覇王はどう転んでも覇王なのだ!   作:つくねサンタ

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今回はオリジナル展開。



顔剥ぎ1

 ここは王都リ・エスティーゼ。王国で最も人口が多い都市だけあって様々なものが流れてくる。それを目的としてここを拠点とする冒険者も数多い。

 しかし、その日大通りを歩いていたそれらは王都でも初めて見られる顔だった。

 

「おい、何だあれ。トロールじゃねーか」

 

「ああ、アダマンタイト級冒険者血塗れが使役してるモンスターだとよ」

 

「さっき見た魔獣は?」

 

「トブの大森林の生きる伝説、森の賢王だそうだ」

 

「まじかやべえな」

 

「それよりも血塗れと目は合わせない方が良いぞ。あいつ一人でアダマンタイト級冒険者蒼の薔薇を壊滅させたって噂だ」

 

「嘘だろ!?それは化け物とかそういうレベルじゃないぞ!?」

 

 王都の住人達に遠巻きで見られていることを感じ、少し居心地が悪そうに身を震わせるガディ。それを見たブレインが彼に声をかける。

 

「殺すなよ」

 

「当たり前、俺はエンリ様の従魔。問題を起こせばエンリ様の評判、傷つく」

 

「ならいーけど」

 

「ブレイン様、ガディ様、屋台で適当に食べ物を買ってきました」

 

「あんがと」

 

「これは助かる」

 

 ブレインとガディの元に小走りで近寄ってきたのはエルフ達だ。彼女達が買ってきた物を食べながらブレインはあたりを見渡す。

 

「平和だな、ここは」

 

「団長がいないから」

 

「お前らにもそう思われてるのかあいつ。まあ間違えちゃいないけどな」

 

 ブレインはガディの言葉に思わず苦笑いになる。このトロールにもそう思われていると言うことはうちの村人はほぼ全員がそう思ってると見ていい。なぜならガディはカルネ村でもかなりのエンリ信者である。その忠誠心はグにも匹敵する。

 

「あいつらは大丈夫かね…」

 

 この王都には観光できたのだが、この人数だとかなり目立つし移動も大変だ。なのでエンリの提案で三つの班に分かれた。

ブレイン、ガディ、エルフ達の五人

エンリ、ハムスケ、リイジーの三人

ネム、キバクロ、グの三人

 この三つだ。エンリの班も王都を観光しているはずだが、ネムの班は宿屋に待機していたはずだ。それと言うのも、今日で王都は三日目なのだが、初日にネムが人混みに流されて以来人混みが苦手になってしまったのだ。

 

「何か問題が起こらなきゃいいけど」

 

「何でこう人の街に行くといつもいつも何か起こるんですかね」

 

 エンリがハムスケ達と王都を歩いていると、悲鳴が聞こえた。ブレインの儚い希望も粉々に打ち砕くような悲痛の叫びだ。

 

「リイジーさんは宿に戻っていてください。ちょっと様子を見てきます」

 

「気を付けるんだよ!」

 

「はい、それはもちろん。ハムスケさん!」

 

「合点でござる!」

 

 エンリは慣れた様子でハムスケにまたがると、走るように頼む。ハムスケは人混みの上を飛び越え、屋根を走り、悲鳴の上がった場所に急行した。

 

「なっ!?」

 

 そこにいたのは首があらぬ方向に曲がった衛兵らしき男の死体が二つ。腰が抜けて動けなくなっている女性が一人。そして蒼の薔薇リーダーのラキュースが腕から血を流して前方を睨みつけていた。

 

「ラキュースさん!」

 

「エンリさん、気を付けてください!そいつは強い!」

 

「ええ、分かります」

 

 ラキュースが見つめる先にいたのは醜悪な見た目をした化け物。その正体は――

 

「ハムスケさん、敵は吸血鬼です」

 

「これが吸血鬼でござるか」

 

 そう、吸血鬼。本来なら白金クラスのモンスターだ。ハムスケならば一撃で殺せてもおかしくない雑魚だ。しかし、エンリはその考えを完全に否定する。吸血鬼は日中では動きが鈍る。しかし目の前のこいつは昼間なのにアダマンタイト級冒険者であるラキュースに傷を負わせた。

 

「ぎあやあああ!うらめしゃあああ!そおかおがうらみゃああ!」

 

「え?」

 

「来るでござる!」

 

 エンリはヴァンパイアの声に意味のあるものを感じたが、それが何かを理解する前に戦闘は始まった。ヴァンパイアが地を蹴る。その速度はブレインよりも上だ。ハムスケは慌てて横に回避する。

 

「にがさあああああい《エレクトロ・スフィア/電撃球》!」

 

「跳んで!」

 

 横から飛んでくる雷の球を茫然と見つめていたハムスケだったが、エンリの言葉にとっさに跳び上がる。そしてそばにあった家の屋根に飛び乗った。

 

「姫!こいつ強いでござる!」

 

 ハムスケが声を荒げるのも無理はない。エンリの記憶が確かなら今の魔法は第三位階だ。カルネ村ではリイジーとエルフだけが使える位階の魔法。ハムスケはもっと上の位階の魔法を使えるが、補助系がほとんどで攻撃魔法は無い。

 

「ハムスケさん!接近戦です!」

 

「了解でござる!」

 

 エンリはそう言ってから自らのスキルを発動させる。これは自分のまたがっている騎獣の身体能力を上昇させることができるものだ。同時にハムスケも武技を発動させる。しかし相手はさらに格上だった。

 

「ならならなら!こっちもおおおおーーー!」

 

 そう言うと様々な強化魔法を自身にかけて行く。これでは差を埋めるどころかさらに上に行かれただけだ。だが、エンリとハムスケを助けるべく動いた者もいる。ラキュースだ。彼女はもうすでに自らの傷を治療し終えていた。

 

「援護します!」

 

「お願いします!」

 

 ラキュースからハムスケに対して補助魔法が飛んで行く。これでこちらの方が強化的には上。後はどちらの方が強いかはっきりさせるだけだ。しかしエンリはなんとなくだが目の前にいるヴァンパイアの強さが分かっていた。

 日光による能力値の低下と魔法強化の差、そしてエンリのスキルによる強化を含めてもこちらの方が少し下だ。エンリはそう直感した。そしてそれは間違っていない。実際このヴァンパイアはレベルで言えば50ほどはある。LV40のハムスケでは勝ち目は薄い。が、時間稼ぎぐらいなら出来るだろう。グかイビルアイが来るまで粘れば勝てる可能性は十二分にある。

 

「ハムスケさん。倒そうとは考えずに時間を稼ぎます。グかイビルアイさんが来るまで粘りましょう」

 

「合点でござる。《能力向上》」

 

 エンリの作戦にハムスケはうなずく。それが最も勝率が高いとハムスケも気が付いているのだ。そして、戦闘が始まった。

 

「ぎゃぎゃがyがy!!」

 

 ヴァンパイアは真っすぐ突っ込んでくる。それに対してハムスケは動かずに、さらに新しい武技を発動させた。それは《領域》と呼ばれるブレインのオリジナルの武技だ。ハムスケは尻尾の届く20m

あたりまでをこの領域で完全に知覚できる。そしてそこにさらにブレインから教わった武技《瞬閃》を発動させる。それこそがハムスケの奥の手、『尾鞭一閃』

 

「喰らうでござる!」

 

「ごぎゃああああ!!くそなまいきなああああああ!!」

 

 エンリは冷や汗をかく。ハムスケの尾鞭一閃はブレインの虎落笛を尻尾で再現した武技であり、グを除けばカルネ村に防げる存在はいない。それほどの一撃を受けてあのヴァンパイアはそれほど答えた様子がない。

 

「これは……思ってたよりやばいかも」

 

 激戦だった。ハムスケの武技、エンリのよる強化、的確な指示出し、ラキュースの魔法による支援。そのどれもがなければ負けていただろう。それほどまでの強敵だった。

 だが、勝てたわけではない。なぜか途中でヴァンパイアが逃げ出したからだ。追おうとしたのだが、どこからか現れたゾンビ達に邪魔をされて逃げられてしまった。

 増援が到着したのはハムスケの尻尾の一撃が最後のゾンビの頭を叩き潰した時だった。

 

「団長!ご無事ですか!?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。グはリイジーさんに聞いて?」

 

「はい。遅れてしまい申し訳ございません」

 

「かまいません。それにしても」

 

 強かった。とてつもなく強かった。エンリはその場にへたり込む。今までの敵の中で最も強かったと言っても過言ではない。それほどまでの相手だった。

 

「おいおい団長大丈夫か?」

 

「なんとか。あれはやばいですうちじゃグしか勝てないでしょうね」

 

「うげ、それは本気でやばいな」

 

 遅まきながら到着したブレインもヴァンパイアの強さを知って顔をしかめる。はっきり言って難度100にも届いていないブレインや他の部下が来ても意味は無かっただろう。

 

「難度150くらいですかね。多分ですけど」

 

「150か。そりゃあ確かに俺らじゃ無理だな。逆によく三人でしのいだな」

 

「ぎりぎりでしたね」

 

「本当に」

 

 ラキュースも寄ってくる。今までハムスケの治療に当たってもらっていたのだ。幸いハムスケも大した怪我は無かったが、もうしばらく戦っていたらラキュースの魔力が尽きて負けていただろう。

 

「とりあえず冒険者組合に報告に行くか」

 

「そうですね。そうしましょう」

 

 エンリ達はガガーランの提案に従って冒険者組合へ向かう。ゾンビの死体――と言っていいのか、とにかく倒したゾンビを回収している衛兵を横目に見ながら、エンリは胸の中に何かもやもやしたものがあるのを感じていた。

 

 

 

 難度150近いヴァンパイアが王都内にいる。その報を知らされた王都の冒険者組合はすぐさま冒険者たちを集め、作戦会議を開いた。

 

「――というわけでエンリさんと私、そしてハムスケさんの三人がかりでぎりぎりどうにか持ちこたえられました。日光による能力の低下、回復魔法、武技などの要素があってぎりぎりです」

 

「難度はどのくらいなんだ?」

 

「最低でも130。エンリさんの推測では150近い」

 

 会議室に集まった冒険者の内、ミスリルのプレートを下げた冒険者が手を上げて質問する。そしてそれに対するラキュースの答えを聞いて黙りこくる冒険者たち。彼らが内心で思っていることはラキュースにも手に取るように分かった。つまり、勝てるわけがない。

 

「150って、そんなの倒せるのか!?」

 

「いくらなんでも無理だろおい」

 

「嘘ついてんじゃないのか?自分の功績を大きくさせるために」

 

「ンなわけねえだろ。テメエみたいなせこい奴とアダマンタイトは違うんだよ」

 

 倒せるわけがないと絶望する者、必死に考えを巡らせる者、嘘であると笑い飛ばそうとする者。色々な発言が飛びかう。それを止めたのはエンリだった。エンリは手のひらを叩き合わせて大きな音を立てる。それだけで今まで大声で悲鳴にも似た発言を繰り返していた冒険者たちは黙った。

 

「そのくらいにしておきましょう。私の配下のグは難度180近い強さを持っているので討伐自体は問題ありません。問題はどうやってヴァンパイアを見つけ出すのか。それとどうやってグとの直接対決に持ち込むか、です」

 

 エンリのその堂々とした立ち振る舞い、勝てる根拠、そして明確な指針を示され、ようやく冒険者たちが理性的に作戦を検討し出す。

 

「探すしかないだろ」

 

「どうやってだ?向こうは魔法も使える。顔を変える魔法があるかもしれない」

 

「幻術か」

 

「何かヴァンパイアが引き寄せられそうな、餌にできそうなものは無いのか?」

 

「そんなものあるか?」

 

「ないな。聞いたこともない」

 

 色々な案が飛びだす中、エンリは一人の冒険者が言った内容について深く吟味していた。餌を使っておびき出す。それが今のところ最も行けそうな案だ。しかし、何を餌にすればヴァンパイアが釣れるのかが分からない。

 深く考え込んでいたエンリを現実に引っ張り上げたのはまた別の冒険者だ。オリハルコンのプレートを首から下げている。

 

「その吸血鬼はどんな容姿だったんだ?参考までに聞かせてほしい」

 

「顔ですか?そうです………顔?」

 

「いや、一応聞いておこうと思ってだな」

 

「顔、そうか顔だ」

 

「姫?」

 

 ハムスケが首をかしげてエンリの顔を覗き込む。しかしエンリはそれに気がつかないほど頭を回転させていた。思い出すのはあのヴァンパイアが使役していたゾンビ。衛兵に回収されたゾンビ達には共通点があった。

 

「顔です!それに性別…」

 

「顔でござるか?」

 

 エンリが顔を上げるとその会議室にいた全員がエンリの方を見ていた。それはこの状況を打開してくれるかもしれないと言う期待が込められていた。

 

「あのヴァンパイアが操っていたゾンビには二つの共通点があります。一つは顔が剥ぎ取られていたこと。もう一つは全員女性だったこと。あれが死体をもとに作られたとするならば、あれはあのヴァンパイアの被害者。つまりヴァンパイアが襲った人間であるはず」

 

「そう言えば今日あのヴァンパイアが襲っていたいたのも女性だったわね。でもそれがどうしたの?」

 

「餌ですよ。多分あのヴァンパイアは逃げたんじゃない」

 

 不思議そうに首をかしげるラキュース。そしてこちらを見る冒険者たち。それらをちらりと見てからエンリは続ける。

 

「ヴァンパイアの狙いは間違いなくその女性でしょう。ですが襲う途中でもっと綺麗な女性に邪魔をされます」

 

「……あ、私!?」

 

「ええ。そして顔剥ぎはターゲットをラキュースさんに変えたはずです」

 

「なぜラキュースに替えたんだ?ラキュースの方が強くて獲物としては不適格だろ」

 

 エンリの説に質問をしてきたのはイビルアイだ。エンリはイビルアイの疑問に少し考えてから再び口を開く。

 

「顔を剥いだ理由は色々考えられますが、女性の顔だけを剥いでいたと仮定すると容姿に何かコンプレックスがあるとかかもしれません。今にして思えばあのヴァンパイアは『その顔が恨めしい』と言っていた気がします」

「まあヴァンパイアは醜悪な見た目してるからな」

「だから綺麗な顔を剥いで集めている。無い話じゃねえな」

「それなら鬼ボスに標的を変えたのも納得」

「鬼リーダーは容姿はとてもいい」

 

 ガガーランとブレインが同意してくれる。イビルアイも納得したようで一歩下がる。周りの冒険者たちも異論はないようだ。

 

「話を戻しますが、ラキュースさんにターゲットを変えたヴァンパイアがそれをさらに変えなければいけない事態になります。私とハムスケさんの加勢です。しばらく戦ったヴァンパイアはこのままでは駄目だと言う結論に至ったはずです。撤退を決め、ゾンビ達に私たちの足止めをさせる。そして――」

 

 エンリは言葉を詰まらせる。しかし一回深く深呼吸をしてから続けた。

 

「おそらく最初のターゲットを狙いに行ったのでしょう」

 

「え?」

 

 ラキュースが目を見開いてエンリを見てくる。エンリに確証はないが、確信はしていた。この理由ならばあのヴァンパイアが途中で引いた理由も理解できる。しかしこの仮定が正しいとするとラキュースが助けた女性はもう生きていないだろう。

 

「多分ですけどね。でももしそうだとしたら……いけるはずです」

 

「なにがでござるか?」

 

「釣りですよ」

 

 エンリはくいっと竿を引き上げる仕草をすると、部屋にいる全員を見渡して宣言する。

 

「あの人間を舐め腐ったヴァンパイアは餌にかかり次第ぶっ殺します」

 

 エンリの体から発せられる圧に冒険者たちが息をのむ。エンリも静かにキレていたのだ。手加減するつもりはなかった。

 

「作戦を考えたので私の言う通り動いてください。大丈夫、きっと勝てる」

 

 エンリは微笑んだ。それは全てを支配し意のままに操る覇王の笑みだ。

 

 

 

 

 

顔剥ぎ LV51

種族レベル

ヴァンパイア LV15

職業レベル

ウィザード LV10

ネクロマンサー LV10

ファイター LV10

カースドナイト LV6

 




次回、顔剥ぎVSグ+イビルアイ

六腕「俺らの出番は?」
黄金「ないです」

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