真っ黒な問題児も異世界から来るそうですよ?   作:ローダ

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1話でギフト鑑定までいくの流石に長すぎるので、2話に分割しました。
もう1話も投稿しておきました。
それではどうぞ。


サウザンドアイズ

「な、なんであの短時間に”フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」

 

「「「「腹が立って後先考えずに喧嘩を売った。今は反省しています」」」」

 

「黙らっしゃい!!」

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この契約書類を見てください」

 

契約書類とは主催者権限を持たない者達が主催者となってゲームを開催するために必要なギフトである。

そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており主催者のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。黒ウサギが指す賞品の内容を十六夜が読み上げる。

 

「参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する……まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

ちなみに飛鳥達のチップは罪を黙認すること。それも、今回だけでなく今後一切について口を閉ざすことだった。

 

「時間さえかければ彼らの罪は暴かれます。だって肝心の子供たちは……その」

 

黒ウサギが言い淀む。彼女もフォレス・ガロの悪評は聞いていたが、そこまで酷い状態になっているとは思っていなかった。

 

「そう。人質は既にこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの。それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲で野放しにされることも許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

ジンまでもが言うと黒ウサギは観念したようだ。

 

「はぁ……。仕方がない人達です。まあいいです。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。フォレス・ガロ程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

フン、と鼻を鳴らす二人。

 

黒ウサギは慌てて二人に食ってかかった。

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 

十六夜が真剣な顔で黒ウサギを制した。

 

「いいか?この喧嘩は、こいつらが売って、奴らが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、わかってるじゃない」

 

「……。ああもう、好きにしてください」

 

「大丈夫、俺がサクッと終わらしてやるよ」

 

大きなため息をつく黒ウサギを、胸を張った清人が励ます。それを見て黒ウサギは力なく項垂れた。

 

 

 

 

 

その後四人のギフトを鑑定してもらうために、サウザンドアイズというコミュニティを訪ねることにした。

道中で立体交差並行世界論というものについての話をしながら、一向はサウザンドアイズの店に到着した。

が、店の前では、看板を下げる割烹着の女性店員の姿があった。黒ウサギは慌ててストップを、

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

ニベもなく断られた。

黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

飛鳥も意を同じくする。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような目と侮蔑を込めた声で対応する。

 

「なるほど、箱庭の貴族であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「う……」

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ。十六夜は軽く名乗る。

 

「俺たちはノーネームってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこのノーネーム様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

実はサウザンドアイズの商店はノーネームの入店を断っている。

全員の視線が黒ウサギに集中する。

彼女は心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。

 

「その……あの…私たちに、旗はありま」

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィ!」

 

「きゃあーー……!」

 

黒ウサギが店内から爆走してきた着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱きつかれ、少女と共に街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛び、ボチャン、と転がり落ちた。

それを、十六夜達は目を丸くし、店員は頭を抱えた。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!」

 

「ちょ、ちょっと離れてください!」

 

黒ウサギは胸に顔を埋めている白夜叉を引き剥がすと、頭を掴んで店に向かって投げつける。

クルクルと縦回転した少女を、十六夜が足で受け止めた。

 

「てい」

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

一連のやり取りを見てゲラゲラ笑っていた清人は、ようやく白夜叉に尋ねる。

 

「あんたはこの店の人か?」

 

「おお、そうだとも。このサウザンドアイズの幹部様で白夜叉さまだよ黒いの。仕事の依頼なら黒ウサギの発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

どこまでも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

ちょうどその時、黒ウサギが濡れた服を絞りながら水路から上がってきた。

 

「うう……まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

「因果応報」

 

「俺たちと同じ目にあったな!黒ウサギ!」

 

「いや、あなたは濡れてなかったじゃない…」

 

濡れても気にしていなかった白夜叉は、店先で黒ウサギ達を見回してにやりと笑った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは……」

 

不敵な笑顔を浮かべる白夜叉に視線が集まり、

 

「遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

ウサ耳を逆立てて黒ウサギが怒る。

 

「まぁ、冗談はさておき話があるのじゃろ。話があるなら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たないノーネームのはず。規定では」

 

しかし、女性店員が眉を寄せながら水を差す。

 

「ノーネームだとわかっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する侘びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

む、っと拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪くするのは仕方がない事だろう。女性店員に睨まれながら五人は暖簾をくぐった。

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

五人が通されたのは白夜叉の私室。

個室と言うにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから五人に向き直った。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の外門、三三四五外門に本拠を構えるサウザンドアイズ幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げ遣りな言葉で受け流す黒ウサギ。

その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられています。ちなみに、白夜叉様がおっしゃった三三四五外門などの四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する人外魔境と言っても過言ではありません」

 

「おんしも、恩人に対して言うな」

 

物言いに苦笑する白夜叉に慌てて頭を下げる黒ウサギ。

手を振って白夜叉が気にしていない旨を示すと、黒ウサギは紙に上空から見た箱庭の略図を描いた。

それは、

 

「……超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「確かにバームクーヘンだ」

 

うん、と頷きあう四人。

見も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

対照的に、白夜叉はカカと哄笑を上げて二度三度と頷いた。

 

「ふふ、うまいこと例えるな。まあバームクーヘンに例えるなら、今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は世界の果てと向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ。……その水樹の持ち主などな」

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

小さな胸を張り笑う白夜叉。

 

「へぇー。そんなもんを与えられるってことはオマエはあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の階層支配者だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

最強の主催者……その言葉に、十六夜・飛鳥・耀・清人の四人は一斉に瞳を輝かせた。

 

「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

四人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。

白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声を上げた。

 

「抜け目ない童達だ。私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え? ちょ、ちょっと御四人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうのは好きよ」

 

「喧嘩じゃどんな相手にも絶対負けない自信あるぜ!」

 

全員が嬉々として白夜叉を睨む

 

「そうそう、ゲームの前に確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾からサウザンドアイズの旗印……向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、表情を壮絶な笑みに変えて一言、

 

「おんしらが望むのは『挑戦』か……もしくは、『決闘』か?」

 

刹那、五人の視界は意味を無くし、脳裏を様々な情景が過ぎる。

黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。

五人が投げ出されたのは、白い雪原と湖畔……そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

「……なっ……!?」

 

あまりの異常さに、清人達は息を呑んだ。

遠く薄明の空にある星は、世界を緩やかに廻る白い太陽のみ。

唖然と立ち竦む四人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は白き夜の魔王……太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への『挑戦』か? それとも対等な『決闘』か?」

 

魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄みに、再度息を呑む四人。

 

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽とこの土地はオマエを表現してるってことか」

 

十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤……!?」

 

「…なんつースケールのデカイ話だ」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は?『挑戦』であるならば、手慰み程度に遊んでやる。……だがしかし『決闘』を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「……っ」

 

白夜叉がいかなるギフトを持つのか定かではない。だが四人が勝ち目がないことだけは一目瞭然だった。

 

「降参だ、白夜叉」

 

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。あんたには資格がある。……いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪えきれず高らかと笑い飛ばした。

 

プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑を上げた。

 

一頻り笑った白夜叉は笑いをかみ殺して他の二人にも問う。

 

「く、くく……して、他の童達も同じか?」

 

「……ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「まあ確かに勝ては(・・・)しないな」

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人と思案顔の清人。

一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸をなでおろす。

 

「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!黙らっしゃい!そもそも、階層支配者に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う階層支配者なんて、冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉に、ガクリと肩を落とす三人。

その時、彼方に見える山脈から甲高い叫び声が聞こえた。

獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、耀だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ……あやつか。おんしら四人を試すには打って付けかもしれんの」

 

湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。

すると体調五メートルはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く四人の元に現れた。

 

「グリフォン……嘘、本物!?」

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。

力・知恵・勇気の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉が手招きすると、グリフォンは彼女の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 

「肝心の試練だがの。おんしら四人とこのグリフォンで力・知恵・勇気のどれかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞うことが出来ればクリア、という事にしようか」

 

すると虚空から主催者権限にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

四人は羊皮紙を覗き込んだ。

 

『ギフトゲーム名:鷲獅子の手綱

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          多々良 清人

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 力・知恵・勇気のどれかでグリフォンに認められる。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              サウザンドアイズ印』

 

「私がやる」

 

読み終わるや否やピシ!と指先まで綺麗に挙手をしたのは耀だった。彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめていた。




もう1話投稿してるので、そっちもご覧下さい。
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