真っ黒な問題児も異世界から来るそうですよ? 作:ローダ
それではどうぞ
―――箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベット通り・噴水広場。
ノーネームの屋敷で一日を過ごし、ノーネーム一行はフォレス・ガロのギフトゲームを挑むためにコミュニティの居住区に向かう途中、昨日のカフェテラスで声をかけられた。
「あー!昨日のお客さん!もしや今から決闘ですか!?」
昨日の猫耳店員が近寄ってきて6人に一礼した。
「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!この二一〇五三八〇外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てでアイツらやりたい放題でしたもの!二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」
ブンブンと両手を振り回しながら応援する。
「ええ、そのつもりよ」
「おお!心強い御返事だ!」
飛鳥の言葉に満面の笑みで返す猫耳店員……が、急に声を潜めて俺達に喋りかけてくる。
「実は皆さんにお話があります。フォレス・ガロの連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ」
「居住区画で、ですか?」
それに答えたのは黒ウサギだった。その言葉を知らないのか飛鳥は不思議そうに小首を傾げる。
「黒ウサギ。舞台区画とはなにかしら?」
「ギフトゲームを行う為の専用区画でございますよ」
「しかも傘下に置いているコミュニティや同士は全員ほっぽり出していました」
「……それは確かにおかしいわね。」
「でしょ?何のゲームか知りませんがとにかく気を付けてください」
猫店員の声援を受けながら、フォレス・ガロの居住区画へ向かう。
「あっ、皆さん!見えてきました…けど」
黒ウサギは一瞬、目を疑った。他のメンバーも同様のようだ。
なぜなら居住区のはずなのに森のように木々が鬱蒼と生い茂っていた。
「……ジャングル?」
「確かフォレス・ガロの本拠は普通の居住区だったはず…それにこの木は」
ジンがそっと気に手を伸ばす。そこで清人はあるものを見つけた。
「これは契約書類だな」
勿論、今回のゲームの内容が書かれている契約書類だ。
そこには
『ギフトゲーム名“ハンティング”
・プレイヤー一覧
久遠飛鳥
春日部耀
多々良清人
ジン・ラッセル
・クリア条件
ホストの本拠内に潜むガルドガスパーの討伐。
・クリア方法
ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外では、契約によってガルドガスパーを傷つける事は不可能。
・敗北条件
降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“フォレス・ガロ”印』
「ガルドの身をクリア条件に…指定武具で打倒!?」
「こ、これはまずいです」
ジンと黒ウサギから悲鳴のような声が聞こえてくる。
飛鳥は心配そうに問う。
「このゲームはそんなに危険なの?」
「いえ、ゲーム自体は単純ですが問題はこのルールです。このルールだと飛鳥さんのギフトで彼を操ることも耀さんのギフトで傷付ける事も出来ないことになります」
「どういうことだ?」
「恩恵ではなく契約で身を守られているのです」
「すいません。僕の落ち度です。こんなことならその場でルールを決めておけば…」
ルールを決めるのが主催者である以上、白紙のゲームに承諾するのは自殺行為に等しい。しかし、ジンが自責の念を抱く隣では、余裕そうな清人の姿。
「うーん。武器さえ見つければいいんだろ?なにか難しいか?」
「…随分簡単に言うのね。こちらの攻撃が通らないっていうの聞いてた?」
「そっちこそ昨日何聞いてたんだ?俺はどんな攻撃も効かないんだぞ?これでも対等になっただけ。というか指定武具で討伐できるなら対等以上だ」
「な、なるほど。確かにそれならまだ安心できますね。恐らく身体能力も清人さんの方が上でしょうし」
「当然だ」
「…だとしても、まずは指定武具を探さないと始まらないじゃない」
「だな。飛鳥はどこを探すつもりなんだ?」
「え?どこって。…とりあえず森の中を」
「俺が思うに、指定武具は奴の近くにあるんじゃないか?」
「…確かに。自分の弱点を目の見える所に置いておきたいって気持ちは分かる」
「でも、それじゃ清人君以外が近づくのは危険よ。ほんとにそこにあるのか分からないのに危険を犯すのは…」
「え、俺1人で行けばいいんじゃねえの?」
「…好きにしてちょうだい」
「そうするよ」
そんなやりとりをする間に入口の門が閉まり、ゲームが開始された。
すると清人は黒い翼を広げ、空に飛び上がった。
「清人なら空から探せるから効率がいいね」
「あら、春日部さんも飛べるじゃない」
「…あんなに速くは無理」
空では清人が森の上空を縦横無尽に飛び回ってガルドを探している。
暫くすると、清人が降りてきた。
「ガルド発見したぞ。本拠にいた」
「森で待ち伏せをするような知能もないのね」
「さてと。じゃあ本拠の外で待っててもらうぞ?」
「了解」
「…そうね」
「わかりました。お気を付けて」
「その必要も無いけどな」
そう言うと、あっという間に清人は本拠に入っていった。
「大丈夫かな」
「あれだけ大口を叩いてたもの。きっとすぐに倒してくるわよ」
「そうだといいんですが…」
3人がそんな会話をしていると、不意に獣の叫び声が聞こえた。
「これ、ガルド?なんか声の雰囲気が違うような…」
「や、やっぱり様子見に行きましょう!」
「危険じゃないかしら?」
「でも……」
そうしていると、また獣の叫び声が聞こえた。が、今度は悲鳴のようなものだ。
その後なにか大きなものが倒れた音がして、窓から清人が戻ってきた。
「討伐してきたぞ」
「「「え?」」」
「え?じゃなくて。だから終わったって」
「ほんとにすぐに倒してきた…」
「ま、まあ当然よね!あんなに大口を叩いてたのだし」
「まあな。それで?これでこのゲームは終了か?」
「は、はい。お疲れ様でした」
「私何もしてない…」
「私もだわ…」
「よし、帰るか」
「…そうですね」
そうして4人は黒ウサギと十六夜の元へ戻る。
十六夜はつまらなさそうにしていたが、黒ウサギは怪我人が出なかったことに安堵の息を吐いていた。
そこで、清人は1人で呟いた。
「にしてもガルドって、あそこまで野生動物みたいな感じだったっけ?」
彼は本拠での戦いを思い出す。
本拠に入った彼は迷わず二階に向かった。
空から見た時に、二階の部屋でガルドを見つけたからだ。
部屋の扉を開けた瞬間、中から大きな叫び声で出迎えられた。
「GEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAーーー」
「うるせえ」
あまりのうるささについ殴ってしまったが、ガルドには傷一つない。
やはり契約によって守られているようだ。
ガルドも反撃とばかりに爪で清人を引き裂こうとするが、爪を立てようとすると、何故か弾かれてしまっていた。
「こりゃ収集つかねえなあ」
お互いの攻撃は恩恵と契約で全く通らない状態だ。
こうしていても埒が明かない。
幸い、ガルドの背中側に十字型の剣は見えている。
清人は素早い動きでその剣を手に取るが、そこでガルドが襲いかかってくる。
交差は一瞬。
大きすぎる悲鳴が段々小さくなっていく。
清人に一刀両断されたガルドは、大きな音をたてて倒れた。
長居は無用と、清人はすぐさま窓から出ていったのだった。
あの叫び声。この前会った時の打算に満ちた様子とは違う、獣の野生本能を感じる声だった。
ゲームまでの間に何があったのか。
少し考えたあと、どうせもう終わったことだと考えるのを辞めた清人だった。
次はレティシアが石になるところまで行けるかな?
清人君のギフトって文にすると地味で困ってます…。
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