今回の番外編も、長くなりそうだったため、前後編にさせてもらいました。
タイトルを見て察した方もいるかと思いますが、そうです。
あのキャラが登場します。
そのキャラとはいったい誰なのか?
それでは、番外編をどうぞ!
奏夜が穂乃果や統夜と共に、留学をしようとすることりを連れ戻そうと空港へ向かう途中に尊士に遭遇してしまった。
奏夜はその障害を乗り越え、尊士を倒すだけではなく、ことりを連れ戻すことにも成功し、9人揃ってのライブは大成功を収めた。
その数日後、秋葉原の地に、1人の魔戒騎士が降り立っていた。
その魔戒騎士の名は、山刀翼(やまがたなつばさ)。
白夜騎士打無(びゃくやきしダン)の称号を持つ魔戒騎士であり、黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島鋼牙や、銀牙騎士絶狼の称号を持つ涼邑零に次ぐ実力の持ち主である。
奏夜の先輩騎士である統夜は、魔戒騎士になりたての頃によく翼や零に鍛えられており、奏夜との接点は少ないものの、奏夜が尊敬している魔戒騎士の1人でもある。
そんな翼は、番犬所からとある指令を受けて、この秋葉原にやって来たのである。
現在、翼は秋葉原の某所に立っていたのだが……。
「……な、なんなんだ、ここは……?」
翼がいるのはメイド喫茶などが多く存在しているエリアであり、メイドさんやコスプレをしている人がちらほらいたのである。
「ずいぶんと面妖な格好の者が多いではないか!」
閑岱(かんたい)という魔戒法師の里で暮らしている翼にとって、都会の街は驚くことばかりなのだが、それよりも、メイドさんやコスプレをしている者の存在が理解出来なかった。
『翼よ。どうやらこのエリアはオタク文化とやらが発展してるようで、このような装いをしている者がけっこういるみたいじゃぞ』
翼の腕から、老人のような声が聞こえてきたのだが、今喋ったのは、翼の相棒である魔導輪のゴルバであった。
「オタク文化?なんだかよくわからないが、くだらないな」
人界の文化に興味を示していない翼は、オタク文化もこのように一蹴していた。
『まぁ、そう言うではない。ワシらのターゲットは、そんな文化に溶け込んでいるのじゃからな』
「わかっている……!」
翼が秋葉原へ来たのは、指令を受けてなのだが、そのターゲットは、秋葉原の文化に溶け込んでいるみたいだった。
「とりあえず情報を集めるぞ」
『うむ。それが一番みたいじゃからな』
こうして、翼は、ターゲットを見つけるために行動を開始したのであった。
※※※
翼が秋葉原にやって来た頃、奏夜はアイドル研究部の部室にて、パソコンとにらめっこをしていた。
奏夜が現在開いているのはいつも使っているスクールアイドル専用のサイトであり、奏夜はμ'sのランキングを確認していた。
μ'sは、様々な問題を抱えた結果、スクールアイドルとして活動を休止し、ランキングからも消滅した。
数日前に行われた9人によるライブの成功後、μ'sは再び音ノ木坂学院のスクールアイドルとして再登録されたのだが、ランキングは999位へとリセットされてしまった。
しかし、ラブライブ出場目前までランキングを上げたμ'sにはファンがまだ残っていたため、この数日でランキングは600位まで上がっていた。
「さて……。こっからどう巻き返していくべきか……」
奏夜はパソコンの画面に映る「600位」という数字とにらめっこをしながら、このように呟いていた。
『ま、1度落ちたランキングを戻すのは並大抵ではないな。第1回ラブライブの成功で、スクールアイドルは増えてるんだろ?』
キルバの指摘通り、「A- RISE」の優勝で幕を閉じた第1回ラブライブの影響はかなりのものであり、スクールアイドルの数は爆発的に増えていったのであった。
「確かにそうだけどよぉ……。これからは新しい生徒会役員が決まるだろう?だから絵里と希は忙しくなるだろうし、ライブを慌ててやってもな……」
奏夜が心配する通り、今月末には生徒会役員が一新されるのだが、そのメンバーは、現生徒会メンバーの推薦によって決められる。
この推薦に異議を唱える者もいるのだが、これがどうやら音ノ木坂学院の伝統らしい。
そのため、新メンバーの推薦や、そのメンバーへの仕事の引き継ぎなど、生徒会長と副会長である絵里と希はかなり忙しくなることが予想された。
さらに、数日前にライブを行ったばかりなので、焦ってライブをしても効果はないと奏夜は考えていたのである。
「ま、これからのことはじっくり考えるさ。ことりの留学がなくなって、μ'sは9人に戻ったし、色々とスケジュールを考えるのはマネージャーの仕事だからな」
奏夜は、穂乃果たちが練習に集中出来るように努めることが自分の役割だと思っていた。
だからこそ、現在も穂乃果たちが練習している間に、マネージャーとしての務めを果たしているのである。
『ま、無理はするなよ。この数日はかなり忙しかっただろう?』
「確かに……そうだな……」
奏夜は、この数日の出来事を思い出し、顔を真っ青にしていた。
数日前のライブ成功後は打ち上げをしてμ'sが活動再開したことを喜んでいたのだが、翌日からは忙しかった。
μ'sを代表して、ことりを連れ戻したことに対して理事長へ謝罪をし、その後もマネージャーとしてしなければいけない仕事が溜まっており、それに追われていた。
幸い、空港に預けたことりの荷物や、ことりの飛行機のキャンセルは、ライブの終了後に統夜が行ってくれたみたいだった。
奏夜が理事長に謝りに行った時も、ことりの留学が行かないことに対して、紬の働きかけがあったみたいであり、そこまで咎められることもなかった。
その代わりに、「娘を後悔させないように導くように」と約束をさせられたのである。
この数日のことを思い出していた奏夜は、ため息をついて机に突っ伏していた。
『ま、この数日、ホラーが出なかったのは幸いだったな』
「そうだよなぁ……。あれからジンガの動きもないみたいだし……」
奏夜が尊士を討伐してから、ホラーは現れておらず、ジンガもまた、大きく動いてはいなかった。
『ま、あいつは片腕ともいえる部下を失ったんだ。迂闊には動けんだろうさ』
「そうだな。きっと、ニーズヘッグ復活のための策を考えてるだろうな」
ジンガは、奏夜の活躍により、信頼できる部下を失ったため、今までとは違った方法で動いてくるだろう。
奏夜はそう考えていた。
奏夜がそんなことを考えていると……。
「あっ、そーくん。ここにいたんだ」
今日の練習は終わったのか、穂乃果たちが部室に入ってきて、穂乃果が奏夜に声をかけていた。
「まぁな。みんなはもう練習は終わりなのか?」
「ええ。μ'sがまた9人揃っての練習も久しぶりだし、今日は軽めのメニューにしたの」
絵里は、今日どのような練習だったのかを奏夜に報告していた。
「それに、ことりが用事があるみたいなので、それも理由なんです」
「用事?」
「うん。私、留学をやめたでしょ?それをバイト先の人に話したら、いきなりヘルプをお願いされちゃって……」
ことりは留学をやめたことを以前バイトしていたメイド喫茶の人間にも報告していた。
すると、今日1日だけでいいから、ミナリンスキーの力を借りたいとのことであり、ことりはこれからメイド喫茶に行くとのことであった。
「なるほどな……。事情はわかったよ」
「それでね、私たちもお客さんとしてメイド喫茶に行こうかって話をしてたの」
「奏夜はこの後時間はありますか?」
どうやらことり以外のメンバーもことりと共にメイド喫茶へ行くみたいであり、海未は奏夜のことも誘っていた。
「ああ。俺も久しぶりに伝説のメイドであるミナリンスキーを見たいって思ってたし、一緒に行かせてもらうよ」
「本当!?そしたら、そーくんのためにも、ことり、頑張るね♪」
ことりは、奏夜が来てくれるとわかると、さらにやる気を出したのであった。
「アハハ、期待してるぜ、ことり」
「うん♪」
ことりはとても朗らかな表情で奏夜と話をしており、彼女の頬は少しだけ赤くなっていた。
「「……」」
そんな2人の様子を見て、面白くないと感じたからか、穂乃果と海未は無言でぷぅっと膨らませていた。
「ふふっ……。奏夜君ってば、罪な男やね♪」
そんな穂乃果と海未の様子を見ていた希は、クスクスと笑みをこぼしていた。
「……」
そんな中、絵里もまた、穂乃果や海未のようにぷぅっと頬を膨らませていたのであった。
「……あら?エリチもヤキモチなん?」
「!?な、何を言ってるのよ、希!そんな訳ないじゃない!」
希に痛いところを突かれたからか、絵里は顔を真っ赤にしながらムキになっていた。
「……わかりやすいわね……」
にこは、あまりもわかりやすいリアクションをしている絵里を、ジト目で見ていた。
「まったく……。奏夜ってば、天然のタラシね」
そして真姫は、奏夜をこのように評価していたのだが、どこか落ち着きがないように見えた。
「そして真姫ちゃんは、そんなそーや君が気になるんだにゃ!」
「!?う、ウルサイワネ!」
先ほどの希のように、凛もまた、真姫のことをからかっており、真姫はムキになって反論していた。
「と、とりあえず、着替えて行こう?ことりちゃんも急ぐと思うから……」
絵里や真姫がムキになっているのを見た花陽は、このように提案をしており、それには全員が納得していた。
「…….ま、そうね。行きましょうか」
ここであーだこーだいったとしても、ことりの出勤が遅くなるので、制服に着替えてメイド喫茶へ向かうことにした。
そうとわかると奏夜は部室を離れ、校門前で待つことにしていた。
その途中…….。
「おぉ!奏夜ではないか!今帰るところか?」
サラサラの銀色の髪で整った顔立ちをしており、モデルのような体型なのだが、ジャージ姿というギャップを持つ教師である、小津剣斗が親しげに奏夜に声をかけていた。
しかし、教師というのは仮の姿であり、本当は奏夜と同じ魔戒騎士なのである。
「まあな。これから穂乃果たちとメイド喫茶に行くところなんだ」
「ふむ……。メイド喫茶か。大輝からよく話は聞いていたが、行ったことはないな」
どうやら剣斗は奏夜の先輩騎士である桐島大輝からメイド喫茶の話を聞いていたみたいであり、興味はあるみたいだった。
大輝は称号を持たない魔戒騎士ではあるが、魔戒騎士としての長い経験がその実力を裏付けるほどの実力者である。
普段は真面目で実直な大輝なのだが、とあるきっかけにより、メイド喫茶にハマってしまう。
現在では、魔戒騎士随一のメイド通となってしまったのである。
「奏夜、私も同行しても構わないだろうか?私も1度はメイド喫茶に行ってみたいと思っていたのだよ」
「構わないぞ。剣斗なら穂乃果たちも歓迎してくれるだろうし」
「うむ!そうとわかれば、私も着替えてこよう」
「わかった。校門前で待ってるよ」
こうして、剣斗もメイド喫茶についてくることになり、剣斗は服を着替えるためにどこかへ向かい、奏夜は改めて校門前で穂乃果たちや剣斗を待つことにした。
奏夜が校門前に到着してからおよそ5分後、魔戒騎士の普段着である魔法衣へと着替えた剣斗が奏夜と合流した。
それからさらに5分後、穂乃果たちとも合流した。
最初は剣斗がいることに驚いていたが、メイド喫茶に行ってみたいという剣斗の言葉を聞くと、剣斗のことを歓迎していた。
こうして、μ'sのメンバーは、奏夜や剣斗と共に、メイド喫茶へと向かうことになった。
この時、奏夜と剣斗は知る由もなかった……。
ことりが働くメイド喫茶で、意外な人物と再会することを……。
※※※
学校を後にした奏夜たちは、まっすぐことりのバイト先であるメイド喫茶へとたどり着いたのであった。
ことりはこれからバイトなので先に向かっており、奏夜たちは奏夜たちで入店してことりを待つことにした。
「お帰りなさいませ♪ご主人様♪お嬢様♪」
メイド喫茶に入店すると、ここで働くメイドさんが満面の笑みで奏夜たちを出迎えてくれた。
「あっ、皆さんはミナリンスキーちゃんの!」
「お席までご案内いたしますね」
奏夜たちを出迎えてくれたメイドさんは、奏夜たちの顔を知っているみたいであり、11人が座れる広めなテーブルまで案内してくれた。
「ふむ…….。ここがメイド喫茶とやらか……」
メイドさんが案内してくれた席に着くなり、剣斗は周囲を見回し、メイドさんたちを観察していた。
「……皆、あまり鍛えてないからか、ひょろっとしているな。正直、そこまでそそられん……」
どうやら剣斗は、メイドさんには興味がないみたいであった。
そんな中、剣斗は「それに比べて……」と前置きをすると、奏夜の体をジッと眺めていた。
「うむ!奏夜はまた強くなり、鍛えてるみたいだな。お前の体のしなりのひとつひとつがそれを感じさせる!イイぞ……!ますますお前から目が離せなくなってきた!」
剣斗は興奮気味に奏夜の体を評価しており、そんな剣斗に、奏夜は苦笑いをしていた。
「なんて言うか……」
「小津先生って……」
「女の人にあまり興味がないのかしら……」
メイド喫茶に来て、メイドさんではなく、奏夜の体に興奮する剣斗に、穂乃果、絵里、真姫の3人は引いていた。
「やめて欲しいんだけどね……。ただでさえ、奏夜と小津先生は変な噂になってるんだから……。μ'sの評判に関わるじゃない」
にこはジト目になりながら、奏夜と剣斗のことを交互に見ていた。
剣斗は教師として音ノ木坂学院に来てから、ずっとこのような感じであるため、奏夜と剣斗が良からぬ関係なのではないかという噂が学内で広がっていた。
……剣斗としては奏夜のことを友と慕っているたけなのだが、その噂が本当であることを願っている者もいるみたいだ。
どうやら、ここのメイドさんも、そんな空気を感じ取ったみたいであり……。
「……ねぇねぇ、あそこのご主人様たちってやっぱり……」
「そうね……。そうであって欲しいわね……」
「どっちが攻めでどっちが受けでも、ご飯が三杯いけそうだわ!」
「今度の同人誌のネタにいいかもしれないね!」
「燃えて……いえ、萌えてきたわぁ!」
腐女子と思われるメイドさん2名が、大いに盛り上がっていた。
(アハハ……。参ったな……。俺は別にそっちの気はないんだけどな)
奏夜にもそんな話は聞こえており、苦笑いをしていた。
剣斗はまったく気にする素振りはなかったが、他のメンバーはジト目になっており、少しだけ妙な空気になっていた。
すると……。
「ご、ご主人様、お嬢様。こちら、メニューでございます」
そんな空気を感じ取ったメイドさんが話題を変えるためにメニューを置いてくれたのであった。
「あっ、そうだね。何を頼もうか!」
メイドさんがメニューを置いてくれたことにより、穂乃果たちの関心はメニューへと向いていった。
「皆、今日は私のおごりだ。好きなものを注文するといい」
剣斗は穂乃果たちにこのような提案をしてくれたのだが……。
「え?でも、悪いですよ……」
「教師である私が生徒にお金を出させるものか。だから、何も遠慮することはないのだぞ」
剣斗の提案に花陽は申し訳なさそうにしているが、剣斗はそんなことを気にする素振りは見せなかった。
「剣斗。俺も半分は出すよ。お前だけに負担させるのは申し訳ないからな」
奏夜は魔戒騎士として、多少のお金は番犬所から支給されており、多少は稼いでいるため、剣斗だけにお金を出させることを良しとはしなかった。
「ふふ、気にすることはないのだぞ、奏夜。私はそれなりに稼いでいるが、お金を使うことはあまりないからな。こういう時にこそ使わせて欲しいのだよ」
「……わかった。そういうことなら遠慮なくご馳走になるよ」
穂乃果たちだけではなく、奏夜もまた、遠慮せずにメニューを注文することにした。
奏夜たちはメニューを吟味し、飲み物や食べ物などの注文を行っていた。
それが終わって間もなくして……。
「……みんな、ごめんね。遅くなっちゃった」
着替えと準備を終えたことりが、奏夜たちの席にやって来た。
「大丈夫だよ。こと……ミナリンスキー」
奏夜は思わず本名を言うところだったのだが、一応はメイドの名前でことりのことを呼んでいた。
すると、周囲の空気が何故かざわつき始めたのであった。
「なぁ、あれってミナリンスキーだよな?」
「間違いない……!アキバでの路上ライブ以来姿を見なかったけど、また拝めるとは……!」
「ミナリンスキーちゃん、接客してくれないかなぁ……?」
伝説のメイドと呼ばれたことりの姿を見た客たちのテンションは上がり、ざわつきが大きくなっていた。
「ふむ……。ことりのことは奏夜から聞いてはいたが、随分と人気者なのだな」
剣斗はこのざわつきぶりを見て、ミナリンスキーと呼ばれたことりの人気ぶりに驚いていた。
それから間もなく、1人のメイドがことりのもとにやって来た。
「ミナリンスキーちゃん。向こうのご主人様について欲しいんだけど、いいかな?」
そのメイドさんが指差した方向は店の1番奥であり、1人の男性が座っており、既に他のメイドさんが対応していた。
(あれ……?あの人、見覚えがあるような気がするんだけど……)
奏夜もその方を見るのだが、これからことりが対応しようとしている客に、どうやら見覚えがあるみたいだった。
すると……。
「あれ?そこのご主人様たちって向こうのご主人様と似た格好ですね。もしかしてお知り合いですか?」
奏夜と剣斗の魔法衣を見て、メイドさんはこのようなことを言っていた。
「俺の勘が間違ってなければ、恐らくはそうかと……」
「それなら、ご主人様たちもミナリンスキーちゃんと一緒に行ってみませんか?」
「はい。そうしてみます」
こうして、奏夜と剣斗は席を立つと、ことりと共に、奥の席まで移動をしていた。
そこで奏夜が見たものは……。
「……ご主人様、随分と素敵な格好をしてますね♪それは何のコスプレですか?」
そっけない態度の男性客に、メイドさんが必死に対応している姿だった。
「コス……?何のことだ?」
どうやら男性はコスプレのことをよく知らないみたいだった。
メイドさんは色々質問をするのだが、終始そっけない態度のため、対応に困っていたのである。
「……ご主人様♪失礼致しますね♪」
ことりは満面の笑みで男性に挨拶をすると、ペコリと一礼をしていた。
「やれやれ……。また1人増えたのか……」
ことりが現れたことに対して男性はげんなりしながらことりの方を向いた。
すると……。
「……!!?つ、翼さん!?何でこんなところに!?」
どうやら奏夜の勘は当たっていたのか、その男性客は、とある指令を受けてこの秋葉原で情報収集を行っているはずの山刀翼であった。
「お、お前……!確か、統夜の後輩の如月奏夜だったか?お前も指令を受けてここへ来たのか?」
「いえ。俺たちは友達とたまたまここへ遊びに来ただけで……」
翼がメイド喫茶にいる事実に驚きながら、奏夜はたまたま遊びに来たことを伝えていた。
「そうか……。それに、元老院所属の小津剣斗までいるとはな」
「うむ!私は音ノ木坂学院の教師をしているのだよ。とある指令を受けてな」
どうやら翼は、剣斗のことを知っているみたいであり、剣斗もまた、長期の指令を受けていることを説明していた。
「……そうだったか。奏夜、お前はこの管轄の魔戒騎士だったな?協力して欲しいことがある」
「協力ですか……?それはもちろんですが、一体何を……」
奏夜としては、尊敬する白夜騎士に協力するこは当然のことと考えていたが、彼がどのような指令を受けているのかは分からなかった。
「それは……」
「それはあたしから説明するよ!」
こう宣言しながら、1人の女性が現れた。
その女性を見て、奏夜たちは驚愕していた。
その理由は……。
「じゃ、邪美さん!?何でここに!?」
翼と同じ閑岱の魔戒法師であり、現行最強の魔戒法師と言われている邪美であったからだ。
それに、奏夜たちが驚いていたのはそれだけではなく……。
「……邪美。何だ、その格好は?」
邪美は何故かメイドさんの格好をしており、翼は眉間にしわを寄せていた。
「何か変かい?メイド喫茶といえば、メイドさんの格好かなと思ってね」
邪美は自分のメイド姿をまじまじと眺めながらこう問いかけていた。
「俺が言いたいことはそういうことではない!全く、お前は……」
翼は、邪美がこのような格好をしてるのが気に入らないからか、ブツクサと文句を言っていた。
「……あれ?この人たちって邪美姉のお知り合いだったんですね」
最初から翼に付いていたメイドさんは邪美のことを知っているみたいであり、邪美のことを「邪美姉」と呼んでいた。
「ま、そういうことだ。それよりも、仕事の話をしようじゃないか。……そこの2人、席を外してくれないかい?」
邪美はこれから指令についての話をしようとしているからか、最初から翼に付いていたメイドさんとことりをその場から離れさせようとしていた。
「か、かしこまりました……」
最初から翼に付いていたメイドさんは、あっさりとその場から離れており、ことりは少しだけ不安げに奏夜のことを見ていた。
奏夜は無言で頷くと、ことりも頷き返しており、その場から離れていった。
「……それにしても、久しぶりだね、奏夜」
「はい!お久しぶりです!邪美さん!」
奏夜は魔戒騎士になっておよ3年ほどなのだが、邪美とは、奏夜の先輩騎士である統夜経由で知り合ったのであった。
「この前見た時はまだまだ垢の抜け切れてない坊やだったのに、ちょっとは男の顔をするようになったじゃないか」
「そ……そうですかね……」
邪美は奏夜のことを素直に褒めており、恥ずかしさがあるからか、頰を赤らめていた。
「……それで、ミナリンスキーちゃんだっけ?あの子は奏夜の彼女なのかい?」
「!?ちょ!?そ、そんなんじゃなすよ!」
邪美の唐突な問いかけに、奏夜は顔を真っ赤にしていた。
「やれやれ……。そんなウブなところはまだまだ坊やって訳だね……」
奏夜の年相応ともいえるリアクションに、邪美は少しだけ呆れていた。
「……で、あんたは確か、由緒ある小津家の魔戒騎士だったね?」
「うむ!私は小津剣斗だ。あなたが邪美法師だな?あなたの活躍は耳にしているよ」
「へぇ、由緒ある青銅騎士の称号を持つ者の耳に入っているとは、光栄だね」
剣斗は邪美の活躍ぶりを噂で聞いており、邪美もまた、剣斗の活躍ぶりを噂で聞いていた。
「……それはそうと、奏夜。あんたはとんだ面倒なことに巻き込まれているみたいだね」
「ええ……まぁ……」
邪美が言っているのはジンガやニーズヘッグのことだと理解していた奏夜は、このように返事をしていた。
「まったく……。零や烈花といい、あんたたちといい、どうしてこうも竜絡みの事件が続くかねぇ……」
「!?もしかして、零さんや烈花さんも、ニーズヘッグのような魔竜と戦ったんですか?」
「そうらしいね。烈花の話だと、竜騎士なる者も現れて、零を苦しめたみたいだよ。……まぁ、最終的には、魔竜も竜騎士も討滅されたみたいだけどね」
「……そんなことがあったんですか……」
自分たち以外にも、竜にまつわるホラーとの戦いがあったことを知り、奏夜は険しい表情になっていた。
その魔竜も、恐らくは封印されているニーズヘッグと互角に近い力を持っていると簡単に予想が出来たからである。
「それにしても、あの統夜やリンドウが手を焼いた元魔戒騎士のホラーを倒すとは、奏夜、あんたは魔戒騎士としてもだいぶ成長したみたいだね」
「いえ……。尊士に勝てたのは俺1人の力じゃないです。俺にとって大切な人たちが俺に力をくれたからこそ、尊士に勝てたんです」
「そうか……。奏夜、お前も「守りし者」とは何なのか、わかってきたみたいだな」
翼は、奏夜が魔戒騎士としてどれだけ成長したかは測りかねていたが、精神的には大きく成長していることを悟り、笑みを浮かべていた。
「……とりあえず今回は、この街やこの街の文化に詳しい奏夜の力を借りたいって思ってるんだよ」
どうやら、邪美は奏夜の力を借りようと思っているらしく、そのことに奏夜は驚いていた。
「本当であれば、奏夜の助けを借りる必要などないのだがな。例のターゲットは俺が見つけて討滅してみせる」
「……そんな強がりを言ってる場合かい?奴はこの街の文化を知り尽くしてるんだよ。あんたが闇雲に探したって見つけられる訳ないよ」
どうやら、翼や邪美が追っている相手はホラーかどうかはわからなかったが、秋葉原の文化に精通していることだけは奏夜にも理解できた。
「くっ、それはそうだが……」
「メイド喫茶で狼狽えてるようじゃ難しいと思うけどね」
「俺は狼狽えてなどいない!」
邪美のからかうような言葉が気に入らなかったのか、翼は少しだけ声を荒げていた。
「翼さん、落ち着いて下さい!俺に手伝えることなんて限られてるとは思いますが、出来ることがあるならあなたたちに協力します。だって、魔戒騎士や魔戒法師は助け合ってこそナンボなんですから……」
魔戒騎士や魔戒法師は助け合うべきである。
これは、奏夜が統夜から教わったことであり、その言葉を聞いた翼と邪美は、笑みを浮かべていた。
「……言うようになったじゃないか」
「そういう訳だから、奏夜にも協力してもらうよ。あと、剣斗もね!」
「うむ!もちろんそのつもりだ!歴戦の勇士である白夜騎士と、邪美法師の2人との共闘……。イイぞ……!これはとても心が躍る!」
翼と邪美の2人と共闘出来るだろうと感じた剣斗は、興奮冷めやらぬ感じで盛り上がっており、剣斗の本性を垣間見た翼と邪美はやや引き気味であった。
「と、とりあえず、改めて仕事の話をさせてもらうよ」
気持ちを切り替えて、邪美は何故秋葉原に訪れたのか。
その目的と、奏夜たちに協力して欲しいことを話そうとしていた。
……ちょうど同じ頃、奏夜たちとは離れた席で、1人の小太りな男が、ことりのことをジッと見ていたのであった。
「……あの子が伝説のミナリンスキーちゃんか……。デュフフ、写真よりも可愛いじゃないか……」
小太りな男は、怪しい笑みを浮かべており、いらやしい目付きでことりのことを見ていた。
「それにしても、あの2人がくるとはな……。だけど、そんなことは関係ないさ……」
小太りの男は、奥の席にいる翼と邪美をチラッと見ながらこう呟いていた。
「せっかく手に入れた力を手放したくはないしな……。デュフフ……。ミナリンスキーちゃん……。絶対俺のものにしてみせるよ……」
どうやらこの小太りの男は、ことりのことを狙っているみたいであった。
奏夜たちはこの小太りの男の目的をそう遠くないうちに知ることになる。
それは、そう遠くないうちに起こる、激しい戦いの序曲であることを、奏夜たちは知る由もなかった……。
……後編に続く。
今回の番外編で登場したのは、翼と邪美でした!
イメージ的には、「魔戒列伝」の翼回をイメージしています。
メイド喫茶で狼狽える翼や、メイド姿の邪美……。本編では絶対見られない光景ですよね(笑)
そこら辺は、この小説ならではだと思っています。
そして、邪美が零や烈花の話をしていましたが、「絶狼〜Dragon Blood」の話は、牙狼ライブ!1話の時点で既に終わっていますのでよろしくお願いします!
そう考えると、竜絡みの事件が続くことになるんですよね……。
さて、次回は後編ですが、翼や邪美の活躍が見られると思います。
最後に出てきた小太りの男は何者なのか……?
それでは、後編をお楽しみに!