覇王はどう転んでも覇王なのだ!   作:つくねサンタ

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エ・ランテル2

 まだ朝早い時間。エンリの一日はまず朝ごはんを用意するところから始まる。バレアレ家に住みついてから一週間経って分かったことだが、ンフィーレアもその祖母のリィジーも生活習慣がめちゃくちゃだった。朝ごはんを食べないことが多い。なのでエンリが早く起きて叩き起し、朝ごはんを食べさせる。それがエンリの日課となっていた。

 

「お姉ちゃんおはよぅ」

 

「おはようネム。まだ寝ててもいいよ?」

 

「てつゅだぅ」

 

 毎日夜はネムと寝ているため、エンリが起きるとネムも起こしてしまうことが多い。一応慎重に起こさないようにベッドから抜け脱してはいるのだが。

 そして、ネムはあの事件が起きてからよく家事を手伝うようになった。それが半分嬉しくて半分悲しい。嬉しいのはもちろん頑張ってこちらを手伝ってくれることだ。家事だけではなく薬草などのすり潰しなどでンフィーレア達の手伝いもしている。悲しいのはあの元気だった妹がおとなしくなってしまったこと。

 ネムの助けを借りて四人と一匹分のご飯を作り、ネムに二人を起こしてくるようにお願いする。ネムが駆けて行ったのを見届けてから自分の相棒とも呼べる魔獣にご飯をあげに行く。

 ハムスケはその巨体から分かるようによく食べる。森にいたころはそんなに食べなくてもよかったらしいが、人間の食事はおいしくて食べすぎてしまうらしい。

 

「おはようございますハムスケさん。朝ごはんです」

 

「お!今日もおいしそうでござるな!いただくでござる!」

 

 がつがつと食べ始めたハムスケを置いて中に入る。その時にはもうンフィーレアもリィジーも朝ごはんの置かれたテーブルに集合している。

 

「ではいただこうかね」

 

「はい」

 

 エンリ達は祈りをささげてから朝ごはんを食べ始める。エンリは必死にご飯をかきこむネムの面倒を見ながら自分もしっかりとご飯を食べる。冒険者は体が資本だ。しっかりと食べておかないと仕事に差し支える。

 

「エンリちゃんは今日どうするのかね?」

 

「今日もエ・ランテル近郊でモンスター狩りですかね」

 

 エンリが冒険者登録をして今日で一週間になるが、エンリは毎日エ・ランテル近郊にモンスター狩りに行っていた。お金を手に入れるためでもあったが、ハムスケの散歩の意味合いもあった。そのおかげかすでに銀級冒険者にランクアップしている。稼ぎもだいぶいい。

 

「気を付けてよエンリ。弓矢とか使ってくるモンスターもいるんだから」

 

「大丈夫よ。防具も買ったし」

 

 この一週間のエンリが稼いだお金は全てエンリの防具を買うお金に使われた。エンリも死にたくは無いのでガゼフからもらったお金も合わせてだいぶいいのをそろえた。

 

「じゃあ私は準備して行くね。ネムをお願い」

 

「うん。任せて」

 

「お姉ちゃん怪我しないでね」

 

「大丈夫。ネムもいい子にしててね」

 

 エンリは朝ごはんで使った食器を洗ってから自分の部屋に戻る。そして毎日手入れを欠かしていない装備品を身につける。

 まずは武器だ。エンリは軽量化の魔化がかかった鋼の棍棒をメイン武器にしている。剣は刃の当て方などをちゃんと身につけないといけないからだ。エンリの武器は護身用にすぎないので、振り回すことしか考えていない。

 次に防具を身につけて行く。これはあまり重装備ではない。エンリはハムスケにすぐ飛び乗る能力が必要なのであまり重い装備は装備しないことにしているのだ。

 そして腰にポーション入れを巻き、そこにポーションを差していく。これはこの家に来た初日にンフィーレアがくれたもので、回復の他にも飲むと身体能力を強化することが出来るものや、相手の動きを阻害することが出来るポーションもある。しかしハムスケがとても優秀なので今まで一回も使われていない。

 そしてさらにマジックアイテムを装備する。防御系のマジックアイテムで、《シールド・オブ・プロテクションフロムアローズ/矢守りの盾》という一定以下の威力の矢によるダメージを無効化することができる。

 

「うん。忘れ物は無いかな」

 

 外で野宿をするわけではないので荷物は最低限だ。昼のお弁当と水筒、討伐証明を入れる袋位である。忘れ物が無いことを確認したエンリは外にいるハムスケを連れてエ・ランテルの外へ向かう。すでに何度も通ったため門番とは顔見知りだ。

 

「んー、やっぱり外は解放感が違うでござるな」

 

「そうですね」

 

 ハムスケはバレアレ家の馬小屋で寝泊まりしてもらっているが、馬もいるために少々手狭だ。なのでいっそう外に出るのがうれしいのだろう。

 

「それでは姫、それがしの背中に乗るでござる。獲物を探すでござるよ」

 

「はい。お願いします」

 

 エンリがハムスケの背中に乗って高速で移動しながら獲物を探す。それがエンリとハムスケの基本戦術だ。こうすることで短時間に普通よりもはるかに多い獲物を見つけ、狩ることができる。今まで狩ってきたモンスターは金級パーティーでも問題なく狩れるようなものばかりだが、狩りと狩りの間の速度は比べ物にならない。

 

「良い風ですね」

 

「そうでござるな」

 

 ハムスケはかなりの速度で走っているうえに、乗りにくいフォルムだがエンリはなぜか全く姿勢を崩したりしない。エンリ自身もかなり不思議に思っていたのだが理由は簡単だ。彼女がライダーの職業(クラス)を持っているからだ。

 

「むむ、さっそく獲物発見でござる!」

 

「行きましょう!」

 

 ハムスケの五感が獲物をとらえた。エンリの掛け声に合わせる形でハムスケの速度が上がる。見えてきたのはゴブリンとオーガの集団。ここ一週間に狩った獲物の中でもっとも遭遇率が高い。

 

「どーんでござるよ」

 

「ぐぎゃっ!」

 

 ハムスケがまだこちらに気が付いていなかった集団に突っ込む。ゴブリンが三匹引き殺された。仲間の死体と、自分たちとは格の違う魔獣を見てゴブリン達が一斉に逃げ出す。そのうち逃げ遅れたオーガとゴブリン二匹を尻尾で蹴散らす。

 

「ハムスケさん!回り込みましょう!」

 

「合点でござる!」

 

 ゴブリンとオーガはあまり足は速くない。ハムスケなららくらく追いつける。そしてゴブリンを優先的に蹴散らしていく。ゴブリンなら尻尾の一撃で殺せるからだ。オーガはゴブリンよりは少しタフだし、ゴブリンよりさらに動きが鈍い。

 後はもう作業みたいなものだ。十分もかからずに群れは全滅していた。エンリはハムスケに周囲の警戒を頼み、耳を切り取って行く。モンスターの討伐証明の位置は多岐にわたるが、亜人系はたいがい耳だ。

 

「姫、終わったでござるか?」

 

「はい。回収し終わりました」

 

「それではまた新しい獲物を求めて走るでござる!」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 エンリがハムスケに飛び乗り、走りだす。この調子なら今日もかなりの額の報酬を期待できるだろう。

 

 

 

 問題が起きたのはそろそろいい時間になり、エ・ランテルへの帰路を急ぐ途中の時だった。始まりはハムスケの一言だ。

 

「?今、悲鳴が聞こえたでござるよ?」

 

「え?」

 

 この一週間でハムスケがこんなことを言ったのは初めてである。初めてであるがエンリは珍しいことではないと判断した。なにせここはエ・ランテル近くとは言っても外側だ。モンスターだって少ないがいないわけではない。下級の冒険者がやられて悲鳴を上げる可能性はあるだろう。

 

「一応行ってみましょう。助けられるものを助けずに放置するのは後味悪いですし」

 

「分かったでござる。こっちでござるよ」

 

 ハムスケは少しだけ速度を上げて近づいて行く。少し走った先でエンリの視界に入ったのは、男に嬲られる女性。男の後ろには洞窟の様なものがあった。女性はその中につれて行かれそうになったので抵抗したのか、それとも中から逃げ出そうとして捕まったのかは分からない。でもそれは蹂躙であり、エンリにとっては最も許せない部類の光景だった。

 

「姫、あの女子もう死んでるでござる」

 

「………」

 

「姫?」

 

「少しここで待っていてください。私が右手を上げたら攻撃を」

 

「あ!姫!」

 

 エンリはハムスケから降りるとそのまま身も隠さずに男達の元に向かう。エンリがまずしたことは胸元に冒険者のプレートを付けているかの確認だ。そして次に自分のプレートを隠す。それらを終えてから、エンリはその男達に話しかけた。

 

「あの、すいません」

 

「うおっ!?んだてめえ」

 

「おい、小娘。テメエここでなにしてんだ?」

 

 女を殴る手をいったん止め、そのガラの悪い男達がこちらに近づいて来る。かなりの悪臭を放っている。それに立っていた位置からすると見張りだったのかもしれない。

 

「あなたがたは盗賊かそれに順ずる職業の方ですか?」

 

「「ぷははははは!!」」

 

 エンリの質問に男達はいったん顔を見合わせた後大きく笑いだした。その中にはエンリへの嘲りが見える。

 

「それ以外どう見えんだ?嬢ちゃん」

 

「お前アホなのか?もうおうちには帰れねえぜ」

 

「そうですか。でもあなたがたも生きて明日の朝日を拝むことは出来ないと思いますよ?」

 

「ああん?へばぁっ」

 

 エンリは右手を上げてから左側にいた見張りの男に思いっきり棍棒をたたき付けた。この怒りを少しでも冷ますためのものだったが、エンリが考えもしなかった現象が起こった。――男の頭がぐしゃりと潰れたのだ。これにはさすがのエンリも驚き、思考が止まる。普通なら危険だが、もう一人の男も驚愕で動きを止めていたので大事には至らなかった。そして二人が驚愕から覚める前にハムスケがもう一人の男の首をたたき落とした。

 

「姫、強かったのでござるな。オーガよりも強いのではござらんか?」

 

「え、いやさすがにそれは……ないです…よね?」

 

 エンリはあの事件以降ずいぶんと筋肉が付いた自分を思い出し、冷や汗を流す。しかし頭を振ることでその悪夢のような妄想から抜け出した。

 

「それよりもハムスケさん。中にいる奴らも殲滅しましょう。時間との勝負ですよ」

 

「合点でござる。ではそれがしが前を行くので姫は後ろを付いて来てほしいでござるよ」

 

 二人は洞窟内に侵入する。中はハムスケでも通れるほど広く、戦闘に支障をきたすことは無かった。そして一時間後、エンリとハムスケは中にいた盗賊の掃除を終えた。

 

「終わりましたね。捕らえられてる女の人達がいるかもしれません。見て回りましょう」

 

「そうでござるな」

 

 エンリとハムスケは一番奥の部屋に入る。そこには薄着を着て、枷を付けられた女性が5人いた。彼女たちはエンリを見て安堵と困惑の混じり合ったような表情を浮かべ、部屋に入れないために顔だけ突っ込んできたハムスケを見て恐怖と驚愕が混じり合った表情を浮かべる。

 

「私は銀級冒険者のエンリです。助けに来ました。もう大丈夫ですよ」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「で、でも盗賊団がいたはずじゃ」

 

 エンリの言葉に女性達は喜びと不安を隠し切れていない。そのためエンリは安心させるために笑みを浮かべてもう一度同じ言葉を言った。

 

「大丈夫です。この洞窟内にいた盗賊は全員掃除しました」

 

「そ、そうですか」

 

「あれ?」

 

 エンリは疑問に思う。なぜか彼女たちは安心せず、逆に恐怖している。しかもその恐怖の対象は自分のようだ。彼女たちの視線が血で汚れた棍棒と返り血が付いたエンリの顔に向かっているのだが、エンリはそれには気が付かなかった。

 

「こちらに来ていただけますか?鍵はここにあるので、枷を外しましょう」

 

 エンリは一人づつ枷を外していき、さらに盗賊からはぎ取った服を与える。感謝してくる女性達に軽く手を振ってもしよければ盗賊が貯め込んでいた物を持って行く手伝いをしてくれないかと頼む。報酬にいくらか分けると言うと女性たちは喜んで動き始めた。そして…

 

「荷車があってよかったですね。捕らわれてた人たちも乗れますし。ハムスケさん、引いてもらえますか?」

 

「まかせるでござる」

 

 盗賊達の洞窟に有った金目のものを大体乗せ、ハムスケが引く荷車が出発しようとした、その時だった。

 一人の男が正面から近づいて来ていた。ハムスケがその男を見た瞬間に警戒する。エンリもまたその男が今までに見てきた人間の中でもトップ3に入るほどの強敵だと分かった。

 

「おい、お前ここでなにしてる?」

 

「こちらのセリフです。私は銀級冒険者のエンリ。今、すぐそこの洞窟に住みついていた盗賊を殲滅し、その報告をしに行くところです」

 

「なるほど…」

 

 男からは思ったよりも敵意を感じない。ただこちらを面白そうに眺めているだけだ。なのでエンリは少しその男から目を離し、後ろにいる女性たちの方を向いた。

 

「知っている男ですか?」

 

「い、いえ。盗賊団の仲間ではないと思います。見たことないです」

 

「そうですか…」

 

「姫、こやつガゼフ殿クラスでござる」

 

「ええ、分かってます」

 

 ハムスケの警告にエンリもうなづく。この濃密な剣気とも呼べる圧はガゼフに似ている。しかしハムスケの出した単語に一番大きく反応を返したのは目の前の男だった。

 

「お前らストロノーフを知ってるのか?」

 

「共闘した仲でござる」

 

「共闘?」

 

「まあ仕事の関係で、です。それよりそろそろ名前をお聞きしたいんですけど?」

 

「そう警戒するな。俺の名前はブレイン。ブレイン・アングラウスだ。ストロノーフに勝つために日々剣を鍛えている」

 

 ブレインはそう言うとにやりと笑った。それは子供っぽいというか、ずいぶん自然な笑みだった。

 

「少し話さないか?」

 

「一緒にエ・ランテルに向かいながらでしたらかまいませんよ」

 

「ああ、それでいい」

 

 ブレインはエンリの隣に乗り込んできた。この距離だとハムスケが助けに入る前に殺される可能性があるが、エンリは気にしなかった。今の短い会話でブレインの性格がなんとなく読めたからだ。

 

「ブレインさんとお呼びしても?」

 

「ああ、それでいい」

 

「ではブレインさんはどうしてここに?」

 

 ハムスケが荷車を引っ張り、なかなかの速度で走りだした中でエンリとブレインは普通に会話をする。最初に聞いたのは一番の疑問である。

 

「あー、それはだな…」

 

 ブレインが言葉に詰まったのにはわけがある。そもそもブレインは先ほどエンリが殺戮した盗賊団に護衛として雇われていて、たまたま離れている間にエンリが来たのだ。なので今ここに来た理由を考えている真っ最中なのだ。

 

「俺は昔王都の御前試合でガゼフに負けてな。それが悔しくて毎日必死に剣を鍛えてたんだが、そこでここの盗賊団の噂を聞いて試し斬りにきたのよ。目標は人間であるガゼフだから技はやっぱり人間で試したくてな」

 

「なるほど。あの人にですか…険しい道ですね」

 

「でもブレイン殿もかなり強いでござるよ。ガゼフ殿とかなりいい勝負ができると思うでござる」

 

「まあこれだけ努力して差が広まってたらさすがに……なぁ?」

 

 二人と一匹はかなり話が弾んだ。ウマが合ったのだろう。エ・ランテルに付くまでずっと話続けていた。

 

「ブレインさん、どうです?冒険者になって私たちと組みませんか?同格のハムスケさんといつでも模擬戦ができますしお得ですよ」

 

「おお、そりゃお得だな。お前もだいぶ面白い奴だしな。いいぜ、組もうじゃねえか」

 

 エンリはブレインのそのストイックに強さだけを求める姿勢を気に入っていたし、ブレインもエンリのことを気に入っていた。それに同格といつでも模擬戦ができると言うのはとてもいい。人型じゃないのが少し惜しいがそれを置いてあまりある魅力があった。

 

「では、これからよろしくお願いします」

 

「まだ登録はしてないけどな」

 

 エンリとブレイン。それは近い将来、覇王と呼ばれる少女とその懐刀と呼ばれる男である。

 

 

 

現在のエンリさん

 

エンリ・エモット LV11

職業レベル

ファーマーLV1

テイマーLV3

ライダーLV3

コマンダーLV2

ジェネラルLV2

 

 

 

 

 




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作中に出ていた《シールド・オブ・プロテクションフロムアローズ/矢守りの盾》はアインズ様が使った《ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ/矢守りの障壁》の劣化版だと思ってください。一定以下の威力の飛び道具を無効化するマジックアイテムです。
ちなみに最初の予定ではブレインさんはハムスケさんとの激闘の末ぶっ殺されるはずでした。何でこうなった(;・∀・)

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