牙狼ライブ! 〜9人の女神と光の騎士〜   作:ナック・G

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お待たせしました!第4話です!

この作品を投稿してからおよそ1週間となりますが、もうすぐUAが1000を越えそうです。

僕が思っている以上にこの作品を読んでくれる方がいるようで、嬉しい限りです。

これからもこの作品をよろしくお願いします!

さて、今回はラブライブ!の本編プラスオリジナルの話となっています。

スクールアイドルとして動き始めた奏夜たちですが、これから奏夜たちを待ち受けているものとは?

それでは、第4話をどうぞ!




第4話 「疑惑」

音ノ木坂学院は現在、廃校の危機を迎えており、そんな危機から救うべく、穂乃果たちはスクールアイドルを始めることにして、奏夜はそんな3人のマネージャーとダンスコーチを引き受けることになった。

 

その翌日、奏夜たちは朝早くではあったが、再び生徒会室を訪れていた。

 

穂乃果は絵里に1枚の書類を提出するのだが……。

 

「……朝から何?」

 

朝早くから何かの申請に来た奏夜たちに、絵里は少々呆れ気味であった。

 

「講堂の使用許可をいただきたいと思いまして」

 

「部活動に関係なく、自由に講堂を使用出来ると生徒手帳に書いてありました」

 

穂乃果の言う通り、この書類は講堂の使用許可書だった。

 

スクールアイドルを始めるのはいいのだが、ライブの日だけは決めておこうとその日のうちに話し合いが行われ、ライブを行うために講堂の使用許可を貰おうと生徒会室を訪れたのである。

 

さらに、部活動でなくても、予定が空いてさえいれば自由に講堂は使えると生徒手帳に書かれたため、申請の日が空いていれば、生徒会は何も言うことは出来ないのであった。

 

部活でなければ講堂を使うことは出来ないと思っていたので、そうではないと知ることが出来たのは、奏夜たちにとって大きな収穫だった。

 

そして、そのライブを行う日付は……。

 

「新入生歓迎会の日の放課後やねぇ」

 

およそ1か月後に新入生歓迎会が行われるのだが、その日の放課後にライブを行う予定であった。

 

その歓迎会自体は講堂で行われるが、それが終わってしまえば他の部は使わないだろうと判断したからである。

 

「……何をするつもりなの?」

 

絵里は訝しげな表情で、講堂使用の目的を聞いていた。

 

「それは……」

 

海未は、ハッキリとライブをすると言っていいものかと口をつぐんでいたのだが……。

 

「……ライブです」

 

穂乃果がハッキリとライブをすると宣言してしまった。

 

「3人でスクールアイドルを結成したので、その初ライブを講堂で行うことにしたんです」

 

「まぁ、具体的な内容は決まってませんが、やるとは決めてますので」

 

穂乃果がハッキリと言ってしまったので、奏夜がフォローを入れるために毅然とした態度でライブを行うとさらに宣言していた。

 

「……本当に出来るの?新入生歓迎会は遊びじゃないのよ?」

 

絵里は棘のある冷たい言葉を言い放ったのだが……。

 

(なんだと……!!そんなことはわかってんだよ!!)

 

そんな絵里の言葉に腹を立てた奏夜は、苛立ちのあまり反論をしようとしていた。

 

しかし……。

 

《おい、奏夜!落ち着け!!ここでの反論は得策じゃないだろう!!》

 

(!?た、確かにそうだな……)

 

キルバがテレパシーを用いて奏夜をなだめると、キルバの言葉に奏夜は平静さを取り戻していた。

 

「3人……。まぁ、君を入れて4人か。みんなは講堂の使用許可を取りに来たんやろ?部活でもないのに生徒会が内容までとやかく言う権利はないはずや」

 

「それは……」

 

副会長である希は何故か奏夜たちに肩入れする発言をしており、その言葉に絵里は反論出来なかった。

 

(……?何で副会長は俺たちの味方をしてくれるんだ?)

 

《さぁな。とりあえずライブは出来るみたいだし、良かったじゃないか》

 

(確かにそうだな……)

 

何故副会長である希が自分たちの肩を持つのかはわからず解せなかったのだが、結果的に申請書は受理されたので、奏夜は深いことを考えるのはやめることにしたのである。

 

こうして、講堂の使用許可書が受理され、奏夜たちは生徒会室を後にした。

 

奏夜たちがいなくなって間もなく……。

 

「……何故あの子たちの味方をするの?」

 

絵里は、希が奏夜たちの味方をしたことが気に入らなかったのか、その真意を確かめようとしていた。

 

そんな中、希は穏やかな表情で笑みを浮かべると、何故か生徒会室の窓を開けていた。

 

「……何度やってもそうしろって言うんや」

 

「え?」

 

絵里は希の言葉の真意がわからず戸惑っていたが、近くにタロットカードが置かれているのを見て、すぐに言葉の真意を理解していた。

 

「……カードが……」

 

希がこう呟くと、突如突風が吹き荒れると、カードは宙を舞い、2枚のカードが壁に叩きつけられていた。

 

そのカードは、太陽の正位置と、ソードの騎士の正位置であった。

 

太陽の正位置は、明るいことが起こる兆しがあるということであり、ソードの騎士の正位置は、勇気を振り絞ることで成功に繋がるという意味である。

 

しかし、ソードの騎士の意味はそうではなく、魔戒騎士である奏夜の存在を示しているようにも見えた。

 

「……カードがウチにそう告げるんや!!」

 

希はこう力強く宣言したのだが、強く吹き荒れる風をなんとかして欲しいと絵里は望んでいたため、すぐに窓は閉められたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして講堂を借りることが出来た奏夜たちだったが、その後は普通に授業を受けていた。

 

そして、とある休み時間、ことり以外の3人が中庭で腰を下ろしていた。

 

どうやらことりはやることがあるようであり、この場には来れそうにないようである。

 

「ちゃんと話したじゃないですか。ライブのことは伏せておいて借りるだけ借りておこうと」

 

「ふぁんふぇ?」

 

海未はどうやらあっさりとライブをすることを打ち明けた穂乃果に一言物申したいようであるのだが、穂乃果はパンを頬張りながら首を傾げていた。

 

「……またパンですか……」

 

「私の家は和菓子屋さんだからパンが珍しいの知ってるでしょ?」

 

穂乃果は和菓子屋の娘であるため、お菓子は洋菓子より和菓子が多く、食事も洋食より和食の方が多かった。

 

そのため、穂乃果はパンに対して憧れを抱くうちにパンが大好物となってしまったのである。

 

「お昼前なのに……。太りますよ……」

 

まだ昼休みまでは時間があるにも関わらず、パンを頬張る穂乃果に、海未は呆れていた。

 

しかし、穂乃果は気にする素振りはなくパンを頬張っていた。

 

その時であった。

 

「おーい!そこの3人!!」

 

奏夜たちに声をかけてきたのは、クラスメイトである3人であり、穂乃果も仲良くしている少女たちだった。

 

「……よう、ヒフミトリオ!3人揃ってどうしたんだ?」

 

奏夜たちに声をかけてきた3人はヒデコ、フミコ、ミカの3人であるため、奏夜は親しみを込めて3人のことを「ヒフミトリオ」と呼んでいた。

 

「……奏夜君……。その呼び方はいい加減やめようよ……」

 

ヒフミトリオの1人である、短めのツインテールが特徴のミカは、奏夜にヒフミトリオと呼ばれるのを良しとしてないのか、苦笑いをしていた。

 

「まぁ、それはともかく、掲示板見たよ!スクールアイドルを始めるんだって?」

 

今度はヒフミトリオの明るい髪が特徴的のヒデコが本題を切り出してきた。

 

「掲示板?」

 

ヒデコから聞いた思いもよらぬ言葉に、奏夜は首を傾げていた。

 

「まさか海未ちゃんがやるなんて思わなかったよ」

 

「あ!もしかして、奏夜君も一緒に踊ったりするの?」

 

「おいおい。そんな訳はないだろ?まぁ、穂乃果たちのダンスのコーチとマネージャーは引き受けたけどな」

 

「そうだよねぇ。奏夜君ってダンス得意だもんねぇ」

 

奏夜の特技がダンスであるということは、どうやらクラス中に広まっているらしく、ヒフミトリオの3人も知っているようだった。

 

「それよりも穂乃果。掲示板に何か貼ったのか?」

 

「うん!ライブのお知らせを!」

 

「!?」

 

「アハハ……。いつの間に……」

 

海未はライブのお知らせを貼ったと聞いて驚愕しており、奏夜は穂乃果の素早い行動に苦笑いをしていた。

 

この場にことりの姿はないため、ポスターを作って貼ったのはことりであるということが容易に予想出来た。

 

こうして、ヒフミトリオと別れた奏夜たちは教室に向かったのだが……。

 

「勝手すぎます!あと1か月しかないんですよ?まだ何も決まってないのに……。見通しが甘過ぎます!」

 

「でも、ことりちゃんはいいって言ってたよ」

 

「おいおい……。せめて俺や海未にも相談してくれよ……」

 

海未は勝手にライブのお知らせを貼ったことに怒っており、奏夜は自分や海未に相談がなかったことに呆れていた。

 

「……でもまぁ、結果的にこの学校にもスクールアイドルが出来たと知らしめることが出来たんだから、そこは良かったんじゃないのか?」

 

しかし、結果オーライだと感じた奏夜は、これ以上穂乃果に反対意見を言ったりはしなかった。

 

このようなやり取りをしているうちに教室へと到着したのだが、教室に入ると、スケッチブックを手にして何かを描いていることりの姿を発見した。

 

「……よう、ことり。何を描いてるんだ?」

 

奏夜はことりの席まで移動してことりに声をかけるのだが、ことりはスケッチブックに集中しているからか何も答えなかった。

 

「……よし、こんなもんかな♪」

 

ことりはスケッチブックに絵を描いていたようだが、どうやらその絵が完成したようである。

 

「ねぇねぇ、見て見て。ステージ衣装を考えてみたの!」

 

どうやらその絵というのが、ライブの時に着る衣装のデザインであった。

 

「へぇ、なかなか上手いじゃん!」

 

「うんうん!凄く可愛いよ♪」

 

ことりの描いた絵は女の子らしい可愛らしいものであり、そのクオリティに奏夜は感心し、穂乃果はキラキラと目を輝かせていた。

 

「本当?ここのカーブのラインが難しいんだけど…。何とか作ってみようかなって…」

 

「え!?作ってみようって……。ことりがこの絵の衣装を作るってことか?」

 

「うん!」

 

どうやらことりは衣装のデッサンだけではなく、実際に衣装も手作りするつもりのようだった。

 

「凄いな……。頑張ってな、ことり!」

 

「うん!私、頑張るね♪」

 

奏夜にエールを送られ、ことりはさらにやる気を出したようである。

 

そんな中、ことりの衣装を見ていた海未は何故か感想を言わなかったのだが、それはある部分が気になっていたからであった。

 

その部分とは……。

 

「……ことり。ここのスーッと伸びているところはなんですか?」

 

海未は衣装を描いた絵の脚の部分を指すと、ことりに確認を取っていたのだが……。

 

「脚よ♪」

 

ことりはあっさりと返答していた。

 

「素足に、この短いスカートということでしょうか……」

 

どうやら海未は短いスカートは着たくないのか、往生際の悪いことを言っていた。

 

「だって、アイドルだもん♪」

 

「……それって理由になるのか……?」

 

アイドルだからという単純明快な理由に疑問を抱いた奏夜は首を傾げるのだが、海未はしきりに自分の脚を気にしだしていた。

 

すると……。

 

「大丈夫だよ!海未ちゃん、そんなに脚太くないよ!」

 

穂乃果は海未の体に乗っかってフォローをいれるのだが、あまりに直球すぎる言葉だったため、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「……人のことが言えるのですか?」

 

あまりに直球な言葉だったのが面白くなかったのか、海未は穂乃果にこう問いかけをした。

 

すると穂乃果は海未から離れると、自分の体を気にし始めた。

 

しばらく自分の体をチェックしていたのだが……。

 

「……よし!ダイエットだ!」

 

自分の体型が少し気になるのか、穂乃果はダイエット宣言をしていた。

 

「やれやれ……。アイドルやるんだからダイエットは殊勝な心がけだけど、あまり無理はダイエットはするなよ?体調を崩しちまうからな」

 

「う……うん。わかったよ」

 

ダイエットについて奏夜にたしなめられると、穂乃果は素直に返事をしていた。

 

「それよりも決めなきゃいけないことはたくさんあるぞ。例えば、グループ名とか」

 

「……!た、確かにそうだね!」

 

グループ名を決めるという発想はなかったからか、それを聞いた穂乃果は少し焦っていた。

 

《おいおい……。こんなんで大丈夫なのかよ……》

 

(……多分)

 

決めるものも多く、前途多難な幕開けとなっていることに、キルバと奏夜は不安がっていた。

 

しかし、そうだとしても奏夜は穂乃果たちを支えていこうと決めていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして放課後になると、奏夜たちは教室で、自分たちのグループ名をどうするか話し合っていた。

 

しばらく4人で案を出し合おうとしていたのだが……。

 

「ダメだ……。全く思い付かん」

 

「私たち3人に何か特徴があればいいんだけど……」

 

「今考えてみると3人とも特徴も性格もバラバラですからね……」

 

海未の言う通りこの3人は見事に性格がバラバラで、共通点がなかなか思いつかなかった。

 

「あっ、こんなのはどう?私たちの名前を取って「ほのかうみことり」なんてのは」

 

「……それじゃまんま漫才師じゃねぇか……」

 

穂乃果の考えた名前が明らかに漫才師っぽかったため、奏夜はジト目で穂乃果を見ていた。

 

「それじゃあこんなのは?海未ちゃんは海。ことりちゃんは空。そして穂乃果は陸。名付けて「陸海空」!」

 

「まんま自衛隊じゃねぇか…」

 

「それに全然アイドルっぽくないよね…」

 

アイドルっぽくない名前が再びあがってきたことに、奏夜は呆れ果てていた。

 

「むぅ……!そういうそーくんは何かいいアイディアはないの?」

 

立て続けにツッコミを入れられたのが気に入らなかったのか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「そうだな……」

 

奏夜はグループ名に相応しい名前は何かないか考えていたのだが……。

 

「……恩那組(おんなぐみ)……」

 

奏夜は思いついたフレーズを呟くのだが……。

 

《……おい、奏夜。その名前はどこかで聞いたことがあるんだが……》

 

(あ、そう言えばそうだったな)

 

奏夜の考えた恩那組はどこかで使われていたみたいなので、ボツになった。

 

穂乃果たち3人は、奏夜のセンスに呆れていたので、どちらにせよボツなのだが……。

 

それからも色々とアイディアを出し合うのだが、良い案は思いつかなかった。

 

そんな中……。

 

「……あっ、そうだ!」

 

穂乃果が何か思いついたようであった。

 

その思いついたものとは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……丸投げですか…」

 

穂乃果が考えてた案は初ライブのポスターが貼ってある場所のすぐ近くに目安箱を置いて、それを見た人にグループ名を決めてもらうというものだった。

 

「でもまぁ、こっちの方がみんなも興味を持ってくれるかもな」

 

「そうかもね♪」

 

いい名前がいつ出てくるかはわからないが、グループ名を決めることに関しては保留にすることが出来た。

 

次は歌と踊りの練習をしようとのことで練習場所を探そうとしていたのだが……。

 

《……おい、奏夜。番犬所から呼び出しみたいだぞ》

 

練習場所を確保しなきゃいけない大事なところで、番犬所から呼び出しが来てしまった。

 

奏夜としてはこのまま穂乃果たちと行動を共にしたいと思っていたのだが、番犬所からの呼び出しを無下にすることは出来なかった。

 

そのため……。

 

「……悪い。練習場所探すのを協力したいんだけどさ、用事が出来ちまったから、俺は帰るな」

 

「えぇ!?今から練習場所を探さないといけないのに……」

 

「本当にごめんな!埋め合わせは必ずするから……。それじゃあな!」

 

奏夜は穂乃果たちに用事があると告げると、追求を避けるために逃げるようにその場を後にした。

 

1度教室に戻って鞄や魔法衣などを回収した奏夜は、そのまま学校を後にして、番犬所へと向かっていった。

 

「……」

 

そんな中、海未は逃げるように立ち去る奏夜を、憂いを帯びた瞳で見つめていた。

 

(……奏夜……。今日も用事ですか……。それにしても妙ですね……。そんな毎日のように用事があるだなんて、奏夜はいったい何をしているんでしょうか……)

 

奏夜はここ最近毎日のように用事があると言って帰ることが多かったのだが、海未はそれを怪しんでいた。

 

(……!!そういえば奏夜は、普通の人じゃ出せないような殺気を出してましたけど、もしかして危険なことをしてるんでしょうか……?)

 

昨日、奏夜が生徒会長である絵里に対して殺気のようなものを放った時からただ者ではないことは理解していたのだが、奏夜が危険なことをしてるのではないかと疑っていた。

 

海未の推理は良いところまでいっているのだが、奏夜が魔戒騎士であることは知る由もなかった……。

 

そんな中、穂乃果も逃げるように立ち去る奏夜を憂いを帯びた瞳で見つめていたのであった。

 

2人がそんな表情を浮かべていることにことりは戸惑っており、キョロキョロと穂乃果と海未を交互に見ていた。

 

「ほ、穂乃果ちゃん?海未ちゃん?」

 

戸惑っていることりなどお構いなしといった感じで、穂乃果は考え事をしていた。

 

(……そーくん……。もしかして、あのホラーとかいう怪物とまた戦いに行ったのかなぁ……)

 

穂乃果は以前ホラーに襲われそうになったところを奏夜に救われており、奏夜が魔戒騎士であることを知っていた。

 

具体的なことはわからず、怪物と戦っているということだけを理解しているのだが……。

 

そんな中、考え事をしていた海未はハッとしながら我に返ったのだが、すぐさま考え事をしている穂乃果の姿を捉えていた。

 

「……穂乃果?どうしました?」

 

すかさず海未が穂乃果に問いかけるのだが、急に声をかけられたため、穂乃果は慌てていた。

 

「……へ!?な、何でもないよ!!」

 

「でも、穂乃果ちゃん……。浮かない顔をして何かを考えてたよね?」

 

「大丈夫!大丈夫だから!!」

 

穂乃果は奏夜の秘密を見透かされないためにも必死になってことりの問いかけに弁解していた。

 

しかし、その必死さは、海未に怪しいと思わせるのには十分だった。

 

「……穂乃果。私たちに何か隠してませんか?」

 

「へ!?そ、そんなことはないよ!!」

 

海未の問いかけに、穂乃果は慌てて弁解していたのだが、冷や汗をかいているからか、図星であることがうかがえた。

 

「……本当ですか……?」

 

海未は険しい表情で穂乃果を睨みつけ、穂乃果に詰め寄っていた。

 

「……うっ!そ、それは……」

 

こう海未に詰め寄られてしまっては、隠し事は出来ないため、穂乃果は渋々自分の知っていることを話すことにした。

 

しかし、公然と話せる内容ではなかったため、屋上へと移動し、そこで話をすることにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果が海未やことりにホラーについての話をしているなど知る由もなく、奏夜は番犬所に到着すると、魔戒剣の浄化を行っていた。

 

ホラー、ラビットールを封印した短剣は、昨日の浄化の時にロデルの付き人の秘書官に渡しているため、今日の浄化では、ホラーを封印した短剣は出てこなかった。

 

魔戒剣の浄化を終えた奏夜は、魔戒剣を緑の鞘に納めた。

 

「……奏夜。少しばかり疲れてるように見えますが、何かあったのですか?」

 

ロデルは、奏夜が番犬所に来た時から、少しばかり疲れた表情をしていることが気になっていた。

 

「はい……。実は友達が廃校を無くすためにスクールアイドルを始めまして、その手伝いをしているのです」

 

「なるほど……。奏夜の学校にもスクールアイドルが出来るのですね!?」

 

「ろ、ロデル様……。スクールアイドルをご存知なんですか?」

 

まさか、ロデルがスクールアイドルに食いついてくるとは思っておらず、奏夜は困惑していた。

 

「はい。たまたま人界の流行りを調べているうちにスクールアイドルを知りましてね。このパソコンでスクールアイドルの動画を見るのが私の楽しみなのです♪」

 

どうやらロデルはスクールアイドルにハマっているようであった。

 

ロデルの座る場所の近くには、番犬所に置いておくには場違いな最新型のパソコンが置かれており、どうやらそのパソコンでスクールアイドルの動画を見ているようであった。

 

《……つか、どこから電気が来てるんだよ……》

 

(そうだよな……。ネット環境だってあるかどうかわからないしな……)

 

番犬所には電気はおろかインターネットを繋げるためのルーターを置ける場所もあるとは思えず、どうやってインターネットとパソコンを使っているのかは最大の謎であった。

 

そこは気になるところなのだが、ロデルの予想外すぎる趣味に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「今の私のイチオシはやっぱり「A-RISE」ですかねぇ……。あのパフォーマンスはそうそう真似できるものでは……」

 

「ロデル様!如月奏夜に指令があるのではないのですか!?」

 

このままではロデルはスクールアイドルについて延々と語りそうなので、ロデルの付き人の秘書官が、注意をしていた。

 

「む……。そうでしたね……。奏夜、指令です」

 

ロデルが話を切り上げたところで、ロデルの付き人の秘書官が、奏夜に赤の指令書を手渡した。

 

奏夜は指令書を受け取ると、魔導ライターを取り出し、魔導火を放つことで指令書を燃やし尽くした。

 

そして、そこから魔戒語で書かれた文章が浮かび上がってきたので、奏夜はそれを読み上げる。

 

「……優しさを見せて獲物を安心させ、その獲物を喰らうホラーあり。ただちに殲滅せよ」

 

奏夜が読み終えると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

『……ホラー、デウルか……。奴の見た目は素体ホラーだが、なかなか油断できない奴だぞ』

 

奏夜の読んだ指令を聞き、キルバはホラーの種類を分析していた。

 

どうやら、今回のホラーはそれなりに手強い相手のようであった。

 

「それにしても優しさを見せて……ねぇ……」

 

『まぁ、実際のところ、極度の優しさは怪しいんだがな。それも、初対面ならなおさらな』

 

「そうですね……。ですが、どんな相手のであれ、ホラーであるならば、全力で討滅して下さい」

 

「もちろんです。被害が出る前にホラーを討滅してみせます!」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、そのまま番犬所を後にして、ホラーの捜索を開始した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が番犬所にいる頃、穂乃果たちは屋上に来ており、そこで穂乃果は、自分の見たものの話をしていた。

 

それは、ホラーと呼ばれる怪物に襲われそうになったことと、魔戒騎士と呼ばれている奏夜に救われたことであった。

 

しかし、魔戒騎士やホラーが何なのかは穂乃果は詳しくは知らないという補足説明もしていた。

 

「……魔戒騎士にホラー……ですか……」

 

「聞いたことない名前だねぇ」

 

「……奏夜がそのホラーとかいう怪物と戦ってるなら、あれほどの殺気を出せることも納得です……」

 

海未とことりは、あまりにも非日常的な穂乃果の話に驚きを隠せないものの、穂乃果の話を全面的に信じていた。

 

「……2人とも……。信じてくれるの……?」

 

「うん!もちろんだよ、穂乃果ちゃん!」

 

「えぇ。穂乃果は嘘がつけないことはよくわかってますしね」

 

「ことりちゃん……。海未ちゃん……」

 

2人が何の疑いもなく信じてくれたことが嬉しかったのか、穂乃果は瞳をウルウルとさせていた。

 

「……とにかく、奏夜が危険なことをしているのはわかりました。奏夜に会ってそんな危ないことは辞めさせなければいけませんね」

 

「うん!そーくんがそんな危ないことをしてるなんて、心配で気が気じゃないもんね!」

 

「辞めてくれるかはわからないけど、そーくんときちんと話はしたい!」

 

どうやら、穂乃果たちは奏夜に会いに行くということで意見がまとまったようであった。

 

「それでは3人で奏夜を探しましょう!」

 

「「うん!!」」

 

こうして、穂乃果たちは1度教室に戻って帰り支度を始めると、学校を後にして、奏夜を見つけるために行動を開始した。

 

行動を始めてからおよそ2時間が経過しようとしていた。

 

穂乃果たちは奏夜の行きそうなところを予想して奏夜を探していたのだが、足取りを掴むことは出来ず、気が付けば夜になってしまっていた。

 

「……そーくん……。見つからないね……」

 

「うん……。そーくん、どこ行ったんだろう……」

 

奏夜を見つけることが出来ず、ことりと穂乃果はしゅんとしていた。

 

「そうですね……。それに、気が付けばもう夜ですものね……」

 

海未の言う通り、既に夜になってしまっているため、外は暗くなってしまっていた。

 

「……ねぇ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん。今日はそろそろ帰らない?」

 

「そうですね……。あまり遅くなってもいけないですし、今日は帰るとしましょう」

 

「……うん、そうだね……」

 

穂乃果としてはまだ奏夜を探していたいと思っていたのだが、あまり遅くなっては家族が心配してしまうため、今日のところは奏夜を探すのは諦めることにした。

 

そして、明日になったら奏夜に魔戒騎士やホラーについて話をしてもらおうと決意して、家に帰ろうとしたその時だった。

 

「……おやおや。お嬢さんたち。どうしました?こんな時間に、このような場所で」

 

現在穂乃果たちは人通りのほとんどない広場に来ているのだが、そこにフラッと現れた50代後半くらいの老紳士が穂乃果たちに話しかけてきた。

 

「……あ、いえ……。実は……」

 

「友達を探してたんですけど、今日のところは帰ろうと思っていまして……」

 

海未は正直に話すべきか迷っていたのだが、ことりが老紳士に事情を説明していた。

 

老紳士が穏やかで優しそうな雰囲気を出していたからか、ことりはふと話をしてしまったのである。

 

「おやおや……。それは大変でしたね……。もし良かったら家までお送りしましょうか?こんな時間に女性だけの行動は危険ですからねぇ」

 

「……いえ、大丈夫です。ちゃんと帰れますので……」

 

穂乃果は少しだけ怯えた表情を見せながらこう答えていた。

 

もしかしたらこの男性はホラーなのでは?

 

そんな不安が頭をよぎったからである。

 

「おや……。そうですか……。ですが、気を付けて下さいね。この辺はよく出ますので……」

 

「……出ますって……何が……ですか?」

 

ことりが不安そうな表情で老紳士に尋ねると、老紳士は怪しげな笑みを浮かべていた。

 

そして……。

 

「……“化け物”が……ですよ……」

 

「!?海未ちゃん!ことりちゃん!この人がさっき話したホラーだよ!?」

 

「えっ!?この人が……。……っ!?」

 

穂乃果はやはりこの男性がホラーであることを直感的に感じ取ったのだが、海未はそれが信じられなかった。

 

しかし、老紳士の目が真っ白になり、より不気味さを醸し出していた。

 

そんな光景を見た穂乃果たちは互いに身を寄せ合いながら、ゆっくりと後ろへと下がっていった。

 

そして、老紳士の体は一気に変化すると、この世のものとは思えない怪物へと変貌してしまったのである。

 

「……!?」

 

「あ、あれが……。ホラー……ですか?」

 

「おや?あなた方はホラーのことを知っているのですか?だったら私がこれからする事も理解出来ますよね?」

 

「!?穂乃果!ことり!逃げますよ!!」

 

このままではこの怪物に食べられてしまう。

 

そう感じ取った海未は穂乃果とことりにこう告げると、ホラーから逃れるため一目散に逃げ出したのだが……。

 

「ふっふっふ……逃がしませんよ……!」

 

ホラーはドチャッ!ドチャッ!と不気味な足音を響かせながら、ゆっくりとした足取りで3人を追いかけていた。

 

何故ホラーが悠長に歩いているのか。それにはちゃんとした理由があった。

 

それは……。

 

「……!?そ、そんな!?」

 

穂乃果たちが逃げた場所が行き止まりだと知っていたからであった。

 

全てを見透かしていたホラーは、ドチャッ!ドチャッ!と不気味な足音を響かせながら確実に穂乃果たちを追い詰めていた。

 

「……っ!こうなったら……!」

 

海未は周囲に何か使えるものがないか探すのだが、偶然にも海未の近くに鉄パイプが落ちており、すぐさまその鉄パイプを拾うと、竹刀のように鉄パイプを構えていた。

 

「穂乃果。ことり。下がっていて下さい!!」

 

「無茶だよ!海未ちゃん!」

 

「そんなんじゃあいつに勝てっこないよ!」

 

「このままでは3人とも食べられてしまいます!私が……!2人を守ります!!」

 

海未は日頃から武術を嗜んでいるからか、人を守るために戦うのは今しかないと、恐怖心を振り切ってホラーに対峙することにした。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

海未は鉄パイプを手に、ホラーへと向かっていくのだが、そんなものでホラーに敵う訳はなく、鉄パイプの一閃は軽々と受け止められてしまい、ホラーの裏拳により、海未は吹き飛ばされてしまった。

 

「「海未ちゃん!」」

 

そんな光景を見ていた穂乃果とことりは、思わず声をあげてしまった。

 

そしてホラーは鉄パイプをグニャっとひん曲げると、使いものにならなくなった鉄パイプを投げ捨てて海未へと向かっていった。

 

海未はどうにか反撃をしようとするのだが、その前にホラーに捕まってしまい、ホラーは片手で海未の首を絞めていた。

 

「くっ……!!」

 

ホラーに歯が立たなくても海未は諦めておらず、鋭い目付きでホラーを睨みつけていた。

 

「……いいですねぇ……。その反抗的な眼……。私はね、そんな眼をした人間を絶望させて喰らうのがね……大好きなんですよ……」

 

自分のあまりに奇妙な嗜好を語ったホラーはそのまま海未を投げ飛ばしていた。

 

「「海未ちゃん!!」」

 

「そこで見ているといい。君の守ろうとした2人を先に喰らって、絶望したところを喰らってあげますよ」

 

ホラーは海未を喰らう前に穂乃果とことりに狙いを定めたようであり、ゆっくりと2人に迫っていた。

 

「……や、やめなさい……!喰らうなら、私が……!!」

 

海未は、自分が今ホラーに喰われようとも、2人を守ろうとしていた。

 

しかし、ホラーとのダメージがあったからか、立ち上がることは出来なかった。

 

「……い、嫌……!来ないで!!」

 

「だ、誰か……!!」

 

「いいですねぇ、その表情……。そんな顔をしてる人間は……最高に美味いですからねぇ」

 

ホラーは目の前の獲物を吟味するかのように舌舐めずりをしていた。

 

「……ほ、穂乃果……!ことり……!!」

 

海未は倒れたまま必死に手を伸ばすのだが、2人には届かなかった。

 

(悔しいです……!親友が危ないというのに、何も出来ないなんて……!!)

 

自分は武術を嗜んでいるのに無力であり、何も出来ないことに絶望しながら、海未は唇を噛みしめていた。

 

「……ほ、穂乃果ちゃん!!」

 

絶体絶命になってしまったことりは、恐怖でギュッと目を閉じながら穂乃果に抱きついていた。

 

「そーくん!助けて!!」

 

穂乃果もまた、ことりに抱きつきながら、助けに来て欲しい人の名前を叫んでいた。

 

こう叫んだところで奏夜が都合よく助けに来てくれる訳はない。

 

そう思って穂乃果は諦めていたのだが……。

 

「……ふふふ……。いただき……うぐっ!!」

 

ホラーの背後に何者かが現れると、ホラーはその何者かに斬られてしまった。

 

「……!な、何者だ!」

 

ホラーはすぐさま斬られた方を向くのだが、乱入者はホラーを巴投げで投げ飛ばしていた。

 

「「「……!!」」」

 

穂乃果たちは突如現れた乱入者を見て驚きを隠せなかったのか、目を大きく見開いていた。

 

その手には剣が握られていたのだが、その者が羽織る茶色のロングコートに見覚えがあったからである。

 

「……お前たち、大丈夫か?」

 

「そ、奏夜……ですか?」

 

穂乃果たちを助けてくれた茶色のロングコートの人物こそ、穂乃果たちがよく知っている人物である奏夜であった。

 

奏夜はホラーを捜索していたのだが、偶然キルバがホラーの気配を探知し、現場に急行した。

 

すると、ホラーに襲われている穂乃果たちを発見し、救出したのであった。

 

「あぁ、そうだ。遅くなってすまなかったな」

 

奏夜は一瞬ではあったものの、いつも穂乃果たちに見せている穏やかな笑顔を見せていた。

 

そして、すぐに険しい表情でホラーを睨みつけている。

 

「き……貴様……魔戒騎士か……!」

 

「あぁ。そういうことだ」

 

奏夜の巴投げによって吹き飛ばされたホラーは、ゆっくりと起き上がってこの問いかけをするのだが、奏夜は淡々と答えていた。

 

「……そ、奏夜……。あなたはいったい……」

 

「話は後だ。……穂乃果、ことり!海未を頼む!」

 

「「う、うん!」」

 

奏夜は立ち上がろうにも立ち上がれない海未の姿をチラッと見ると、2人に海未の介抱を任せ、自分は魔戒剣を手にして、ホラーに突撃していった。

 

『奏夜。こいつがデウルだ。油断はするなよ!』

 

「わかってるって!」

 

穂乃果たちを襲い、奏夜と今対峙しているこのホラーこそ、指令に書いてあったホラーであるデウルだった。

 

デウルに向かっている最中にキルバから警告を聞いた奏夜は、そのまま魔戒剣を一閃する。

 

しかし、デウルの爪によって、それは防がれてしまった。

 

「おのれ……!魔戒騎士!せっかくの私の食事を邪魔しおって!」

 

「悪いな。お前らホラーの邪魔をするのが俺たちの仕事なんだよ!」

 

「私は楽しみを邪魔されるのが何よりも許せないんです!貴様は生かしてはおきません!」

 

「……言いたいことはそれだけか?」

 

奏夜の低くてドスの効いた声には、怒気が含まれていた。

 

デウルは奏夜を斬り裂くために両手の爪を振り下ろすのだが、奏夜は軽々とその攻撃をかわすと、デウルを魔戒剣によって斬り裂いてから蹴り飛ばした。

 

「くっ……!おのれ……魔戒騎士……!」

 

「よくも俺の大事な友達を怖い目に遭わせてくれたな!この落とし前は……キッチリつけさせてもらうぜ!」

 

奏夜は、大事な友達である穂乃果たちをここまで怖い目に遭わせたデウルを許すことができなかった。

 

それ故に、その瞳はギラギラしており、怒っているということがすぐにわかる程であった。

 

(……!?あの殺気……奏夜が生徒会長に向けてたものと似てますね……。やはり……あなたは……)

 

海未は、奏夜の放っている殺気を、以前も見たことがあり、改めて奏夜が普通の人間ではないことを再認識していた。

 

「……これ以上みんなを怖い目に遭わせないためにも一気に決着をつける!……貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

「!また陰我って言った……」

 

穂乃果は以前奏夜に救われた時にも陰我という言葉を耳にしていたため、その言葉に反応していた。

 

「陰我……?それはいったい……」

 

「そうだね……」

 

海未とことりに至っては初めて聞く言葉だったため、陰我という言葉の意味が理解出来ず、首を傾げていた。

 

そんな中、奏夜は魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

円を描いた部分のみ空間が変化すると、そこから放たれた光に、奏夜は包まれた。

 

すると……。

 

変化した空間から黄金の鎧が出現すると、奏夜は黄金の輝きを放つ輝狼の鎧を身に纏った。

 

「「!?」」

 

奏夜が見たこともない黄金の鎧を身に纏ったのを見て、海未とことりは驚きのあまり目を大きく見開いていた。

 

「黄金の狼……」

 

「あれ……そーくん……だよね?」

 

異形の鎧を身に纏って異形の怪物と対峙している奏夜を見て、海未とことりはあの鎧を身に纏っているのは本当に奏夜なのかと疑いたくなっていた。

 

それも無理はない。

 

付き合いの長い友人がこのようなことに関わってるだけでも驚きだが、怪物と互角に戦い、この世のものとは思えない鎧を身に纏うのを見れば、誰もがそう思ってしまうだろう。

 

「……」

 

奏夜の鎧を1度見たことのある穂乃果は、雄々しき姿の輝狼の鎧に見入っていた。

 

そして……。

 

(そーくん……頑張って……!!)

 

声には出さなかったが、穂乃果は心から奏夜のことを応援していた。

 

奏夜は魔戒剣から変化した陽光剣を構えると、鋭い目付きでデウルを睨みつけていた。

 

「……!?あの構え……!!やはりあの鎧を着ているのは奏夜……なのですね……?」

 

奏夜に何度も剣の稽古を付き合ってもらっている海未は、奏夜の見慣れた独特な剣の構えを見た瞬間、異様な鎧を身に纏っているのが奏夜であると確信していた。

 

それはどうやらことりも同じであり、ウンウンと頷いて剣を構える奏夜をジッと見つめていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

奏夜は穂乃果たちにホラーの返り血を浴びせないためにデウルに突撃すると、そのまま体当たりをして、デウルを吹き飛ばした。

 

「おのれ……!!」

 

奏夜によって吹き飛ばされたデウルは、奏夜に接近すると、反撃と言わんばかりに爪による攻撃を繰り出した。

 

しかし、爪による攻撃では、輝狼の鎧に傷1つつけることも出来なかった。

 

奏夜はデウルの攻撃を全て受け止めると、陽光剣を一閃し、デウルの体にダメージを与えると、陽光剣を手にしていない方の手でデウルを殴り飛ばしていた。

 

「……この一撃で決めてやる!」

 

こう宣言した奏夜は、魔導ライターを取り出すと、魔導火を放ち、陽光剣の切っ先に橙色の魔導火を纏わせた。

 

陽光剣の切っ先が橙色の炎に包まれると、その炎は輝狼の鎧にも定着し、陽光剣の切っ先と、輝狼の鎧が橙色の炎に包まれていた。

 

「「「!!?」」」

 

自ら炎を浴びるというあまりにも異様な光景に、穂乃果たちは目を大きく見開いて驚いていた。

 

魔導火に包まれているこの形態は「烈火炎装」。

 

魔導火を全身に纏うことにより、攻撃力と防御力を高める技で、実力のある魔戒騎士であれば使用できる技である。

 

「くっ……。このぉ!」

 

デウルは烈火炎装になった奏夜に怯むことなく、向かっていきのだが、奏夜はそんなデウルを迎撃する形で、魔導火を纏った陽光剣を一閃した。

 

デウルは陽光剣によって斬り裂かれた直後に橙色の魔導火に包まれると、その体が真っ二つになる直前に爆発がおこり、その体は陰我と共に消滅した。

 

奏夜はデウルの消滅を見届けると、陽光剣を横に大きく振ることにより、橙色の魔導火は消滅し、それと同時に体に纏われた魔導火も消え去った。

 

魔導火が消えたことを確認した奏夜は、鎧を解除すると、陽光剣から元に戻った魔戒剣を、緑の鞘に納めた。

 

「ふぅ……」

 

奏夜はデウルを討滅して一息ついてから鞘に納めた魔戒剣を魔法衣の裏地の中にしまった。

 

そのまま奏夜は穂乃果たちのもとへと歩み寄ろうとしたのだが、その前に穂乃果たちが奏夜に駆け寄ってきた。

 

「……みんな、大丈夫か?」

 

「うん。そーくんが守ってくれたから……」

 

奏夜は穂乃果たちの無事を確認するのだが、ことりが頬を赤らめながらこう答えていた。

 

(……キルバ。3人ともホラーの返り血はついてないよな?)

 

《あぁ。だからこそ烈火炎装で焼き払ったんだろ?3人とも問題はないぞ》

 

奏夜は3人にホラーの返り血を浴びせないために気を遣って戦っていたのだが、そのために奏夜は烈火炎装を使ったのである。

 

その甲斐があったからか、3人にホラーの返り血がつくことはなかった。

 

「……奏夜……。あなたはいつもこんな危険なことをしているのですか?」

 

「……まぁな……。俺はあの怪物……ホラーを狩る魔戒騎士だからな……」

 

「ねぇ、そーくん。いつからこんなことをしてたの?」

 

「穂乃果には話したんだけど、今の家に引っ越しした辺りから……だな」

 

奏夜は改めて魔戒騎士として活躍し始めた時期の話をしていた。

 

「っ!?それじゃあ、私たちと出会った時には……もう……」

 

「あぁ。そういうことになるな」

 

「「……」」

 

奏夜の知られざる一面を目の当たりにした穂乃果とことりは言葉を失っていた。

 

そんな中、海未は拳をギュッと握り締めると、唇を噛んでいた。

 

すると……。

 

「……どうして……」

 

「……海未?」

 

「どうしてあなたがそのようなことをしているのですか!?あんな怪物と戦うなど危険なことを!!」

 

海未は自分を守ってくれた奏夜に感謝はしているのだが、そのために危険な戦いに自ら飛び込んでいく奏夜が許せなかった。

 

だからこそ、声を荒げて奏夜にこう問いかけたのである。

 

「……危険なことなのは充分理解しているさ。だけど、俺のような魔戒騎士はあの怪物……ホラーを狩るだけじゃない。ホラーから人を守るという大事な使命があるんだよ。……守りし者として……」

 

「守りし者……」

 

奏夜の放った言葉は聞き覚えがないのだが、その言葉はとても暖かみのある言葉であった。

 

しかし……。

 

「……あなたが何故このようなことをしているのかはわかりました。ですが、それはあなたがしなければいけないことなのですか?普通の高校生であるはずのあなたが……!!」

 

海未は奏夜にこのような危険なことを辞めさせたいと思っているからか、このような発言をしていた。

 

「そうだな……。確かに海未の言うことは一理あると思う」

 

「っ!?だったら何故!!」

 

「俺はこの力を受け継ぐ前から魔戒騎士になることを決めていたんだ。俺が音ノ木坂に入学したのは、守りし者とは何なのかを学ぶためなんだよ」

 

「……」

 

奏夜が音ノ木坂に入学した真意を聞き、海未は驚きを隠せなかった。

 

まさか、高校に通いながらこのようなことを行うということが信じられなかったからである。

 

「……そーくん……。教えてくれない?魔戒騎士……だっけ?そのことと、さっきの怪物のことを……」

 

「私も聞きたい!お願い、そーくん!!」

 

ことりと穂乃果は、魔戒騎士やホラーについての話を聞きたいと思っていた。

 

しかし……。

 

「……ダメだ。それは教えることは出来ない」

 

奏夜は、穂乃果たちに魔戒騎士やホラーの秘密を話すことを良しとはしなかった。

 

「っ!?ど、どうして!?」

 

「……この秘密を知るということは、これからも騎士やホラーと関わる可能性が増えるってことなんだ。……そうなったら、お前らは元の日常に戻れる保証はない。……だって、お前らはスクールアイドルとして、廃校を阻止するんだろ?俺は、その邪魔をしたくないんだ」

 

「「……」」

 

奏夜の言っていることは決して脅しではなく、事実であった。

 

スクールアイドルとして活動しようとしている穂乃果たちが元の日常に戻れないということは、スクールアイドルの活動自体が危ぶまれるからである。

 

奏夜は、そんなことで穂乃果たちの夢を潰したくない。そんな思いがあるために魔戒騎士やホラーの秘密を話すことを良しとしなかったのであった。

 

その言葉に、穂乃果とことりは返す言葉がなかったのだが……。

 

「……いい加減にしてください……」

 

「……海未?」

 

「いい加減にしてください!!」

 

海未は奏夜の言葉を聞いて怒りのあまりこう怒鳴り声をあげていたのだが、そのことに奏夜は面食らっていた。

 

「元の生活に戻れないかもしれない?本当にそうなのかを決めるのは私たちです!あなたの思い込みだけで勝手に判断しないで下さい!!あなたは、私たちのことを心配してくれてるのはわかりますが、あなたの秘密を知らないままの方が余計に元の生活になんか戻れませんよ!!」

 

「……!!」

 

この海未の言葉を聞いた瞬間、3人のことを思って言った自分の言葉はただのエゴであったと思い知らされてしまった。

 

それと同時に、かつて軽音部の仲間に魔戒騎士の秘密を話した月影統夜は、こんな気持ちだったのか?と再び予想していたのであった。

 

「そうだよ、そーくん!私はこの前と今回と怪物に襲われたんだよ!!もうこの時点で元の日常には戻れてないじゃん!!」

 

「うぐっ……!」

 

穂乃果のこの言葉は正論であり、この言葉に反論する言葉を、奏夜は見つけることは出来なかった。

 

「……本当に知りたいんだな?」

 

ここまで言われた以上、奏夜が取るべき行動は、穂乃果たちのホラーや魔戒騎士に関する記憶を消すことだった。

 

しかし、ホラーや魔戒騎士に関することのみといえど、穂乃果たちの記憶を消すことなどしたくないと奏夜は考えていた。

 

だからこそ、改めて本当に奏夜の秘密を聞きたいのかと念押しをしたのである。

 

「さっきからそう言ってるよ!そーくんがそんな危ないことをしてるなら、それを知ったうえでそーくんを支えたいもん!」

 

「だけど、これからはスクールアイドルとしても活動するだろ?」

 

「もちろんです!だって、奏夜はスクールアイドルとして活動する私たちを支えてくれるのでしょう?だったら、私たちはその魔戒騎士という仕事をしているあなたを支えたいのです!」

 

「うん!穂乃果も海未ちゃんと同じ気持ちだよ!」

 

「ことりも!だから……教えて欲しいな」

 

どうやら、穂乃果はどうしても魔戒騎士の秘密を聞きたいと思っているようであった。

 

海未に至っては、魔戒騎士など危険なことは辞めさせたかったのだが、それが無理とわかると、せめて自分が奏夜を支えようと決意したため、秘密を聞きたいと思ったのである。

 

「……わかったよ……。明日の放課後、俺んちに来い。学校だと誰かに聞かれる可能性があるからな……」

 

奏夜は学校の中ではなく、自分の家で話すという条件で、魔戒騎士やホラーの秘密を話すことを了承し、穂乃果たちはそれを受け入れた。

 

こうして奏夜は、穂乃果たちを家に送り届けてから、家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果たちを家に送り届けた奏夜は、専用のハンガーに魔法衣をかけて、大きく伸びをしていた。

 

奏夜はそのまま着替えをしてのんびりしようと思っていたのだが……。

 

『……おい、奏夜』

 

ホラーを討伐していた後は、ずっと黙っていたキルバがここで口を開いていた。

 

「……どうした?キルバ」

 

『お前はベラベラと余計なことを口走り過ぎだ!そのせいで、何割かは魔戒騎士やホラーのことを話してしまっただろうが』

 

どうやらキルバは、穂乃果たちに話した内容が気に入らないようであり、そこに文句を言っていた。

 

「……確かにそうかもな……。だけど、熱くなった海未を言いくるめるにはああ答えるしかないと思ってな……」

 

『それに、騎士の秘密を話すとはどういう了見なんだ?あのまま3人の記憶を消してしまえば良かったものを……』

 

「……それは考えたさ。だけど、ホラーや魔戒騎士に関することだけとはいえ、あいつらの記憶を消すなんて……。俺には出来ないよ……」

 

奏夜は、穂乃果たちの記憶を消そうとしなかった理由をここでキルバに話していた。

 

「それに……。ずっとあいつらに騎士のことを誤魔化してきただろ?俺さ、そのことに疲れたんだよね……」

 

奏夜はこのまま騎士の秘密を隠し通すことに限界を感じていた。

 

その時、何かを感じ取った奏夜は目を見開いてハッとしていた。

 

「……待てよ……。統夜さんだって、本来は騎士の秘密を話すなんて許されなかったハズだ。やっぱり……あの時の統夜さんは今の俺と同じ気持ちだったのだろうか?」

 

白銀騎士奏狼こと月影統夜が、軽音部の仲間に魔戒騎士やホラーの秘密を話したのも、高2の春であり、ちょうど今の奏夜と同じくらいの時期であった。

 

自分もまた、憧れの先輩と似た境遇に直面したことで、少しだけ統夜に親近感を抱くようになっていた。

 

憧れの先輩騎士に少しでも近付けたと考えただけで、奏夜は嬉しかったのである。

 

『やれやれ……。もうこうなったら仕方ないが、どうなっても知らないからな……』

 

もう穂乃果たちに騎士の秘密を話すと言った以上、後には引けないため、キルバはそのことに呆れ果てていた。

 

こうして、穂乃果だけではなく、海未とことりまでもが奏夜が魔戒騎士であることを知ってしまった。

 

話すと決めたからには明日はしっかりと話をしようと決意をした奏夜は、少しだけ体を休めると、風呂に入って眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。まさかあのお嬢ちゃんたちに騎士の秘密を話すことになるとはな……。次回、「秘密」。聞くからには決して目を離すな!!』

 

 




今回はちょっと長くなってしまった……。

ですが今回、穂乃果だけではなく、海未とことりも奏夜の秘密を知ることになりました。

それだけではなく、今回はロデルの意外な趣味が明らかになりました。

まさかロデルが極度のドルオタとは……。

スクールアイドルについて熱く語るロデルは、にこや花陽といい勝負なのかもしれませんね(笑)

そして、今回穂乃果たちを襲ったホラーの人間体ですが、イメージは仮面ライダーWに登場するウェザードーパントこと井坂となっています。

ウェザードーパントはかなりの強敵でしたが、デウルはあっさりと奏夜に討滅されてしまいましたが……(笑)

さて、次回は穂乃果たちに魔戒騎士やホラーのことを奏夜が話します。

この状況は、前作の「牙狼×けいおん 白銀の刃」と似ている部分はありますが、多少は違いを見せるようにしたいと思っています。

それでは、次回をお楽しみに!


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