やはり俺がGF文庫編集部で働くのは間違っている。 作:Balun
小説を書くということの難しさを感じる今日この
頃……。
作家さんってすごいと思います。
自慢ではないが俺、比企谷八幡は比較的優秀な人間である。
物心ついた時から勉強も数学以外は高得点であったし、スポーツだって人並み以上には出来ていたと自負している。
しかし俺には他者から天才と称されるようなものは持ち合わせてはいなかった。もしかすると持っていたのかもしれないが自分自身でそれに気付かない時点で才能は無かったのだろう。「自信がない時点で才能なんかない」ばらかもんの半田先生も言ってたがそれが世の中の真実なのだろう。
それならばそんな自分の才能と向き合うことの出来た一握りの天賦の才の持ち主達は一体どのような気持ちでその天職ともいえる仕事をしているのだろうか……。
「ヒキさん、私お腹空きました。今私パスタの気分なので美味しいとこに連れていってください」
そう言って電話を掛けてきたのは俺の担当作家の可児那由多。原稿の締め切りがそろそろ近いということを伝えるために実家暮らし彼女のもとへと訪ねてみると珍しくもうすぐ終わるというので近くのファミレスで可児那由多の「銀色景色」を読んで待っていたところにこの電話である。
「家で作ってもらえばいいんじゃねえの?」
「むー、だってうちのお母さん今焼きそば作っちゃってるんです。私の体はもうはパスタしか受け付けないんです」
めんどくせぇ。この小娘、執筆するときは全裸じゃないと書けないし、締め切りはいつもギリギリどころか軽く越えてくるし、こうやってことあるごとに俺に命令してくるし……つらい……お仕事って超つらい……。
いや、わかってはいるんだけどねこれが俺の仕事だからね……年下の……それも小町よりも年下の小娘に振り回されるだけの簡単なおしごと……。
しかし、可児那由多の作品が一冊出るか出ないかでその年度の決算に多大な影響を及ぼすことになってしまうこともまた事実だ。
つまり他の何を後回しにしても許されるのだ。そうでもないといくら俺でもこんなお昼のいい時間にのんびりファミレスで読書などしていない。
ちなみに残っていためんどくさそうな仕事はボスを通して土岐のものになっていた、悪いな土岐……。
「いや、俺も美味しいお店とか知らないんですけど」
「だってヒキさん大体一人でいるか女の人と一緒にいるじゃないですか、ヤリチン王子以上のヤリチン大王なんじゃないんですか?」
「おい、ふざけんな、誰がヤリチン大王だ。あいつらとはそういう関係じゃねぇよ。俺を不破先生みたいなチャラチャラしたのと一緒にすんな、怒るぞ」
「いえ、まぁ、正直ヒキさんの女性関係とかどうでもいいんですけど、ほんとのことを言いますと、気分転換がしたいです。ほんとは伊月先輩とがいいんですけど今あの人ヤリチン王子と旅行に行ってるのでヒキさんでいいです、我慢します、妥協します」
「あぁ、うん、わかったから、そんなに強調しなくていいから」
なんで一色といいこいつといい告白してもないのに振られるようなこと言われるんだよ俺。なんなの?遠回しに自分には好きな人がいるから告白とか止めてねってことなのかしらん?
「小説ももうすぐ書き終わるんですけどなんかラストがいい感じに書けないんで一回気分転換したいんですよね」
ふむ、確かに物語のラストは大切だしな。特に可児那由多の「景色」シリーズは一巻で完結するタイプだし、物語の締めには気を遣うのだろう……。
「……わかった。一応ボスに連絡してOKなら連れていってやるよ……まぁ間違いなく許可は出るだろうから俺が家につくまでにちゃんと服着ておけよ」
「やったー、じゃあ玄関で待ってるんで早目に来てくださいねー」
それだけ言うとブチッと電話は切れ、スマホの画面には可児那由多の文字。一つだけ大きくため息をつくと神戸さんに経費で落とす許可を得るための電話をかける。あぁ、あとネットでいい感じのパスタ屋さん探しとかないとな……。
───彼女の担当編集者になり、振り回されてばかりの俺だか何故だかそれが心底嫌だとは思えないのは彼女の人柄のおかげだろうか、それとも俺が単に社畜として洗練されていってしまったからだろうか、そんなふうにを自分自身に問いかけながら俺は読みかけの小説、「銀色景色」に栞を挟むのだった───
──────────
「ヒキさん、これ超美味しいです‼」
「そりゃいい値段するからなこの店」
予想通り経費の相談は簡単に通り、ボスからは
「今日中に原稿を受け取れたら焼き肉に連れていってやる」
とまで言われてしまった。
今俺達がいるのは一色に教えてもらった近くて落ち着いた雰囲気がいい感じのお店である。俺も可児先生もあまりこういったお洒落なお店には縁がないので最初の方は少しばかり落ち着かなかったが、運ばれてきた美味しいパスタの効果もあり、リラックスして話ができるようになった。
「それで?気分転換はもう十分か?」
「はい。ここいい感じですしこれから帰って書いてもいいですか?まだ少し時間かかっちゃいますけど」
「構わねぇよ、今日俺はもう他の仕事も土岐に押し付けたからねぇしな」
「うわぁ、ヒキさんって以外とズルいですね」
「そりゃ、お前、今日の俺の一番の仕事は可児那由多の原稿の確保だからな」
そうやって会話を終わらせると俺達は帰る準備をし始めた。
……うへぇ、やっぱり結構高いなここ、自腹なら絶対来ようとは思わないだろうな。そう考えるとサイゼって安いし上手いし最高だな、ふっ俺はまた改めてサイゼの魅力に取り付かれてしまったようだ。
「でもヒキさんって前の担当の人みたいに入稿早くしろーとかあんまり言わないですよね?あれ結構やりやすくてありがたいなーと思ってます」
「そりゃ、お前、誰だって仕事したくない日とかもあるだろ。俺とか毎日仕事したくないって思ってるし」
「それは社会人としてどうなんですか……。でも私、ヒキさんに担当変わってもらってほんとに良かったなと思ってます。ありがとうございます」
やはり可児那由多はズルい女の子だ。なぜなら一度彼女の懐に入ってしまうと途端に態度が変わるのだ。
基本的には他人に興味がなく期待もしていないのに心を許した相手には甘くなり素直に気持ちを伝えるようになる。自分がそんな「特別扱い」の中に入ってしまうとこちらも適当な扱いなどできるはずがない。出来るだけ気分よく仕事をしてもらいたくなるし、希望があるのなら叶えてあげたいと思ってしまう。
なまじ、無関心や悪意の中で育ってきたためこうもストレートに来られると反応に困ってしまうが可児那由多も返事など求めていないのだ。彼女がそう感じたから素直に伝えたそれだけのことなのにこちらを困らせるのだ。
だから俺はいつものようにあーだこーだと考え、結局のところ───
「おう」
───なんて気の利かない短い返事をするのだった。
そしてそんな俺のなんてことない返事でも俺の心の葛藤を見抜いたのか可児那由多はくすりと楽しそうに笑い満足そうに前を歩いていく。
そんな今にもスキップしそうな彼女を見て俺は俺らしくなくもこれからもこの心地のよい関係が続けられますようになどと普段願いもしない神様に願ってしまうのだった。
──────────
"やっと終わりました。いつものように誤字、脱字などよろしくお願いします"
それから丁度一時間、シンプルなメールの内容通り相変わらず誤字や脱字などがいたるところにあるであろう原稿が俺にメールで届いた。
───天才と凡人は確かに存在する。それは編集者となり様々な物語を書く人と出会い俺はそう確信できた。しかし超が付くほどの天才作家であっても可児那由多はきっと凡人以上に人間らしく繊細で一生懸命でそして優しい女の子なのだろう。
会社に戻り、自分の机でそんなことを考える。そして世界で最初に可児那由多の小説を読めるという幸運を噛みしめながらMAXコーヒー片手に新たな「景色」を読むために送られてきたデータを開くのだった───
今回も最後までありがとうございました。
前回に引き続きFGO報告
えっちゃん当たりました。ついでにゴルゴーンも。
14日にジャックが欲しくて130連ガチャ。溜めてた石を殆ど溶かしたのにジャックは来ない……。
あと、エミヤのお返しの中にある調理本、漫画「エミヤさん家の晩ごはん」のレシピで少しテンションあがりました。こういう細部まで作られてるってイイね。