運動って大事っすね。久々に走ったら思った以上に体が動きませんでした。
後、ついにソフトバンク優勝!もう、これはテンションアゲアゲですわ。
「…………え?お、お腹の傷、塞がってる?」
「え?そもそも、傷なんて無いじゃない…………」
「どういう事なのよ!」
「説明しよう!」
「ファッ!?」
「ハハハハ、なんだ?その死んだはずなのに蘇った奴を見るような顔は?」
俺がそう問うがまだ金魚みたいに口をパクパクさせている。
「え?ちょっ…………ええ!?」
未だに混乱している天子のためにも説明してあげた方がいいかもしれない。
「なんで…………勇人は確かにここに倒れてる…………はず…………?」
と指を差すが、俺がここにいるのだから当然の如く指差す先には誰もいない。
「あ、あれ?た、確かにいたのに…………」
「幻覚でも見たんじゃないか?」
「そ、そんな訳ないじゃない!確かに、この手で貴方を触ったわ!」
と手を見ながら言う天子。
「これも能力の1つ、と言えば分かるかな?」
「能力?実体のある幻覚を見せる能力とでも言うの?」
「うーん、あながち間違ってはいないな」
「何よ、もったいぶらないでさっさっと教えなさい」
「はいはい、俺の能力は『物事を不変にする程度の能力』だ」
「ふーん…………不変、と言うのは文字通り変わらないと捉えればいいのね?」
「ああ、お前を動けなくしたのは能力で"その場所にいる"という事を不変にしたからな」
「へぇ、じゃあ、さっきの幻覚はなんなのよ?」
「うーん…………なんて言ったらいいかな。…………天子、攻撃する時にどのように攻撃をするかイメージするか?」
「えぇ、逆に考えずに攻撃なんかするの?」
「まぁ、そうなんだが…………さっきの幻覚は"そのイメージを不変化した"ものなんだ」
「はぁ?それなら、貴方は攻撃を受けたはずじゃない」
「あぁ、言葉が足りなかった。"お前の中にだけ"、イメージを不変化した。つまりは、お前の中ではイメージした通りに攻撃が行われ、イメージ通りにダメージを与えた事になっている」
「んー、それって、結局幻覚を見せられたという事?」
「ああ、だからあながち間違ってはいないと言ったんだ」
「ふーん…………結構な応用力ね」
「基礎的な力は圧倒的に劣るんでね。まぁ、お前が何もない所で勝手に焦って、チルノに助けを求める姿は中々に滑稽だっだぞ?」
「く…………ッ!まだ、続けるのね?」
「いや、もう降参だ。はっきり言ってさっきの技ができたのはまぐれだし、体も限界に近いんでね」
「という事は…………私が勝ちなのね!?」
「ああ、霊力も尽きたし、お前の勝ちだな」
「勝った気はしないけど…………でも、私の勝ちね!ふふふ!」
「はいはい、おめでとう。俺はとりあえず帰るから、お前たちはこの後は好きにしていいぞ」
「そう、何かあるのかしら?」
「萃香との約束を果たすための準備をしに。とは言っても、守矢神社で宴会を開くだけなんだが、お前も来るか?」
「もちろん!参加させてもらうわ!」
「そうか、なら宴会は明日の夜だ。衣玖さんも誘ってくれ」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「ああ」
そう言い、俺は天子達を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
守谷神社に向かう途中、俺は色々な考え事に耽っていた。
宴会での懸念もあるが、考えの中で最も占めている事は天子の変わりようである。
もちろん、いい意味での変化であるがあそこまで変わるとこちらもかなり驚く。普通、問題児をどうにかする事は容易なものではない。
まぁ、教師はかなり大変なものだろう。もっとも、自分自身がそんな仕事をするとは思いもしなかったが。
と、今までの寺子屋の教師としての生活を振り返って、思わず苦笑した。
「気味が悪い男だねぇ、何を1人でニヤニヤしてるんだい?」
不意に声をかけられ、辺りを見渡すがそれらしい人は見当たらない。
「大の男がニヤニヤしながら飛んでいるのは気持ち悪いわ。何を考えてんのかなぁ?」
目の前、霧が集まったかと思えば、小さい女の子の形となり俺の前に姿を現した。
酒の入った瓢箪を手に、すでに酔っ払っている伊吹萃香はこちらもニヤニヤしながら俺の方に視線を向けていた。
「酔っ払っいながら、飛んでる方も些か奇妙なものだと思うが?」
軽く悪態をつくも、萃香は意に介した様子もなく水の如く酒を煽っている。
どう見ても子供にしか見えないこの酔っ払いは、人間よりも遥かに力を持つ鬼で、幻想郷でもトップクラスの力の持ち主だ。変人の多い幻想郷の中でも、一際変人だが、俺には彼女に借りがある。
「それはいいが、約束はちゃんと覚えてるんだろうね?」
「もちろんだ。明日の夜に守谷神社でちゃんと宴会を催す」
「なら、いいよ。鬼は嘘が嫌いだからね」
「だが、鬼は気楽そうだな。仕事が無い者の余裕か?」
「そうやっかまないで。鬼にだって苦労はあるんだ」
と再び瓢箪に口をつけ、傾ける。
「まぁ、鬼はお前達人間と色々と出来が違うんだ。ほんと、人間にも鬼くらい酒が強ければ飲み甲斐があるってもんなんだけどなぁ」
「そんながぶ飲みしたら、うまい酒も味わいを楽しめないじゃないか。ゆっくりと飲むのがいいんじゃないか」
「別に人間の飲み方にケチをつけるつもりはないよ。あんた達のようなおかしな人間達と一緒にいるだけでも楽しいさ」
「ちょっと待て。なぜ、俺も『おかしな人間』でひとくくりにされるんだ?霊夢や魔理沙とは兎も角」
「ん?照れてるのか?私とやり合えただけでも十分『おかしな人間』よ。それに、私と酒を飲んだ仲じゃないか」
アハハ、と陽気に笑う萃香の横で俺は額に手を当てた。そもそも、一緒に酒を一緒に飲んだ記憶がない。
「お気楽と言うけど、あんたはむしろ堅すぎるんだよ。秀才ぶってないでもっと、パァーッといったらいいじゃない」
実際、この幻想郷においては頭でっかちな天才君よりも、脳筋な運動神経抜群の元気な子の方がいい。現代世界と幻想郷では話が違うのだ。
「実力もあり、背は他の人間の男より少し小さいが容姿も悪くわない。おまけに可愛い娘達にも好かれてる。後はもっと積極的になればいいのに」
「色々と反論したいが、今は早く守谷神社に行かないといけないんでな」
「そんな事言いながら、実は早苗に会いたいだけだろ?」
「あやや!そんな事を考えてるんですか?」
どっから湧いて出てきたのか文が現れた。
「早苗さんは可愛いですからね。里の人達にも大人気ですし。彼女の笑顔は男性にとっては犯罪ものでしょう」
「犯罪はお前の存在そのものだ、文」
「あやや、そう言っても早苗さんと一緒にいる時の勇人さんの顔は楽しそうでしたよ?」
文の言葉に、いつ見ていたと思い、
「お前は人の私生活を無断に監視してるのか?いい加減にしないと弾丸をぶち込むぞ?」
「ヘえ〜、あんたもやっぱり男だねぇ…………」
意味深な顔をしながらニヤニヤとこちらを見る萃香。
「まぁ、甲斐性なしって事は確かですね。美少女に囲まれたるのに手を出さないだなんて…………据え膳食わぬは男の恥、ですよ?」
容赦ない文の言葉に思わず絶句してしまった。少し間が空いた後、
「文、お前こそ人のプライベートばかり覗いてないで、まともな記事を書いたらどうだ?最近は売り上げがイマイチとか聞いてるぞ」
「いつの話をしてるんですか?確かに少し前は伸び悩みましたけど今は順調ですよ」
俺の渾身の反撃を、あっさりと弾かれて、再び絶句してしまった。
「やっぱり面白いねぇ…………」
とぼそりと呟いたのは、少し黙っていた萃香だった。
「やっぱり、あんたは面白いよ。あんたの周りは面白い事ばかりだ」
「ですが、あまり妖怪の山には入らないでいただけると助かるんですが…………」
と遠慮がちに文は言った。
「俺からしたら迷惑千万な話だ」
「いいじゃないですか。男女の話題はいつだって、最大のネタですから」
ふふふと文は意味深な顔を向ける。
「あんた、今まで女の1人や2人いなかったのか?」
「そんな風に見えるか?萃香」
「だって、あんたくらいの男ならいそうだと思うけど?」
「残念、幻想郷と違って外は俺みたいな奴はそういう目では見られにくいんだよ」
またまた〜、と文がニヤニヤしながらつつき、意味ありげな萃香の忍笑いによって、軽く頭痛がしてきた。
宴会ではこういう輩が沢山来ると思うと、げんなりとしてしまう。
すると、目的地である守谷神社が見え、鳥居の下で早苗が手を振っているのが見えた。
「お邪魔虫は退散するよ、2人でのお楽しみがあるだろうからね」
振り返れば、既に文の姿はなく、萃香も霧と化していた。
「明日の宴、楽しみにしてるからね」
「ああ、任せとけ」
頷いた後、俺は守谷神社へと降り立った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
明日の宴会のために早苗はやはり忙しそうだった。依頼したのは自分なので、ここまでしてくれると申し訳ない気持ちになる。
しかし、明日の料理の下準備のために包丁を握る早苗はどことなく嬉しそうだった。
無論、俺も傍観してるわけではなく料理を手伝っている。久々に包丁を持つので手が少し震えているが。
よくよく考えれば互いにこの夏は多忙を極めていた。輝夜により、小さくなったり、天子の加入があったり。早苗も早苗で神社の仕事が忙しそうだった。
「早苗、神社の方は忙しいか?」
俺の声に、早苗は包丁を動かしながら応じた。
「はい。夏でも参拝客は多いです。でも、勇人さんよりは楽だと思います」
「まぁ、寺子屋はいつもお祭り騒ぎだからな。なにせメンバーがな」
「そこに天子さんも加わってさらに、ですね」
「ああ、個性派ぞろいで、俺まで変人扱いされて大変だよ」
「勇人さんだって、なかなか個性的だと思いますよ?」
「うむ、俺も幻想郷にかなり影響されてしまったかな?」
そう言う俺に、早苗はクスクスと笑った。
まぁ、口では言わないが、早苗の事は結構尊敬している。
普通の人間でありながら現人神信仰を受け、さらには神奈子様や諏訪子様の為に、外の世界を捨て幻想郷に移住をしており、それでも弱い所を見せる事なく、明るい笑顔で接してくれる。参拝客が多いのも納得だ。
すごい人達と交友があるんだ、と時折実感させられる。
「…………はぁ」
「どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」
「本当ですか?」
「少し考えてただけ。やっぱり、幻想郷の人達はすごいなぁ、って。あの我儘な天子だって、ねぇ。早苗も風祝だし」
「勇人さんだって、とてもすごい人ですよ!」
「すごい、人かぁ…………自分で言うのもなんだけど、そんな立派な人じゃないと思うんだけどなぁ…………」
「ふふ」
「ん?何か面白かったか?」
「いえ、前、勇人さんのおじいさんに『勇人は頭がいい割には阿呆だ』と言われまして、今納得した所です」
「ハハ…………早苗も言うようになったなぁ」
早苗に阿呆と、言われる日がこうとは。
「まぁ、兎に角、明日は宴を楽しみましょう!」
「程々にな」
「いえ、明日は沢山飲みますよ!」
おいおいと笑いながら言いつつ、俺と早苗は明日の宴会の準備を進めた。