今回もまた、合宿の話となっております。
合宿初日の夜が終わろうとしていますが、奏夜たちはその夜をどう過ごすのか?
それでは、第36話をどうぞ!
真姫の別荘で合宿が行われたのだが、初日は遊んでばかりで、練習を行うことは出来なかった。
そのため、練習は翌日の早朝に行うことになり、この日は風呂に入って寝ることにした。
「……はぁ……最高だねぇ♪」
「そうだねぇ♪」
穂乃果たちは現在、9人並んで露天風呂に入っており、程よい湯加減に満足そうであった。
「明日は必ず練習ですからね」
「わかってるって」
「でも、こうやってみんなでお風呂に一緒に入るのって、初めてだにゃ!……あっ、そーや君はいないけど……」
「奏夜は男なんだし、仕方ないんじゃないの?」
「それはそうだけど、そーや君だけ仲間外れなのはちょっとかわいそうだにゃ!」
凛は9人揃ってお風呂に入るのは楽しいと思っていたが、ここに奏夜がいないのは残念だと思っていた。
しかし、奏夜だけは男であるため一緒に入る訳にはいかない。
それは凛にもわかっていたのだが、1人寂しく穂乃果たちが出てくるのを待っているであろう奏夜が申し訳ないとさえ思っていたのである。
「り、凛ちゃん!それはわかるけど、流石に駄目だよ!」
「そうですよ、凛!ハレンチです!!」
凛の言葉に、花陽と海未は顔を真っ赤にしていた。
「……その奏夜のことなんだけど、1つ気になることがあるの」
「?気になること?」
どうやら絵里は奏夜について気になることがあるようであり、そのことに穂乃果は首を傾げていた。
「みんなって……。奏夜のことをどう思ってるの?」
『!!?』
絵里の思いがけない質問に、穂乃果たちは一斉に驚愕していた。
「なっ……!何言ってるの!?絵里ちゃん!!」
「そうですよ、絵里!いきなり過ぎます!」
「だって……。気になるじゃない?奏夜君はμ'sのマネージャーで、魔戒騎士だけど、その前に年頃の男の子な訳だし、みんなはそんな奏夜に恋心は抱いていないのかなぁって」
絵里はどうやら、誰かが奏夜に対して恋愛感情を抱いているのではないか?という疑問を抱いていた。
そんな絵里のどストレートな話に、穂乃果たちの顔がみるみる赤くなる。
「そ、そんな絵里はどうなのよ!」
「私?私は奏夜君はいいかなとは思っているわよ。とは言っても、恋愛感情まではないんだけどね」
「ウチもそんな感じかな?奏夜君ってからかい甲斐のある弟って感じがするし」
絵里と希は、奏夜に対して好意は抱いているものの、それは恋愛感情にまでは至らないみたいだった。
「それで?にこっちはどうなん?」
続いて希は、にこに、奏夜のことを聞いてみることにした。
「……にこはよくわからないわ。あいつのことをどう思っているかなんて……」
どうやらにこは自分の抱いている感情が好意なのかどうかわからなかった。
「……でも、あいつには感謝はしているわ。あいつがいなかったら、にこは恐らくμ'sには入ってなかったと思うし……」
にこがμ'sに入るきっかけを作ってくれたのは奏夜であると感じていたにこは、奏夜に感謝していた。
普段は照れ臭くて絶対に言わないことなのだが……。
「……なるほどね」
「花陽たちはどうなの?」
続いて絵里は、1年生組に先ほどと同じ質問をしていた。
「凛はそーや君のこと大好きだよ!面白いし、優しいし!」
「それって、男の人として好きってことなのかしら?」
「うーん、どうかにゃ?凛はよくわからないや」
凛の大好きというのは友人や仲間としてということであると思われるため、凛自体は奏夜に対して恋愛感情があるのかどうかはわかってはいなかった。
「私は好きというより憧れてるって感じがします。奏夜君ってお兄ちゃんみたいな感じだから……」
花陽もまた、奏夜に対して好意は抱いているものの、年上の男性に憧れているといった感じの感情であった。
「それで?真姫ちゃんはどうなん?」
「ヴェェ!?私!?」
自分にもこの話が振られることは予想はしていたものの、いざ振られてみたら、真姫は驚いていた。
「……私も正直なところ、わからないわ。でも、私は奏夜のこと、嫌いじゃないけどね」
真姫は心の中では密かに奏夜に淡い恋心を抱いてはいたものの、自分の気持ちには素直になれず、このようなことを言っていた。
「クスッ……。真姫ちゃんらしいね♪」
「うっ、うるさいわね!」
希は真姫のリアクションにニヤニヤしており、真姫はそれが気に入らなかった。
「それで、穂乃果たちは……。聞くまでもなさそうなんだけど」
「「「……////」」」
穂乃果と海未は奏夜に淡い恋心を抱いているのだが、それはどうやらことりも同様であり、3人揃って顔を真っ赤にしていた?
「まぁ、穂乃果ちゃんたちはウチらよりも奏夜君との付き合いは長い訳やし、そんな感情を抱いていてもおかしくはないよね」
「も、もしかして、海未ちゃんとことりちゃんも……?」
「えっ、えぇ……」
「うん……。実はね……」
「えぇ!?それじゃあ、誰か2人がそーくんのことを諦めなきゃいけないじゃん!」
「穂乃果、落ち着いて下さい。このことはそんなに話を急ぐことではありません」
「え?だって……」
穂乃果はここで初めて海未とことりが奏夜に恋心を抱いていることを知り、焦りを見せていたのだが、そんな穂乃果を海未がなだめていた。
「だって、私たちがいくら思ってても、そーくんが断る可能性だってあるし……」
「奏夜はいつ命を落としてもおかしくない魔戒騎士ですからね……。だから、そこに気を遣って恋人を作らない可能性だってあり得ます」
「そんな……」
ことりや海未の話を聞いて、穂乃果は浮かない表情をしていた。
「まぁまぁ。とりあえず、みんなが奏夜のことをどう思ってるのか知れて嬉しいわ。それで、1つ約束をしない?」
「約束……?」
「もし、奏夜がこの9人の誰かを選んで、付き合うことになったとしても、文句は言わずに応援すること。色恋絡みでμ'sがバラバラになるのは良くないしね」
「まぁ、アイドルに恋愛はご法度なんだけど……。そういうことならわかったわ」
「そうだね……。そういうことなら……」
絵里の持ち出した提案に、穂乃果たちは納得したようであった。
こうして穂乃果たちはその後、露天風呂に入りながら恋バナのような話で盛り上がっていた。
……その頃、奏夜は……。
「……ぶぇっくしっ!!」
現在奏夜は別荘の中庭で剣の稽古をしていたのだが、その途中にくしゃみをしてしまったのである。
『……おいおい、奏夜。風邪か?』
「いや、俺は健康そのものだとは思うけど……」
奏夜は何故自分がいきなりくしゃみをしてしまったのかがわからず、首を傾げていた。
『……まぁ、いい。それよりもさっきから剣の踏み込みが甘いぞ。そんなことではあの尊士には到底勝てないな』
「……っ!わかってるよ……」
奏夜は少しばかり思い詰めた表情をしていた。
あの尊士との敗戦から奏夜は少しは成長出来たのだが、まだまだ尊士を倒すには至らないレベルであった。
力を求め過ぎるのは良くないと頭ではやかっていたのだが、奏夜は力を求めていた。
大切な存在であるμ'sを守れる力を。
そんな思いを胸に練習に励もうとしたその時だった。
「……よう、奏夜。精が出るな」
時間が出来たらこの別荘へ顔を出すと話していた統夜が、奏夜の前に現れていた。
「統夜さん……。お疲れ様です」
奏夜は魔戒剣を鞘に納めると、それを魔法衣の裏地にしまい、統夜に駆け寄っていた。
「統夜さん、話があって来たんですよね?」
「あぁ、その通りだ」
統夜の要件を知っていた奏夜はこのように話を切り出すと、統夜は語り始めた。
「……実は、元老院から派遣された調査員が、この周辺で魔竜の眼を発見したという報告を受けてな。元老院や番犬所から依頼を受けてその報告の真偽を調査していたんだよ」
「!?そうなんですか!?」
自分が合宿をしている間に、統夜がこのようなことをしているとは思わなかったからか、奏夜は驚きを隠せなかった。
「……まぁ、例の奴らが調べた形跡もなかったし、完全なガセネタだったけどな」
「そうですか……。それにしても、魔竜の眼はいったいどこに眠っているのでしょう?」
「さぁな。元老院も躍起になって調査はしているみたいだ。それだけニーズヘッグというホラーの存在は脅威だからな」
「……っ!」
奏夜は自分がニーズヘッグの封印に必要な魔竜の牙を絵里から託されており、その役目の重要性に息を飲んでいた。
「……まぁ、そう気負うなよ、奏夜。確かにニーズヘッグの問題は大事だが、今はお互い合宿の最中だろ?そんな顔をしてたらあいつらが心配するぞ」
「……そうですよね……」
統夜と奏夜がこのような話をしていると、大浴場の方から穂乃果たちの話し声が聞こえてきた。
どうやら穂乃果たちはお風呂から上がったようである。
「……おっと。穂乃果たちが風呂から出てきたか。俺もそろそろ戻るとするよ。じゃないと唯たちがうるさいしな」
統夜は苦笑いをしながら真姫の別荘から離れようとしていた。
「はい。統夜さん、ありがとうございました!」
統夜からニーズヘッグに関する情報を仕入れた奏夜は、統夜に感謝して、一礼をしていた。
「……奏夜。一応先輩として、1つアドバイスをしておく」
統夜は別荘を離れる前にこのように前置きをしてから語り始めた。
「……穂乃果たちを守りたいというのはよくわかる。だけど、力を求め過ぎるなよ。有り余る力は、闇に堕ちる要因になり得るからな」
「……っ!」
どうやら統夜は全てお見通しのようであり、自分の考えを見透かされた奏夜は驚いていた。
「……もしお前が闇に堕ちるようなことがあれば、その時は俺がお前を斬る。そうなったら穂乃果たちが悲しむからな。それを肝に銘じておけ」
「……わ、わかりました」
どうやら統夜は奏夜の身に何かが起こるようなことがあれば、本気で自らの手で奏夜を始末するつもりだった。
そんな殺気に満ちた統夜の表情に、奏夜は恐れおののいていた。
「……まぁ、あいつらがいるならその心配はないとは思うけどな」
統夜は再び穏やかな表情に戻ると、その表情を見て安心したからか、奏夜は安堵していた。
「……そういうことだ。それじゃあ、また明日な。待ってるぜ」
統夜はこのような言葉を言い残すと、真姫の別荘を後にして、今日自分が宿泊する紬の別荘へと戻っていった。
『……流石は高校生の時から様々な試練を乗り越えてきた月影統夜だな……』
統夜はちょうど今の奏夜と同じ歳の頃から様々な試練を乗り越えていった魔戒騎士であり、その時の経験があるからこそ、今の統夜があると言っても過言ではなかった。
「……ったく……。敵わないな……。統夜さんには……」
自分の思っていたことを見透かされてしまい、そんな統夜に驚きながら奏夜は呟いていた。
その時だった。
「……あっ、そーくん!こんなところにいたんだ!探したんだよ?」
お風呂上がりの穂乃果が穂乃果がとことこと奏夜の前に現れ、奏夜に駆け寄っていた。
穂乃果はすでにパジャマ姿であり、お風呂上がりだからか、体が少しばかり火照っており、頬も赤くなっていた。
そんなお風呂上がりの穂乃果が色っぽいと感じたからか、奏夜の顔は赤くなっていた。
「?そーくん?どうしたの?」
「いや、何でもない。それで?穂乃果はどうしたんだ?」
「うん!私たちはお風呂終わったから、そーくんが入りなよって伝えに来たんだ!」
「お、終わったんだな。そしたら、広い風呂を独り占めさせてもらおうかな」
奏夜は様々な疲れを取り除くために、ゆっくりお風呂に入ることにした。
奏夜は大浴場へと向かうと、そのまま風呂に入り、日頃溜まっている疲れを癒すためにのんびりと風呂に入っていた。
その時も、先ほど統夜に言われてたことを考えていたからかぼぉっと考え事をしており、危うくのぼせそうになっていたのである。
※※※
のぼせそうになりながらも風呂から出た奏夜もまた、パジャマに着替えを済ませると、穂乃果たちがいるであろうリビングへと移動した。
「あっ、そーや君、来たにゃ!」
「奏夜、ずいぶんとのんびり入ってたんだね」
「もぉ、そーくん。待ちくたびれたよぉ!」
奏夜の入浴時間が思ったよりも長かったからか、待ちくたびれた穂乃果は膨れっ面になっていた。
「悪い悪い。それよりも……」
奏夜はリビングに来た時からとあることが気になっていた。
それは……。
「……何で布団が10枚並べてあるんだ?」
大きいリビングに、10枚の布団が並べてあったのである。
「何でって、せっかくの合宿だし、みんな一緒に寝たほうが楽しいかなって」
「そのみんなって俺も入ってるってことだよな?」
「そうよ。何当たり前なことを言っているの?」
奏夜の質問が愚問だと思っていたからか、絵里はキョトンとしていた。
「……奏夜。あなたの言いたいことはわかっています。ですが、私たちは奏夜のことを信じていますから」
高校生の男女が同じ部屋で寝るなど奏夜はナンセンスだと思っていたが、海未がそんな奏夜の気持ちを察して、このようなことを言っていた。
「そうだよ!この前の試験の時にお泊まりした時だって、そーくんと一緒に寝たじゃん!」
「ちょっ!?おまっ!?」
いきなり穂乃果が爆弾発言をするので、奏夜は慌てふためいていた。
「……そういえば、そんなこともありましたね……」
その件については奏夜は既にお仕置きを受けているのだが、その時のことを思い出した海未は、奏夜を睨みつけていた。
「いぃっ!?そ、その件はもう終わったことだろう!?今更ぶり返さないでくれよ!」
海未の睨みを見た奏夜は、慌てふためきながらもこう説得をしていた。
「……確かにそうですね。今日のところは見逃しましょう」
どうやら海未は見逃してくれるみたいであり、そのことに奏夜は安堵していた。
「……とりあえず今日はもう寝よう。明日は早朝から練習するんだろ?」
「そうね。今日はもう寝ましょう」
奏夜と絵里がこのように促すと、この日は寝ることになり、奏夜たちは布団に潜り始めていた。
「さてと……」
奏夜は角の方を狙って布団を確保しようとしていたのだが……。
「ダメだよ、そーくん!そーくんは真ん中!」
奏夜は穂乃果に引っ張られながら半ば強引に布団の場所を決められてしまった。
「マジかよ……」
そのことに奏夜はげんなりとしながらも布団に潜り込んだ。
すると……。
「私、そーくんの隣がいい!」
「穂乃果ちゃんずるい!それじゃあ私は反対側にする!」
「わっ、私は奏夜の向かいで寝ることにします!」
2年生組が早急に奏夜の近くの布団を確保していた。
「あぁ!穂乃果ちゃんたちずるい!凛もそーや君の隣が良かったにゃ!」
ここで凛は速やかに布団を確保した2年生組に異議を唱えていた。
「まぁまぁ、凛ちゃん。明日もあるんだし、明日奏夜君の隣を狙ってみよ?」
「……わかった。かよちんがそう言うならそうするにゃ」
どうやら凛は渋々ではあるが納得したようだった。
そんな奏夜たちのやり取りを、絵里と希は穏やかな表情で微笑みながら見守っていた。
こうして他のメンバーも布団に潜り、奏夜たちは寝ることにした。
「さて、部屋の電気を消すぞ」
「えっ、えぇ……。わかったわ」
「?」
絵里の声は何故か震えており、奏夜はほのことに首を傾げていた。
奏夜はリビングの電気を消し、自分の布団に潜り、奏夜たちは眠り始めた。
しかし……。
(……眠れねぇ……)
奏夜は9人の少女に囲まれるような感じで眠っており、そのことに緊張しているからかまともに眠れなかった。
《奏夜。さっさと寝ろ。明日は早いんだろう?》
(わかってるっての!だけど、この状況じゃ寝れないって)
奏夜は目を閉じて眠ろうとするのだが、寝付くことが出来なかった。
その時だった。
ボリボリボリボリ……。
静寂に包まれていたリビングから、いきなり妙な音が聞こえてきたのである。
「……?何だ?この音」
この妙な音で、奏夜はより眠れなくなり、他のメンバーもその音を訝しげに聞きながら起きてしまったようだ。
「みんな。1度電気をつけるぞ」
奏夜は1度リビングの電気をつけるのだが、そこに広がっていた光景は……。
「……お前なぁ……」
煎餅をボリボリと頬張る穂乃果であった。
「エヘヘ……。何か食べたら眠れるかなぁって思って……」
どうやら穂乃果も眠れないようであり、眠気を誘うために煎餅を食べていたようである。
「こんな時間に煎餅を食べるとか、太るぞ」
奏夜はジト目になりながら、思っていることを正直に言っていた。
「む〜……!そういうこと言わないでよぉ!」
穂乃果は奏夜の言葉が気に入らなかったからか、ぷぅっと頬を膨らませていた。
「まったく……。うるさいわねぇ……」
先ほどまではぐっすり眠っていたにこは起き上がり、奏夜たちの方を向いたのだが……。
「!!?」
奏夜はにこの顔を見て驚愕していた。
にこは、顔全体にパックをしており、キュウリのスライスと思われるものを顔につけていた。
「に、にこ、何よ、それ」
「何って、美容法だけど?」
「は、ハラショー……」
にこの異常ともいえる美容法に、絵里の表情は引きつっていた。
「にこは高校生だろ?そこまでする必要があるのか?」
「そ、それに、怖いです……」
にこの美容法に奏夜は呆れており、花陽は少しばかり怯えていた。
「誰が怖いのよ!いいから、さっさと寝るわy……」
にこが最後まで言おうとしたのだが、それより前ににこの顔面に枕が飛んできた。
「真姫ちゃん何するのぉ?」
「え?」
希がこのようなことを言っており、身に覚えのない真姫は困惑していた。
「あんたねぇ……!」
「いくらうるさいからって、そんなことしちゃダメよ♪」
そう言いながら希は、近くに置いてあった枕を凛目掛けて投げていた。
「……何するにゃ!」
それを顔面に受けた凛は、希に返さず、穂乃果に向けて枕を投げていた。
「よぉし!」
枕を受けた穂乃果は、その枕を真姫に向かって投げており、その枕は真姫の体に当たっていた。
「投げ返さないの?」
「べっ、別に私は……」
そもそも真姫は最初から枕投げをやるつもりはなかったので困惑していたのだが、別方向から飛んできた枕を受けてしまった。
「ウフフ♪」
「おいおい、絵里。お前もノリノリかよ」
先ほど枕を投げていたのはなんと絵里であり、意外にもノリノリな絵里に、奏夜は苦笑いをしていた。
「いいわよ。やってやろうじゃない!」
ここでどうやら真姫の闘志に火がついたようであり、合宿や修学旅行の定番である枕投げが始まろうとしていた。
「おいおい……。明日は早朝から練習だっていうのに、そんなこt……。へぶっ!」
無邪気に枕投げを楽しむ海未以外のメンバーに、奏夜は呆れていたのだが、奏夜は三方向から飛んできた枕を顔面に受けてしまっていた。
「奏夜♪そんな悠長なこと言ってていいのかしら♪」
「そうやなぁ♪ここはもう、戦場なんやで、奏夜君♪」
「お前らなぁ……。3年生がノリノリになるなよな」
「あら♪先輩禁止でしょ?だから今は学年なんて関係ないわ♪」
このように語る絵里は、ペロッと舌を出しながらウインクをしており、大人っぽい雰囲気の絵里も、年相応の少女なんだなと実感することが出来た。
「みんな!今は奏夜が1番の狙い目よ!鬱憤を思い切りぶつけなさい!」
何気ににこもノリノリであり、1人だけ枕投げに消極的な奏夜を集中攻撃しようとしていた。
「いっくにゃあ♪」
そんなにこの言葉に乗り気になった凛は、容赦なく枕を奏夜に投げつけていた。
「うぶっ……。ったく、仕方ないな。どうなっても知らないからな……」
無抵抗なまま一方的にやられるのは面白くないと思っていたからか、奏夜は枕投げにやる気になっていた。
『おいおい。お前も乗り気になるなよな……』
穂乃果たちの暴走を抑えようとしていた奏夜まで枕投げに参加しており、キルバは呆れていた。
『……魔戒騎士といっても、こういうところは本当にガキだよな……』
枕投げを楽しむ奏夜を見て、キルバはこのように呟いていた。
こうして楽しい枕投げは続いていたのだが、楽しい時間は長くは続かなかった。
何人かの投げた枕が、勢いあまって海未に直撃してしまった。
『あっ!』
そのことに対して穂乃果たちは思わず声をあげて、顔を真っ青にしていた。
そして、沈黙を守っていた海未(悪鬼)が目を覚ましてしまった。
「……何事ですか?」
海未の表情は見ることは出来なかったが、怒っていることは間違いなかった。
目を覚ました海未は、枕を手にして仁王立ちをしており、その様子に穂乃果たちは怯えていた。
「あっ、いや……その……」
「ちっ、違っ!狙って当てた訳じゃ……」
海未の放つあまりに異彩なオーラに、真姫もたじろいでいて、言い訳をしていた。
「明日……。早朝から練習すると言いましたよね?」
「う、うん……」
「それなのに、こんな時間に一体何をしているのですか……」
「……お、落ち着きなさい、海未」
海未の放つあまりに異彩なオーラにたじろぐのは絵里も同様であり、このように海未をなだめようとしていた。
「ま、まずいよ……」
「海未ちゃん、寝てる時に起こされると、ものすごく機嫌が……」
どうやら海未は寝てる時に起こされると機嫌が悪くなるようであり、今はまさに機嫌が悪い状態であった。
海未は枕をギュッと握りしめると、枕をにこ目掛けて投げつけるのだが、その時、ブォン!と凄い音を立てていた。
「ぐぇっ!」
「にこちゃん!」
凛はにこに声をかけるのだが、海未の放った枕が効いているのかダウンしていた。
「だ、ダメにゃ……。もう、手遅れにゃ!」
「ちょ、超音速枕……」
「ハラショー……」
凛、花陽、絵里の3人は、海未の放つ速い枕に絶望していた。
「クククク……!覚悟は出来ていますか……?」
「海未、何か怖えよ……」
海未の邪悪な微笑みに、奏夜ですら怯えていたのであった。
「ど、どうしよう!穂乃果ちゃん!」
「生き残るには、戦うしか!」
どうやら海未を黙らせるには、枕投げによる勝負に勝つしかなかった。
しかし……。
「ふん!」
「ぐぇっ!」
海未の音速枕が穂乃果に襲いかかり、穂乃果はダウンしてしまった。
「ごめん!海m……」
絵里もまた、海未を黙らせようとしたのだが、返り討ちにあってしまった。
「海未。悪く思うなy……」
続いて奏夜も同じように海未を黙らせようとするものの、先ほどの穂乃果や絵里よりも勢いのある枕を顔面に受けてしまい、その場でダウンしてしまった。
そんな海未は花陽と凛にジリジリと迫っていた。
「「……た、助けて〜!」」
花陽と凛が誰かに助けを求めると、どこからか枕が飛んできて、その枕は海未に直撃した。
その枕を受けた海未は、その場でダウンしていた。
海未に枕を投げたのは……。
「……!真姫ちゃん!希ちゃん!」
どうやら真姫と希の2人のようであり、花陽は歓喜の声をあげていた。
「ふぅ……」
海未が落ち着いたことに、ことりは安堵しており、こうして枕投げは終了となり、その後は全員すぐ寝ることにした。
※※※
枕投げの後、奏夜たちはぐっすりと眠っていたのだが、奏夜は5時前に目を覚ましていた。
奏夜はそのまま起き上がろうとしたのだが……。
「……暑苦しい……」
両隣で眠っていた穂乃果とことりが奏夜にくっついており、それが恥ずかしいと思いながらも2人を起こさないように引き離していた。
2人をどうにか引き離した奏夜は、ゆっくりと起き上がり、誰も起こさないように魔法衣に手を伸ばすと、それを羽織ってリビングを出ていった。
そのままこっそり別荘を出た奏夜は、浜辺へと移動し、剣の稽古を始めていた。
奏夜は時間のある時は、魔戒騎士として鍛錬を怠らなかった。
それは魔戒騎士として強くなりたいからというだけではなく、それが当たり前になっているからである。
1時間程剣の素振りを行っていた奏夜は、そこで剣の稽古をやめて、地平線から顔を出す朝日を眺めていた。
「……綺麗な朝日だな……」
海から見える最高のコントラストに、奏夜は心を奪われていた。
「……俺は大切なμ'sのみんなだけじゃない。こんな綺麗なものも守っていかないとな」
奏夜は綺麗な景色を眺めながら、このような誓いを立てていた。
『月影統夜も言っていたが、あまり気負うんじゃないぞ。力を求め過ぎるのは己の身を滅ぼすだけだからな』
「……あぁ。肝に銘じておくよ」
奏夜は穏やかな表情でこのように答えていた。
少し前の奏夜であれば、μ'sのみんなを守るという大義名分の中、力だけを追い求めていたのだが、今は違っていた。
心の底から穂乃果たちを守りたいと思っており、その気持ちを力に変えて強くなろうとおもっていた。
……まぁ、以前の奏夜も、穂乃果たちを本気で守りたいということに対しては嘘はないのだが……。
奏夜が海からの絶景を見ていたその時だった。
「あっ、そーくん!」
穂乃果が奏夜の姿を見つけて、奏夜に駆け寄っていた。
「ほ、穂乃果……。ずいぶんと早いな……」
穂乃果が早起きをすると思っていなかったからか、奏夜は驚きを隠せずにいた。
「ダメだよぉ〜、そーくん!せっかくの絶景を独り占めしたら!」
「?いったいどういうことだ?」
奏夜はここで景色を見ていたのは間違いないが、独り占めしていたという穂乃果の言葉は理解出来ず、首を傾げていた。
「みんな、こっちにいるから、早くいこっ!」
「おい、穂乃果!引っ張るなって!」
穂乃果は奏夜の手を取ってどこかへと向かっていき、奏夜は抵抗することなく穂乃果が向かったどこかへと向かっていった。
すると、先ほどまで奏夜がいた場所からそんなに離れていないところに、μ'sの8人が集合していた。
「おっ、奏夜。やっと来たわね」
「そーや君、遅いにゃあ!」
「そうね。あれ程言ったじゃない。レディを待たせるなって」
「……みんな……。どうして……?」
奏夜は、穂乃果たちがここまで早く起きてくるとは思わなかったため、驚きを隠せなかった。
「元々はウチと真姫ちゃんが早起きしてたんやけどな。ついさっき穂乃果ちゃんたちも合流したという訳や♪」
「なるほどね……」
何故穂乃果たちが早起きしてここに集まっているかを奏夜が理解したところで、奏夜たち10人は横一列に並んでいた。
そして、自然と互いに手を繋ぎ、地平線から顔を出す朝日をジッと見つめていた。
「……ねぇ、絵里」
しばらく静寂がその場を支配する中、真姫がこう口を開いていた。
「ん?何?」
「……ありがとね……」
真姫は少しだけ恥ずかしがりながらもこのようなことを言ってくれた。
絵里が「先輩禁止」を提案しなければ、真姫はここまで自分の気持ちに素直になることが出来たのである。
「……ハラショー♪」
絵里は自分の気持ちに素直になれた真姫のことが嬉しかったからか、こう答えながらウインクをしていた。
「よぉし!ラブライブ出場目指して、μ's頑張るぞ!」
『おう!!』
こうして奏夜たちは、ラブライブ出場という目標を掲げていたのだが、気持ちを新たに合宿2日目を迎えることとなった。
合宿2日目は昨日の宣言通りに練習が中心だったのだが、昨日散々遊んだからか、文句を言うものはいなかった。
そのため、合宿という名前に相応しい、充実した練習を行うことが出来た。
しかし、合宿はまだ終わりではない。
これから一大イベントが待ち構えているのであった……。
……続く。
__次回予告__
『合宿もついに終わりか。まぁ、こういったことで楽しむことも必要は必要ってことなのか?次回、「親交」。あいつらとの交流が再び始まる!』
ラブライブ!の10話はここで終わりました。
ですが、合宿の話はまだ終わりではありません。
それにしても、穂乃果とことりにくっつかれる奏夜が羨まし過ぎる!
奏夜!そこを代われ!(笑)
それはともかくとして、μ'sのメンバーが奏夜のことをどう思っているのかがハッキリしましたね。
今のところフラグが立っているのは2年生組だけですが、他のメンバーもフラグが立つ可能性は十分にあります。
ここから先、どうなっていくのか?ぜひご期待ください!
さて、次回も合宿回ではありますが、オリジナルの回となっています。
次回で合宿編は終わりですので、よろしくお願いします。
それでは、次回をお楽しみに!