牙狼ライブ! 〜9人の女神と光の騎士〜   作:ナック・G

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お待たせしました!第6話になります。

絶狼の7話を見たのですが、零と竜騎士のアクションが凄すぎて興奮してしまいました。

毎週欠かさず見ているので、次回も楽しみです。

さて、今回は穂乃果たち3人のグループ名が明らかにあります。

グループ名はいったいどのようなものになるのか?

それでは、第6話をどうぞ!




第6話 「名前」

穂乃果たちがホラー、デウルに襲われ、奏夜が間一髪のところで3人の危機を救った。

 

その翌日、奏夜の家で、穂乃果たちに魔戒騎士やホラーについての話を行っていた。

 

あまりにも現実離れした話であったが、穂乃果たちはそんな奏夜の話を受け入れ、スクールアイドルとして活動しながらも奏夜のことを支えよう。

 

穂乃果たちはそんなことを考えていた。

 

翌日の朝7時頃。奏夜たちは神田明神という神社を訪れていた。

 

しかし、奏夜たちがここを訪れたのは神社で参拝をするためではなく、神田明神に入るために登らなければいけない階段に用があった。

 

穂乃果たちはライブで最後まで笑顔でパフォーマンスをするための体力をつけるためにこの階段の上り下りをダッシュで行うことにしたのである。

 

「ほっ、ほっ、よっと」

 

奏夜は何度目かの挑戦ではあるが軽快に階段を上っていった。

 

魔戒騎士である奏夜にしてみれば、これくらいの階段を何度上ってもバテることはないのである。

 

しかし、普段鍛えたりしていない穂乃果とことりにしてみれば、この階段は1往復でもきついのか、既にバテバテであった。

 

奏夜はそんな2人を遠目に見ながら軽々とゴールした。

 

「へぇ…。やはり奏夜は体力があるんですね」

 

奏夜が未だに息が上がっていなかったことに海未は感心していた。

 

「まぁね。俺は魔戒騎士としてかなり鍛えてたからな。これ以上にきつい修行を積んできてるし」

 

「い、一体どんな修行をしたきたと言うのですか……?」

 

「それは聞かない方がいいぞ。聞いたら多分海未はドン引きすると思うから」

「そ、それだけきつい修行だったのですね……」

 

奏夜が修行について語らない時点でそれだけきつい修行であったことを察することが出来たのか、海未は苦笑いをしていた。

 

2人でこんな話をしていると穂乃果とことりがゴールし、穂乃果は大の字で寝転がり、ことりはその場に座り込んでいた。

 

「はぁ……はぁ……もう、ダメ……」

 

「もう……足……動かない……」

 

「おいおいお前ら……だらしないぞ!これくらいでバテて」

 

「何で……そーくんは平気そうなのぉ……?」

 

「何でと言われても、お前らよりも遥かに鍛えてるとしかいいようがないからな……」

 

穂乃果もことりも奏夜が魔戒騎士だということは聞いたので、一応納得はしたのだが……。

 

「納得だけど……。そーくんの裏切り者ぉ!」

 

「裏切り者ってあのなぁ……」

 

穂乃果は奏夜に裏切り者と言わなきゃ気が済まないようであり、その発言を聞いた奏夜は苦笑いをしていた。

 

「これから朝と晩。ここでダンスと歌とは別に基礎体力をつける練習をしてもらいます」

 

「えぇ!?」

 

「1日2回も!?」

 

1回だけでもきついというのに、1日2回もこのトレーニングをこなさなければならないと知った穂乃果とことりは、海未の言葉に驚愕していた。

 

「そうです。やるからにはちゃんとしたライブをやります。そうじゃなければ生徒も集まりませんからね」

 

「はぁい……」

 

穂乃果は膨れっ面ながらも渋々了承していた。

 

「さっ、穂乃果とことりはもうワンセットです!」

 

「えぇ!?そーくんだけずるい!」

 

「奏夜は十分過ぎるくらいに基礎体力がありますからね。さ、行きますよ」

 

穂乃果たちが再び階段ダッシュを始めようとしたその時だった。

 

「君たち」

 

奏夜たちに声をかけて来たのは何故か巫女さんの格好をしている副会長こと東條希だった。

 

「あれ?確か東條先輩……でしたよね?どうしたんです?まさか….コスプレ?」

 

「そんな訳ないやん。ここでお手伝いをしてるんよ」

 

「で、ですよねー」

 

奏夜はもしここで肯定されたら逆にどうしようかと思っており、苦笑いをしていた。

 

「神社は色んな気が集まるスピリチュアルな場所やから……」

 

神社は気が集まりやすいというのは奏夜もよく理解していたのだが、奏夜は希に不思議な力があるのか?と疑っていた。

 

「4人とも、ここの階段を使わせてもらってるんやからお参りくらいしていき」

 

確かに練習で階段を使わせてもらっているため、奏夜たちは練習を再開する前にお参りをする事になった。

 

(……さて、何をお願いしようか……)

 

奏夜は一瞬ふざけようかなとも考えたが、海未の制裁が怖いので真面目にお願いすることにした。

 

「初ライブが上手くいきますように!」

 

「「「いきますように!」」」

 

奏夜たちは、これから行われる初ライブが成功するよう祈っていた。

 

神社でお参りを終えた奏夜たちは、練習を再開して、それが終わると4人揃って登校した。

 

奏夜は朝からエレメントの浄化を行わなければならないのだが、実は神社での練習が始まる前にやれる範囲で済ませているため、4人揃っての登校が可能だったのである。

 

奏夜は穂乃果たちと登校する機会はほぼなかったため、一緒に登校できる事を喜びながら学校へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、学校へ到着した奏夜たちはそのまま授業を受けたのであった。

 

この日のとある休み時間。奏夜と穂乃果が出会った赤髪の少女に作曲を依頼するべく1年生の教室に向かった。

 

昨日、その少女に作曲を依頼しようという話をしており、休み時間に1年生の教室に行こうという話も既にしていたのである。

 

何故教室に行こうという話になったのかは、1年生は1クラスだから教室に行けば会えると思ったからだ。

 

「失礼します」

 

穂乃果に続いて奏夜たちも中に入ったのだが、奏夜たちが入るなり教室がざわつき始めた。

 

唐突に上級生が来れば1年生たちがざわついてしまうのは当然のことである。

 

「1年生のみなさん、こんにちは!私はスクールアイドルの高坂穂乃果です」

 

《おいおい。まだグループ名も決まってないのにアイドル名乗っちゃうのかよ……》

 

(そうだな……。それに、教室にいる子たちはみんなキョトンとしてるしな……)

 

キルバはまだ浸透していないにも関わらず、唐突にスクールアイドルを名乗る穂乃果に呆れていた。

 

どうやらそれは奏夜も思っていたようで、苦笑いをしていた。

 

奏夜は周囲を見渡すのだが、どうやら今は探している赤髪の少女はいないようだ。

 

「あれ?全く浸透してない……」

 

「そりゃそうだろ」

 

穂乃果は自分たちがスクールアイドルだと浸透していないことにポカンとしていたのだが、奏夜はそれをよくわかっているため、ジト目でツッコミをいれていた。

 

「いきなりごめんな。ちょっと人を探してて……」

 

奏夜が教室の子達に赤髪の少女の事を聞こうとしたのだが、その前に教室のドアが開き、赤髪の少女が入ってきた。

 

「あっ!あなた!ちょっといい?」

 

「えぇ?」

 

いきなり上級生である穂乃果に声をかけられ、少女ら戸惑っていた。

 

ここだと明らかに目立つので、屋上で話をすることになった。

 

屋上に着くなり奏夜たちは彼女に事情を話して作曲をお願いしたのだが……。

 

「お断りします」

 

少女は一切迷うことなく、奏夜たちの作曲依頼を断っていた。

 

《……やはり断られたか……》

 

(確かに……。何となく断られそうな気はしてたけど、ここまで即答されるとは……)

 

キルバは赤髪の少女がこの話を断る事を予想しており、奏夜はここまで即答されるのは予想外だったので、苦笑いをしていた。

 

「お願い。あなたに作曲して欲しいの」

 

「お断りします!」

 

赤髪の少女は少しだけ語気を強くしており、断固拒否の意思を示していた。

 

「そっか……。悪いな、急にこんな話をして。俺たち、誰も作曲出来なくてな。作曲出来る人を探していたんだよ。君、ピアノは弾けるけど、作曲はてんでダメ……って訳ではないだろう?」

 

「あ、当たり前でしょう!?」

 

赤髪の少女は、奏夜の言葉が癪だったのか、少しだけムッとしていた。

 

「……悪い。気を悪くしたなら謝るよ。ただ俺は確認したかっただけなんだ」

 

「あ……いえ……。だけど私、やりたくないんです」

 

奏夜に悪気がある訳ではないとわかると、赤髪の少女は少しだけしおらしくなっていた。

 

そして、謙虚気味に作曲をする気はない事を伝えたのである。

 

「学校に生徒を集めるためだよ!その歌で生徒が集まれば……」

 

「興味ないです!」

 

それだけ言うと赤髪の少女は屋上から出て行ってしまった。

 

作曲の依頼を断られ、少しだけ気まずい空気があふれていた。

 

「お断りしますなんて……海未ちゃんみたい……」

 

「いやいや、それは言い方が同じだけだろ?」

 

「あれが普通の反応です」

 

「まぁ、あの子自体は廃校については何にも思ってないかもしれないし、興味ないってのは仕方ないかもしれないな……」

 

奏夜は廃校を阻止したいなんて思っているのは自分たちだけなのでは?と悲観的なことを考えてしまい、そんな考えのもとに、現実的な話をしていた。

 

「……せっかく海未ちゃんがいい歌詞を作ってくれたのに……」

 

穂乃果は制服のポケットから1枚の紙を取り出したのだが、それは、海未が考えた曲の歌詞であった。

 

「あっ!ダメです!」

 

海未は読まれるのが恥ずかしかったからか、穂乃果が持っている紙を奪おうとするが穂乃果は必死にそれを守っていた。

 

「何で?曲が完成したらみんなに聞いてもらうんだよ?」

 

「それはそうですが!」

 

穂乃果と海未のやり取りを奏夜とことりは苦笑いをしながら見守っていた。

 

《やれやれ……》

 

そして、キルバはそんなやり取りを見て呆れていた。

 

……その時だった。

 

屋上の扉が開かれると、屋上に入ってきたのはなんと生徒会長である絢瀬絵里だった。

 

「生徒会長。わざわざこんなところに来るなんて、もしかして俺たちに用事ですか?」

 

「えぇ。あなたたちに話があるの」

 

どうやら絵里は奏夜たちに話があるようであり、とあることを語り始めた。

 

その話を奏夜たちは黙って聞いていたのだが、奏夜はその話を聞いて苛立ちを募らせ反論しようとするも、海未に制止されたため、黙って話を聞くことしか出来なかった。

 

そして、話を終えた絵里はそのまま教室へと戻っていき、奏夜たちもとりあえず教室に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

休み時間が終わり、現在は授業中。

 

奏夜は真面目に授業を受けていたのだが、穂乃果は心ここにあらずという感じで窓から見える景色を眺めていた。

 

恐らくは、絵里に言われた言葉を気にしていると思われていたのだが、奏夜はそんな穂乃果が気になっていた。

 

絵里はスクールアイドルを行うのは逆効果であることを言っていた。

 

さらに絵里は、こう話を続けた。

 

『スクールアイドルのいなかったこの学校で、やってみたけどやっぱりダメでしたとなったら……。みんなどう思うかしら……。私もこの学校がなくなって欲しくない……。本当にそう思っているから簡単に考えて欲しくないの……』

 

簡単に思ってるなんて思っていない。

 

奏夜はこう異議を唱えたかったのだが、海未やキルバに制止されたため、言うことが出来なかった。

 

穂乃果たち3人の覚悟は本物だということを奏夜はよく理解していた。

 

そのため、絵里の言葉を気にする必要はないと思っていたが、絵里の言葉を真に受けて落ち込んでいる穂乃果にイライラしていた。

 

「私……ちょっと簡単に考え過ぎてたのかも……」

 

「やっと気付いたのですか?」

 

そして昼休みになると奏夜たちは中庭で食事を取ろうとしていたのだが、話は自然と生徒会長との話のことになっていた。

 

「でも、ふざけてやってた訳じゃないよ。海未ちゃんのメニュー、こなしているし……おかげで足は筋肉痛だけど……」

 

「確かに……頑張っているとは思いますが……。生徒会長が言ったことはちゃんと受け止めなくてはいけません」

 

「そうだよね……。あと1カ月もないんだもんね……」

 

「ライブをやるにしても、歌う曲くらいは決めておかないと……」

 

「まぁ、紬さんに作曲を依頼すれば何とかなるとはなるとは思うが、出来れば自分たちの力でやりたいよな……」

 

桜ヶ丘高校軽音部で作曲を担当していた紬に頼れば簡単に作曲の問題は解決するのだが、それをするのは甘えだと奏夜は考えていたため、それはしたくないと考えていた。

 

「そうですね……。ですが、今から他の作曲者を探すのは難しいでしょうね。だから曲は他のスクールアイドルの曲を使うしかありませんね……」

 

「そうだよね……」

 

「うん……」

 

奏夜はあまりテンションが低くなっている穂乃果たちに苛立ちを隠せなかった。

 

そして、我慢出来なくなった奏夜は口を開こうとしたのだが……。

 

『やれやれ……。あのお嬢ちゃんに言われたことを真に受けて落ち込むとは……。お前らのアイドルをやりたいという気持ちはそんなものだったんだな』

 

「「「っ!?」」」

 

キルバの放った言葉はとても厳しいものであり、穂乃果たちはその言葉に反論する事が出来なかった。

 

「……悪いが、俺もキルバと同意見だ。本気でスクールアイドルをやりたいと思うなら、誰になんと言われようとそんなものを跳ね除けてやる必要がある」

 

「そーくん……」

 

「キルバ……」

 

「それに、俺たちは今自分たちにやれることを自分たちのペースでやればいいんだよ。それに、作曲の件だって俺は諦めた訳じゃないぞ」

 

「ですが、あれだけ拒否反応を示されては厳しいのでは?」

 

「そこは俺に任せてくれないか?お前らは曲の完成に備えて基礎体力をつけることに集中して欲しいんだよ」

 

実際にパフォーマンスをしない奏夜だからこそやらねば。そんな気持ちが奏夜を突き動かしていた。

 

「うん……ありがとね……そーくん」

 

「私たちにハッパをかけてくれる言葉を言ってもらい……感謝してます!」

 

「本当にありがとね、そーくん♪」

 

穂乃果、海未、ことりの3人は、口々に奏夜とキルバに礼を言っていた。

 

「気にするな。俺はお前ら3人のマネージャーだからな。そんなお前らのやる気を引き出すのも俺の仕事さ」

 

奏夜は実際にパフォーマンスをする訳ではなく、ただ優しく励ますだけが穂乃果たちのためになるとは思っていなかった。

 

時には厳しい言葉を投げかけて3人のやる気を引き出すのも、マネージャーとしてやるべきことだと奏夜は自覚している。

 

時には優しく。時には厳しく。

 

自分もこのスタイルで魔戒騎士として鍛えてもらったため、穂乃果たちを一人前のスクールアイドルにするためにこのスタイルを貫くつもりだった。

 

「さてと……。目安箱に何か入ってないもしれないしな。ちょっと見に行ってくるよ」

 

奏夜はゆっくりと立ち上がると、ライブのお知らせのポスターが貼ってある場所へと移動を開始した。

 

そこに、穂乃果たちの名前を募集するための目安箱もそこに設置してるからである。

 

「あっ!穂乃果も行く!!」

 

穂乃果も奏夜について行く意思を伝えると、慌てて奏夜を追いかけていった。

 

奏夜は穂乃果と共にポスターと目安箱がある場所へと到着し、奏夜が目安箱の中身を見ようとしたその時だった。

 

「練習、頑張ってる?」

 

ヒフミトリオの3人が奏夜と穂乃果に声をかけてきた。

 

「おう、ヒフミトリオ。どうしたんだ?」

 

「アハハ……。ライブで何か手伝えることがあったら言ってね。奏夜くんだけじゃ大変だろうし」

 

相変わらず奏夜は3人をヒフミトリオと呼んでおり、短いツインテールが特徴のミカは苦笑いをしていたが、奏夜たちをサポートする旨を伝えていた。

 

「照明とかお客さんの整理とかやらなきゃいけないことは多いからねぇ」

 

「えっ、本当に?」

 

「うん。だって穂乃果たちは学校のために頑張っているんだし」

 

「クラスのみんなも応援しようって言ってるよ」

 

(……良かったな、穂乃果……)

 

こうやって自分たちのことを応援してくれる人がいる。

 

これだけでも穂乃果には大きな励みとなった。

 

「……そうなんだ……ありがとう……」

 

「それじゃあ頑張ってね」

 

「うん♪バイバイ!」

 

俺たちはヒフミトリオを笑顔で見送った。

 

「……友達ってのは何かいいな」

 

「うん!穂乃果もそう思う!」

 

穂乃果の表示も明るくなり、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

いつもはまるで太陽のように明るい穂乃果に暗い顔は似合わない。奏夜はそう思っていたのである。

 

「さて、グループ名。なんか入ってればいいな」

 

「うん!」

 

穂乃果はニコニコしながら目安箱を開けたのだが……。

 

「そーくん!入ってたよ、一枚!」

 

「本当か?」

 

まさか、本当に入ってるとは思ってなかったのか、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「ねぇねぇ、そーくん!早くみんなに見せに行こうよ!」

 

「穂乃果。わかったから引っ張るなって」

 

奏夜は穂乃果に引っ張られる形で海未とことりが待つ教室へと向かった。

 

「海未ちゃん!ことりちゃん!一枚入ってたよ!」

 

穂乃果は教室に入るなり箱の中に一枚だけ入っていたことを2人に報告した。

 

「入ってたの?」

 

「本当ですか?」

 

「うん!ほら、これがそうだよ」

 

穂乃果は一枚の紙を2人に見せていた。

 

変な意見じゃなければいいのだが……。

 

そんなことを考えていた奏夜は、期待と同時に不安を抱いていた。

 

穂乃果はさっそくその紙を開いてみると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには「μ's」と書かれていた。

 

「これってゆーず?」

 

「いやいや、ミューズだろ」

 

「あぁ、穂乃果知ってる!石鹸の……」

 

「違うだろ」

 

穂乃果はボケて言ってるのか本気で言ってるのかは分からなかったが、奏夜はジト目で穂乃果を見ていた。

 

《……おい、奏夜。確か、ミューズといえば、神話に出てくる芸術を司る女神のことだ》

 

(へぇ、芸術の女神ねぇ……)

 

キルバはミューズの意味を理解しており、奏夜は感心していた。

 

「……ミューズって、芸術を司る女神のことみたいだぞ」

 

テレパシーでキルバが言っていたことを、奏夜は穂乃果たちに伝えていた。

 

「芸術の女神……ですか……」

 

「へぇ、そーくん!物知りだね!」

 

「いや。俺じゃなくてな……」

 

奏夜はチラッとキルバに視線を向けると、穂乃果たちは先ほどはキルバの言ったことだと理解していた。

 

「いいと思う♪ことりは好きだよ♪」

 

「えぇ!私も良いと思います!」

 

「うん!今日から私たちは…μ'sだ!」

 

どうやら穂乃果たちはこのμ'sという名前が気に入ったようであり、グループ名はμ’sに決まった。

 

奏夜もこの名前は悪くないと思っており、これを誰が書いたのかは気になっていたが、今はそれを考えるのはやめた。

 

絵里に厳しい言葉を言われてしゅんとしていた3人だったが、そんな暗い気持ちはどこかへと吹き飛んでしまっていた。

 

今は俺に出来ることを全力でやろう。

 

そう考えた奏夜は、放課後になったら行動を開始しようと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後になり、基礎体力をつけるためのトレーニングをするために神田明神へ向かった穂乃果たちを見送った奏夜は再び1年生の教室へと向かった。

 

教室の中を覗くと赤髪の少女の姿はなかった。

 

(……まさかもう帰っちゃったか?それとも……)

 

《あぁ。音楽室にいる可能性は高いかもな》

 

奏夜とキルバはテレパシーで会話をしながら赤髪の少女の場所を推察していたのだが……。

 

「あっ、あの……」

 

オレンジのように明るい髪で眼鏡をかけた大人しそうな少女が奏夜に声をかけていた。

 

「ん?どうしたの?」

 

「あの、先輩は西木野さんを探しているんですよね?ピアノが上手な……」

 

「へぇ、あの赤髪の子は西木野さんって言うんだな」

 

「はい、そうです。…西木野真姫(にしきのまき)さん」

 

奏夜はここで赤髪の少女の名前を知ることが出来て、思わぬ収穫に喜んでいた。

 

「そうなんだよね、ちょっと彼女に用事があってさ…」

 

「多分西木野さんなら音楽室じゃないですかぁ?」

 

今度はショートヘアの少女が奏夜に話しかけてきた。

 

(やっぱり音楽室か……。そんな気はしていたが……)

 

《そうだな……。あのお嬢ちゃんは普段から音楽室にいる事が多いんじゃないのか?何となくではあるが、仲の良い奴がいなさそうだしな》

 

(おい、キルバ!さすがにそれは失礼だろ!)

 

キルバが赤髪の少女……真姫に失礼なことを言っており、奏夜がそれをなだめるのだが……。

 

「あの子、あまりみんなと話さないんです。休み時間はいつも図書館だし、放課後は音楽室だし」

 

(……ま、マジかよ!本当に仲の良い奴がいないのか?)

 

《やはりな……。あのお嬢ちゃんはあれだけツンデレなんだ。そうなのも納得だ》

 

どうやら真姫は上手く他人と溶け込めないタイプのようであり、キルバは真姫のそんな一面を見抜いていた。

 

「そうなんだ……。2人ともありがとな!」

 

奏夜は2人に礼を言って音楽室に向かおうとするのだが……。

 

「……あっ、あの!!」

 

眼鏡の少女に呼び止められてしまい、奏夜は足を止めた。

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「せ、先輩ってもしかして、この学校に出来たスクールアイドルのマネージャーさん……ですよね?」

 

「あぁ、そうだぞ」

 

自分が穂乃果たち3人……μ’sのマネージャーであることは隠し立てする必要のないことなので、奏夜はあっさりと答えていた。

 

「あ、あの……。頑張ってくださいね……。アイドル……」

 

「あぁ、ありがとうな。そう言ってくれると嬉しいよ。……えっと……」

 

「あっ、私は小泉花陽です……」

 

「凛は星空凛です♪よろしくお願いしますにゃ♪」

 

「花陽ちゃんに凛ちゃんね。俺は如月奏夜。2人ともよろしくな」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします…。如月先輩…」

 

「そーや先輩♪よろしくだにゃ♪」

 

《……おい、何なんだ?何故このお嬢ちゃんは語尾に「にゃ」などと猫みたいなことを……》

 

(まぁまぁ。そういう人がいてもおかしくはないだろ)

 

キルバだけではなく、奏夜も凛の語尾が気になってはいたのだが、そういう人もいると悟り、キルバをなだめていた。

 

「とりあえず、2人ともありがとな。それじゃ!」

 

奏夜は2人に礼を改めて言うと今度こそ音楽室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が音楽室にたどり着くと、赤髪の少女、西木野真姫は、やはりピアノを弾いていた。

 

そのピアノの技術はかなりのものであり、奏夜はそんな真姫のピアノに聴き入っていた。

 

そして最後まで真姫のピアノを聴いた奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべながら拍手を送っていた。

 

「ゔぇぇぇ……」

 

奏夜が聴いているとは思っていなかったのか、真姫は再び独特な声をあげて驚いていた。

 

そこを気にすることをせず、奏夜は音楽室の中に入った。

 

「相変わらず上手いな。本当に凄いよ」

 

「あっ、当たり前でしょ!そんなことを言うためにわざわざ来たんですか?」

 

《相変わらずツンデレだな……》

 

(アハハ……そうかもな……)

 

真姫のツンツンした発言を聞き、キルバはやはり真姫がツンデレでと予想していたのだが、それを聞いた奏夜は苦笑いをしていた。

 

「まぁ、本題は作曲についてなんだけどさ」

 

「しつこいですね」

 

「まぁ、そう言われちゃ何も言えないかな」

 

自分でもしつこいということは自覚していたため、奏夜はそう言われてしまうと、反論することは出来なかった。

 

「……それに私、ああいう曲一切聴かないんです。聴くのはジャズとかクラシックばかりで」

 

ジャズとクラシックばかり聴いていると聞き、奏夜はイメージ通りだなと考えて苦笑いをしていた。

 

「へぇ、それはどうしてなんだ?」

 

イメージ通りであると考えているが、何故アイドルの曲を聴かないのか一応理由を聞いてみることにした。

 

すると……。

 

「軽いからよ!」

 

「軽い……ねぇ……」

 

奏夜は真姫の言葉に反論することはなく、ジッと真姫の話を聞いていた。

 

「なんか薄っぺらくて……。ただ遊んでる風にしか見えないのよ」

 

「……なるほどな……。だけど、本当にそうなのか?」

 

「な……何が言いたいのよ!」

 

「まぁ、そんなイメージを持つのは仕方ないし、勝手だけどさ、アイドルって意外と大変なんだよ。予想以上に体力を使うしな」

 

「……そうなんですか?」

 

「まぁな。いきなりで悪いんだが、腕立て伏せをやってみてくれないか?……出来るよな?」

 

「んな……!当たり前でしょ!」

 

奏夜は真姫を焚き付ける形で腕立て伏せをさせていた。

 

真姫は制服のブレザーを脱いで腕立て伏せを始めたが、穂乃果よりも出来ていた。

 

「こ、これでいいの?」

 

「へぇ、それなりに出来るじゃないか」

 

「あっ、当たり前でしょ?」

 

少し腕立て伏せが出来ただけなのだが、真姫は何故か誇らしげにドヤ顔をしていた。

 

「それじゃあ、次は笑顔を保ったまま続けてみてくれ」

 

「ゔぇ!?」

 

今度は笑顔で腕立て伏せを始めたが、予想通り長くは持たなかった。

 

「急にこんなことやらせてごめんな。だけど、これでわかっただろ?アイドルは大変だってさ」

 

「な、何のことよ?」

 

「それでな。今度やる曲の歌詞だけは出来てるんだよ。それを一度君に見て欲しいんだ」

 

奏夜はポケットから海未から預かった歌詞が書いてある紙を真姫に差しだそうとした。

 

「だ、だから私は……」

 

「読むだけだったらいいだろう?また改めて聞きに来るよ。もちろんそれでダメならきっぱりと諦める」

 

奏夜は半ば強引に歌詞の書かれた紙を真姫に手渡していた。

 

「……答えが変わることはないと思いますけど……」

 

「その時はその時だよ。……だけど、またピアノを聴かせてくれよな。放課後はよく音楽室に来てるんだろ?」

 

「えぇ、まぁ……」

 

「……それにな。西木野さん……だっけ?君のピアノを聞いてると、なんでだろうな……。ここじゃない高校に通ってた先輩のことを思い出したんだよ」

 

「先輩……ですか?」

 

「あぁ。その先輩たちはお世辞にもプロ並に上手い演奏をする訳じゃない。だけどさ、演奏をしてる時は凄く楽しそうでキラキラしてるんだよ……」

 

「……」

 

奏夜の語る先輩というのはもちろん統夜のことであり、統夜たちのバンドである「放課後ティータイム」の演奏を聴いた時のことを思い出しながら、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

真姫はとても優しい表情になっている奏夜の顔をジッと見て、話を聞いていた。

 

「……まぁ、曲の感じは全然違うんだけどな」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。……こんなことを言うのはあまり良くないのかもしれないけど、君のピアノはなんとなく悲しさとか寂しさとかそんな感情が伝わってきたんだよね」

 

「!!」

 

まさか自分がピアノを奏でている時の心情を悟られるとは思っていなかったので、真姫は驚きのあまり目を見開いていた。

 

「……だからさ、俺はまた君のピアノが聞きたいよ。……心から演奏を楽しんでる君の演奏をね……」

 

「あ……」

 

奏夜の言葉は苦言と言えなくはないが、自分にここまでのことを言ってくれる人と出会うのは初めてだったため、真姫はそんな奏夜の言葉に心を打たれていた。

 

「……あ、そうそう。俺たち毎日朝と夕方に神田明神で練習やってるんだ。気が向いたらでいいからさ、顔を出してくれよ。それじゃあな」

 

奏夜は言いたいことを全部言ってすっきりしたのか、音楽室を後にしようとしたのだが……。

 

「あっ、待って!!」

 

真姫は奏夜を引き止めたので、奏夜はすぐに足を止めていた。

 

「……ん?どうした?」

 

「あなた……。名前は?」

 

「俺か?俺は如月奏夜。よろしくな、西木野さん」

 

「……ふ、ふん!」

 

真姫は素直によろしくと答えるのが恥ずかしかったのか、頬を赤らめながらそっぽを向いていた。

 

「やれやれ……」

 

真姫のツンデレな対応に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「……ま、そういうことで、またな。西木野さん。またピアノを聴かせてくれよ」

 

奏夜は今度こそ音楽室を後にするとトレーニングを行なっているであろう穂乃果たちと合流するために神田明神へと向かった。

 

「……如月先輩……か」

 

音楽室を出て行く奏夜を見送ると、真姫は奏夜の名前をボソッと呼んでいた。

 

自分の心情をあそこまで見透かした人間とこれまで出会ったことはないため、奏夜のことが少しばかり気になったのである。

 

しかしそれは奏夜に恋をしているとかそういう訳ではなく、ただ気になるといった感じであった。

 

それだけではなく、奏夜の放つ他の人とは違う異様な雰囲気が気になっていた。

 

「……あれ?如月先輩みたいな雰囲気の 人に昔会ったことがあるような気がするんだけど……。誰だったかしら?」

 

真姫は奏夜と似た雰囲気の人物に会ったことがあるのだが、それが誰なのかまでは思い出せなかった。

 

どれだけ考えても思い出せなかったので、真姫はそのまま音楽室を後にして家路についたのだが、近い将来にその人物と再会を果たすことになる。

 

そうなるなど、真姫は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。奏夜の説得は振るわなかったみたいだな……。あいつらの曲はどうなるのやら……。次回、「始走」。これがあいつらのスタートダッシュって訳だな!』

 

 




真姫可愛いよ、真姫。

僕は穂乃果推しですが、真姫も好きなのです(笑)

それはともかくとして、穂乃果たち3人のグループ名が「μ's」となりました。

グループ名も決まり、後は曲が決まれば本格的に動き出すことが出来るのですが、次回、奏夜たちの曲は無事に完成するのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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