覇王はどう転んでも覇王なのだ!   作:つくねサンタ

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ひゃっはー!ここからは覇王の快進撃だぜー!黄金だろうが禿げ帝だろうがぶっ潰すぜー!
それはそれとして少し表記を変えました。



新カルネ村1

・カルネ村への引っ越し

 

 次の日、エンリは早速行動を開始した。まずは所持金の半分近くを使って部下たちの武器や、食料を買い集めた。そしてリイジーにぜひカルネ村に付いて来てほしいと頼み込んだ。リイジーは非常に優秀な薬師だし、第三位階までの魔法を使える。エンリにとっては垂涎ものの能力である。

 

「エンリちゃんがわしの力を欲しているんだったら行くしかないね」

 

「え、そんな簡単に決めていいんですか?」

 

「ンフィーレアがいなくなっちまった今、わしがこの街にいる理由はもうないよ。エンリちゃんがこの街を出ると言うのならなおさらね」

 

「では、お願いします。リイジーさんにはカルネ村でポーションを作ってほしいんです」

 

「まかせな。得意分野だからね」

 

 リイジーがエンリに強く頷き返す。エンリはこれで自分の考えていた計画の一つが進めやすくなったと喜んだ。

 

「お姉ちゃんどっかいっちゃうの?」

 

「ネム、お姉ちゃんはカルネ村を新しく再建したいの。ネムも付いて来てくれる?」

 

「うん!お姉ちゃん助ける!」

 

「ありがとう!」

 

 ネムを抱きしめてくるくると回るエンリ。エンリの喜びようにネムも嬉しくなったが、突然エンリが何かに気が付いたかのように苦い顔をして回るのをやめてしまった、そしてネムを地面に下ろして小さくつぶやく。それは非常に悔しげで、世を呪うような暗いつぶやきだった。

 

「……私、また筋肉付いてる」

 

「?」

 

 ネムは首をかしげてそんな姉を見つめていた。

 

 

 

・ブレイン師匠の武技講習

 

 エンリがリイジーとネムを連れてカルネ村に戻ってから、彼女は慌ただしく仕事をこなしていた。一番の問題は食糧問題だったが、そこも何とかクリアできそうだった。エンリが出発前にわりと適当に決めたチーム分けがうまくいっていたようで、エンリが帰って来た時にはかなりの獲物をしとめていたのだ。 

 

「武技を教えてほしい?」

 

「ああ、俺はもっと強くなりたい。そのためには戦士としての技術を上げるのが一番手っ取り早いと判断した」

 

「手っ取り早いってお前……普通はそれ相応の努力をしてだな」

 

 そんな風に忙しそうなエンリとは裏腹に暇な奴がいた。グだ。グの巨体は目立つし、動きも速くないので狩りには全く適していなかった。なのでグは暇をしていた。

 そこでグは考えた。自分の最大の価値はこの強さだ。でも自分は敗北した。ならもっと強くならなければならない、と。なのでブレインに頭を下げて教えを請うた。ブレインがこの村で最も戦士としての強さが上なのだから当然の判断だろう。

 

「ま、いいや。ちょっと見てやるよ。お前に才能があるかどうかな」

 

「よろしく頼む」

 

 ブレインはそう言ったが、実際はもうすでに気が付いていた。目の前にいるトロールはこの村の中でもっとも強いにもかかわらず、最も成長株であることを。それは、初めてグと戦った時にすでに感じていた。

 

「(こいつには間違いなく戦士としての才能がある。もし今の時点で俺よりも強いこいつが、俺と同等の技術を手に入れたとしたら、いったいどうなっちまうんだ?)」

 

「どうした?ブレイン」

 

「いや、本当に種族の差ってやつはずるいと思ってな」

 

 ブレインは笑う。ここで立ち止まっている自分と、ここから始めるグの圧倒的な差を感じ取って。

 難度100まで届けば英雄である人類とは違い、目の前のこいつはおそらくそれを優に超えて行くだろうと確信して。

 その逸材に剣を教える師匠であることに妙な嬉しさを感じて。

 非常に複雑な気持ちがブレインを包む。でも、不思議と嫌な気分ではなかった。

 

「おら、武器を構えろ。俺が武技を発動して見せるから真似してみろ」

 

「ああ。ん?才能を見るって話はどうした?」

 

 ブレインはグの疑問に答えずに刀を構え、武技を放つ。剣を使う戦士が使う基礎の武技、《斬撃》だ。

 

「これが一番初歩の武技だな。まずはこれを発動させることを目指しな」

 

「分かった。ふん!」

 

「あー、そうじゃねえよ。もっとこう剣が自分の体の一部みたいにだな」

 

「こうか?」

 

「そんな感じかな」

 

 グは剣を振り下ろす動作を何度も続ける。やはり筋がよく、ブレインの見立てではすぐに武技を覚えるだろう。

 

「なあ、グ」

 

「なん!だ!」

 

「突き抜けろよ。俺に教わるんだから世界最強まで突き抜けろ」

 

「その!つもり!だ!」

 

「あと休むのも重要だぞ?たまには筋肉を休ませないと」

 

「なお!る!ぞ!」

 

「え?あ、そうか再生能力。うわーここでも種族差かよ。いくらでも訓練できるとか本当にうらやましいな。俺も欲しいぜ再生能力」

 

 ブレインの言葉が途切れたあとも、カルネ村にはグの剣を振る音が響いていた。

 

 ブレインの元に大量の門下生が集まるのはグが武技《斬撃》を使えるようになった数日後のことだった。

 

 

 

 

・カルネ村の狩猟大会

 

 この日、エンリ達はトブの大森林にて大規模な狩猟採集を行っていた。チームごとに分かれて採集を行い、一番成果の多かったチームにはエンリ団長からのお褒めの言葉が貰える。

 

「よく承諾したな」

 

「私が褒めるだけで喜んでもらえるなら安上がりですし」

 

「違いねえや」

 

 エンリとブレイン、グ、ハムスケ、リイジー、ネムはチームに割り振られていない。ネムとハムスケはカルネ村にて待機。グはどこかにいってしまった。現在ここにいるのはエンリとブレイン、そしてリイジーの三人だけだ。

 するとそこにチームが一つ帰って来た。トロールが大きな猪を抱えている。

 

「わ、速いですね。ではそれはこちらで解体しておきます」

 

 現在エンリ達がいる場所はちょっとした広間の様になっており、解体ぐらいならできるスペースを取ることができた。

 

「ダンチョウ!コレ、ヤクソウ!」

 

「え?薬草採って来てくれたんですか?」

 

 オーガの手には草が握られていた。しかし、残念ながら薬草ではなく、ただの雑草だった。

 

「ごめんなさいこれは薬草じゃないですね」

 

「ソウカ……」

 

 オーガは肩を落として仲間達の元に戻って行った。

 

「まったくあいつらは駄目だな。薬草ってのはこういうのだ」

 

 ブレインは自慢げに草を掲げる。しかし彼のも雑草だった……

 

 しばらくしてまた別のチームが戻ってきた。巨大なかめを引きずっている。

 

「うわ、コレすごいですね。食べ応えがありそうです。甲羅も何かに使えるかもしれません」

 

 スケイルタートルの甲羅は非常に硬い。加工して冒険者の盾や鎧に使われているほどだ。

 

「ダンチョウ、コレ、ミテクレ」

 

 エンリのすぐそばまで寄って来たゴブリンが草を差し出す。それは毒草だった。

 

「だ、大丈夫ですか!?手、爛れてませんか!?」

 

「ン、ダイジョウブ」

 

「ならいいんですが…」

 

 毒草は毒薬作りに使えそうなのでひとまずリイジーが預かった。

 

「ふん、そこそこやるな。だが俺のこれには勝てまい」

 

 ブレインが持っていたのは非常にまずいことで有名な木の実だった。どこで取って来たんだろうか。

 

 しばらくしてまた別のチームが戻ってきた。とても大きなウサギを引きずっている。

 

「え、でか。こんな大きなウサギがいたんですね。皮とか売れそうです」

 

 ジャイアントラビットはとても大きく、獰猛なモンスターで、鋭い牙で敵の喉元を食いちぎることもある。馬にも追いつくその敏捷力がとても厄介なモンスターだ。

 

「コレ、トッテキタ」

 

「え」

 

 近くまで寄ってきたトロールがエンリに差し出したのは木だった。何でこんなものをとエンリが混乱していると、木から女の人が生えてきた。

 

「き、君この子達のご主人様?ちょっと助けてほしいんだけど」

 

「ええ!?なにこれ!?」

 

「お、ドライアードじゃねえか?」

 

「うん、僕はドライアードのピ二スン。君の部下のトロールに寄生植物から助けてもらったんだけど、お礼を言おうとしたら引っこ抜かれちゃって」

 

「それはご迷惑をおかけしました」

 

 エンリはぺこぺこと頭を下げる。それを見てピ二スンは気にしないでとほほ笑んだ。

 

「あ、そうだ。もし申し訳なく思ってるんだったら僕も君たちの村に住まわせてくれない?色々働くよ?」

 

「果樹園とか作れます?」

 

「僕一人じゃ無理だけど、他の仲間たちも連れてくればいくらでも。その代わり僕のこと守ってよ」

 

「それはもちろんお約束します」

 

 この日、エモット亜人傭兵団に新入りが入団した。兵糧(を作る)部隊の誕生である。

 

「団長、ただ今戻りました」

 

「あ、グお帰りなさい。ってそれなんです?」

 

「ヒュドラです。首全部ぶった切って心臓貫いたら死にました」

 

「おおう、すごいですね」

 

 コレ解体できるのか?とブレインが目で訪ねてくるが、まあどうにかしよう。リイジーに助けを求めてもいいし。

 

 ちなみに今回の最優秀チームはピ二スンをひっぱて来たチームに決まった。

 

 

 

・移民募集中!

 

 この前の狩猟大会で手に入れた素材を売りに行った帰り、エンリはカルネ村への移民を募集した。今日はその結果を知りにエ・ランテルまで来たのだ。

 

「20人か。結構集まったな」

 

「ええ、帝国の騎士にやられた村の人達が多く募集しています」

 

 エンリは募集要項に現在のカルネ村の様子もきちんと書いてある。人間を信じられない人達が集まりやすく、そう言った人はこの前の事件にかかわってる人が多かった。

 

「ま、犯罪をする人がいたら団長が縊り殺せばいいもんな」

 

「そのつもりです」

 

「……(そのつもりなのか)」

 

 ブレインがエンリから少し距離を置くように遠ざかったが、エンリは気がつかなかった。そのまま目の前にいる人達に語りかける。

 

「みなさんはじめまして、現村長のエンリ・エモットです。見ての通り」

 

 エンリは胸に掲げられているオリハルコンプレートを掲げて見せやすくする。それを見た移住希望者達がすこしざわめいた。

 

「オリハルコン冒険者ですので、道中はご心配なく。村にいるモンスター達も全て私が完全に支配しています。ご安心ください。それでは、行きましょう」

 

 そのままぞろぞろとエ・ランテルの外に歩きだす。そして外に出てすぐに彼らはまた驚くことになる。とんでもなく精強な大魔獣と亜人がいたのだ。

 

「こちらは森の賢王ハムスケとウォートロールのグです。王国戦士長とも互角にやりあえる強さなので道中に危険は一切ありません」

 

 エンリの言葉でさらに移住希望者達がざわめく。これほどまでの戦力を持っているとは思っていなかったのだ。

 

「今日と明日の二日かけてカルネ村に向かいます」

 

 こうしてカルネ村は新しい戦力、農夫を手に入れた。彼らはぺこぺこ頭を下げて挨拶してくる亜人達を見ていったい何を思ったのだろうか。

 

 

 

・エルヤー君が死ぬ(ネタバレ)

 

 ブレインは困っていた。目の前には剣を構えた男。ずいぶんと激昂している。そしてその後ろにはその男におびえるエルフの娘が三人。

 

「何でこうなった……」

 

 俺は団長じゃねーんだぞ、と頭をかき乱すブレイン。時は十分ほど前までさかのぼる。

 

 ブレインは森を歩いていた。まだまだ謎な部分の多いトブの大森林を調べるべく、ブレインやグ、ハムスケなどを中心にトブの大森林を探索していた。

 今日はブレインが探索リーダーの日だった。お供にバーゲストを数匹連れて、トブの大森林の口に向かっていた。そんなときにブレインはおかしな一行を目にした。人間の剣士一人とエルフの奴隷と思われる女性の三人で編成されたパーティーだ。

 

「おい、あんたらこんなところでなにしてる?」

 

「おや、あなたはブレイン・アングラウスでは?」

 

「あ?俺のこと知ってるのか?」

 

 男はなぜかブレインを見て目を細めた。そしてほんの僅かに戦闘態勢になる。ブレインはそれに対して何もしないし何も言わない。

 

「それはそうですよ。貴方は有名ですしね。私の名前はエルヤー。帝国のワーカーです」

「ほー、帝国の。こんなところまでご苦労なこった」

「そちらは?雑魚を引き連れてこんなところでなにをしているのです?」

「探索だよ。この森のな」

 

 こちらの仲間を雑魚と言い切るその姿勢、自分の力にかなりプライドがある人間のそれだ。ブレインは少し不機嫌になっている自分にちょっと笑う。まさか自分がこんなことで精神を揺らがせるとは、と。でもそれも悪くないとブレインは思っていた。

 

「そうですか」

 

「やめとけ、お前程度の奴が俺に勝てるわけないだろ」

 

 エルヤーは腰の刀にそっと手を触れた。それを見たブレインが警告する。それは相手のことを思っての提案だったが、エルヤーにとっては全く意味がないものだった。

 

「やってみなくては分からないでしょう?《能力向上》《能力超向上》しっ!」

 

「ほー」

 

 ブレインは純粋に感嘆の声を上げた。エルヤーが能力超向上を使えることに対する驚きだ。エルヤーのレベルでは使うことが出来ないような上位武技なのだ。もちろんブレインは使用できる。しかし、ブレインにはそうする必要性が感じられなかった。

 

「な!?」

 

「まあまあだな」

 

 ブレインは完全に後出しであるにもかかわらずエルヤーの刀を受け止めていた。武技も使わず、あっさりと。

 

「くそ野郎が!おい!強化をよこせ!速くしろウスノロが!」

 

「魔法詠唱者……か。団長が欲しがりそうだな」

 

「これで私の方が上だ!」

 

「はぁ…」

 

 ブレインが空を見上げつぶやく。どうしてこうなった、と。

 

 これが今までの流れだ。つまりエルヤーが勝手に突っかかってきて、刀防がれてオコになって、本気出したのが今の状況だ。

 

「しかたない。後ろのを土産として持って帰ればいいだろ」

 

「刀を構えろ!」

 

「はいはい。《能力向上》《能力超向上》」

 

 エルヤーがブレインを睨みつけ、ブレインはあきれたような表情をしていた。そして、ついにその細い堪忍袋の緒が切れ、エルヤーは本気の一撃をブレインに向けて放つ。

 エルヤーの本気の一撃は武技と魔法で強化した状態での武技《瞬閃》である。これは銀級以下の低位の冒険者では視認することすらできない最高の一撃。金級でようやく視認できるようになるが、受け止めるには最低でもミスリル級の実力がなくては不可能だ。そして、一撃目を防げても、続きざまに振られる二、三撃目を防ぐことは不可能に近い。エルヤーはただの天狗ではないのだ。しかし―――

 

「ふっ!」

 

 上には上がいる。ブレインはエルヤーの刀を一撃で圧し折っていた。

 

「は?」

 

「分かったか?これが実力差だ」

 

 エルヤーは天才だった。天才ゆえに気付くことができた。いや理解できてしまったと言うべきだろう。天才エルヤーは天才ゆえに分かってしまったのだ。今の自分と目の前の男の圧倒的な力の差を。

 

「ま、来世じゃ真面目に頑張るんだな」

 

「mあっ」

 

 ブレインはエルヤーの首を切り落とした。そして軽く血を落とすと、エルヤーの死体を茫然と眺めるエルフ達の方に向き直った。

 

「おい」

 

「「「!」」」

 

 ブレインに声を掛けられてエルフ達はびくりと震える。ブレインはそんなエルフ達を安心させるように笑みを浮かべた。

 

「安心しな、殺さねえよ。お前らはこれからどうする?行くあてもなく、やりたいこともないんだったらうちに来るか?」

 

 エルフ達は互いの顔を見合わせる。そしてその中でも盗賊職らしきエルフが一歩前に出てくる。

 

「い、いいんでしょうか」

 

「かまいやしねえよ。団長には俺から口添えしてやる。お前らどうせその男に暴行でも受けてたんだろ」

 

 ブレインはエルフ達の動きからなんとなく何をされていたのか分かっていた。だからこそ躊躇なく殺したのだ。ブレインの言葉にエルフ達が必死に頷く。

 

「うちにはゴブリン、オーガ、トロール、人間、ドライアード、森の賢王、ウォートロール、バーゲスト、ヴォルフと色々いるからな。今さらエルフが三人増えても何の問題もねえよ。ただいくつかルールがあるからな。それだけ守れば問題ない」

 

 ブレインはエルフに村に付いて説明する。エルフ達は驚いていたが、これからはその村の一員で、仲間であることを説明したら泣き始めた。やっと現実感が湧いてきたのだろう。ブレインに何度も感謝を言ってくる。

 

「うちの村に明確な掟は無いが、まあよその村と大して変わらんだろ。住人が変なだけだ。殺す盗む犯す放火するあたりをしなければ問題ない。ただ他と違うところはうちらの村の村長は団長って呼ぶことかね」

 

 エルフ達はまるで子供が自分の描いた絵を自慢するかのように楽しげに話すブレインを見て、これからの幸せな生活を幻視した。

 

 

 

 

おまけ

今までのエルヤーのエルフの扱いを聞いたエンリの反応

ブレイン「かくかくしかじかな扱いだったらしい」

エンリ 「そのエルヤーって男は殺しましょう」

ブレイン「いや、もう殺しちゃったんだが」

エンリ 「地獄に落としてやるべきです!」

ブレイン「いや、もう地獄に落としちゃったんだが」

エンリ 「その罪は死でしか償えません!」

ブレイン「その理屈だとエルヤー罪償えちゃってるんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半ちょっとスランプ気味かもです

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