ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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8,慣れないこと

 

 

 

 

 

「ふぅ〜、圧倒的じゃったな」

「私は生徒が無事でホッとしましたよ…」

 

ギーシュとデイダラの決闘が終わった時、本塔最上階に位置する、ここ学院長室では二人の人物が安堵の表情を浮かべていた。学院長オールド・オスマンと教師のコルベールである。

 

 

コルベールは数時間ほど前に、デイダラに刻まれた使い魔のルーンについて、ある重大な発見をしたので、オスマンへの報告の為に学院長室を訪れていたのだ。

その後、決闘騒ぎが起こったので、二人はその一部始終を遠隔地を映し出すことのできるマジックアイテム『遠見の鏡』を用いて様子を見ていたのだ。

 

 

「うむ、まずは君の言う通りじゃな。ワシも、たかが子供の喧嘩と甘く見ていたわい」

オスマンが後悔の念に駆られたのは、もちろん決闘の最終局面である。

 

「……あの時、ミス・ヴァリエールが止めていなかったら、本当に彼はトドメを刺していたのでしょうか?」

「九分九厘、そうであろうな。今後、彼の動向には注意が必要かもしれん」

実力はイヤという程分かったからの、とオスマンは続けた。

 

 

「それで、オールド・オスマン。彼はやはり伝説の使い魔『ガンダールヴ』なのでしょうか?」

「それに関してはまだ分からんな。現状、ヴァリエール嬢の使い魔のルーンが、『ガンダールヴ』のものと酷似していたということしか分かっていないからのぅ」

言いながら、オスマンはコルベールがスケッチしてきた、デイダラに刻まれたルーンと古い一冊の文献『始祖ブリミルの使い魔達』に目を通す。

 

「ミスタ、君が持ってきたこの文献には、ガンダールヴは始祖ブリミルが呪文を唱える間の護衛役で、あらゆる武器を使いこなしたとあるがの。彼は武器を使ったか?」

「……いえ、何も。むしろ彼が用いてたものは、鳥や大蛇などの生き物に見えました」

コルベールは言いよどみながら答えた。

 

「そこだ、問題は。彼が本当にガンダールヴであれば、あらゆる武器を使えるはずじゃ。先の決闘ではそれを見せてはくれなかったのだから、結論は保留とするしかないじゃろ」

オスマンは腰掛けていたイスにもたれかかり、髭を触りながら結論付けた。

 

「能力面で言えば、あらゆる幻獣を操ったという『ヴィンダールヴ』に酷似していますが…」

「これ、結論を急ぐなと言うたであろうに」

はやる気持ちのコルベールに対し、叱責を入れるオスマン。

 

「とにかく、この件は暫くワシが預ろう。王室のボンクラ共に知らせたら、また悪巧みをするだろうしの」

他言は無用じゃぞ、ミスタ・コルベール。と続けて言うオスマンに、コルベールは緊張した面持ちで返事をするのであった。

 

 

 

 

 

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「さぁデイダラ、ちゃんと説明してもらうわよ」

決闘の後、再び本塔内部に戻って来たルイズとデイダラは、一先ず人気のない所へと場所を移していた。

 

「説明っていうと、どれのことだ、うん?」

「全部よ全部!アンタが何者なのかってこととその手の口こと!あと、さっき見せてた能力とやらについてよ!」

すっとぼけて尋ねるデイダラに対して、ルイズは大きな声で説明を求める。

 

「そう怒鳴るなよ、ちゃんと説明してやるよ、うん。まず前提として、オイラはこのハルケギニアとかいう世界の人間じゃない。……おい、そんな顔で見るんじゃねーよ。うん」

哀れむ様な、バカにしたかの様な顔でルイズは睨んでいた。

「……そんなこと言われたって無理に決まってるじゃない」

突然「自分はこの世界の人間ではありません」と告げられれば、誰であろうとこんな顔になる。と言いたげにルイズは睨む。

 

「あれだけオイラの力を見せたってのに信じねーのか?うん?」

「……まぁ、驚きはしたわよ。杖も無しにあんな魔法が使えるなんて……」

言いながら落ち込んでいくルイズ。自分は魔法が使えないのに、使い魔が使えるという事実に段々と理解が追いついてきたのだ。しかしーーー

 

「おいおい、言っただろう。オイラはこの世界の人間じゃねーってよ、うん。あれは魔法じゃあねぇ。『忍術』といって、オイラ達『忍』が扱える力だ」

デイダラが、落ち込んでいくルイズを余所に魔法という言葉を否定する。

 

「ニンジュツ?シノビ?」

ルイズの頭の上に疑問符が浮かぶ。

それらのワードは、確かデイダラを召喚した後に聞いた様な聞かなかった様な……と、ルイズは自分の記憶を辿るが、忘れてしまっていた。

 

「……まぁ説明するとだな、ーーー」

 

忍とは、『チャクラ』という力を扱う者の事で、忍術はそのチャクラをエネルギーにして発動させる。ハルケギニアで例えるなら、メイジが精神力を使用して魔法を発動させることみたいなものである。

 

チャクラは、精神エネルギーと身体エネルギーを練り合わせたものであり、杖や詠唱を必要とせず、代わりに印が必要になる。メイジの精神力と違い、無理に使い過ぎると絶命することもある。

 

「忍はメイジの様に超常的な力を持つが、この世界みたいに貴族ってワケじゃない。むしろ傭兵みたいなもんだと思ってもらっていい。うん」

「……それであんたは、その忍という存在だっていうのね。さっき見せたのも魔法じゃなくて忍術だと……」

「そうだ」と肯定するデイダラに、ルイズは信じられないという思いで一杯だった。

 

「……まあ、さっきのあんなものを見せられたんじゃあ信じるしかないのかもしれないわね…」

杖無しで、あのギーシュを圧倒する力を持っている。それだけですでに、ルイズの理解の範疇を超えていた。

 

「……ところで、その忍って人達には、みんな手のひらに口がついてるの?」

恐る恐るといった様子で、デイダラの手を指差すルイズ。

「そんなワケあるか。これはオイラの故郷に伝えられていた禁術だ。オイラの芸術に必要だったから頂いたのさ、うん」

 

デイダラの手のひらの口の能力は、『物質にチャクラを練り込む』というものである。これにより、ただの粘土も恐ろしい『起爆粘土』へとその性質を変化させることができるのだ。

 

「…あんたは今も昔も変わってないみたいね」

昔から芸術芸術と言っているデイダラを想像し、なんだか親しみを覚えるルイズ。先ほどの決闘で見せた恐ろしい一面など、幻の様に思えてしまう。

 

 

「まあとにかく!本来なら、こんな重大なことを隠してたことや、勝手にギーシュと決闘したことについて罰を与えるところだけど。今回は特別に許してあげる!……まぁ、私のことを考えて動いてくれたんだし、使い魔の忠誠には報いるのがご主人様の務めよね」

「……お前の頭ん中も結構単純だよな、うん」

呆れ顔を見せるデイダラに、ルイズは「うっさい」とぼやく。

 

 

 

(こうして普通に接する分には、ちょっと口が悪いだけのやつに見えるんだけどね……)

 

ルイズには不安に思うことがあった。確かに昨日、デイダラは言っていたのだ。自分は指名手配犯だったと。

今にして思えば、あれも本当のことを言っていたのだろう。決闘で見せたあの顔が、それを如実に表してるようで、ルイズには怖くて尋ねることができないでいた。

 

 

ルイズにとっては、デイダラは自分の使い魔なのだ。

どうか、デイダラが悪人ではないと願うばかりである。

 

 

 

 

 

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授業も全て終わり、ルイズから夕食として、スープと肉料理を貰ってからの食後のことである。

だいぶ外も暗くなってきた為、再び昨夜見た二つの月が顔を覗かせ始めた頃。ここ、ルイズの部屋の扉をノックする者が現れた。

 

 

「開いてるぜ。うん」

現在この部屋にはデイダラのみであり、ルイズはいない。

 

部屋の主がいない状況では、来訪者も無駄足を踏んだな、とデイダラが考えていると、扉が開き、来訪者が部屋へ入ってくる。

 

 

「や、夜分に失礼します。デイダラさん…」

「なんだ。お前か、意外だったな。うん」

現れたのは妙に緊張した面持ちのシエスタであった。

 

 

「で、デイダラさん……いや、デイダラ様。この度は、この不出来なメイドの為にご尽力賜り、感謝申し上げます」

「………??」

挨拶するなり、急に膝を折り、畏まったように話し始めるシエスタに、デイダラは疑問符を浮かべた。

 

「おい、何の真似だそりゃ?」

「お昼の件で、デイダラ様が、貴族の方も珍しがる魔法でミスタ・グラモンを下したと聞き及びました。つきましては、デイダラ様も貴族の方と同じメイジであると……」

 

緊張しながら勢いに任せて話すシエスタ。

つまりシエスタは、デイダラが魔法を使えるという話を聞いて、貴族なのではないかと考えたようである。

 

「待て待て待て!オイラは貴族でもメイジでもねぇ。勘違いで話進めるんじゃねーよ、うん」

そんなシエスタに対し、デイダラはウンザリした表情で待ったをかける。彼自身、メイジだ貴族だと偉ぶった人種と同じ様に扱われるのは、気に入らなかったのだ。

 

 

「えっ。でも、貴族の方の様に魔法を使われたと……」

「オイラのは魔法じゃない。詳しくは教えねぇがな、うん。……ていうか、お前見には来なかったのか?オイラ、杖なんて使ってなかったろう」

「あっ。す、すみません。私、あの時腰を抜かしちゃってて……」

シエスタは申し訳なさそうに答えた。

それを受けて、デイダラが呆れていると、再びシエスタが尋ねてくる。

 

「あの、デイダラさんがメイジの方ではない事は分かりました。でも、その、手のひらに口があるという話も聞いたのですが…、本当ですか?」

恐る恐るといった様子だった。

 

どうやらデイダラの手のことは、すでに学院内にそこそこ広まっていた様で、シエスタも事前に聞いていたみたいである。

 

「こいつのことか?うん?」

「…っ‼︎」

なんて事はないとばかりに、デイダラは手のひらの口を見せるが、シエスタにとっては刺激が強かったようで、言葉を失ってしまう。

 

 

「すぅー、はぁー。すぅー、はぁー」

シエスタは深く深呼吸して、デイダラの方へ向き直った。そして、デイダラの顔と手のひらの口とを交互に見ていった。

 

「……はい、もう大丈夫です!失礼しました!」

「…本当に失礼だな、うん」

胸を撫で下ろしたシエスタを半目で睨むデイダラ。

忍世界ではあまり驚かれなかったのだが、世界が変わるとこうも捉えられ方が変わるものなのか。と、デイダラは一考する。

 

(ん〜、あっちの世界がおかしかったのか?)

デイダラが自分の手のひらを見つめながら、己の世界の非常識さに思いを馳せていると、シエスタが話しかけてきた。

 

「先ほどは取り乱してすみません…。デイダラさんは恩人なのに、私……」

「へっ、さっきはあれだけビクついてたってのに、もう平気だってのか?うん?」

意地悪く、デイダラは再びシエスタに向け、手のひらを見せびらかす。がーーー

 

「はい、大丈夫です。それによく見れば、その手のひらとデイダラさん、とても良く似合っていると思いますよ」

昼に見せた様に、再び屈託なく笑うシエスタにデイダラは呆然とする。

 

(切り替えが早すぎる。こいつ結構タフなやつだな、うん)

 

「あのっ…。もしよろしければ、また厨房にいらして下さい。私の手料理でしたら、いつでもご馳走しますので!」

そう言うと、シエスタは続けて「今日は本当にありがとうございました」と、お辞儀をしながら部屋を出ていった。

 

 

 

シエスタを見送った後、デイダラは窓際へ移動した。

ルイズとシエスタの顔を思い浮かべる。自然と、二人から感謝された情景が思い起こされる。まったく、感謝されるというのはむず痒いものだ。

 

「慣れないことはするもんじゃねぇな。うん」

呟きながら、デイダラは気を紛らわせるように、二つの月を眺めるのだった。

 

 

 

 

 


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