牙狼ライブ! 〜9人の女神と光の騎士〜   作:ナック・G

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お待たせしました!第75話になります。

ここからしばらくオリジナルの話が続くのですが、どんな展開にしようかと悩んでいたため、なかなか執筆が進まない状況でした。

どうにか思い付いた話をまとめ、今回の話の投稿に至りました!

さて、今回、奏夜たちにどんな暗雲が迫るのか?

それでは、第75話をどうぞ!!




第75話 「暗雲」

奏夜たちは、ハロウィンイベントでA‐RISEに対抗するために、インパクトのある何かを追い求めていた。

 

しかし、どれも上手くいかずにどれも徒労に終わってしまう。

 

そんな中でハロウィン当日を迎えるものの、穂乃果と奏夜は気付いたのだ。

 

μ'sはこのままで良いということに。

 

それに気付いた穂乃果たちは、それを自分たちのインパクトとして、パフォーマンスを行い、それは大成功に終わった。

 

その後、電撃G'sというスクールアイドルを取り扱う雑誌の記者と名乗る御影アミリという女性が奏夜たちに接触。

 

近いうちに会いにいくとのことでその日は解散になった。

 

しかし、その女性こそ、奏夜たちが倒そうとしているジンガの腹心であるアミリだったのだ。

 

奏夜たちは、その事に気付くことはなかった。

 

そして、ハロウィンイベントから数日が経過した……。

 

 

 

 

 

 

 

「1・2・3・4!1・2・3・4!!」

 

現在、ダンスの練習を行っており、海未の合図にて、穂乃果たち8人がステップを踏んでいた。

 

「……」

 

そんな中、奏夜は練習を見学をしてはいるのだが、険しい表情をしており、明らかに練習以外の何かを考えている様子であった。

 

「……?奏夜、どうしたんだ?難しい顔をしているが」

 

奏夜の隣に立っていた剣斗が、それを見かねてか声をかける。

 

剣斗の声を聞いてハッとしたのか、奏夜は顔を上げた。

 

「…あっ、悪い。ちょっと気になることがあってな……」

 

「……もしかして、この前お前が倒したホラーが言っていたと話していたことか?」

 

剣斗の問いかけに、奏夜は無言で頷く。

 

「あのホラーは倒される間際に自分の仕事は果たしたって言っていた。きっとあのホラーはジンガの差し金で、ジンガが何かを企んでいると思うんだよ」

 

「うむ。そう考えるのが自然だろうな」

 

奏夜は、ヘデラが最期に放った言葉がずっと気がかりになっており、剣斗はそんな奏夜に賛同する。

 

「これは俺の勘だけど、ジンガの奴が何かしらの方法で俺たちに接触してくる可能性が高いと思うんだ」

 

「もしかして、ジンガが直接私の持つ竜の眼を奪いに来るっていうの?」

 

「その可能性も有り得なくはないだろうな。だけど、あのジンガって奴は相当狡猾で頭の切れる奴だ。そんな力ずくな行動はしてこないと思う」

 

『俺としては、なんとなくだが、お前が助けたあの女が怪しいと思うのだがな』

 

「それは俺も考えたさ。だけど、もしその女性がジンガの協力者だとしても、俺が必ず助けに来る保証もないのに、わざわざ命をホラーに狙わせてまでおびき寄せる利点もないも思うんだよ」

 

奏夜は、ハロウィンイベント後にアミリと出会ってからというものの、彼女がジンガの協力者ではないか?という疑惑はあったのだが、色々と不自然なことが多いと判断したのか、彼女のことを完全に疑うことは出来なかったのである。

 

「だが、ジンガが人を使って私たちに接触する可能性も有り得るからな、私たちに接触する人物には最大限に注意するしかないだろうな」

 

「そうね。私も剣斗の意見に賛成だわ」

 

剣斗は、今まで以上に警戒を強めるべきと考えており、それにララは同意し、奏夜もまた、無言で頷いて同意の意思を示した。

 

奏夜、剣斗、ララの3人は真剣な表情で話し合いをしていたのだが……。

 

「……あのぉ、すいませんが……」

 

練習を行っていたはずの海未が申し訳なさそうに奏夜たちに声をかけた。

 

「ん?どうした?」

 

「ん?どうした?じゃないわよ!大事な話をしてるのはわかるけどさ、そんな真面目に話し合いなんかやられたら練習に集中出来ないじゃないの!」

 

奏夜は何故声をかけられたのかわからなかったのだが、にこが怒りながら説明を行う。

 

「あ、悪い悪い」

 

「まったく……。そういう話をするなら、もうちょっと離れた場所でするとか気を遣いなさいよねぇ」

 

怒りながら説明するにこに賛同するかたちで、真姫は呆れながら代替案を提示する。

 

「みんな、すまなかったな。話は終わったからもう大丈夫だぞ」

 

ちょうど話し合いは終わったところではあるのだが、穂乃果たちは呆れながら苦笑いを浮かべる。

 

奏夜たちの話し合いに気を取られて練習が中断してしまったため、ここで再び練習を再開させようとするのだが……。

 

「…おっ、皆さん、精が出ますね」

 

屋上に1人の女性が現れて奏夜たちに声をかけるのだが、その女性を見て、奏夜たちは驚きを隠せずにいた。

 

「あっ、あなたは…!ハロウィンイベントの後に声をかけてくれた、御影さん……ですよね?」

 

奏夜たちが驚いていたのは、現れた女性が、ハロウィンイベント時に奏夜たちに接触してきたアミリだったからだ。

 

「ええ。あの時に近いうちにそちらの学校へお邪魔しますと言いましたが、さっそく来ちゃいました」

 

「ということは、私たちの取材に来たのですか?」

 

この学校へ来た目的を海未が問いかけるのだが、アミリは無言で頷く。

 

「私たちは、あなたたちのことをずっと注目していたのです。最近ではあのA‐RISEと同じ舞台でパフォーマンスを行い、その存在感を見せつけてましたしね」

 

「あっ、ありがとうございます…」

 

アミリだけではなく、アミリのいる月間G'sの人も自分たちを評価してると思ったのか、穂乃果は喜びを露わにしながらも照れ隠しに微笑んでいた。

 

「そこで、あなたたちのお話をじっくり聞かせていただけないかしら?」

 

「はい!もちろんです!」

 

アミリからのこの提案に、穂乃果は間髪入れずに了承する。

 

「ここで話をするのもあれですので、部室でお話するのは大丈夫でしょうか?」

 

「ええ。もちろんですよ。ただ、時間の都合もあって、9人みんなにお話を聞けないんです。ですので、μ'sに最初からいたあなたたち3人からお話をしていただけないですか?」

 

「わかりました!」

 

「ぐぬぬ……!せっかくの電撃G'sの取材なのに、なんでにこにーは選ばれないのよ…!」

 

取材の対象が穂乃果たち3人とわかり、にこは悔しそうな表情をしていた。

 

そんな中……。

 

(取材か……。この人があのジンガの協力者の可能性は0じゃないから、穂乃果たちだけを行かせるわけには行かないよな……)

 

«ああ、それが賢明だろうな»

 

奏夜はいつどこでジンガが動き出すかわからなかったため、電撃G'sの記者を名乗るアミリにさえ警戒感を露わにしていたのだ。

 

そう考えていたのは剣斗やララも同様なようであり……。

 

「それなら私も同席させて頂きます。こう見えてもこのスクールアイドル部の顧問を務めてとおりますので」

 

教師という立場を上手く使い、剣斗が穂乃果たちと同席しようと考えるが……。

 

『…小津先生、小津先生。至急職員室までお願いします』

 

ピンポンパンポンとチャイムの音が鳴り、校内放送が流れたのだが、それは剣斗を呼び出すものであった。

 

「む……。こんな時に……。申し訳ないですが、行ってきますね」

 

剣斗は無念さを露わにしながらも、屋上を後にして、職員室へと向かっていく。

 

(それなら、俺が同席するか。俺はマネージャーだし、μ's結成当時からいたからな)

 

剣斗が穂乃果たちと同席出来ないことがわかり、代わりに奏夜が同席しようと考えていた。

 

しかし……。

 

«…!!奏夜、どうやらそうも言ってられなくなったぞ!!»

 

(!?どうした、キルバ?)

 

«学校の入り口あたりから妙な邪気を感じるんだ»

 

(邪気って…。あのあたりは浄化するポイントはないし、ホラーだとしても、今は昼間だぜ?)

 

奏夜は、キルバが邪気を探知したことに驚きを隠せなかった。

 

ホラーが現れ、活動を開始するのは夜からであり、日中から活動しているホラーはほぼ存在しないからである。

 

«あのジンガだって、ホラーのくせに日中に動いたりしているだろう?ホラーでも、日中に動けるやつが稀に存在するんだ»

 

キルバの言う通り、奏夜たちはジンガと遭遇し時は夜ではない時もあり、一部のホラーは日中でも活動出来るものが存在するのだ。

 

(だけど、邪気が探知されたなら、行かない訳にはいかないよな……。だが、ララを同行させるのも危険かもしれないぞ……!)

 

奏夜は今すぐにでも邪気の原因を調べに行きたかったが、封印された魔竜の眼を持っているララを同席させるのはリスクが大きいと判断し、動きたくても動けない状況になっていた。

 

ララは、そんな現状を察したからか、このような提案をする。

 

「なら、私が穂乃果たちと一緒に行くよ」

 

「!?ララ、しかしだなぁ……」

 

ララが穂乃果たちについて行くことを提案するも、奏夜はそれを反対しようとしていた。

 

この御影アミリという女性がジンガの手先ならば、ララの持つ魔竜の目を狙い、穂乃果たちに対して何らかの被害を与えかねないからだ。

 

だが……。

 

«奏夜。ここはララに任せるしかあるまい。ホラーがいる可能性があるんだ。まずは魔戒騎士としての使命を果たさねばな»

 

キルバとしてもこの状況を良しとはしていないが、ホラーの可能性がある以上、穂乃果たちのことをララに任せるしかなかった。

 

そんなキルバがテレパシーで発した言葉を察したのか、ララはうんうんと頷いている。

 

「…わかった。ララ、穂乃果たちを頼むな。俺はちょっと用事があるから少し離れる」

 

「え!?ちょっと、そーくん!?」

 

穂乃果が声をかけるのを聞かずに奏夜は屋上を後にしていた。

 

奏夜が何か慌てている様子があったからか、穂乃果たちは心配そうに奏夜が出ていった屋上の入り口を見つめる。

 

「……えっと、御影さん、でしたよね?とりあえず行きましょうか」

 

「ええ、お願いしますね」

 

ララがこのように促すと、穂乃果たち2年生組とララは、アミリと共に屋上を後にして、部室へと向かうのであった。

 

「……ねぇ、みんな。さっき奏夜たちは深刻そうに話をしてたじゃない?」

 

「そうね。そして、タイミングが良いのかわるいのか奏夜と小津先生は出ていっちゃうしね」

 

ララたちがいなくなってしばらくは静寂がその場を支配していたが、絵里がおずおずと話を切り出し、それに真紀が続く。

 

「ウチとしても考えたくはないけど、あの御影さんって人、ホラーなんじゃ…?」

 

「!?ちょっと!!そうだとしたら、色々とヤバいじゃないの!!」

 

希の言葉を聞いたにこの顔が真っ青になる。

 

「でもでも!それを確かめるにも証拠がないと……」

 

「だけど、ここで正体を明らかにしようとしたらそれこそ大騒ぎになっちゃうにゃ…」

 

「そうやね。だとしたら、御影さんが本当に月刊G'sの記者さんかどうかも怪しいな」

 

「月刊G'sといえば、スクールアイドルを扱う大手よ!?そんな身分を偽った人が入れるとは思えないけど……」

 

スクールアイドルのことを誰よりも愛してやまないにこだからこそ、アミリが身分を偽っているというのも信じられないのである。

 

それは、にこの言葉通り、月刊G'sはスクールアイドルを取り扱うようになってからは売り上げを大いに伸ばし、スクールアイドルを扱う雑誌の大手となっているのだ。

 

「直接月刊G'sに問い合わせても、個人情報もあるし、きっと教えてはくれないよね…」

 

個人情報の取り扱いが慎重になっている現代社会故に、御影アミリという社員が実在するか問い合わせるのは難しい可能性が高く、花陽がそれを示唆した話をする。

 

「これからいったいどうなっちゃうの……?」

 

「そうやね。カードもこれから暗雲が来ると出てるし……」

 

希は心配になってタロットで占いを行うも、結果は芳しいものではなく、それが余計に不安をかき立てるのである。

 

しかし、絵里たちに何か出来るわけではないため、その場に立ち尽くすしか出来なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、キルバの案内のもと、邪気の正体を調べに来た奏夜であったが、学校の入り口に明らかに挙動不審な動きをする男性を発見した。

 

(……キルバ、もしかしてあいつが?)

 

«ああ、ホラーだな。恐らくは俺たちを引きつけるのが目的だろう»

 

現在の時間は放課後であり、今も多くの生徒が下校しているため、奏夜とキルバはテレパシーで会話をしているのである。

 

その生徒たちの目には、この男性は不審者に見えるのだろう。訝しげな目を男性に向けつつ足早にその場を離れている。

 

(弱ったな……。いくらホラーとはいえ、学校の目の前で戦うわけにはいかないし……)

 

«そうだな。こんなところで戦っていては、どれだけの人物に見られるかわからんからな»

 

奏夜はこの現状をどう打破するか大いに悩んでいた。

 

人通りがそれなりにあるこの場所で戦うだけでも大きな騒ぎになるのは必至であり、そうなるとホラーを見た人間のホラーに関する記憶を消すことが困難になるからである。

 

(魔戒剣を出さないにしても、普通に戦うだけで、傍から見たら喧嘩か傷害事件にしか見えないからな……)

 

«恐らくはジンガの差し金だろうが、奴め、巧妙な手を使ってくるな…»

 

(ああ。どうにか人気の少ないところに誘導出来ればいいんだけど……)

 

«そうだな。あのアミリという女のこともある。モタモタもしていられんぞ»

 

(それはわかってるんだけど……)

 

奏夜は現状を打開する策を考えていた。

 

すると……。

 

(…!待てよ?この方法なら安全に奴をこの場から引き離すことが出来るかもしれないぞ)

 

«ほぉ、流石は奏夜だな。今は時間もない。一か八かやるしかないだろうな»

 

可及的速やかに穂乃果たちのもとへと行きたいと思ってる奏夜だからこそ、キルバは奏夜の思いついた打開策について何も聞かず、奏夜に任せることにした。

 

動き始めた奏夜は男性に近付くのだが……。

 

「……あれ?もしかして、おじさん!?久しぶりじゃん!どうしたのさ!こんなところで!!」

 

「!?あ……えっ……??」

 

男性は、魔戒騎士と思われる風貌の少年がいきなり親しげに話しかけてきたことに驚きを隠せず、戸惑いを見せていた。

 

「とりあえずここじゃあれだし、向こうで話をしようよ!」

 

奏夜はそう言うと、男性の手を取り、そのままどこかへと移動していった。

 

「お、おい!」

 

突然の出来事に男性は戸惑いを見せていたが、そんなことなどお構い無しで奏夜は近くの人目に付きにくい場所へと移動した。

 

「おい、お前!いったい何なんだよ!?」

 

奏夜が足を止めたところで、男性は奏夜に詰めよる。

 

「…さて、ここなら問題ないな」

 

「はぁ!?お前、何を言って……」

 

男性は奏夜の言葉に首を傾げるが、奏夜は素早く魔導ライターを取り出すと、魔導火を放ち、男性の目を照らす。

 

すると、男性の目から不気味な文字のようなものが浮かびあがり、この男性がホラーであることが証明された。

 

「魔戒騎士か!くそっ、やられた!あそこに陣取ってれば貴様らはまともに動けないはずだったのに」

 

「恐らくはジンガの入れ知恵だろうが、そんな挙動不審だと、怪しいのがバレバレだっての」

 

奏夜はそれだけいうと、男性に対して蹴りを放ち、男性を吹き飛ばす。

 

「ぐっ…!おのれ、小僧!小癪な真似を!」

 

『やれやれ。小癪なのはどっちなんだか……』

 

「まったくだ……」

 

ホラーである男性の言葉に奏夜は呆れながらも、魔戒剣を抜き、構える。

 

「こちとら時間がないんだ。一気に決着を付けさせてもらう」

 

奏夜は鋭い目つきで男性を睨みつけると、そのまま男性へと向かっていった。

 

そのことに危機感を覚えた男性は、すぐさま本来の姿へ戻り、奏夜を迎え撃とうとする。

 

「…はぁっ!!」

 

奏夜は魔戒剣を振るうが、ホラーの身体は強固なものであり、その攻撃は弾き飛ばされてしまった。

 

すかさずホラーは奏夜を殴り飛ばし、反撃する。

 

「…くっ、厄介だな。ここまで硬いホラーとは…」

 

『ああ。奴はアーマーロ。奴の頑丈さはなかなかのものだぞ』

 

奏夜が相対しているホラーはアーマーロという見た目だけならアルマジロを模したホラーなのだが、その身体は甲冑のような鎧に包まれているため、ホラーの中でも頑丈な部類に入る。

 

『頑丈なホラーをよこしてきたということは、ジンガの奴は最初からこいつで俺たちの足止めをするつもりなんだろうな』

 

「ああ。だが、そんなことはさせないぜ!」

 

奏夜は一気に決着を付けるために鎧を召還しようとするも、その狙いを察したアーマーロは身体から針のようなものを奏夜に向けて放つ。

 

「!?」

 

奏夜は横回転をしながら攻撃を回避し、すかさず魔戒剣を前方に突き付け、円を描く。

 

「させん!!」

 

攻撃回避のタイミングで鎧の召還をしようとしている奏夜の狙いはバレており、アーマーロは再び針による攻撃を繰り出す。

 

しかし、それよりも鎧の召還の方が早く、アーマーロの針が奏夜に直撃する前に、奏夜は黄金の輝きを放つ輝狼の鎧に身を纏った。

 

アーマーロの針ではソウルメタルの鎧を貫くことは出来ず、その針は輝狼の鎧に弾かれ、その場へと落ちていく。

 

「悪いが、時間がないんだ。一気に決める!」

 

奏夜はアーマーロに接近するのだが、その時に魔戒剣が変化した陽光剣に橙色の魔導火を纏わせ、烈火炎装の状態になる。

 

「!?なんだと!?」

 

ここまで素早い動きで烈火炎装を使ってくるのは予想外なのかアーマーロは驚きを隠せなかったが、奏夜の動きは止まることなく魔導火を纏った陽光剣の一閃にてアーマーロの体を斬り裂いていく。

 

ホラーの中でも頑丈な部類に入るといっても、魔戒騎士として成長した奏夜の烈火炎装による一撃には耐えられず、その身体は真っ二つに斬り裂かれる。

 

「つ、強すぎる……!この小僧、ジンガ様の報告以上に……!」

 

アーマーロはジンガから事前に奏夜のことは聞いていたものの、その実力は聞いていた以上のものであり、驚きを隠せなかった。

 

「やっぱりジンガの差し金か。だがな、俺は魔戒騎士として強くなってるんだ!ジンガが相手でも負けはしない!」

 

「くくく…!だが、貴様如きジンガ様の敵ではない……。間もなく身の程を思い知ることになるだろう……」

 

アーマーロはこのように最期の言葉を残すと、断末魔をあげながらその身体が爆散し、その身体は陰我と共に消滅した。

 

アーマーロの討滅を確認した奏夜は、鎧を解除すると、魔戒剣を緑の鞘へと納めた。

 

「…急いで戻るぞ、キルバ!」

 

『ああ、奏夜急げ!校内から邪気を感じる!』

 

「くっ!やっぱりか……!」

 

奏夜はジンガの策に乗らざるを得ない状況となってしまったことに悔しさを顕にするが、すぐに我に返ると、急いで学校へと戻るのであった。

 

奏夜が部室に戻るのだが、その光景に奏夜は息を飲む。

 

「…!?こ、これは……!!」

 

部室は何者かに荒らされた形跡があり、穂乃果、海未、ことりの3人が呆然とその場に座り込んでいた。

 

奏夜が駆けつける前に絵里たち6人と教師としての仕事を終えた剣斗も来ており、穂乃果たちを介抱していた。

 

「…あっ、そーくん……」

 

「奏夜、すまん…。私が駆けつけた時にはもう既に手遅れだった……!」

 

剣斗は悔しそうな表情を浮かべながら、奏夜に話しかける。

 

「…なぁ、一体何があったんだ?それに、ララは!?」

 

奏夜は周囲を見渡すが、そこにララの姿はなかった。

 

「ララは、さらわれてしまいました……」

 

海未は弱々しい声で伝えると、奏夜はそのことに息を呑む。

 

「部室では、何事もなくアミリさんのインタビューを受けてたの……。すると、いきなりあのジンガって人が現れて……」

 

穂乃果はポツポツと、ここで何があったのかを語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜がホラーを発見し、どう対応するか検討していた頃、穂乃果たちはアミリからのインタビューを受けていた。

 

そこに関しては特に怪しいところはなかったのだが、突如としてジンガが現れることで、自体は一変する。

 

突如現れたジンガは、穂乃果を羽交い締めにした状態で捕まえていたのだ。

 

「!?お前は……!ジンガ!」

 

「よう、やっと会えたな……。奇妙な魔戒法師さんよ!」

 

ジンガは穂乃果を捕まえながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「は、放して……!」

 

穂乃果はジタバタと暴れて抵抗しようとするも、ジンガの力は強くどうすることも出来なかった。

 

「穂乃果を放しなさい!」

 

ララは魔導筆を取り出して法術を放とうとするが……。

 

「…そこまでよ!」

 

「!?」

 

アミリの声に、ララは驚きを隠せずそちらを向くと、アミリは海未とことりを捕まえており、その喉元にナイフのようなものを突きつけていた。

 

「ちょっとでも抵抗したらこの子たちの命はないわよ」

 

「!?あなた……!やっぱりジンガの…!」

 

「ま、そういうことだ」

 

「私はアミリ。ジンガ様に忠誠を誓うものよ!」

 

ここでアミリは本性を露わにしており、妖しげな笑みを浮かべていた。

 

「おい、お前。俺が出向いたってことはどういうことかわかってるよな……?」

 

「……っ」

 

自分の持っている魔竜の眼の存在はジンガに知られており、ララは息を呑む。

 

「大人しく竜の眼を渡しなさい。さもなくば、わかるわよね……?」

 

アミリはジンガに代わってララに魔竜の眼を要求していた。

 

断れば穂乃果たちが殺される。この状況にララは唇を噛み締める。

 

「卑怯な……!!」

 

ララは怒りの眼差しでジンガとアミリを睨みつけるが、この状況をどう打開するか考えていた。

 

しかし……。

 

「言っとくが、時間稼ぎをしようとしても無駄だぜ?そんな素振りを見せたら、俺たちは容赦なくこいつらを殺す」

 

ジンガは、ララが魔竜の眼を渡すふりをして奏夜や剣斗が来るまでの時間稼ぎをしようとしていることを見抜いており、少しでもその素振りを見せようとするならば、容赦なく穂乃果たちを殺すつもりだった。

 

「…くっ、わかったわ……」

 

穂乃果たちの命には代えられないため、ララは隠し持っていた魔竜の眼を取り出し、ジンガたちに見せる。

 

「…どうやら本物のようだな。ま、偽物を突きつけようとしたら、どうなるかはわかってたか」

 

ジンガは、ララが偽物の魔竜の眼を出させない状況に追い込んでおり、今ララが出したものが本物であることを今所持している魔竜の眼から感じ取っていた。

 

「…さ、そいつをこっちへ渡してもらおうか」

 

「これはあなたたちに渡すわ。だから、まずは彼女たちを解放しなさい!」

 

「おっと、そうはいかんな。お前が変なことをしないとも限らんしな。まずはお前の持ってるその眼をそこのアミリに渡してもらおうか。さもなくば、わかってるよな…?」

 

ジンガは、先に人質を解放することを良しとはせず、先に魔竜の眼を渡す事を要求した。

 

断ることの出来ない状況に、ララは唇を噛み締める。

 

「わかったわ…」

 

ララはやむを得ず、魔竜の眼をアミリに渡した。

 

それを受け取ったアミリは、ジンガからのアイコンタクトを受けて、海未とことりを解放したのであった。

 

アミリから解放された海未とことりはすぐさまララの背後へと移動する。

 

「…さあ!眼は渡したわ!穂乃果もすぐに解放しなさい!」

 

ララは穂乃果の解放も要求するのだが……。

 

「そうはいかないな。この眼は厳重な封印が施されている。封印を解除するまではこいつを返す訳にはいかないな」

 

ジンガは、魔竜の眼が封印されていることを眼の入っているケージを見て察しているため、穂乃果を解放することはしなかった。

 

「だったら私が人質になるわ。どのみち、封印を解くためには解除の術を使わなきゃいけないし。すぐに封印を解けるものでもないのよ」

 

ララの言っていることは本当のことであり、この魔竜の眼は特別な法術にて封印されているため、封印を解くためには解除の術を行わなくてはいけない。

 

それは時間のかかる術であるのは間違いないため、ここで封印解除を行えば、その間に奏夜や剣斗が駆けつけることになる。

 

「…どうやら、それは本当のようだな」

 

ジンガは、ララの言葉に嘘偽りはないことを判断しており、このままだと奏夜と剣斗が現れ、余計に面倒なことになることは予想出来た。

 

「わかった。この小娘は返してやるが、代わりにお前に来てもらおうか。お前には封印解除という仕事もあるしな」

 

本来ならば、穂乃果もそのまま人質として残すつもりだったが、奏夜と剣斗が現れるのも時間の問題だと判断したからか、ララの提案に乗ることにした。

 

「それに、奴らはまだ俺たちのアジトを見つけられてないしな。時間ならあるしな」

 

さらに、奏夜たちが自分たちのアジトを見つけられていないことも、ララの提案に乗ることにした理由のひとつであった。

 

ジンガは捕まえていた穂乃果を突き飛ばすかたちで解放すると、今度は手からツタのようなものを放ってララを捕縛する。

 

「お前たち。この魔戒法師に感謝することだな。ま、せいぜい頑張れよ!スクールアイドルのμ'sさんよ!」

 

ジンガはこのように捨て台詞を放つと、衝撃波のようなものを放ちながら、その姿を消し、アミリも同時に姿を消した。

 

部室が荒らされているようになっているのは、この時の衝撃波が原因である。

 

そして、剣斗や絵里たちが駆けつけたのは、それから間もなくであったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジンガのやつ、姑息な真似を……!」

 

抵抗を許さないジンガの狡猾さに、奏夜は怒りを露わにしていた。

 

『だが、結果的には穂乃果たちについていったのがララで良かったかもな。もしこれが奏夜や剣斗だったら、穂乃果たちがそのまま人質として連れていかれていただろうしな』

 

「そうかもしれないな……」

 

もし自分か剣斗が穂乃果たちに同行し、穂乃果たちがジンガの人質されたら、どんな目に遭うか。

 

それを想像しただけで奏夜の顔は真っ青になっていた。

 

それは穂乃果たち3人も同様なのか顔を真っ青にしながら震えていた。

 

「……こうなった以上、ララを救出するために作戦を練らないといけないな……」

 

奏夜がそんなことを考えていたその時だ。

 

「おいおい、どうしたんだ?これは、大きな音がここから聞こえたから来てみたんだが……」

 

音ノ木坂学院の教師で、奏夜たちの担任でもある山田先生が部室に入ると、現状に驚いていた。

 

(!そっか、ジンガの去り際に放ったってやつのせいでちょっとした騒ぎになってる訳か……)

 

奏夜はこの状況を冷静に分析していたのだが……。

 

「山田先生、お騒がせして申し訳ありません。実は今、部室の大掃除をしていまして。その時に棚の上にあったものが一斉に落ちてしまったようです」

 

剣斗はこのように弁解するのだが、実際に部室の棚に展示されていた荷物がいくつも落ちていたため、何も知らない人物が聞いたらそうだと感じるのも無理はない。

 

「ふむ、そういうことだったのか。掃除も結構だが、あまり騒がしくしないでくれよ?」

 

「はい、すいませんでした」

 

奏夜が山田先生に謝罪すると、納得したのか山田先生はその場を後にする。

 

「とりあえずは番犬所に行かないとな……。現状を報告して対策を練らないと行けないし」

 

「うむ。まずはそれが優先だろう」

 

「絵里、悪いけどここは任せてもいいか?」

 

「ええ、わかったわ。穂乃果たちを休ませなきゃいけないし、部室も本当に掃除しないとだしね」

 

奏夜は、絵里たちに部室のことを託すと、剣斗と共に部室を後にして、そのまま番犬所へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

番犬所へ到着した奏夜と剣斗は、先ほど起こった出来事をありのままにロデルへ報告した。

 

状況が思わしくないことを感じ取ったロデルは、すぐさま統夜、大輝、リンドウを呼び出し、今後のことを話し合うことになった。

 

3人はロデルからの呼び出しを受けてすぐに番犬所へ駆けつける。

 

そして、奏夜や剣斗から事の顛末を聞いたのだが……。

 

「……なんてこった……。眼が奪われただけでなくあのお嬢ちゃんも捕まるとはな……」

 

リンドウは、奏夜から話を聞き、思わしくない現状に頭を抱えていた。

 

「あの嬢ちゃんだけが封印解除の術を使えるから、すぐに殺されることはないだろうが……」

 

「そうですね。だからこそ急がないと……」

 

封印された魔竜の眼を解除出来るのは封印したララだけであるため、それが済むまではジンガには利用価値があるため、殺されることはないと大輝は推測する。

 

しかし、それが終われば用済みになり、殺されるか人質として使われるかされる可能性があるため、可及的速やかにララを奪還する必要があった。

 

「うむ。そうしたいところではあるが、我々は奴の居所をまだ掴めていない。いったいどこに潜伏しているのか……」

 

「そうだよな。そこがわからんと、助けたくても作戦を立てられないし……」

 

ララを助けようにも、ジンガのアジトがわからなければそれも不可能である。

 

そんな状況に奏夜は頭を抱えるのだが……。

 

「…そのことなんだが、奴の拠点らしき場所の目星はついたんだ」

 

「統夜……。それは本当ですか!?」

 

統夜の言葉に奏夜たちだけではなく、ロデルも驚きを隠せなかった。

 

「はい。実は、初めてララと出会った時に、彼女に許可をもらって、発信機代わりの小さな魔導具も付けさせてもらったんです。ジンガの奴に眼の存在がバレてララが捕らわれた時に、すぐに居所を掴めるようにと」

 

統夜は、ララと出会った時からこの自体を想定しており、盟友であるアキトの力も借りて発信機としての機能をもつ小型の魔導具を密かに設置していたのである。

 

そして、ロデルから呼び出しがされる少し前にその発信機を元にジンガのアジトの場所の目星がついたのであった。

 

「流石は統夜さん。ここまで見通してたなんて……」

 

奏夜は、統夜の行っていたことに驚きを隠せずにいたと同時に、その先見の明に敬意を表していた。

 

「ロデル様を始め、他のみんなに黙っていたのは申し訳ありません。最悪の場面を想定した時にジンガに発信機となる魔導具の存在を知られる訳にはいきませんでしたので、これらは秘密裏に行わさせていただきました」

 

統夜は、秘密裏に保険をかけていたことに対して謝罪していた。

 

「いえ、統夜。むしろお手柄ですよ。あなたが機転を利かせてくれたからこそ、ジンガに気取られることなく、アジトの目星を付けられたのですから」

 

魔竜の眼を奪われ、ララまで捕まり、ジンガのアジトの場所すらわからなかった現状だったが、統夜の活躍により、そこに光明が差し込んできたのだ。

 

「突入してララを救出するためにも、奴の拠点の視察は必要だと思います。またアキトの手を借りて、奴のアジトの内部を探ろうと思います。ララを助ける策を考えるのはそれからでも遅くはないかと」

 

「そうですね。正式に元老院にアキトの協力を要請させてもらいます。時々アキトの助力はありましたが、正式な指令ではありませんでしたしね」

 

アキトは度々奏夜たちのピンチを救ってくれたが、あくまでも用事のついでであり、元老院から正式な指令が来ていた訳ではなかった。

 

魔戒法師であるララが捕まった今、魔戒法師であるアキトの力が必要になると判断したロデルは、元老院に申告し、アキトの応援を正式にお願いするつもりなのだ。

 

「それならば私も行こう」

 

剣斗もまた、ジンガのアジトの視察へ行くことを申し出たのである。

 

「他の皆はこれから来たる戦いに備えて体を休めて欲しい。奴のアジトに突入するのだ。戦いは避けられないだろうからな」

 

「わかりました。統夜、剣斗にアキトの3人でジンガのアジトの視察を行っていただきます。他の者は今後の動きに備えて待機。体を休めてもらいます」

 

ロデルは、正式にこのような指令を出し、ララ救出のために動き出すことにした。

 

魔竜の眼が奪われ、ララが捕らわれたことで、大いなる暗雲が立ち込める状態となったものの、これはこれから起こる激闘の始まりに過ぎないことを、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

─次回予告─

 

『こいつはまた面倒なことになったな。だが、この危機を乗り越えないと、邪竜復活を許すだけだぞ!次回、「盟友」。その騎士道、その盾に込めて!!』

 

 




今回一気に物語が動いた気がします。

未だに封印されているとはいえ、奪われた魔竜の眼に、さらわれたララ…。

そして統夜の手によって突き止められるジンガのアジト。

次回はさらに物語が大きく動いていく予定になっています。

奏夜たちは無事にララを救い出すことは出来るのか!?

そして、ジンガから奪われた魔竜の眼を取り戻すことは出来るのか!?

次回も更新に時間はかかるとは思いますが、気長にお待ちください!

それでは、次回をお楽しみに!!


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