牙狼ライブ! 〜9人の女神と光の騎士〜   作:ナック・G

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お待たせしました!第32話になります!

最近仕事が忙しくて、なかなか小説の執筆が出来ない……。

どうにか今のペースは守っていますが、もしかしたら投稿が遅れることがあるかも。

そこはご了承いただけると嬉しいです。

さて、前回ことりの秘密を知った奏夜ですが、その秘密を守り続けることは出来るのか?

それでは、第32話をどうぞ!




第32話 「小鳥」

オープンキャンパスから1週間が経ち、その結果は予想以上に反響があったようであった。

 

ランキングも50位まで上がり、ラブライブ出場が狙える順位になってきていた。

 

本気でラブライブを狙うのなら、思い切った策を立てる必要があったのだが、最近ことりの様子がおかしかった。

 

そんなことりに疑問を持ちながらも、奏夜は短期間でランキングを上げる策を考えていたのだが、番犬所から呼び出しを受けたため、奏夜は番犬所へと向かっていった。

 

ホラー討伐の指令はなかったのだが、ジンガや尊士が復活させようとしている魔竜ホラー、ニーズヘッグの復活を阻止するべく動くようロデルから通達があった。

 

紅の番犬所に所属する統夜も元老院からの指令を受けて奏夜たちに協力することになり、統夜はニーズヘッグを復活させようとしているジンガや尊士の調査を行うことになっていた。

 

それだけではなく、ニーズヘッグ復活に必要な魔竜の眼の捜索も行おうとしている。

 

奏夜たちは、詳しい情報が入るまでは魔戒騎士としての仕事を行うことになった。

 

奏夜たちは番犬所を後にしたのだが、大輝の提案でメイド喫茶に行くことになった。

 

そこで奏夜たちはその店でバイトをしていることりとバッタリ遭遇したのである。

 

実はことりこそ、伝説と呼ばれたメイド、ミナリンスキーだったのだ。

 

衝撃の事実を知った奏夜は驚きを隠せなかったのだが、ことりはメイド喫茶でバイトしていることは他言無用にして欲しいと頼まれる。

 

奏夜は遅かれ早かれバレるとは思っていたのだが、ことりが必死に頼んでいたため、それを了承する。

 

この日は、メイド喫茶を思い切り堪能してから街の見回りを行い、家路についたのであった。

 

翌日、奏夜はいつものようにアイドル研究部の部室に向かうのだが、ことりはこの日も早々に帰ってしまったようである。

 

「やっぱり今日もことりは早々に帰ったんだな……」

 

部室に入った奏夜は、ことりの姿がないことを確認して、このように呟いていた。

 

「そうなんだよ!そーくん、何かことりちゃんから聞いてない?」

 

「いや、聞いてないな。俺も気にはなってるんだけど……」

 

奏夜は自然体に答えていたため、奏夜が嘘をついていると気付くものはいなかった。

 

「ことり……。いったいどうしたというのでしょうか……?」

 

最近のことりの様子に、海未も心配していた。

 

「まさかとは思うけど、彼氏が出来たとか?」

 

「!?」

 

奏夜は事情を知っているものの、穂乃果の推測に驚愕していた。

 

そして、ことりに彼氏が出来たことを想像した奏夜は……。

 

 

 

 

 

 

ガン!ガン!ガン!ガン!

 

 

 

 

 

何故か壁に頭を何度も打ちつけていた。

 

「そ、そーくん!?いったいどうしたの!?」

 

「そ、奏夜!落ち着いてください!」

 

「そうよ!ことり先輩なら彼氏がいてもおかしくはないけれど、ことり先輩に限ったそんなことはないと思うわ」

 

そして、海未と真姫が必死に奏夜のことをなだめており、真姫の言葉を聞いた奏夜はハッとしていた。

 

「……そ、そうだよな!いやぁ、俺としたことが、少し取り乱しちまったよ」

 

『どこが少しだよ……』

 

「確かに……」

 

奏夜のあまりの動揺ぶりにキルバと花陽はジト目で奏夜のことを見ていた。

 

「……奏夜って意外と変人なのね……」

 

「今頃気付いたの?」

 

「せやなぁ。ウチも奏夜君が変人なのはすぐに気付いたんよ」

 

3年生組は奏夜の動揺ぶりを見て、奏夜が変人であると感じていたのである。

 

「ちょっとそこ!そんなこと言わんでくださいよ!地味にヘコみますから!」

 

奏夜は変人扱いされるのが解せないようであり、異議を唱えていた。

 

「……それはともかくとして、ことりはいませんが、私たちだけでも練習しませんか?」

 

「そうね……。まだ、これからのことは決めきれてないけれど、練習は必要だわ」

 

「それはともかくって……」

 

奏夜の唱えた異議は軽くスルーされてしまい、奏夜は引きつった表情で苦笑いをしていた。

 

「……それよりも。やるべきことがあるんじゃないの?」

 

何故かにこはドンと大きく構えて、このようなことを言っていた。

 

「やるべきこと?」

 

「そうよ。それは……」

 

どうやら今からにこのやろうとしていることには準備が必要であり、準備を終えた奏夜たちはとある場所へと向かっていった。

 

その場所とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……秋葉原の街中だった。

 

何故か奏夜以外の全員はしっかりとコートを着込んでおり、マスクにサングラスと怪しい格好をしていた。

 

そして奏夜も、格好は普段の魔法衣のため変わらないのだが、サングラスだけは着用していた。

 

「……あの、暑いんですけど……」

 

穂乃果が暑いと言うのも無理はなかった。

 

現在は夏であり、半袖でも充分暑いというのに、コートにマスクという完全装備なため、サウナのような暑さになっていたのである。

 

「我慢しなさい!これがアイドルを生きる者の道よ!有名人なら有名人らしく街に紛れる格好をしないと」

 

「有名人らしくって……」

 

『それに、本当の有名人ならここまであからさまなことはしないと思うのだが……』

 

奏夜はにこの言葉に呆れており、キルバは的の得たツッコミをしていた。

 

「それにこれでは……」

 

「逆に目立つよな。そんな暑苦しい格好をしてちゃ」

 

真夏にコートを着ている時点で怪しさは全開であった。

 

……奏夜は魔戒騎士であるため、魔法衣と呼ばれるロングコートを毎日着ているのだが……。

 

「馬鹿馬鹿しい!」

 

真姫はつけているマスクとサングラスを外し、コートを脱ぎ捨てていた。

 

そんな真姫を見て他のメンバーもコートとマスクとサングラスを外していった。

 

「例えプライベートといえども、常に見られていることを意識する!トップアイドルを目指すなら当たり前よ!」

 

「その言葉には同意はするけど……」

 

『他にやり方はいくらでもあるだろうに……』

 

人に見られることを意識するという言葉に奏夜とキルバは賛同していたものの、にこのやり方が良いとは思えなかった。

 

「……それにしても、あんたはいつまでサングラスを付けてるのよ……」

 

他のメンバーがいつもの制服姿に戻っても、奏夜はまだサングラスを付けており、そのことに真姫は呆れていた。

 

「いやな。サングラスなんて滅多につけないからつい……。魔法衣にサングラス……。格好良いだろ?」

 

「いえ。充分に怪しいです」

 

「さいですか〜」

 

海未に怪しいと言われて諦めがついたのか、ここで奏夜はサングラスを外していた。

 

「それにしても、奏夜は毎日そのコートを羽織っているんでしょう?暑くないの?」

 

「確かに。そこは疑問に思っていました」

 

絵里は魔法衣を羽織る奏夜にこのような疑問を抱いており、それは海未も気になっていた。

 

「心配ないですよ。こいつは確かにロングコートですけど、これの裏地は内なる魔界に繋がってるから、温度調節も出来てますし」

 

魔戒騎士や魔戒法師の着ている魔法衣は霊獣の毛皮で作られたものである。

 

さらに先ほどの奏夜の説明通り、魔法衣の裏地は内なる魔界に繋がっている。

 

奏夜たち魔戒騎士はそこから魔戒剣を取り出し、魔戒法師は魔導筆や小型の魔導具を取り出したりしている。

 

さらには温度調節の機能も備わっているため、夏の暑い時や冬の寒い時も魔法衣1枚あれば平気なのである。

 

とは言っても、温度調節も多少なので、一般人が真夏に魔法衣を羽織っても、暑いだけなのだが……。

 

「へぇ、魔法衣って便利なのねぇ」

 

「ま、そうかもしれないですね」

 

「むぅぅ……!なんかずるいなぁ……」

 

穂乃果は何故か魔法衣の機能が気に入らないようであり、ふくれっ面になっていた。

 

そんな中……。

 

「うわぁ!凄いにゃあ!!」

 

凛の声が聞こえてきた方向を奏夜たちが向くと、そこには小さめではあるが、スクールアイドルの専門店があった。

 

スクールアイドルが流行っていることに合わせて、最近オープンしたようであった。

 

「へぇ、こんなお店があるんだねぇ」

 

「まぁ、ラブライブが開かれるくらいやしなぁ」

 

こう言いながら穂乃果と希は店内に入っていき、残りのメンバーも店内に入っていった。

 

このお店はスクールアイドルの専門店と言うだけあって、様々なスクールアイドルの缶バッジなどのグッズが置かれていた。

 

「本当に色々置いてあるな……」

 

店内にはA-RISEを始めとして、有名なスクールアイドルの様々なグッズがあり、その豊富な種類に、奏夜驚いていた。

 

そんな中……。

 

「ねぇねぇ!そーや先輩!見て見て!この子、かよちんそっくりだよ!」

 

そう言いながら凛が奏夜に見せてきたのは、花陽そっくりな人物の缶バッジであった。

 

しかし……。

 

「……ん?待てよ?これって……」

 

よく見てみると、これは花陽のそっくりさんではなく、花陽本人の缶バッジみたいだった。

 

まさかμ'sのグッズもあるとは思わなかったからか、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「なぁ、これって花陽本人だよな?」

 

「え?……あっ!本当だ!よく見たらかよちんだにゃ!」

 

「えぇ!?私の!?」

 

ここでようやく凛は気付いたようであり、花陽は自分のグッズが置かれていることに驚いていた。

 

奏夜は周囲を見渡すと、店内の目立つところにμ's専用のコーナーが設けてあった。

 

そこにはμ'sのポスターやμ'sの写真の他、先ほどの缶バッジのような商品も置かれていた。

 

「うっ、うううう海未ちゃん!こ、こここ、これ、私たち……だよね?」

 

「お、落ち着きなさい、穂乃果!」

 

まさか、自分たちのグッズがあるとは思わなかったからか、穂乃果と海未は明らかに動揺していた。

 

「こ、これって本当にμ'sのだよね?石鹸売ってる訳じゃないよね?」

 

「おいおい……」

 

穂乃果のあまりの動揺ぶりに、奏夜は少しばかり呆れていた。

 

にこに至っては、自分たちのグッズが置かれていたのが嬉しかったのか、それを写真に撮ったりしていたのだが、自分のグッズが少ないことは気に入らないみたいだった。

 

奏夜たちが自分グッズが置かれていることに喜んでいたその時だった。

 

「……あの!すいません!」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきたため、奏夜たちはその声の方を向くのだが、そこにはメイド姿のことりがいた。

 

どうやら店員と何かを話しているようだった。

 

「ここに私の生写真があるって聞いて……。あれはダメなんです!すぐに外して下さい!」

 

「写真……?」

 

奏夜はμ's専用のコーナーをよく見てみると、隅っこの方にメイド姿のことりの写真が貼られていた。

 

恐らく、ことりの言っていた写真というのはこれのことなのだろうと察することが出来た。

 

「……ことりちゃん?」

 

「ぴゃあ!?」

 

穂乃果がおずおずと声をかけると、ことりは甲高い声をあげて驚いていた。

 

そして、見られたくないところを見られたからか、呆然としながら固まっていた。

 

(あちゃあ……。あっさりバレちまったか……)

 

ここまであっさりとことりの秘密がバレると思っていなかったからか、奏夜は頭を抱えていた。

 

「……ことり。何をしているのですか?」

 

今度は海未がこのように訪ねており、どう答えればいいのかわからなかったことりはその場で固まっていた。

 

しばらく考えた後、近くに落ちていたガチャガチャのカプセルを拾ったことりが取った行動が……。

 

「……ことり?What?ドナタディスカ?」

 

……何故かカタコトの外国人のようなキャラになってその場を乗り切ろうとしていた。

 

「……」

 

あまりにも苦しいことりの行動に奏夜はジト目になっていた。

 

「うぉっ!?が、外国人!?」

 

凛だけは何故かことりを外国人だと信じてしまい、そんなことりに、絵里もジト目になっていた。

 

「……ことりちゃん、だよね?」

 

「チガイマース!」

 

ことりは自分がことりではないと主張していたが、明らかににバレバレであった。

 

「ソレデハ、ゴキゲンヨウ。ヨキニハカラエ〜ミナノシュ〜♪……さらば!」

 

ことりは誤魔化しながら少しずつ前へ進んで行ったかと思いきや、そのまま逃げ出してしまった。

 

「あっ!逃げた!」

 

ことりが逃げ出してしまったため、穂乃果と海未はそんなことりを追いかけていった。

 

「……ったく……。仕方ないな……」

 

バレバレではあったものの、秘密を守ると約束した以上、奏夜はことりの秘密を守ることにしたため、同じようにことりを追跡していた。

 

逃げる相手を追いかけるというのは、ホラー相手によくやっていることなので、ことりが行きそうな場所を予想しながら奏夜は進み、先回りをすることにしていた。

 

すると、奏夜の予想通り、ことりは穂乃果と海未をまいて路地裏の方へと逃げていった。

 

「……ことり、こっちだ!」

 

「ぴゃあ!?そ、そーくん!?どうして……」

 

いきなり誰かに手を掴まれてことりは驚いていたのだが、それが奏夜だとわかると安心していた。

 

「約束しただろ?秘密は守るって。もうバレバレだとは思うけど、やれるところまでは付き合うさ」

 

いくら秘密がバレそうになっているからといって、その秘密をバラすことはせず、奏夜は最後の最後まで秘密を守ろうとしていた。

 

「そーくん……」

 

ことりは、最後まで自分の味方でいてくれる奏夜のことをありがたいと思っており、嬉しくも思っていた。

 

「さぁ、ことり。今のうちに逃げるぞ。みんなには俺が上手く話して誤魔化しとくからさ」

 

「う、うん!」

 

奏夜はことりを連れてさらに逃げようと考えていたその時だった。

 

「……どこに行くんや?2人とも」

 

「!?の、希……先輩?」

 

どうやら希も2人のことを先回りしていたようであり、逃げようとしていた2人に声をかけていた。

 

「ことりちゃんだけやのうて、奏夜君の様子も少しだけおかしい思うてな。先回りしてみたら、まさか奏夜君も事情を知っているとはなぁ……」

 

「!?ば、バレてる……」

 

『流石は希だな。奏夜の奴も自然に振舞っていたと思ったが』

 

どうやら希は全てお見通しのようであり、奏夜とキルバは驚きを隠せなかった。

 

「それで、奏夜君はこのままことりちゃんを逃して、そのまま話を有耶無耶にしようとしていたんやろ?」

 

「いや……あの……その……」

 

どうやら希は、奏夜の企みまで見通しており、奏夜はどう答えていいのかわからなかった。

 

「そんな悪い子には……」

 

希は急な怪しい笑みを浮かべると、ゆっくりと奏夜に近付いていった。

 

「あの……な、何を……?」

 

「ワシワシメガマックスやで!」

 

「ちょっ……やめっ……」

 

希は問答無用で奏夜に接近し、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

アーーーーーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

奏夜の悲鳴が大きく響き渡っていた。

 

希のワシワシはかなり強烈だったからか、奏夜はその場でダウンしてしまっていた。

 

「そっ、そーくん!?」

 

「さて、次はことりちゃんの番やな。何があったか正直に話さないと、その膨よかな胸をワシワシするよ♪」

 

希は怪しい笑みを浮かべながらことりに近付いていった。

 

「ぴぃっ!?ご、ごめんなさい……」

 

どうやらことりはワシワシ攻撃は嫌だったため、正直に全てを話すことにした。

 

「……俺、明らかにやられ損じゃねぇか……」

 

どうせことりが話すなら自分はやられる必要はないのでは?

 

そう思っていた奏夜は小さな声で異議を唱えていた。

 

「……奏夜君に関しては自業自得や♪」

 

「……ですよねぇ」

 

自業自得と言われてしまえば、これ以上は何も言うことが出来なかった。

 

こうしてことりは穂乃果たちにも事情を話すことになり、穂乃果たちと合流したところで、ことりが働いているメイド喫茶へと向かい、そこで話を聞くことにした。

 

ことりは自分の正体を明かすと、穂乃果たちは「えぇ!?」と驚きを隠せないようだった。

 

「こ、ことり先輩があの伝説のメイド……ミナリンスキーさんだったんですか!?」

 

「うっ……うん」

 

「ひどいよ!ことりちゃん!そういうことなら教えてよ!言ってくれたら遊びに行って、ジュースとか奢ってもらおうと思ったのに……」

 

「そこ!?」

 

「そこかよ!」

 

穂乃果の発言に、花陽と奏夜は思わずツッコミを入れていた。

 

「それよりも文句を言いたいのは奏夜です!」

 

「そうだよ!そーくんはことりちゃんの秘密を知ってたんでしょ?何で教えてくれなかったの?」

 

「仕方ないだろ。俺もそこまで秘密にする理由はわからなかったけど、必死に口止めを頼まれたんだから……」

 

ことりの秘密を知りながらも穂乃果たちには秘密にしていた奏夜のことが気に入らないからか、海未と穂乃果が文句を言っていた。

 

しかし、奏夜は口止めされたから仕方ないと悪びれる様子はなかった。

 

「それに、この写真はいったい?」

 

奏夜は先ほどスクールアイドルの専門店に貼られていたメイド姿のことりの写真について聞いてみることにした。

 

「店内のイベントで歌わされて……。撮影は禁止だったのに……」

 

「なるほどな。それを聞いただけでも安心したよ。好きで撮った訳じゃないんだもんな?」

 

ことりがこの写真をノリノリで撮っていたらどうしようと考えていた奏夜であったが、ことりは落ち込んでるのを見たら、嫌々撮られたものであるとわかり、少しだけ安堵していた。

 

「それじゃあ、アイドルって訳じゃないんだよね?」

 

「うん。それはもちろんだよ」

 

どうやらことりは、スクールアイドルグループμ'sの南ことりとしてメイドをやっている訳ではないため、そのことに穂乃果は安堵していた。

 

「ですが、何故このようなことを?」

 

「ことり、教えてくれないか?」

 

海未と奏夜は、何故ことりはこの店でバイトをするようになったのかを聞き出そうとしていた。

 

「……実は、まだμ'sがそーくんを入れて4人だった頃、スカウトされてこの店で働くことになったの……」

 

「そんな前のことなんだな……」

 

恐らくことりがメイドになったのもμ'sとして動き始めて間もなくであると思われたため、それなりに月日が経過していた。

 

「まぁ、メイドの服って可愛いし、ことりもそれに魅了されたってところか?」

 

「うん。メイド服って可愛いからつい……」

 

どうやら奏夜の推測通り、この仕事を始めた動機は、メイド服が可愛かったからのようであった。

 

「だけど、それだけが理由って訳じゃないだろ?」

 

奏夜は、何故ことりがこの仕事を始めたのか。

 

もっと深刻な理由があるのだろうと感じていた。

 

「……自分を……変えたいなって思って……」

 

「自分を変えたい……か」

 

「だって私は、穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張っていくことは出来ないし、海未ちゃんみたいにしっかりしていない。それに、そーくんみたいに誰かを支えるなんてことも出来てないし……」

 

どうやらことりは自分に対して相当なコンプレックスを抱いているようであり、そんなマイナス面しかない自分を変えたいという気持ちがあるみたいだった。

 

「そんなことないよ!ことりちゃん、歌もダンスも上手だよ!」

 

「穂乃果の言う通り、そんなに自分を卑下する必要はないと思うぞ」

 

「っ!?で、でも!」

 

「ことりは絵里先輩に次いで体が柔らかいからな。それは大きな武器だと思うぞ。それに、ことりは衣装を担当してくれてるだろ?これは、なかなか出来る人はいないんだぞ」

 

「奏夜の言う通りです。もっと自分に自信を持っても良いと思いますよ」

 

穂乃果、奏夜、海未の3人は、自分に自信のないことりのフォローを行っていた。

 

「まぁ、2年生の中では1番まともね」

 

「おい、真姫。今の発言は聞き捨てならないな。もっとまともな人間はいるだろうが」

 

「あんたが1番まともじゃないのよ!」

 

「なんと!」

 

どうやら真姫は奏夜が1番まともじゃないと思っており、奏夜はまさかの言葉に驚いていた。

 

(確かに……。ある意味お前は1番まともじゃないよな……)

 

奏夜はμ'sのマネージャーとしては頼もしいところはあるのだが、それ以外の部分に多少の問題があるようだとキルバは思っていた。

 

奏夜たちは必死にフォローをしていたのだが、ことりはブンブンと首を横に振っていた。

 

「うぅん。私は穂乃果ちゃんや海未ちゃんについていってるだけ」

 

ことりもμ'sとして衣装など様々なことを行ってくれてるのだが、それは穂乃果たちについていっただけと主張していた。

 

(……ことりのやつ、相当思い詰めてるみたいだな……。ついていってるだけだなんて、そんなことはないのに……)

 

《まぁ、お前らがどう思ってようが、本人がそう思っている以上、フォローのしようはないがな》

 

(冷たいようだけど、その通りなんだよなぁ……)

 

奏夜たちはフォローを試みようにも、これ以上なんて言葉をかけて良いのかわからなかった。

 

ことりは俯いた表情をしており、その表情はどこか悲しそうだった。

 

「そういえば、奏夜って、ことりがここで働いてることを昨日知ったって言ってたわよねぇ?」

 

「あぁ。そうだけど……ハッ!!」

 

絵里の言葉を肯定した瞬間、奏夜は絵里が何か勘違いをしていると推測していた。

 

その推測通り、絵里はジト目で奏夜のことを見ていた。

 

「番犬所に呼び出されたとか言ってたわよねぇ……?あれは、嘘じゃ……ないわよねぇ?」

 

「うっ、嘘じゃないぞ!昨日は指令はなかったが、番犬所に呼び出されて話をしてたんだからな」

 

『俺も一緒にいたんだ。番犬所からの呼び出しは嘘じゃないぞ。この店に来たのはその後だけどな』

 

キルバは一切嘘をつくことはなく、昨日のことをありのままに説明していた。

 

「それなら良いのだけれど……」

 

「もしそれが嘘やったら、ワシワシマックスやったけどな」

 

「そ、それはご勘弁を……」

 

どうやら奏夜は希とワシワシがトラウマになっているようであり、顔が真っ青になっていた。

 

「誰かと一緒に行ったんですか?」

 

「あぁ。この前も学校に遊びに来たリンドウや大輝さん。それに、統夜さんも一緒だったぞ」

 

『まぁ、言い出しっぺは大輝だったがな』

 

花陽からの問いかけに、奏夜とキルバはこのように答えていた。

 

「大輝さんって?」

 

大輝とは会ったことのない絵里は、首を傾げながらこう訪ねていた。

 

「あぁ、大輝さんっていうのは、俺の先輩騎士の1人で、俺なんかよりも経験を積んでいるベテランの魔戒騎士なんだよ」

 

「へぇ、そうなのね」

 

「意外だにゃ!それだけ聞いたら、その人がアイドルとかそういう可愛いものに興味なさそうな感じがするし!」

 

どうやら大輝がメイド喫茶にハマっているということは大輝を見たことある2年生組にしても、会ったことない残りのメンバーにしても、予想外だったようである。

 

「昨日この4人で行った時にたまたまことりが働いているのを見てな。それで知ったって訳だよ」

 

「なるほど……。そういう訳だったのですね……」

 

「もしさっきの話が嘘だとしたら、お仕置きだったんだけどね」

 

「嘘じゃないんだから、勘弁してくれよ……」

 

先ほどの話は本当の話だから、お仕置きは避けようと必死だった。

 

「だけど、ことり先輩の秘密を私たちに内緒にしてたわよね?」

 

「それは……口止めされてたから、仕方なく……」

 

「言い訳無用だにゃ!!」

 

「そうです!」

 

「奏夜、覚悟は出来てるんでしょうね?」

 

「あ、あの……。何をしようとしてるんです……?」

 

お仕置きをされそうなオーラが放たれており、奏夜はしきりに怯えていた。

 

「「「「「「「「ふっふっふ……」」」」」」」」

 

ことり以外の全員が、怪しい笑みを浮かべて、奏夜にジリジリと向かっていた。

 

「……な、何を……!」

 

「心配しないで。直接的にはお仕置きをしないから……」

 

どうやら、穂乃果たちからのお仕置きは回避出来るようであり、奏夜はそのことに安堵していた。

 

「その代わり……」

 

どうやらお仕置きはしない代わりに、他のことを考えているようであった。

 

それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「トホホ……。財布が軽くなっちまったよ……」

 

お仕置きをしない代わりに、穂乃果たちは食べたいものを奏夜に奢らせており、その結果、奏夜の財布が一気に軽くなってしまった。

 

「それくらいで済んでるんですから、感謝して下さい」

 

「そうね。お仕置きをしても良いレベルだったんだからね」

 

「え、絵里先輩まで……」

 

どうやら絵里も、μ'sの雰囲気に慣れてきたようであり、奏夜の扱い方も理解しているようであった。

 

奏夜の奢りで食事を楽しんだ穂乃果たちはその場で解散し、今は奏夜、穂乃果、海未、絵里の4人で秋葉原の街を歩いていた。

 

「意外だったなぁ、ことりちゃんがそんなことで悩んでるなんて……」

 

「……俺は経済的に悩んでるよ……」

 

『……ま、別にいいだろ。下ろせば金はあるんだから』

 

「確かにそうだけどよ……。今月これ以上は無駄遣い出来ねぇぞ」

 

奏夜は番犬所から手当としてお金は支給されているのだが、奏夜は魔戒騎士としても未熟なため、それほどはもらえていない。

 

……とは言っても、東京のサラリーマン並にはもらえているのだが……。

 

「……それはともかくとして、みんなそうなのかもしれないわよ」

 

「か、軽くスルーされた……」

 

『絵里のやつ、本当に奏夜の扱い方を心得てきたな……』

 

絵里は財布が軽くなって意気消沈している奏夜をスルーして話を進めており、そのことに唖然としていた。

 

「自分が優れているだなんて、思う人はほとんどいないわ。だからこそ努力をするのよ」

 

「……確かに、そうかもしれませんね……」

 

奏夜は、オープンキャンパス前に尊士に叩きのめされたことを思い出しており、険しい表情をしていた。

 

「……そーくん?」

 

「あぁ、悪い悪い。俺は、魔戒騎士としてもっと努力しないといけない。そう思ってたところだよ」

 

「奏夜……。あなた、この前戦ったあの男のことを……」

 

奏夜が尊士との敗戦を引きずっているのではないか?そんなことを考えていた海未は、心配そうな表情で奏夜のことを見ていた。

 

「大丈夫だ。俺はもっともっと強くなる。単純に力を求めるんじゃなくて、守りし者として……」

 

「奏夜……」

 

「そーくん……」

 

奏夜の強くなりたいという言葉に絵里と穂乃果は心配そうな表情で見ていたのだが、これ以上魔戒騎士の話はしないようにしていた。

 

「……それにしても、友達って、意外とライバルみたいな存在なのかもね」

 

「ライバル……」

 

「えぇ。だからこそことりも悩んで、どうにかしようと努力をしているんじゃないかしら」

 

「……友達がライバル……。それは一理あるかもですね」

 

絵里の言葉を聞いた奏夜は、先輩騎士である統夜の親友である、黒崎戒人(くろさきかいと)のことを思い出していた。

 

黒崎戒人は、統夜と同じ桜ヶ丘にある紅の番犬所付きの魔戒騎士で、堅陣騎士ガイアの称号を持つ魔戒騎士で、統夜最大のライバルである。

 

そう呼ばれる通り、戒人は統夜と同じくらいの力を持っており、元老院所属だとしてもおかしくはないレベルなのだが、今は親友である統夜が愛している桜ヶ丘を守るために戦っている。

 

奏夜もまた、1度だけ試合形式で戒人と戦ったことがあり、その実力は理解していた。

 

「……それじゃあ、また明日」

 

「はい。また明日です」

 

途中で絵里と別れ、奏夜、穂乃果、海未の3人は再び秋葉原の街を歩いていた。

 

「……あれ?奏夜、番犬所は良いのですか?」

 

「あぁ。今のところは指令もないし、せっかくだからたまには2人と一緒に帰りたいと思ってな」

 

奏夜は魔戒騎士の仕事で忙しいからか、穂乃果たちと一緒に帰ることはほとんどなく、たまには穂乃果たちと一緒に帰りたいと常々思っていたのである。

 

そんな奏夜の言葉が嬉しいからか、穂乃果と海未の表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「……そういえばさ、海未ちゃんやそーくんも、私のことを見て頑張ろうって思ったことはあるの?」

 

「……えぇ。数え切れないほどに」

 

「同じく」

 

どうやら海未と奏夜は、穂乃果の存在に奮起する機会はかなりあるようだった。

 

「とは言っても、俺の場合はライバルとは違う感じだけどな。穂乃果がみんなを引っ張っていく姿を見て、もっと俺もしっかりしないとなって奮起するんだよ」

 

奏夜は、穂乃果の持つカリスマ性のようなものを感じ取って、奮起するようであった。

 

「なるほど、奏夜はそんなことを考えていたのですね」

 

同じように穂乃果を見て頑張ろうと思った同士でも、奏夜と海未は考えてることは違うようであり、海未は笑みを浮かべていた。

 

「私にとっては、穂乃果とことりは、1番のライバルですから!」

 

「海未ちゃん……」

 

海未は親友である穂乃果とことりのことをスクールアイドルとしてのライバルと認識しているようであった。

 

親友でありライバル。

 

このような関係性が、穂乃果には嬉しいものであった。

 

「なるほどな。ところで海未。俺はライバルには入らないんだな」

 

「当たり前です!奏夜はライバルと言うよりも、私たちを支えてくれる人なのですから!」

 

「そうだよそうだよ!だからそーくんは私たちにとってはライバルじゃないんだよ!」

 

「ま、確かにそうだよな」

 

スクールアイドルとそのマネージャー。

 

立場が明らかに違うため、穂乃果と海未は、奏夜のことをライバルと呼ぶことは出来ないのである。

 

「それに、そーくんは……////」

 

「私に……私たちにとって……////」

 

穂乃果と海未は最後まで言葉を言い切ることはせず、何故か頬を赤らめていた。

 

「?何で顔を赤くしてるんだ?」

 

『おいおい。お前なぁ……』

 

奏夜は普段、色恋に関してはそこまで鈍感ではないのだが、時々鈍感な一面が顔を出すこともあった。

 

そこは先輩騎士である月影統夜に似てしまったのだろうとキルバは頭を抱えていた。

 

「……なっ、何でもありません!」

 

「そうだよ!ほら、そーくん!行こっ!」

 

穂乃果と海未は話を誤魔化すために、それぞれ奏夜の手を取ると、そのまま移動を開始した。

 

「?おい!2人揃って引っ張るなって!」

 

奏夜は2人に引っ張られ、げんなりしながらもそれを受け入れていた。

 

(言えない……!言える訳ないよ!)

 

(私が……奏夜のことを……)

 

((……好きだなんて……!!))

 

どうやら穂乃果も海未も奏夜に淡い恋心を抱いているようであり、その気持ちは奏夜に気付かれないようにしようと考えていた。

 

何故2人が奏夜に淡い恋心を抱くようになったのか……。

 

それは、これから徐々に明らかになっていく。

 

それだけではない。

 

2人以外のメンバーが奏夜のことをどう思っているのか?

 

そのことも、徐々に明らかになっていく。

 

そして、今はことりの抱いている問題をどのように解決していくのか。

 

このことが大きな課題となっていた。

 

奏夜はそんなことりの問題をどのように解決するべきか考えていたのだが、結局答えが出ないまま穂乃果と海未を送り、家路についたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『なるほどな。あいつも思い切ったことを考えたものだ。さて、これからどうなっていくか……。次回、「自由」。その想い、空に羽ばたいていけ!』

 

 




ここでついに恋愛フラグが立ってしまった……。

心の中とはいえ、奏夜のことが好きと公言しているのは穂乃果と海未になっています。

他のメンバーは奏夜のことをどう思っているのか?

それは、徐々に明らかになっていくと思います。

さて、次回は自分に対してコンプレックスを抱いていることりの問題を、奏夜たちはどのように解決させていくのか?

そして、ラブライブに向けてランキングを上げるためにどのような対策をとっていくのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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