ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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16,鉄格子の窓から

 

 

 

 

 

 

フリッグの舞踏会。

女神の名を冠するこの舞踏会は、学年や教師といった枠を越えて、さらなる親睦を深めることを目的とした催し物である。

愛と結婚と豊穣の女神の名をあやかるだけあって、この舞踏会で一緒に踊ったカップルは将来結ばれるという言い伝えも残っている程だ。

 

アルヴィーズの食堂の上の階が大きなホールとなっており、フリッグの舞踏会はそこで行われていた。

 

 

「何とも、華やかな光景じゃねーか。なぁ相棒?」

「……ふん」

 

ホール内では、着飾った生徒や教師達が豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。

 

そんな光景を、デイダラはバルコニーの枠にもたれながら、興味なさそうに眺めていた。

外はすっかり暗くなっており、二つの月明かりで綺麗に照らされていた。

 

退屈そうな彼に声をかけたのは喋る剣こと、インテリジェンスソードのデルフリンガーである。

 

「オイラにゃまるで場違いなようだな…うん」

「そう言うなって。さっきからめんこいメイドに料理を運んで貰って、えれぇべっぴんさんにダンス申し込まれてたじゃあねぇか。至れり尽くせりだろう?」

 

デルフリンガーの言うめんこいメイドとはシエスタのことで、えれぇべっぴんさんがキュルケのことである。

 

まず、シエスタがデイダラの元へ料理を持ってやって来て、どこから聞いたのか、フーケ討伐の件での賛辞と労いの言葉をかけていったのだ。

 

“あのメイジの大怪盗を捕まえるなんて、流石デイダラさんですね!お疲れ様です!……あの、これ私がこっそり自分で作った料理なんです。よかったら、どうぞ……!”

 

そうして、シエスタと二言三言の言葉を交わした後、入れ替わるようにキュルケがデイダラの元へやって来たのだ。

 

“はあーいダーリン。楽しんでる?ねぇ、せっかくだから踊りましょう?……え?踊ったことがない?大丈夫よ!あたしがしっかり教えてあげるから!”

 

デイダラと踊りたがっていたキュルケだったが、彼がまったく踊る気になってくれないので、渋々と他の男達の元へと離れていった。

 

その後、自分の隣でまるで料理と格闘しているかのようなタバサの食べっぷりを見て食欲を無くし、さらに、騒がしい舞踏会の空気に耐えられなくなった為に、デイダラはこうしてバルコニーへと逃れてきたのだ。

 

 

「この喧騒がなけりゃあな。まったく、なんでオイラがこんな宴会にいるんだろうな………ん?そういや、なんでだ?」

ふと、デイダラは現状に対して、疑問に思った。

はたして、自分はこんな華やかな催し物に参加するような人間だっただろうか…?

 

考えても答えが出ない。ただ、ルイズに「いいから、行くわよ」と言われ、渋々とやってきてしまっただけだった。

 

(なんで大人しくついてきたんだっけな?いや、そもそもが……)

そうして、デイダラが思案していると、デルフリンガーがまた声をかけてきた。

 

「そういや、相棒。お前さん、巨大ゴーレムを相手にやり合ったらしいな。まったくつれないねぇ、俺様というものがありながら一人で行っちまうなんてよ…」

俺様とお前さんはツレ同士だろう?と悲しんでるような声を出すデルフリンガー。

 

「……おお、そうだった。お前をここに連れてきた理由を忘れてたぜ…うん」

「?」

疑問符を浮かべるデルフリンガーを余所に、デイダラが尋ねる。

さっきまでの疑問は何故か霧消していた。

 

「実はそのゴーレム戦でな。分からなかったことがあったんだ」

「なんだ?言ってみな。その為の俺様だろう?」

不本意だけどな、と零すデルフリンガーをデイダラは無視して続ける。

 

「以前ルイズに聞いたんだが、この世界の魔法ってのは一つの魔法を発動させてりゃ、二つ目の魔法は唱えられないんだろ?だが、フーケって奴はゴーレムの術と錬金の術を同時に使っていたぜ?それはなんでだ?」

デイダラが疑問に思ったのは、この世界では基本的なことだった。だが、初見の彼にとっては混乱してしまうことであったのだ。

 

「そりゃきっと、そのゴーレムの魔法が完成された魔法だったからだろう。フライやレビテーションのように常に発動させていなきゃいけない魔法なら、二つ目の魔法は唱えられないが、ゴーレムの魔法のように発動させたらそれで完成する魔法なら、次の魔法を唱えることができるって訳だ」

要は、魔法にも色んな種類があるって訳さ。と締め括るデルフリンガー。

 

「なるほどな。じゃあもう一個の疑問だ。錬金についてだが、あれは土系統の魔法でも基礎的なもんだと聞いたが、実戦では相当厄介なもんだったぞ。ホントにそんな初歩の魔法なのか?」

フーケの錬金によって作られた鉄のドームを思い出すデイダラ。

 

あれを破るには相応の威力の起爆粘土を要する。推定だが、チャクラレベル『C3』を練り込み、十分な量の粘土がなくてはならない程だ。

先の戦闘では粘土の量も足りず、ルイズの協力がなかったとしたら、それなりの無茶をしなくてはならなかったのだ。

 

「ああ、錬金は魔法の中でも面白い部類でな。メイジの力量次第で、その効果を変える魔法なんだ。消費する魔力量も、錬金する物質によって様々って訳さ。スクウェアやトライアングルクラスの作る金属はそりゃ立派なもんらしいが、まぁこの魔法を戦闘の為に極めようってメイジは稀だと思うね…」

「………」

 

デルフリンガーの話を聞き、デイダラは思いの外、この世界の強者には期待ができるのではと思った。

己の芸術をより昇華させる為に、未だ見ぬ魔法の使い手の数々と相見える。そうすれば、今までにない芸術性を感じられるかもしれない。

 

(精々、オイラの究極芸術の為にも良いインスピレーションになってくれることを期待するぜ…うん)

内心で、デイダラはこれからのこの世界での戦闘に思いを馳せていると、今度はデルフリンガーが疑問を投げかける。

 

「そういや相棒。お前さん、さっき『この世界』とか言っていたが……。まるで相棒が別の世界から来たみたいな言いようだ。そこんとこ、どうなんだ?」

「ああ、その通りだ。オイラはこことは違う異世界から来た」

「………」

事も無げに言い切るデイダラに、デルフリンガーは思わず言葉を失う。

 

「……マジかよ。世の中、何があるか分かんないもんだなぁ」

「……確かにな。うん」

デイダラとデルフリンガーが、初めて意見を同じくしていると、ホールの壮観な扉の前で、控えていた呼び出しの衛士が高々に声を上げる。

 

 

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおなーーりーーッ!」

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

衛士の声に従って、ホールの壮観な扉が開き、最後の主役であるルイズが登場する。

 

ルイズは、長い桃色がかった髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティドレスに身を包ませている。その身の高貴さを美しく演出し、胸元の開いたドレスがつくりの小さい顔を宝石のように輝かせていた。

 

主役が全員揃った事を確認した楽士達が、小さく流れるような音楽を奏で始める。

ホールでは、貴族達が優雅にダンスを踊り始めた。

 

「お、おい。あれがゼロのルイズかよ…」

「ホントにルイズ…?か、可愛い…!」

「聞いたかよ、あのルイズが土くれのフーケを捕まえるのに一役買ったらしいぞ」

「マジかよそれ」

「お、俺声かけてみる…!」

 

華やかに着飾ったことで見えてきたルイズの美貌や土くれのフーケ討伐での活躍など、ルイズのことを囁く声が増えていき、一人、また一人とルイズに声をかける男子生徒が増えていった。

 

「ルイズ。とても綺麗なドレスだね、君にとても似合っているよ……。どうか僕と一曲踊ってくれないか?」

「ありがとう。でもお断りするわ」

 

「や、やぁルイズ。聞いたよ、随分活躍したみたいだね。……ど、どうだい?僕と一曲踊ってはくれないかい?」

「ありがとう。でも遠慮するわ」

 

「聞いたよルイズ。あのフーケを相手に大したものだ。一輪の薔薇ゆえに、どうやら僕は君のことも楽しませなくてはならないようだ。さぁ、僕と一曲おどーー」

「絶対に、イヤ……!!」

「何故僕にはそんな辛辣……!?」

 

 

そうしてルイズは誰の誘いをも断ると、バルコニーの枠にもたれかかって、一人佇むデイダラに気づき、近寄っていく。

 

「おお、馬子にも衣装じゃねえか」

「うっさいわね」

いち早く声をかけたのは、デルフリンガーであった。空気読んでよ、と聞こえないようにひとりごちる。

 

「どう?デイダラ。楽しめてる?」

「いーや。貴族の宴ってのは、どうにも肌に合わねーな。ダンスなんざ、やってて楽しいのか?…うん?」

どうやら、彼にとってこの舞踏会はイマイチなようであった。それは困る。彼には、労いと感謝の意味も込めて、楽しんで貰わなくては。

 

ルイズは、一肌脱ぐことにした。決して、自分の為の言い訳ではない。

 

 

「踊ってあげても、よくってよ」

「……はぁ?」

デイダラに手を差し伸べ、少し照れたようにルイズはダンスを申し込んだ。

対して、デイダラは困惑といった表情を見せる。

 

「お前…。ダンスに否定的だったオイラに、よくそれ言えたな…うん」

「何事も経験でしょ?やってみなくちゃ、楽しくないかどうかなんて分からないわよ」

ルイズはそう言うと、今度はドレスの裾を恭しく両手で持ち上げ、膝を曲げてデイダラに一礼した。

 

「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」

 

デイダラは一瞬呆けた表情となり、のろのろと右手を伸ばし、ルイズの手を取ろうとしてーーー

 

 

「ばぁ」

「ッ!」

子供をからかうような声が、彼の右手のひらの口から聞こえた気がした。

目の前で手のひらの口が、べろべろとわざとらしい舌舐めずりをして見せるものだから、ルイズは少しの間硬直してしまう。

 

「……はッ。あんまり調子付くんじゃあねぇぞルイズ。そんなんでオイラをーー」

 

言葉半分のデイダラを余所に、ルイズは手のひらの口ごとデイダラの手を取った。

 

「!」

「ほら、何やってんのよ。ついて来なさい」

そうして、言われるがまま。デイダラはルイズに引っ張られホールへと戻っていく。

 

 

ホール内のダンス陣の中に、ルイズとデイダラも加わる。

ルイズは「私に合わせて」と言い、デイダラの為にリードしてみせた。デイダラはぎこちないまでも、つまづいたり動きを止めたりすることはなかった。

 

「ねぇ、デイダラ。……あんた、元の世界に帰りたいとか、思ってるんじゃない?」

「……なんだ?藪から棒に?」

疑問符を浮かべるデイダラに、ルイズは「いいから、どうなの?」と急かす様に、不安そうに尋ねた。

 

「別に。どこに居ようが関係ねぇさ。オイラのやることは変わらねーからな…うん」

「……芸術鑑賞も別にいいけど、少しは私のことも見てなさいよね」

いつも通りなデイダラの言に、ほっとしたのか、呆れたのか。ルイズは口に出してしまった言葉に気づき、「しまった」と思った。

 

「…あん?お前、それどういうーー」

「な、なんでもないわよ!ほ、ほら!足が遅れてるわよ!しっかりしなさいよ…!」

感情を隠す様に、ルイズはそうまくし立てる。

 

しばらく、無言で踊っていたルイズだったが、頬を少し赤らめながら思い切った様に口を開く。

 

「ありがとう」

「……そりゃ、なんに対してだ?」

そう言われ、ルイズはデイダラに感謝することが、すでに色々あることに気がついた。

 

「まぁ、強いて言うなら。私の呼びかけに応えてくれて、かしらね」

「?」

「私の使い魔になってくれたのが、あんたで良かったわ……」

おかげで私は、自分のことが少しは好きになれたもの。ルイズがそう言うと、デイダラは顔を右へ逸らしながら、「ふん」と軽く受け答える。

 

照れ隠しかな?

ルイズの方からは、デイダラの左に流した長い前髪に隠れて、彼の表情が見えないでいた。

 

照れ隠しだったら、ちょっと嬉しいな。

なにが嬉しいのか。それはまだ、今のルイズには分からない事だったが、ルイズは、そうであったらいいなと思った。

 

 

バルコニーの方から、デルフリンガーの「おでれーた!」なんて間抜けな声が聞こえた様な気がした。

 

 

 

 

 

➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 

 

 

 

鉄格子のかかった窓から月明かりが射し込む。

ここはトリステインの城下町の中でも、監獄がある町として有名なチェルノボーグである。

 

その独房の一室で、一人の女性がベッドに寝転んでぼんやりと天井を眺めている。土くれのフーケである。

 

「……はぁ」

思わずため息を吐くフーケ。杖があれば脱獄など簡単なものだが、あいにくと今は取り上げられてしまっている。

 

現在の彼女は、五体満足でその体には火傷の一つもない。とても至近距離で爆発を受けたとは思えないほど健康体である。

 

「餞別ねぇ。どうせ処刑されるってのに、無駄なことする人だ。終ぞ、よく分かんないジジイだったね……」

彼女の体に傷ひとつないのには、もちろん理由がある。

仮の姿でのフーケの上司であったオールド・オスマンが、彼女の怪我の具合を聞き及び、女性でそれは忍びないとばかりに、即効性の高い水の秘薬を差し入れしたのだ。

偽りの関係だったっていうのに、食えないお人だ。とはフーケの言である。

 

結果、こうして彼女はちゃんと動けるまでに回復したのだ。怪我に苦しむ時間は少なくなった。

最も、当初予定していたよりも怪我の治りが早まった為に、裁判までの日数もそれに伴い少なくなってしまったが。

 

土くれのフーケを恨む貴族達はとても多い。裁判の結果は処刑で覆らないだろう。

 

「あたしも遂に年貢の納め時かね……」

バチが当たったのかなぁ、とフーケは内心でひとりごちる。

 

思い出すのは、生意気にも自分の前に立ちはだかったゼロの落ちこぼれであるルイズと、その使い魔のデイダラとかいう男だ。

 

フーケの誤算としては、それだろう。

ルイズの魔法が自分の錬金を破った事もそうだが、まさか、あんな厄介な能力を持った男が現れるなんて誰が分かる。あの男さえ現れなければ、ゼロのルイズの魔法も自分に届くことはなく、破壊の杖も簡単に取り返すことができただろう。

 

(あいつは一体何者だったんだい。杖を使わないで妙な力を使うし、まさかエルフ?いや、それにしたってーー)

考えを巡らせ、それが益体もないことだと気づいたフーケは、「ふっ」と自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

(なんだっていいか。どうせもう殺されちまうんだしーー)

そこまで考えて、しかしフーケは、自分の帰りを待つ家族達の顔を思い出す。

 

 

今まで碌な人生ではなかったフーケだが、自分はまだ死ぬ訳にはいかないのだと気付き、勢いよくベッドから上体を起こす。

 

(そうだよ…!怪我の痛みと、捕まっちまった事で頭が混乱でもしてたのか…)

なに忘れてんだよ、とフーケは自分を叱責する。

 

(まだ処刑まで日はあるんだ。必ず、隙はあるはずだ…!)

そうしてフーケは、鉄格子の窓から外を眺めた。その目に、夜空に光輝く星が綺麗に映った。

 

 

(……ほら、脱獄の種がやって来た)

 

フーケの耳には、カツンカツンと小気味のいい足音が聞こえてきた。

これが看守のものか、またはまったく違う別の人物のものなのか、なんてのはフーケにはどうでも良かった。ただ、起こる状況の全てを脱獄の為に利用する。

 

 

看守の見廻りひとつでも、注意深く観察するんだ。

あの娘達を、悲しませない為にーー。

 

 

 

 

 

 

 






タイトルは、とある名言から。
自分はこの言葉をジョジョから知りました笑

どうでもいいけど、NARUTOのアニオリの力ってのでエドテンデイダラが飛段に手助けしようとした次のシーンで、カブトに行動と意識を制御されちゃったデイダラを見て、何とも言えない気持ちになりました。


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