真っ黒な問題児も異世界から来るそうですよ? 作:ローダ
特に理由はないですが、強いて言うならラノベ読むのに忙しかったです。すいません。
それではご覧下さい。
ギフト鑑定が済み、5人はノーネームの居住区画の門前に着いた。その門を見上げると、コミュニティの旗は掲げられていなかった。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この浜辺はまだ戦いの名残がありますので………」
「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
先程の一件により機嫌が悪い飛鳥。プライドが高い彼女からしてみれば見下された事実に気に食わなかったのだろう。
躊躇いながら門を開ける黒ウサギ。すると、門の向こうから乾いた風を感じた。砂塵が舞い、5人の視界を遮る。微かに見える景色は……廃墟同然の荒れた大地だった。
「っ、これは………!?」
街並みに刻まれた傷跡をみた飛鳥と耀が息を呑んでいるが分かる。十六夜はこの光景にスっと目を細めながら木造の廃墟に歩み寄り、囲いの残骸を手に取った。そのまま少し握り込むと残骸は音も立てて崩れていった。
「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは…今から何百年前の話だ?」
「僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった町並みが三年前だと?」
十六夜の言う通りノーネームの街並みは何百年の時間が経過して滅んだように崩れ去っているのだ。とても三年前まで人が住んでいたとは思えない程の有様だ。
「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
十六夜はあり得ないと言いながらも目の前の廃墟に心地よい冷や汗を流している。
「これが魔王…か」
清人は呆気に取られながらポツリとこぼした。
二人に至っては言葉すら出ないようだった。
黒ウサギは廃屋から目を逸らしながら朽ちた街路を進みだす。
「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊ぶ心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」
黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進んでいく。飛鳥や耀も複雑な表情でその後に続いていく。清人は先程褒められた時とは打って変わって、感情の読めない表情をしていた。
だが、十六夜だけは瞳を輝かせ不敵に笑っていた。
「魔王……か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
そう呟きながら十六夜も黒ウサギ達の後について行った。
歩いていると、廃墟を抜け、徐々に外観が整った空き家が立ち並ぶ場所に出る。五人は水樹を設置するため貯水池を目指していると先客がいた。
「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調ってます!」
「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」
黒ウサギが子供達に近寄っていくとワイワイと騒ぎ出して黒ウサギの元に群がっていった。
「黒ウサのねーちゃんお帰り!」
「眠たいけどお掃除手伝ったよー」
「ねえねえ、新しい人達って誰!?」
「強いの!?カッコいい!?」
「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」
パチン、と黒ウサギが指を鳴らすと、さっきまで黒ウサギに群がっていた子供達は綺麗に一列で並びだした。人数は20人程で、中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。
(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)
(じ、実際目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)
(…私子供嫌いなのに大丈夫かなぁ)
(子供は3人に任せるか…)
四人が各々の感想を心に呟く。
すると黒ウサギが四人を紹介し始めた。
「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、多々良清人さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」
「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」
「駄目です。それでは組織は成り立ちません」
飛鳥の申し出を、黒ウサギが今まで一番厳しい声音で却下された。
「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません」
「………そう」
黒ウサギが有無を言わせない気迫で飛鳥を黙らせる。
三年間実質コミュニティを一人で支えてきたのだからその厳しさ知ってるのだろう。
「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
20人程の子供達が一斉に大声で叫ぶ。
「ハハ、元気がいいじゃねえか」
「そ、そうね」
その大声に十六夜は笑い、飛鳥と耀は複雑そうな表情を浮かべていた。清人は笑顔ではあるが、内心はため息を付いていた。
超強力なギフトを持っている悪魔の弱点は、幼い子供だった。
「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」
「おう」
十六夜はポケットからギフトカードを取り出し、水樹の苗を発現した。黒ウサギはその水樹の苗を受け取る。
しかし、水路自体は残ってるみたいだが所々ひび割れが目立つ。
「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」
「はいな、元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」
「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」
「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」
「じゃあ十六夜には黙っとくから俺に教えてよ」
「…ダメです。清人さんからも危険な気配がしますので」
十六夜が瞳を輝かせ、黒ウサギに問いかけるが黒ウサギは適当にはぐらかす。清人の追求にも応じない。するとこの話題が不味いと思ったのか、話を戻すためジンが貯水池の詳細を説明する。
「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開けます。此方は皆で川の水を汲んできたきたときに時々使っていたので問題ありません」
「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」
飛鳥がふっと思った疑問を忙しい黒ウサギに代わってジンと子供達が答えた。
「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」
「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」
「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」
「……そう。大変なのね」
飛鳥はちょっとがっかりした顔をしている。
もっと画期的で幻想的なものを期待していたんだろうがそんなものがあれば水樹であんなに喜ぶはずがない。
「それでは苗のひもを解きますので十六夜さんは屋敷への水門を開けてください。」
「あいよ」
十六夜が貯水池に下り、水門を開ける。
黒ウサギが苗のひもを解くと大波のような水が溢れかえり、激流になり貯水池を埋め尽くす。
水門の鍵を開けていた十六夜は驚いて叫ぶ。
「ちょ、少しマテやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくないぞオイ!」
今日一日、散々ずぶぬれになった十六夜はあわてて跳躍する。
「………チッ」
「おい清人お前何舌打ちしてんだ」
「いや別に。残念だなって」
「てめえ、自分が濡れてないからっていい気になるなよ?」
「やっぱり自分以外の皆が不幸になってると楽しいな」
「さ、最低ですね!?」
「悪魔ですから」
そんなやり取りをしながら、清人は本拠の自分の部屋に向かった。
好きな部屋を使っていいと言ったので、清人は一番下の階の端っこの部屋に住むことにした。
この悪魔はどうやら、隅っこが落ち着くらしい。
風呂に入る時間になり、女性陣が先に入ることになった。
十六夜とジンと3人で見送ったあと、
「じゃあ清人、外に…」
「パス。眠い。めんどくさい。柄じゃない。以上」
「……そうかよ。じゃあ行くぞ御チビ」
「え?あ、ちょ……」
十六夜に引っ張られていくジンを一瞥すると、清人は自分の部屋へ向かった。
「お人好しめ」
そう一言呟きながら。
という訳でした。
特に進展は無く、ギフトもまだ使いません。ガルドとのギフトゲームで使うはずなので、暫しお待ちください。
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