真っ黒な問題児も異世界から来るそうですよ? 作:ローダ
結局ギフト鑑定までは行きませんでした…。
流石に無理でしたね。
それではどうぞ。
黒ウサギに連れられて問題児たちが箱庭と呼ばれる巨大都市の前まで来た。
「ジン坊ちゃーん!新しい方を連れてきましたよー!」
階段で待っているローブを着た少年に黒ウサギが話しかけた
「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三方が?」
「はいなこちらの御四人様が……」
黒ウサギがクルリ、と三人を振り返り、
「………え、あれ?」
カチン、と固まった。
「もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から俺問題児!ってオーラを放っている殿方が」
「ああ、十六夜君のこと?彼ならちょっと世界の果てを見てくるぜ!と言って駆け出していったわ。あっちの方に」
飛鳥があっさりと指差すのは上空4000mから見えた断崖絶壁。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「止めてくれるなよと言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「黒ウサギには言うなよと言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう皆さん!」
「うん」
ガクリ、と黒ウサギが前のめりに倒れる。
「そこって、そんなに危険な所なのか?」
「ええとても!世界の果てにはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持ったものがいます」
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンは必死に事の重大さを訴えるが、問題児たちは叱られても肩を竦めるだけである。
清人は呟く。
「別にあいつなら何とかなりそうだったけどな」
「そうだといいのですけど…」
黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。
「はあ……ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、皆様の御案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに……『箱庭の貴族』と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、つやのある黒い髪を淡い緋色に染めていく。
外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、柱に水平に張り付くと、
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」
黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に四人の視界から消え去っていった。
巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。
「……。箱庭の兎は随分早く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギたちは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」
飛鳥は心配そうにしているジンに向き直った。
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン・ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱き抱えているのが」
「春日部耀。その黒い人が」
「多々良清人だ。黒い人じゃなくて名前で呼んでくれよな」
「…善処する」
ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥、耀、清人もそれに倣う。
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥がジンの手を引いて外門をくぐり、耀と清人は後をついていく。
二人は飛鳥が胸を躍らせるような笑顔を浮かべているのを見て、微笑ましく感じた。
箱庭二一〇五三八〇外門・内壁。
清人達は石造りの通路を通って箱庭の幕下に出る。
「お、お嬢!外から天幕の中に入ったはずなのに、お天道様が見えとるで!」
「……本当だ。外から見た時は見えなかったのに」
「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。あの巨大な天幕は太陽光を直接受けられない種族のためのものなんです」
「それはなんとも気になる話ね。この都市には吸血鬼でも住んでるのかしら?」
「え、居ますけど」
「…そう」
複雑そうな顔をする飛鳥。
「なんかオススメの店とかあるのか?」
「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたもので……よかったらお好きな店を選んでください」
「そりゃ太っ腹だな」
一向は六本傷の旗を掲げるカフェテラスに座る。
それから注文をして、話題は耀のギフトの事になる。
「貴女もしかして、猫と会話できるの?」
コクリと頷き返す耀。
「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」
「うん。生きているのなら誰とでも話はできる」
「へえ。なんかいいな。そのギフト。夢がある感じがする」
「そ、そうかな」
少し照れている耀を見てニヤニヤする清人。
「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において言語の壁というのはとても大きいですから」
「そう……春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」
「久遠さんは」
「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん、清人君」
「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」
「私?私の力は……まあ酷いものよ、だって」
「おんやあ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュのリーダー、ジンくんじゃないですか」
四人が喋っていると、急に品のない声が割り込んできた。
邪魔をされて顔を顰めた清人が訝しげに問う。
「あんた誰だよ」
「おっと失礼。私はコミュニティ六百六十六の獣の傘下である」
「烏合の衆の」
「コミュニティのリーダーをしているガルドガスパー…ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧!」
ジンに横槍を入れられ、牙をむいたガルドの姿が変わっていく。
肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りとともにジンに向けられる。
「何の用か知らないけれど、喧嘩をするなら他所でやってくれないかしら?」
「これは失礼しました。用というほどではないのですがこちらのジン君が喋りたがらない箱庭のことについて教えて差し上げようかと」
「ガルド!それ以上口にしたら」
「口を慎めや小僧ォ、過去の栄華に縋る亡霊風情が。自分のコミュニティがどういう状況におかれてんのか理解できてんのかい?」
「ハイ、ちょっとストップ」
険悪な二人を飛鳥が遮った。
「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえた上で質問したいのだけど…」
飛鳥が鋭く睨んだのは、ガルドガスパーではなく、
「ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私たちのコミュニティが置かれている状況……というものを説明していただける?」
ジン・ラッセルの方だった。
「そ、それは」
飛鳥に睨まれたジンは言葉に詰まった。
「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私たちにコミュニティとはどういうものかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」
それを見ていたガルドは含みのある笑顔と上品ぶった声音で、
「貴方達の言うとおりだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし、先ほども言ったように、彼はそれをしたがらないでしょう。
よろしければフォレス・ガロのリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧……ではなく、ジン・ラッセル率いるノーネームのコミュニティを客観的に説明させていただきますが」
飛鳥は訝しげな顔で一度だけジンを見る。
ジンは俯いて黙り込んだままだ。
「そうね。お願いするわ」
それからガルドが得意げに喋ったコミュニティの現状は散々と言っていいものだった。
「考えてもみてくださいよ。名乗ることを禁じられたコミュニティに、いったいどんな活動ができます?
商売ですか?主催者ですか?
しかし名もなき組織など信用されません。
ではギフトゲームの参加者ですか?ええ、それならば可能でしょう。
では、ゲームに勝ち抜ける優秀なギフトを持つ人材が、名誉も誇りも失墜させたコミュニティに集まるでしょうか?そんなわけが無い。
そう、だからこそ彼はできもしない夢を掲げて過去の栄華の縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ」
「ふーん。なら黒ウサギは何なんだ?彼女はなんでそんなノーネームに?」
「さあ、そこまでは。ただ私は黒ウサギの彼女が不憫でなりません。箱庭の貴族と呼ばれる彼女が、毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティを遣り繰りしている」
「……そう、事情はわかったわ。それでガルドさんは、どうして私たちにそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」
飛鳥は含みのある声で問う。
その含みを察してガルドは笑いを浮かべていった。
「単刀直入に言います。もしよろしければ、黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」
「な、なにを言い出すんですガルドガスパー!?」
「黙れや、ジン・ラッセル」
怒りのあまりテーブルを叩いたジンを、ガルドは獰猛な瞳で睨み返す。
「そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘で追い込んでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」
「そ……それは」
「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか?その結果黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら……こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義があるぜ」
ジンが僅かに怯んだ。
その様子にガルドは鼻を鳴らすと、
「……で、どうですか。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴方達には箱庭で三十日の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達フォレス・ガロのコミュニティを視察し、十分に検討してから…」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
「「は?」」
断られたガルド、俯いていたジンは思わず声を上げてしまった。
飛鳥は何事もなかったように紅茶を飲み干すと、耀に笑顔で話しかける。
「春日部さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りにきただけだもの」
「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら?私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
飛鳥は自分の髪を触りながら耀に問う。口にしておきながら恥ずかしかったのだろう。
「うん。飛鳥は今までの人たちと違う気がする」
「はーい。じゃあ俺も」
「う~ん。……そうだね。清人も違うと思う」
「OK。という訳で、よろしくな。2人とも」
ガルドとジンを放って話を進める。耐えきれずにガルドが口を開く。
「理由をお聞かせていただいても…」
「私、久遠飛鳥は…裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら」
「小物臭満載の奴のコミュニティになんか入る訳ないだろ?」
「……私は友達を作りに来ただけだから」
「ってことだ。誰もお前のコミュニティには入らない」
「お、お言葉ですが」
「黙りなさい」
言葉を続けようとしたガルドの口はガチン!と音を立てて閉じられた。
本人は混乱したように口を開閉させようともがいているが、まったく声が出ない。
「貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方はそこに座って私たちの質問に答え続けなさい」
飛鳥の言葉に反応して、ガルドは椅子に罅を入れる勢いで座る。
「ガルドガスパー……?」
「へえ…」
ジンは呆然と、清人は面白そうにガルドを見た。
ガルドは完全にパニックに陥っていた。
どうやったのか、手足の自由が完全に奪われており、何も抵抗できない。
「お、お客さん!当店で揉め事は控えて」
ガルドの様子に驚いた猫耳の店員が急いで彼らに駆け寄る。
「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも第三者として話を聞いてくれないかしら。たぶん、面白い話が聞けると思うわ」
店員は首を傾げる。
「ねぇジン君。コミュニティの旗印を賭けるギフトゲームなんてそんなに頻繁に行われるものなのかしら?」
「い、いえ。そんなことはありません。旗印を賭ける事はコミュニティの存続を賭ける事ですからかなりのレアケースです」
「そうね。それを強制できるからこそ魔王は恐れられる。だったら、なぜあなたはそんな勝負を相手に強制できたのかしら?」
「ほ、方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。コレに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」
ピクリと飛鳥の片眉が動き、コミュニティに無関心な耀でさえ不快そうに目を細める。清人は舌打ちをした。
「それで、その子供たちは何処に幽閉されているの?」
「もう殺した」
場の空気が凍りつく。
「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食」
「黙れ」
ガチン!と先ほど以上の勢いでガルドの口が閉じられた。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。さすがは人外魔郷の箱庭の世界といったところかしら……ねえジン君?」
飛鳥に冷ややかな視線と凄みを増した声を向けられ、ジンは慌てて否定する。
「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」
「そう?それは残念。それよりジン君。箱庭も法を犯せば裁くようだけど、この件は裁けるのかしら?」
「難しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ですが……裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」
「そう。なら仕方がないわ」
パチンと指を鳴らす。それが合図だったのか、ガルドを縛り付けていた力は霧散し、自由が戻ったガルドはテーブルを砕き、
「こ……この小娘ガァァァァァ!!」
雄叫びとともに虎の姿へ変わった。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が」
「黙りなさい。私の話はまだ終わってないわ」
また勢いよく黙る。だが、ガルドは丸太のように太くなった腕を振り上げて飛鳥に襲い掛かった。
「まさに、穏やかじゃないですね…だな」
そう言いながら清人はガルドの腕を受け止め、更にねじ伏せた。
耀は驚いた。今清人がどうやったのか、まるで分からなかった。あんなに太い腕を振り下ろされているのに、全く衝撃を感じていなさそうだったのだ。
「ぐ……」
「貴方魔王がどうとか言ってたけど、こちらとしては願ったり叶ったりだわ。だってジン君の最終目標は打倒魔王だもの」
飛鳥の言葉にジンは大きく息を呑んだ。魔王の名が出たときは恐怖に負けそうになったが、目標を飛鳥に問われて我に返る。
「……はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。いまさらそんな脅しには屈しません」
「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」
「くそ……!」
ガルドは悔しそうに拳を引く
「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できないの。貴方のような外道はずたぼろになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。そこで皆に提案なのだけれど」
飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。
飛鳥はガルドに視線を向け、
「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方のフォレス・ガロ存続とノーネームの誇りと魂を賭けて、ね」
宣戦布告した。
そんなに経たないうちに四話目は出ると思います。……出るはず。
ガルドのゲームは清人君が参加するので余裕です。
瞬殺です。
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