牙狼ライブ! 〜9人の女神と光の騎士〜   作:ナック・G

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お待たせしました!第18話になります!

昨日は久しぶりに映画を見に行きました。たまには映画もいいもんですね。「ひるね姫」面白かった!

映画の話はともかくとして、今回は前回の続きとなっております。

奏夜は、にこの本音を聞き出すことは出来るのか?

さらに、今回は意外なキャラが登場するかも?

それでは、第18話をどうぞ!




第18話 「本音 後編」

奏夜たちは、μ'sの活動を正式な部として認めてもらうために、アイドル研究部と話をつけるべく部室へと向かった。

 

そのアイドル研究部唯一の部員は何かとμ'sを目の敵にしていた矢澤にこであり、奏夜たちの提案は聞く耳を持たず追い出されてしまった。

 

そんな中、奏夜は何故アイドル研究部の部員がにこだけになったのかを本人から聞き出し、彼女の心の中に抱えている闇を感じていた。

 

この日の夜、アイドル研究部の活動を終えたにこは、学校を後にして、家に帰ろうとしていた。

 

「……」

 

にこの表情は晴れやかなものではなく、俯きながら考え事をしていた。

 

(……あいつ……。にこがあれだけμ'sのことを否定してるのに、にこのために怒って……。いったい何なのよ……)

 

にこの考えているのは、奏夜のことであった。

 

奏夜はμ'sのことを否定されたにも関わらずにこの過去をまるで自分のことのように考えてくれた。

 

そんな風に思ってくれる人は、奏夜が初めてであった。

 

(……にこだって本当はわかってるわよ……。あの子たちはスクールアイドルとして力をつけているって)

 

にこは内心ではμ'sのことを認めてはいたのだが、自分は仲間に見捨てられてしまった過去があるからか、素直にμ'sのことを認めたくはなかったのである。

 

(……ま、そんなことを考えていても仕方ないわね……。今日はママがご飯を作ってくれてるとはいえ、早く帰らないと……)

 

にこは色々と思うところがあるのだが、考えるのをやめて、急いで家に帰ろうとしていた。

 

その時である。

 

「……?メール?」

 

にこの携帯に反応があったため、にこは携帯を取り出すと、メールをチェックした。

 

「……!」

 

そのメールの送り主は、にこにはついて行けないとアイドル研究部を辞めた部員の1人からであった。

 

そのメールには、「話したいことがあるから、◯△広場まで来て欲しい」という内容であった。

 

にこの本心を言えば、行きたくなかったのだが、話を聞くだけならと考えたからか、母親に遅くなると連絡を入れて、相手の指定してきた場所へと向かった。

 

およそ10分後、にこは指定された秋葉原某所にある◯△広場に到着したのだが、既にメールの送り主は到着しており、それだけではなく、元アイドル研究部員たちが勢ぞろいしていた。

 

「……ごめんね、矢澤さん。急に呼び出しちゃって」

 

「……話って何なの?」

 

話をしようとしているのは、かつて自分を裏切った者であるため、にこは不機嫌そうな態度を取っていた。

 

「私たちね、矢澤さんに謝ろうと思ってきたの」

 

「謝る?」

 

元部員Aからの思いがけない言葉に、にこは少しだけ驚いていた。

 

「……私たちが間違ってたのよ」

 

「私たちがちゃんと努力すれば、今、うちの学校で活躍してるμ'sくらいにはなれたのかな?って……」

 

「本当にごめんなさい……」

 

元部員B、C、Dもまた、にこに対して謝罪の言葉を送っていた。

おそらく、最近結成されたμ'sの人気が徐々に上がっていったことから、スクールアイドルに対して思うところがあったのだろう。

 

「……別にいいわよ。もう過ぎたことなんだし」

 

本当は許したくないと思っていたのだが、早く話を終わらせたかったため、一応は許す素振りをすることにしたのである。

 

「本当にありがとう!矢澤さん!!」

 

「ねぇ、お願いがあるんだけど」

 

「お願い?」

 

「うん!私たちをまた、アイドル研究部に……」

 

アイドル研究部に入れて欲しい。

 

そう元部員Cが言おうとしたその時だった。

 

『……ねぇ、それは君たちの本音なのかな?』

 

にこの背後から、ピエロ風の男が現れると、男の左手についているパペットが急に喋りだした。

 

「……!?しゃ、喋った!」

 

いきなり現れた男にも驚いていたのだが、にこたちは、パペットが喋りだしたことに驚いていた。

 

『この4人の本音、聞いてみたいな!』

 

『だよねだよね!だったらそこの4人!この人の赤い鼻に注目!!』

 

右のパペットがこう宣言すると、男の赤い鼻が怪しく輝き出し、アイドル研究部の元部員4人は、その光を見てしまった。

 

そして……。

 

「アハハハハハハ!!」

 

元部員Aが、いきなり気が狂ったかのような高笑いをしていた。

 

「アイドル研究部にもう一度入りたいなんて、冗談に決まってんでしょうが!!」

 

「!?な、何で……!?」

 

「あんたをからかうために決まってんでしょ!?あんた、からかい甲斐があるし」

 

「それに、あんたのキャラ……。うざいんだよね。そんなんで本当に人気が出るとか思ってるの?」

 

「あのμ'sとかいうのもクソみたいなグループだけど、あんたはもっと最悪だよね!」

 

そう言いながら元部員4人は一斉に笑い出し、4人の言葉が相当効いているのか、にこは失意に満ちた表情で膝をつきらうなだれていた。

 

「そ……そんな……!私が……私がやってきたことは……いったい……」

 

『おぉ、怖い怖い』

 

『これだけ言われちゃこいつも立ち直れないよね』

 

4人の容赦ない発言に、男の両手につけられたパペットたちも引き気味だった。

 

この4人がにこを呼び出したのは、本当に、アイドル研究部に戻りたいとにこに呼びかけて、それが嘘ですと言って、さらに彼女を追い詰めるためである。

 

ここまで酷い言いようはしないつもりだったが、ホラーの力によって本音を引き出されてしまい、ここまでの本音が出てしまったのである。

 

にこは、4人の容赦ない言葉に、涙が出そうになったのだが、必死に堪えていた。

 

それと同時に、この4人への憎悪が募り、それが陰我となろうとしていた。

 

『おぉ、凄い凄い』

 

『これだけの陰我なら、極上の餌になりそうだね』

 

どうやらホラーは、にこの憎悪を陰我に変えて、その状態のにこを喰らおうと考えていた。

 

にこがゆっくりと立ち上がり、4人に対して鋭い視線を送ろうとしたその時だった。

 

「……そんな言葉に惑わされるな!!」

 

「!?」

 

突如聞こえてきた言葉にハッとしたにこは、先ほどまで抱いていた憎悪のような感情が消え去ってしまった。

 

そんなにこの危機を救ったのは、茶色のロングコートの青年……奏夜であった。

 

奏夜は希と話した後、番犬所に向かったのだが、その時に指令を受けて、ここまで来たのである。

 

「……!奏夜……どうして……」

 

にこは、突然現れた奏夜に、驚きを隠せずにいた。

 

「話は後です。それよりもにこ先輩。早く俺の方へ来てください」

 

「……っ!」

 

奏夜の言葉を素直に聞き入れたにこは、逃げるような動きで奏夜にかけよっていた。

 

「あぁん!?誰だよ、てめぇは!!」

 

「あ!この男……さっき言ってたμ'sのマネージャーだよ!」

 

「あぁ、こいつが?」

 

「マネージャーとか言ってるけど、どうせ言葉巧みにメンバーとヤリまくってる最低野郎なんだろ?」

 

アイドル研究部元部員たちは、このような根も葉もない言葉で、奏夜を貶めようとしていた。

 

しかし……。

 

「……言いたいことはそれだけか?」

 

奏夜はこの4人の言葉がホラーの力によるものと事前に知っていたため、感情を乱すことはなかった。

 

「何スカしてやがんだ。腹立つな!」

 

「ねぇねぇ、みんなであいつをボコボコにしね?」

 

「いいねぇ!したらあいつも苦しめられるだろ?」

 

「やっちまおうぜ!」

 

どうやら、元部員4人は、言葉ではなく、実力行使で奏夜を排除しようとしていた。

 

「やれやれ……。仕方ないな……」

 

奏夜は自分を狙うために向かってくる4人に呆れながら、魔戒剣を取り出すと、それを抜いた。

 

「け……剣!?あんた、なんでそんな物騒なもんを!!」

 

「にこ先輩!目を閉じて耳を塞いでください!」

 

「はぁ!?」

 

「早く!」

 

「わ、わかったわよ!」

 

にこは奏夜の意図がわからないまま、目を閉じて、耳を塞いだ。

 

そのことを確認した奏夜は、魔戒剣をキルバの口に当てると、キルバの口で魔戒剣を摩擦させ、衝撃波を放った。

 

その衝撃波をまともに受けた4人は、その場で倒れ込み、気を失っていた。

 

「……な、なんなのよ……。!?」

 

にこは、ゆっくりと手を離し、目を開けるのだが、いつの間にか4人が気絶していることに驚いていた。

 

「ま、まさか、4人とも、死んで……!?」

 

「いや、この4人は気を失ってるだけですよ。とりあえず、俺の仕事が終わるまでお寝んねしてもらいます」

 

「し、仕事って……?」

 

「……そこにいるピエロを斬ることだ」

 

奏夜はドスの効いた低い声でこう答えており、にこは、そんな奏夜に一瞬だけ恐怖を感じていた。

 

すると、奏夜は魔戒剣を構えると、ピエロ風の男に向かっていき、魔戒剣を一閃するが、その一撃は、男にかわされてしまった。

 

『……お前、魔戒騎士か』

 

『面倒な奴が現れたな』

 

「?魔戒騎士?」

 

ピエロ風の男がつけている左手のパペットが言っていた聞き慣れない言葉に、にこは首を傾げていた。

 

「俺から言わせてもらえば、お前も相当面倒な奴だけどな」

 

奏夜は指令を受けた時には、既にキルバからホラーの情報を得ているため、目の前にいるピエロ風の男に対してこのような評価をしており、げんなりとしていた。

 

『魔戒騎士……。お前の本音も聞いてやるよ!』

 

どうやらピエロ風の男は、奏夜の本音も聞き出そうと考えたからか、赤い鼻の光を放ち、それを奏夜に浴びせたのである。

 

「……」

 

ピエロ風の男の放った怪しい光を浴びた奏夜は……。

 

「アハハハハハハハハ!!」

 

奏夜はまるで狂ったかのように高笑いをすると、ホラーではなく、にこに狙いを定め、魔戒剣を構えていた。

 

「あ、あんた……!!」

 

魔戒騎士だのホラーだのとよくわからなかったのだが、奏夜が先ほどのアイドル研究部元部員たちのようにおかしくなってしまったのではないかと不安になってしまった。

 

「魔戒騎士として人間を守る!?やってられねぇよ!!人間なんて、所詮は汚い生き物なんだ!!」

 

ホラーの力に飲まれてしまったと思われる奏夜はそのまま魔戒剣を振り下ろそうとしており、にこは恐怖からか目をつぶっていた。

 

しかし……。

 

「……なんてな」

 

こう呟いた奏夜は、くるっとピエロ風の男の方を向くと、そのまま魔戒剣を振り下ろし、ピエロ風の男を斬り裂いた。

 

「ぐぅ……!!」

 

『何故だ!?何故、貴様の本音が理解出来ないんだ!?』

 

奏夜の一撃をモロに受けたピエロ風の男は表情を歪ませ、男の右手のパペットが、驚きを隠せないという感じで、奏夜に問いかけていた。

 

「悪いな……。俺のような魔戒騎士には、お前の小細工は通用しないんだよ!」

 

奏夜はピエロ風の男を油断させるためにわざと敵の術中にはまったフリをして、反撃のタイミングを伺っていた。

 

「だったらそう言いなさい!心臓に悪いわ!!」

 

先ほどは、本気で奏夜の気が狂ってしまったと思ってしまったため、にこは気が気ではなかった。

 

そのため、このように文句を言っていたのである。

 

『おのれ、こうなったら……』

 

『そこの女の本音を聞き出してやる……!』

 

どうやらピエロ風の男は、奏夜ではなく、にこの本音を引き出そうとしたのか、赤い鼻が再び怪しく輝き始め、にこはそれを直視してしまった。

 

「……」

 

「に……にこ先輩……?」

 

ピエロ風の男の放った光を浴びたにこは、何故か何も語ることはなく、俯きながら黙っていた。

 

奏夜は、ホラーの力によってにこがいったいどうなってしまったのか、心配そうに見つめていた。

 

すると……。

 

「……何よ……」

 

「……?にこ先輩?」

 

「何よ!何よ何よ何よ何よ!!にこはスクールアイドルになれなかったのに、あんたたちはスクールアイドルになっちゃって!!」

 

「にこ先輩……」

 

にこが語り出したのは、本音というより、悲痛な自分の思いであるため、奏夜はそんなにこの話に真剣な表情で耳を傾けていた。

 

「それに、何なの!?あんたたちは!いっつもいっつも楽しそうでさ!それはにこへの当てつけなの!?」

 

さらににこは、ダムが決壊したかのように、自分の思いを語り始めていた。

 

「にこだって……!にこだって!あんたたちみたいに楽しく活動したいと思ってた!!それだけじゃないわ!にこだってμ'sのメンバーに入りたいって思ってた!!でも……でも……!また裏切られるのが怖いのよ!!」

 

「……!にこ先輩……」

 

にこは涙を流しながら自分の本当の気持ちをぶちまけた。

 

そんなにこの思いは、ホラーの力によって引き出されたものとはとても思えず、奏夜の胸に深く突き刺さっていた。

 

それと同時に、奏夜は何があったとしても、にこをμ'sのメンバーにしよう。

 

そう決意させるには十分だった。

 

「……!!わ、私……いったい何を……」

 

にこは自分の本音を全てぶちまけたようであり、ホラーの力は打ち消されたようだった。

 

『う……嘘だろ!?』

 

『これが、あいつの本音だと言うのか!?』

 

にこが、全ての本音をぶちまけた上で自分の力を打ち消したことに、両手のパペットは驚きを隠せずにいた。

 

「……あ、あの……。奏夜。わ、私……」

 

「にこ先輩。話は後です!下がってて下さい!」

 

「わ、わかったわ!」

 

奏夜はにこから後で話を聞き出そうと考えているため、逃げろとは言わず、下がっていろと伝えたのである。

 

にこは奏夜の言うことに素直に従うと、少し離れた場所で、奏夜の戦いを見守っていた。

 

『おのれ……!魔戒騎士!』

 

「残念だったな……。さぁ、かかってこいよ!!」

 

奏夜はピエロ風の男を挑発すると、男は両手のパペットをしまい、両手に2本の棒を手にした。

 

そして、ピエロ風の男は、奏夜に向かっていくのだが、奏夜はそんな男を迎撃する形で魔戒剣を一閃し、続けて蹴りを放って男を吹き飛ばした。

 

『おのれ……!』

 

『こうなったら……!』

 

奏夜の攻撃にて追い詰められたピエロ風の男は、精神を集中させると、頭部がこの世のものとは思えない怪物のものへと変化していた。

 

「……!?か、怪物……!?」

 

一部とはいえ、この世のものとは思えない怪物を見たにこは、息を飲んでいた。

 

男の頭部がホラーの姿に変わると、それ以外の部分も、ホラーの姿へと変わったのだが……。

 

「……!で、でかっ!!」

 

にこは、男の変化した姿が予想以上に大きいことに、恐怖よりも驚きが勝っていた。

 

そして、ホラーの姿が予想以上に大きいことに、奏夜も驚いていた。

 

『……奏夜。あいつがホラー、アスモディだ』

 

「あいつがそうなのか……。話だけは聞いたことはあるけど、ここまでデカイとはな……」

 

奏夜は、先輩騎士である月影統夜から、アスモディの話は聞いたことがあった。

 

アスモディは、かつて黄金騎士である冴島鋼牙によって討伐されたことのあるホラーである。

 

その時も、その特殊能力により、多くの人間の本音を引き出し、争わせた人間を喰らっていた。

 

しかし、黄金騎士である鋼牙と、銀牙騎士絶狼の称号を持つ涼邑零(すずむられい)の2人によって最終的には討伐されたのである。

 

そんなアスモディが、再びとあるゲートから出現し、奏夜たちの前に現れたのであった。

 

「……くっ、ここまでデカイ相手となると、ここで戦うとそこで気絶してる4人も危ないな……。とは言っても、ここら辺に安全そうで広い場所もないし……」

 

このまま戦ってしまうと、奏夜の手によって気絶したアイドル研究部元部員たちにも危害が及び、アスモディを誘導しようにも、適した場所はなかった。

 

奏夜はそんな状況下でどう戦うべきか悩んでいたその時だった。

 

どこからか法術のようなものが飛んでくると、その場にいた、アイドル研究部の元部員たち以外の全員が姿を消した。

 

奏夜たちは、法術のようなものにより、どこかへ飛ばされてしまったようであるみたいだった。

 

「……ど、どこなのよ!?ここは!!」

 

先ほどまでいた広場とは明らかに違う場所に、にこは困惑しながら周囲を見回していた。

 

「……なぁ、キルバ。これって……」

 

『あぁ。間違いないだろうな……』

 

奏夜とキルバは、この空間がどのようなものなのか、察することが出来ていた。

 

すると……。

 

「……奏夜。苦戦してたみたいだけど、大丈夫か?」

 

何者かの声が聞こえたと思うと、奏夜の前に、一般人が着ることのない妙な法衣のようなものを着ている茶髪の青年が現れた。

 

その手には、筆のようなものと、銃のようなものが握られていた。

 

「……アキトさん!お久しぶりです!」

 

奏夜の目の前に現れた青年はアキトという名前の魔戒法師で、元老院という全ての番犬所を総括する機関に所属する優秀な魔戒法師である。

 

アキトは魔導具作りに長けた青年であり、現在、魔導具作りの名人でもある魔戒法師、布道レオの1番弟子でもある。

 

さらに、アキトは、奏夜の尊敬している魔戒騎士である白銀騎士奏狼こと月影統夜の盟友であり、彼とコンビを組むことで、幾多の強大なホラーを討滅してきた実力者であった。

 

その実力は、奏夜も認めるほどのものである。

 

「おう、久しぶりだな!だが、応援に来たのは俺だけじゃないぞ!」

 

「え?」

 

アキトの言葉を聞いて、さらに奏夜の前に現れたのは、奏夜の先輩騎士である桐島大輝であった。

 

「大輝さんも!来てくれたんですか?」

 

「あぁ。俺も、アスモディ討滅の指令を受けてな。奏夜に加勢するためにやって来たんだ」

 

「俺はたまたまこっちに用事があってこの街を歩いてたら、たまたま大輝のおっさんに会ってな。協力することにしたのさ」

 

「おっさんはやめろ!お前は相変わらずだな……」

 

アキトは、大輝ともよく仕事をしていたため、大輝のことを「大輝のおっさん」と親しみを込めて呼んでいた。

 

しかし、大輝はそれを良しとせず、言われる度にそれを訂正するよう求めていたのだが……。

 

「……な、何なのよ……。さっきから……」

 

にこは、ピエロ風の男が、アスモディに変化してからの展開の早さに、ついていけずにいた。

 

『貴様ら……。魔戒騎士と魔戒法師か……』

 

「ま、そういうことだ」

 

「奏夜。とりあえず話は後だ。まずはこいつを片付けるぞ」

 

「はい!」

 

奏夜は大輝やアキトと話したいことはたくさんあったのだが、とりあえず話は協力して、目の前の敵を排除することにした。

 

「……ホラー、アスモディ!貴様の陰我、俺たちが断ち切る!!」

 

「?陰我?それって……」

 

にこは、奏夜の言っていた言葉の意味が理解出来ず、首を傾げていた。

 

そして、奏夜と大輝は、魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化すると、2人はそこから放たれる光に包まれた。

 

すると、奏夜の頭上には黄金の鎧が現れ、大輝の頭上には銅の鎧が現れて、2人はそれぞれの頭上に現れた鎧を身に纏った。

 

奏夜は黄金の輝きを放つ輝狼の鎧を身に纏い、大輝は「鋼(ハガネ)」と呼ばれる鎧を身に纏った。

 

大輝の纏った鋼と呼ばれる鎧は、称号を持たない魔戒騎士が身に纏う鎧のことである。

 

大輝は称号を持たない魔戒騎士の中でもかなりの実力者であり、長い間培われた経験が、その実力を裏付けていた。

 

「奏夜!大輝のおっさん!!俺が奴の動きを止める!2人はその隙に奴を倒すんだ!!」

 

「はい!」

 

「だからおっさんはやめろ!」

 

奏夜はアキトの提案に素直に乗り、大輝はおっさんと呼ばれることに意義を唱えていた。

 

そんなことなどお構いなしで、アキトは銃のようなものを構えた。

 

この銃は魔戒銃と呼ばれる武器であり、アキトが開発したアキトの最高傑作の1つである。

 

3年ほど前から試行錯誤しながら試作品を実践投入していた。

 

その成果が身を結び、魔戒銃は1年ほど前に、完全な形として完成させたのであった。

 

完全に完成した魔戒銃は、威力や耐久性が初期のものとは比べ物にならないほどであり、低級ホラーであれば討伐出来るほどの性能となったのである。

 

「統夜のおかげで完全に完成した魔戒銃の力、見せてやる……!」

 

アキトは、リボルバー型からハンドガン型に変わった魔戒銃に、とある弾を装填すると、それをアスモディ目掛けて放った。

 

アキトが先ほど装填した弾は、どうやら特殊な弾のようであり、アスモディに着弾するのと同時に爆発が起こった。

 

素体ホラーであれば、この一撃で倒せることもあるのだが、アスモディの体は頑丈であり、怯ませるにとどまっていた。

 

しかし……。

 

「奏夜!大輝のおっさん!今だ!!」

 

アキトは、アスモディの動きを止めるという自分の仕事を確実にこなしていた。

 

「行くぞ!奏夜!」

 

「はい!大輝さん!」

 

奏夜と大輝は、動きの止まったアスモディの巨体目掛けて大きくジャンプした。

 

そして、2人はそれぞれの剣一閃すると、アスモディの鼻を斬り裂いた。

 

奏夜と大輝は、共にアスモディの特性を知っており、闇雲に体を叩くのではなく、本体である鼻を斬り裂いた方が確実に倒すことが出来るのである。

 

本体である鼻を斬り裂かれたアスモディは、まるで空気の抜けた風船のようにしぼんでいき、小さくなったところで、その体は消滅した。

 

アスモディが消滅したことを確認した奏夜と大輝は、それぞれ鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣をそれぞれの鞘に納めた。

 

「……奏夜。お前、しばらく見ないうちにちっとは腕をあげたんじゃないのか?」

 

「いえ……。俺なんて、統夜さんに比べたらまだまだですよ……」

 

「アハハ!そんな謙遜すんなって!それに、大輝のおっさんも、腕は鈍っちゃいないみたいだしな」

 

「だからおっさんはやめろ!!」

 

アキトは、久しぶりに会った奏夜と大輝の力を評価していたのだが、大輝はやはりおっさんと呼ばれることを良しとはしておらず、それを見た奏夜は苦笑いをしていた。

 

「さて……。それはともかくとして、結界を解くとしますか」

 

アキトは、手にしていた筆のようなもの……魔導筆を用いてとある術を放つと、結界を解除し、奏夜たちは元いた広場へと戻ってきた。

 

しかし、先ほどまで気を失って倒れていた4人の姿はなく、奏夜たちがアスモディと戦っている間に目を覚まし、そのままその場を離れたものと思われる。

 

「……アキトさん、大輝さん。ありがとうございました。2人が来てくれたおかげで、凄く助かりました」

 

奏夜は、アキトと大輝に協力してもらったことへのお礼を言っていた。

 

「気にすんなって。俺は用事のついでに手を貸しただけなんだし。それに、お前は俺にとっても大事な後輩だしな」

 

「そこは俺も同じ気持ちだ。それに、奴ほどのホラーが相手なら、お前1人では荷が重いと判断したまでだ」

 

「ありがとうございます。……ところで、アキトさんは元老院からの指令でここに来たんですか?」

 

奏夜は改めて2人に礼を言うと、アキトがこの街を訪れた経緯を聞こうとしていた。

 

「まぁ、そんなところだな。仕事っていっても霊獣の毛皮を届けるというお使いみたいな仕事だけどな」

 

「珍しいな。お前がそんな地味な仕事を嫌がらずに受けるとは思わなかったぞ」

 

「まぁ、確かにそうだけどよ。この霊獣の毛皮は翡翠の番犬所に届けることになってるんだよ。まぁ、この仕事を受けたのは他にも理由があるんだけどな」

 

「他の理由?それっていったい……」

 

アキトは、霊獣の毛皮を翡翠の番犬所に届けるという目的とは別の用事もあるようであり、奏夜がそれを聞こうとするのだが……。

 

「……あっ、あの……」

 

先ほどまで蚊帳の外だったにこが、おずおずと声をかけてきた。

 

「おっと、お嬢ちゃんを放ったらかしだったな。悪い悪い」

 

「そういう訳だ。番犬所への報告は俺がしておく。お前はそいつを家まで送り届けてやれ」

 

アキトと大輝は、奏夜とにこが2人で話せるよう気を遣ったのか、その場を離れようとしていた。

 

「……え?でも……」

 

「近いうちにまたこっちへ遊びに行くからさ、また会おうぜ、奏夜!」

 

「わかりました!それでは、また!」

 

奏夜はアキトの用事を聞き出すことは出来なかったのだが、とりあえず大輝とアキトがその場を離れるのを見送っていた。

 

「……」

 

「……」

 

大輝とアキトがいなくなったことにより、この場には奏夜とにこしかいなかったのだが、互いにどう話を切り出そうかと迷っているため、静寂がその場を支配していた。

 

しかし、しばらくすると……。

 

「……あのさ、奏夜……」

 

にこが先に沈黙を破る形で、話を切り出してきた。

 

「?何ですか?」

 

「……さっきの言葉なんだけどさ……。あの言葉はさ……」

 

にことしては、μ'sに入りたいという本音を奏夜に知られたくなかったので、この話は忘れて欲しいと思っていた。

 

しかし……。

 

「……にこ先輩。何も言わなくてもいいですよ。あなたの気持ちはわかっているつもりですから」

 

奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべるのだが、それは、「皆まで言わなくてもいいよ」と本音を言って恥ずかしがるにこに対する優しさであった。

 

そんな奏夜の優しさに触れたからか、にこの顔は真っ赤になっていた。

 

「……ふ、ふん!わかったような口を聞かないで!」

 

にこは恥ずかしくなってしまったからか、ついツンとした態度を奏夜に取ってしまっていた。

 

「はいはい。それは悪うございましたね」

 

奏夜はこう言葉を返すのだが、特に悪びれる様子はなく、苦笑いをしていた。

 

そんなおどける奏夜から目を背けたにこであったが、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

しかし、そんな笑顔は奏夜には見せたくなかったからか、必死に隠していた。

 

「……ねぇ。さっきの化け物はいったい何だったの?それに、あんたは……」

 

しばらくの間笑みを浮かべていたにこだったが、思い出したかのように奏夜からホラーや魔戒騎士のことを聞き出そうとしていた。

 

「……本当だったら話したくないですけど、じきにわかりますよ。ホラーのことも。俺たち魔戒騎士や魔戒法師のことも」

 

奏夜は、何故かにこに魔戒騎士の秘密を隠そうとしていなかった。

 

何があったとしてもにこをμ'sのメンバーにしようと考えていた奏夜は、今更にこだけ、魔戒騎士についてのことを秘密にする必要はないだろうと判断したからである。

 

「今教えなさいよ!今!」

 

「まぁまぁ、今日はもう遅いですし、帰りましょう。送りますよ」

 

「……げっ!!もうこんな時間!?早く帰らないと……」

 

アイドル研究部元部員たちに呼び出されてからかなり時間が経過しており、にこは慌てるように自宅へと向かい、奏夜はそんなにこを送り届けてから自宅へと向かっていった。

 

その途中……。

 

『……おい奏夜』

 

奏夜が自宅に向かって歩いていると、突如キルバが口を開いたため、奏夜は歩きながらキルバへ視線を向けていた。

 

「どうした、キルバ?」

 

『どうしたもこうしたもあるか!何でお前はあのお嬢ちゃんにあっさり秘密を話そうとしているんだ?』

 

どうやらキルバは、奏夜がにこに対して魔戒騎士の秘密を明かそうとしているのが気に入らないようだった。

 

「……キルバだってにこ先輩の本音を聞いたろ?俺は何があろうとにこ先輩をμ'sのメンバーにしようと思ってるんだ。そう考えたら魔戒騎士の秘密を話した方がいいだろう?他のみんなも知ってるんだし」

 

奏夜は、にこをμ'sのメンバーにしたいと考えており、どうせホラーとの戦いを見てしまったのだから、そのまま秘密を話してしまおうと考えていた。

 

……騎士の秘密を話すこと自体は、あまり良いこととは言えないのだが……。

 

『……やれやれ……。一体全体何人にこの話をするのやら……』

 

そんな奏夜の態度に、キルバも呆れ果てていた。

 

「さて、それはともかくとしてだな……」

 

どうやら奏夜には妙案があるようであり、奏夜は携帯を取り出すと、穂乃果に電話をかけ始めた。

 

「……あぁ、もしもし。穂乃果か?実はにこ先輩のことなんだがな……」

 

奏夜が電話をかけると穂乃果はすぐに出たため、奏夜は自分のアイディアを穂乃果に報告した。

 

すると、どうやら穂乃果も奏夜と同じアイディアを思いついていたようだった。

実は穂乃果たちは、にこに追い出されて間もなく、希からにこが元々スクールアイドルをやっていたことを聞かされ、希の話を聞いた時から、穂乃果はにこをμ'sのメンバーにしたいと思っていたのである。

 

奏夜はそのアイディアに基づいた計画を穂乃果と話し合い、その後、にこもホラーとの戦いに巻き込まれたことを報告した。

 

穂乃果は当然そのことに驚いていたのだが、それ以上のことは言わなかった。

 

こうして、穂乃果との会話を終えた奏夜は電話を切ると、そのまま家に帰っていった。

 

 

 

 

 

~にこ side~

 

 

……私の名前は矢澤にこ。音ノ木坂学院に通う高校3年生よ。

 

私には今、気になってる連中がいる。

 

この音ノ木坂でスクールアイドルをやろうとしている「μ's」とかいうグループだ。

 

正直、あの子らは全然なってないわ!

 

……それに、あの子たちが楽しそうにしてるのを見るとなんか辛いのよね……。

 

だからかな?あの子たちに解散しろとかアイドルとしてなってないとか厳しいことも言ったわ。

 

私の時みたいにどうせみんな辞めてしまう。そんな気がしてならないの。

 

……それにしてもあの如月奏夜とかいう奴……。

 

……あいつがにこの過去をあっさり推理した時はびっくりしたわ。

 

本当なら話すつもりはなかったけど、あそこまで核心ついたことを言われりゃ話すしかないじゃない。

 

にこが1人になった経緯を話すと、あいつは怒っていた。

 

正直呆れたわよ。何で他人のことでそこまで怒れるんだって。

 

だけどあいつは真剣にやってる奴を馬鹿にする奴を許さないなんて言ってたわ。

 

それを聞いてあの子たちも真剣にスクールアイドルをやってるんだって思ったわ。

 

いや、そんなの初めからわかってたことよ。

 

ただ、自分の気持ちに素直になれなかっただけ。

 

あの子たちが部室に押しかけてきた帰りだって、あの子たちは楽しげだった。

 

それを見た私には嫉妬のような感情が浮かんできた。

 

何であんなに楽しそうなのよ……。にこだってあんな風に笑っていられたら良かったなって思っているのに……。

 

私はあの子たちがスクールアイドルとして活動しているのを見ていて自分も仲間に入りたい。そんなことを考えたりもしたけど、今更そんなこと言える訳ないじゃない!

 

そんな中、にこを裏切ったあの4人が私を呼び出してきた。

 

本当だったら話すこともないけど、なんでかな?断れずに呼ばれた場所まで来たんだよね……。

 

あの4人はμ'sの活躍を見て心を入れ替えたかと思ったら、やっぱりにこのことをからかってたみたい。

 

その本音は、あのホラーとかいう怪物のせいで引き出されたものだろうけど、そんなことはどうでもいいの。

 

あいつらは本気でアイドルなんて目指してないんだから。

 

そんなあいつらのことが憎いと思っちゃったけど、奏夜の声を聞いたら、不思議とそんな気持ちも消えたんだよね……。

 

そして、あいつは、あんな化け物……。ホラーとか言ったっけ?そいつと戦ってるみたい……。

 

確か、魔戒騎士とか言ってたよね?

 

にこは別にあいつが何者だろうとどうでもいいの。

 

だって、あいつがにこのために怒ってくれたっていうのは決して嘘ではないと思うから……。

 

それにしても、何でにこはあんな本音を言っちゃったかな……。

 

よりにもよって1番聞かれたくなかったあいつに……!

 

それもこれもあのホラーとかいう奴のせいよ!

 

まぁ、あいつもやっつけられたんだから別にいいんだけどさ。

 

そんなことがあったんだけど、次の日も普通に授業を受けて放課後になった。

 

1人になってからは1人で部室に行ってアイドルのDVDを見たりするそんな毎日の繰り返しだった。

 

……今日もきっとそうよね……。

 

私は部室の前に着くと楽しげな声が後ろから聞こえてきた。

 

「帰りどっか寄ってく?」

 

「そうだね!あっ、部員のみんなも声かけて一緒に行こうよ!」

 

「いいねぇ、どこ行こっか?」

 

……何よ……。楽しそうにしちゃって……。

 

そんな楽しげな声を聞き流しながら私は部員の中に入り、電気をつけたんだけど……。

 

『お疲れ様でーす!』

 

「えっ?」

 

な、何であの子たちがまた来てるのよ!

 

それにお疲れ様ですってどういうこと?

 

あー!もう!展開が急過ぎてついていけないわよ!

 

 

 

 

 

 

 

〜三人称 side〜

 

 

 

 

 

(あはは….。にこ先輩びっくりしてるな)

 

アイドル研究部の部室に入ってきたにこは、奏夜たちが普通に部室に座っていることに驚きを隠せずにいた。

 

奏夜が思いついた提案とは、アイドル部とアイドル研究部を1つにするのではなくて、いっそのこと奏夜たちがアイドル研究部に入部するといったものである。

 

この発想は正直盲点だったのだが、全ての問題を一気に解決させる妙案であった。

 

「お茶です!部長!」

 

「ぶ、部長?」

 

突然部長なんて言われたからか、にこは驚きと共に動揺している。

 

「今年の予算表になります、部長」

 

「えっ?」

 

「部長、ここにあったグッズ邪魔だったので棚に移動しときました!」

 

「こら!勝手に!」

 

「さっ、参考にちょっと貸して。部長のオススメの曲」

 

「な、なら迷わずこれを!」

 

「あはは……。花陽、伝伝伝だっけ?まだ諦めきれないんだな….…」

 

「あーっ!だからそれは!」

 

「ところで次の曲の相談をしたいのですが、部長」

 

「やはり次はさらにアイドルらしさを意識した方がいいと思いまして」

 

「それと、振り付けも何かいいのがあったら」

 

「歌のパート分けもお願いします!」

 

「色々と頼りにしてますぜ、部長!」

 

「あ、あんたまで……」

 

にこは、まるで畳み掛けるかのような奏夜たちの唐突な展開についていけてなかった。。

 

「……こんなことで押し切れると思ってるの?」

 

「押し切る?そんなこと思ってないですよ。人聞きの悪い」

 

「私たちはただ相談しているだけです。音ノ木坂学院アイドル研究部所属のμ'sの7人が歌う次の曲を」

 

「7人?」

 

「あなたのことですよ、にこ先輩」

 

にこは驚きを隠せないと言いたげな表情をしながら奏夜たちの顔を見回していた。

 

「矢澤にこ先輩。μ'sの7人目のメンバーとして、まだまだ至らない俺たちに色々教えてください」

 

「あっ、あんた……」

 

「俺たちにはあなたが必要なんです」

 

「でっ、でもにこは……」

 

「にこ先輩の心配はわかってるつもりです。俺を含めたこの7人は先輩のことを裏切ったりしません。もう一度、俺たちのことを信じてみませんか?」

 

「奏夜……」

 

にこは、奏夜の真っ直ぐな言葉を聞いて、少しだけ考え込んでいた。

 

そして……。

 

「……厳しいわよ」

 

「わかってます!アイドルへの道が厳しいことぐらい!」

 

「わかってない!あんたたちは甘過ぎるのよ!いい、アイドルっていうのは笑顔を見せる仕事じゃない。笑顔にさせる仕事なの」

 

「なるほど……。それは一理あるな」

 

アイドルのことを熟知してるにこだからこそ、この言葉に重みがあり、奏夜はウンウンと頷いていた。

 

「それをよく自覚しておきなさい!」

 

こうして、奏夜たちは、アイドル部を作ることを諦め、アイドル研究部に入部することになったのである。

 

「……それじゃあ、まずは……」

 

奏夜は制服のポケットからキルバの専用のスタンドを取り出すと、それをテーブルの真ん中に置き、そこに、指から外したキルバをセットした。

 

「ちょっと奏夜!ここはアイドル研究部なんだから、そんな悪趣味な指輪を置くのはやめなさいよ!」

 

キルバが喋ることに気付かなかったにこはこのように言うのだが……。

 

『……やれやれ……。悪趣味とは聞き捨てならないな』

 

にこは奏夜が魔戒騎士だということを知っているため、キルバは口を開いたのであった。

 

「しゃ……喋った!?い、いや。あの妙なパペットだって喋ってたもの……。あいつが喋ってたって……」

 

『ほう……。どうやらお前さんは物分かりが良いみたいだな』

 

キルバは、自分が喋るのを見て、驚きはしたものの、理解を示していたにこのことを少しだけ評価していた。

 

「あぁ、そういえば、にこ先輩も、ホラーと遭遇したってそーくんから聞いたんだった」

 

「……ねぇ、今、「も」って言ったわよね?まさか、あんたたちも……!」

 

「はい。私たちはみんなホラーと遭遇したことがありまして、みんなそーくんに救われたんです」

 

「……やっぱりそうだったのね……」

 

にこは、ホラーと遭遇した時から、そんなような気がしていたのだが、そうだと改めて聞くと、驚きを隠せなかった。

 

こうして奏夜とキルバは、にこに自分がホラーと戦う魔戒騎士であるということと、ホラーが陰我あるオブジェをゲートに現れる魔獣であることを説明した。

 

これらの話は、穂乃果たちにもした話ではあるのだが、その話を聞くたびに、穂乃果たちは改めて驚いていた。

 

「……なるほどね。だいたいわかったわ」

 

にこは、最後まで話を聞いたのだが、驚きながらも特に否定するような素振りはなかった。

 

「……まぁ、あんたが何者だろうと、μ'sのために頑張ってくれるんでしょ?だったら、それでいいんじゃないの?」

 

「にこ先輩……」

 

にこもまた、奏夜がμ'sのために頑張ってくれていることは察していたため、魔戒騎士として戦うことをあれこれいう言うつもりはなかった。

 

「……にこ先輩。俺はこれからもμ'sのマネージャーとして頑張っていきますし、守りし者として、あなたを守っていくので、安心してください」

 

「……!?////ふ、フン!せいぜい頑張りなさいよね!」

 

奏夜のストレートな言葉が恥ずかしかったからからか、にこは顔を真っ赤にして、そっぽを向いていた。

 

そして、そんな奏夜の言葉が気に入らなかったのか、穂乃果、海未、ことりの3人は、黒いオーラを放ちながら、奏夜を睨みつけていた。

 

「……そーくんって本当に見境ないよね」

 

「守りし者としての使命は大事だと思いますが、そんな口説くような言葉を多用して良いものでしょうか?」

 

「本気でそーくんをことりのおやつにしちゃおうかな……」

 

奏夜は、穂乃果たちがこっちを睨みつけていることに気付いたからか、顔を真っ青にしていた。

 

「……おっ、雨が上がったみたいだな。ほら、みんな!さっさと練習行くぞ!」

 

奏夜はふと窓の景色を見た時、雨が上がったのを確認したため、このように話を促していた。

 

すると、スタンドにセットされているキルバを指にはめ、まるで逃げるかのように部室を後にして、屋上へと向かっていった。

 

「あっ、そーくん!」

 

「こら、奏夜!待ちなさい!」

 

それを見た穂乃果たちは、奏夜を追いかける形で屋上へ向かい、1年生組もそれに続いていた。

 

「こらぁ!にこは部長なんでしょ!?部長を置いて行くんじゃないわよ!!」

 

部室にたった1人残されてしまったにこも、慌てて奏夜たちを追いかけていた。

 

雨も上がり、奏夜たちは屋上で練習することになった。

 

「いい!やると決めた以上、ちゃんと魂込めてアイドルになりきったもらうわよ!わかった?」

 

『はい!』

 

「声が小さい!」

 

『はい!!』

 

にこはアイドルについての講義を語り始めた。

 

(……なんか長いな……)

 

《やれやれ……。ずいぶんと張り切っているな……》

 

キルバは張り切ってアイドルの講義を行うにこに呆れており、奏夜はにこの話の長さにげんなりしていた。

 

奏夜はにこの話を半分聞き流しているとにこ先輩の話は終わり、続いてなぜかにこの持ちネタである「にっこにこにー」の練習を行った。

 

『にっこにっこにー!』

 

「全然だめ!…にっこにっこにー!…はい」

 

『にっこにっこにー!』

 

「ツリ目のあんた!気合入れて!」

 

「真姫よ!」

 

『にっこにっこにー!』

 

(あはは……。みんなもよくやるなぁ……)

 

奏夜は苦笑いをしながら「にっこにっこにー」の練習をしている穂乃果たちを見守っていた。

 

《あんなのが本当にスクールアイドルの練習になるとは思えないのだがな……》

 

そして、キルバは「にっこにっこにー」の練習に実用性があるのか疑っていた。

 

奏夜とキルバがそんなことを考えていると……。

 

「奏夜!キルバ!あんたらもやるのよ!」

 

「はぁ!?何で俺まで!」

 

「当たり前よ!あんたもアイドル研究部の一員なんだから!」

 

『俺はただの魔導輪だぞ!俺がやるのは無意味だろうが』

 

「何言ってるのよ!あんただって一応はアイドル研究部の一員なんだからね!」

 

どうやらにこは、キルバも、アイドル研究部のメンバーだと思っているようだった。

 

ここまで言われると、奏夜もキルバも反論は出来なかった。

 

「わかったよ。行くぞ」

 

覚悟を決めた奏夜は、意を決してあのネタに挑むことにしたのだが……。

 

「……にっこにっこにー!」

 

奏夜は全身全霊の「にっこにっこにー」を披露したのだが、やりきった後、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしていた。

 

「気持ち悪い」

 

真姫は、奏夜の「にっこにっこにー」をジト目で見ていた。

 

「おいコラ真姫!気持ち悪いとか言うな!俺の全身全霊だぞ」

 

「知らない」

 

「お前なぁ….…」

 

真姫のツンデレというよりただの毒舌に、奏夜は苦笑いしていた。

 

「ほら、キルバも!」

 

『やれやれ……。やればいいんだろう?やれば』

 

キルバはやらなけらば話が進まないと判断したからか、覚悟を決めるのであった。

 

『……にっこにっこにー!!』

 

キルバもまた、全身全霊で「にっこにっこにー」を行っており、奏夜たちは拍手を送っていた。

 

『くそ……!最高に格好いい俺様に何て仕打ちを……!』

 

「……あんた。けっこうナルシストなのね……」

 

知られざるキルバの内面を垣間見たにこは、ジト目でキルバを見ていた。

 

「はい!奏夜もみんなもラスト一回!」

 

『にっこにっこにー!』

 

奏夜やキルバも巻き込まれる形で「にっこにっこにー」が行われていた。

 

にこは待ち望んでいたこの光景が嬉しいのか涙目になっていた。

 

「ぜ、全然だめ!あと30回!」

 

にこは泣きそうになっているのを悟られないために、奏夜たちにまた「にっこにっこにー」をさせようとしていた。

 

「えぇっ?まだやるのぉ?」

 

「何言ってるの!まだまだこれからだよ!にこ先輩、よろしくお願いします!」

 

「……よーし!いっくよぉ!!」

 

満面の笑みを浮かべるにこだったが、その顔は、この雨上がりの青空のように晴れやかであった。

 

これからも魔戒騎士として、守りし者として、にこの笑顔を守っていこう。

 

そう決意を固めながら、奏夜は「にっこにっこにー」を行っていた。

 

そして、しばらくの間、音ノ木坂学院の屋上にこの言葉が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

にっこにっこにー!!

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『奏夜は魔戒騎士としてそれなりに力をつけてきたみたいだが、上には上がいるな。奏夜、もっと精進しなければな。次回、「白銀」。月夜に輝く白銀の刃!』

 

 




奏夜だけではなく、キルバの「にっこにっこにー」いただきました(笑)

キルバの「にっこにっこにー」は、イメージCVが中村悠一さんなので、彼が「にっこにっこにー」をしているのを想像してみてください。

そして、前作主人公を差し置いて活躍する前作キャラたち……。

今回登場したアキトと大輝は、前作である「牙狼×けいおん 白銀の刃」にも登場したキャラで、特にアキトは僕も気に入ってるキャラです。

今回登場したホラーは牙狼一期に登場したアスモディでしたが、ベテランの猛者2人の助力のおかげで難なく倒せました。

そして、奏夜たちがアイドル研究部に入部し、にこがμ'sの7人目のメンバーとなりました。

メンバーが増えて、μ'sはこれからどうなっていくのか?

さて、次回はお待たせしました!

ついにあのキャラの勇姿を見ることが出来ます。

そのキャラとはいったい誰のことなのか?

それでは、次回をお楽しみに!




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