この前、ようやくFF14のメインストーリーが終わりました。
ラスボス、強いよ。ラスボス……。
だけど、これでまた色々とやりたいことも出来るな。
牙狼装備も集まってきていて、昨日打無装備をゲットしました。
小説を書きながらエオルゼアライフを楽しんでいます(笑)
さて、前置きが長くなりましたが、今回はかなり重要な回になっております。
奏夜たちに大いなる試練が訪れますが、彼らを待ち受けるものとは?
それでは、第45話をどうぞ!
学園祭のライブで講堂が使用することが出来ず、屋上でライブをすることが決まってから数日が経過した。
奏夜はマネージャーとして、学園祭の準備に追われていた。
この数日間、忙しい日々を過ごしていた奏夜であったが、1つだけ気になることがあった。
……ことりのことである。
ここ最近、ことりは1人で思い詰めていることが多く、1人になると俯きながら何か考え事をしている。
奏夜だけではなく、海未がことりに何があったのかを訪ねようとしても、慌てて話を誤魔化そうとしていた。
(……ことり、最近変だけど、いったい何があったんだ?)
奏夜は現在、先生に頼まれて学園祭で使う機材を運んでいたのだが、やはり最近様子のおかしいことりのことが気がかりであった。
奏夜が運んでいる機材はかなり重いのだが、奏夜は考え事をしているからか機材がグラグラと揺れており、その様子を見ていた他の生徒はハラハラしながら見ていた。
《……おい、奏夜。ことりのことが気になるのはわかるが、今は荷物に集中した方がいいんじゃないか?》
(……!そうだったな)
奏夜はようやく自分が重い物を運んでいることに気付き、体勢を直していた。
それを見ていた他の生徒たちは奏夜がボケっとしていないことに安堵しており、自分の仕事に集中することが出来た。
奏夜はこの荷物を無事に指定された場所へと運んだのであった。
「さて……。これで今日の仕事は終わりだし、さっさと練習に顔を出すとしますか」
この荷物運びが本日最後の仕事だったため、奏夜はこのまま屋上へと向かっていった。
その途中……。
「あっ、奏夜!!」
海未が偶然にも奏夜を見かけたため、声をかけていた。
「おう、海未。もしかして弓道部の練習だったか?」
「えぇ。これからは学園祭ライブに向けてμ'sの練習が忙しくなりますからね。やれるうちに弓道の練習もしておきたいと思いまして……」
どうやら海未は先程まで弓道部で練習をしていたみたいであった。
「なるほどな。海未も今からみんなと合流するんだろ?」
「えぇ。奏夜もですよね?一緒に行きませんか?」
「もちろん!」
こうして、奏夜は海未と共に屋上へ向かうことになったのだが……。
「……奏夜。今日の練習の後って空いてますか?」
「あぁ。練習の後は番犬所へ寄るつもりだけど、問題はないぞ」
「すいません。実は、奏夜に相談したいことがありまして……」
「俺に?」
どうやら海未は、奏夜に何かを相談があるみたいだった。
「あぁ、俺は構わないぞ」
「ありがとうございます!あと、出来れば、小津先生も一緒だとありがたいのですが……」
「剣斗もか?わかった、剣斗にも声をかけておくよ」
海未は奏夜だけではなく剣斗にも相談に乗ってほしいとのことだったため、奏夜はそれを了承していた。
こうして、練習終了後に会う約束をした奏夜と海未はそのまま屋上へと向かっていった。
昨日、学園祭ライブの冒頭で新曲をやると決まり、練習は今まで以上にハードなものとなっていた。
新曲の練習だけではなく、他の曲の練習もしなければならない。
自然と練習量も増えていたのだが、奏夜はオーバーワークにならないよう、上手い具合に練習量を調節していた。
最初に既存の曲のおさらいを行い、それから新曲の練習を行う。
この日もこんな感じで練習は行われていた。
練習が終わり、この日は解散となり、奏夜は海未との約束通り、剣斗と共に残り、海未の話を聞くことにしていた。
「……すいません、奏夜。小津先生もお忙しい中なのに……」
「気にするなよ」
「奏夜の言う通りだ!それに、生徒の悩みを聞くのもまた、教師の仕事だからな!」
「……ありがとうございます。奏夜、小津先生」
海未は奏夜と剣斗に礼を言うと、本題を切り出すことにした。
「……最近、ことりの様子が変なのです」
「海未もやっぱり感じてたか。俺もそれは感じていたんだよ」
奏夜だけではなく、どうやら海未もことりの異変に気付いていたようであった。
「やはり、奏夜もそう思っていたのですね」
「もしかして、俺たちに何か隠してるんじゃないか?って思ってる」
「私もそう感じて聞いてはいるのですが、上手くはぐらかされてしまって……」
海未は海未でことりの異変を調べようとしていたのだが、成果はなかったみたいだった。
「なるほど……。確かにそのままにはしておけない問題だな。私の方でもそれとなく聞いてみよう」
剣斗は教師という立場を使い、ことりから話を聞き出そうとしていた。
「もちろん、俺もことりから話を聞いてみるよ。ことりが何かに悩んでいるなら見逃せないからな」
「すいません。奏夜、小津先生。頼んでもいいですか?」
「あぁ、任せろ!」
「もちろんだ!私だってμ'sの力になってみせるさ」
奏夜の目はやる気に満ちており、短い時間しかμ'sと関わっていない剣斗もまた、μ'sのために動こうと考えていた。
海未は奏夜と剣斗に相談することで少しは肩の荷が下りたのか、穏やかな表情をしていた。
海未の話は終わったため、奏夜は海未と別れて番犬所へと向かい、剣斗は教師としての仕事をするため職員室へ戻っていった。
※※※
海未との話が終わり、番犬所へ向かった奏夜であったが、この日の指令はなかったため、奏夜は街の見回りを行うことにしていた。
奏夜は暗くなるまで街の見回りを行っており、その後は家に帰ろうとしていたのだが、その前に奏夜の携帯が鳴っていた。
どうやら電話のようであり、奏夜は携帯を取り出した。
「……雪穂からか。珍しいな……」
どうやら電話の主は穂乃果の妹である雪穂であり、そのことに驚きながらも奏夜は電話に出ていた。
「……はい、どうした?雪穂」
『あっ、奏夜さん。すいません、こんな時間に……』
「いいっていいって。雪穂は俺に用事があったんだろ?」
『はい。奏夜さんには話しておいた方がいいと思いまして……』
雪穂はこう前置きをしてから再び語り始めた。
『最近お姉ちゃん、ラブライブに向けて凄い燃えているみたいで、夜も家を抜け出して練習をしているみたいなんです』
穂乃果は学園祭ライブを屋上でやると決まってから今まで以上にやる気に満ちているみたいであり、練習後も、夜に練習を行っているみたいだった。
「あの馬鹿……。オーバーワークはダメだってあれだけ言ったのに……」
雪穂からの報告を聞いて、奏夜は頭を抱えていた。
奏夜は練習の時に、メンバー全員がラブライブ出場に向けて燃えているからこそ、必要以上の練習をしないようにと釘を刺していた。
メンバーの誰かが倒れてしまえば、ライブどころではないからである。
「……わかった。教えてくれてありがとな、雪穂。俺の方からも話はするけど、雪穂も穂乃果が無茶をしないよう見張っていてくれないか?」
『もちろんです。お姉ちゃんはすぐ無茶をするので、私がしっかりと見張っておきます』
「悪いけど、頼んだぞ、雪穂」
『任せてください!それじゃあ、奏夜さん、おやすみなさい』
「あぁ、おやすみ、雪穂」
雪穂と奏夜はおやすみの挨拶をしてから電話を切った。
「……ったく、穂乃果のやつ、あいつも何とかしないとな……」
奏夜はことりだけではなく、穂乃果のこともなんとかしようと決意して、帰路についた。
翌日の放課後、この日も屋上で練習が行われていた。
「あぅぅ……。もうダメ……。もう動けないよぉ〜!」
この日も練習がハードだったからか、にこはその場に座り込んでいた。
「ダメだよ、にこちゃん!もう1セットだよ!」
穂乃果はバテバテなにこに喝を入れ、再び練習をさせようとしていたが、にこはこれを強く拒否していた。
「……穂乃果。私たちはともかくとして、あなたは休むべきです」
「大丈夫だよ!燃えてるから!」
海未は穂乃果の体を気遣って休むよう告げるのだが、穂乃果は聞く耳を持っていなかった。
「……穂乃果。お前はもう休め」
「もう、そーくんも海未ちゃんも心配性だなぁ。私はまだまだ平気だよ!」
奏夜もまた、穂乃果に休むよう告げるのだが、やはり穂乃果は話を聞こうとはしていなかった。
「ダメだ。オーバーワークはダメだってあれだけきつく言っただろう?それに、雪穂から聞いたが、夜も練習しているそうじゃないか」
奏夜はいつもの優しい口調ではなく、低くてドスの効いた声になっていた。
「うっ……。だって……」
「ラブライブに向けて頑張るというのはわかる。だが、1人でも無茶をして倒れてしまってはその努力も無駄な努力になるとは思わないか?」
「……」
奏夜は穂乃果をなだめるようにオーバーワークをやめるように伝えており、それが腑に落ちないのか穂乃果は少しだけムスッとしていた。
「穂乃果。目標に向かって頑張るお前のその姿勢は嫌いではない。しかし、自分の体調を鑑みず無茶な練習をすることはイイとは言えないな」
「小津先生まで……」
剣斗もまた穂乃果が無茶な練習をしていることを感じ取っており、穂乃果をなだめる発言をしていた。
「これはマネージャー命令だ。お前は休め。これ以上無茶な練習をすることは絶対に許さんからな」
「私もアイドル研究部の顧問として、無茶な練習はするなと言っておこう」
μ'sのマネージャーとアイドル研究部の顧問。
2人が無茶な練習をするなと断言してしまうと、穂乃果は何も言うことは出来なかった。
「……わかった。2人がそこまで言うならペースを落とすよ」
穂乃果はとりあえず話を聞き入れてはいたのだが、納得はしていなかった。
「……みんなも今日はここまでだ。絵里、構わないな?」
「えっ、えぇ……。今日やるべきことはやれたと思うから」
絵里が練習を切り上げることを了承したことで、この日の練習はここまでとなった。
「ラブライブも近いからもっと頑張りたい気持ちはわかる。だけど、誰かが無理をしてしまえばそれこそ本末転倒って奴だ」
奏夜は真剣な表情で語っており、そんな奏夜の言葉に全員が耳を傾けていた。
「だからこそ、みんなにも改めて言っておく。練習した後の練習は一切禁止する。夜中にこっそり走り込みをすることも許さんからな」
「!?」
奏夜の言葉は夜にこっそり走り込みを行っている穂乃果への牽制であるため、穂乃果は奏夜の言葉に驚いていた。
「……なんか、奏夜にしては珍しく偉そうね」
「それだけにこたちのことを心配してるってことじゃないの?」
奏夜がここまで偉そうな態度を取っていることに真姫は驚いていたのだが、にこはその態度は奏夜の心配の表れだということであり、そこまで驚いてはいなかった。
こうして、この日の練習は終わり、奏夜たちは解散となった。
「……なぁ、ことり。ちょっといいか?話があるんだけど」
奏夜はことりから直接話を聞き出すために帰ろうとすることりを引き止めていた。
「ごめんね、今日はこの後用事があるの……」
ことりは奏夜が何かを感づいていると感じているからか、奏夜を避けるべくこのような発言をしていた。
「ふむ……。今日はダメなら、明日の練習前であれば問題はあるまい?」
奏夜は引き下がらずに食い下がろうとしたが、その前に剣斗が話に入ってきた。
「!?小津先生……」
「明日の放課後、生徒指導室を空けておくからそこへ来るように。無論、奏夜もな」
「わかった」
剣斗は教師という立場を上手く使ってことりから話を聞き出そうとしていた。
さすがのことりも教師である剣斗にそう言われてしまっては何も言えず……。
「はい……。わかりました……」
「うむ。頼んだぞ」
こうして剣斗はことりと話をつけると、ことりは剣斗に一礼をして、逃げるようにその場から離れていった。
「……悪いな、剣斗。俺1人の力だったらきっとことりに避けられていた」
「気にするな。私は教師という立場を使わせてもらったことだ。それに……」
「それに?」
「友のために力を尽くす。それは当たり前のことではないか?」
「剣斗……」
剣斗は奏夜のことを友だと思っており、その友のために力を尽くしているという事実が、奏夜にとっては嬉しいものであった。
「本当にありがとな……剣斗」
「ふふ、礼を言うなら彼女の問題を解決させねばな」
「あぁ……!」
剣斗が話をする場を設けてくれたため、奏夜はことりが何に悩んでいるのかをどうしても聞き出そうとしていた。
「私は教師の仕事に戻ることにするよ。最近は私も忙しいが、たまにはゆっくり語り合おうではないか。暖かい床を用意しておくよ」
「あ、アハハ……。か、考えておくよ……」
剣斗の語り合おう発言に奏夜は苦笑いをしていた。
剣斗は教師としてこの音ノ木坂学院に潜り込んでから、度々このような会話をしているため、他の生徒からは奏夜と剣斗が只ならぬ関係ではないかと噂が流れていた。
そんな噂には奏夜はげんなりとしており、これを他の生徒に聞かれたらまた噂が激しくなりそうなため、苦笑いをしていたのである。
奏夜が苦笑いをしてるとはつゆ知らず、剣斗は自分の仕事へと戻っていき、奏夜も学校を後にした。
その後、番犬所へと立ち寄るのだが、指令はなかったため、奏夜は街の見回りを行ってから帰路についたのであった。
※※※
翌日の放課後、奏夜と剣斗は一足先に生徒指導室に来ており、ことりのことを待っていた。
穂乃果たちには練習に顔を出すのは少しだけ遅くなることは剣斗から伝えてあった。
奏夜が伝えるより、教師である剣斗から伝えた方が、色々と都合が良いと剣斗が判断したからである?
「さて……。ことりの奴、来てくれるといいが……」
「来るさ。一応は教師である私が来るように言ったのだから……」
奏夜は本当にことりが来てくれるかどうか心配だったが、剣斗は教師という立場を使って呼び出しているため、ことりは必ず来ると信じていた。
そんな剣斗の自信を裏付けるように、生徒指導室の扉が開くと、ことりが中に入ってきた。
「……ほら、私の言う通りだっただろう?」
本当にことりが来てくれたため、剣斗は「ふんす!」とドヤ顔をしていた。
「ことり、悪いな。剣斗を使ってまで呼び出してしまって」
「うん……。本当は行かないでおこうって考えてたけど、やっぱりそーくんには話しておいた方がいいなと思って……」
ことりは剣斗の呼び出しも無視しようと考えていたが、奏夜に伝えたいことがあったため、呼び出しに応じてこうして生徒指導室へ来たのであった。
ことりは浮かない表情のまま、空いている席に腰を下ろしていた。
「話しておいた方がいいってことは、やっぱり何かを隠していたんだな」
この奏夜の問いかけに、ことりは無言で頷いていた。
「このまま黙ってる訳にはいかないし、そーくんには話しておきたいの。あと、顧問の小津先生にも」
「相談ならいくらでも受けよう!私は今やこの音ノ木坂学院の教師だ。生徒の悩みを聞くのは当然のことだ!」
「それに、ことりはこれからだってスクールアイドルを頑張っていくんだろ?だからこそ、何か悩んでるなら……」
「……これからなんて、もう……ないよ……」
「え?」
ことりは浮かない表情でこのように呟いており、ことりの言葉の意味を理解出来ない奏夜は困惑していた。
その後、ことりの放った一言は、奏夜に大きな衝撃を与えるのであった。
それは……。
「……私ね、“留学”しようって考えているの……」
「……え?留……学……?」
「……」
ことりの突然の告白に、奏夜は大いに困惑しており、剣斗もまた、何も言う事は出来なかった。
「私、ずっと前から服飾の仕事に興味を持っていたんだけど、それをお母さんに相談したら、お母さんの知り合いの人が声をかけてくれたみたいで、それで……」
「……なるほどな」
何故ことりが留学などと口にしたのか、奏夜は事情を理解したのだが、未だに戸惑っていた。
「ふむ……。自らの夢を追いかけるために外国へ飛ぶか……。それは確かにイイことではあるが、しかし……」
剣斗個人としては、ことりの夢を応援したいと思っていたが、これからのμ'sのことを考えると、複雑な心境になっていた。
「その学校はとても良い学校みたいなんだけど、ちょっと不安なんだよね……」
「……」
「それでも、やっぱり挑戦はしてみたいって思ってるの。そう思えたのは、μ'sとして頑張ってきたからかな?」
「……なぁ、ことり。その留学の話っていうのはもう決まったことなのか?」
奏夜は1番気になっている疑問をぶつけるのだが、ことりは首を横に振っていた。
「まだ返事はしてないの。学園祭当日までに決めなきゃいけなくて、もし行くのなら、学園祭から2週間後に日本を発つの」
ことりが留学行きを決断するまでの時間は僅かであり、もし留学に行くのならばそう遠くない未来にことりとは離ればなれになってしまうのである。
「ねぇ、そーくん。小津先生。私、どうすればいいのかなぁ?お母さんは自分で決めることだって言ってたけど、やっぱりまだ迷ってて……」
ことりは、夢を追いかけたいという気持ちが強い一方、奏夜たちと離ればなれになりたくないという気持ちも強かった。
だからこそ葛藤は大きく、ここ最近浮かない表情ばかり浮かべていたのである。
「うむ。ことりの母君のいうことはもっともだろう。これは君にとっての重要な人生の選択だ。どちらを選んでも後悔のないようにした方がいい。……曖昧な表現で申し訳ないが、私が言えるのはここまでだ」
剣斗の意見は、大人ならではの冷静な意見だった。
「そーくんは?そーくんはどう思う?」
「俺か?俺は……」
今度は奏夜がことりの問いに答える番なのだが、奏夜は唇を噛み締め、両手の拳をギュッと握っていた。
そして……。
「……行かないで欲しい……」
奏夜は弱々しくこのように答えるのだが、これは奏夜の心からの本音だった。
「そーくん……」
「だってそうだろう!?俺はこれからだってことりと一緒にいたいと思ってる。穂乃果や海未だって、きっと……」
「そーくん……。ありがとう……」
奏夜の心からの本音を聞き、ことりは奏夜に礼を言っていた。
「だけど、俺のエゴをお前に押し付ける訳にはいかない。さっき剣斗が言ってた通り、後悔のない選択をするのが1番だ」
『そこに関しては俺も同意見だ。お前が夢に向かって頑張るなら俺も奏夜も応援するさ』
「無論、私もな!」
「キー君……。ありがとう……」
『やれやれ……。本当ならその呼び方はやめて欲しいが、今は何も言うまい』
キルバはキー君と呼ばれるのが好きではなかったのだが、今回はそこに対して文句を言わなかった。
「……あっ!このことはまだみんなには話さないでね。みんな学園祭に向けて燃えてるから、それに水を差したくないから……」
「ことり……。お前……」
ことりは自分が留学するかしないかの問題を抱えてなお、μ'sの心配をしていた。
「……うむ。私は時が来るまで他言しないと約束しよう」
『俺も約束しよう。奏夜、お前はどうなんだ?』
「……あぁ。可能な限り約束するよ」
奏夜は約束すると断言することは出来ず、このような曖昧な言葉になってしまっていた。
「……ありがとう」
こうして、奏夜と剣斗はことりが抱える問題を知り、ことりは話すべき話を終えると、生徒指導室を後にした。
「……」
そんなことりの様子を見送っていた奏夜は、悲痛な表情を浮かべていた。
「……奏夜、わかっているとは思うが、みんなの前では普通に接するのだぞ」
「あぁ、わかってる……」
剣斗は悲痛な表情を浮かべている奏夜を見かねてフォローを入れるような発言をしていた。
奏夜もそこはわかっていたため、出来る限りいつも通り振る舞おうと思っていた。
こうして奏夜と剣斗も生徒指導室を後にすると、共に屋上へ向かい、練習を行っている穂乃果たちと合流した。
ことりは何事もなかったかのように練習に参加していた。
それは、今まで溜め込んでいた話を奏夜にすることが出来たため、少しだけ気が楽になったからだと思われる。
そのことに奏夜は安堵したため、自然と何事もなかったかのように練習に参加することが出来た。
剣斗がことりを呼び出した事は他のメンバーも知っているため、何で呼び出されたのかと勘繰られたのだが、剣斗はμ'sのことを知りたいためにことりから話を聞いていたと説明していた。
教師である剣斗の言葉だったため、穂乃果たちは疑うこともなく信じていた。
それだけではなく、他のメンバーもμ'sのことなら何でも聞いて欲しいと剣斗に迫る場面もあった。
こうしてこの日の練習は終わり、解散となった。
海未には何かわかれば教えると話していた奏夜であったが、事が事なので、正直に話すことは出来なかった。
しかし、剣斗が上手い具合に話を誤魔化してくれたため、海未は奏夜に追求することがなかったのが幸いであった。
そのため、翌日以降、ことりだけではなく、奏夜もまた、浮かない表情を浮かべるようになっていた。
※※※
こうして奏夜はことりの留学を誰にも相談することが出来ず、時間だけが無情にも過ぎていってしまった。
現在は学園祭前日であり、翌日は学園祭である。
翌日は本番だということもあり、奏夜と剣斗はこの日の練習を早めに切り上がらせた。
やる気に満ちている穂乃果は納得していなかったが、奏夜と剣斗が強く釘を刺していたため、渋々それを受け入れていた。
現在は夜であり、外はあいにくの雨模様ではあったのだが、奏夜は街の見回りを行っていた。
ある程度街の見回りを終えた奏夜は、穂乃果たちとよく行っているファストフード店に来ていた。
「……」
この日も奏夜は、何かを迷っているため、何か考え事をしていた。
(……ことりには誰にも言うなって言ってたけど、やっぱり、俺は……)
留学の話は他言無用と言われてはいたものの、奏夜はそれを貫くことが出来なかった。
《おい、奏夜。お前、まさか……》
キルバは奏夜が何をしようとしているのか理解していた。
奏夜は携帯を取り出して、誰かに電話をかけようと思ったのだが、その前に携帯が鳴っていた。
どうやら海未から電話みたいである。
「海未?ちょうど良かったな……」
奏夜はどうやら海未に電話をかけるみたいだったため、すぐに電話に出たのであった。
「……はい。どうした、海未?」
『……奏夜。今、大丈夫ですか?』
「あぁ、どうしたんだ?」
電話をかけてきた海未は、心なしか元気がないように見えた。
『ことりのことなんですが……』
海未はバツが悪そうに話を切り出しており、一呼吸置いてから再び語り始めた。
『留学……するみたいです』
「……」
どうやら、海未はことりから直接留学の話を聞いたみたいだった。
『……奏夜?』
「海未、悪い。実は俺も聞いたんだ。留学について」
『そうなんですか?』
奏夜がこの話を知っているとは思わなかったのか、海未は驚きを隠せずにいた。
「いつだか、剣斗がことりを呼び出していただろ?その時に聞いたんだよ」
『……そうだったのですね……』
「ごめんな、海未。何かあったら話すって約束したのに……」
奏夜は今まで海未に留学のことを話せずいたため、そのことを謝っていた。
『奏夜、謝らないでください。ことりに口止めを頼まれたのでしょう?あの子は優しい子です。色々と気を遣わせたくなかったのでしょう』
「ありがとな、海未」
『先ほどことりから電話がかかってきて、それで留学のことを聞いたのです』
どうやら海未は今しがた留学の話を聞いて、すぐ奏夜に電話をしていたみたいである。
「ことり、まだ迷っていたか?」
『えぇ。それに、まだ穂乃果には話していないそうです』
「そっか……。穂乃果のやつ、今はラブライブに向けて一直線だからな……」
『そうですね……。ことりからの電話の前に穂乃果にも電話をしましたが、やはりと言いますか、ことりの異変には気付いていないみたいです』
「やっぱり……」
穂乃果はことりの異変に気付いておらず、その事実に奏夜は頭を抱えていた。
『奏夜が知っていたのは驚きですが、ことりのことを共有出来て本当に良かったです』
「俺もだよ。明日も早いんだ。海未はそろそろ寝たほうがいいぞ」
『えぇ、そうします。奏夜は魔戒騎士の仕事をしているのでしょう?ほどほどにして休んで下さいね』
「俺もそうさせてもらうよ。それじゃあ、おやすみ、海未」
『えぇ。おやすみなさい、奏夜』
互いにおやすみの挨拶を済ませると、奏夜は電話を切った。
「……俺も帰るとするか」
奏夜はそのまま家に帰ろうとしたため、携帯をポケットにしまおうとしたのだが、その前に再び携帯が鳴っていた。
「……?雪穂?」
電話をかけてきたのは雪穂であり、奏夜はすぐに電話に出ていた。
「もしもし、どうした?」
『奏夜さん、大変です!』
雪穂は慌てた様子だったため、奏夜は首を傾げていた。
『お姉ちゃんなんですけど、今日も練習に行ってるみたいなんです』
「!?今日も?」
『ごめんなさい。実はお姉ちゃん、私の目を盗んで走ってたみたいで、さっきもお母さんから聞いてわかったんです』
「わかった。俺は今外に出てて、帰ろうって思ってたところだからすぐに穂乃果を連れ戻すよ」
『すいません、お願いします。奏夜さん』
奏夜は穂乃果を連れ戻すことを雪穂に伝えると、そのまま電話を切り、携帯をポケットにしまった。
「……あの馬鹿……!オーバーワークはダメだってあれだけ言ったのに……!」
奏夜はトレイに入ったものをゴミ箱に入れてトレイをゴミ箱の上に置くと、ファストフード店を後にした。
穂乃果が走り込みをしているなら思い当たる場所があるみたいであり、奏夜はそこへと向かっていた。
その場所は神田明神であり、奏夜はそこで階段ダッシュを行っている穂乃果をすぐに見つけていた。
「ったく……。この雨だっていうのにあいつは……」
奏夜は雨にも関わらず走り込みをしている穂乃果に呆れながら、穂乃果の方へと向かっていった。
「……こんなところにいたか、穂乃果」
「そ、そーくん!?」
こんなところで奏夜に会えるとは思っていなかったからか、穂乃果は驚いていた。
「ったく、お前って奴は……。明日は早いんだから、さっさと帰るぞ、穂乃果」
『奏夜の言う通りだ。今更走り込みをしても意味などないからな』
奏夜とキルバは穂乃果を連れて帰るために説得を試みるのだが……。
「……やだよ……」
「……穂乃果?」
「やだよ!!だって、私にはまだやれることがあるんだよ!?それをしないだなんて……。絶対にやだ!」
穂乃果は奏夜とキルバの説得に全く応じようとはしなかった。
『おいおい、穂乃果。お前なぁ……』
そんな穂乃果にキルバは呆れ果てており、一言物申そうとしたのだが……。
「……ふざけたことを言うのも大概にしろよ……!」
奏夜は穂乃果に対して怒鳴ることはせず、ドスを利かして静かに怒っていた。
「そ、そーくん……?」
「オーバーワークはダメだとあれだけ言っただろ?それは、体を休めることも大切なことだからだ」
「……」
奏夜の口調が説教のようになっており、穂乃果は少しだけむすっとしていた。
「……お前のひたむきに頑張る姿勢は嫌いじゃないけど、前日に体を酷使したところで何になる。誰かが無茶をして体調を崩したら、全てが無駄になるって何でわからない!?」
奏夜は今自分が思っていることを穂乃果に伝えていた。
他のメンバーにもしつこいくらいに話していたのだが、1人の無茶がせっかく築き上げてきたライブを台無しになる可能性がある。
それに、前日に体を休ませずに酷使をするのは決して効率がいいとは思えなかった。
そのため、奏夜の発言は的を得たものであるのだが……。
「……そーくんにはわからないよ……」
「……?穂乃果?」
穂乃果は弱々しく呟いていたため、奏夜は聞き取ることが出来ず、首を傾げていた。
そして……。
「そーくんにはわからないよ!!私たちがどんな思いで頑張ってきたのかを!」
「そんなことはないだろ!?俺は……」
穂乃果の言葉に奏夜は異議を唱えようとしたのだが……。
「だってそーくんは……。私たちとは“住む世界が違う”んだもん!!」
「!!?」
奏夜は穂乃果の言葉を聞いて愕然としてしまった。
奏夜にとっては1番聞きたくなかった言葉だったからである。
『おい、穂乃果。さすがに今の発言は……』
「キルバ!いいんだ!!」
キルバは穂乃果の失言とも言える発言に物申そうとするが、奏夜がそれを遮っていた。
「あっ……」
穂乃果は、言ってはいけないことを言ってしまったと思ってしまったのか、逃げるようにその場を立ち去っていった。
「……」
奏夜は穂乃果から言われてしまったことが胸に突き刺さってしまったからか、悲痛な表情をしており、そんな奏夜をあざ笑うかのように雨が強まっていた。
『……奏夜。あいつらとは住む世界が違うなど、始めからわかっていたことだろう?あまり気にするな』
「……それはわかってる。わかってるけど……」
奏夜は両手の拳をギュッと握りしめ、唇を噛んでいた。
『穂乃果がワガママなのは今に始まったことではあるまい?自分のやりたいことを止められて、咄嗟に出た失言だ。だからあまり気にするな』
本来のキルバであれば、厳しい言葉を放って奏夜を奮い立たせるところだが、それをするとさらに奏夜が立ち直れなくなると判断したため、優しく奏夜をなだめていた。
「……本当にそうだろうか?」
『……奏夜?』
「魔戒騎士がどうこうとかじゃないんだ。俺はμ'sのマネージャーであって、実際にパフォーマンスをするのはみんなだ。マネージャーとパフォーマーでは住む世界が違うのは当たり前なのかもしれないな……」
奏夜は穂乃果の言葉が深く胸に突き刺さっているせいか、穂乃果の言葉を真に受けていたのである。
『ったく、お前ってやつは……。とりあえず帰るぞ、奏夜。お前まで体調を崩してしまってはあいつらも心配するだろうしな』
「……そうだな」
奏夜は未だに立ち直れてはいないのだが、どうにか気持ちを切り替えて帰ろうとしていた。
……その時だった。
「……まったく、随分とひどい言われようじゃないか。そこまで言われるとは、本当に哀れだな、お前」
銀髪で長身の男が、奏夜と穂乃果の一部始終を見ていたからか、煽るような発言をしていた。
「……ジンガ……!!何しに来た!」
その男の正体はジンガであるため、奏夜はジンガを睨みつけていた。
「おいおい、ずいぶんとつれないじゃないか。俺だってずっと拠点にこもってるのも暇でな。抜け出してきたって訳さ。まぁ、尊士はあまりいい顔はしてなかったけどな」
どうやらジンガは暇つぶしのために近辺をぶらついていたみたいだった。
「そしたら、ずいぶんと面白いもんが見れたって訳さ。あのお嬢ちゃんにちょっかいをかけてライブの邪魔をするのも一興と思ったが、その必要はないみたいだしな」
ジンガは奏夜をあざ笑うかのように楽しげな口調で奏夜を煽っていた。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そんなジンガの態度に怒りを露わにした奏夜は、魔戒剣を抜くと、ジンガに斬りかかった。
しかし、ジンガは魔戒剣に似た剣で奏夜の攻撃を軽々と受け止めていた。
「おいおい、そんなありきたりな挑発に引っかかるなよな。白けるだろ?」
「黙れ!ここでお前を倒して、ニーズヘッグの復活を阻止する!」
「へぇ、随分と強気だな。だが、お前に俺が斬れるかな?」
ジンガは飄々としながら奏夜を牽制しており、剣を振るって奏夜を吹き飛ばしていた。
「くっ……!」
『奏夜!今のお前では奴を倒すなど無理だ!戦おうなどと考えずさっさと逃げろ!』
キルバはここでジンガと戦うのは得策ではないと考えており、奏夜に逃げるように告げていた。
「まぁ、俺としては逃げてくれても構わないんだがな」
ジンガとしては、奏夜と穂乃果のすれ違う様子を見られたため、ここで奏夜を逃しても良いと思っていた。
「ここで尻尾を巻いて逃げるってのは魔戒騎士の名折れだろ!」
奏夜はここでおめおめと逃げ出すような真似はしたくないと思っていた。
『冷静になれ!ここでお前が死んだらあいつらはどうなる!?そんなこともわからないのか!!』
「っ……!?だけど、俺は……!」
キルバの言葉は的を得ているのだが、奏夜はやはりここで退くようなことはしたくはなかった。
勝てないにしても、やれるところまでは戦いたいと思っていたからである。
「フン、その選択……。後悔するなよ!」
こうして奏夜は逃げ出すチャンスを投げ出してまで、ジンガに戦いを挑むことになった。
「はぁっ!!」
奏夜は魔戒剣を一閃するのだが、それはジンガに軽々と受け止められてしまった。
「くっ……!」
「お前、だいぶ強くなったみたいだが、心が乱れまくってるな。そんなんで俺に勝てるとでも?」
「!?」
ジンガは即座に奏夜の心境を読み取っており、奏夜の心が乱れていることも即座に見切っていた。
自分の心境を見切られてしまい、奏夜は驚きを隠せなかった。
「だとしたら……。俺もずいぶんとナメられたもんだな!」
ジンガの言葉には少しだけ怒気が込められており、ジンガは渾身の力で剣を振るっていた。
「くっ……!」
その一撃で、奏夜は吹き飛ばされてしまった。
「どうした?まさか、その程度で俺を倒そうなどとほざいている訳じゃないよなぁ?」
「当たり前……だろ!」
奏夜は実力差が相手であるにも関わらず怯まずに向かっていった。
しかし、ジンガに見透かされた通り、心が乱れてしまっているため、あと一歩踏み込むことが出来なかったのだ。
そのため、ジンガに決定的な一撃を与えることは出来ず、ジンガもそんな奏夜を軽くあしらっていたのである。
「くっ……くそっ……!」
奏夜はジンガに決定的な一撃を与えられず、焦りを見せていた。
「ふん、お前がどれだけ強くなろうと、そんな状態で俺に勝とうなどとは、お笑いだぜ」
「黙れ!!」
奏夜は魔戒剣の柄を力強く握りしめると、そのままジンガへと向かっていった。
しかし……。
「……甘いな!!」
ジンガは手にしている剣を力強く振り降ろすと、奏夜の手にしている魔戒剣を弾き飛ばしていた。
「なっ……!?」
「じゃあな!未熟な魔戒騎士!!」
奏夜に狙いを定めたジンガはそのまま……。
奏夜の体に……。
剣を突き刺したのであった。
「ぐはっ!!」
ジンガに剣を突き刺され、奏夜は口から血を吐いてしまっていた……。
……続く。
__次回予告__
『おい、奏夜!しっかりしろ!ここでお前が倒れたらμ'sのみんなはいったいどうなるんだ!?次回、「波乱」。波乱に満ちたライブが、今始まる!』
ついに奏夜がことりの留学を知ってしまいました。
奏夜だけではなく、剣斗や海未も知ることになったのですが。
それにしても、剣斗は奏夜にとっての良い理解者ポジになってきましたね。
奏夜を友と呼んでいるからこそだとは思いますが。
そんな剣斗の存在が、奏夜にとって多少の救いになっている思います。
そして、奏夜と穂乃果のすれ違い。
ほのキチである僕にとっては辛い展開ですが、当然ここから挽回はします。
そらにまさかのジンガとの直接対決。
奏夜も強くはなっていますが、タイミングが悪過ぎましたね。
ジンガの剣に貫かれてしまった奏夜ですが、奏夜は次回、どうなってしまうのか?
この章は学園祭までの話となっているので、次回が「波乱の学園祭編」は終わりの予定となっています。
それでは、次回をお楽しみに!