ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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15,目指すべき先

 

 

 

 

「ふーむ……。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……」

「……まさか、彼女が…」

衝撃の事実に圧倒されたかの様に、オスマンは自身の椅子へもたれかかりながら重々しく口を開く。

オスマンの隣に控えていたコルベールも、思わず声を零してしまう。

 

 

現在ルイズ一行は、学院長室にてオールド・オスマンへ事の顛末を報告していた。

学院長室では、オスマンとコルベールの二人がルイズからの報告を受けており、どちらもルイズの報告には驚いた表情を見せていた。

 

デイダラを除くルイズ・キュルケ・タバサの三名は、オスマンとコルベールの反応に、神妙な面持ちを見せていた。

仮の姿とは言え、自分達よりも深くロングビルと接していた二人である。思うところも多々あるだろう、と。

 

 

「一体、どこで採用されたのですか?」

「街の居酒屋じゃ。彼女は給仕をしておった。あまりに美人だったもので、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな……」

 

しかし、オスマンの発言で女性陣は急速にその目を冷めたものへと変えていく。

 

「今思えば、あれも魔法学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない。居酒屋でくつろぐわしの前に何度もやってきて、愛想よく酒を勧める。魔法学院の学院長は男前で痺れます、などと何度も媚を売り売り言いおって……。終いにゃ尻を撫でても怒らない。惚れてる?とか思うじゃろ?そりゃ秘書にも雇っちゃうわい」

 

無茶苦茶な言い分に、もはやオスマンは三人の生徒から白眼視される一歩手前であった。

 

「そ、そうですな!美人はただそれだけで、いけない魔法使いですな!」

「そのとおりじゃ!君はうまいことを言うな!コルベール君!」

そんなオスマンに同調するように声をかけたのはコルベールである。彼も何か、やましいことがあったのだろう。

 

そんな二人の様子に、ルイズ達はため息を漏らし、呆れた表情となる。

デイダラも「これだからジジイと中年は…」と零しながら、ルイズ達と同様の表情を見せていた。

 

 

生徒達の冷たい目線に気づくと、オスマンは照れたように咳払いをして、厳しい顔つきへと変える。

 

「さてと、君達はよくぞフーケを捕らえ、『破壊の杖』を取り返してきてくれた。これは私の恩人の形見でな。本当に、感謝しておる。ありがとう」

そう言うと、オスマンは自身の机の上に置いてある破壊の杖が入った箱を、大事そうに触りながらルイズ達に感謝の言葉を言う。

 

それを受け、デイダラを除いた三人が誇らしそうに礼をした。

フーケは城の衛士に引き渡され、破壊の杖も無事、学院へと戻ってきたのだ。これにて一件落着である。

 

 

「それにしても、何故ミス・ロングビル……もとい土くれのフーケは、破壊の杖を盗んだ後も学院に現れたのでしょうか?」

「ふむ。おそらくじゃが、彼女はこれの使い方が分からなかったのじゃろう。何せ見たこともない形状の杖ゆえ、このわしでも使い方が分からないのだからな」

コルベールの疑問に、オスマンが笑いながら答える。

 

「学院長でもですか…?」

「…それ眉唾なんじゃねーのか?…うん?」

オスマンの言に、ルイズとデイダラが思わず尋ねる。デイダラには若干の呆れも見えた。

 

「だが、これは確かに強力な武器であることには間違いない。これの元の持ち主は、破壊の杖を使い、一撃でワイバーンを倒したのじゃからな」

「それなら、確かに強力で危険な杖ということになりますな」

それを聞き、ルイズ達は破壊の杖を取り戻せて良かったと、再び安堵の息を吐く。

 

「安心せい。もう二度と盗まれぬ様、より厳重に管理するわい。……さて、物騒な話をしてしまったが、これにて一件落着じゃな。君達にはシュヴァリエの爵位申請を、宮廷には出すつもりじゃ。と言っても、ミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っておるからの。代わりに精霊勲章の授与を申請するつもりじゃ」

追って沙汰があるだろう、とオスマンは続けた。

ルイズ達三人は、ぱぁっと顔を輝かせた。

 

「本当ですか…!?」

「本当だとも。いいのじゃ。君達はそれだけのことをしたのじゃから」

驚いた声で尋ねるキュルケに、オスマンは当然のことだ、と答える。

 

そんなやりとりを見ながら、ルイズはチラリと隣に立つデイダラに視線を向ける。

 

「……オールド・オスマン。デイダラには、何もないのでしょうか…?」

「残念ながら、彼は貴族ではない」

その答えに、ルイズは「そんなぁ…」とうなだれる。

 

今回の任務、ルイズはデイダラがいなければ口ばかりで何もできずにいただろう。ルイズが、フーケに立ち向かうことができたのは、デイダラの存在が大きかったのだ。

大層な称号でなくとも、せめて何かしらのご褒美は出してあげてほしい。というのが、今のルイズの素直な気持ちであった。

 

 

「そんなもんいらねーよ。オイラには何の役にも立たねーからな…うん」

デイダラがそう言うと、オスマンはポンポンと手を打った。

 

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。このとおり、破壊の杖も戻ってきたし、予定どおり執り行う」

「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました!」

顔を輝かせたキュルケを見て、オスマンは満足そうに頷く。

 

「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」

 

デイダラを除いて、ルイズ達が礼をする。

 

 

そうして、一同は学院長室を後にしようとドアへと向かうが、デイダラだけ引き止められてしまう。

 

「ミス・ヴァリエールの使い魔の君。ちょっといいかな?」

「何だ?オイラは、お前らに用は…」

言いかけて、デイダラは自身の左手の印のことを思い出す。

ちょうど良い、こいつらに聞くか。そう考えて、デイダラは立ち止まり、学院長室へと残る。

 

「ルイズ、先行ってろ。すぐ済むだろうからよ…うん」

デイダラにそう言われ、ルイズは心配そうに見つめていたが、頷いて部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

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「…さて、何が聞きたいんだ?…うん?」

ルイズ達が学院長室から出て行った後、デイダラは口を開き尋ねる。

 

「ほっほっほ、豪胆じゃのう。……率直に言うと、わしらは君を単なる平民などとは思っておらん。以前の決闘騒ぎに続き、今回の一件でも君の存在は大きい、そうじゃろう?只者ではないと思っての」

それで聞きたいのじゃ、とオスマンは続ける。

 

「君は一体何者で、どこから来て、何を思っておるのかを。君は、これから何を成そうとしておるのじゃ…?」

 

質問の上に、さらに質問を重ねて尋ねるオスマンに、デイダラは「そう畳み掛けるんじゃねぇよ」と零す。

 

「教えてやってもいいが、その代わりにオイラも聞きたい事がある。まずはオイラのが先だ」

デイダラの言い分に、コルベールは難色を示したが、オスマンはすんなり承諾する。

 

「いいじゃろう。君には爵位を授けることはできないが、質問ぐらいには答えよう」

何でも聞きたまえ、というオスマンに、デイダラは自分の左手の甲を見せる。

 

「ルイズに剣を貰ってな。握ってみたらこの印が光り、何かしらの力を感じた。今までのオイラには無い能力だ」

使い魔のルーンがよく見えるように突きつけながら、デイダラは続ける。

 

「この印は使い魔の印らしいな。だが、さっき言った様な能力は、本来使い魔に与えられる力じゃないはずだ…うん」

お前らなら何か知ってるんじゃねーのか?

 

言い終えると、デイダラは左手を下ろす。

オスマンとコルベールは、言うべきか迷ったが、ちゃんと教えることにした。

 

「……それは伝説の使い魔『ガンダールヴ』の印じゃ。なんでも、彼の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたという。始祖ブリミルに仕えた使い魔の中でも最強の存在だそうじゃ」

伝えられた言葉に馴染みがなかった為か、デイダラは疑問符を浮かべていた。「ガンダールヴ?ブリミル?」と。

 

「と、まぁ。君の使い魔のルーンが伝説のガンダールヴのルーンと酷似していたので、我々が立てた推測じゃが、君の話を聞く限り、どうやら当たっていた様じゃのぅ」

「そのようで……」

納得するオスマンとコルベールを余所に、デイダラは大胆にも、オスマンの目の前にある破壊の杖を箱から取り出してその手に持ってみる。

 

「あっ!ち、ちょっと!」

「まて、ミスタ!」

デイダラの大胆な行動にコルベールが止めようとするが、それをオスマンに止められる。

すぐに、デイダラの左手のルーンが光り出す。あらゆる武器を使いこなすという、ガンダールヴの能力だと確認できる。

 

 

「……なるほど。爆発すんのか、これは…」

 

 

言うや否や、デイダラは目の前のオスマン目がけて破壊の杖を構える。その動きに、淀みはない。

 

「!!」

「な!なにを!?」

コルベールは咄嗟に自分の杖をデイダラに向けるが、遅過ぎたようだ。呪文を唱える暇はない。

 

 

「『M72ロケットランチャー』……誰が作ったのかまでは分からねーが、それがこいつの正式名称らしいぜ。ワイバーンとやらを吹き飛ばしたというのも、どうやら嘘じゃないみたいだな…うん」

「……なにをするつもりじゃ?」

淡々とした様子のデイダラに破壊の杖、ロケットランチャーを突きつけられ、オスマンは静かに問いかける。

 

「武器を掴めば、それの名称や使い方も分かるみてーだ。確かに、お前らの言った通りだな。……さて、知ってることはそれだけか?ならもう用済みだな、うん」

「まだ、私達の問いに答えて貰えてないがの?」

「この後に及んで、そんなこと聞いてどうしようってんだ?」

剣呑な雰囲気の中で、コルベールはゴクッと唾を飲み込みながら、二人のやりとりを見つめる。

 

トリガーに指をかけてみせるデイダラ。

 

「……君はそれを使うつもりなどないじゃろう?」

「何故そう思う?」

「ガンダールヴなら分かるはずじゃ。その武器をここで使えば、君もただでは済まぬぞ…」

「………」

視線を交差させる両者。

睨み合いの末、デイダラが笑みを浮かべながら破壊の杖の標準を外し、元の箱の中へと戻す。

 

「なかなか肝が据わったジジイだな。少し見直したぜ…うん」

「私はそれの威力を目の前で見ているのだ。それを使っておふざけをするには、少し状況が悪かったの」

オスマンは、デイダラが本気ではないと最初から見抜いていたのだ。

コルベールは思わずため息を吐く。勘弁してほしい、と。

 

 

「まぁ、おかげでこいつの謎も解けた。礼を言うぜ…うん」

左手のルーンを見ながらそう言うと、デイダラは踵を返し、ひらひらと左手を振りながら学院長室を出て行こうとする。

 

「これ!まだこちらの質問に答えて貰ってないぞ…!」

オスマンの呼びかけに立ち止まるデイダラ。

デイダラは、わずかに目を後ろに向けながら、左の手のひらをオスマン達に向ける。手のひらの口が、まるで嘲笑っているかのようだった。

 

「オイラはこことは違う、異世界から来た忍だ。…忍とは、まあお前達で言うところのメイジの様な力を扱う者と思ってくれていい」

静かに語るデイダラに、耳を澄ませるオスマンとコルベール。さらに彼は続ける。

 

「オイラが何を思い、何を成そうとしているか、だったな。……今も昔も、オイラの中にあるのは、ひとつの欲求だけだ」

そして、完全にオスマン達へと向き直るデイダラ。相変わらず、左手のひらの口は嘲笑っているようだ。

 

「誰もが恐れ、慄き、驚嘆する。そんな『究極芸術』を創ること…!それが芸術家であるオイラの、目指すべき先だ…!」

 

話は終わりだとばかりに、再びデイダラは踵を返し、扉に手をかける。

 

「待て。……君の言う『芸術』とは、一体何なんじゃ…?」

ガタンと椅子を押して立ち上がり、その背中に問いかけるオスマン。

どこか慌てているのは、デイダラの言う目的があまり穏やかな印象を受けるものではなかったからだろう。

 

デイダラはそんなことか、と背中越しに答える。

 

 

「知れたこと……。芸術は、爆発だ…!」

 

 

 

 

 

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デイダラが学院長室を出て行った後、オスマンとコルベールは複雑そうな表情を浮かべていた。

伝説の使い魔『ガンダールヴ』が、再びこの世に現れた。だが、手放しで喜べるようなものではなかったのだ。

 

 

「うーむ。これではなおさら王室に報告などできんの。連中では彼を御しきれんじゃろうて……」

疲れたように椅子に深く腰掛けながら、オスマンは呟く。どうしたものか、と。

 

「オールド・オスマン。彼は危険です。即刻手を打たないと…」

「だから焦るなと言うに、ミスタ・コルベール。彼はミス・ヴァリエールの使い魔でもあるのじゃ。それにあの若さで相当の手練れ、藪をつついて蛇が出るだけで済めばいい方じゃわい」

もしかすると爆発するかもよ?と、オスマンはからかうようにコルベールに言う。笑えない冗談である。

 

 

「……それにしても、彼が素直にミス・ヴァリエールの言うことを聞いているのが意外でなりません。彼の性格を考えるに、もっと奔放にしていてもおかしくないでしょう」

コルベールの言にオスマンも「うむ」と頷く。

 

「伝説の使い魔ガンダールヴ。それを召喚したのは始祖ブリミルじゃ。あれ程の力を持つ使い魔を御しきるには、普通のルーンによる力以上のものが働いているのかもしれんの」

使い魔のルーンには、召喚された生き物が主人の力になれるように、特殊な催眠効果があると言う。ガンダールヴも、その例に漏れないということだろう。

 

「……まさか。そうだとしたら、ミス・ヴァリエールは失われし虚無の……!」

「これ!だから結論をそう急くなと言うに…!今、分かっていることは、彼の使い魔を御しきれるのはミス・ヴァリエールしかおらんということじゃ。だが、それもどこまで頼りにしていいのやら……」

 

 

オスマンにはどうしても分からない事がある。それは未来である。齢三百を超えるとされる彼ですら、未来とはどうにも読めない、分からないものなのだ。

 

この先、ルイズとその使い魔デイダラが、どうなっていくのか。どんな結末を迎えるのか。

それは誰にも分からないことなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 





アニオリのデイダラ脱走回で、月を見てのくだり。
岡本太郎を参考にして、そう言わせたのは良いけどどんな究極芸術を思いついたのか、まったく分からないのが困りものです。
COを超える芸術となると、「そこに顔があっても〜」で連想できるものとは違ってきますし。攻撃ものって訳ではないんでしょうか?

考えても分からないので、私はあの描写を無視することにします笑


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