ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ
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読んで下さってる方、いつもありがとうございます
今回はデイダラ回。ですが中々進まんなぁ



3,双月の夜に








ーーー夜


窓の淵に腰掛けながら、デイダラは夜空に浮かぶ月を眺めている。その目にはしっかりと二つの大小色違いの月が映っている。


月。それは何年の月日が経とうが変わらぬものとして在り続けるものだと思っていた。そして、それは全人類共通の認識だとも思っていた。もちろんデイダラもその一人であった。


今現在、デイダラの目に映る月は今まで自分が見てきたものと全く異なっている。だが、月に対しての認識は恐らく間違っていないのだろうとデイダラは考える。確かめてはいないが、この世界の誰に聞いたとしても月は二つあるものだという答えが返ってくるだろう。

デイダラは、すぐ側のベッドを一瞥する。
疲れが限界を越えたルイズが、あえなく睡魔に負け、すやすやとベットで寝息を立てている。


(ルイズから聞いた話だが、恐らくウソはついてねぇだろうな。第一、忍五大国を知らねーなんてすぐバレそうな嘘を吐くメリットもねぇ、うん)
呼び出されてからまだ一日も経っていない間の付き合いだが、この女はそんなウソはつかないだろうとデイダラは判断した。つまり・・・



「・・・なんてこった。まさか異世界とはな」



デイダラの出した結論。それは月日が経って月が増えたとかではなく、世界そのものが別物だというものである。

(薄々感じてはいたが、こう目の前に現実として突きつけられるとな。…まぁ感慨もなにもあるわけじゃあないんだがな、うん。とりあえず今日得られたこの世界の情報でも反復するか)


ルイズはまだ知らないことだが、この男、デイダラは全くの別世界からきた人間なのである。
デイダラの元いた世界では、忍という者達が存在しており、ハルケギニアでいう魔法使い達のように、その超常的な力で世の文明を支え、築いていた。
最も、ハルケギニアの魔法使い、貴族のように統治する側ではなく、どちらかというと傭兵の様な役割を担っている等、相違点はたくさんあるが。



「平民、貴族、魔法使い、か。魔法使いの呼び方はメイジだったな。この世界での、オレ達忍のような存在。まぁ違うところもあるみたいだが、うん」


ハルケギニアでは魔法を使える者を貴族、使えない者を平民と、分かりやすいように差別をしているが、デイダラの世界ではそういったことはない。寧ろ忍は、忍でない者達が築く国に雇われている等、立場としては全くの逆なので、ルイズ達のような貴族とやらの気持ちはさっぱり分からない、というのはデイダラの談である。


「ダメだな、イメージつかねぇ。メイジといってもルイズ以外の奴は知らねーし、コイツは魔法とやらを見せねーしな。どんなもんなのかは実際に見てからの判断だな、うん」
それにここはどうやら魔法の教育機関みたいだし、半端なガキ共を見て実力を計るのも違う気がするしな、と考え、デイダラは早々にメイジ考察を打ち止めた。


(異世界か。まぁ元の世界に未練があるだとか、そういうことはないからな。芸術はどこでも創れる。地理や土地勘もおいおい身に付いてくることだしな、うん。問題は…)


デイダラは腰のホルダーバッグのジッパーを開け、手のひらを開きバッグへと突っ込んだ。その手のひらには、通常あるはずの無い『口』がついていた。『口』は大きく開き、舌舐めずりをした。大好物を口に含む瞬間の如く、唾液を沢山分泌させて目的の物を咥えようとする。


しかし、その手のひらの口は何も捕えることはできずに虚しそうに空を切るばかりである。


(・・・粘土が無いということ。早急に解決しなきゃいけない問題はそれだな、うん。)


先述した様に、忍は魔法使いの様に超常的な力を持っている。そして、このデイダラも忍と呼ばれる存在であり、超常的な力を持っているのだ。更に付け加えると、忍の中でも特異な術を扱う彼は、『暁』という犯罪集団組織に所属していたということもあり、ルイズに語っていた話は全て事実であったのだ。

だが、デイダラがその力を発揮するには、粘土が必要不可欠なのである。


(このままじゃあ、芸術の高みを極めるどころか、最低限の仕事さえ果たせねぇからな、うん)
最低限の仕事、それはルイズを護るということである。



デイダラが、ルイズを護るということについて、ここまで前向きなのには理由がある。
先ほど、ルイズには語られなかったことだが、実はこのデイダラは元の世界で『既に死んでいた』のである。魂のみ黄泉の世界にあったのだが、それがルイズに召喚され、使い魔の契約を結んだ際に生身の肉体を与えられ、再び生き返ったのである。

そのお陰で、再び芸術の高みを目指せる。
それ故に、恩人。



(この左手にあるよく分からねー印。こいつから凄い力を感じる。『チャクラ』とは感じが違うが、オイラの身体が元通りになったのもこいつのおかげみたいだな、うん)
デイダラは、自身の左手に印された使い魔のルーンを見る。これはルイズと契約とやらをしたことで印されたらしい。これについても、後々調べないといけないだろう。


(まぁ、とりあえず。夜の内に辺りの探索でもするか。粘土の目処も付けねぇといけねーしな、うん)





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「私、スフレを作るのが得意なんですよ」
「それは是非、食べてみたいな」

ルイズの寮部屋の階下、丁度一年生女子の寮部屋が並ぶ廊下で、一組の男女が仲睦まじげに談笑していた。

「本当ですか⁉︎ギーシュ様!」
「もちろんさケティ。君の瞳に誓ってウソはないよ」

ギーシュ、と呼ばれた男子生徒がキザったらしく言葉を述べると、「ギーシュ様…」と、ケティという女子生徒は目を潤ませ、胸元の高さで両手を祈るように組んで感極まっていた。

「君への想いに、裏表などありはしないのさ。・・・ん?」
調子付いてきたギーシュは、続けてキザなセリフを吐いていると、そこで自分達のすぐ横を堂々と通り過ぎていく平民に気がついた。


「君!ちょっと待ちたまえ。貴族を前に礼もなしに通り過ぎるとは無礼じゃないかね」
「・・ああ゛?知るかよそんなこと。オイラには関係ないな、うん」

癇に障ったように、その平民、デイダラは一言言ってすぐに外への出口へ向けて歩き始めた。


「なんなんだその口のきき方は!おいっ…!」
「お、お止め下さいギーシュ様!暴力はよくないです…!」

思わず、腹立って薔薇の造花を模した杖を取り出したギーシュを、ケティはギーシュの胸に飛びついて静止した。

「おぉ、ケティ!怖がらせてしまったかい?もう大丈夫だから顔をお上げ…」

ケティに抱きつかれて気分をよくしたギーシュは、平民のことなどすぐさま意識の外へ放り出した。


「あの、今の方が噂の…?」
「ん?…ああ、そうだね。そう言えば彼がゼロのルイズの使い魔だった」
ケティに聞かれ、ギーシュは今の平民がルイズの使い魔だということを思い出した。

ゼロのルイズが平民を召喚したという情報は、現場にいた一部の二年生達によって瞬く間に学院中の噂になっていたのだ。どうやら一年生の間にも噂が届いているようである。


「全く、主人が主人なら使い魔も使い魔だね。今日だって、普通なら召喚の儀式も学院の広場でやるものを、ゼロのルイズがいつも魔法で学院のものを壊してしまうから、わざわざ学院の外へ出るハメになったんだ」

周りに迷惑をかけるのは止めてほしいものだね、とギーシュは続けて言う。


「と、あんな奴のことはほっといて、ケティ。話の続きをしようじゃないか」





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「改めて見ても、見渡す限り草原ばっかだな、うん」
本塔の天辺に立ち、学院の周りを見渡すデイダラ。わざわざ外まで出てきたというのに、夜は正門がしっかり閉じられているものだから、面倒に感じたデイダラは、本塔の天辺まで壁伝いに飛び上がり登って、今に至る。


学院の外で、とりあえず粘土のとれそうなところはないか、ぐるっと見渡してみても、どこを見ても草原ばかりで、粘土のとれそうな岩石地帯や水源地帯などは、少なくとも近場にはなさそうである。


「んー、あっちの方に山岳も見えるか。だがちと遠いな、うん」

左目に装着した望遠スコープ越しに山の方を見るデイダラ。
予備の粘土でもないかと『暁』の装束をまさぐってみても、出てきたのはこの望遠用スコープだけであった。これはこれで便利な代物なのだが、いかんせん、現状打破には繋がらない。


「仕方ねぇ、外は一旦諦めて一先ずはこの建物の中を探索するか」


落胆しつつも即座に次の行動へ。夜空の双月が、そんな前向きなデイダラの姿を照らしている。



デイダラの深夜の学院探索は、まだまだ時間がかかりそうである。