まさかここまで投稿が遅れてしまうとは思いませんでした……。
最近何かと忙しく、執筆に割く時間がなかなか取れなかったんですよね。
色々と展開は考えているので、どれだけ投稿は遅くなっても投稿は続けていきたいと思っていますので、これからも牙狼ライブをよろしくお願いします!
さて、今回はいよいよ学園祭です。
前回、ジンガによって剣を突き刺された奏夜を待ち受ける運命は?
それでは、第46話をどうぞ!
μ'sのランキングが19位まで上がり、奏夜たちは学園祭のライブに向けて頑張っていた。
そして、学園祭前日、この日は翌日のライブに備えて、練習は早めに切り上げていた。
そんな中、μ'sのメンバーの1人である東條希は、自宅でのんびりと過ごしていた。
希の家は秋葉原某所のマンションの一室であり、現在は家庭の都合で一人暮らしをしている。
希は趣味である占いに興じていた。
「……♪」
希はテーブルにタロットカードを並べており、これから占いを始めるところであった。
「明日のライブ、上手くいくといいんやけど……」
希はこのように呟くと、並べたタロットカードの中から、1枚のカードをめくった。
「……え?」
希はそのカードを見た瞬間、驚きのあまり目を見開いていた。
そのカードは物事の崩壊や終末などを意味する死神のカードの正位置だったからである。
「う、うそやろ?なんか縁起が悪いな……」
このカードを引いたということは、これから良くないことが起こると考えられるため、希の顔は真っ青になっていた。
「……何やろう……。これから何か良くないことが起きるんやろうか?」
希は、これから何が起こるのか不安だったからか、胸騒ぎを覚えていた。
これからそんな希の不安が的中してしまうことを、彼女は知る由もなかった……。
※※※
「ぐはっ!!」
奏夜は現在、ジンガと戦っていたのだが、ジンガの剣が奏夜の体を貫いていた。
ジンガに突き刺され、奏夜は口から血を吐いていた。
それだけではなく、奏夜の身体からは、鮮血が溢れ出していた。
「……チッ、急所は外れたか。悪運は良いみたいだな」
奏夜は咄嗟に回避行動を取ったおかげで、急所を大きく外れており、致命傷は免れていた。
「うっ……くっ……」
奏夜は激痛のため、表情を歪ませており、ジンガは奏夜が首にぶら下げているネックレスの紐を引きちぎり、それを奪い取っていた。
「!?か、返せ……!それは……!」
未だに剣を突き刺されている状態ではあったが、奏夜はジンガに手を伸ばしていた。
それを冷酷な目で見ていたジンガは、剣を引き抜き、蹴りを放って奏夜を吹き飛ばしていた。
ジンガの蹴りを受けた奏夜はジンガから数メートル離れたところで倒れ込んでいた。
「……魔竜の牙はいただいていくぜ。手土産を持っていけば尊士も文句は言わんだろうしな」
「くっ、くそっ!」
奏夜はどうにか立ち上がろうとするが、立ち上がることは出来なかった。
そんな中、ジンガはゆっくりと奏夜に迫っていた。
「ついでだ。目障りなお前の命ももらっておこう」
ジンガは剣を構え、奏夜にトドメを刺そうとしていた。
ジンガの剣が奏夜に迫ろうとしていたその時だった。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然誰かの叫び声が聞こえると、どこからか赤いコートの青年……。統夜が現れると、ジンガに体当たりを繰り出してジンガを吹き飛ばしていた。
「くっ……!月影統夜か……!」
ジンガはいきなり統夜が現れたことに驚いていた。
「と、統夜……さん……?」
奏夜は、先輩騎士である統夜が自分の危機を救ってくれたことが嬉しかったのである。
「統夜だけじゃないぞ!!」
さらに魔戒法師らしき男が現れたのだが、この男は、翡翠の番犬所に所属している魔戒騎士の天宮リンドウの弟であり、布道レオの一番弟子であるアキトであった。
「チッ、天宮アキトもいたか……。この2人を相手にするのは面倒だな……。目的は達成したんだ。俺はこの辺で失礼させてもらうよ」
このまま統夜とアキトの2人を相手にするのは得策ではないと判断したジンガは、魔竜の牙という思わぬ収穫を得たため、撤退することにした。
「!?待て!!」
統夜はジンガを追撃しようとしたのだが……。
「統夜!まずは奏夜の怪我をなんとかするのが先だ!!」
アキトは冷静であり、ジンガよりも奏夜を優先させようとしていた。
ジンガを追いかけてしまったら、そのまま奏夜が命を落としかねないからである。
「……そうだな……」
統夜は魔戒剣を抜くことなくその場を切り抜けると、アキトと共に重傷を負った奏夜に駆け寄っていた。
「おい、奏夜!大丈夫か?」
「統夜さん……。アキトさん……。すいません。魔竜の牙がジンガの奴に……」
奏夜は自分の体のことではなく、魔竜の牙が奪われたことを話しており、謝っていた。
「気にしなくていい。もう喋るな。奪われたものはまた取り返せばいいんだ」
統夜はジンガに魔竜の牙が奪われた事実に驚いていたが、それよりも奏夜の体を気遣っていた。
「……すいません……。だけど、統夜さんとアキトさんが来てくれて……。良かった……」
2人が来てくれたことに安堵したからか、奏夜はそのまま目を閉じて、意識を失っていた。
「奏夜!?おい、奏夜!しっかりしろ!!」
統夜は意識を失った奏夜の体を必死に揺らしていたのだが……。
「統夜!落ち着け!奏夜は意識を失っただけだ」
統夜は奏夜の怪我に取り乱していたのだが、アキトは至って冷静だった。
「そ、そうか……」
『だが、危険な状態なのは間違いないみたいだ』
『キルバの言う通りだぜ、統夜。早く治療をしないと小僧が死ぬぞ』
キルバと統夜の魔導輪であるイルバは、奏夜が生命の危機にあることを分析していた。
「とりあえず番犬所に運ぼう」
先ほどは取り乱していた統夜であったが、どうにか冷静さを取り戻しており、このような提案をしていた。
「おいおい、この怪我だぞ?病院の方がいいんじゃないのか?」
アキトはもっともな意見をぶつけたのだが……。
「確かにそれが確実だ。だけど、この怪我だ。このまま病院に運んだとして、明日の学園祭に顔を出せると思うか?」
「そ、それは……」
本来であれば病院に運ぶのが得策なのだが、奏夜の傷は深く、治療を行えば、明日の学園祭に参加するのは絶望的だった。
そのため、病院へ運ぶことを統夜は良しとしなかった。
「翡翠の番犬所には多少の魔導具はある。アキト、お前ほどの魔戒法師なら治癒の法術は使えるだろう?」
統夜が番犬所へ運ぶことを選んだのは、アキトが治癒の法術を使えると見越していたからである。
「やれやれ……。俺は治癒の法術は苦手なんだよ。邪美姉や、烈花の姉御なら完璧に出来そうだけどな……」
アキトは治癒の法術は使えるものの、そこまで得意ではなく、師匠であるレオと同じくらい尊敬している先輩魔戒法師の邪美(じゃび)や烈花(れっか)であれば完璧な法術は使えるだろうと思っていた。
「だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇよな」
治癒の法術が苦手だからと言って、このまま何もしない訳にはいかないことはアキトは重々理解しているため、統夜の提案を受け入れていた。
こうして、統夜とアキトは意識を失っている奏夜を2人がかりで抱えると、そのまま番犬所へと向かっていった。
「……!?奏夜!?いったいどうしたのですか!?」
2人が番犬所に到着すると、あまりの異常事態に、ロデルは驚きを隠せずにいた。
「申し訳ありません。説明は後です!まずは奏夜の治療を!」
「そうですね。話は彼の治療をしてからにしましょう」
ロデルの付き人の秘書官2人が、治療用のベッドを用意すると、そこに奏夜を寝かせていた。
「……出血がひどいからな。急がないと本当に危ないぞ」
統夜は今の奏夜の状態を冷静に分析していた。
ジンガに刺された時に急所は外れたものの、刺されているため出血がひどく、いくら魔戒騎士といえども、このままでは血が足りなくなって命の危険がある。
「……アキト、頼んだ!」
「わかった。俺だって魔戒法師なんだ。どこまで出来るかわからないけど、絶対に奏夜を救ってみせる!」
アキトにとっても奏夜は大事な後輩であるため、ここで死なせるつもりはなかった。
アキトはロデルの付き人の秘書官が用意してくれた治癒の法術の時に使う札を受け取ると、それを奏夜の患部に貼り付けていた。
すると、アキトは自分の魔導筆を取り出し、精神を集中させていた。
そして……。
「……はぁっ!!」
アキトは魔導筆から法術を放っていた。
「くっ……。やっぱり、思うような効果が出せねぇ……」
アキトは治癒の法術があまり得意ではないからか?思った以上の効果を出せてはいなかった。
しかし……。
「奏夜、俺が絶対に救ってやる!お前が死んだら、μ'sのみんなが悲しむからな!」
アキトはμ'sのメンバーを悲しませないために、奏夜を救おうと決意していた。
それだけが理由ではなく、アキトの兄であるリンドウも奏夜のことを認めており、アキトもまた、奏夜のことを大切な後輩だと思っていた。
だからこそ、そんな奏夜を救いたいと思っていたのである。
治癒の法術は苦手なアキトではあったが、渾身の力を込めて、奏夜の治療にあたっていた。
「……帰ってこい、奏夜!!」
そんな思いを魔導筆に込め、術を放っていた。
アキトの思いが届いたからか、術が効いてきており、ジンガによってつけられた傷はみるみる塞がっていった。
「……!治ったか!」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
アキトはこの法術にかなりの力を使ったからか、息が上がっていた。
「……いや、とりあえず応急処置程度だ。無理をすればまた傷は広がるだろう。俺の力じゃここまでだ」
アキトは治癒の法術が苦手であるため、奏夜の傷を完全に癒すことは出来なかったが、応急処置にはなっていたのである。
「……とりあえず、奏夜の危機は救われたのですね。それは良かったです」
奏夜はどうにか命の危機は脱したため、ロデルは安堵をしていた。
その後、番犬所にリンドウと剣斗が現れ、意識を失っている奏夜に驚いていた。
そのため、統夜とアキトは神田明神で目撃したことを話すことにした。
「……奏夜がジンガと交戦したというのですか?」
「あぁ。それで奏夜はジンガに重傷を負わされて、魔竜の牙を奪われてしまったんだ」
「……なんてこった……」
「だが、奏夜が無事だったのは不幸中の幸いだな」
統夜とアキトから事の顛末を聞かされ、リンドウは頭を抱えており、剣斗は奏夜の無事に安堵していた。
「それにしても、奏夜は何故神田明神にいたんだ?今日は指令もないはずだろう?」
「ふむ……。まさかな……」
「剣斗……。あなたは何か知っているみたいですね?」
「はい。ロデル殿や皆にも話しておこう。最近のμ'sの様子を」
こうして、剣斗はμ'sの近況を語り始めた。
「……今、μ'sのみんなは明日行われる学園祭ライブに向けて頑張っているのだ。その中でも穂乃果がやる気に満ちていてな。そのやる気が悪い方へと行ってしまっているのだよ」
「……なるほど……」
奏夜からちょこちょこμ'sの近況は聞いていてはいたのだがら改めて剣斗からμ'sの近況を聞き、ロデルは驚いていた。
「奏夜はいつだか穂乃果が夜も練習をしていると言っていた。それを禁止するとも言っていたし、恐らく奏夜は今日も練習してる穂乃果を止めに行ったのではないか?」
「まぁ、そう考えるのが1番自然か……」
統夜は剣斗からの話を聞いただけだったが、状況的にそれが無難だと思っていた。
「それから何かあって穂乃果と別れ、ジンガと遭遇したのだろう」
「……その何かってのはわからないけどな」
「まぁ、それは奏夜が目を覚ましたら聞いてみたらいいんじゃないのか?」
リンドウは楽観的な意見を言っており、統夜たちはそんなリンドウの楽観的な意見を受け入れていた。
「……そうですね。とりあえず奏夜はこのままここで休んでもらいます。奏夜が目を覚ましたら、話を聞くことにしましょう」
「……わかりました」
「ま、今日のところはそれがいいだろうな」
剣斗は詳しい話を知らないため、後の話は奏夜から聞き出すことにした。
そのため、奏夜が目を覚ますまで待つことにするため、この日は解散となった。
リンドウはこのまま番犬所を後にして、剣斗は奏夜が心配であったが、彼の分まで動かなければいけないため、渋々帰っていった。
番犬所には統夜とアキトが残り、奏夜が目を覚ますのを待っていた。
待っている間に統夜は、梓に連絡を入れて、事の顛末を説明していた。
統夜は梓たちと共に、音ノ木坂の学園祭に行くために東京入りしていたのである。
事情を聞いた梓はそれを唯たちにも共有し、学園祭で何かあった時には協力してもらうように要請をしていた。
梓との電話を終えた統夜は、アキトと共に奏夜が目覚めるのを待っていた。
そして、奏夜が目を覚ましたのは翌日の朝であった。
「……う、うん……?」
「奏夜!」
「目を覚ましたか!」
奏夜が目を覚ましたのを確認し、統夜とアキトの表情が明るくなっていた。
「統夜さん……。アキトさん……。ここは?それに、俺はいったい……」
奏夜は統夜とアキトの顔を見たため、ゆっくりと体を起こそうとするが……。
「ぐっ!?」
まだ完全に怪我が治ってる訳ではないかるか、激痛が奏夜を襲い、奏夜は表情を歪めていた。
「奏夜!まだ安静にしてろ!お前はまだ完全に怪我が治った訳じゃないんだからな」
「そうだ。応急処置程度の術は施したが、無茶をすればまた傷が開くぞ」
アキトの治癒の法術は完璧ではないため、奏夜が無茶をすれば、再び傷が開く恐れがあるのであった。
「……統夜さん。今日って、もしかして……」
「あぁ、今日は学園祭当日だ」
「!?」
奏夜は今日が学園祭だと聞かされると、激痛を堪えてベッドから飛び起きていた。
そして、ここが番犬所の中だとわかると、そのまま番犬所を出ようとするのだが……。
「……奏夜!待ちなさい!」
その前にロデルが奏夜を制止していた。
「あなたはジンガに敗れ、魔竜の牙を奪われたと聞きました。その前に何があったのですか?話しなさい」
「……」
ロデルは今までにない程厳しい口調になっており、奏夜は俯きながら黙っていた。
「奏夜、話してくれないか?何でも1人で抱え込まないでくれよ」
「そうそう。だから俺たちに話してくれよ。少しは楽になると思うぜ」
「……わかりました」
こうして奏夜は、ことりの留学のことや、神田明神で穂乃果に言われた言葉について語ったのであった。
「……ことりが留学……ですか……」
ことりが留学と知り、ロデルはあからさまに落胆の色を見せていた。
「まぁ、それがあいつのやりたいことなら、応援はしてやりたいが……」
統夜はことりの留学を反対はしなかったものの、やはり寂しさは感じていた。
「なぁ、統夜。留学なんだけど、ムギちゃんの力でなんとかならんのか?」
アキトは、このままことりを留学させるのはどうかと考えており、桜ヶ丘では随一の富豪の娘である紬の力を借りるべきだと考えていた。
「まぁ、ことりが留学を断るなら卒業時期に合わせて他の留学先とか相談出来るかもだけど、ことりが今本気で留学を考えてるなら、それも無駄だろうな」
「……だよなぁ……」
統夜の言葉に同意していたアキトは、落胆を隠せずにいた。
「まぁ、ことりの問題は後で考えるとしましょう」
ロデルは、ことりの留学の話はここで一旦終わりにすることにしていた。
「……それに、「住む世界が違う」……か」
統夜は、奏夜が穂乃果から言われた「住む世界が違う」という言葉を繰り返していた。
『あのお嬢ちゃんはワガママなところがあるからな。そこから出た失言だろう。俺様はあまり気にすることはないと思うぜ』
『俺もそう思うのだが、奏夜はそれを真に受けてしまってな』
キルバが奏夜に対して言ったことを、イルバも思っていたようであり、イルバはその言葉に同意していた。
「……奏夜。あなたがその言葉を受けて深く傷付いているのはわかります。あなたの純粋さと優しさは長所ではありますが、致命的な弱点でもあるのです」
「……」
「あなたのその心の弱さがこのような結果を生んだのです。魔戒騎士として、その事実を深く胸に刻み込みなさい」
ロデルは様々なことがあって心が乱れている奏夜に優しい言葉をかけるのではなく、あえて厳しい言葉をぶつけていた。
そうする方が、奏夜の成長につながると確信していたからである。
「……っ!」
奏夜にとっては耳が痛い話であったからか、奏夜は両手の拳をギュッと握りしめ、唇を噛んでいた。
「……どうしました?返事は?」
「……は、はい!わかりました!あと、申し訳ありませんでした」
ジンガに敗れ、魔竜の牙を奪われただけではなく、瀕死の重傷を負ったのは、自分の心が弱いからだということは奏夜もわかっていた。
だからこそロデルの言葉は的を得たものであり、その悔しさから返事が遅くなってしまった。
「うっひゃあ、おっかねぇなぁ……」
「仕方ないさ。ロデル様は奏夜のためを思ってあぁ言ってるんだから」
アキトはロデルの厳しい言葉に肩をすくめるが、統夜はそんなロデルの真意をわかっていた。
「……俺は急いで学校へ向かいます。急がないとライブに間に合わないかもしれないので」
「奏夜。俺とアキトも後でライブを見に来る。だから無理はするなよ」
「……ありがとうございます」
奏夜はロデルだけではなく、統夜とアキトにも一礼をしていた。
奏夜は体の痛みが残っている状態だったからか、足元がふらついていたのだが、どうにか番犬所を後にして、学校へと向かうことにした。
奏夜は痛みを堪えながら、ゆっくりと学校へと向かっていった。
(ロデル様の言う通りだ……。俺の心が弱かったからジンガに魔竜の牙を奪われてしまった。これが、ニーズヘッグの復活を早めるかもしれない……)
移動中、奏夜はロデルの言葉について考えていた。
とは言っても、落ち込んでいる訳ではないみたいだが……。
《奏夜。だからこそこの失態を真摯に受け止め、次に繋げていかなくてはな》
(わかってる。それに、ことりのことは心配だけど、まずは目の前のライブの成功を祈らないと)
奏夜は気持ちを切り替えており、今日行われるライブの成功を祈っていた。
しかし……。
(……ひどい雨だな……。そこがちょっと心配だけどな……)
現在、天気は昨夜同様に土砂降りの雨であり、ライブが行えるかどうか、奏夜は心配していた。
奏夜がしばらく歩いていると、とある場所で人だかりが出来ていた。
(?なんだろう?何かあったのだろうか?)
《さぁな。だが、そこを気にしてる場合じゃないぞ》
(そうだな。みんなは今頃俺を待ってるだろうし)
奏夜は人だかりが気になってはいたのだが、そのままそこを通り過ぎようとしていた。
すると……。
「ねぇねぇ、聞いた?なんか、若い男の子がひったくりを捕まえようとして、その犯人に刺されたんですってね」
「おっかないわねぇ……。それに、刺された男の子は行かなきゃいけないところがあるって、救急車を待たずにどこかに行ったらしいじゃない」
「大丈夫かしらねぇ……。犯人はすぐ捕まったみたいだけど……」
近くにいた2人の女性が、ここで起こったであろう事件の話をしていた。
その話によると、ひったくり事件が発生し、1人の少年がそのひったくり犯を捕まえようとしていたらしい。
しかし、少年はひったくり犯に刺されてしまったのである。
すぐに駆けつけた警察により、犯人は逮捕されたが、少年は行かなきゃいけないところがあると言って、そのままどこかへ行ってしまったらしい。
(……ふーん……。ずいぶんと物騒なことが起こってんだな……)
今日か明日にはニュースになりそうな事件なのだが、奏夜は関心を示してはいなかった。
(でも、もしも俺の身に何か起こったら使えそうな話ではあるな)
《なるほどな。確かにそうかもしれん。ま、何もないに越したことはないがな》
(確かにな)
奏夜はキルバとテレパシーで会話をしながら人だかりのエリアを通り過ぎ、そのまま学校へと向かうのであった。
※※※
その頃、音ノ木坂学院では学園祭が行われ、多くの人で賑わっていた。
そんな中、この学校のスクールアイドルグループである「μ's」のライブの時間が迫っていた。
現在、穂乃果たちは衣装に着替え、アイドル研究部の部室で待機していた。
「……そーや君、遅いね……」
今日はライブだというのに、なかなか顔を出さない奏夜を、凛は心配していた。
当然それは凛だけではないのだが……。
「……何かあったのかなぁ?事件とかに巻き込まれてなければいいけど……」
「ま、奏夜のことだし、寝坊とかではないんだろうけど」
花陽は凛よりも奏夜のことを案じており、真姫もまた、奏夜を心配していた。
「まったく……。このライブにはラブライブ出場がかかってるっていうのに、奏夜は何をやっているのよ?ねぇ、希もそう思わない?」
にこは、なかなか姿を現さない奏夜に文句を言っており、希に同意を求めるのだが……。
「……」
何故か希は浮かない表情をしていたのであった。
「……希?どうしたの?」
「へ?い、いや!何でもないんよ。何でも!」
そんな希を見て、首を傾げていた絵里は、希に声をかけると、ハッとした希は慌てた様子を見せていた。
「珍しいわね、希がボケっと考え事だなんて」
「そ、そうやね。アハハ……」
希は苦笑いをして話を誤魔化しており、絵里はさらに首を傾げていた。
(……昨日の占い、μ'sのことやと思ってたけど、まさか、奏夜君のことなんやろうか……?奏夜君……無事やったらいいけど……)
希は昨日の占いのことを非常に気にしており、奏夜が未だ来ていないことを心配していた。
海未はことりと留学についてこっそり話していたのだが、ことりはまだ迷っていた。
留学に行くかどうか。結論を今日中に出さなければいけないからである。
そんな話をしていたからか、2人とも浮かない表情をしていた。
それよりも問題は穂乃果であった。
(……そーくん……。昨日、あんなこと言っちゃったから来ないのかなぁ?)
穂乃果は昨日、奏夜に言った言葉が言ってはいけない言葉だということを理解しており、それが奏夜が来ない原因なのではないかと心配していた。
(……あ、あぅぅ……。やっぱり頭がくらくらするよ……)
穂乃果はオーバーワークのせいで、体調を崩しており、風邪の症状が出ていた。
自分が風邪だと他のメンバーにバレてしまったらライブは中止になりかねないため、穂乃果は必死に自分の風邪を隠していた。
アイドル研究部の部室には、ライブが目前に迫っているとは思えないほどのネガティブな空気に満ちていた。
すると、そんな空気を壊すかのようにアイドル研究部の部室の扉が開かれた。
「!?もしかして……」
「奏夜?」
穂乃果たちは奏夜がやっと来たのかと期待をしていたのだが……。
「……うむ、みんな、準備が出来ているみたいだな」
部室に入ってきたのは奏夜ではなく、剣斗であった。
「なんだ、小津先生か……」
奏夜ではないことに対して、穂乃果たちはあからさまに落胆していた。
「む……。そこまであからさまに落胆されると、流石の私も落ち込むのだが……」
穂乃果たちのリアクションを見て、剣斗はショックを隠しきれないようであった。
「あっ、すいません……」
全員を代表して、絵里が申し訳なさそうに謝罪をしていた。
「小津先生!奏夜君がまだ来てないんです!何か知りませんか?」
花陽は涙目になりながら、奏夜のことを剣斗から聞こうとしていた。
「うむ。奏夜であれば、先ほど学校に顔を出してな。ここへ行こうとしていたが、私が1つ仕事を頼んだところだ」
「仕事……ですか?」
「うむ。今は学園祭でどこもバタバタしているからな。何、すぐにこっちへ来るさ」
こう話して穂乃果たちを安心させていたのだが、これは嘘であった。
こうでも話しておかないと、穂乃果たちは奏夜を心配してライブどころではなくなると判断したからである。
しかし、先ほど統夜から連絡があり、もうすぐ来るだろうというのは本当であった。
それを裏付けるかのように、アイドル研究部の部室の扉が再び開かれると、今度は奏夜が中に入ってきた。
「……みんな、遅くなってすまない」
奏夜は遅れたことを謝罪すると、穂乃果たちは奏夜の名前を口々に呼んでいた。
「奏夜!遅いじゃない!いったい何があったの?」
「そうよ!大切なライブ当日に遅刻とか、あり得ないんだけど」
絵里は奏夜を問い詰めており、にこは不機嫌そうに奏夜に厳しい言葉を送っていた。
「みんな、ごめんな。心配かけて……」
奏夜は何故遅くなったのかは語らず、謝ることだけに徹していた。
「……まぁ、今は何があったのかは聞かないわ。だけど、後でちゃんと話すこと。いいわね?」
「あぁ、そうしてもらえると助かるよ」
このような絵里の提案を、奏夜はありがたく受け入れていた。
「……みんなもいいわね?とにかく今は、目の前のライブに集中しましょう」
絵里としても、奏夜に何があったのか気になっていたのだが、それを堪えてこのようなことを言っていたのである。
そんな絵里の気持ちを汲んだ穂乃果たちは誰も反対意見を出す者はいなかった。
「とりあえず、そーや君も来たことだし、本番は頑張るにゃあ!!」
ライブ開始時間も近付いてきたからか、凛はアイドル研究部の部室を後にして、屋上へと向かっていった。
「あっ、凛ちゃん!ちょっと待って!」
「ちょっと!1人で先に行くんじゃないわよ!」
花陽と真姫は、先に屋上へ向かった凛を追いかける形で屋上へと向かっていった。
「……私たちも行きましょうか?」
「そうやね。ライブの時間も近いし」
「そうね。このライブはラブライブに出場出来るかどうかがかかっているわ!気合を入れないと」
絵里と希も屋上へと向かい、にこもまた、やる気に満ちた感じで、屋上へと向かっていった。
アイドル研究部の部室には奏夜を含めた2年生組と、剣斗が残されていた。
「……あ、あのね、そーくん……」
「?どうした、穂乃果?」
「あの……。私……私は……」
穂乃果は奏夜に対して何かを言おうとしていた。
バツが悪そうな感じだったため、恐らくは昨日のことを謝るのだと思われた。
「穂乃果。話は後だ。まずはライブを成功させないとな」
「うっ、うん……」
奏夜はライブ開始時間が近付いているからか、穂乃果の話を後にすることにして、奏夜もまた、屋上へと向かっていった。
そして、それを追いかけるように穂乃果以外のメンバーも屋上へと向かったのだった。
この時も、奏夜は体を襲う激痛に耐えており、そのせいで、穂乃果の体調の変化に気付くことが出来なかったのである。
穂乃果は体調が悪いからか少しばかりフラフラしており、その顔は熱っぽいからか少しだけ赤くなっていた。
穂乃果は少しだけ怠そうにしてから、そんな気持ちを振り切るために首をブンブンと横に振っており、穂乃果も屋上へと向かうのであった。
※※※
こうして奏夜たちは屋上前に到着したのだが、外は未だに土砂降りであった。
「あぅぅ……。雨、止まないよぉ……」
「本番までに弱くなればいいけど……」
現在も雨が振っているため、凛と花陽は心配そうに入り口から見える景色を眺めていた。
そんな中……。
(……くっ……)
奏夜の体の痛みがより強くなっており、奏夜は一瞬だけ表情が歪んでいた。
《おい、奏夜。お前、まさか……》
(……あぁ。どうやらちょっとではあるけど、傷が開いてきたみたいだ)
《やはりか……。アキトは治癒の法術は苦手だと言っていた。ある程度時間が経てば塞がった傷が広がるのも仕方ないだろう》
実はキルバの推測通りになっており、治癒の法術が苦手なアキトはどうにか奏夜の傷を塞いだのだが、それは一時的なものに過ぎなかった。
アキトの法術の効果は徐々に切れ始めており、ジンガに刺された時の出血が起こるのも時間の問題だった。
(だけど、アキトさんには感謝してるよ。アキトさんが応急処置をしてくれたからこそ、俺はどうにか生きながらえたんだから)
奏夜の言う通り、もしアキトが治癒の法術を一切使えず、応急処置が遅れていれば、奏夜は出血多量で命を落としていた可能性があった。
《奏夜。今からでも遅くはない。適当に理由をつけて学園祭を抜け出したらどうだ?》
キルバは奏夜の身を案じてこのような提案をしていた。
しかし……。
(そんなの却下に決まってんだろ。マネージャーの俺がライブを抜け出すなんて言語道断だ)
奏夜はそんなキルバの提案を断固拒否していた。
《馬鹿を言うな!下手をすれば命に関わるんだぞ。お前にもしものことがあれば、穂乃果たちはどうなる!》
(そんなことはわかってるさ。だけど、俺は……)
奏夜としても、キルバの言い分はわかっていた。
しかし、μ'sのマネージャーとして、素直にその言葉を受け入れることは出来なかったのである。
奏夜とキルバがテレパシーで会話をしていたその時であった。
「……そーや君、大丈夫?」
奏夜の様子があからさまにおかしかったため、凛は心配になって奏夜に声をかけていた。
「……大丈夫だ」
「でっ、でも!奏夜君、顔が真っ青だよ!?何かあったの?」
「何もないさ。心配はいらない」
花陽もまた、奏夜を心配していたのだが、平静を装って返していた。
「奏夜。明らかに何かを隠してるわね?話しなさい。何があったのか」
さらに、にこは奏夜が隠し事をしていると確信し、何かを聞き出そうとしていた。
しかし……。
「……俺の心配をしてる暇があるなら、目の前のライブに集中したらどうだ」
奏夜は険しい表情で厳しい言葉を送っており、その言葉を聞いた花陽は悲しげな表情をしていた。
「ちょっと!そんな言い方はないんじゃないの!?」
「そうよそうよ!私たちはね、あんたのことを心配して……」
そんな奏夜の言葉が気に入らないからか、真姫とにこが文句を言おうとしていたのだが……。
「……そこまでにしておきましょう」
絵里が間に入り、仲裁しようとしていた。
「え、絵里……」
「奏夜の言う通り、今は目の前のライブに集中するべきよ。……まぁ、言い方は気に入らないけれどね」
絵里は鋭い目付きで奏夜のことを睨んでおり、そんな絵里の言葉を聞いた真姫とにこはどうやら納得したようだった。
こうして、ライブ開始時間は近付いていき、奏夜と剣斗以外の全員は、雨が降る中、ステージへと向かっていった。
「……くっ……」
穂乃果たちが全員ステージへと向かったのを確認すると、奏夜を激痛が襲っているからか、その表情は歪んでいた。
「奏夜。お前、まさか……」
「……あぁ、そういうことだ。傷はちょっとずつだけど、開いてきてるみたいだ。出血がないのが幸いだけど……」
『俺は止めたんだがな。奏夜はかなりの頑固者だから、聞かなくてな』
剣斗は奏夜の表情が歪んだ時に全てを察しており、それを裏付けるかのように奏夜が説明をしていた。
「私としても、安静にして欲しいところではあるが……。それがマネージャーとしての責務だというなら私は何も言うまい」
「悪いな、剣斗」
「それに、統夜とアキトもライブに来るのだろう?何かあればすぐに対応は出来るはずだ」
『奏夜。今日のライブは何かが起こるかもしれない。だとしても興奮はするなよ。傷が一気に開くからな』
「……わかってるさ」
こうして、奏夜と剣斗も雨が降る中屋上へと向かっていた。
現在はライブ開始5分前なのだが、すでに多くのお客さんが来ており、μ'sのライブを心待ちにしていた。
そんな中、統夜とアキト。さらには、統夜の仲間である軽音部のメンバーもすでに屋上に来ていた。
「あっ、奏夜くんだ!」
その軽音部のメンバーである唯が奏夜の姿を見つけると、ブンブンと手を振っていた。
「アハハ……。どうも」
奏夜と剣斗はゆっくりと統夜たちのもとへ移動していた。
「奏夜……。大丈夫か?」
「えぇ、なんとか」
「話は統夜先輩から聞いたよ。まったく、奏夜君も無茶するんだね。そんなところは統夜先輩に似ちゃって……」
「アハハ……。そう言われたら何も言えないです」
梓の小言を聞き、奏夜は何も反論が出来なかったため、苦笑いをしていた。
それだけではなく、統夜も苦笑いをしていた。
「奏夜君、まだ傷は治りきってないんでしょ?何かあったら必ず言うんだよ」
「は、はい……」
「あずにゃん、お母さんみたいだね」
梓は自分の恋人である統夜の後輩である奏夜にもまるで統夜と同じようなことを言っていたため、唯はこのようなことを言っていた。
「ちょっと!唯先輩、変なことは言わないでくださいよ!」
唯の言葉が気に入らなかったようであり、梓は異議を唱えていた。
「えぇ?いいじゃん、別に!」
「アハハ……」
唯と梓のやり取りを見ていた奏夜は苦笑いをしていた。
「そういえば、あなたが剣斗さん?統夜君から話は聞いているわ」
どうやら統夜は事前に剣斗のことも話していたようであり、紬がその確認を行っていた。
「うむ。私が小津剣斗だ!君たちは統夜の友である軽音部のメンバーだろう?君たちのことも統夜から聞いているぞ」
剣斗もまた、軽音部のメンバーのことを統夜から事前に話を聞いていたのであった。
「見ているだけで君たちは深い絆で結ばれているのがわかる。イイ!とてもイイぞ!」
統夜たちはその場にいるだけで仲が良いということが伝わってきたからか、剣斗は軽音部のメンバーに対しても好意的であった。
「アハハ……。話に聞いてた通り、熱い人だな……」
「改めてよろしくな、剣斗!」
澪は剣斗の熱い性格に少々引き気味であったが、律はすんなりと受け入れていた。
「うむ!よろしく頼む」
こうして、剣斗は軽音部のメンバーとも顔を合わせることが出来たのであった。
奏夜たちがこのような話をしていると、気が付けばライブの開始時間となった。
(頼む……。何事もなく、無事に終わってくれ……)
奏夜は胸騒ぎがしていたため、ライブの成功を強く願っていた。
そんな奏夜の願いを乗せて、穂乃果たちのパフォーマンスは始まったのである。
〜使用曲→No brand girls〜
1曲目として行われたのは、学園祭に向けて用意した新曲である「No brand girls」という曲であった。
ロック調な感じの曲であり、とてもノリの良い曲であるため、聞いているお客さんはとても楽しげであった。
(……うん。いいぞいいぞ。お客さんも盛り上がってる。1曲目に新曲を持ってきたのは正解だったみたいだな)
奏夜は穂乃果たちのパフォーマンスが順調に行われていることに安堵をしていた。
ライブをやると聞いた時に、新曲をやることは決めていたが、新曲を1曲目にした方が、ラブライブに向けて好印象になる。
そう考えていたからこそ、この「No brand girls」を1曲目にしたのであった。
その狙いは見事に的中し、お客さんはノリの良い曲に、終始盛り上がっていた。
こうして、1曲目は無事に終わったのだが……。
……ドサッ……。
「……え?」
奏夜は盛り上がっている会場には合わない物音に戸惑いを見せていた。
その物音の方角を見ると、穂乃果が倒れていたからであった。
その後、他のお客さんもステージの異変に気付いてざわつき始めていた。
「ほ……穂乃果……?」
奏夜は今自分の瞳に映る光景が信じられないものであるからか、目を瞠っていた。
「穂乃果ちゃん!」
「ど、どうしちゃったの?」
突然の出来事に、梓は声をあげ、唯は困惑していた。
そして……。
「穂乃果!!」
奏夜は倒れた穂乃果を気遣い、その場へ駆け寄ろうとするのだが……。
《奏夜!あまり興奮するな!傷に障る!》
キルバが奏夜の体を気遣うのだが、その時には既には手遅れであった。
「ぐっ……。くっ!」
奏夜に今までにない程の激痛が襲っており、その場で膝をついてしまった。
「「奏夜!」」
そして、統夜とアキトは奏夜の異変に声をあげていた。
奏夜の異変により、唯たちは穂乃果を見ればいいか奏夜を見ればいいかわからず、困惑していた。
「統夜!アキト!私は穂乃果を見る。奏夜は任せたぞ!」
「わかった!」
「穂乃果ちゃんのことは任せたぜ!」
「うむ!」
剣斗は奏夜を統夜とアキトに任せ、自分は穂乃果に駆け寄っていた。
それと同時に……。
「お姉ちゃん!!」
ライブを見にきていた雪穂が、手にしていた傘を投げ捨てて、姉である穂乃果に駆け寄っていた。
穂乃果に駆け寄った剣斗は、すぐに穂乃果の額に手を当てるのだが……。
「……!?ひどい熱ではないか!この状態でライブは到底容認出来んぞ」
どうやら穂乃果は風邪により熱が出てしまったようであった。
剣斗は音ノ木坂学院の教師として、この状態を良しとはしていなかった。
そして、会場が突然の出来事にざわつく中……。
「……私は音ノ木坂学院の教師です!今、パフォーマンスを行っていた生徒にアクシデントがありました!」
剣斗は会場のお客さんに自分が教師であることを告げ、現状の説明を簡潔に行っていた。
「私は教師という立場から、これ以上のライブの続行は許可出来ません。μ'sを応援して下さった皆様には申し訳ありませんが、本日のライブは中止とさせていただきます!」
剣斗のライブ中止の宣告を聞き、お客さんたちは残念がったり、μ'sのことを否定することを言ったりと、様々なリアクションをしていた。
それだけではなく、その宣告を聞き、穂乃果以外の8人は驚きを隠せなかった。
そして……。
「ちょっと!何勝手にライブを中止にするのよ!」
にこは剣斗の宣告が気に入らなかったようであり、剣斗に詰め寄っていた。
「仕方ないだろう。私としても非常に遺憾だが、これ以上、生徒に無茶をさせる訳にはいかない」
「ねぇ、穂乃果。続けられるわよねぇ?最後まで諦めないわよねぇ!?」
にこは納得出来ないからか、未だに倒れている穂乃果にこう語りかけるのだが……。
「……にこっち。穂乃果ちゃんはもう、無理や……」
希は悲痛な表情で、このようににこのことを宥めていた。
このような形でライブを終わらせるなど、誰もが望んでいることではない。
しかし、穂乃果がこの状態では、ライブを行うなど到底出来る状態ではなかった。
「……せっかく……。ここまで来たのに……」
穂乃果は涙を流しながら、うわ言のように呟いていた。
こうして、穂乃果が倒れてしまったことにより、μ'sのライブは中途半端な形で中止となってしまった。
それと同じ頃、激痛に苦しんでいた奏夜は……。
「……うっ……くっ……」
奏夜は痛む部分を手で押さえていたのだが、すぐに違和感に気付き、患部を押さえた手を見てみた。
すると……。
「……!?嘘……だろ?」
どうやら本当に傷が開いてしまったようであり、奏夜の手は自分の血で真っ赤になっていたのである。
「奏夜!」
「くそっ!やっぱり俺の法術じゃ完璧に傷は塞げないか」
よく見たら奏夜の患部から再び出血していたため、アキトは自分の治癒の法術の弱さに舌打ちをしていた。
「このままだと騒ぎになるからな……。ムギ!」
「えぇ、わかったわ!」
紬は携帯を取り出すと、誰かに電話をかけ始めた。
「……あ、もしもし斎藤?今、音ノ木坂学園にいるのだけれど、大至急車を出して欲しいの。リムジンだと騒ぎになるから、出来れば普通の車で。……えぇ、お願いね」
紬が電話をかけていたのは、大学の寮から東京まで送り届けてくれた琴吹家の執事の斎藤であり、彼に車の手配をお願いしていた。
「とりあえず車の手配は大丈夫よ」
「悪いな、ムギ。さて、これからどうしたものか……」
剣斗がライブの中止を宣言したため、屋上からは徐々に人はいなくなっており、人は少なくなっていた。
しかし、これだけの傷を負った奏夜を連れ出すところを誰かに見られてしまっては、騒ぎになってしまうだろう。
統夜はこうなることを見越して用意していた大きめのガーゼを奏夜の患部に当てていた。
こんなものでは奏夜の出血は止まらないのだが、気休め程度にはなった。
「……とりあえず、奏夜を外に運ぶぞ」
「統夜先輩、大丈夫なんですか?誰かに見られたらまずいんじゃ……」
「問題はない。学園祭の一般公開ももう終わるだろう?人も少なくなるから大丈夫だ。万が一誰かに見つかったとしても、何とかするさ」
統夜の言う通り、μ'sのライブが終わる頃には一般公開が終わる感じになっているため、一般客の姿が少なくなるため、人通りの少ない場所を通れば、どうにか誰にも見つからずに進むこともなんとかなりそうだった。
万が一誰かに見つかっても、奏夜の出血は見せないため、どうにか誤魔化すつもりであった。
そうこうしているうちに屋上にいるのはμ'sの関係者だけになり、穂乃果は海未とことりに抱えられ、保健室へと向かっていった。
他のメンバーもそれについていったのだが、絵里と真姫だけが残っており、こちらに駆け寄ってきた。
「……!奏夜!!」
「ちょっと!これはいったいどういうことなのよ!?」
絵里は奏夜の状態に驚愕しており、真姫らこの事態の説明を求めていた。
「……今は説明をしてる暇はない。一刻を争うのでな」
「悪いな。事が落ち着いたらみんなにも説明するからよ」
奏夜の状態が危険であるため統夜は険しい表情をしていたが、アキトは絵里と真姫を安心させるために人懐こい笑みを浮かべていた。
そんなアキトの笑顔を見て、2人は多少は安心したみたいだった。
「奏夜君は西木野総合病院に搬送するわ。私たちも付き添うから、2人は穂乃果ちゃんについてあげて」
紬は執事である斎藤に車の手配を頼んでおり、真姫の父親が院長をしている西木野総合病院に奏夜を搬送する予定だった。
紬はライブ中に倒れた穂乃果のことを気遣い、このような発言をしていたのだが……。
「……私も行くわ。パパには私から直接話をした方がスムーズに事が進むだろうし。絵里は穂乃果をお願い」
真姫は紬たちについて行くことを提案しており、穂乃果のことは絵里に任せることにした。
「えぇ、わかったわ。今、小津先生がライブ中止の対応に当たっているから、私も手伝わないと。理事長にも事情を説明しなきゃいけないだろうし」
絵里としてもついて行きたい思いはあったのだが、学校に残ってやらなければいけないことがたくさんあるため、奏夜のことは真姫や統夜たちに任せることにした。
絵里は統夜たちに一礼をすると、そのまま屋上を後にして、ライブ中止についての対応に追われている剣斗の手伝いに向かっていった。
「すいません……。俺のために、ここまで……」
「奏夜、喋るな。傷に障る」
「俺たちにとってお前は大事な後輩なんだ。これくらいは当たり前だぜ」
統夜とアキトにとって、奏夜は大切な後輩であり、そんなアキトの言葉に統夜だけではなく、唯たちも頷いていた。
「奏夜。あなたに何があったのかはわからないけど、私たちにとっては大切な存在よ。だってあなたは、μ'sのマネージャーだもの」
「真姫……」
自分が大切な存在である。
この真姫の言葉が、奏夜にとっては何よりの救いであった。
「さぁ、とりあえず病院に向かうわよ。あんたには聞きたいことが山ほどあるんだからね」
奏夜にこのような話をした真姫は、携帯を取り出すと、真姫の父親に電話をかけた。
真姫の父親に現在の奏夜の状態を話しており、すぐに治療が出来るよう手配して欲しいと話をしていた。
事情を聞いた真姫の父親は驚いてはいたものの、先ほどの話には了承しており、医師や看護師をスタンバイさせておくと話し、真姫は電話を切った。
病院の受け入れ準備を整えたところで、統夜とアキトは奏夜を抱え、屋上を後にした。
人通りが少ないとはいえ、誰かに見つかるリスクは少なからずあったため、アキトは魔導筆を取り出すと、一時的に気配と姿を消すというステルス機能を持った法術を放ち、玄関へと向かっていった。
そんな法術があることに唯たちは驚きながらも、玄関へと先回りをしており、統夜たちが玄関に到着した時にはすぐ奏夜を車へ運ぶよう手筈を整えていた。
統夜とアキトは奏夜を抱えて移動しているため、玄関に到着するまでに時間がかかってしまったが、統夜たちが到着した頃には斎藤はすでに到着しており、学校の入り口には一台のワンボックスカーが止まっていた。
この時には学校の入り口に人はおらず、アキトの法術も効果が切れてしまったため、統夜とアキトは速やかに奏夜をワンボックスカーの中に乗せた。
その後、統夜、紬、真姫の3人がワンボックスカーに乗り込み、残りのメンバーは後から西木野総合病院で合流することになった。
こうして、琴吹家の執事である斎藤が運転するワンボックスカーは西木野総合病院へと向かって発車したのであった。
穂乃果がライブ中に倒れ、奏夜もまた、ジンガによって受けた傷が元になり、再び重傷を負ってしまったりと、学園祭ライブは波乱の展開を迎えてしまった。
このライブの失敗こそ、これから起こる大きな波乱の幕開けであることを奏夜たちは知る由もなかった……。
μ'sの崩壊という、最悪の波乱は、すぐそこまで迫っているのである。
……激動の学園祭編・終
__次回予告__
『学園祭のライブは散々な結果だったな。まぁ、あの結果であればああなるのも仕方ないとしか言えないな。時間、「代償」。失敗の代償というのは大きいものになっちまうな』
ジンガに敗れるだけではなく、奏夜は魔竜の牙を奪われてしまいました。
通常の法術だけではなくて治癒の法術を使えるとは、さすがはアキトだな。いくら苦手だと言っても。
名前だけですが、邪美と烈花が登場しました。果たして、これから本編に登場することはあるのだろうか?
そして、学園祭ライブは原作通りの展開となってしまいましたが、穂乃果が倒れ、奏夜の傷が再び開いてしまい、波乱の幕切れとなってしまいました。
これで「激動の学園祭編」は終了となり、次回からは新章に突入します。
新章はラブライブ!一期までの話と考えております。
これからμ'sはいったいどうなってしまうのか?
そして、これから奏夜を待ち受けるものは?
それでは、次回をお楽しみに!