ゼロの使い魔は芸術家   作:パッショーネ

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作者は普段は読み専で文章作りにも慣れていません。
というわけで、お手柔らかに。過度な期待などはせずに楽しんでいただければ幸いです。


第1章
1,使い魔召喚の儀


 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー青く澄み渡る空に爆発音が響く。

 

 

ここはトリステイン魔法学院。長い歴史を誇る由緒正しい魔法学校であり、魔法をはじめ、貴族に必要とされる様々な教育を行う教育機関だ。

 

ーーー緑が広がる草原に、また爆発音が響く。

 

現在、このトリステイン魔法学院では2年生による春の使い魔召喚の儀が行われている。といってもすでに終盤に差し掛かっているのだが。

すでに自分の使い魔召喚を終えた生徒達は、各々が呼び出した使い魔との契約を済ませ、儀式の終わりの時を待っている。カエルやモグラ、はたまたサラマンダーやウインドドラゴンなど、召喚された生き物達はまさに多種多様である。

 

ーーー再び鳴り響く爆発音に使い魔達が驚き、騒めく。

 

ついには、使い魔召喚ができていない生徒は残り一人となっていた。

 

 

「おいゼロのルイズ!さっさと召喚しろよ!」

「さっきから爆発ばかりじゃないか!もう諦めた方がいいんじゃないか!」

「さすがゼロのルイズ!召喚もまともにできないなんて!」

 

 

ゼロのルイズと呼ばれた少女は、しかしその罵詈雑言は耳に届いていない様子で、目の前の召喚に集中していた。

 

 

「ミス・ヴァリエール」

自分を呼ぶ声に振り返ると、使い魔召喚の儀を取りまとめている教師ジャン・コルベールが側に立っていた。

 

「時間も押してきていますし、貴女もだいぶ消耗しているでしょう。続きは明日にしましょう」

「ミスタ・コルベール!お、お願いします!あと一回、あと一回だけ召喚させて下さい!」

 

叫びながら、ルイズはコルベールに頭を下げて頼んだ。先程から何度やっても爆発しか起こらず、なにも使い魔は召喚できていない。もしかすると、これ以降も爆発しか起こらないかもしれない。しかし、プライドの高いルイズは、今日ここで諦めて明日に回すことを拒んだ。何より、後ろから感じる自分を嘲笑っているであろう奴等にだけは負けたくないという気持ちがあったのだ。

 

「……わかりました。あと一回だけですよ。これでダメだったら明日に回しますからね」

「は、はい!ありがとうございます!」

 

自分の気持ちを察してくれたコルベールに再び頭を下げてから、ルイズは深く深呼吸をし、成功のイメージを掴むために目を閉じた。

 

「宇宙のどこかにいる私の僕よ!神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より訴え、求めるわ!」

 

もうルイズは、どんな使い魔が来ようが文句は言わない。最悪、自分の嫌いなカエルだって構わない。とにかく、召喚に応えてくれればどんなやつでもいいという気持ちで、今出せる自分のありったけの力をこめて叫ぶ。

 

「我が導きに応えよ!」

 

目を開き、勢い良く杖を振り下ろすと今日一番の爆発が起きた。

 

 

「おい!また爆発したぞ!」

「もう止めてくれよ!ゼロのルイズ!」

後ろに控えた生徒達は再び汚い言葉を投げかける。しかし、その声は爆発音により消され、ルイズにもコルベールにも届いてはいなかった。

 

 

ルイズは目の前の爆煙が晴れるのをじっと待った。確かな手応えを感じたのだ。今度こそ、と願うルイズの目に何らかの影が映った。

 

「やった…、成功した!」

歓声を上げながら、ルイズは影に駆け寄っていった。召喚による疲れもなんのそのである。

 

 

「えっ…」

煙が晴れ、そこにいたものを見た時、ルイズは思わず固まってしまった。なぜなら、そこにいたものは人間だったからだ。

黒地に赤い雲模様という見たこともない特徴的なマントを着ており、長い金髪を頭頂部で結っているという見た目だ。

 

どんなやつでもいいとは願ったが、まさか人間が来るとは露ほども考えてなかったルイズは、戸惑い、この後どうすればいいのか考えあぐねていた。

 

「おお、ようやく成功しましたね。では早く次の儀へ進んで下さい」

「えっ」

どうしたらいいかと止まっていたルイズは教師のコルベールの一言で再び戸惑ってしまった。

 

「ミスタ・コルベール、でも、これ。人間ですよ」

召喚後も立ったまま動かない人間はどうやら眠っているのだとあたりをつけて、ルイズはコルベールに弁明を始めた。

 

「ふむ、見た所変わった服を着ている様ですが貴族ではないでしょう」

「そ、それでも!平民を使い魔にするなんて聞いたことありません!お願いします!もう一度召喚させて下さい!」

平民が使い魔、と考えた瞬間にルイズは叫んでいた。

 

「ミス・ヴァリエール、それは駄目だ。これは神聖な儀式なんだ。貴女もそれは分かっているでしょう」

「うっ…」

平民が使い魔なんて聞いたことがない。そう考えていても、現状やり直しはできない。ならばもう後戻りはできない。ルイズは目の前のこの平民を使い魔にするしかないのだ。

 

 

「おいゼロのルイズ!早くしろよ!」

「そうだそうだ!いつまで待たせるつもりなんだ!」

踏ん切りがつかないルイズに後ろから声がかけられる。もう爆発音は止んでおり、すぐにルイズは反応した。

 

「う、うるさいわね!今終わらせるから黙ってなさい!」

「……では、ミス・ヴァリエール。続きを」

自分が騒ぐ生徒達に注意するよりも早くルイズが反応した為、コルベールはそのままルイズに儀式の先を促した。

ルイズは思ってもいないことを口走った自分を恨みはしたが、覚悟を決めた。

 

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

呪文を唱え、杖を目の前の平民の頭に置いた後、ルイズは自分の顔を平民の顔へ近づけていった。

心の中で悪態をつきながら、近づく平民の顔を見ると肌が土色で、まるで棺桶から出した死体の様だとルイズは思った。

 

そのまま勢いに任せルイズは平民との契約を済ませるとコルベールに向き直った。

「終わりました」

「ふむ、サモン・サーヴァントは何回も失敗しましたが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできた様ですね」

コルベールは平民の左手の甲に使い魔のルーンが浮かび上がるのを見届けると、珍しい紋様だと思いながらも一先ず最後まで粘った生徒へ労いの言葉をかけた。

 

 

「相手がただの平民だったから契約できたんだろ」

「確かに、そいつが高位の幻獣だったらゼロのルイズに契約なんかできっこないって」

ひと段落ついたルイズへ、また後ろからからかいの言葉が飛ぶ。

 

それに対しルイズはその生徒達を睨みつけ、一言言ってやろうと口を開けかけた時。

 

「わっ、何ですかこれ」

平民使い魔のルーンを見ていたコルベールが驚いた様に声を上げた為、ルイズは再び平民の方へ向き直る。

見ると平民は、顔や服の隙間から煙を立ち上がらせていた。

 

「えっ、何ですかこれ。何が起こっているんですか?」

「わ、分かりません。ルーンがしっかり刻まれたと思ったら突然煙が出始めたんです」

 

ルイズは不安げに平民を見つめながら、さっき見た平民の顔色が土色から変わっていくのに気づき、生気を宿していく様に感じた。

 

 

 

 

 

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「ん?どこだ、ここは?」

程なくして煙が収まり、ホッとしたルイズの耳に男の声が聞こえてきた。

 

「……おい、そこのチビ女。ここはどこだ?教えろ。うん」

「んなっ!チ、チチチ、チビ女ですって!ご主人様に対してなんて口のきき方してるのよこのバカ使い魔!」

突然の使い魔の無礼な一言で、ルイズの、平民が男で思ったより低い声なんだな、という呑気な感想は東方の彼方へと吹っ飛んでいった。

 

「さすがは平民。まずはその無礼な口のきき方から躾けないといけないみたいね。ご主人様に対しての礼儀ってやつを叩き込んであげるから覚えときなさいよ!」

「ああ⁉︎何だテメーいきなり喧しくまくしたてやがって!そのうるさい口をオイラの芸術で吹っ飛ばして…うん?」

互いに声を大にした言い合いが始まるかと思いきや、男は途中で何かに気づいた様に静まった。

男は、突然自分の身体のあちこちを確認する様に触り始めた。ひとしきり自分の身体を確かめると、最後に左手のルーンを見ながら、男は驚きの顔を見せる。

 

 

「……お前今、ご主人様がどーのとか言っていたが、オイラを呼び出したのはお前だってのか?」

「また口のきき方!…いいわ!よく聞きなさい。私こそがアンタを召喚したご主人様!ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!」

「ルイズ・フラン、、、なげーよ!そんな長い名前覚えられるか!うん」

 

何ですって〜、と憤慨するルイズを余所に男は「だが、」と一考した。

 

「なんだかよく分からねぇが、お前がオイラの恩人ってことに変わりはないみたいだからな、まぁ礼は言っとくぜ。うん」

「………なんですって?」

男から出た恩人という言葉に、ルイズがどういうことかと問い詰めようとした時。

 

「そろそろいいですか?何事もなかった様だし、私は次の授業が始まる時間だ。話の続きは後でにしてくれたまえ」

コルベールが間に入り、時間切れを告げた。もうそんな時間かとルイズはコルベールを見上げた。

 

「では皆さん、皆さんの次の授業は開けてあります。各自、自分の使い魔との交流に使って下さい。時間もないのでこれで解散とします」

「まったく、ゼロのルイズのせいでとんだ時間くったぜ」

「おいルイズ!お前は歩いて来いよ、どうせフライはおろかレビテーションさえできないんだからな!」

コルベールが解散を告げた直後、ルイズ以外の生徒達は全員杖を取り出し、浮かび上がりはじめた。

 

「なんだと?」

飛んでいく生徒達を見て、男が驚きの声をあげていたがルイズにはどうでもよかった。

そしてルイズと男を残し、全員が学院へ飛んでいった後にルイズは口を開いた。

 

「もう!なんなのよアンタは!」

「なんだよ、オイラに当たるなよ、うん。……それより、お前らこそ何者だ。ここは一体どこなんだ、うん?」

「ああもう、うるさいわね。後で説明してあげるわよ。それより早く行くわよ!」

 

そうして歩き出してすぐ、ルイズは自分が呼び出した使い魔の名前を聞いていないことに気がついた。

「そういえば、アンタの名前聞いてなかったわね」

「なんだよ。お前、オイラの質問には答えずにオイラには質問するってのかよ、うん」

「ああもう黙りなさい。ねぇとかちょっとって呼んでても仕方ないでしょ」

 

それに男は「それもそうか」と納得してルイズの方を向き、自己紹介をはじめた。

 

 

「オイラの名はデイダラ。芸術家だ」

 

 

芸術家を自称する使い魔、デイダラを見上げ、ルイズは胡散臭いと感じ、「そう」と返事をした。

それからは素っ気ない態度に文句を言う使い魔を無視しながら学院までの道を歩き始めた。これからの自分の行く先々に不安を抱きながら、この男、デイダラと共に。

 

 

 

 

 

 

 


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