ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ
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タイトルの頭には『デイダラ式』という言葉がつきます




18,歓迎の印






暖かな陽の光の下。
トリステイン魔法学院の生徒達は、そのほとんどがざわざわと色めき立っており、ある瞬間を今か今かと待ちわびていた。

魔法学院の正門から学院本塔の玄関までにかけての道のりを、そんな面持ちの生徒達が両サイドに整列し、アンリエッタ王女を出迎える準備を整えている。
皆、しっかりと正装して装いを正している。少しでもアンリエッタ王女によく見られたいというのは、トリステイン王国に住まう者にとって、男女の隔たりなく共通のことなのである。それだけ、アンリエッタ王女は国民から人気者なのだ。


そんな生徒達の心境とは、一歩二歩ほどの距離を置いて、デイダラは歓迎式典の場を見回していた。

「あれだけ喧しかった貴族のガキ共が、こうも従順に式典準備をこなすとはな。アンリエッタ王女ってのは、よっぽど人気者なんだな…うん」
「当たり前じゃない。トリステイン国民にとって、姫殿下はまさに国の象徴的存在なの。さらに姫様自身だって、とっても美しい方なんだから、この人気は当然よ」
まるで自分のことのように、ルイズは胸を張って自慢気に、そうデイダラに説明する。

デイダラは「ふーん」と興味なさそうに相槌をうつ。
そんな風に、王女到着までの暇つぶしの会話をしていたデイダラとルイズの間にキュルケがタバサを伴ってやって来た。


「ああ居た居た、ねぇ聞いてよデイダラ〜。まったく学院の男共ときたら、二言目には姫様姫様って言うのよ〜。ねぇこれどう思う?」
開口一番に、デイダラに現状の不満の声をもらすキュルケ。
トリステインで人気のお姫様の歓迎式典など、ゲルマニアからの留学生であるキュルケにとっては、関心の薄いことなのである。

「そりゃ、この国のお姫さんがとっても美しいお方だからだそうだ…うん」
「なによ〜それ。すぐ側にこんないい女がいるっていうのに、ヒドイ話じゃない?」
言いながら、キュルケはデイダラの腕に抱きつこうとする。が、ルイズにマントを引っ張られることで阻止される。

「ちょっとキュルケ。他の男に相手されなかったからって、他人の使い魔に色目使わないでちょーだい」
「なによルイズ。彼だって一人の人間なのよ。他人の恋路を邪魔するのって横暴じゃない?」
「あんたすぐに鞍替えするじゃない…!それに、デイダラは大前提として私の使い魔でもあるの。この私に断りもなく、そんなこと許さないわ…!」
言葉に怒気を含めるルイズ。キュルケも己の定めた恋の為、引かずにルイズと睨み合う。
そして、遂にお互い杖を出し合って鍔迫り合いを始めたところでデイダラから静止の声がかかる。


「その辺にしとけルイズ。それとキュルケ。お前、今のルイズを以前までのように侮ってたら、タダじゃ済まねーぜ…うん」
「え〜…って、どういうこと?」
こと魔法という分野において、ルイズ以上に下に見られる者はいないというのが、この学院での認識である。その為、キュルケはデイダラの忠告に首を傾げる。

確かに、フーケ戦では活躍したルイズだったが、キュルケとの実力差は変わってはいない筈だ。そうキュルケは思っていた。

「フーケとの戦闘の時に、オイラがルイズにちょっとした手ほどきをしてやったんだ。おそらく、この学院の生徒連中じゃあこいつの魔法に勝てる奴はそういないぜ。うん」
「?」
今度は頭に疑問符も浮かべるキュルケ。タバサもデイダラの話に興味を持ったのか、読書をやめて得意気に話すデイダラの声に耳を傾けた。

「ルイズの魔法は、その尽くが爆発する。オイラも一目置く、なかなかの火力ある芸術だ。だが、いざ攻撃に転じようとすれば、その命中精度は驚くほど低い」
そう言われ、タバサはフーケのゴーレムに放ったルイズのファイアーボールの魔法を思い出す。確かに、あられもない方向で爆発していた。

「なんで命中率が悪いのかは知らねーが、上手い下手の問題じゃあねーだろう。だが、そもそもルイズには、長々と詠唱がいる魔法を唱える必要も、攻撃用の魔法を唱える必要もねぇのさ…うん」
「どういうことなの?」
「……?」
キュルケと共に、タバサも頭の上に疑問符を浮かべながら、デイダラの次の言葉を待つ。

「対象に狙いを定める必要がある攻撃魔法なんか使わなくても、錬金や浮遊のように対象に効果を付与する魔法を唱えちまえば、こいつの場合それが攻撃になるからだ。うん」
どちらかと言えば、そっちの方が爆発の起点も唱えた時点で決まるから外す心配もない。と、デイダラは解説する。

つまり、こと戦闘においてルイズは、相手が長々と魔法を唱えてる間にコモン・マジックなどを一言唱えてしまえば、それで先制攻撃ができる訳である。
込める魔力量によっては、それだけで決着がつく程の威力が出せるだろう。


「……面白い発想」
「そ、そうね…。ま、まぁ貴族同士じゃあ決闘とかは禁止だし…、あまり日の目を見ることはないでしょうね…」
デイダラの話を聞いて、タバサは素直に感心していた。よく、魔法というものを分析している、と。
表情を崩さないタバサとは対照的に、キュルケはというと、みるみる顔色を変えていってしまっていた。以前、錬金の実演で爆発を受けたシュヴルーズを自分に置き換えて想像してしまい、血の気が失せたのだ。


「ふん、いいわよ別に。私の魔法でも役に立つ場面があるんだって、分かっただけでも十分よ。……失敗ありきっていうのが不本意だけどね」
「なんだよルイズ。お前、まだ他の魔法使うことを諦めてねぇのか?いい加減、自分の魔法の芸術性を理解したらどうだ?…うん?」
「冗談言わないで。あくまで、私の目標は普通に魔法が使えるようになることよ。失敗魔法の使い道を教えてくれたことには、まぁ感謝してるけど…」
ツンとした態度でそっぽを向きながら答えるルイズ。そんなルイズを見ながらデイダラは「惜しいなぁ」と呟く。

「せっかく何でも爆発させられる能力を持ってるってのによ…。お前はもう少し、爆発という芸術の魅力を理解する必要があるぜ、ルイズ」
「芸術の魅力って言ったって、あんたのそれは結局のところただの爆発で、何も残らないじゃない」
憮然とした態度で、デイダラにそう反論するルイズ。
そんなルイズに、デイダラは大きくかぶりを振って否定の意を示す。

「甘い!甘いんだよルイズ…!お前はまだ芸術の、一瞬の美を理解していねぇ…!」
口調に熱がこもるデイダラを前に、一応、ルイズだけでなくキュルケとタバサも耳を傾ける。

「儚く散っていくからこそ美しいんだ…!素晴らしい造形品の数々が、その存在を圧倒的に昇華させて、消えてゆく…。その昇華させた瞬間の美しさ…!何も無くなった後の、胸を締め付けるような虚無感…!その余韻までもが、爆発による一瞬の美なんだ!……芸術は、爆発なのだァ!」
言葉にどんどんと熱が入っていったデイダラは、ついには両手を広げ、天を仰ぎ声高々に叫んでいた。
幸いと、周りの生徒達自体もざわめきが強かったので、注目を浴びることはなかったが。


「どうだ?少しは一瞬の芸術を理解したか?」
満足気な表情で、デイダラはルイズ達に顔を向ける。しかしーー


「いや、まったく」
「全然。何言ってるか分かんない。ゴメンねダーリン」
「理解不能」


生憎と、女性陣からの理解を得られることはなかったデイダラである。

「てめーら!口を揃えて言うんじゃねーよコラァ!」
握り拳を見せながら、声を荒げるデイダラ。心の底から怒っているみたいである。

「そんなにオイラの芸術が理解できねぇってんなら、しょうがねぇ。体で教えてやってもいいんだぜ?…うん?」
剣呑な雰囲気を纏って言い放つデイダラ。そこには確かな迫力があり、ルイズとタバサは思わず息を呑む。がーー

「あっ、その響き、なんだかエロいわぁ」
恍惚とした表情で呑気にそう零すキュルケ。思わずズッコケる他三人。

「てめーは少し空気読め!てか、もう黙ってろキュルケー‼︎」
デイダラ達がそうして騒いでいると、学院の正門前に待機していた衛兵が、集まる人全てに聞き届くように、大きな声で王女の到着を告げる。





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「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーりィーッ!!」
魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れる。整列した生徒達が一斉に杖を掲げ、小気味良い杖の音が重なる。

ユニコーンに引かれた豪奢な馬車から、侍女に手を取られながらアンリエッタ王女が現れ、魔法学院の生徒達が一斉に歓声を上げる。


「アレがこの国の王女、アンリエッタ・ド・トリステインか…」
デイダラは、先程の一件から気を持ち直し、一応この国の王女であるアンリエッタの顔でも覚えておくかと目を向ける。

アンリエッタは、薔薇のような微笑を浮かべ、生徒達へ向けて優雅に手を振っており、ルイズはそんなアンリエッタの姿を真面目な表情で見つめている。

「なによぅ。あたしの方が魅力的だと思わない?ねぇタバサー」
「さぁ?」
思わずキュルケが僻んでしまうほど、周りでは生徒達の歓声が響き渡っていた。

確かに、凄い人気で、凄い歓声だ。しっかりと学院全体で王女来訪を歓迎しているようだ。

ひとしきり生徒達の歓声に応えると、アンリエッタは本塔の玄関前で、自分達を出迎えていた学院長のオスマンと教師陣の元へと歩いていく。

だが、とデイダラは思う。歓迎と言うには、まだ何か足りない気がしていた。

(おっ、そうだ。やっぱ、こういう祝い事には『アレ』打ち上げとくもんだろ…うん)
デイダラは、いいことを思いついたとばかりにポンと手を叩くと、おもむろに起爆粘土を用意する。


「……何しているの?」
「まぁ見てろって。うん」
その様子に気づいたタバサだが、デイダラは宥めるように言い聞かせ、手のひらの上に創り上げた作品達を乗せる。

それは蝶々であった。凄まじく繊細に作られた小さなそれらは、実に二十匹以上いた。

相変わらず、手で握るだけでどうしてそんな細かなデザインを作れるのかと、疑問に思っていたタバサだったが、デイダラはそんなタバサを余所に、蝶々達を巻き上げるように空へと解き放つ。





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「急に訪れて来てしまって、申し訳ありませんでした。ミスタ・オスマン」
「滅相もございません。生徒共々、お待ち申しておりました」
頭を下げて、オスマンはアンリエッタへ敬意を表しながら言う。

今回の王女来訪は、急遽決まったことだ。王女一行がゲルマニアからの訪問の帰りに、真っ直ぐこの魔法学院へ向かうことになったのだから。

(しかし、急に生徒達の顔が見たくなったとは…、嬉しいことを言ってくれますな)
王女来訪を告げる書簡が届いた時を思い出すオスマン。
自分が預かる大切な生徒達に会いたくなってくれるとは、学院長冥利に尽きる。と、頭を下げながらも内心で喜び勇んでいたオスマンであった。

そんなオスマンの耳に、アンリエッタの軽く驚く声が聞こえてくる。

「あら、蝶々だわ。まぁ!こんなにたくさん…!」
その声に、オスマンは「はて?」と思い、思わず顔を上げてアンリエッタに目を向ける。

一匹の鮮やかな白色の蝶が、アンリエッタの差し出した指先にとまっており、その周りには確かに沢山の蝶々が舞っていた。

「ちょっ……!」
「「ちょ!」」

「ちょっとぉー!!」

すぐにそれらが、デイダラの起爆粘土だと気づいたオスマンと一部の教師達、それにルイズは、口から心臓が飛び出す思いだった。

サァーっと、蝶々達は舞い上がるようにアンリエッタの周りから、遥か空へと飛んでいく。
自然と、蝶々を目で追う面々。


「喝ッ!」


次の瞬間。蝶々達は、鮮やかな色を放つ花火となって次々と爆発していった。

「まあ!なんて綺麗な花火なんでしょう…!」
「「「……………」」」
能天気な感想を零すアンリエッタ。あれがもし自分の周りで爆発していたら、とは微塵も思い至っていないようである。
ヒヤヒヤしたのは、デイダラの起爆粘土をよく知るオスマン達とルイズ達くらいのものであった。


「どうだ?やっぱりこういう時には祝砲くらい上げるもんだろ。ま、歓迎の印だな…うん」
「あ、あ、あんたァ〜〜!なにをやらかしてくれてるのかしらァ〜〜!?」
デイダラの胸ぐらを掴み、ルイズはぐわんぐわんと揺さぶるが、デイダラは意にも介していない。

そんな爆発コンビを見ながら、タバサは今の爆発であれば芸術と呼んでも理解できるなと、呑気に考えていた。タバサがそう思うくらいには、綺麗であったのだ。


一部の者達に、若干の冷や汗と緊張を走らせたその後。つつがなく、王女歓迎の式典は続いていった。





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夜となり、ルイズの部屋。
ガミガミと叱りつけるルイズの声が部屋の外にも聞こえる。もちろん、デイダラの祝砲の件についての説教である。

「まったく、なんて事しでかすのかしら…!姫様が気に留めてくださらなかったから良かったものの、護衛の近衛隊の人達は騒めき立っていたわ!」
もしかしたら打ち首ものだったのだ。二度とこんなことをしないように、しっかり言い聞かせなくてはならない。

「いーい?もし姫様に何かあったりしたらーー」
「わーったよ!もう説教は勘弁だ、ルイズ。第一、結果的に祝砲として捉えて貰ったんだ。何も問題ねぇじゃねーか…うん」

言葉を遮られるルイズ。この男は、本当に分かっているのだろうかとジト目で睨むも、デイダラは気にせず話題を変えてきた。

「そういや、ルイズ。お前、やけにあの王女に親身になってるじゃねーか。ちょっと普通じゃねーぜ?…うん?」
「……っ!」
普通、大衆にとっての王族などの国のお偉いさん達とは、雲の上の存在。よっぽどの立場にいない限り、身近に感じるものではない。

だが、ルイズはまるで知己を思うような反応を見せているのである。デイダラに勘繰られるのも無理はない。

「いや、まぁ…。えーっと…」
どうデイダラの追及を躱すべきかと考えていたルイズ。
しかし、突然の訪問者を知らせるノックの音で、はたと表情を変えたのだった。


コーン、コーンと扉が規則正しくノックされる。自然と、ルイズとデイダラはドアに注視する。
まるで、何かの合図かのようにドアが叩かれていると気づくと、ルイズはハッとした面持ちとなり、すぐにドアを開けた。


そこにいたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりとかぶり、同色のマントで身を包む少女であった。

「貴女は……?」
辺りを警戒するようにし、そそくさと部屋に入ってきた少女に、ルイズは問いかける。

少女は、しっと言わんばかりに口元に指を立て、杖を取り出して短く呪文を唱える。部屋に光の粉が舞った。

「ディテクトマジック?」
探知の魔法である。ルイズの問いかけに、頭巾をかぶった少女が頷く。
「どこに耳が、目が光っているか分かりませんからね」

周りになにもないと判断した少女は、ゆっくりと頭巾を取った。


「姫殿下‼︎」
「なに……⁉︎」

現れたのは、ほんの数時間前に急遽学院へ訪れてきたアンリエッタ王女であった。
デイダラは意外に思いながら多少の驚きの声を上げ、ルイズはすぐさま膝をつく。



「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」
アンリエッタは、涼しげな、心地よい声で話しかけ、感極まった表情を浮かべるのだった。