覇王はどう転んでも覇王なのだ!   作:つくねサンタ

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ランキングに乗った!読んでくださった皆さん。ありがとうございます!

血染め→血塗れに直しました。


エ・ランテル3

 エンリとブレインが連れだって冒険者組合に入ると周りが二人を凝視した。あの、超新星であるエンリ・エモットが男を連れてきた。そう言う驚きだ。

 

「すいませんちょっといいですか」

 

「はい。何かご用事ですか?」

 

「冒険者登録をお願いします。こちらの人の」

 

 そんな中エンリは視線を気にすることもなく――気付いていないとも言う――堂々と受付まで進んだ。そしてブレインの冒険者登録をお願いする。

 

「かしこまりました。お名前を教えていただけますか」

 

「ブレイン・アングラウスだ」

 

「え?」

 

 周りでどよめきが起こる。エンリ・エモットの連れについて少しでも情報を得ようと考えて耳を澄ましていた冒険者の声だ。しかし彼らが驚くのも無理はない。エンリから見ればここ最近出会った人物の中でブレインと同格は他にも一人と一匹いる。ゆえにそんなにすごい感じがしていないが、冒険者たちからすればブレインの名は非常に有名だ。

 

「あれがブレイン・アングラウス。あの王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフと互角の戦いをしたという凄腕剣士」

 

「実力は最低でもオリハルコンクラスだぜ?」

 

「ばっか。王国戦士長とサシでやりあえるんだぞ?アダマンタイトは確実だろうが」

 

「で、それとチーム組むつもりなのか?どこに行こうとしてんだあの嬢ちゃん」

 

「そりゃアダマンタイトに行こうとしてんだろ?」

 

 エンリは目の前で驚いた様子で固まる受付嬢を見てブレインがわりと本気で有名なことに気が付いた。

 

「ブレインさん有名なんですね」

 

「そりゃそうですよ!?この王国でも戦士なのに名前を知らない人がいたら潜りですよ!あの王国戦士長と互角の戦いを繰り広げたんですよ!?」

 

「はぁ…」

 

 受付嬢が興奮してエンリの方に身を乗り出してまで熱弁してくるが、エンリが今までにちゃんとした戦闘シーンを見たことがあるのはガゼフだけなのであまり実感は湧いていない。

 

「それより、他にも報告したいことがあるんですが?」

 

「あ、すいません。興奮してしまって」

 

「実は、今日の狩りの帰り道に盗賊の塒を見つけまして」

 

 エンリは盗賊団を壊滅させたこと。そこから女の人を五人救出したこと。そして盗賊が貯め込んでた金目の物をあらかた回収してきたことなどを簡単に説明した。

 

「それでですね、盗賊団のところにあったものを換金してほしいんです。そのうち二割を捕らわれてた人たちの補助金にしてください」

 

「いいんですか?」

 

「はい。せっかく助けたのに飢え死にでもされたらいやですから」

 

「そうですね。ではそういたしましょう。それで一つ聞きたいんですが、その顔の血は?」

 

「え?」

 

 エンリは指摘されて血が付いていたことに初めて気が付いた。苦笑いと共に血が付いた原因を話す。

 

「多分盗賊の頭を叩きつぶした時に付いた返り血ですね。あはは、困っちゃいますね」

 

「そ、そうですか」

 

「?」

 

 エンリはなぜか口ごもった受付嬢を不思議な目で見る。受付嬢は少し引き気味にエンリの顔と血で染まった棍棒に交互に視線を送る。

 

「血塗れ……か」

 

「血塗れのエンリ……」

 

「叩きつぶしたってなんだよ。……怖すぎんだろ」

 

「あいつも化け物か……」

 

 周りが先ほどとはまた別の理由でざわめいたが、エンリは気にしてなかった。ただ隣にいたブレインは面白そうに笑っている。

 

「あとこれ今日の狩りの成果です。清算をお願いします」

 

「あ、はい」

 

 大きめの布の袋をカウンターに置く。かなりの量だが一週間も続けてこのくらい狩ってるので受付の方も慣れたように中を確認する。

 

「すげえ量だな」

 

「ハムスケさんに乗って移動して、手当たりしだい狩ってるんです」

 

「なるほど、そりゃあかなりの速度で狩れるな」

 

「ええ」

 

 エンリとブレインが話しているうちに清算が終わり、報酬が渡される。今日もなかなかの量だ。それとブレインも銅のプレートを渡された。

 

「それでは」

 

「はい。またよろしくお願いします」

 

 エンリとブレインは連れだって外に出る。少し緊張したのかエンリが力いっぱい伸びをする。それを見つけたハムスケが寄ってくる。

 

「終わったでござるか?」

 

「はい。お待たせしました」

 

「それでこれからどうする?」

 

「そうですね…ブレインさんはどこに泊まる予定ですか?私は知り合いの家に泊ってるんですが」

 

「適当にどっか安い宿にでも泊まるかな」

 

 二人と一匹は歩きだす。とりあえず進むのはバレアレ家の方角だ。

 

「一回ブレインさんをみんなに紹介したいんですよね」

 

「姫、なかなか惨いことするでござるな」

 

「ん?何だ惨いって」

 

「……こっちでござる」

 

 エンリは新しくできた優秀パーティーメンバーを紹介する以上の考えは持っていないのだが、ハムスケやンフィーレアにとってはそれ以上の意味合いになりえる。ハムスケはブレインをエンリから離し、こそこそと状況を説明した。

 

「…ということなんでござる」

 

「なるほど。そりゃ惨いな。なんにも気づいてねえあたりがさらに惨たらしいぜ」

 

「ブレイン殿は姫にそう言う感情は抱いてないでござろう?」

 

「ああ、面白い奴だとは思うがそれだけだな」

 

 エンリは自分から離れてコソコソ話す二人を見て首をかしげる。それから仲がいいのはいいことだよねと笑みを浮かべた。

 

「明日あたりンフィーレアにも紹介しようかな…」

 

「おい明日いきなり紹介するとか言ってるぞ」

 

「開幕から叩きつぶす気でござるな。さすがは姫」

 

 鈍感な少女とその仲間たちの会話ははた目から見たらかなり喜劇的だった。しかしその雰囲気をぶち壊す叫びがあたりに広がった。

 

「アンデッドの大軍だーー!!冒険者は集合墓地の方に加勢に行ってくれーー!!住民は避難!!避難しろ!!」

 

 エ・ランテルで起きた悲劇。ズーラーノーンによって生み出されたアンデッドの大軍が、エ・ランテルに住む全ての生者に牙をむいた。そしてこれこそが覇王エンリとその仲間たちが――公的に――歴史上最も初めに活躍した事件である。

 

 

 二人と一匹が迫りくるアンデッドを蹴散らしながら突き進む。雑魚ばかりなのでほとんど一刀か、尻尾の一振りで蹴散らされている。ブレインが近寄って来たスケルトンを蹴散らし、エンリに笑いかける。その笑みは非常に獰猛な戦士のそれだった。

 

「いやー、本当にさすがですわリーダー。まさかチームを組んで5分でこんな事件が起きるとは。いや、まじぱねえっす」

 

「違いますよ!?私のせいじゃないですからね!?これ全然私関係ないですから!」

 

「うん。分かってるよ落ち着け」

 

 ブレインの適当な敬語によるエンリいじりを受けて慌てたエンリがぶんぶんと振り回した棍棒がスケルトンをいともたやすく砕いていく。エンリの筋力はもうすでに銀級冒険者にも劣るものではないのだ。それを見てブレインは口元をひくつかせる。

 

「さて、アンデッドの群れに突っ込んだのはいいけどよ」

 

 ブレインがぐるりとまわりを見渡す。どこもかしこもスケルトンだらけで強そうなアンデッドは一匹もいない。

 

「雑魚ばっかだな」

 

「さっき集合する死体の巨人(ネクロスォーム・ジャイアント)と戦ったじゃないですか」

 

「アレもそんなに強くは無かったからなー。もっと、こうスリルのある戦いがしたいんだよ」

 

「はいはい」

 

 綺麗に流されたなー。どんまいでござる。と後ろから仲よさげな会話が聞こえてくる。しかしエンリは無視した。エ・ランテルの冒険組合長であるアインザックから直接依頼を受けているのだ。―――この事件の首謀者を叩いてほしい、と。無論普通の銀級に頼む依頼ではないが、エンリのチームにはアダマンタイト級の化け物が二体いる。それはエ・ランテルの最高位冒険者であるミスリル級とは比べ物にならない実力差である。

 

「真面目にやりましょう。それにこの件の首謀者がかなり強い可能性もありますよ」

 

「ま、確かにこれだけの数だからな」

 

「でもどこにいるんでござろうか?」

 

「アンデッドの進行方向から察するにこちらで間違ってはいないと思うんですが」

 

 今エンリ達はアンデッドの波に逆らう形で進んでいた。進路上にいるアンデッドは全て打ち砕き、もうかなりの数を仕留めている。

 

「もう少し進んでみようぜ」

 

「ですね」

 

 大胆に骨を砕きながら進撃を続けるエンリ達一行。その姿はまさしく進撃のエンリ。

 

「あ、人間の匂いがするでござる。しかも複数」

 

「お、ビンゴか」

 

 そしてついにハムスケの索敵範囲に今までとは違うものが入った。こんなアンデッドだらけのところに人間がいるはずもない。ブレインの言うとおりほぼ間違いなく首謀者だろう。

 

「あれでござる」

 

「うわー」

 

「見るからに怪しいな」

 

 ハムスケがさした先にはローブを着こんだ怪しげな集団。リーダーらしき男は禿げていて、黒い球の様な物を手に持っている。

 

「じゃあ突撃しましょうか。まずハムスケさんが《チャームスピーシーズ/全種族魅了》をぶちかましてから何でここにいるのかを聞き出す。首謀者だったらそのまま殺っちゃいましょう」

 

「さらっと怖いこと言うなリーダーは。というかハムスケは魔法も使えるのか?とんでもねえな」

 

「それほどでもないでござる。それでは行くでござる!」

 

 ハムスケが駆けだす。それと同時にエンリとブレインもハムスケの後を追った。

 

「《チャームスピーシーズ/全種族魅了》!」

 

 ハムスケの魔法が発動し、一人を除いて首謀者達の目の色が変わる。どうやら抵抗(レジスト)されなかったようだ。しかしリーダーの男は抵抗(レジスト)に成功していた。

 

「くそっ!冒険者か!いけい!骨の竜(スケリトル・ドラゴン)!」

 

「くらえでござる!」

 

 リーダーらしき男が手に持っていた玉を掲げると空から骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が降ってくる。しかしハムスケはそれよりも速く男に接近し、その首を叩き落とした。

 

「ナイスです!ハムスケさん!」

 

「当然でござる!」

 

「油断大敵だよー?」

 

 エンリがハムスケを褒めたのとほぼ同時に先ほどまでいなかった女がエンリのすぐそばまで接近していた。その顔にいたずらっ子のような笑みを浮かべたその女はそのままエンリの首に向かってスティレットを突っ込む。

 しかしそれは防がれた。エンリのそばにいたブレインによって。

 

「こいつは強いな。リーダー、こいつは俺がやる。そっちを片付けといてくれ」

 

「わ、分かりました。負けないでくださいよ。少なくとも死なないように」

 

「ああ、まかせろ」

 

 ブレインは注意を女から離さない。それは目の前の女が自分と同格、もしくはそれ以上だと直感しているからだ。そしてそれは相手の女も同じだった。

 

「ふーん。思ってたよりも強いのが出てきたなあ。あなた名前は?」

 

「ブレイン・アングラウスだ」

 

「なーるほど。あんたがあのブレイン・アングラウスか。私と互角にやりあえるレベルの剣士。こりゃ私も本気を出さないといけないかなー?」

 

 そこまで言ってから女は笑みを浮かべる。にちゃあと音が出そうな粘着的な笑みだ。

 

「で・も。このクレマンティーヌ様が負けるはずねーんだよ!」

 

「そうかい!」

 

 ブレインは余裕だ。目の前の女が自分はおろかガゼフよりも強いかもしれないことに気が付いていながらも余裕を崩さない。なぜならこちらには仲間がいるからだ。それまで耐え切れば確実にこちらの勝利となる。

 

 そしてエンリとハムスケはスケリトル・ドラゴンを相手に圧倒的な戦闘を繰り広げていた。ハムスケが終始圧倒している。それも当然だ。スケリトル・ドラゴンの難度は約48。それに比べてハムスケは100近い。魔法と言う攻撃手段を使わなくても十分すぎるほどに強いハムスケには魔法無効化の能力も意味をなさない。

 体当たりと尻尾の一撃で攻め、5分もしないうちにスケリトル・ドラゴンはハムスケに敗北した。

 

「ハムスケさん!ブレインさんに加勢を!」

 

「任せるでござる!」

 

 しかしブレインとクレマンティーヌの戦闘はまだ終わっていなかった。かなりの接戦だが、ブレインの方が圧倒的に押されていた。

 

「くらうでござる!」

 

「くっ」

 

 しかしそれもここまでだ。スケリトル・ドラゴンを倒すまでにブレインを殺せなかったクレマンティーヌにもう勝機は無い。

 

「ブレインさん!まだ行けますか!?」

 

「当然だ」

 

 そしてブレインとハムスケによる共同戦線が始まり、クレマンティーヌは押され始めた。そもそも中距離からガンガン質量のある攻撃を放てるハムスケはクレマンティーヌからするとかなりやりにくい相手だ。強さは武技を発動させた状態で互角。そして、ハムスケが下がり、ブレインが前に出る。それと同時にハムスケが魔法を発動させる。

 

「《ブラインドネス/盲目化》!」

 

「な、くそがっ!」

 

 元の国から与えられた装備を身にまとっていればこの魔法も防げただろう。しかし今のクレマンティーヌの装備はそれほどいいものではなく、ハムスケとのレベル差もほとんどなかった。ゆえに防げない。

 

「じゃあな」

 

 そしてそこにブレインの刀による一撃が決まった。クレマンティーヌの首が地に転がる。即死だ。

 

「ふー、強かったでござるな。強敵だったでござる」

 

「だな。こいつガゼフより強かったんじゃねえか?」

 

 ハムスケとブレインが体の力を抜く。激戦だったのだ、それも仕方ないことだろう。エンリは無事に勝てたことが嬉しく、笑みを浮かべて一人と一匹に近づいた。手にはポーションが握られている。さすがの彼らもあれほどの敵相手に傷が無いわけではなかったからだ。

 

「どうぞ二人とも。傷治してください」

 

「おお、助かる」

 

「かたじけのうござる」

 

 二人が容器の中の液体を飲み干すと、二人の傷が一瞬で癒える。さすがはバレアレ印のポーションと言ったところか。

 

「それじゃあ戻るか?」

 

「いえ、一応中を見ておきましょう。ブレインさん。ついて来てください。ハムスケさんはここで待機で」

 

「ちょっと待ってほしいでござる」

 

「どうしました?」

 

 エンリの疑問に答えずにハムスケがリーダーの男の死体に近づく。そしてその手にいまだ握られている玉を口にくわえて戻ってきた。

 

「これ、それがしがもらってもいいでござるか?」

 

「いいものなんですか?」

 

「人間を操るマジックアイテムのようでござる。しかし、それがしの様な獣を操る力は無いでござる」

 

「え?」

 

 人を操るマジックアイテムを何に使うつもりなのだろうか。エンリは少しハムスケが分からなくなった。

 

「これを使えばもう少し魔法が使えるようになるでござる」

 

「よく分かりましたね?」

 

 なるほど魔法の補助をしてくれるマジックアイテムだったのかとエンリは少し安心する。それと同時にいつそのことに気が付いたのか疑問に思う。

 

「あの骨の竜を呼び出した時にこれが光ったのを見たでござる。それでもしかしたら、と」

 

「へー、分かりました。一応組合長にも許可を取りますけど、良いと思いますよ」

 

「これでもっと姫の役に立てるでござる!」

 

 喜ぶハムスケの頭を撫で、エンリとブレインは今度こそ建物の中に入って行った。そして地下に潜った先にはエンリにとって驚愕する人物が立っていた。

 

「……ンフィーレア?」

 

 




ん?あれ?これどうやってンフィーレア助ければいいんだ?
お客様の中に《グレーター・ブレイク・アイテム/上位道具破壊》を使える方はいらっしゃいませんか?

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