活動報告でも書きましたが、僕の書いたこの牙狼ライブ!が、デイリーランキングの14位にランクインしていました。
さらに見た時は9位まで上がっており、僕の書いた駄文小説がランクインすること自体驚いています。
ですが、嬉しいことでもあるので、これからも頑張っていきたいと思っています。
さて、今回は待ちに待った瞬間が訪れます。
絵里にダンスの指導をお願いした奏夜たちを待ち受けるものとは?
それでは、第28話をどうぞ!
期末試験の問題を乗り越えた奏夜たちであったが、再び大きな問題に直面していた。
2週間後に行われるオープンキャンパスで中学生にアンケートを取り、結果が芳しくなければ廃校が本決まりになってしまうのである。
廃校を阻止するために奏夜たちは活動を行い、ダンスの練習を行っていた。
そんな中、絵里のバレエの映像を見ていた奏夜は、穂乃果たちのパフォーマンスに満足出来ず、それを完璧という穂乃果たちに苛立ちを募らせていた。
それ故に厳しい言葉を投げかけて空気がギスギスしたりもしたが、奏夜は何故このように厳しい言葉を投げかけていたのかを説明する。
そこで穂乃果たちは絵里のことを知り、海未は絵里にダンスの指導をお願いするよう提案していた。
そんな海未の提案に1年生組とにこは反対していたのだが、穂乃果は賛同していた。
それは、純粋にダンスが上手くなりたいという思いからであり、穂乃果の言葉に、他のメンバーも渋々海未の提案を受け入れる。
翌日、奏夜たちは生徒会室に向かうと絵里にダンスの指導を依頼した。
絵里は、μ'sの人気だけは認めていたため、ダンスの指導を引き受けたのであった。
奏夜たちは屋上に向かうと、さっそくダンスの練習が行われた。
奏夜は絵里の隣に付き、絵里がどのような指導を行うのか今後の参考にしようと考えていた。
「1、2、3、4、5、6、7、8!」
まずは穂乃果たちがどのような振り付けの練習を行っているのか絵里に見てもらっていた。
絵里が真剣な表情で穂乃果たちの動きをチェックしていたため、穂乃果たちは心なしか緊張していた。
その結果……。
「……にゃにゃっ……うにゃ!?」
凛がバランスを崩してしまい、そのまま転倒してしまった。
「り、凛ちゃん!大丈夫?」
「痛いよぉ〜!」
「全然ダメじゃない!こんなんでよくここまで来られたわね!」
「す、すいません!」
絵里から厳しい言葉が飛び交い、穂乃果がすかさず謝っていた。
(あちゃあ……。やっぱりダメか……)
そんな穂乃果たちの様子を見た奏夜は、頭を抱えていた。
「いつもはちゃんと出来るんだけどなぁ……」
「基礎が出来ていないから動きにムラが出るの。ほら、足を開いて」
凛の言い訳をバッサリと一蹴した絵里は、転倒によってその場に座り込む凛にこのような指示を出していた。
凛は足を開いたのだが、絵里は凛の体を前に倒すように背中を押していた。
「いっ!?痛いにゃあ!!」
凛の体はまだ固いからか、痛みのあまり凛が叫び声をあげる。
「これで?少なくともこの状態でお腹が床に付くくらいにならないと」
「なるほどな……。やっぱり柔軟は大事って訳か」
今まで柔軟の練習を行ってこなかった奏夜は、絵里の言葉に感心していた。
「柔軟性を上げることは、全てに繋がるわ。まずはこれを全員出来るようにして。さもないと、本番は一か八かの勝負になるわよ!」
(なるほどな……。柔軟性を上げることで体幹がしっかりしてくるし、体力付けや振り付け練習と同じくらい大切なんだな)
《そりゃ、そうだろうな。奏夜、お前さんは修行の時だって柔軟はやっていただろう?》
(確かに。魔戒騎士として戦うには体幹がしっかりしてないといけないしな)
体幹がしっかりしてないといけないのは、ダンスも魔戒騎士として戦うのも同じであるため、柔軟の大切さを奏夜は再認識していた。
「あなた……。ダンスが得意と言っていたわね?柔軟をやろうって発想はなかったの?」
「恥ずかしながら。その発想は……」
奏夜は柔軟をやろうという発想がないと知り、絵里は呆れ果てていた。
「やれやれ……。あなただって基礎が大事だとわかっているだろうに……。よくそんなことでダンスコーチだなんて名乗れたわね」
「……っ!」
絵里の厳しい言葉が奏夜にも飛び交ったのだが、絵里の言葉は事実であるため、奏夜は何も言うことは出来なかった。
「ちょっと!私たちは今まで奏夜に指導してもらったんだから、そんな言い方はないんじゃないの?」
ダンスコーチである奏夜にまで厳しい言葉を投げかける絵里が許せなかったのか、真姫が異議を唱えていた。
「あなたの無駄口を聞いてる暇はないわ。文句があるならまずは私の言う課題をこなしてからにしなさい」
「……わかったわよ」
今までは奏夜がダンスコーチだったとしても、今自分たちの指導をしているのは絵里であるため、真姫はこれ以上の反論は出来なかった。
こうして、穂乃果たちは先ほど凛が行っていた柔軟を行い、それに奏夜も参加していた。
全員予想以上に体が固いからか、なかなかお腹を床に付けることは出来なかったのだが、ことりは難なくお腹を床に付けていた。
それだけではなく、奏夜も難なくお腹を床に付けることが出来ていた。
「凄い!ことりちゃん!そーくん!」
穂乃果はそんなことりと奏夜を賞賛していたのだが……。
「感心してる場合じゃないわよ。みんな出来るの?ダンスで人を魅了したいんでしょ!?」
絵里は少しばかり語気を強めながらこのように檄を飛ばしていた。
「それに、マネージャーである彼は出来てるのに、何故あなたたちは出来ないわけ!?」
マネージャーである奏夜が出来ていることを話に出して、絵里はさらに厳しい言葉をぶつけていた。
「ぐぬぬ……。何よ。だって、奏夜は……」
「にこ先輩!」
絵里の厳しい言葉が悔しいのか、にこは奏夜が魔戒騎士であることを言いそうになってしまったのだが、慌てて穂乃果がそれを制していた。
しばらくお腹を床に付けられるよう練習を行うのだが、奏夜とことり以外は出来そうもなかったので、次の練習に移ることにした。
次に行ったのは筋トレだったのだが、穂乃果たちは腕立てや腹筋。さらに背筋などのトレーニングをなんとかこなしていた。
「これくらいは出来て当たり前よ!あと10分!」
続けて行われたのは、片足立ちのままポーズをとり、その姿勢を維持するというものであった。
これはバランス感覚を鍛えるものであり、体幹がしっかりとしていないと、この体勢を1分と維持することも困難なのである。
穂乃果たちはまだ体幹がしっかりしてないからかフラフラだったのだが、奏夜だけはピタッと微動だにしておらず、これにはさすがの絵里も驚いていた。
(……!び、微動だにしてない……。この子、体幹はしっかりしてるみたいね……。ダンスが得意と自負するだけのことはあるわ)
絵里は、奏夜がダンスが得意と自負しているからこそ、ダンスコーチをしていると思っていた。
しかし、基礎はしっかりしているようであり、そう思っていなかった絵里は驚いていたのである。
(……あの子、本当にただのマネージャーで、ダンスコーチなの?)
僅かな時間ではあったが、絵里は奏夜の運動神経の良さを感じ取っており、その動きがただのマネージャーのものとは思えなかった。
(それに、あの子は時々殺気が凄い目をしてる時もあったわよね?本当にただの高校生なの?)
そのため、奏夜が本当にただの高校生なのかと疑惑を抱いていた。
絵里がそんなことを考えていると、花陽がバランスを崩してしまい、転倒してしまった。
「か、かよちん!大丈夫?」
「う、うん。大丈夫……」
凛がすかさず花陽に手を差し伸べると、花陽はその手を取って立ち上がった。
すると……。
「……もういいわ。今日はここまで」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
「やっぱりそうなるか……」
絵里はここで練習をやめることにしたため、穂乃果たちは驚いていた。
しかし、奏夜だけはこの展開を予想していたようである。
「ちょっと!何よそれ!」
「さっきから、そんな言い方はないんじゃないの!?」
絵里の言葉が気に入らなかったのか、にこと真姫は絵里に異議を唱えていた。
「私は冷静に判断しただけよ。少しは自分たちの実力がわかったでしょ?」
「……っ!そんな言い方!!」
「いや、絢瀬先輩の言う通りだ」
「ちょっと奏夜!あんな言われ方をして悔しくはないの!?」
絵里の言葉に賛同する奏夜が許せないからかにこが異議を唱えるのだが……。
「悔しいに決まってるだろ!!」
奏夜が苛立ちのあまり声を荒げてしまい、そんな奏夜の剣幕に、穂乃果たちはビクンと肩をすくめていた。
「……悪い。だけど、絢瀬先輩の言うことはもっともなんだよ。お前たちの基礎がなっていない以上、これ以上何を教わっても無駄ってことなんだ」
「彼の言う通りよ。今度のオープンキャンパスには学校の存続がかかっているの。もし出来ないというのなら早めに言って?時間の無駄だから」
絵里の言葉はまるで氷のように冷たいものだったが、誰も絵里の言葉に反論出来るものはいなかった。
絵里はそのまま屋上を後にしようとするのだが……。
「……待ってください!」
穂乃果が絵里を引き止めたため、絵里は足を止めた。
すると、奏夜たちは穂乃果を中心に、横一列に並んでいた。
「……ありがとうございました!明日もよろしくお願いします!」
「「「「「「「お願いします!」」」」」」」
穂乃果は絵里がどれだけ厳しい言葉をぶつけてこようが、指導してもらってることを忘れてはおらず、しっかりとお礼を言っていた。
自然と奏夜たちは穂乃果に合わせて頭を下げていた。
「……っ!」
絵里はお礼を言ってもらえるとは思わなかったため、驚きを隠せなかった。
その後、何も言うことはなく、屋上を後にしていた。
「さてと……。みんな、少し休憩したらさっきの続きをやるぞ!」
絵里がいなくなってすぐ、奏夜はこのような提案をしていた。
「えぇ!?まだやるの!?」
まさか奏夜が先ほどの練習をやるぞと言い出すなど予想していなかったため、にこは不満そうにしていた。
「当たり前ですよ!それに、基礎をクリアしないと、俺たちは前に進めない。だからやるんだ」
「そーくんの言う通りだよ!とりあえず頑張ってみよう!」
穂乃果も奏夜の言葉に賛同しており、他のメンバーも同意していた。
こうして、奏夜たちは少しだけ休憩を行った後、練習を再開していた。
「……ほらほら!お前ら、気合いを入れろ!」
練習を再開した時、奏夜が指導を担当したのだが、先ほどの絵里と負けず劣らずな感じの檄が飛んでいた。
「うにゃあ!!気合い入れても出来ないものは出来ないにゃあ!!」
凛はお腹を床に付けることができず、このように異議を唱えていたのだが……。
「あー!聞こえない!聞こえな〜い!!」
奏夜はそんな凛の文句をシャットアウトしていた。
そんな奏夜の表情は穏やかなものであり、先日のギスギスとした感じではなかった。
「……」
奏夜がいつもの奏夜に戻ったことを感じ取った海未は、安堵した表情で奏夜のことを見ていた。
すると……。
「海未!ボケっとするな!練習はまだ終わってないぞ!!」
「は、はい!すいません!」
奏夜の檄によって海未はハッとしたのか、すぐに練習に集中していた。
しかし……。
「……」
奏夜のことを考えて怒られてしまったため、それが気に入らず、海未は膨れっ面になりながら練習を行っていた。
こうして、奏夜たちは日が落ち始め、奏夜が番犬所に立ち寄る時間まで練習は行われたのであった。
今回の練習はいつも以上にハードだったからか、穂乃果たちはバテバテであった。
奏夜は早々に番犬所へと向かっていき、それからしばらく経ってから、穂乃果たちも解散した。
〜絵里 side〜
私の名前は絢瀬絵里。
音ノ木坂学院に通う高校3年生で、生徒会長をしているわ。
私の通う音ノ木坂学院は今、廃校の危機を迎えているの。
今度行われるオープンキャンパスで結果が悪ければ、廃校が本決まりになってしまう。
私はなんとか廃校を阻止しなければと思っている。
だって、この音ノ木坂学院は私のお婆様が通っていた高校でもあるんだもの……。
そんな中、この学校でスクールアイドルをしているμ'sの人たちが私にダンスの指導を依頼してきた。
私はスクールアイドルを認めてはいない。
だって、バレエをやってきた私にしてみたら、どのグループも素人に見えるんだもの。
1番実力のある「A-RISE」でさえも……ね。
μ'sのことだって認めてはいないわ。だけど、人気があるのは事実だし、生徒会のメンバーもμ'sのことを推してるみたいだから、引き受けてもいいかなと思ったの。
だけど、μ'sは私の思った以上にひどかったわ。だって、基礎がなってないんだもの。
マネージャーとダンスコーチをしている如月君は、一体どのような指導をしていたのかしら?
私はじっくり練習をしても時間の無駄だと思って練習をやめてしまったけれど、まさか、お礼を言われるなんて思わなかったわ。
だけど、今のままじゃオープンキャンパスには間に合わない。
あの子たちは、いったいどうするつもりなのかしら?
それにしても如月君……。
あの子の特技がダンスだというのは、コーチをしてる時点で察していたし、希や他の子からも聞いてはいたけれど……。
あそこまで基礎がしっかりしてるとは思わなかったわ。
あの動きはダンスじゃないにしても、しっかりと鍛錬を積んだ者の動きだったわよ。
本当に……。何者なのかしら……。
彼が着ているあのロングコート……。
μ'sの初ライブに来ていたあの部外者も似たようなものを着ていたわね……。
それにしても不思議よね。あの部外者とは、以前どこかで会ったことがある気がするんだもの。
色々と気になることはあるけれど、今は目の前のオープンキャンパスをなんとかしなければ。
この日の夜、私はそんなことを考えていた。
お風呂に入った後、妹の亜理沙の部屋を通りがかったんだけど、亜理沙はμ'sの動画を楽しんでいるみたいだった。
あの子たちのどこを気に入っているのかしら……。
「……亜理沙。ちょっと良い?」
その真意を確かめるという訳ではないけれど、私は亜理沙の部屋の中へと入っていった。
「あっ、お姉ちゃん」
「イヤホン。片方だけ貸してくれるかしら?」
「うん!」
亜理沙は両耳につけてたイヤホンを片方だけ外すと、それを渡してくれたので、私はイヤホンを耳につけて、曲を聴いていた。
これは、「これからのSomeday」……だったかしら?
「……亜理沙ね。μ'sのライブを見ていると、胸がカァッと熱くなるの。一生懸命で、楽しそうで」
なるほど。亜理沙がμ'sに夢中なのはそれが理由なのね。
だけど……。
「全然なってないわ」
「お姉ちゃんと比べたら確かにそうかもしれないけど……。でも、凄く元気がもらえるんだ!」
亜理沙は本当にμ'sのことが好きなのね……。
私から言わせてもらえばμ'sなんてまだまだだけれど、μ'sのことを語る亜理沙の表情はとても幸せそうなんだもの……。
実力はあるとは言えないけれど、これこそがあの子たちの魅力……なのかしら?
こうして、私は亜理沙と少しだけ話をしてから部屋を後にして自分の部屋へと向かっていった。
〜三人称 side〜
翌日、この日も昨日同様に柔軟などの基礎練習を行われようとしていた。
「さて……。今日も頑張るか……」
奏夜は少しでも穂乃果たちの基礎力を上げたいと思っており、気合を入れながら屋上に続く階段を上がっていた。
そして、階段を上りきると、屋上のドアの前に絵里が立っており、屋上の様子を伺っていた。
「やれやれ……。覗き見ですか?」
「あっ……いえ……その……」
絵里は屋上に入ることを躊躇っていると思われたくないのかどう答えるか迷っていた。
奏夜はそれを見透かしていたため、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。
「……何よ」
「いえ?何でもないですよ」
絵里は少しだけムスッとしながらこう言っていたが、奏夜はおどけながら返していた。
そうしているうちに、1年生組の3人がやってきた。
「……あっ。奏夜先輩に生徒会長……」
「よう、3人とも」
「……」
奏夜は1年生組の3人に軽く挨拶をするが、絵里は挨拶を返さなかった。
「ほらほら、2人とも、そんなところに突っ立ってないで、早く行くにゃあ♪」
「え?ちょ、ちょっと!」
凛は絵里の背中を押して屋上へと移動しており、奏夜たちもそれに続いていた。
奏夜たちが屋上の中に入ると、2年生組の3人と、にこがすでに来ており、軽く準備体操を行っていた。
「あっ、生徒会長、おはようございます!」
「まずは柔軟からですよね?」
昨日のきつい練習があったとは思えないほどに穂乃果は明るい挨拶をしており、ことりもまた、明るい表情で練習メニューの確認をしていた。
絵里は昨日あれだけきつく指導したのに、それを感じさせない穂乃果たちに驚きを隠せなかった。
「……辛くないの?」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
絵里からの意外な言葉に、奏夜たちは驚いていた。
こんなことを言われるとは思わなかったからである。
「昨日あれだけやって、今日もまた同じことをするのよ?第一、上手くなるかどうかもわからないのに……」
「やりたいからです!」
「っ!」
「確かに練習はすごくきついです。身体中が痛いです。でも、廃校を何とかしたいという気持ちは、生徒会長にも負けません!」
どれだけ練習がきつかろうが、自分たちがもっともっと上手くなって、もっと有名になることで入学希望者を増やしたい。
そして、廃校を阻止したいという気持ちを、奏夜たちは強く持っていた。
「だから……今日も、よろしくお願いします!」
「「「「「「「お願いします!」」」」」」」
ここで絵里は、奏夜たちの覚悟が本物だということを理解した。
いや、理解はしていたのだが、理解しようとはしていなかった。
そんな奏夜たちの本気に触れたことで、絵里は驚きながらもどうして良いかわからず、屋上を出ていってしまった。
「生徒会長!」
絵里は、穂乃果が引き止めるのを聞かずに、そのままいなくなってしまった。
「……みんな。ここは俺に任せてくれないか?」
「で、でも、そーくん!」
「心配するな。悪いようにはしないさ」
奏夜が何をしようとしてるのかわからない穂乃果は、不安そうにしていたのだが、海未は何となく奏夜の狙いを察していた。
そのため……。
「……わかりました。奏夜、行ってあげてください!」
「おう!任せとけ!」
海未の言葉に力強く返事をした奏夜は、そのまま屋上を後にすると、絵里を追いかけていった。
海未は、奏夜がこのようなことをしていると穂乃果たちに告げると、穂乃果たちは驚きを隠せなかった。
反対意見もあったのだが、穂乃果は奏夜を信じているため、肯定的な意見を出していた。
そのため、穂乃果たちは後のことを奏夜に任せて、練習を行うことにしたのである。
※※※
「ったく……。どこに行ったんだ?」
奏夜は勢いよく飛び出していったのはいいが、絵里がどこにいるのか見当がついていなかった。
《やれやれ……。格好つけて飛び出していったのにこの体たらくか……》
(うるさいな。わかってるよ)
キルバと奏夜はこのような会話をテレパシーで行っていた。
奏夜は適当に捜索を始めるのだが、予想以上にすぐ見つけることが出来た。
「……!絢瀬先輩と……東條先輩?」
絵里の姿を見つけたのだが、どうやら希と何か話をしているようだった。
今すぐに顔を出せる状況でもなかったため、奏夜はその場に留まり、2人の話を聞くことにした。
「……ウチな。エリチと友達になって、生徒会をやってきて、ずっと思ってたことがあるんや」
「希……」
「エリチは本当は何がしたいんやろうって」
「……!」
(なるほど……。確かにそれは興味があるな)
希は、絵里が生徒会長としてではなく、絢瀬絵里として何がしたいのかを聞き出そうとしており、奏夜もその話には興味があった。
「エリチが頑張るのはいつも誰かのためばっかりで。だから、いつも何かを我慢してるようで、自分のことを全然考えてなくて……」
(やっぱり絢瀬先輩は自分より他人を最優先させる人なのか。そこは何となく俺と似ているかもな)
奏夜は魔戒騎士として、人間を守るという思いがあるため、いつも自分より他人のために頑張っていた。
それは、μ'sのことについても例外ではないのだが……。
そして、絵里も自分を犠牲にしてでも他人のために頑張る人であることがわかり、何となく自分と重なる部分があると奏夜は感じていた。
「学校を存続させようっていうのも、生徒会長としての義務感やろ?だから理事長は、エリチのことを認めなかったんやと違う?」
「……っ」
絵里は希の言葉を聞いて何も言い返すことが出来なかった。
希の言葉が図星だったからである。
(……俺もそう思ってた。あの人はずっと使命感で動いているように見えたからな。だから理事長があんな態度を取ったのかもわかってたよ)
奏夜は、理事長と絵里の会話を聞いた時から、このことに気付いていたため、2人の話を聞いて、それが真実であることを確認していた。
「エリチの……。エリチの本当にやりたいことは?」
「……」
希の問いかけを聞き、絵里は何も答えようとはしなかった。
そのため、沈黙がその場を支配していた。
しばらくの沈黙の後、絵里はようやく口を開いた。
「……何よ……。何とかしなきゃいけないんだから、しょうがないじゃない!」
絵里の感情は高ぶっており、自分の気持ちをぶつけるべく剣幕を放っていた。
「私だって……。好きなことだけやって、それで何とかなるならそうしたいわよ!」
絵里は悲痛な表情で本音をぶちまけており、その目には涙が溢れていた。
「自分が不器用だってことはわかってる!でも……今さらアイドルを始めようなんて、私が言えると思う?」
(絢瀬先輩……)
ここで奏夜は、初めて絵里がスクールアイドルをやりたいということを知ったのであった。
《奏夜。ここはお前の出番じゃないのか?》
(そうだよな)
絵里がスクールアイドルをやりたいということを知った以上、これ以上この場で静観していることは出来なかった。
そのため……。
「やりたいという気持ちがあるのなら、絶対に出来ますよ」
「如月君……。あなた……」
まさか奏夜が現れるとは思っていなかったため、絵里は驚いており、希は笑みを浮かべていた。
「すいません。話は聞かせてもらいました。あなたが本気でアイドルをやりたいというのなら、俺たちと一緒にアイドルをやりませんか?」
奏夜はここで絵里に素直になってもらうために、μ'sへの勧誘をしていた。
奏夜の勧誘を聞いた絵里であったが……。
「……今さらアイドルだなんて、私には出来ないわよ!!」
自分の本当の気持ちを押し殺した絵里は、逃げるようにその場を後にしていた。
「さてと……」
奏夜は絵里を追いかけようとはしておらず、次にどうしようかじっくりと考える素振りをしていた。
「如月君。どうするつもりなん?」
「そんなこと聞いて……。本当はわかってるくせに」
「クスッ、確かにその通りやな」
奏夜がこれから何をしようとしているのか希も察しており、希は笑みを浮かべていた。
「とりあえず、屋上に行ってみんなを呼びに行きましょう。東條先輩」
「その呼び方はちょっと違うんやない?」
「へ?」
「もうウチのこと、名前で呼んでもいいと思うんや。……奏夜君」
「やれやれ……。わかりましたよ。希先輩」
「うんうん。よろしい♪」
ここでようやく奏夜と希は名前で呼ぶようになり、2人は笑みを浮かべていた。
こうして、奏夜と希は1度屋上へ戻ると、穂乃果たちにこれから何をしようとしているのかを伝えていた。
しかし、穂乃果たちはそのことを察しているようであり、躊躇することなく奏夜の提案を受け入れていた。
そして奏夜たちは、絵里がいると思われる教室へと向かうことにした。
※※※
奏夜たちが絵里を探して教室へと向かっている頃、その教室の窓側の席に座り、ぼうっと窓から見える景色を眺めていた。
「……私の……やりたいこと……」
先ほどは希に対して本音をぶつけてしまった絵里であったが、本当に自分がやりたいことが何なのかを考えていた。
「……そんなもの……」
そんなものはない。絵里は、自分の気持ちを押し殺そうとしていた。
その時、誰かが手を差し伸べていることに気付いた絵里は、その方向を向いた。
手を差し伸べてきた人物に驚いていた絵里は、驚きのあまり、目を大きく見開いていた。
絵里に手を差し伸べた人物……。それは、穂乃果であった。
穂乃果だけではなく、その隣には奏夜もおり、μ'sのメンバーは全員集まっていた。
さらに、希の一緒であり、奏夜たちは穏やかな表情で微笑んでいた。
「……!あ、あなたたち……」
「生徒会長……。いや、絵里先輩。お願いがあります」
穂乃果が改まって話を切り出してきたため、絵里は少し驚いており……。
「あぁ、練習のこと?だったら、昨日言った課題を……」
「まぁまぁ。最後まで穂乃果の話を聞いてやってくださいよ」
「如月君……」
どうやら穂乃果の話と言うのは、練習のことではないようであり、奏夜は結論を急ぐ絵里をなだめていた。
「……絵里先輩。μ'sに入ってください!」
「えっ!?」
「一緒にμ'sで歌って欲しいです!スクールアイドルとして!」
「……」
穂乃果の切り出した提案は思いがけないものであるため、絵里は驚きを隠せなかったのだが、それと同時に胸の高まりを感じていた。
「なっ……何言っているの?私がそんなことする訳ないでしょ?」
絵里はそんな胸の高まりを抑えるように、穂乃果の提案を否定しようとしていた。
しかし……。
「やれやれ……。あなたもどっかの誰かさんたちみたいに面倒くさい人ですね……」
「……何ですって?」
奏夜の少しばかり呆れ気味の言葉に絵里はピクッと反応していた。
しかし、反応したのは絵里だけではないようで……。
「「ちょっと!誰のこと言ってるのよ!」」
奏夜の言葉に心当たりがあるからか、真姫とにこが、同時に奏夜へ異議を唱えていた。
「……まぁ、あの2人は置いといて……。絢瀬先輩。あなたはスクールアイドルをやりたいんでしょう?あんな本音を聞いちゃった以上、放ってはおけませんよ」
「「……」」
真姫は、奏夜にスルーされたのが気に入らなかったからか、ジト目で奏夜を睨んでいた。
一方にこは、ホラーに襲われた時にその能力で奏夜に自分の本音を引き出されてしまい、そのことが、μ'sに入るきっかけとなった。
にこは、その時のことを思い出していたのである。
「ちょっと待って!別にやりたいだなんて……。だいたい、私がアイドルだなんておかしいでしょう?」
「俺はそんなことはないと思いますけどね」
「……何でそう思うの?」
「だって、絢瀬先輩は美人だし、あなたみたいな人がμ'sに入れば、新たなファンも増えそうですしね」
「……っ!?か、からかわないでちょうだい……!////」
奏夜のストレートな言葉に恥ずかしくなったのか、絵里は顔を真っ赤にしていた。
(……なるほど。絢瀬先輩は意外とからかい甲斐があるのかもな)
顔を赤くして恥ずかしがる絵里を見た時、奏夜は新たな一面を垣間見て、笑みを浮かべていた。
《……おい、奏夜。感心してる場合じゃないぞ》
(えっ?それはどういう……。って!!?)
奏夜がキルバの言葉の意味に気付いた時は既に手遅れであり、穂乃果たちがジト目で奏夜を睨みつけていた。
「……そーくん……。見損なったよ……」
「あなたが誰彼構わず口説く人間だとは思いませんでした……」
「そーくんはもう、ことりのおやつにしちゃうしかないよね?」
「そーや先輩!チャラ男だにゃ!!」
「天然のチャラ男……。タチが悪いです!」
「あなたって本当に見境がないわね」
「まさかウチのマネージャーがここまでのチャラ男だったとはね……」
「これは……。またワシワシマックスでお仕置きかな?」
穂乃果たちは口々と絵里を口説くような発言をした奏夜を非難していた。
それに何故か希も参加しており、お仕置きする気満々であった。
「おい!ちょっと待て!俺はただ容姿を褒めただけで他意はないぞ!何でそこまで非難されるんだよ!」
奏夜は口説くつもりで言った訳ではなく、必死に弁解をしていた。
「それに、今はそんな話をしてる場合じゃないだろ!?」
今は奏夜を責めるのではなく、絵里をμ'sに勧誘することが最優先であることを奏夜は主張していた。
「……確かにそうやな。それに、やってみたらええんやない?」
「希……」
「特に理由なんて必要ない。やりたいからやってみる。本当にやりたいことって……。そんな感じで始まるんやない?」
希の言葉に、奏夜たちは穏やかな表情で笑みを浮かべていた。
「……本当に……。本当にいいの?私がアイドルだなんて……」
「くどいですよ。絢瀬先輩……。いや、絵里先輩。さっきも希先輩が言ってたけど、本当にやりたいことがあるなら、ややこしいことなんて考える必要なんてないんですよ」
「……如月君……」
奏夜は絵里のことを名前で呼んでおり、そのことに絵里自身が驚いていた。
「それに、俺たちμ'sは、あなたのことを心から歓迎しますよ」
「……ありがとう……。奏夜君……。いや、奏夜……」
絵里は穏やかな表情で笑みを浮かべると、海未は絵里の加入が嬉しいのか、絵里の両肩を掴んでスキンシップを取っていた。
そして、穂乃果は再び絵里に手を差し伸べると、絵里は迷うことなくその手を取っていた。
そして、ゆっくりと立ち上がると、穏やかな表情で奏夜たちのことを見ていた。
この瞬間、生徒会長である絢瀬絵里が、μ'sに加入したのである。
「……絵里さん……!」
「これで、8人だね!」
「いや、9人や。ウチも入れてな」
絵里が加入して、μ'sのメンバーが8人になったと喜んでいた穂乃果とことりであったが、希もμ'sに入ることを伝えており、穂乃果たちは驚きを隠せなかった。
「えっ、希先輩も!?」
「……希先輩。あなたならそう言ってくれるって思ってましたよ」
奏夜だけは、希もμ'sに加入することを、予想していたのであった。
今まで希は奏夜たちのことを支えてくれたため、何かのきっかけがあれば、μ'sに入ってくれると確信していたからである。
そのきっかけが、絵里の加入なのだが……。
希がμ'sに入ろうと思っているのはそれだけが理由ではなかった。
「占いに出てたんや。このグループは、9人になった時、未来が開けるって……。だから付けたんや。9人の歌の女神……。「μ's」って……」
どうやら「μ's」という名前を付けたのは希であり、そのことに穂乃果たちは驚いていた。
μ'sは、メンバーが9人になった時こそ真価を発揮するとのことだったので、希はμ'sへの加入を決意したのである。
「やれやれ……。そんなこったろうと思いましたよ……」
前から「μ's」と名前を付けたのは誰なのか?という話が出たことはあったのだが、その正体は分からずじまいだった。
しかし、奏夜は何となく察していたが、証拠はなかったため、そのことを追求はしなかった。
結果的には予想通りだったため、奏夜は苦笑いをしていた。
「あれ?だけど、そーくんを入れたら、9人じゃなくて10人になるような……」
穂乃果の指摘通り、マネージャーである奏夜も頭数に入れてしまったら、μ'sは10人となるため、占いの意味がなくなってしまうのである。
「……占いはさらに続いてたんや。9人の女神には、それを守護する騎士がいれば、さらに未来は輝くって……」
「なるほど……。騎士ね」
自分が魔戒騎士であるため、占いの騎士という言葉にしっくり来ていた。
「……言うならば、9人の女神と光の騎士って感じやろな」
「9人の女神と……」
「光の騎士……」
(やれやれ……。光の騎士って、まんま俺のことを指してる言葉だな……)
陽光騎士の称号を受け継ぐ奏夜にしてみたら、光の騎士というのはおあつらえ向きな表現であった。
「……まったく……。呆れるわ……」
どうやら希は全てを見越してこのグループの名前を「μ's」と名付けており、絵里は苦笑いしていた。
そして、絵里は穏やかな表情を浮かべながら、どこかへ移動しようとしていた。
「……?絵里先輩、どこに行くんですか?」
「決まってるでしょ?……練習よ!」
このように言い放つ絵里の表情は厳しい表情ではなく、とても晴れやかな表情であった。
そんな絵里の表情を見た奏夜たちは穏やかな表情を浮かべていた。
「そういうことなら、みんな、練習に行こうぜ!」
そんな絵里を見て、奏夜はこう提案をしていた。
しかし、穂乃果は……。
「……そーくん。練習が終わったら、たっぷりとお話させてもらうからね」
どうやら穂乃果は先ほど奏夜の言っていた絵里を口説くような言葉を覚えており、そこらへんのことを追求しようとしていた。
それには他のメンバーも同様であるため、ウンウンと頷いていた。
(……あれ?これってなんかやばい感じじゃね?)
《やれやれ……。思ったことをすぐに言うお前の癖が仇になったな》
奏夜は思ったことをすぐに言ってしまうことがあり、今回もそれが出た結果、このような発言をしていたのであった。
このままではお仕置きは必至のため、奏夜は冷や汗をかいていた。
「……あー……。みんな、俺はちょっと用事を思い出したから、後は頑張れよ……」
奏夜はお仕置きを避けるために、一刻も早くその場から離れようとしたのだが……。
「……そーくん、嘘だよね?」
ことりは、奏夜のそんな嘘を見抜いていた。
「アハハ……。馬鹿だなぁ……。俺が嘘だなんて……」
「それが嘘だってことはカードを使わなくてもわかるんよ」
どうやら、希はカードを使うまでもなく、奏夜の嘘を見抜いていたようだった。
「……みんな!そーくんを連行するよ!」
「そうですね。奏夜、覚悟していてください」
「そーや先輩!覚悟するにゃ!」
穂乃果たちは逃げようとする奏夜を捕まえて、そのまま屋上まで引きずっていった。
「……ちょっ……まっ……!?だ、ダレカタスケテー!!」
「チョットマッテテー!じゃなくて!それは私の台詞なのに!」
どうやら花陽は、奏夜の言った台詞が気に入らなかったようであった。
「……クスッ……。随分と賑やかな人たちね……」
絵里は、奏夜たちのやり取りに一瞬唖然とするが、絵里は笑みを浮かべていた。
(……絵里先輩。いい笑顔で笑えるじゃないか)
奏夜は、絵里の笑顔を初めて見たため、その笑顔を見ることが出来たのが嬉しかった。
しかし……。
《……おい、奏夜。そんなことを言っている場合か?》
(!そうだったぁ!!)
奏夜は、穂乃果たちに引きずられていることを思い出し、顔を真っ青にしていた。
そんな奏夜たちと共に屋上へ向かっている絵里は、制服に隠している牙のような形をしたネックレスに触れていた。
(……お婆さま。私は、私のやりたい方法で、音ノ木坂を救ってみせます!だから、見守っていてくださいね!)
そのネックレスは、絵里の祖母から譲り受けたものであり、絵里はそのネックレスに思いを込めていた。
しかし、奏夜たちは知らなかった。
絵里のつけているこのネックレスを巡り、壮絶な戦いが始まろうとしていることを……。
……続く。
__次回予告__
『μ'sが9人になり、活動を始めたのはいいが、まさかあんな奴が現れるとはな……。次回、「魔獣」。奏夜。油断するなよ!』
μ'sがついに9人になりました。
絵里をμ'sに誘った時から、既にデレの片鱗が出ていましたね。これからどうなることやら……。
奏夜も無意識のまま絵里を口説くような発言をしたせいで、またお仕置きを受けてしまいましたね(笑)
これからもこんな感じのやり取りが増えていきそうです。
それにしても、28話にして、μ'sが9人揃いました。本当に長かった……。
しかし、この章はまだ終わりではありません。
次回は予告で察することが出来ると思いますが、一波乱がおきます。
絵里のネックレスの件は、そのフラグとなっています。
その一波乱とは?そして、奏夜たちを待ち受けるものとは?
それでは、次回をお楽しみに!