今回は、前後編で、センター決定戦が繰り広げられます。
何故前後編なのかは、本編+オリジナル回となっているからです。
そして今回は、新たな魔戒騎士が登場します。
その魔戒騎士は新キャラなのか?そして、敵か味方か?
それでは、第22話をどうぞ!
奏夜の先輩騎士である統夜や、その仲間である唯たちが音ノ木坂学院に遊びに来て、アイドル研究部の部活紹介ビデオの撮影に協力した翌日、奏夜たちはアイドル研究部の部室にいた。
これから、とあることを決めるべく話し合うためである。
「……リーダーには誰が相応しいか……。だいたい、私が部長に就いた時点で考え直すべきだったのよねぇ……」
この日、穂乃果が昨日希に言われた「何故穂乃果がμ'sのリーダーなのか?」という言葉を他のメンバーに話したところ、急遽リーダーについての話し合いが行われることになった。
「私は別に、穂乃果ちゃんで良いと思うけど……」
「まぁ、言い出しっぺは穂乃果だしな。俺もそこは妥当だとは思うが……」
どうやらことりは、穂乃果をリーダーに推薦したいようであり、奏夜は、言い出しっぺが穂乃果だということを鑑みて、ことりの意見を支持していた。
「ダメよ。今回の取材でハッキリしたわ。この子はリーダーには向いていないって」
「私もそこには賛成ね」
どうやらにこと真姫は、リーダーは別の人物が良いと考えていた。
『やれやれ……。リーダーなんてあってないようなもんだろ?そこまで躍起になって決めることなのか?』
「確かにな。俺もそこはキルバに賛成だ」
どうやらキルバはリーダーなどいらないと考えており、奏夜もそれに賛同していた。
「甘いわね……。これはスクールアイドルに限った話じゃなくて、これだけのグループだとしたら、メンバーをまとめるリーダーが必要になってくるのよ!」
「……そういうもんかねぇ……」
にこは、リーダーの必要性を語り、奏夜はそれに賛同出来ずにいた。
「……それに、リーダーを決めるということは、これから作るPVにも影響するわ」
「PV?」
「リーダーが変われば、必然的にセンターも変わるでしょ?次のPVは新リーダーがセンターになるのよ」
穂乃果はPVと言われてもピンと来なかったようで、にこが説明をしていた。
「なるほどな……。そういうことなら納得だよ」
センターを決めるのにも関わってくると聞くと、奏夜はリーダーの必要性に気付いたようである。
「それにしても、一体誰がリーダーになるべきなのかなぁ?」
花陽は、首を傾げながらもっともな疑問を投げかけていた。
そんな花陽を見たにこは、「待ってました」と言わんばかりにホワイトボードをひっくり返した。
そこには、にこがあらかじめ書いていたであろう文章が書かれていたのだが、それは、リーダーについての説明文だった。
「リーダーとは、まず第一に熱い情熱を持ってみんなを引っ張っていけること……。次に!精神的支柱になれるだけの懐の大きさを持っている人間であること!」
にこはホワイトボードをバンバン叩きながら熱心にリーダーの説明をしており、奏夜たちは黙ってその話を聞いていた。
「そして何より!メンバーから尊敬される存在であることよ!この条件を全て備えたメンバーとなると……」
にこは、リーダーに必要な条件を掲げ、誰がリーダーに相応しいかを言おうとしたのだが……。
「……海未先輩かそーや先輩かにゃ?」
「……って!なんでやねーん!」
凛が先に言ってしまい、にこはツッコミを入れていた。
(にこ先輩……。自分がリーダーに相応しいと言いたいんだな……)
《やれやれ……。面倒くさい奴だぜ……》
にこは自分をリーダーにしたいという考えが奏夜とキルバにはバレバレだったため、2人はジト目でにこを見ていた。
「えっ!?私ですか!?」
「海未ちゃんもそーくんも向いているかも!リーダー!」
「……俺は無しだな」
凛に推薦された奏夜であったが、即座にその推薦を辞退していた。
「えぇ!?なんでなんで!?」
「そうよ。奏夜、あなたならさっきの条件を充分満たしてると思うけど……」
奏夜がリーダーを辞退することに対して、穂乃果だけではなく、真姫も追求していた。
「俺はマネージャーであってプロデューサーじゃない。俺の仕事はあくまでみんなを支えることだから、リーダーなんて柄じゃないのさ」
『それに、奏夜は魔戒騎士としても忙しいからな。そんな奴にリーダーは難しいだろう』
「……そっか……。そうだよね……」
「確かに、そう言われちゃ、仕方ないわよね……」
キルバも、奏夜がリーダーになるべきではないと説明をしたため、その説明で穂乃果と真姫は納得したようであった。
「それじゃあ、やっぱりリーダーは海未ちゃんだね!」
「穂乃果はそれでいいんですか?」
「え?何で?」
「リーダーの座を奪われようとしているのですよ?」
現在、穂乃果がμ'sのリーダーということになっているのだが、海未がリーダーとなってしまえば、その座を奪われてしまうことになる。
その現実を理解していないのか、穂乃果はキョトンとしていた。
「へ?それがどうしたの?」
そのため、このようなことを言っており、海未は少々呆れていた。
「……何も感じないんですか?」
「だって、μ'sとして、やっていくのは一緒でしょ?」
「でもでも!センターじゃなくなるかもなんですよ!」
リーダーではないということはセンターではなくなるということを花陽が説明していた。
「おぉ!そうか!」
穂乃果はここでようやく理解したようだが、腕を組んでじっくりと考え事をしていた。
そして……。
「……まぁ、いっか」
『えぇ!?』
『おいおい……』
穂乃果の言葉に奏夜たちは驚いており、キルバだけは呆れ果てていた。
「それじゃあ、リーダーは海未ちゃんってことで……」
「待ってください!私にリーダーは無理です!」
ただでさえ人前に出るのが苦手な海未は、みんなを引っ張るだけではなく、センターとして、より一層目立つことになるリーダーになることを拒否していた。
「……やれやれ……。面倒な人ね……」
顔を真っ赤にしてリーダーになることを拒否している海未に、真姫は呆れていた。
「……それじゃあ、ことり先輩?」
海未が無理だとわかった花陽は、ことりを推薦していた。
「ことりか?ことりは……」
ことりがリーダーと言われてもピンと来なかった奏夜は、ことりのことをジッと見ていた。
そして……。
「……副リーダーって感じだな」
ことりはリーダーではなく、副リーダーだったらしっくりくるみたいだった。
「仕方ないわねぇ……」
自分がリーダーになりたいのか、にこはやれやれと言いたげな感じで話をしようとしていたのだが、奏夜たちはそんなにこをスルーして、話し合いを行っていた。
「仕方ないわねぇ!」
にこは先ほどよりも大きな声を出すのだが、相変わらず奏夜たちはにこをスルーして話し合いを行っていた。
「しー!かー!たー!なー!いー!わー!ねー!」
スルーされることが余程気に入らないのか、にこはどこからか拡声器を取り出して、アピールをしていた。
「だー!!もう!!やかましい!!話し合いに集中出来んだろうが!」
あまりにもにこの主張がやかましかったからか、奏夜は怒り気味ににこを黙らせようとしていた。
「あんたらがにこをスルーするから悪いんじゃないの!」
そんな奏夜に、にこは負けじと反論していた。
「だったら誰も文句が言えんように決めた方がいいかもな」
「……奏夜。何か良いアイディアがあるのですか?」
「……まぁな。とっておきの方法がな……」
奏夜はリーダーを決めるためにあることを企画するのだが、どうやらにこも同じことを考えていたようであり、奏夜たちはリーダーを決めるために部室と学校を後にしてどこかへと移動を始めた。
※※※
奏夜たちがリーダーを決めるために訪れた場所とは……。
「……カラオケ……ですか……」
「そう。歌とダンスで決着よ!」
秋葉原某所にあるカラオケボックスであった。
「やはりアイドルに求められるのは歌とダンスよ!まずは1人ずつ歌って、得点が高い人がリーダー!それなら文句ないでしょ?」
どうやら、パフォーマンスの基本となる歌唱力の良し悪しで、リーダーを決めようとにこは考えていた。
「そこは俺もそう思ってたんだ。やはりリーダーがあまりに歌ヘタじゃなぁ……」
どうやら奏夜もにこと同じ意見のようであった。
海未と真姫はあまり乗り気じゃないみたいだが、それならばセンターの権利が消失するだけなので構わないとにこは答えていた。
「……ふっふっふ……。こんなこともあろうかと、高得点の出やすい曲は既にピックアップ済み……。これでリーダーの座は間違いなし……」
「……にこ先輩。本音がだだ漏れですよ……」
『やれやれ……。よほどリーダーとやらになりたいみたいだな……』
にこの怪しい微笑みを、奏夜とキルバはジト目で見ていた。
にこはリーダーの座を狙っていたが、穂乃果たちは久しぶりに来たカラオケを楽しもうと考えているのか、和気藹々な雰囲気だった。
「あんたら!緊張感なさ過ぎ!」
そんな穂乃果たちに、にこはツッコミを入れたところで、カラオケによる歌唱力争いが始まった。
1番やる気を見せているにこが最初に歌い、にこは高得点が出やすい曲を選んだことにより、最初ながらも94点と高い点数を叩き出すことが出来た。
これには穂乃果たちも驚きが隠せないようであり、大きな拍手を送っていた。
「ふっふっふ……。いい感じじゃない……。これで、にこの勝利は間違いなしね……」
にこは、再び怪しい笑みを浮かべると、自らの勝利を確信していた。
しかし……。
穂乃果、ことり、凛、花陽の順番で歌うのだが、4人とも90点代を叩き出していた。
穂乃果、ことり、凛の3人はにこの点数に届かなかったものの、花陽は94点を叩き出し、にこと順位が並んだのであった。
もし、他のメンバーが94点を上回らなければ、2人によるサドンデスが始まることになる。
予想外な展開に、にこの表情は引きつっていた。
続けて海未が歌うのだが、93点と惜しくもにこと花陽に届かなかった。
あと歌っていないのは真姫であり、彼女が95点以上を出せば、真姫の優勝が確定する。
そんな中、真姫が歌って出した点数が……。
「きゅ、97点!?」
なんと97点と、全メンバーの中で、ぶっちぎりの好成績だった。
よって、歌唱力対決は、真姫の勝利に終わったのだが、真姫はどうやらリーダーは乗り気ではないようだった。
「う、嘘でしょ……!?」
特ににこは、この結果が信じられないようであり、顔をピクピクと震わせていた。
「……それよりも奏夜。あんたも何か歌いなさいよ」
「え?俺もか!?」
まさか自分まで歌ってくれと言われるとは思わなかったため、奏夜は驚きを隠せなかった。
「確かに。奏夜だけ歌わないなんてフェアじゃないものね」
「ま、まぁ!奏夜は良いではないですか!結果は出た訳ですし、次に行きましょうよ!」
海未は何故か、奏夜を歌わせたくないようであり、慌てた表情で、その話をなかったことにしよいとしているのだが……。
「私、奏夜先輩の歌を聞いてみたいです!」
「凛も聞いてみたいにゃ!そーや先輩の歌を!」
「まったく……。仕方ないな……」
こう言いながらも奏夜はまんざらでもなさそうであり、奏夜は真姫からマイクを受け取っていた。
「そ、そーくん……。やめといた方がいいんじゃ……」
海未だけではなく、何故か穂乃果も奏夜を止めようとしていた。
「……久しぶりだなぁ……。いつだか穂乃果たちとカラオケに行って以来だもんな」
奏夜と穂乃果たち2年生組は、中3からの付き合いであるため、ゲーセンに行ったり、カラオケに行ったりということはあった。
「……?何でそんなに身構えてるんですか?」
花陽は、2年生組が何故か緊張した面持ちで身構えているのを見て、首を傾げていた。
「……なるほど……。そういうことなのね……」
そんな穂乃果たちの仕草から、事情を察した真姫は、携帯プレーヤーを取り出すと、イヤホンを両耳につけて曲を再生し、音量を出来る限り上げていた。
そして穂乃果たち2年生組が一斉に耳を塞ぐのだが、その様子を、にこりんぱなの3人は首を傾げて眺めていた。
そうこうしているうちに曲が始まり、奏夜は歌い始めたのだが……。
『……♪〜〜〜〜〜!』
奏夜は歌い始めるのだが、それはあり得ない程の不協和音であり、まるで音波兵器のような衝撃が、この部屋を包みこんでいた。
「に゛ゃ゛ーー!!何なの!?これは!!」
「これは……。もう歌じゃないです!!」
「あまりに酷すぎるわ!こんなの、どこのジ○イ○ンリサイタルよ!!」
初めて奏夜の歌声を聴いたにこりんぱなの3人は、奏夜の歌のあまりの破壊力に、両耳を塞ぎながらも悶えていた。
にこに至っては、青いネコ型ロボットが活躍するアニメに出てくる某ガキ大将のリサイタルに例えていた。
「ちょ……!?イヤホンしてても意味ないじゃない!!」
イヤホンをつけて音楽を流すことで、防音を図っていた真姫だったが、どうやら効果はないようであり、イヤホンを外して、両耳を塞いで悶えていた。
「そうそう!この感覚だよ!」
「奏夜の歌はかなり久しぶりですが……」
「相変わらずの破壊力だね!」
奏夜の歌を聞いたことのある2年生組は、他のメンバーと違ってダメージは少ないようだが、耳を塞いで苦しんでいた。
μ'sのメンバーがこのように苦しんでいる通り、奏夜はあり得ない程の音痴であり、マイクを持って歌い始めてしまえば、相当強力な音波兵器を無意識のうちに放ってしまう。
奏夜にはその自覚はないため、歌っている時はとても気持ち良さそうだった。
その効果は奏夜たちのいる部屋のみならず、両隣の部屋にも効果が出ているようであり、両隣の部屋の人間がざわつき始めていた。
そして、穂乃果たちのように耳を塞ぐことが出来ないキルバはどうしているかというと……。
『おい!奏夜!やめろ!このあり得ない程の音痴が!お前の歌は有害でしかないんだよ!ぐわぁ!!やめろ!やめてくれ!』
キルバもまた、奏夜の歌に苦しんでおり、耳を塞ぐことが出来ない分、穂乃果たちよりも苦しんでいた。
そして、キルバは奏夜の歌に耐えられないのか、気を失ってしまった。
奏夜の歌った曲は3分にも満たない短い曲だったため、奏夜による騒音攻撃がすぐに終わったのが不幸中の幸いだった。
「ふぅ……。ん?何でそんなにみんなグロッキーなんだ?」
奏夜は歌い終わった後、明らかに穂乃果たちが疲弊しているのを見て、首を傾げていた。
「だ、誰のせいだと思ってるのよ……」
にこはフラフラの状態でツッコミをいれていた。
その後、得点が表情されたのだが、機械は正確な数字を出すことが出来ず、測定不能と出てしまっていた。
「ありゃ?測定不能かぁ……。機械の調子が悪いのかな?」
自分の歌の点数を計ることが出来ず、奏夜は首を傾げていたが、穂乃果たちは、点数が出せないという機械の判断は真っ当なものだと感じていた。
こうして、奏夜を含めた全員が歌を歌ったので、奏夜たちは次の目的地へと向かった。
続けてはゲームセンターのダンスゲームのスコアを競うこととなり、ここでは、運動神経抜群の凛が、初心者ながらも驚きのスコアを叩き出していた。
ここでも全員がそれなりに良い点数を出しており、予想外の展開ににこは驚きと焦りの感情を抱いていた。
歌にしてもダンスにしても、スコアに大差がなかったため、これだけではリーダーを誰にするかは決めかねる状況だった。
そこで、最後に、チラシ配りを通して、その人のオーラを測るというのを行おうとしていたのだが、奏夜は番犬所から呼び出しを受けてしまったため、穂乃果たちと別れて番犬所へと向かった。
※※※
「……奏夜、すいませんね。忙しいところ呼び出してしまって」
穂乃果たちと別れた奏夜はすぐに番犬所へと到着するのだが、番犬所に着くなり、ロデルは奏夜に対してこのような言葉を送っていた。
「いえ……。魔戒騎士としての使命も大事ですので……。ところでロデル様。指令ですか?」
「えぇ、そうです」
どうやら呼び出されたのは、指令があるからであり、奏夜はロデルの付き人の秘書官から赤い指令書を受け取ると、魔導ライターを取り出し、魔導火を放って指令書を燃やした。
そこから、魔戒語で書かれた文章が飛び出してくると、奏夜はそれを読み上げ、文章は消滅した。
『……ホラー、フェンリル。スピードもパワーもある手強い相手だ。奏夜、気を引き締めていけよ』
「わかってるって」
「頼みましたよ、奏夜。……ところで、μ'sの活動の方はどうですか?」
指令の受領が終わったところで、ロデルは気になっていたμ'sの話を振ってきた。
「はい。今は新しいPVに向けて新しいリーダーを決めているところなんです」
「おぉ!ようやく7人で歌う曲が拝めるのですね!それは楽しみです!」
ロデルはμ'sが7人になったことを当然知っており、7人で歌う曲のお披露目を心待ちにしていた。
「今日明日にはリーダーについての話し合いは終わるでしょうから、新曲も近々だと思いますよ」
「楽しみにしていますよ。奏夜」
「ありがとうございます!失礼します」
奏夜はロデルに一礼をすると、番犬所を後にして、キルバのナビゲーションを頼りにホラーの捜索を開始した。
奏夜が番犬所を後にした時には既に夜になっており、奏夜は被害が出る前にホラーを見つけ出そうと少し焦っていた。
そんな奏夜が音ノ木坂学院の近くを歩いていたその時だった。
『……奏夜!上だ!!』
「っ……!?」
どうやらすぐ近くにホラーがいたようであり、まるで狼のようなホラーが上空から奏夜を奇襲した。
奏夜はどうにか魔戒剣を抜いて攻撃を防いだのだが、ホラーの攻撃の勢いはかなりのものであり、奏夜の頬には少量の切り傷がついていた。
「っ……!キルバ、こいつがフェンリルか!?」
『あぁ、そうだ。こいつはなかなか手強いホラーだからな。奏夜、気を付けろよ!』
奏夜に襲いかかってきたこのホラーこそ、指令の対象となっているフェンリルである。
フェンリルは狼のような姿をしたホラーであり、強靭な爪と牙と、俊敏な動きで、狙った獲物は確実に仕留めるホラーである。
先ほどの奇襲攻撃はフェンリルの得意技であり、狙われたのが一般人であればなす術なくやられてしまい、未熟な魔戒騎士や魔戒法師であっても、この奇襲攻撃を防ぐことは厳しいのである。
奏夜が咄嗟に防いで、少量のダメージで済んだのは、不幸中の幸いであった。
『フェンリルは狙った獲物を執拗に襲うホラーだ。恐らくこいつは、魔戒騎士を狙っているみたいだぞ!』
どうやらフェンリルは魔戒騎士をターゲットにしており、今回は奏夜が狙われているようであった。
「なるほど……。こいつのターゲットは俺って訳か……」
奏夜は、自分がフェンリルに狙われていることを理解したのであった。
(奴が俺を狙ってるってことは、ここで戦ったら被害が出そうだな。こうなったら……)
奏夜は音ノ木坂学院の近くで戦うことを良しとしていなかった。
そのため、奏夜はある作戦を考えていた。
その作戦とは……。
「……おい!こっちだ!こっちに来い!」
奏夜はなるべく人的被害が出なさそうな場所を選んで、そこにフェンリルを誘導しようとした。
フェンリルは奏夜がどこかへ逃げていると判断したからか、「グルルル……!」と唸り声を上げながら、奏夜を追跡していた。
「……よし、良い子だ……」
奏夜は全力疾走しながら後ろを見ており、フェンリルがしっかりと追いかけてきていることに安堵していた。
フェンリルの動きは素早いため、時々飛びかかってくることもあるのだが、奏夜はそれを魔戒剣で受け止め、攻撃を防ぎながら移動していた。
……そんな奏夜とフェンリルをジッと見つめる1人の男がいた。
「……なるほど、あいつがこの管轄の魔戒騎士って訳か……」
その男は、黒いロングコートを羽織っており、まるで魔戒騎士のような出で立ちであった。
男はどこからか煙草の箱を取り出すと、箱から煙草を一本取り出して、それを口にくわえた。
そして、ライターの火をつけると、煙草に火をつけて、煙草を吸い始めていた。
「……それに、あのホラー……。なるほど、俺のこの管轄初仕事には持ってこいの相手だな」
その男は、どうやら魔戒騎士で間違いないようであり、煙草を吸いながら、奏夜に襲いかかっていたホラーの分析をしていた。
『……リンドウ。油断しないで下さいよ。あのホラー、相当手強い相手ですよ』
すると、リンドウと呼ばれた男のつけている腕輪から少年のような声が聞こえてきた。
どうやら、この腕輪はこの男の魔導輪のようであった。
「……わぁってるよ、レン。……仕事はきっちりとこなすさ」
リンドウと呼ばれた男は、レンと呼ばれた魔導輪にこう答えると、地面で煙草の火を消して、吸い殻を携帯灰皿にしまってから奏夜とフェンリルが向かっていった方角へと移動した。
※※※
奏夜は戦闘による被害を食い止めるために自分に狙いを定めているフェンリルを誘導していたのだが、奏夜がたどり着いたのは、音ノ木坂学院の裏手にある今は誰も立ち入ることのない裏山であった。
ここであれば、誰も来ないため、戦いに専念出来ると思ったからである。
「グルルル……!」
フェンリルは奏夜を追い詰めたと思っているのか、唸り声をあげながら奏夜を睨みつけていた。
「悪いな。追い詰められたのは俺じゃない……。お前の方だ!!」
奏夜は魔戒剣を構えると、フェンリルに向かってこのように宣言していた。
そんな奏夜の強気な発言が気に入らなかったからか、フェンリルは即座に奏夜に襲いかかってきた。
フェンリルは鋭い爪で奏夜を切り裂こうとしたのだが、奏夜は魔戒剣を一閃することで攻撃を防いだ。
しかし、フェンリルはすかさず素早い動きで奏夜を翻弄して、奏夜を攻撃する機会を伺っていた。
「くっ……!やっぱりこいつは速いな……」
奏夜は、フェンリルの予想以上に素早い動きに苦しんでいた。
フェンリルは素早い動きで奏夜を翻弄しながらも、連続で攻撃を仕掛けていた。
奏夜はどうにか魔戒剣で防いでいたのだが、全ての攻撃を受け切れた訳ではなく、腕や脚などに切り傷が出来ており、鮮血が飛び散っていた。
「くっ……!」
そのダメージはかなりのものであり、奏夜は表情を歪ませていた。
奏夜はフェンリルに追い詰められていると思われるが、スピードに翻弄されているうちにフェンリルのスピードに慣れてきたのか、動きを見切りつつあった。
そんなこととは知る由もなく、フェンリルは、奏夜にトドメを刺すべく、奏夜の急所目掛けて飛びかかってきた。
「……そこだぁ!!」
奏夜はフェンリルの動きを見極めて魔戒剣を一閃すると、フェンリルの顔面を斬り裂き、その一撃によって切り傷をつけた。
さらに、動きが止まったフェンリルに対して蹴りを放つと、フェンリルを吹き飛ばし、近くの壁に叩きつけた。
その時、フェンリルは、「キャイン!」と、まるで犬のような悲鳴をあげていた。
「……ったく……。手間かけさせやがって……」
奏夜はフェンリルの動きを見切ったのだが、そのためにダメージを受け過ぎており、フェンリルによって負わされた傷の痛みで表情を歪ませていた。
「だけど、これでケリをつける!!」
奏夜は鎧を召還して、一気に決着をつけようと考えていた。
奏夜が魔戒剣を高く突き上げようとしたその時だった。
「……おうおう。ずいぶんと苦戦してると思ったが、思ってたよりもやるじゃないか!」
どこからか、黒いロングコートを羽織った男が現れると、奏夜の戦いぶりを賞賛していた。
「……何者だ!」
奏夜は鋭い目付きで、突然現れた乱入者を睨みつけていた。
「おいおい……。そんな怖い顔をすんなって、少年よ。お前の管轄に魔戒騎士が派遣されるって聞いてるだろ?」
「!何でその話を……。ま、まさか!あんたが!?」
「まぁ、そういうこった」
どうやら奏夜の前に現れたこの男こそが、ロデルから話を聞いていたこの番犬所に派遣される予定の魔戒騎士であった。
その事実に、奏夜は驚きを隠せずにいた。
「……ま、色々話したいことはあるだろうが、まずは……」
男はそう言いながらフェンリルの方を見ると、体勢を立て直したフェンリルが唸り声をあげながら奏夜と男を睨みつけていた。
「おぉ、怖い怖い。奴さん、魔戒騎士を狙ってるみたいだな」
男は、先ほど奏夜の戦いを見ていたからか、フェンリルが魔戒騎士を狙っていることを理解しており、自分も狙われていると理解した男は、わざとらしく身震いをしていた。
『リンドウ。おどけるのはそこまでです。ホラーはすぐそこにいるんですから』
この男はリンドウと呼ばれており、彼の魔導輪はレンと呼ばれていた。
「わぁってるって。お前は真面目だねぇ。レンよ……」
レンと呼ばれる魔導輪がリンドウと呼ばれた男を宥めるのだが、リンドウはやれやれと肩をすくめながら煙草を一本取り出すと、煙草を吸い始めていた。
「ほ、ホラーが目の前にいるのに煙草!?」
『やれやれ……。奴は相当に緊張感がないようだな……』
奏夜は、ホラーを目の前にして、悠々と煙草を吸っているリンドウと呼ばれる男に驚き、キルバはそんなリンドウと呼ばれる男の態度に呆れていた。
そんなリンドウと呼ばれる男の態度にフェンリルは苛立っており、ターゲットを奏夜から切り替えると、素早い動きで彼に襲いかかった。
「……っ!危ない!!」
現在リンドウと呼ばれる男は丸腰であるため、奏夜は思わず声をあげた。
だが……。
「……フッ……。問題ねぇよ!!」
リンドウと呼ばれる男は、不敵な笑みを浮かべると、フェンリルが接近するよりも速く、魔戒剣を抜いて、素早い剣撃によってフェンリルの鋭い爪の一部を斬り裂いた。
さらに、連続で魔戒剣を一閃することにより、フェンリルにダメージを与えると、蹴りを放ってフェンリルを吹き飛ばした。
フェンリルに連続で攻撃を繰り出した後、リンドウと呼ばれる男は、悠々と煙草を吸っていた。
「……す、凄い……。あの人……」
『どうやら、ただのふざけた奴ではなさそうだな』
どうやらこのリンドウと呼ばれる男は、それなりに実力のある魔戒騎士であるようであり、奏夜とキルバは、驚きを隠せなかった。
「……あんた、いったい何者なんだ?」
このリンドウと呼ばれる男が魔戒騎士であることはわかったのだが、奏夜は改めて彼の素性を聞き出そうとしていた。
「……あぁ、俺か?俺は……」
リンドウと呼ばれる男は、口にくわえた煙草を地面に捨てると、足で煙草の火を消していた。
「……俺は天宮(あまみや)リンドウ……。神食騎士狼武(しんしょくきしロウム)の称号を持つ、魔戒騎士だ!」
この男……。天宮リンドウは、高々と自分の名前を宣言していた。
『ちなみに僕はレン。リンドウの相棒である魔導輪です』
そして、リンドウの相棒であるレンも、自己紹介をしていた。
リンドウの語る、神食騎士狼武とはいったいどのような魔戒騎士なのか?
それは、これから明らかになっていくのである……。
……続く。
__次回予告__
『あのリンドウとかいう奴、なかなかやるみたいだな。それに、奏夜の新たな兄貴分になりそうだしな。次回、「中央 後編」。そして、μ'sのセンターはいったい誰になるのか?』
今回、新たな魔戒騎士が登場しました。
今回登場したリンドウは、「GOD EATER」シリーズに登場したリンドウがモデルになっています。
まぁ、モデルとは言ってもまんまリンドウですが(笑)
そして、リンドウの相棒である魔導輪のレンも、「GOD EATER」に登場したあるキャラがモデルとなっています。
さらに、今回、奏夜が極度の音痴であることが判明しました(笑)
ここら辺が、前作主人公である統夜との、大きな差別化となっています。
奏夜と統夜。名前の似ている2人ですが、これからも2人の違いがよくわかる一面が出てくると思うので、そこもお楽しみに!
さて、今回はリンドウの鎧が登場します。
そして、μ'sのリーダーが誰なのかも明らかになりますので、次回をお楽しみに!