太平洋上空。
快晴の空に二つの影が飛翔していた。
先ほどペガサス・コーウェンから出撃したジェガンD型の2機だ。
サブフライトシステムであるベースジャバーに乗っかり、周辺偵察を行っている。
脅威が認められていない今はビームライフルをシールドに格納し、両腕はベースジャバーの取っ手部分を掴み、機体は屈んだ状態で飛翔している。
〈こちらノーベンバー1、現在周辺を偵察中。今のところ異状はない〉
〈こちらペガサス・コーウェン、了解。引き続きお願いします〉
〈ノーベンバー1、了解〉
フォード隊長は周辺で異状がないことを艦に伝えた。
それにしても本当に静かだ。
〈静かだなって考えてるだろ?〉
通信モニターにフォード隊長の顔が映る。
「はい、普段なら耳が痛くなるくらい五月蝿いんですけどね」
地球だと常に通信が飛んでくる。
今貴機はここを飛んでいると知らせてくるナビゲーターや味方が通過する等々。
中には戦闘中の会話が聞こえてくるときもある。
それが今はないのだ。
まるで異世界に来たような感じがして落ち着かない。
〈確かにな、俺も同じ事を考えてた。まるで異世界に来たような感じがして落ち着かない〉
「フォード隊長もそう感じますか?」
〈あぁ。それにGPSから送られてくるこの地図なんか、俺達が知ってるようなやつじゃない事も〉
メインモニターに表示されている地図を見直す。
コロニーが落とされたオーストラリアにあるはずの巨大な穴がない。
もしかしたら本当に異世界に来てしまったのだろうか?
先ほど艦長と通信で会話をしたとき、異世界にいることが前提で話しているように感じた。
もしそれが正しければ・・・。
〈・・・・ん?何だ?〉
フォード隊長が何かに気づいた時、コックピット内で警告音が鳴り響き、こちらに何かが接近してくる事を知らせる。
「フォード隊長!レーダーに反応あり、近づいて来ます!」
〈IFF応答がないな、待避するぞゲン!〉
「了解!」
操縦悍を握り機体を左に旋回させる。
するとレーダーに反応していた不明機が急激に速度をあげて接近してくる。
「不明機が加速した!?」
〈ゲン、全速力で行くぞ!念のためビームライフルでも構えとけ!〉
「了解!」
操縦悍についているスイッチを操作し、ビームライフルを装備する。
ジェガンはシールドに格納していたビームライフルを手にし即座に構える。
〈ペガサス・コーウェン!こちらノーベンバー1!偵察中レーダーに反応あり、不明機が加速してこちらに接近中!!〉
フォード隊長が艦に緊急連絡するも不明機に追い付かれてしまった。
「フォード隊長!」
〈仕方ない、牽制射撃で近づけさせるな!〉
フォード隊長機のジェガンはビームライフルを不明機が向かって来ている方向に向けて撃つ。
銃口から強い光が発せられ、ビームは一直線に飛んでいった。
不明機がレーダー上で散開し、速度が少し落ちたことを確認した。
〈こちらペガサス・コーウェン、ユウ・カジマだ!状況は!?〉
通信モニターに艦長が映る。
「艦長!」
〈こちらノーベンバー1、偵察中不明機に追われ待避中!追い付かれつつも牽制射撃で振り切っています!〉
〈状況は理解した、だがこちらも発見されて前進しているが海の上だ。いづれ追いつかれる、すぐに合流して護衛についてくれ!〉
〈ノーベンバー1了解、合流する!〉
急いで艦に向かわないと、帰る場所がなくなる。
それだけは絶対にあってはならない。
思考をフルに活用してなにか手段がないか探る。
ふとひらめいた。
ジェガンD型にはシールド内蔵式2連ミサイルランチャーが装備されている。
それを煙幕代わりに使えれば振り切れるかもしれない。
「フォード隊長!合図したらミサイルランチャーを撃ってください!」
〈ミサイル?・・・なるほど、タイミングは任せる!〉
「了解!」
操縦悍のスイッチを操作し、シールド内蔵式2連ミサイルランチャーを選択。
不明機が徐々に接近してくる。
敵はかなり小さいような感じがしたが今はそんな事を気にしている場合ではない。
不明機は射程圏内に入った。
「今です!!」
〈了解した!!〉
操縦悍の発射ボタンを押す。
2機のジェガンがもつシールドからミサイルが全弾放たれた。
不明機は減速、距離が離れる。
即座に武器を切り替え、頭部バルガンでミサイルを撃ち落とす。
フォード隊長機もそれに合わせて頭部バルガンを発射。
ミサイルは全弾爆発し、爆発煙が空中に広がる。
〈いい判断だゲン〉
「ありがとうございます!」
〈急いで艦に戻るぞ!〉
「了解!」
爆発煙が晴れる前に二人はこの空域を離れた。
太平洋海上。
ペガサス・コーウェンはスラスターで海上をゆっくりと進んでいた。
整備が完了したMSは15機、カタパルトの上で迎撃態勢を取っていた。
ミサイル又は砲台としてエコーズのロトも半数を出撃させジェガンと共にカタパルトで待機している。
宇宙での運用を前提として造られたこの艦は重力下で飛行することができず、辛うじて浮いている状態で海上を進んでいる。
スラスターの出力を上げればそれなりの速度にはなるが、高出力を連続して使うとエンジンに負担がかかり最悪航行不能になる。
ユウ・カジマは囲まれる事を想定しこうしてMS等を使って艦を守る作戦をたてた。
とはいっても、作戦は至ってシンプルでその場で目標を攻撃し艦に近づけさせない。
もし敵が艦に乗り囲んだら艦内で待機しているエコーズの隊員や白兵戦に特化した乗員に迎撃させるように配置させた。
あとは敵がどうでるかだ。
「艦長、多数の不明機はあと30分程度で追い付いてきます」
ベネズ中佐がユウ・カジマに逐次不明機の状況を報告する。
「時間の問題だな・・・偵察に出た二人は?」
「何とか不明機を振り切ったらしく全速力で向かっているとのことです」
「何とか振り切れたか」
偵察に出た二人が無事だとしったユウ・カジマは安心した。
だがそれもつかの間だった。
「・・・艦長!レーダーが新たな反応を感知!」
クルーの一人がレーダーを見ながら報告する。
「どこからだ!」
「12時の報告です!数は・・・重なっていてる?反応が2です!先ほどの反応よりも三倍の速度で接近している模様!」
三倍の速度と聞いたクルー達は焦り始めた。
30分のはずが予定よりもかなり早く来たのだ。
ユウ・カジマは受話器を取り耳に当てる。
「総員戦闘準備!足の早い奴が接近してきている、火器管制及びカタパルトにいるMSは警戒を厳となせ!」
再び艦内に警報が鳴り響き、全乗組員が再び慌ただしく動き出す。
「前方のカタパルトにいるMSは正面からくる不明機に注意しろ!側面及び後方のMSは引き続き警戒!火器管制も同じ、全方向を警戒だ!」
ユウ・カジマが指示をし、クルーはその通りに動く。
前方のメガ粒子砲が動きだし、動作点検を終える。
「不明機との接触まであと2分!」
レーダーが焦らせるように接近警告を鳴り響かせる。
ベネズ中佐はいつでも動けるよう通信オペレーターの側に立つ。
「不明機、来ます!!!」
「火器管制!正面の不明機を照準!まだ撃つなよ!」
前方カタパルトにいるMS達が近づく不明機にビームライフルの銃口を向けた。
このまま戦闘になるかと思われた。
通信オペレーターが待ったをかけるように報告する。
「艦長!国際救難チャンネルから通信が!」
「国際救難チャンネルに?」
国際救難チャンネルは所属関係なしに互いと話し合うことができる通信チャンネル。
普段は艦が轟沈し助けを求める際に使われる。
それが戦闘前に使われるということは・・・何かあると見ていい。
だがそれだけではない。
ユウ・カジマ達は正面から来た2機の不明機を見て驚愕する。
その不明機は・・・MSよりもかなり小さく、独特なデザインのパワードスーツか何かを身に纏った女性達だった・・・。
基本視点はユウ・カジマとゲン・タチバナになります!(^o^)