牙狼ライブ! 〜9人の女神と光の騎士〜   作:ナック・G

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お待たせしました!第34話になります。

この前FF14の1日メンテナンスがあったため、小説執筆にかなり時間を費やすことが出来ました。

おかげさまでちょっとは執筆が進んだ気がします。

さて、今回からいよいよ合宿回です。

奏夜たちが行う合宿は、いったいどのようなものになっていくのか?

それでは、第34話をどうぞ!




第34話 「合宿」

ラブライブ出場に向けて秋葉原にて路上ライブを行ったのだが、これは見事に成功して幕を降ろした。

 

このライブの映像もアップされたのだが、反響はかなりあるみたいであり、今後のランキングにも影響しそうな程であった。

 

それから時が流れ、7月も終わろうとしていた。

 

そう、学生にとっては待ちに待った夏休みの始まりである。

 

夏休みとは言ってもμ'sの練習が休みになることはなく、むしろラブライブ出場に向けてより一層練習に熱が入っていた。

 

しかし……。

 

「……あぅぅ……暑い……」

 

「そうだねぇ……」

 

奏夜たちは屋上に入ろうとするのだが、降り注ぐ夏の熱気に、にこと穂乃果は耐えられず、全員で屋上の前にいた。

 

「……っていうか馬鹿じゃないの!?こんな暑い中で練習とか!」

 

「あのなぁ……。気持ちはわかるけど、そうも言ってられんだろう……」

 

にこはこの猛暑の中での練習に抵抗があるようであり、奏夜はそんなにこに呆れていた。

 

「奏夜の言う通りよ。そんなこと言ってないでレッスン始めるわよ!」

 

「はっ、はい……」

 

絵里の強めな発言に花陽は少し怯えてしまったからか、凛の後ろに隠れてしまっていた。

 

「花陽……。これからは先輩も後輩もないんだから、ねっ?」

 

「はっ……はい」

 

自分のせいで花陽を怖がらせてしまったことが申し訳ないからか、絵里はこのような言葉を送っていた。

 

そんな絵里の言葉に安心したからか、花陽はひょっこりと顔を出すと、穏やかな表情で微笑んでいた。

 

このまま練習を始めようとしたのだが……。

 

「……あっ、そうだ!ねぇねぇ!合宿しようよ!」

 

穂乃果は唐突にこのようなことを提案していた。

 

「おいおい、ずいぶんと急だな……」

 

いきなりこのような話を切り出されたため、奏夜は少しばかり呆れていた。

 

「あぁ!何でもっと早く思いつかなかったんだろう」

 

合宿をするというのが妙案だと思っていた穂乃果はこのようなことを言いながら頭を抱えていた。

 

「合宿かぁ……。面白そうにゃ!」

 

「そうね。この炎天下の中で練習するのも体がきついからね」

 

どうやら穂乃果の言っていた合宿に、凛とにこは賛成のようだった。

 

「合宿は良いが、場所はどこでやるつもりなんだ?」

 

「そりゃ、海だよ!夏だもん!」

 

穂乃果は、合宿場所として、海のある場所を希望していた。

 

「それに、予算はどうするつもりなのです?」

 

海未の言う通り、合宿に行くならばただという訳にはいかない。

 

宿泊費や食費。その他もろもろと費用がかかってくるため、全員の負担になることは間違いなかった。

 

「大丈夫だよ!そこはそーくんが……」

 

「おいコラ、人をATM扱いするんじゃないよ」

 

全ての費用を奏夜に出させようとする穂乃果を、奏夜は軽い力で小突いていた。

 

「痛っ!むー……!何するのさ、そーくん!」

 

軽い力でも穂乃果には痛かったようであり、穂乃果は小突かれた部分をさすりながら膨れっ面で奏夜のことを睨みつけていた。

 

「頑張ればお前らの合宿代は捻出出来るが、俺の生活が脅かされるっつうの!」

 

奏夜は魔戒騎士として番犬所から手当てはもらっているのだが、まだまだ未熟な魔戒騎士である奏夜はそこまでもらっている訳ではなかった。

 

貯金も少しはあるのだが、合宿費用を出すとなると貯金をほぼ使い切ってしまう可能性がある。

 

「流石に、奏夜1人にそこまでの負担はかけられないわね……」

 

奏夜1人に出させるのはさすがに違うと思ったのか、絵里はこのようなことを言っていた。

 

「……言っておくが、ことりのバイト代をアテにするのも駄目だからな」

 

「えぇ!?なんでわかったの!?そーくんってエスパー!?」

 

どうやら穂乃果は本当にことりのバイト代をアテにしていたようであり、それをズバリと当てられたことに驚いていた。

 

『いやいや。ちょっと考えればわかるだろう……』

 

穂乃果は金を持っているであろう奏夜をアテにしようとしていたくらいだから、メイド喫茶でバイトをしていることりに頼ることは簡単に予測することが出来た。

 

「……あっ!それならば、紬さんに相談してみてはどうですか?」

 

「そうか!その手があったか!」

 

海未の提案を聞いた奏夜の表情は明るくなり、その案に乗ろうとしていた。

 

「?紬さんに?どういうこと?」

 

オープンキャンパスの時に、統夜や軽音部のメンバーと交流した絵里であったが、海未や奏夜の言葉の意味を理解出来ず、首を傾げていた。

 

「紬さんの家って桜ヶ丘の中でも随一の富豪で、複数の別荘を持ってるそうなんです」

 

「それで、統夜さんたち軽音部は合宿の度にその別荘を借りて練習をしていたみたいなんです」

 

「はっ、ハラショー……!」

 

別荘で合宿という話があまりにも凄すぎるからか、絵里は驚きを隠せなかった。

 

「だけど、紬さんだって大学の軽音部で合宿をするよねぇ?それだったら別荘を借りる交渉は難しいんじゃないかなぁ?」

 

「確かにそうだよなぁ。一緒に使わせてもらうって言っても練習メニューがあまりにも違いすぎるからな」

 

ことりの指摘通り、紬たちも大学の軽音部で合宿に行くことが予測されており、別荘を使うことが予想されるため、別荘を借りるのは難しそうだった。

 

それに、奏夜たちの練習メニューは運動部のものとそれほど変わらないものであるため、文化系である軽音部と一緒に練習するのは厳しいと思われた。

 

「……そうだよねぇ……」

 

メンバーの経済的にも厳しく、頼みの綱である紬の別荘も借りるのは困難であるため、穂乃果の立てた合宿の件は頓挫すると思われた。

 

やはり合宿を諦めきれない穂乃果は……。

 

「……ねぇ、真姫ちゃん。真姫ちゃんのお父さんって院長さんだよね?別荘とかって持ってないの?」

 

「……まぁ、あるにはあるけど……」

 

真姫の父親は西木野総合病院の院長であり、秋葉原でもかなりの富豪に入るため、別荘は持っているみたいだった。

 

「真姫ちゃん、お願い♪」

 

穂乃果は真姫に抱きつき、頬をスリスリしながらこのように懇願をしていた。

 

「ちょ、ちょっと待って!何でそうなるの!?」

 

「そうよ。いきなり押しかける訳にはいかないわ」

 

そんな穂乃果に真姫は困惑し、絵里がこのように反対意見を出していた。

 

それを聞いた穂乃果は……。

 

「……そっか……。そうだよね……。アハハ……」

 

明らかに残念そうにしており、今にも泣きそうだった。

 

そんな穂乃果の表情を見てしまった真姫は……。

 

「……仕方ないわね。聞いてみるわ」

 

「本当!?やったぁ!!」

 

先ほどまでの泣きそうな表情はどこかへと行ってしまい、穂乃果の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「……そうだ!これを機に“アレ”をやってしまった方がいいわね」

 

「?絵里先輩、あれって何ですか?」

 

「ふふっ、すぐにわかるわよ」

 

どうやら絵里は合宿をやるならばと何かを企んでいるようであった。

 

こうして、合宿の話は決まりそうになっていたのだが……。

 

「……悪い。合宿なんだけど、俺は行けないかもしれないんだ」

 

「えぇ!?何で何で!?」

 

奏夜は申し訳なさそうにこう言うのだが、穂乃果はすぐに異議を唱えていた。

 

「理由としては、魔戒騎士としての仕事が忙しくなるからかな?」

 

「魔戒騎士の仕事……ですか?」

 

「夏休みは魔戒騎士の仕事に専念出来るからな。可能な限りはそちらの仕事を優先したい」

 

『それに、この前現れたあいつら絡みの事件もあるからな』

 

奏夜は魔戒騎士の仕事を理由に、合宿には参加出来ないかもしれないということを伝えていた。

 

「それともう1つ。合宿ってことは別荘にしろ何にしろ寝泊まりするってことだろ?男が1人混ざって良いものなのか……」

 

奏夜は自分だけが男なので、9人の少女と寝泊まりして良いのかと迷っていた。

 

これもまた、奏夜を合宿へ参加させることを躊躇わせる理由なのだ。

 

「大丈夫だよ!そーくんなら大丈夫だから!」

 

「それに、あなたがいないと合宿しても意味がないからね」

 

「そうです。ですから、番犬所の人に相談してはもらえないでしょうか?私たちと合宿へ行けるように」

 

「そーくん、お願い!」

 

穂乃果たちは奏夜にも合宿に参加してもらいため、このように説得を試みていた。

 

最後のことりのお願いを聞いた奏夜は、「うーん……」と真剣に考えていた。

 

ことりのお願いのため、それを無下には出来なかったからである。

 

「……わかったよ。交渉するだけしてみるさ」

 

「「やったぁ!」」

 

奏夜はロデルと話をすることを決意しており、そのことに喜んだ穂乃果とことりはハイタッチをしていた。

 

「だけど、もし番犬所がダメだと言ったら合宿には参加出来ないからな」

 

「わっ、わかってるよ!」

 

話だけはするが、もしロデルがダメだと言えば参加する訳にはいかないため、奏夜はそこは穂乃果たちの頭に入れてもらうことにしていた。

 

こうしてこの日は炎天下の中だがどうにか練習を行うことになり、奏夜は練習終了後、番犬所に向かってロデルに話をすることにした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

この日の練習が終わり、奏夜は翡翠の番犬所へと直行した。

 

「……お、来ましたね、奏夜」

 

「はい、ロデル様」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、狼の像の前に立ち、魔戒剣を抜くと、狼の口に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣の浄化を行った。

 

それが終わると、奏夜は魔戒剣を鞘に納めて魔法衣の裏地にしまっていた。

 

「……ロデル様。1つお願いしたいことがありまして……」

 

「?お願い……ですか?」

 

「はい。今度μ'sのみんなが合宿を行うことになりまして……」

 

奏夜は合宿というキーワードを口にして、そのキーワードを聞いたロデルは……。

 

「行ってきなさい!何があっても!!」

 

奏夜はまだ最後まで話をしていないにも関わらず、奏夜の合宿行きを了承していた。

 

「よ、良いのですか?」

 

ここまで食い気味に了承されるとは思ってなかったので、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「当たり前です!合宿といえば泊まりでしょう?μ'sのみんなに何かあったらどうするんですか!」

 

ロデルはここまで感情的になることは珍しく、奏夜はタジタジになっていた。

 

「は、はぁ……」

 

「とりあえず、詳しい日にちがわかり次第、すぐに私に連絡をするように」

 

「わ、わかりました……」

 

ロデルはどうやらアイドルのことになるとキャラが変わってしまうようであり、花陽と重なるところがあった。

 

そんなロデルに奏夜は苦笑いをしており、2人いるロデルの付き人の秘書官は、眉をひそめていた。

 

この日は指令がなかったため、番犬所を後にした奏夜は許可をもらったことを穂乃果にすぐ連絡を入れていた。

 

奏夜が合宿に参加出来ることがわかると、合宿のスケジュールが急速に組まれていった。

 

奏夜が穂乃果に連絡するよりも早く、真姫が別荘の使用許可を得ていたみたいだからだ。

 

この日は指令はなかったため、奏夜は街の見回りを行ってから家に帰り、翌日以降から合宿の準備に追われていた。

 

そして、合宿当日を迎えた。

 

今回合宿で訪れる真姫の別荘は東京ではない場所にあるため、電車で1時間強ほどかかることになる。

 

そのため、奏夜たちは東京駅で待ち合わせをして、そこから電車に乗り込むことになった。

 

「……よう、みんな。お待たせ!」

 

奏夜が待ち合わせ場所である東京駅の広場に到着すると、既に穂乃果たちは集合しており、来てないのは奏夜だけであった。

 

「そーくん、遅い!待ちくたびれちゃったよぉ!」

 

奏夜が遅いことが気に入らなかったのか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「お前らが早過ぎるんだよ。俺は時間通りに来たぞ」

 

「そういうことじゃないのよ、奏夜。いくら時間通りだろうと、レディを待たせるのはいかがなものかってことを言いたいのよ」

 

奏夜は時間通りに来たと主張していたのだが、にこはそんな奏夜の言葉に異議を唱えていた。

 

「レディ?俺の目の前にいますかねぇ」

 

奏夜キョロキョロと周囲を見回す素ぶりをしていた。

 

「あっ、あんたねぇ……!」

 

にこは奏夜の態度が気に入らないのかジト目で奏夜を睨んでいた。

 

「まぁまぁ。みんな揃ったんだし、そろそろ出発しない?」

 

ことりはそんなにこをなだめていた。

 

「その前に、この合宿でみんなにやってもらいたいことがあるの」

 

「やってもらいたいこと?」

 

「そう。それはね……」

 

絵里はふふんとドヤ顔をしながらこの合宿で「先輩禁止」を行うことを告げていた。

 

「先輩禁止……ですか?」

 

絵里の思いがけない提案に、奏夜は驚きを隠せず、それは3年生組以外の全員も同様であった。

 

「そう。前からずっと気になっていたの。先輩後輩はもちろん大事だけど、踊っている時にそういうところを気にするのはどうかと思ってね」

 

「なるほど……。それは確かに一理ありますね」

 

絵里がこのようなことを行う理由を語ると、その理由に納得したからか奏夜はウンウンと頷いていた。

 

「確かに、私も3年生に合わせてしまうところがありますし……」

 

μ'sの活動は部活動の側面もあるため、先輩後輩を意識するのは当然なのだが、海未はパフォーマンスの時でも3年生を意識するところがあった。

 

それは他のメンバーも大なり小なりはあるが感じているところであった。

 

「……そんな気遣い、まったく感じられないんだけど……」

 

にこも3年生であるのだが、海未の言うような合わせるという気遣いは見受けられなかった。

 

「そりゃあ……ねぇ……」

 

「だって、にこ先輩は上級生って感じがしないにゃ!」

 

奏夜は言葉を濁していたのだが、凛はハッキリとこう告げていた。

 

凛の容赦ない発言に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「じゃあ!上級生じゃなかったら何だっていうのよ!」

 

「……後輩?」

 

「ていうか、子供?」

 

「マスコットやと思ったけど」

 

凛、穂乃果、希の3人は、にこに対する印象をハッキリと言っていた。

 

「どんな扱いよ!」

 

「梓さんは先輩って感じはするけど、にこ先輩はそんな感じはしないんだよなぁ」

 

奏夜が話に出したのは、先輩騎士である統夜と同じ軽音部でその統夜の後輩であり、彼と交際している中野梓だった。

 

梓はにこと同じように小柄でツインテールなのだが、しっかりとしているため、奏夜は先輩らしいという印象を持っていた。

 

「ちょっと!にこだって立派な先輩なんだけど!!」

 

にこは自分に対する扱いに対してすかさずツッコミを入れていた。

 

「まぁ、それはともかくとして、さっそく始めるわよ」

 

「それはともかくって……」

 

絵里はにこのことをスルーしており、そんな絵里に、にこは唖然としていた。

 

「それじゃあ、行くわよ、穂乃果」

 

「え?あ、はい!えっと……」

 

いきなり自分に振られたため、穂乃果は困惑していた。

 

今まで先輩と呼んでいたのをいざそう呼ばないとなると、かなり緊張するからである。

 

少しばかり躊躇していた穂乃果は……。

 

「……え、絵里ちゃん!」

 

どうにか絵里のことを先輩と呼ばずに言うことが出来た。

 

「うん!」

 

先輩禁止が上手くいき、絵里は満面の笑みを浮かべていた。

 

「ふぅ……。緊張したよぉ……」

 

「それじゃあ凛も!!」

 

絵里のことを「絵里ちゃん」と呼んで穂乃果が安心する中、次は凛が挑戦するようであった。

 

「えっと……。ことり……ちゃん?」

 

「はい♪よろしくね!凛ちゃん、真姫ちゃん♪」

 

ことりは凛だけではなく、真姫にも話を振ろうとしていた。

 

「ヴェェ!?え、えっと……」

 

いきなり話を振られた真姫は、どうにかことりのことを先輩と付けずに呼ぼうとしたが……。

 

「べ、別にわざわざ今呼ぶ必要もないでしょ?」

 

真姫は頬を赤らめながらそっぽを向いてしまった。

 

「ったく……。素直じゃないな、真姫は……」

 

「む……!何が言いたいのよ、奏夜!!」

 

「そうそう。みんなのこともそんな感じで呼べばいいんだよ」

 

真姫は奏夜だけは先輩と呼んでいなかったため、いつものように呼んでいたが、他のメンバーに対してもそう呼べばいいと優しく語りかけていた。

 

「ふ、ふん!あんたと他のみんなとじゃ全然違うのよ!あんた、先輩っぽくないしね」

 

「やれやれ……。ひどい言われようだな……」

 

真姫の素直になれない故の言葉に奏夜は苦笑いをしながらポリポリと頭をかいていた。

 

そんな真姫の様子を、希は笑みを浮かべながら見守っていた。

 

「それじゃあ、そんな奏夜君も言ってみようか♪」

 

そして希は、真姫に優しく語りかけた奏夜に話を振っていた。

 

「そうだな……。改めてよろしくな。希」

 

「うんうん♪よろしい♪」

 

奏夜は穂乃果や凛と違って恥ずかしがったり躊躇したりすることなく先輩を付けずに呼ぶことが出来ていた。

 

「ずいぶんとしっくり言えたものね」

 

絵里は、ここまで躊躇なく先輩禁止が出来ている奏夜に少しだけ驚いていた。

 

「まぁ、先輩と呼ぶのはちょっと抵抗があったのもまた事実だし……」

 

奏夜は絵里と希がμ'sに入ってからというものの、「絵里先輩」、「希先輩」、「にこ先輩」と呼ぶことに対して少しだけ違和感を感じていた。

 

希に対して「希」と呼ぶことによって、ずれていたものが治った感覚になっていたのである。

 

「それなら私のことも呼べるわよね?」

 

「あぁ、もちろんだよ、絵里」

 

「……ハラショー♪」

 

奏夜は絵里のことも躊躇なく先輩を付けずに呼べて、絵里も嬉しそうだった。

 

「奏夜、にこのことだけは特別に敬意を込めて呼んでもいいわよ」

 

「……にこ、うっさい」

 

「ちょっと!何でにこの扱いだけこうもおざなりなのよ!!」

 

「にこが一番しっくり来るんだよ!」

 

「ぐぬぬ……。あんたねぇ……!」

 

先輩と呼んでも呼ばなくてもにこの扱いだけは相変わらずのようであり、にこはジト目で奏夜を睨みつけていた。

 

「……まぁ、それはともかくとして、花陽と凛も、俺のことは「奏夜」って呼んでくれよな」

 

「……またともかくって……」

 

絵里に続いて奏夜にまで話をスルーされてしまい、にこは唖然としていた。

 

「……う、うん……。これからもよろしくね……。そ、奏夜君……」

 

「凛も凛も!そーや君!これからもよろしくにゃ!」

 

「おう!2人とも、よろしくな!」

 

花陽は恥ずかしそうに奏夜の名前を呼んでおり、凛は元気いっぱいな感じで奏夜の名前を呼んでいた。

 

「それじゃあ、これから合宿に向かいます。それでは、部長の矢澤にこさん、一言お願いします」

 

「うぇぇ!?わ、私!?」

 

「頼みましたよ。部長♪」

 

「あ、あんた……!」

 

奏夜はニヤニヤしながらにこのことをからかっており、にこはそんな奏夜の態度が気に入らなかった。

 

そしてにこは「オホン!」と咳払いをした後に一言言うのだが……。

 

「それじゃあ……しゅ、しゅっぱぁ〜つぅ!」

 

にこは力無い感じでこのように言っており、にこの言葉がそれだけなことに対して、穂乃果たちはポカンとしていた。

 

「にこって意外とアドリブに弱いんだよなぁ……」

 

「うっ、うるさいわね!いきなりなんだから仕方ないでしょ!?」

 

奏夜の言われた言葉が気に入らないからか、にこはムキになって奏夜に反論していた。

 

こうして奏夜たちは、先輩禁止をこの合宿で行い、先輩後輩の垣根を取り除くという目標を掲げながら、合宿へと出発していった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

東京駅から電車でおよそ1時間ほど移動し、その後は徒歩で別荘へと向かっていった。

 

しばらく歩いていると、大きな建物が見えてきた。

 

「おぉ、凄いな……。まぁ、真姫。もしかしてここが真姫の別荘なのか?」

 

奏夜は見えてきた大きな建物を指差してこのように聞いていた。

 

しかし……。

 

「違う違う。ウチの別荘はもうちょっと小さいわ。それに、もうちょっと行ったところにあるわ」

 

「……へぇ、そうなのか……」

 

「この建物、誰かの別荘なのかしらね?」

 

「さぁ、私は何度も自分の別荘に来てるけど、ここの所有者らしき人には会ったことがないわね」

 

真姫はこれから行く別荘に何度も行ったことはあるのだが、この建物を誰が所有しているのかは知らなかった。

 

「ふーん……。だけど、この先なんでしょう?早く行こうよ!」

 

この建物のことは色々と気になるものの、穂乃果はこの先にあるであろう別荘に向かって進んでいった。

 

「ちょっと穂乃果!先に行っても場所はわからないでしょう!?」

 

「穂乃果ちゃん、待ってよぉ〜!!」

 

先に進んでいった穂乃果を、海未とことりは慌てて追いかけていった。

 

「ったく……。俺たちも行こうぜ、真姫」

 

「そうね。行きましょう、奏夜」

 

残りのメンバーも、穂乃果たちを追いかけながら別荘へと向かっていった。

 

奏夜たちがその場を離れて間もなくだった。

 

「……ん?あれは……奏夜?」

 

真夏には合わない赤いロングコートを着た青年……月影統夜が何故かこの建物の前に現れており、別荘へ向かう奏夜たちをジッと見ていた。

 

「何であいつらがこんなところに……」

 

『あいつら、合宿をやるとか言ってなかったか?』

 

「あぁ、そういえばそうだったな。確かこの先の建物は誰かの別荘だったはずだから、μ'sのメンバーの誰かがムギみたいに別荘を持ってるってことなのか?」

 

統夜は何で奏夜たちがこんなところにいるのか理解出来なかったが、イルバの言葉で合宿の存在を思い出していた。

 

さらに、統夜はこの先が誰かの別荘であることを何故か知っていた。

 

なので、μ'sの誰かが別荘を持てるほどの金持ちなのではないかと推測をしていた。

 

『さぁな。だが、1番可能性があるとすればあのツンデレのお嬢ちゃんじゃないか?』

 

「あぁ、真姫のことか。そういえば、親が病院を経営してるって言ってたもんな。充分にあり得る話だな」

 

イルバはすぐにこの先の別荘が真姫の家のものではないかと予想しており、統夜はそれに同意していた。

 

「……それはともかくとして、イルバ、この辺に本当に魔竜の眼があるっていうのか?」

 

『さぁな。だが、元老院の使者がそれらしき物を見つけたと報告があった手前、調べない訳にはいかんだろう』

 

「それにしても、調査する場所がムギの別荘の近くとはな……。おかげで俺も合宿にちょっとは顔を出せそうだけど……」

 

統夜は先ほどまで奏夜たちが見ていた建物をジッと見つめていた。

 

どうやらこの建物は、琴吹家の別荘であり、軽音部のメンバーはここで合宿を行うみたいである。

 

『とりあえずはさっさと仕事を済まさないとな』

 

「わかってるって。じゃないと唯たちがうるさいからな。それに、今回の合宿には晶(あきら)たちも来るみたいだし」

 

『あぁ、そういえばそうだったな。とりあえず行くぞ、統夜』

 

「了解だ、イルバ」

 

こうして統夜は、本当にこの近くにニーズヘッグの力が封じ込められている魔竜の眼があるのか確かめるために調査を開始した。

 

この時、奏夜たちは知る由もなかった。

 

自分たちにとっては先輩にあたる統夜や唯たち軽音部のメンバーが自分たちの近くで合宿を行っているということを……。

 

そしてそれは統夜意外の軽音部のメンバーも同様であった。

 

こうして、奏夜たちの合宿は幕を開けようとしていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『いよいよ合宿が始まったな。まぁ、こうなるとは予想は出来ていたがな。さて、どうなることやら。次回、「先輩」。先輩後輩の垣根は取ることが出来るのか?』

 

 




いよいよ合宿が始まりましたが、まさかの統夜が登場。

さらに、真姫の別荘の近くに紬の別荘があることが判明。

金持ちすげぇよ、金持ち……。

それにしても、他のメンバーは苦労する中、奏夜は先輩禁止が早くも板についてますね。

その方が奏夜にとってはしっくり来るとはいえ……。

ちなみに、統夜が話していた晶というのは、けいおん!の後日談の漫画である「けいおん! college」に登場していたキャラクターです。

その詳細は登場した時に紹介したいと思います。

さて、次回も合宿の話となります。

真姫の別荘で、いったいどのような合宿が行われるのか?

そして、奏夜たちは統夜たちとばったり出くわすことはあるのか?

それでは、次回を楽しみに!


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