最近仕事の方が忙しく、なかなか小説を書く時間が取れませんでした。
まぁ、小説を書く時間が取れなかったのは、FF14に夢中になってたのも1つなんですが……(笑)
さて、前回穂乃果がμ'sに復帰し、物語は一気に進んでいきます。
これからのμ'sはいったいどうなってしまうのか?
それでは、第52話をどうぞ!
μ's結成当初から奏夜たちを支えてくれたヒフミトリオの3人のおかげで穂乃果は自分の本当の気持ちに気付き、μ'sに戻る決意を固めた。
穂乃果は奏夜にその旨を伝えると、最初は厳しい言葉で拒絶されるものの、穂乃果の覚悟が本物だと知ると、奏夜は心から穂乃果の復帰を歓迎していた。
その日の放課後、奏夜は穂乃果を連れてアイドル研究部の部室を訪れていた。
穂乃果の復帰を報告するためである。
「……ね、ねぇ、そーくん……。本当に部室に行かなきゃダメかな?」
1度は辞めてしまった手前、穂乃果はとても気まずそうにしていた。
「当たり前だろ。まずはみんなに穂乃果の復帰を報告しなきゃ」
「そ、それはそうだけど……」
「大丈夫だ。みんなは絶対に穂乃果の復帰を歓迎してくれる。この俺が保証するよ」
奏夜は不安そうにしている穂乃果を安心させるために、優しい口調で穂乃果をなだめていた。
それで穂乃果は少しは安心したからか、笑みが戻っていた。
穂乃果が安心したところで、奏夜は穂乃果を連れてアイドル研究部の部室へと入っていった。
「……よう、みんな。いるか?」
奏夜はこう挨拶をしながら部室の中に入り、穂乃果もそれに続いていた。
現在部室には今も活動を続けている1年生組とにこがおり、それだけではなく、絵里と希。さらには剣斗も一緒だった。
「待ってたわよ。奏……夜……」
にこは奏夜の方を見るのだが、穂乃果の姿も見えたため、思わず固まってしまった。
「あ……!」
「穂乃果ちゃん!」
そして、凛と花陽は戻ってきた穂乃果を見て、表情が明るくなっていた。
それは2人だけではなく、絵里と希の表情も明るくなっており、剣斗はウンウンと頷きながら奏夜と穂乃果を歓迎していた。
「あっ、あのね……。みんな……」
穂乃果はオドオドしながらも、自分の思いを伝えようとしていた。
「ごめんなさい!スクールアイドルを辞めるだなんて言っちゃって!」
穂乃果は素直な言葉をぶつけ、頭を下げて謝罪をしていた。
「言っちゃいけないことを言ったのはわかってる!許されないことをしたのもわかってる!だけど、私は自分の歌や踊りを多くの人に伝えたいの!だから、私をもう一度μ'sのメンバーにして下さい!」
穂乃果のまっすぐな言葉を聞き、ここにいる全員は戸惑いを見せながらも穂乃果の復帰を喜んでいた。
……ただ1人を除いては。
「信用出来ないわね。あなたはスクールアイドルを辞めたのよ。頑張ったってA-RISEには敵いっこないって言ってね」
花陽以上にアイドルに対して情熱と憧れを持っているにこは、鋭い目付きで穂乃果を睨みつけていた。
にこは穂乃果がスクールアイドルを辞めた時もその時の言葉を許せなかったため、それが尾を引いていると思われる。
「あんたのスクールアイドルに対する思いは適当なものじゃない。そんな奴が戻ってきても迷惑なだけなんだけど」
「にこちゃん!流石にそれは言い過ぎだよ!」
「そうよ!にこちゃんだって穂乃果に戻って来て欲しいでしょ?」
にこの厳しい言葉に、花陽と真姫は異議を唱えていた。
「にこちゃん!私は!」
「……穂乃果」
穂乃果は自分がいい加減な気持ちでμ'sに戻りたいということを伝えようとするが、奏夜になだめられていた。
「……にこ。言っておくが、穂乃果の覚悟は本物だぞ」
奏夜は穂乃果に代わって、穂乃果が本気であることを伝えていた。
「何で奏夜がそうだと言い切れるのよ!」
「俺はさっきのにこみたいなことを言って、穂乃果の覚悟を確かめたからな。穂乃果が本気だからこそ俺は穂乃果をここに連れて来たんだ」
「……」
奏夜の言葉には説得力があったのだが、にこはそれでも納得していなかった。
「……にこ、1度裏切られたことのあるお前が穂乃果のことを許せないのはよくわかる。だけど、穂乃果はそれを背負ってまたスクールアイドルとして頑張ろうって思っているんだ」
「奏夜……」
「だから、マネージャーである俺に免じて穂乃果の復帰を認めてくれないか?頼む!」
奏夜は真剣な表情でにこに語りかけると、にこに対して頭を下げていた。
奏夜はそこまでしてでも穂乃果をμ'sに復帰させたいと思っていたからである。
「あ、あんた……」
ここまでのものを見せられると、流石ににこの心も動いたようであり……。
「……仕方ないわね。あんたがそこまでのことをしたら認めざるを得ないじゃないの……」
「にこちゃん……!」
にこは渋々穂乃果の復帰を認めるような口ぶりだったが、その表情は穏やかなものであった。
そんなにこを見て、穂乃果は安堵の表情を浮かべていた。
「でも、私はまだ完全に許した訳じゃないんだからね!穂乃果が本気なのかどうか……。これからしっかり見せなさい!」
「うん!もちろんだよ!」
こうして、1番穂乃果の復帰に反対していたにこも認めたことにより、穂乃果は事実上μ'sに復帰したのであった。
「……ハラショー♪」
「これで1つ、一件落着やな♪」
絵里と希は大きな問題が1つ解決したことを感じ取り、安堵していた。
そして剣斗もまた、穂乃果が戻って来たことに喜び、笑みを浮かべていた。
「フッ……。だったら、こいつはもう必要あるまい?」
そう言いながら、剣斗は1枚の紙を取り出した。
その紙を見た穂乃果は、驚きのあまり目を丸くしていた。
「それは、私の書いた退部届!小津先生、受け取ったはずじゃ……」
それは穂乃果が書き、剣斗に提出した退部届の用紙であった。
「うむ。受け取ったぞ。厳密に言えば受け取っただけだな」
どうやら剣斗は退部届の用紙を穂乃果から受け取ると、そのまま自分の机の棚にしまっていたのである。
「私は穂乃果が戻ってきてくれると信じていたからな。だから私は穂乃果の退部届を受理しなかったのだよ」
「小津先生……」
「やれやれ……。そんなことだろうと思ったよ」
剣斗がこのような行動を取ることは予想していたため、奏夜は苦笑いをしていた。
剣斗の粋な計らいのおかげで、穂乃果はアイドル研究部を辞めた訳ではなく、休んでいた扱いとなったのであった。
「こんなものは、こうしてしまおう」
剣斗は必要なくなった退部届をビリビリと破いており、細かく破くと、近くのゴミ箱にそれを捨てていた。
「さて……。穂乃果、μ'sに戻ってきたお前にやってもらわなきゃいけないことがある」
「やってもらいたいこと?」
「ああ。海未やことりとの仲直りだ」
「……」
奏夜の言葉を聞いた穂乃果の表情が一気に暗くなっていた。
「海未とはμ'sを辞めちまった手前、気まずくなっただけだと思う。だけど、ことりとはしっかり仲直りするべきだ」
「でも、穂乃果は……」
穂乃果は海未はともかくとして、ことりに合わせる顔はないと思っていたため、表情が暗くなっていた。
「お膳立てはしてやる。だから、お前は自分の今の気持ちを素直に伝えればいい」
「う、うん……」
「ま、まずはサボってた分、しっかり練習しないとな」
こう言い残すと、奏夜は部室を後にしようとしていた。
「奏夜君、どこに行くの?」
すかさず花陽が奏夜のことを引き止めていた。
「実はな、この後ことりの家に行く事になってるんだ」
「え!?そうなの!?」
奏夜がこれから行こうとしている場所が意外な場所だったため、凛は驚いていた。
「俺もことりと話をしたいと思ってたしな。この後海未と合流して行く事になってるんだよ」
「そう……なんだ」
未だに海未やことりとギクシャクしている穂乃果は、奏夜の話を聞いて少し複雑そうにしていた。
「心配するな。俺は必ずお前と海未やことりと仲直りをさせてみせる。穂乃果は今やれることをやっておいてくれ」
「う、うん……。わかった……」
奏夜は穂乃果を安心させるためにこうなだめていた。
「さてと、海未を待たせる訳にもいかないし、俺はもう行くな」
「奏夜君、行ってらっしゃい!海未ちゃんやことりちゃんによろしくね」
「わかった」
こうして奏夜はアイドル研究部の部室を後にすると、そのまま校門まで移動した。
そこで海未と待ち合わせをしているからである。
「……海未!待たせたな!」
奏夜が校門に到着すると、すでに海未が待っていた。
「あっ、いえ。私も今来たところですから」
「そっか」
海未が本当に先ほど来たばかりなのかはわからなかったが、奏夜はそこを追求することはしなかった。
「とりあえず、行こうか」
「そうですね」
奏夜と海未は合流するなり、目的地であることりの家へと向かった。
奏夜と海未はことりが留学する前に1度きちんと話をしようと言っていたのだが、それが今日になってしまった。
ことりの家へと向かう途中、互いの近況について話をしていたが、穂乃果がμ'sに復帰した話はまだ伏せていた。
穂乃果との仲直りの話を持ちかける時にその話をしようと考えていたからである。
そして、海未もまた、奏夜から穂乃果のことを聞き出そうとしていたが、あえてそれをしなかった。
海未もまた、奏夜の口から穂乃果の話をしてもらいたいと考えていたからである。
こうして互いの近況を話しているうちに、2人はことりの家に到着したのであった。
奏夜がインターホンを鳴らすと、出てきたのはことりの母親でもある理事長であった。
「あら、いらっしゃい。ことりに会いに来てくれたのね?」
理事長は穏やかな表情で、奏夜と海未のことを歓迎してくれていた。
「えぇ。ことりはもうすぐ留学ですよね?顔を見ておきたくて」
「そう……。とにかく上がってちょうだたい。あの子も喜ぶわ」
「はい、お邪魔します」
「お邪魔します」
奏夜と海未はペコリと理事長に一礼をしてから靴を脱ぎ、そのまま家の中に入っていった。
海未は何度もことりの家を訪れたことがあるからか慣れた様子で階段を上がっていき、奏夜はそれについて行った。
階段を上がり、少し進むとことりの部屋に到着したため、海未はコンコンとドアをノックする。
すると、「は〜い♪」とことりの声が聞こえ、部屋の扉が開かれた。
「あ、海未ちゃん!そーくん!いらっしゃい!」
「悪いな、ことり。留学準備で忙しいところを」
「うぅん。もう準備は落ち着いたから大丈夫だよ。さ、入って入って♪」
ことりに促されながら奏夜と海未はことりの部屋に入った。
「「……」」
ことりの部屋の雰囲気は女の子らしい部屋といった感じなのだが、どこ殺風景だった。
留学準備をしているからかいくちもダンボールか置かれており、それがより殺風景さを際立たせていた。
そんなことりの部屋を見て、奏夜と海未の表情が一瞬だけ暗くなるのだった。
「ねぇ、最近μ'sのみんなはどうしてるの?活動を休止したって聞いたから心配で……」
「ああ。確かに活動は休止したけど、なんとかやってはいるよ。1年生組とにこが残って頑張ってる。絵里と希は生徒会の仕事もあるからそっちに行ってるかな」
奏夜はあえて穂乃果が復帰したことは話さず、μ'sの近況をザックリと説明していた。
《なぁ、奏夜。さっきから気になっていたのだが、何故穂乃果の復帰をそこまで隠すんだ?真っ先に話しても良いものを……》
(確かにそうかもな。だけど、まだ伏せておいた方がいい気がしたんだよ。なんとなくだけどな)
《やれやれ……。なんだそれは……》
奏夜が穂乃果の復帰を伏せているのはそこまで大それた理由ではないと知り、キルバは少し呆れていた。
「そう……なんだ……」
ことりは自分のせいでμ'sが活動休止になってしまったと思っているからか、申し訳なさそうな表情をしていた。
「それで、海未ちゃんは残らなかったんだね」
「はい……。スクールアイドルを続けたいという気持ちはわかります。ですが、私がスクールアイドルを始めたのは、穂乃果やことり。それに奏夜が誘ってくれたからです」
「……ごめんなさい……」
ことりは海未が自分のせいでスクールアイドルを辞めてしまったと感じてしまい、悲痛な表情で海未に謝罪していた。
「あっ、いえ……。誰かのせいにするつもりはないんです」
海未はことりの気持ちを察したからか、慌てて弁解をしていた。
「ことり、心配すんな。海未はただ、気持ちを整理する時間が欲しかったんだろ?それに、そう決めたのは自分の意思だもんな?」
「はい。奏夜の言う通りです」
海未が自分のせいでスクールアイドルを離れた訳ではないと知ったことりは、少しだけ安堵していた。
「ところでことり。あれから穂乃果とは?もうすぐ日本を発つんですよね?」
「……」
その話は触れられたくないからか、ことりは再び悲痛な表情を浮かべていた。
「ことり、本当に留学してしまうのですか?私は……」
海未は小さい頃から一緒だったことりと離ればなれになりたくはないのだが、「行かないで欲しい」と言葉を続けることは出来なかった。
「無理だよ、今からなんて……」
「そう……ですよね。ごめんなさい……」
ことりとしても今更留学の話を白紙にするなど出来る訳がないため、こう答えているのだが、それを聞いた海未はさらに申し訳なさそうにしていた。
そのため、少しばかり空気が重苦しいものになってしまった。
そんな中……。
「……ことり。お前は留学する前に穂乃果に会うべきだ」
奏夜は穂乃果とことりが仲直りするためのお膳立てをする為にこのような提案を持ちかけていた。
「そーくん……」
「今穂乃果に会うのは気まずいのはわかる。だが、このまま会わずに留学してしまったら、一生後悔することになると思うぞ」
「わかってる……。わかってるけど……」
奏夜の言っていることをことりは理解していた。
しかし、そうしようという勇気は持てなかったのである。
「そうか……。わかったよ」
奏夜もまた、ことりの心情を理解しているため、これ以上この話を延ばすことはしなかった。
(仕方ない……。こうなったらこの手を使うしかないか……。大きな賭けになっちまうけど……)
奏夜は穂乃果とことりを仲直りさせる策があるみたいなのだが、それはとても大きなリスクのあるものみたいだった。
《おいおい、大きな賭けって言うが、何をするつもりなんだ?》
(まぁ、見ててくれ。μ'sのみんなのためにも必ず成功させてみせるから)
奏夜はμ'sのために穂乃果とことりを仲直りさせるつもりなのだが、それ以上の何かを企んでいるみたいだった。
《まぁ、お前のやりそうなことだ。だいたい察することは出来るが、見守っててやるよ。俺はお前の相棒だからな》
(ああ。そうしてくれると助かるよ、キルバ)
奏夜とキルバはテレパシーにてこのような会話をしていたのであった。
「なぁ、ことり」
「何?そーくん」
「俺はな。やっぱりことりには行って欲しくないって思ってるんだよ」
「さっきも言ったけど、私は……」
「まぁまぁ、皆まで言うな。それはわかってるから」
留学の話はもう覆せないことを理解していた奏夜はこのようにことりをなだめていた。
「だけどな、ことりに1つ聞いておきたいことがあるんだ」
「聞いておきたいこと?」
奏夜が今更自分に何を聞きたいのか理解出来なかったことりは首を傾げていた。
そして……。
「……ことり。留学に行くっていうのは、本当にお前の本心なのか?」
「!?」
奏夜は留学行きの核心を突いた話を切り出しており、そのことにことりは驚愕していた。
「そ、奏夜!それは流石に本心なのでは?」
「だって考えてもみろ。ことりは留学のことを穂乃果に相談するつもりだったろ?だけど、あの時の穂乃果は学園祭ライブしか見てなかった。その結果、あんなことになり、ことりは穂乃果に相談出来ず渋々留学行きの決断をした」
「……」
奏夜の推測が当たっているからか、ことりは俯き、黙ってしまった。
「ことり。もし穂乃果が行かないでくれって言ったら、留学の話を断るつもりだったんじゃないのか?」
「!?」
奏夜の推測を聞き、ことりは再び驚いていた。
それは、奏夜の話が図星だからと思われる。
「なぁ、ことり。聞かせてくれ。お前の本心って奴を」
「……」
このように問いかけられると、ことりは何て答えていいのかわからず、俯いた状態で黙ってしまった。
「奏夜……ことり……」
そして、海未はそんな2人にかけられる言葉はなく、ただジッと2人のやり取りを見守っていた。
そんな中……。
(やっぱり奏夜は凄いです……。私じゃどうしても聞き出せないことをここまでズバズバと……。そんな奏夜の力があったからこそ、穂乃果はμ'sに戻ってきたんでしょうね……)
海未は、心の中でことりの本心を遠慮なく聞き出そうとしていることに驚いていた。
それは、自分の性格上出来ることではないからである。
それだけではなく、そんな奏夜の力強さが穂乃果の復帰に繋がったと確信していたのだった。
「……ことり……。ことりは……」
ことりはどうにか自分の気持ちを語ろうとしていた。
そして……。
「本当に留学したいって思ってるよ」
「……」
ことりの口から告げられた言葉に奏夜は表情を一切変えず、ことりの話をジッと聞いていた。
「だって私は本当に服飾の仕事をしたいって思ってるし、私の……夢だもん……」
このようにことりは本心を語るのだが、その時に唇が震えていることを奏夜は見逃さなかった。
(ことり……お前……)
そうではあるのだが、奏夜はことりに何て声をかければいいのかわからなかった。
しかし……。
(そうか……。そういうことだったんだな……)
奏夜はことりの隠している本心を感じ取り、一瞬だけ笑みを浮かべていた。
《?奏夜、どうしたんだ?》
(いや、今はこれ以上追求することは得策じゃないって思っただけだよ)
《なるほどな。それじゃあ、俺からも何か言ってやるとするか》
ここへ来てからキルバは一言も喋っていないため、キルバはことりに何かメッセージを送ることにした。
『ま、お前の本心はわかった。留学がお前の夢なら全力で追いかけるといい。俺は応援するぞ』
「キー君……」
『ったく……。お前って奴は……。まぁ、いいだろう』
本来ならばキー君という呼ばれ方は気に入らないためそれを否定するところだったが、あえてそれは伏せることにしていた。
「さてと……。ことりの本音も聞けたことだし、そろそろお暇させてもらおうかな」
「あっ、私も一緒に帰ることにします」
「今日は来てくれてありがとね。そーくん、海未ちゃん」
こうして、奏夜と海未はことりの家を後にすることになり、ことりは少しだけ儚げな笑顔でそれを見送っていた。
そのまま2人は帰路につこうとしたのだが……。
「……奏夜。この後少しいいですか?奏夜と少し話をしたいのです」
海未がすぐにこのような提案をしてきたのであった。
「奇遇だな。俺も海未と話をしたいと思っていたんだよ」
「そうでしたか……」
海未はこのように提案しても奏夜に断られるのではないかと不安になっていたが、奏夜は断るどころか自分も話をしたいと言ってくれた。
そのことが海未は嬉しかったからか、笑みを浮かべていた。
「それでは、あそこで話をしませんか?」
ちょうど2人は公園の近くを通り過ぎようとしていたため、その公園で話をすることにした。
「そうだな」
奏夜は断る理由がないため海未の提案を受けると、その公園の中に入り、近くにあったベンチに腰を下ろした。
「……あっ、あの……。奏夜……」
「ん?どうしたんだ?海未」
「本当に……穂乃果はμ'sに戻ってきたのですか?」
「もちろんだ。つか、あの状況で嘘なんかつけないって」
奏夜は苦笑いをしながらも飄々と答えていた。
「そうですか……」
「でもまぁ、俺1人の力じゃない。穂乃果を上手い具合に焚き付けてくれたヒフミの3人のおかげだよ」
奏夜は穂乃果が復帰した経緯は語らなかったが、ヒフミトリオの3人の活躍があったことは伝えていた。
「そうだったのですね……」
「なぁ、海未。穂乃果がスクールアイドルを辞めたのは自分にも責任があるって思ってるんだろ?だからこそ気まずくなっちまった。違うか?」
「……はい。奏夜の言う通りです」
「やっぱりな……」
奏夜は何故海未が一度スクールアイドルを離れて気持ちを落ち着かせたいと思ったのか疑問だったのだが、その正解を聞いて納得したみたいだった。
「海未。これはまだみんなにも言ってない話なんだが、明後日に講堂でライブをしようと思っている。……9人全員でな」
「!?奏夜!明後日と言えば、ことりの出発の日じゃ……」
奏夜の大それた提案に海未が驚くのも無理はなかった。
明後日はことりが日本を発つ日だったからである。
そんな状況で9人全員でライブを行うなど流石に不可能な話だと思ったからこそ、海未は驚いていたのであった。
「大丈夫だ。我に勝算あり!って訳じゃないが、それを可能にする策は考えている」
「だ、大丈夫なんですか?」
「心配すんな。俺を信じてくれ。だが、その前に海未には穂乃果としっかり話をして向き合って欲しいんだ」
「!?」
奏夜は本当に海未にやって欲しいことを告げると、海未は再び驚愕していた。
「明後日のライブ前、2人がゆっくり話が出来るようお膳立てはする。そこで、しっかりと自分の気持ちを伝えて欲しいんだ。当然穂乃果にもそうさせる」
「奏夜。何故明後日なのですか?こういうのは早い方がいいのでは?」
「……」
海未は奏夜が何故明後日にこだわるのかが疑問だったため、それを奏夜に投げかけるのだが、何故か奏夜はバツが悪そうな表情をしていた。
「……実は明日は1日学校を休むことになりそうでな」
「学校を?何か用事ですか?」
「いや、実はな……」
『魔戒騎士の大抵は魔導輪や魔導具と契約を結んでいる。魔導輪と契約を結んだ魔戒騎士は1月に1度、その命を魔導輪に捧げなければいけないのだ。当然奏夜も例外ではない』
奏夜が語ろうとするのだが、その前にキルバが魔戒騎士と魔導輪の契約についての話をしていた。
「!?そんなことがあるのですか!?」
そのような話は1度も聞いたことがなかったため、海未は驚愕していた。
しかし……。
「!だから、奏夜は月に1度、必ず学校を休んでいるのですね?」
「まぁ、そういうことだ」
海未は前々から奏夜が毎月1度は必ず学校を休むことが疑問だったのだが、その疑問がここで解決されたのであった。
「それで、明日がその契約の日なんだ。俺は1日家で仮死状態になってる。1日は全く動けないんだ」
『本来ならば明後日が契約の日なのだがな。奏夜が明日にずらせとうるさいから明日にさせてもらったのだ』
「そこまでしなきゃいけないことなのでしょうか?」
「仕方ないことだ。魔戒騎士は魔導輪の協力を得てホラー退治を行っている。命を差し出すのはギブアンドテイクってところだ」
『ま、そういうことだ。これは多くの魔戒騎士が辿ってきた道なんだ」
「……」
また1つ、魔戒騎士の秘密を知ることになり、海未は言葉を失っていた。
「だからこそ、今日出来ることは全部やっておく。大丈夫だ。俺を信じてくれ」
奏夜は真剣な表情で海未の顔をジッと見つめていた。
そんな奏夜に海未は照れてしまうが、すぐに我に返ったのであった。
「……わかりました。奏夜はそうやって私たちを導いてくれたんですもんね……。私はあなたのことを信じますよ」
海未はμ'sが結成された時から奏夜のことを心から信頼しており、それは今も変わっていなかった。
だからこそ、この問題を奏夜に任せようと思えたのである。
「おう、任せてくれ」
こうして、奏夜はこれからの話を海未に持ちかけたのであった。
「……それにしても、奏夜は凄いですね……」
奏夜の話が終わると、海未はこのようにしみじみと呟いていた。
「?何がだ?」
「奏夜はことりに対して遠慮なく自分の気持ちを言えるんですから。それにひきかえ、私は……」
奏夜はことりに対して遠慮ない言葉を用いてことりの本音を引き出そうとしていた。
しかし、海未はことりに気を遣っているからか、そこまでのことは言えなかったのである。
「別に気にすることはないと思うけどな。俺は海未らしくていいと思うよ」
「私らしい……ですか?」
「ああ。俺が遠慮なく言えるのも自分がワガママなだけさ」
「ワガママですか……。ふふっ、確かにそうかもしれないですね」
奏夜にワガママな一面がある。
海未はそれを認めて微笑んでいるが、奏夜はワガママだけではなく、自分の気持ちに素直なだけであると海未は感じていた。
「それに、海未は大切な友達であることりに気を遣って自分の気持ちを伏せてたんだろ?俺はそんな海未の優しいところ……嫌いじゃないぜ」
「!?////」
奏夜は穏やかな表情でこのようなことを言っているのだが、その言葉が恥ずかしかったからか、海未の顔が真っ赤になっていた。
「へっ、変なことを言わないで下さい!奏夜の馬鹿!」
「おいおい、ずいぶんとひどい言われようだな……」
海未は恥ずかしさのあまり、このようなことを言っており、そんな海未の言葉に奏夜は苦笑いをしていた。
海未はまだ照れているのか、ガバッと立ち上がっていた。
「と、とりあえず私の話は終わりです!私はそろそろ帰りますね!」
海未が帰ると聞き、奏夜もゆっくりと立ち上がっていた。
「そうか?とりあえず家まで送るけど……」
「いえ、大丈夫です。だって奏夜はこれからやることがあるんですもんね?そちらを優先させて下さい」
海未個人としてはこのまま奏夜と一緒に帰りたいと思ったのだが、奏夜にはまだやるべきことがあるため、そちらを優先させて欲しい気持ちが勝り、そんな気持ちを堪えていた。
「悪いな、海未。そうさせてもらうよ」
奏夜もまた、今日のうちにやっておきたいことがあるため、そんな海未の言葉をありがたく受け止めることにしていた。
「奏夜。私、信じてますからね」
海未は奏夜にこのような言葉を残すと、公園を後にして、自宅へと向かっていった。
奏夜は海未の姿が見えなくなるまで海未のことを見送っていた。
「さてと……」
海未を見送った奏夜は、携帯を取り出し、誰かに電話をかけていた。
「……あ、もしもし。剣斗か?実は頼みがあってな……」
奏夜が電話をかけたのは剣斗であるのだが、剣斗は教師として音ノ木坂学院に潜り込むため、必要だろうということで携帯の契約をしていたのである。
奏夜は剣斗に明後日行なおうと思っていることを説明し、その準備をお願いしていた。
さらに、明日がキルバとの契約の日だと話をすると、剣斗はやる気に満ちた感じで奏夜の話を了承していた。
奏夜はライブのことを剣斗に託すと、そのまま電話を切り、携帯をポケットにしまっていた。
剣斗との電話を終えた奏夜はそのまま帰路につくのだが……。
……この時、奏夜は気づいていなかった。
1匹の黒い蝶が先ほどの会話の一部始終を聞いていたということを……。
……奏夜に。そしてμ'sに……。
再び波乱が迫ろうとしていたのであった……。
……続く。
__次回予告__
『いよいよことりが留学してしまうが、本当に9人揃ってライブなど出来るのか?次回、「九人 前編」。新たな波乱が目前に迫る!』
ことりの留学が目前に迫り、物語が一気に進んできました。
奏夜は9人でのライブを狙っているみたいですが、果たしてそれは上手くいくのか?
穂乃果がμ'sに復帰し、にこは1度これを拒絶してしまいました。
にこは誰よりもスクールアイドルが好きであり、本気で向き合っているため、このような展開もありかなと思いました。
まぁ、結果的には奏夜に上手く言いくるめられたのですが……。
さて、ラブライブ!一期の話ももうすぐ終わるため、この章もクライマックスになってきました。
最近はラブライブ!パートがメインだったため、最後は牙狼要素も絶対に入れたいと思っていますのでよろしくお願いします!
ここで最近の近況なのですが、今まで放置していたTwitterのプロフを変えたりして、ちょこちょこ呟くようになりました。
まぁ、完全にFF14メインな感じになってしまっていますが……。(笑)
ナック・G
@ToyaTsukikage
もしTwitterをやってる方はフォローをしてくれると嬉しいです!
呟くのはほとんどFF関連のことだとは思いますが、小説のことも呟けたらなと思っています。
Twitterについては活動報告にも書こうと思っているのでよろしくお願いします!
さて、次回もお楽しみに!