
奏夜のやり取りを見ていて気になったからか、穂乃果が奏夜に駆け寄ってきた。
「あぁ。前にUTXに行ったときに怪しい格好したツインテールの女の子がいただろ?彼女がそうだよ」
「えぇ?そうだったんだ!」
奏夜の言葉が予想外だったからか、穂乃果は驚いていた。
「それよりも海未の様子はどうだ?ずいぶん苦戦してるみたいだけど」
「あぁ、大丈夫だよ。そーくんがあの人と話してる間に海未ちゃんに気合いを入れておいたから」
奏夜がにこと名乗る少女とやり取りをしている間に、穂乃果はうまい具合に海未を焚きつけており、海未は現在、なんとかチラシを配っていた。
「ありがとう、助かるよ」
「お礼なんていいよ♪だから、そーくんもファイトだよ!」
「あぁ、わかってるよ」
海未も一生懸命頑張っている。だからこそ海未に負けまいと奮起した奏夜はチラシを配り始めようとしたのだが……。
「あっ、あのっ……」
奏夜に声をかけてきたのは、1年生の教室で知り合い、少し話をした大人しそうな少女である小泉花陽だった。
「おう、花陽ちゃん。ちょうど良かったよ。あのな……」
「あっ、ライブですよね……。わ、私……。見に行きます……」
花陽はスクールアイドルが好きなようであり、μ'sのポスターを何度もこっそりとチェックしていた。
そのため、ライブは聴きに行こうと思っていたのである。
「本当?来てくれるの?」
「では、1枚2枚とこれを全部……」
「おい、海未。ズルは無しだぞ」
「わっ、わかってますよ……」
海未は素直に引き下がったのだが、どうやら奏夜が注意しなければ本気で全部渡そうとしていた。
「花陽ちゃん、ありがとな」
「あっ、いえ……。私も楽しみにしてますから……」
自分たちのライブを楽しみにしている。
この言葉は穂乃果たちにとっては何より励みになっているため、穂乃果たちは笑みを浮かべていた。
チラシを受け取った花陽はそのまま帰っていき、花陽が帰っていくのを見送った奏夜たちは時間の許す限りチラシ配りを行っていた。
※※※
そしてこの日の夜、奏夜たちは明日のライブの打ち合わせとの名目で穂乃果の家に来ていた。
ことりは何か用事があるため少し遅れるらしく、奏夜は1度番犬所へ立ち寄らなければいけないので、少し遅くなるのである。
チラシ配りが終わり、1度解散した後、奏夜は番犬所へ立ち寄ると、魔戒剣の浄化を行っていた。
この日は指令がなかったため、奏夜は心置きなく穂乃果の家である穂むらへと向かうことが出来た。
奏夜は穂乃果の家である、和菓子屋「穂むら」に到着すると、店の中に入った。
すると、店番をしていたのは、黒髪で短髪であり、中学生くらいの少女であった。
少女は奏夜の姿を見るなり、ぱぁっと表情が明るくなっていた。
「……あ!奏夜さん!いらっしゃい!!」
少女は奏夜が来てくれて嬉しいのか、奏夜を歓迎していた。
「おう、雪穂。元気そうだな」
「はい。奏夜さんも元気そうですね」
奏夜はこの少女……高坂雪穂に親しげに話しかけていたのだが、雪穂は穂乃果の妹であるため、ここまで親しげに声をかけられるのであった。
それだけではなく、奏夜は雪穂に懐かれており、雪穂は奏夜のことをまるで兄のように慕っていた。
「あっ、お姉ちゃんと海未さんが今上にいますよ」
「そっか。ことりはまだ来てないんだな」
「そうみたいですね……」
穂乃果と海未は一足先に2階に来てるようであり、ことりはまだ来ていなかった。
「それじゃあ俺もお邪魔させてもらうよ」
雪穂と軽く会話をした奏夜は店の奥にある家に上がろうとしたその時、ガラガラっと店の扉が開く音が聞こえてきた。
「あっ、いらっしゃいませ!」
雪穂は笑顔で来客した人物に挨拶をしていた。
その人物とは……。
「あ、雪穂ちゃん♪こんばんは♪」
用事があって遅くなると言っていたことりであり、ことりは笑みを浮かべながら雪穂に挨拶をしていた。
「ことりさん!こんばんは!ちょうど今、奏夜さんも来てますよ!」
「……よう、ことり。思ったより早かったな」
奏夜は奥に行こうとする前にことりが来たため、奏夜は足を止めてことりに挨拶をしていた。
「あっ、そーくん!そーくんも思ったより早かったねぇ」
「まぁな。……それよりその紙袋は?」
奏夜はことりの手にしている紙袋に何が入っているのかが気になっていた。
「それは後で説明するよ♪ほら、一緒に穂乃果ちゃんの部屋に行こっ!」
「そうだな。それじゃあ、雪穂。お邪魔するな」
「お邪魔しま〜す」
「は〜い。ごゆっくり〜」
改めて雪穂に挨拶をした奏夜とことりは、そのまま店の奥にある家の中に入り、階段を上がると、1番奥にある穂乃果の部屋へと向かった。
「みんな、お待たせ!」
「悪いな、遅くなった!」
部屋に到着した奏夜とことりは、部屋の中に入った。
「あっ、そーくん、ことりちゃん。見て見て!」
「あっ、すごい!」
「へぇ、ランキングが上がってるじゃないか!」
奏夜とことりはノートパソコンの画面をチェックすると、μ'sのランキングが若干ではあるが上昇しており、感嘆の声をあげていた。
「ねぇ、ことりちゃん。それってもしかして衣装?」
「うん!さっきお店で最後の仕上げをしてもらったんだ」
「なるほど、それで穂乃果の家に行くのが遅れたんだな」
先ほどまで気になっていた紙袋の中身がわかり、奏夜は納得していた。
ことりが衣装を取り出すのを穂乃果はワクワクしながら、そして海未は息を飲んで見守っていた。
「ジャーン♪」
ことりが取り出したのはノースリーブのフリフリな衣装だった。
それを見た穂乃果は目を輝かせ、海未は唖然としていた。
「うわぁ、可愛い♪本物のアイドルみたい♪」
「確かに、クオリティが高いな…」
衣装の出来の良さに奏夜も感心していた。
穂乃果の言う通り本物のアイドルみたいと感じたからである。
そんな中、海未は衣装が気に入らないのか、目を大きく見開いてプルプルと震えていた。
穂乃果はそんなこと海未のことなど気にせずにことりのことを褒めていた。
「海未、どうした?もしかして衣装がお気に召さないとかか?」
「あっ、いえ……。そういう訳ではないのです……。ただ……」
「ただ?」
「……ことり。そのスカート丈は?」
奏夜は海未がことりにスカート丈のことを聞いた時に事情を理解した。
海未は短いスカートは恥ずかしいから嫌で、最低でも膝下までないと履かないとまで言っていたからである。
「言ったはずです!最低でも膝下までないと履かないと……」
海未は険しい表情で衣装を作ったことりに詰め寄っていた。
「だってしょうがないよ。アイドルだもん」
「アイドルだからと言って、スカートは短くという決まりはないはずです!」
「それはそうだけど…」
「海未の言うことはもっともだが、アイドルの衣装はスカートが短めなのもまた事実なんだよな……」
「っ!確かにそうですが……!」
スカート丈の長めな衣装を着ているアイドルもいないことはないのだが、短めのスカートの衣装が多い事実を奏夜は語り、それには海未も反論出来なかった。
「でも、今から直すのはさすがに……」
「海未。恥ずかしいかもしれないけど、明日はこれで行くしかないぞ」
奏夜はどうにか海未のフォローをするが、効果はないようだった。
「そういう手に出るのは卑怯です!ならば私は1人だけ制服で出ます」
海未は気を悪くしたのか帰ろうとしていた。
「えぇ?」
「そんなぁ」
「そもそも3人が悪いんですよ!私に黙って結託するなんて」
「ちょっと待て!俺は衣装に関してはことりに一任してたし、あの服も今初めて見たんだから俺は2人と結託なんてしてないぞ」
奏夜衣装に関しては関与していないため
どうにか弁解するが、海未は聞く耳を持たず逆に睨まれてしまった。
「それに、あの格好の中に制服って逆にそっちの方が目立つんじゃないか?」
「うっ、確かにそれはそうですが……」
奏夜はアイドルの衣装を着た2人の中に制服の人間が入ると逆に恥ずかしいのでは?そう追求すると、海未は反論することが出来なかった。
そんな中……。
「……だって……。絶対成功させたいんだもん……」
穂乃果が少し俯きながらこう呟いていた。
「……穂乃果?」
「歌を覚えて衣装を揃えてここまでずっと頑張ってきたんだもん。4人でやって良かったってそう思いたいの!」
穂乃果の言葉には気持ちが込もっており、それが奏夜たちにストレートに伝わってきた。
すると穂乃果は何を思ったのか窓の方に向かうといきなり窓を開けて……。
「思いたいのぉ!!」
このようにいきなり叫びだした。
「何をしてるのです!」
「おいおい、こんな時間に近所迷惑だろ……」
いきなら、叫んだ穂乃果に、奏夜は呆れていた。
「……それは私も同じかな。私も4人でライブを成功させたい!」
「ことり……」
「もちろん、俺も2人と同じ気持ちだよ。俺だってライブの成功を誰よりも願っているからな」
「奏夜……」
海未は奏夜たちの気持ちを聞くとじっと俺たちの顔を見つめていた。
「まったく……。いつもいつもずるいです……。私だって……」
海未も同じ気持ちのため、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。
「……わかりました」
「海未ちゃん……」
海未は渋々衣装のことを了承すると穂乃果は目を輝かせていた。
そして……。
「だ~い好きっ♪」
穂乃果は海未に飛びつき抱きついた。
抱きつかれた海未は満更でもないといった感じだった。
2人が抱きついているのを見て、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。
『……おい、奏夜。もしかして、羨ましいなどとは思ってないだろうな?』
「あっ、当たり前だろ!?」
「……そーくん、変なことを考えるなら本当にことりのおやつにしちゃうからね♪」
「は、はい……」
ことりは何故か満面の笑みなのだが、何故かプレッシャーは相当であり、奏夜は素直にはいと答える事しか出来なかった。
衣装の問題が解決した奏夜たちは神田明神へ向かい、明日のライブの成功をお願いした。
「明日のライブ……成功しますように!いや、大成功しますように!」
「緊張しませんように……」
「みんなが楽しんでくれますように」
「……」
3人はお願いを声に出していたが、奏夜はあえて黙っていた。
「よろしくお願いします!」
奏夜たちはお願いを済ませると空から見える星空を眺めていた。
「……ねぇ、そーくん。そーくんは何てお願いしたの?」
「確かに。奏夜だけ黙ってましたよね」
「そーくん♪ことりも気になるな♪」
奏夜が声を出さずに何かを願っていたことに気付いていた穂乃果たちはそこを追求していた。
「それは……内緒だよ」
「えぇ?ずるい!ねぇ、そーくん、教えてよぉ!」
奏夜が内緒と答えると、その答えが気に入らないのか、穂乃果は頬をぷぅっと膨らませていた。
「そうです。奏夜だけ黙ってるなんてずるいです!」
「そーくん……お願い♪」
(うぐっ……。ここでお願いがくるか……)
ことりによるお願い攻撃はかなり効果的であり、奏夜はそんなことりのお願いを断ることは出来なかった。
「……ライブが成功しますようにだよ」
奏夜は嘘をついて誤魔化そうとするが……。
「それ、嘘だよね?」
「な、何言ってるんだよ!そんな訳ないだろ」
あっさりと穂乃果に見透かされてしまい、奏夜は焦りを見せていたため、嘘をついているのは明白であった。
「確かに。奏夜は別のお願いをしてますね」
「そーくん。教えてくれないとことりのおやつにしちゃうよ♪」
(もうそのおやつってのはやめてくれよ……)
ことりの言う「おやつ」という言葉の真意がわからず、奏夜の顔は真っ青になっていた。
「だから内緒だって!ほら、明日も早いんだからもう帰るぞ」
奏夜は必死に誤魔化そうとすると、逃げるようにその場を後にした。
「あっ、奏夜!待ちなさい!」
そんな奏夜を、慌てて穂乃果たちが追いかけてきた。
奏夜は正直に打ち明けても良かったのだが、それを面と向かって言うのが気恥ずかしいと思っていた。
奏夜が願ったのは、「明日のライブで3人の最高の笑顔が見れますように」という内容だったからである。
そのお願い通りの成功を祈りつつ、奏夜は逃げるように神田明神を後にした。
しかし、すぐ穂乃果たちに追いつかれてしまったが、奏夜はお願いを語ろうとはしなかった。
そんなやり取りの後、奏夜は穂乃果たちを家まで送り届けると、そのまま家に戻り、明日のライブに備えて体を休めることにしたのであった……。
……続く。
__次回予告__
『ようやくあいつらの初ライブか。やるからには悔いのないように頑張れよ!次回、「舞台」。これがスクールアイドル、μ'sの初舞台だ!!』
今回は電話の声だけでしたが、前作主人公である統夜が登場しました。
さらに、前作にも登場したベテラン騎士、大輝も初登場です。
大輝がこの翡翠の番犬所が来る前に別の番犬所にいたという話がありましたが、詳細が気になる方は「牙狼×けいおん 白銀の刃」をご覧ください。
衣装も完成し、振り付けも仕上がり、初ライブの準備は整いました。
さて、次回はいよいよ初ライブです。
μ'sの初ライブはいったいどのような結末になるのか?
そして、前作主人公である統夜は次回登場するのか?
それでは、次回をお楽しみに!