今回はラブライブ!の第7話に突入します。
前回の最後に新曲をあげたμ'sですが、これからμ'sの人気はどうなっていくのか?
それでは、第24話をどうぞ!
……穂乃果たちが結成したスクールアイドルグループ、「μ's」のメンバーが7人となり、新たな曲のPVが動画サイトにアップされてから、1週間が経過した。
この頃には梅雨は完全に終わっており、制服も夏服へと衣替えになっていた。
奏夜もまた、制服は夏服なのだが、魔法衣は羽織っており、この日の朝も、魔戒騎士の日課であるエレメントの浄化を行っていた。
「……はぁっ!!」
奏夜は、秋葉原某所にあるオブジェから飛び出してきた邪気を、魔戒剣の一閃によって斬り裂いた。
邪気が消滅したことを確認した奏夜は、魔戒剣を緑の鞘に納めた。
「キルバ。浄化すべき場所はこれで全部か?」
『あぁ。あのリンドウとかいうやつもエレメントの浄化に参加してるみたいだからな。いつもよりかは浄化すべき場所は少なくて済んでいるな』
この頃には、リンドウは正式に翡翠の番犬所に配属となり、魔戒騎士として仕事もこなしていた。
「あの人、一見ふざけてるように見えて、魔戒騎士としての実力は本物だからな……」
『そんな奴だが、お前も学ぶことは多いんじゃないか?』
「そうだな……。統夜さんや大輝さんとは違うタイプの魔戒騎士だしな」
リンドウは、奏夜の先輩騎士である月影統夜や、桐島大輝とは違うタイプの魔戒騎士であるため、そんなリンドウの性格に、奏夜は少々戸惑いながらも、実力は認めていた。
「……とりあえず、今日は朝の練習はないし、このまま学校へ向かうとするか……」
どうやら今日は、朝の階段ダッシュのトレーニングはお休みのようなので、奏夜はそのまま学校へと向かうことにした。
10分ほど歩き、学校の校門までたどり着いたその時だった。
(……あれ?あの制服ってウチの制服じゃないよな……)
音ノ木坂学院の生徒ではない女子生徒3名が校門に立っていたのだが、誰かを待っているようだった。
その3人の女子生徒は、奏夜の顔を見るなり、ぱぁっと表情が明るくなり、奏夜に詰め寄ってきた。
「いっ!?」
「あっ、あの!μ'sのマネージャーの如月奏夜さんですよね!?」
「あっ……いや……俺は……」
「そのロングコート……。写真で見たのと同じですよね!」
「こんな真夏にロングコートを着てる人なんてそうはいないですし!」
奏夜はどうにか話を誤魔化そうとするのだが、正体はバレバレだったようだった。
にこがμ'sに加入して間もなく、奏夜たちは新しいμ'sの写真を撮ったのだが、そこにはマネージャーとして、奏夜も写っていたのである。
その時に、魔法衣を着ていたため、この女子生徒たちは、目の前にいるのが奏夜だとすぐにわかったのであった。
《おい、奏夜!だから言っただろうが!魔法衣は目立つからそれを着て写真に写るなと!》
(だって仕方ないだろ!?穂乃果たちが魔法衣を着ろってうるさかったんだから)
キルバは、奏夜が魔法衣を着てμ'sの写真に写ることには反対だったのだが、穂乃果たちがどうしてもと言ったため、渋々魔法衣を着て写真に写ったのであった。
《ったく……。これで、魔戒騎士の仕事に支障をきたしたらどうするつもりなんだ?》
(……仕事に影響する程の人気じゃないと思うけどな)
この3人のような人間がここにやって来るのは、一時的なものであると奏夜は予想していたため、そこまで仕事に影響が出ると危機感を抱いてはいなかった。
《ったく……。どうなっても俺は知らんからな》
キルバは、楽観的な奏夜に呆れ果てていた。
2人がテレパシーで会話をしていると……。
「……?奏夜さん?」
「あ、あぁ。悪い悪い。で、要件は?」
「はい!私たち、μ'sの大ファンなんです!」
「ここで待ってたら、μ'sのメンバーに会えるかなと思いまして!」
「まさか、マネージャーに会えるなんて、感激です!!」
「は、はぁ……」
どうやらこの3人は、μ'sのファンであるみたいだが、奏夜に対して熱っぽい視線を送っていたため、奏夜は面食らっていた。
「奏夜さん、写真で見るより格好いいです!」
「奏夜さんなら、男性のスクールアイドルになっても、人気になれると思います!」
現在の社会では、スクールアイドル=女子高生というイメージが固まっているため、男性のスクールアイドルは存在していない。
しかし、この3人は、奏夜ならば男性のスクールアイドルと言っても、問題ないと思っていたのであった。
「い、いや……。俺はそんなに……」
奏夜はこう答えているものの、他校の女生徒に格好いいと言われ、まんざらではなさそうだった。
「奏夜さん、握手して下さい!」
「あと、写真も!」
「やれやれ……。仕方ないな……」
奏夜はおだてられて気を良くしたからか、3人の要望に応じて握手をしたり、一緒に写真を撮ったりもしていた。
(……やれやれ……。こんなのを誰かに見られたら後が怖いだろうな……)
キルバは、デレデレしながら女生徒の要望に応じている奏夜に呆れながら、このようなことを思っていた。
握手をしてもらったり、写真を撮ったりしたことで満足したのか、3人の女子生徒はそのまま立ち去っていった。
そんな中、キルバの嫌な予感が的中する形で、事の一部始終を見ている人物がいた。
「……クスッ。これは、なかなか面白いもんが見れたなぁ。これをμ'sの子達が知ったら、すごいことになりそうやなぁ」
見ていたのはどうやら希のようであり、遠くで事の一部始終を見ながら、クスクスと笑みを浮かべていた。
その後、奏夜は普通に校内に入ると、普通に授業を受けていた。
※※※
そしてこの日の放課後、花陽と真姫以外のメンバーは既に部室に来ており、2人が来るのを待ちながらのんびりと過ごしていた。
すると……。
バタン!!
大きな音を立てながら、花陽が部室に駆け込んできた。
「……?どうしたの?花陽ちゃん」
「花陽?」
どうやら花陽はとても慌てているようであり、穂乃果と奏夜は、そんな花陽を心配そうに見つめていた。
「……た……助けて……」
「助けて?」
花陽の放った一言に、奏夜だけではなく、他のメンバーも困惑していた。
そんな中、花陽が何故助けてと言いたいのかを考えた海未は……。
「ま、まさか!奏夜にセクハラでもされたのですか!?」
「おい!何でそうなる!!」
海未がいきなりとんでもないことを言い出してしまったため、奏夜は異議を唱えていた。
「そ、そうなんです!私は嫌がっていたのに、奏夜先輩は無理矢理……」
「おい!デタラメ言うなよ、花陽!」
奏夜は、花陽らしからぬ冗談に異議を唱えようとしたのだが……。
「「「「「……」」」」」
花陽の言葉を信じてしまった穂乃果たちが、ドス黒いオーラを放って奏夜を睨みつけていた。
「……そーくん。そんな人だったなんて……」
「マネージャーという立場を使うとは、最低です!」
「もうこれは、本当にことりのおやつにするしかないよね……」
「そーや先輩。不潔だにゃ!!」
「これは……。然るべき罰が降るべきよね……」
どうやら穂乃果たちは、奏夜にお仕置きをしようと考えているためか、ジリジリと奏夜に迫っていた。
「だ、だから……。これは、嘘なんだって!俺が花陽にそんなことする訳ないだろ!」
「……奏夜。言いたいことはそれだけですか?」
「とりあえず、お仕置きだね」
「うん♪そうだね♪」
「そーや先輩。観念するにゃ!」
「奏夜。覚悟は出来てるんでしょうね?」
「ちょっ……待っ……!」
奏夜の言い訳など、一切聞く耳を持たないからか、穂乃果たちは奏夜に迫っていた。
そして……。
アーーーーーーー!!!!
……アイドル研究部の部室に、奏夜の悲鳴が響き渡っていた。
「……っというのは冗談で」
花陽は、奏夜へのお仕置きが終わった直後に、平然とこのように話していた。
「は、 花陽……。お前って奴は……」
『……あいつ、以外と腹黒いところがあるのかもしれないな……。それか、奏夜の扱いがわかってきたのか』
「どっちにしても最悪だろ……」
奏夜はボロボロになりながらこう呟いており、花陽は照れ隠しに舌をペロッと出しておどけていた。
「……そんなことはともかく!大変!大変なんです!!」
「そ、そんなことって……」
『花陽のやつ、何気にドSなのかもしれないな……』
花陽の容赦ない言葉から、花陽の本性を垣間見た奏夜は愕然としており、キルバは苦笑いをしていた。
ちょうど奏夜のお仕置きが終わった辺りで真姫がやって来たため、そんな奏夜とキルバのことは構わずに、花陽は語り始めた。
「ラブライブです!ラブライブが開催されようとしているんです!」
「……ラブライブ?」
花陽の口から聞いたことのない単語が飛び出してきたため、奏夜は首を傾げていた。
それはどうやら、他のメンバーも同様であった。
「スクールアイドルの甲子園……。それがラブライブです!」
花陽は部室のパソコンを起動させると、ラブライブに関連するホームページを開き、簡潔に説明していた。
さらに花陽は説明を続けるのだが、このラブライブという大会は、スクールアイドルランキングの上位20組が参加出来る大会である。
そのため、実力のあるスクールアイドルたちが一堂に会す、まさしくスクールアイドルの祭典ともいえる大会なのである。
「ランキング1位のA-RISEは出場確実として、第2位は?第3位は?それに、チケットの発売はいつなんでしょう?初日の特典は?」
「本当ね!楽しみだわ!」
そんなラブライブを心待ちにしている花陽とにこは、目をキラキラと輝かせていた。
「って、2人とも、見に行くつもりなの?」
「はぁ?何言ってるのよ?当たり前じゃないの!」
「にこ先輩の言う通りです!アイドル史に残る一大イベントなんですよ!?見逃せません!」
スクールアイドルが誰よりも好きなにこと花陽は、興奮冷めやらぬ感じで息巻いていた。
「にこ先輩はともかくとして、花陽はキャラが変わりすぎ」
「凛はこっちのかよちんも好きにゃ!」
にこは常にこのような感じなのだが、花陽はアイドルのことになるとキャラが変わってしまうため、真姫は若干呆れ気味なのだが、凛はそこまで気にしてはいなかった。
「なんだぁ。てっきり、出場を目指そうって言うのかと思ったよぉ」
「っ!そ、そそそそそんな!恐れ多いですぅ!」
「そ、そうよ!一流のスクールアイドルの中に、私たちが入るなんて!」
「……だからキャラ変わり過ぎ」
「凛はこっちのかよちんも好きにゃ!」
にこは平常運転だったが、花陽はキャラが変わっていたため、真姫は呆れており、凛は相変わらず気にしてはいなかった。
「ま、本当に出るとするなら、今まで以上に努力をしなきないけないけどな」
「奏夜の言う通りね。現実は厳しいわよ」
奏夜と真姫は、現実的な意見を出していた。
今のままでは、とてもではないがラブライブ出場など夢のまた夢だからである。
「2人の言う通りですね。とても大会に出られるような順位では……」
海未は、パソコンの前に座ると、スクールアイドルのホームページを開いて現在のμ'sの順位を確認していた。
すると……。
「……!?じゅ、順位が上がっています!」
自分たちの思ってた以上に順位が上がっていたため、海未は驚きを隠せずにいた。
順位が上がっていると海未から聞いた奏夜たちは、ランキングを確認した。
すると……。
「あっ、本当だ!凄い!」
「人気急上昇のスクールアイドル登場してピックアップされてるよ!」
「それに、コメントも凄いよ!」
奏夜たちがアップした、「これからのSomeday」の動画が予想以上に反響があったらしく、μ'sのランキングは急上昇していた。
そのため、人気急上昇のスクールアイドルとしてピックアップされ、それに伴ってコメントも増えていた。
・新曲、凄く格好良かったです!
・メンバーが7人になったんですね!みんな可愛い!
・いつも一生懸命さが伝わってきて、大好きです!これからも応援しています。
・マネージャーさんも凄く格好いい!μ'sの皆さんが羨ましい!
・マネージャーまじでハーレムじゃん!うらやまけしからん!
・マネージャーが羨まし過ぎる!
μ'sのことを絶賛するコメントが多い中、マネージャーである奏夜に関するコメントも多くあった。
奏夜の容姿を褒めるコメントがあれば、マネージャーである奏夜を羨ましがるコメントもあったりしていた。
「もしかして、凛たち人気者?」
μ'sが以前よりも注目されているのは間違いないようであり、凛はキラキラと目を輝かせていた。
「なるほど。だからこの前……」
どうやら、真姫はμ'sが人気になってきたことを実感する出来事を体験したようだった。
その時のことを真姫は語り始めたのだが……。
「「「「「「「出待ち!?」」」」」」」
どうやら真姫はファンである他校生に写真を撮ってほしいとせがまれたようであり、そのことを聞いた奏夜たちは驚いていた。
「えぇ!?私はそんなの一切ないよ?」
「それこそ、アイドルの格差社会なんです!」
どうやら、出待ちというのは、人気のあるアイドルにはよくある話のようだった。
その中でも、グループによっては、特定のメンバーに人気が集中することもあるみたいであり、今回の真姫のケースは、その結果のようだった。
「おかしい……。何で真姫に出待ちが来て、このにこには出待ちが来ないのよ……!」
どうやらにこは、自分が人気者と自負しているようであり、真姫に出待ちが来るということが信じられなかった。
(……そういえば、今朝のも間違いなく出待ちだよな?)
《そうだな。奏夜、そのことは黙っておけよ。面倒なことになりそうだからな》
(わかってるって)
奏夜は、今朝あった出来事を黙っておこうと考えていたのだが……。
「……そういえば、奏夜。あんたも今朝、出待ちされたようね」
「!?」
にこがまさかの問いかけをしてきたことに奏夜は驚き、穂乃果たちの視線が奏夜に集中していた。
「何で、アイドルではない奏夜が出待ちを?」
海未は、もっともな疑問を投げかけて、首を傾げていた。
「μ'sの写真を撮った時に、マネージャーとして、一緒に奏夜も写ったでしょ?だからじゃないの?」
「アハハ……。いやぁ、何のことだか……」
奏夜はどうにか話を誤魔化そうとしたのだが……。
「誤魔化そうとしても無駄よ。これは希からの情報だもの。それに、女の子に言い寄られて満更でもなさそうだったみたいよ」
「!?いや、違う!あれは!」
奏夜はどうにか言い訳をしようとするのだが、言い訳をすればするほど、穂乃果たちはジト目で奏夜を睨んでいた。
「そーくん……。そんな人だったとは……」
「さっきあれだけ懲らしめたのに、まだ足りないみたいですね……」
「やっぱり、ことりのおやつにするしかないよね。これは……」
「奏夜先輩、最低です!」
「そーや先輩!観念するにゃ!」
「本当に見境いないわね。あなた……」
「奏夜。覚悟は出来てるんでしょうね?」
穂乃果たちはドス黒いオーラを放ちながら奏夜に迫っており、奏夜はそんな穂乃果たちに怯えているのか、冷や汗をかいていた。
そんな中、何かを思い出した奏夜はハッとしていた。
「そ、そうだ!もしラブライブに出るなら、生徒会にだって話を通さなきゃだろ?生徒会室にいかないと!」
こう言って難を逃れようとした奏夜は、逃げるように生徒会室へと向かっていった。
「あっ、こら!奏夜!待ちなさい!」
そんな奏夜を追いかける形で、穂乃果たちもまた、生徒会室へと向かっていった。
※※※
「……とは言ったものの……」
生徒会室の近くまで来た奏夜だったが、何か思うところがあったのか、足を止めていた。
穂乃果たちはそんな奏夜を捕まえようとするが、考え事をしている奏夜をみて、穂乃果たちは首を傾げていた。
「?奏夜?どうしました?」
「いや、ラブライブのことを生徒会にと思っていたんだけどさ、改めて考えてみると……」
奏夜は、ラブライブに出たいと絵里に話したとしても、承認されるとは思えなかったため、生徒会室に行くのをためらっていたのである。
「確かに。このまま話をしたとしても……」
「学校の許可ぁ?認められないわ」
「おいおい……」
凛が何故か絵里の真似をしており、そんな真似をしている凛に、奏夜は呆れていた。
「ラブライブでこの学校の名が広まったら、入学希望者は増えるとは思うんだけどな……」
「そんなの関係ないわよ。だって、あの生徒会長は私たちのことを目の敵にしてるんだから」
「どうして、私たちばかり……」
何故絵里がμ'sのことを目の敵にしているのかを考えながら、花陽は浮かない表情をしていた。
「……ハッ!まさか、学校内の人気を私に奪われるのが怖くて……」
「「それはない」」
「ツッコミ早っ!!」
にこの言葉にすかさず真姫と奏夜がツッコミを入れており、そのツッコミの早さに、にこは驚いていた。
「本当なら勝手にエントリーしたいところだけど、ラブライブって学校の許可が必要なんだろ?」
「はい。学校の許可が絶対条件になっています」
ラブライブに出場するには、ランキングだけではなく、学校の許可が必要になるため、生徒だけの判断で勝手にエントリーすることは許されていなかった。
「んー……。こいつはどうしたものか……」
奏夜は、どのように学校の許可をもらうべきかを考えていたのだが……。
「……だったら、直接理事長に頼めばいいんじゃない?」
真姫は、最終手段として、この学校の理事長に頼むことを提案していた。
「え!?そんなことが出来るの?」
「……まぁ、それしかないか。身内もいるし、話くらいなら聞いてくれそうだけどな」
「私?」
ことりは理事長の娘であるため、今回はその立場を利用しようとの考えであり、ことりは自分が話に上がったため、自分のことを指差していた。
「それに、話をするだけなんだ。だから理事長に会うのに生徒会の許可はいらないだろ」
「確かに……そうですね……」
どうやら他には意見がないようなので、生徒会室には行かず、理事長に直接話を聞いてもらうことにした。
こうして、奏夜たちは、理事長にラブライブについての話をするために、理事長へと向かった。
奏夜たちはすぐに理事長室の入り口に到着するのだが……。
「……あぅぅ……。なんか凄く入りづらい雰囲気……」
「ったく、そんなこと言ってる場合じゃないだろ?」
穂乃果が理事長室の扉をノックすることに戸惑っていたため、奏夜はそんな穂乃果にどけてもらい、ドアをノックしようとした。
すると、奏夜がドアをノックするより先に理事長室の扉が開かれたのだが……。
「あら?お揃いでどうしたん?」
理事長室から、希が顔を出していた。
「東條先輩?ということは……」
何故希が理事長室にいるのか推測した奏夜は少しばかり表情が引きつっていた。
「……どうしたの?希」
そんな奏夜の推測が当たっているからか、さらに理事長室の扉が開かれて、絵里も顔を出していた。
「……生徒会長……」
「タイミング悪っ……」
にこはつい思っていることが口に出てしまったからか、このように呟いていたのだが、それは奏夜も思っていたことなので、にこをなだめることはしなかった。
「……何の用ですか?」
「ちょっと理事長に話したいことがあるだけです」
「各部の理事長への申請は、生徒会を通す決まりよ」
「申請とかそんなんじゃないんです。ただ理事長に話があるだけなんです」
奏夜は、少々険しい表情になりながらも、絵里のことを牽制していた。
少しばかりピリピリとした空気がその場を包み込もうとしていたのだが……。
「……あら、どうしたの?」
そんなピリピリした雰囲気を包み込むように、理事長が姿を現わすと、何事もなかったかのように振る舞っていた。
そんな理事長の態度に、ピリピリとした雰囲気は消え去り、μ'sの1年生組以外の全員と、絵里と希の2人が理事長室に入っていった。
1年生組はその場に残り、ドアの前で聞き耳を立てていた。
そして、奏夜たちは、ラブライブというスクールアイドルの甲子園があることを理事長に伝え、それに参加したいという意思も伝えていた。
「へぇ、ラブライブねぇ……」
「はい。ネットで全国的に中継されるみたいです」
「もし出場出来れば、学校の名前をみんなに知ってもらえると思うの」
理事長の娘であることりが、ラブライブに出場することで、どのような効果をもたらすのかを説明していた。
「私は反対です」
絵里は、μ'sの存在を認めていないからか、ラブライブの出場を良しとはしていなかった。
「理事長は学校のために学校生活を犠牲にすべきではないとおっしゃいました。それは、彼女たちにも当てはまるのではないでしょうか?」
学校のために学校生活を犠牲にすべきではない。
この言葉があまりにも正論だったため、奏夜たちは反論の言葉がなかった。
そんな中、理事長は……。
「そうねぇ……。まぁ、いいんじゃないかしら?エントリーするくらいなら」
結果はどうあれ、参加しても良いのではないかと、ラブライブのエントリーを認める発言をしていた。
そんな理事長の言葉に、奏夜たちの表情は明るくなり、絵里の表情は曇っていた。
「理事長!どうして彼女たちの肩を持つのです?」
「別に、そんなつもりはないけど」
「だったら……。生徒会でも、学校存続のために独自に活動させて下さい!」
奏夜たちのラブライブ出場が認められたならと思った絵里は、このような交渉を持ちかけるのだが……。
「……それはダメよ」
「意味がわかりません……」
「そうかしら?簡単なことだと思うけど……」
何故か理事長は、絵里には厳しい態度を取っており、そのことに対して、穂乃果たちは首を傾げていた。
(……なるほどな。何で俺たちの活動は認められて、生徒会長の活動は認められないのか、わかる気がするよ……)
《確かにな。俺たちは純粋に目標として出場したいという思いに対して、あのお嬢ちゃんは使命感に駆られすぎてるからな》
キルバは、絵里の言葉が認められない原因をこのように分析し、奏夜も同じ意見だからか、ウンウンと頷いていた。
その後、絵里は理事長に何らかの言葉を返すことなく理事長を出ていってしまい、希はその後を追いかけていた。
「……まったく、ざまぁみろってのよ」
にこは、絵里がいなくなるのを確認してから、このようなことを呟いていた。
「ただし、条件があります」
「条件……。ですか?」
「勉強が疎かになってはいけません。今度の期末試験で1人でも赤点を取るようなことがあれば、ラブライブへのエントリーは認められませんからね」
理事長が出した条件というのは、スクールアイドルでありながらも、学生としての本分を忘れてはならないという理事長からのメッセージでもあった。
「赤点か……。いくらなんでもそんな奴は……」
成績が悪くても、赤点を取るほどひどい人間はいないだろう。
奏夜はこう予想をしていたのだが……。
「「「……」」」
穂乃果とにこ。そして、理事長の入り口で聞き耳を立てていた凛が、がっくりとうなだれていた。
「……マジか……」
まさか、赤点圏内の成績の人間がいるとは思わなかったのか、奏夜は驚きを隠せなかった。
《やれやれ……。こいつは面倒なことになりそうだな……》
ラブライブに出場しようと張り切っていた奏夜たちに、まさかの試練が訪れることになり、その試練は簡単には乗り越えることは出来ないものだろうと予想するのは簡単だった。
※※※
理事長室へ向かい、ラブライブが行われることを理事長に報告した奏夜たちだったが、理事長はエントリーくらいならと前向きなようであった。
ただし、今度の期末試験で、赤点を1つでも取った者がいたならば、問答無用でラブライブへの出場は認められないといった感じであった。
理事長室での話は終わり、奏夜たちは部室へと戻ったのだが……。
「……大変申し訳ありません」
「……ません」
成績が赤点圏内と思われる穂乃果と凛が謝罪をしていた。
「穂乃果……。あなたの成績は良くないことは、小学生の頃から知ってはいましたが……」
「数学だけだよ!!ほら、私は小学生の頃から算数が苦手だったでしょ?」
どうやら穂乃果は、数字が苦手のようであり、算数や数学といった計算を使う教科が苦手みたいだった。
「それじゃあ……。7×4?」
「えっと……26?」
『……これは数学以前の問題だな……』
簡単なかけ算も答えられなかった穂乃果に、キルバは呆れ果てていた。
「そして、凛は何が苦手なんだ?」
「英語!凛はどうしても英語が肌に合わないの!」
どうやら、凛の苦手教科は、英語のようであった。
「た、確かに難しいよね」
「そうだよ!だいたい、凛たちは日本人なのに、何で外国の言葉を勉強しなきゃいけないの?」
「……それを言うなよな……」
凛の根本的な話を聞きながら、奏夜は呆れていた。
「屁理屈言わないの!」
「あぅぅ……。真姫ちゃん、怖いにゃあ!」
そんな話を真姫は完全に一刀両断し、凛はそんな真姫に怯えていた。
「これで、テストが悪くてエントリー出来なかったら、恥ずかし過ぎるわよ!」
「確かに。そうなったら目も当てられないよなぁ……」
苦手教科を克服出来ず、誰かが赤点を取ってしまった結果、ラブライブにエントリー出来ないという結果を迎えてしまったら、μ'sにとって最大の恥となる出来事になりそうだった。
「……まったく……。やっと生徒会長を突破したっていうのに……」
1番の問題と思われた絵里を突破したことに安堵をしたいところだったが、また新たな問題が浮上してしまったため、真姫はこのように文句を言っていた。
「ふ、ふん!まったくもってその通りよ!あ、あんたたち!あ、赤点なんて……ぜ、絶対取るんじゃないわよ!」
そんな中、にこはプルプルと手を震わせながら、数学の教科書を読んでいたのだが……。
「……さて、どこからツッコミを入れるべきか……」
『さぁな。俺に聞くな』
奏夜は今のにこの状態にいくつかツッコミを入れたいと思っていた。
「……にこ先輩。まさかとは思うけど、数学が苦手って訳じゃないですよね?」
「な、何言ってるのよ!当たり前じゃない!このにこに、苦手なものなんて……」
『だったら、何故教科書が逆さまなんだ?それに、手も震えているしな』
「うぐっ……!そ、それは……」
どうやらキルバのツッコミに反論する言葉はないようであり、そこからわかったことは、にこが数学が苦手ということだった。
「やれやれ……。とりあえず、この3バカには頑張ってもらわないとな」
「「「3バカ言うな!!」」」
奏夜の3バカという言葉が気に入らなかったからか、穂乃果、凛、にこの3人はすかさず反論をしていた。
「そういうそーや先輩はどうなのさ!」
「そうよ!あんたは魔戒騎士の仕事で忙しいんでしょ?だったら、勉強は出来ないんじゃないの?」
にこの指摘通り、奏夜はμ'sのマネージャーの仕事の他に、本業である魔戒騎士としても仕事をしている。
昼はμ'sの活動に参加するため、勉強する時間はなく、夜は夜で、ホラー討伐の仕事があるため、昼も夜も勉強する時間はない。
そのため、奏夜は勉強が出来ないと思われた。
しかし……。
「残念だったな。俺は勉強しなくても平均くらいは取れるんだよ。勉強は授業の時にしっかりやって覚えるところは覚えてるしな」
奏夜は勉強する時間がないならば授業中に頑張ろうという気持ちで授業に臨んでいるため、予習復習は授業中にしっかりと行っていた。
そのため、試験前に勉強しなくても、平均くらいはどうにか取れるのである。
「そう言えば、奏夜が勉強しているところは見たことありませんが、テストは常に平均点くらいですもんね」
「それに、去年のどこかのテストで、学年2位くらいの成績を取ってなかったっけ?」
ことりの指摘通り、奏夜は二学期の期末試験の時に、学年2位という好成績を残し、周囲を驚かせていた。
その時、偶然にも魔戒騎士としての仕事はあまりなく、本気で勉強しようと、家でも勉強する機会が多かったため、このような好成績を残すことが出来たのである。
それ以外の試験は、勉強を全くしていないため、平均点くらいの点数だったのだが。
「が、学年2位!?」
「奏夜って、本気を出せばかなり成績が良いみたいね」
「そうなのです。その努力を欠かさなければ、学年トップも夢ではないというのに……」
奏夜が思った以上に勉強が出来ることに花陽と真姫は驚いており、海未は、普段真面目に勉強しない奏夜のことをもったいないとさえ思っていたのであった。
「そ、そうだった……」
奏夜がそれなりに勉強出来ることを思い出し、穂乃果の顔は真っ青になっていた。
「まさか、そーや先輩が勉強出来る人間だなんて……」
「くっ……。奏夜の裏切り者!!」
どうやら穂乃果、凛、にこの3人は、奏夜が同類だと思っていたため、がっかりしていた。
「やれやれ……。3バカの戯言は聞こえんな」
「「「だから3バカ言うな!!」」」
奏夜の3バカという言葉がやはり気に入らないからか、穂乃果、凛、にこの3人は再び反論していた。
「……海未、ことり。2人は穂乃果の勉強を見てくれないか?」
「えぇ。私は構いませんが……」
「そーくんはどうするつもりなの?」
「悪いな。俺は、マネージャーとしての仕事もあるし、いつ指令が来るかわからないから、穂乃果の勉強を見る暇はないんだよ」
「くっ……。その余裕な態度……。気に入らないわね……」
「そういう文句は、赤点を回避してから言うんだな」
「わ、わかってるわよ!」
奏夜は、にこの文句をバッサリと一蹴すると、にこは何の言葉も返すことが出来なかった。
「私と花陽の2人は凛の勉強を見るわ」
「悪いな。2人とも、凛は任せたぞ」
穂乃果の勉強は、海未とことりが見ることになり、凛の勉強は、真姫と花陽が見ることになった。
「後はにこ先輩だけど……」
にこだけは3年生のため、上級生の教科を見るのは、とてもではないが難しかった。
すると……。
「……にこっちはウチが担当するわ」
希がアイドル研究部の部室に現れると、にこの勉強を見ると名乗り出てくれた。
「希!」
「東條先輩……。いいんですか?」
「構わんよ。ウチに出来ることといえば、これくらいやしな」
どうやら希は希でμ'sのことを応援しているようであり、このような形で協力することにしたのである。
「べっ……別に、希の力なんて借りなくたって、にこは赤点なんて取らないわよ!」
「ったく……。にこ先輩……。此の期に及んで何言ってんだか……」
奏夜は、明らかに強がってるにこのことをジト目で見ており、呆れていた。
そんな強がるにこを見た希は……。
「ふっふっふ……」
何故か怪しい笑みを浮かべていた。
そして、希は素早い動きでにこに接近すると……。
「……んな!?」
「そんな素直になれん子には、ワシワシやでぇ♪」
希はかなりの力でにこの胸をワシワシしていた。
「ちょ!?わかった!わかったから!」
にこはここでようやく素直になり、ここでようやく解放された。
「ウンウン。素直でよろしい♪」
希によって胸をワシワシされたにこは、疲弊しており、その場にうなだれていた。
「……////」
ワシワシするということは、胸を触るということだったため、奏夜はどんなリアクションをして良いのかわからず、頬を赤らめていた。
「ちょ、ちょっと奏夜!何で顔を赤くしてるのよ!」
自分がワシワシされているところをガン見されたにこは、奏夜に異議を唱えていた。
そして……。
「ふっふっふ……」
「東條……先輩?」
希はそんな奏夜を見て、怪しい笑みを浮かべていた。
「ウチのワシワシをガン見するなんて、如月君もスケベやなぁ。そんなスケベな子には……」
希は、怪しい笑みを浮かべながら、ゆっくりと奏夜に近付いていた。
「ちょっ……。何を……」
「ワシワシマックスやでぇ♪」
「そんな……。やめっ……」
希は歩みを止めることなく、奏夜に接近していた。
そして……。
アーーーーー!!
奏夜の悲鳴が再びアイドル研究部の部室に響き渡っていた。
「……ふむ……。如月君ってけっこう鍛えてるなぁ。思ったよりもワシワシし甲斐があったで♪」
奏夜の少しばかり筋肉質な体型をワシワシしたことに希は満足しており、ワシワシされた奏夜は、先ほどのにこ同様に疲弊して、その場にうなだれていた。
「……まぁ、そーくんはともかくとして、これで準備は整ったんだし、明日から頑張ろうよ!」
「「おー!!」」
穂乃果と凛とにこは、大嫌いな勉強を、明日に先延ばしにしようとしていたのだが……。
「今日からです!!」
「「「あぅぅ……」」」
そんなことは海未が許さず、そんな海未の言葉に、穂乃果、凛、にこの3人はガッカリしていた。
こうして、新たなる問題に直面した奏夜たちであったが、その問題を解決するべく、勉強を開始したのであった。
……続く。
__次回予告__
『あの生徒会長は、μ'sのことを認めていないようだな。だが、それだけのことを言うものを持ってはいるみたいだ。次回、「絵里」。あのお嬢ちゃんにそんな秘密があったとはな』
花陽がドSだという疑惑が……(笑)
そして、花陽はメンバーの中で1番腹黒いのか?そんな描写をしてしまったので、花陽推しの人は、本当にすいません。
さらに、奏夜が思ったよりも成績が良いことが判明しました。
前作主人公である統夜は、勉強が苦手だったため、そこもまた、前作主人公との違いが出てきたと思います。
そして、奏夜たちは勉強が苦手な穂乃果、凛、にこの勉強を見ることになりました。
希も協力してくれるのですが、にこだけではなく、奏夜もワシワシの餌食に……。
さて、次回は奏夜たちが試験に向かって頑張っていきます。
期末試験はいったいどうなるのか?
それでは、次回をお楽しみに!